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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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六日目(12):サリ・ペスティについて、そのさん

 そして俺は、サリから昨日の戦いについて、その顛末も含めて聞くことになった。


「なるほど。おまえ自身が望む未来なら、客観的にはどんな破滅的な結果であろうと、それは見通せない――そう言われたのか」

「うん。そして実際、その相手の襲来は見通せなかった。

 ……そんなこと、考えたことなかったのに。もしかしたらわたしは、負け始めているのかも」


 サリは言う。

 いままでの淡々とした調子と、口調は変わらない。

 なのに……俺にはなんだか、サリが泣きそうな顔をしているような気がした。


「だから、今回も見えてないだけで、なにか破滅的なことを見落としてるかもしれない。

 ライを連れていきたくないってのはそういうこと。魔人たちは戦うのが仕事だけど、ライは巻き込まれただけだから。ライだけでも守らないと」

「はあ……」


 俺は頭をかいた。


(昼間、こいつがやたら不機嫌に見えたのはそのせいか)


 なんだか憮然として、かつ怒ったように敵を蹴散らしているように見えたのは、つまり不安の裏返し。

 いままで何年も支えてきた、未来の破滅を見る能力。それが急に当てにならなくなって、不安で不安で仕方がなかったのだ。こいつは。

 なら、その不安を解消するのは俺の役目なのだろう。


「べつに、完全に見えなくなったわけじゃないんだろ」

「それは……そうだけど」

「だったら気にしなくていいんじゃね? 見えないってことはたぶん、なんとかなるんだろ」

「でも、昨日は現に……」

「うん。予想外の敵に襲われて、それを見通せなかったけれども、結果としておまえは負けなかった。()()()()()()()()()んじゃね?」

「…………。

 そう、なのかな」


 自信なさげに、サリは言った。


「そうだよ。だから気にしなくていい。いつも通り、普段通りにやってれば今回もうまく行くさ」

「でも……」

「そもそも、未来予知が完全に死んだところで、それは普通の奴に戻るだけだろ。

 そして未来予知能力がなくたってあんなに戦えるんだから、それで十分だろ。それでもなにかあったら、それはおまえの責任じゃなくて、俺たち全員の責任だ」

「……それは、救いにならないよ」

「なんで?」

「わたしは、わたしの力で可能な限り、助けられる人を助けたいの。だから……」

「思い上がるな」


 俺はあえて強い言葉で、ぴしゃりと言った。


「思い上がるな。おまえの力から未来予知が消えたなら、それがおまえの力の限界だ。破滅を回避できなかったなら、それがおまえが最善を尽くした結果だ。

 結果を受け入れろ。おまえがなにかをできるのは、おまえの手の届く範囲だけだ」

「…………」

「俺もあんまり育ちはよくねーからな。無茶やってる奴はいくつも見てきたけど……たまにいるんだよ。自分の力を過信しすぎて、できないことをしようとして自滅する奴が。

 だからそれ以上を求めるな。限度をわきまえろ。俺たちは――しょせん、ひとりでできることは、限られてるんだよ」

「…………。

 そう、かもしれない」


 サリは言って、長い長いため息をついた。


「それでも、ライ。わたしは諦められないんだ。

 わたしが生きてきたのは、しんどいけどそれでも、誰かを救えるから。だから……」

「そっか……」


 俺も、そこまで言われたら、それ以上は追求できない。

 俺の大悪党と同じ。どうしても譲れない矜持については……他人からは、なにも言えない。

 だから俺は、別の方面で攻めることにした。


「まあ、でも俺は杞憂だと思うけどな。どちらにせよ、おまえの未来予知が失われてなければ済む話だ」

「それは、そうだけど……」

「そもそも、サリが相手に指摘されたのは『疲れているから楽になりたい』って願望を突かれた、って認識なんだよな?」

「うん」

「ならそのときは、楽になるより大切な未来を、思い浮かべるといい」


 俺は言った。


「昔、偉い人が言ったそうだ。人間は欲望と義務感の狭間で生きている――だから、欲望に負けそうになったら義務感を。義務感が危うくなったら欲望を。それぞれをぶつけて、バランスを取って生きていくんだって」

「……義務感」

「そうだ」


 俺はうなずいた。


「おまえが言ったことだ。おまえは()()()()()()って。だったらそれがおまえの義務だ。おまえは――サリ・ペスティは、諦めては、ならないんだ」

「…………」

「そんで、いつか機会を見て、おまえを嘲弄した馬鹿にやり返してやれ。

 どうせたいした奴じゃねえよ、そいつは。ちゃんと自分を持ってるおまえなら、正面から――暴力ではなく、言葉でねじ伏せられるはずだ」

「そうかな」

「そうだよ」


 俺は笑った。


「だから安心して、今日はもう寝とけ」

「そうだね」


 サリはうなずいた。


「おやすみ、ライ」

「ああ、おやすみ」

「明日はお互い、誰も死なないようにがんばろう」


 そう言って、サリはその場を立ち去った。

 はあ、と俺は大きく息を吐いた。


(未だに、ピンと来ないな)


 俺が知る、いつもぼーっとして、でもめちゃくちゃ強くて頼れる魔女のサリ。

 センエイの語った、悪鬼羅刹のように強い伝説の英雄、サリ。

 そして今日見た、迷える子供のような、頼りないサリ。

 全部同一人物なのだが、なんだか全部、まったく違う人のように思える。

 ……たぶん、サリは魔物の暴走を恐れて、あまり人と付き合ってこなかったんじゃないかと思う。

 その結果があれ。肉体的には超人のそれでも、精神的には成長しないまま。だからサリの弱点は、その未熟な心ということになる。

 なるほど確かに合理的だ。敵であれば、絶対にその弱点を突こうとするだろう。


(だけど、不愉快だ)


 俺はサリが強い人間だと思っている。そんなサリがそのへんの雑魚の口八丁で負けるなんて、不愉快だし、考えたくない。

 だから俺は、あいつの負けたいという気持ちを、全否定してやる。

 サリは諦められないと言った。だから俺は、諦めるなと言い続ける。

 それが、サリの成長につながれば……たぶん、負けることはないだろう。



 そんなことを考えながら俺も部屋へ帰還し、眠りについた。

 ――後から振り返れば、俺の認識もだいぶ甘かったと思う。

 たしかに、サリが成長していけば、負けることはない相手だっただろう。だけどここはもう戦場。

 サリの成長を悠長に待ってくれるほど、相手が甘いはずがなかったのだ。

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