六日目(11):サリ・ペスティについて、そのに
その後もセンエイはあれやこれやとサリの武勇伝を自慢げに話した挙げ句、最後にリッサにエロ服着せようと迫ったところでサリによって強制退場となった。
……まあ、それはいいとしておこう。
明日には魔人たちは出発する。目的地である『無地の燎原』は歩くと何日もかかるが、そこは裏技みたいなのがあって、朝に出れば昼には着くという話だった。
だからそれまで休むのが本来の俺の仕事なのだが……
「寝付けない、と思って出てきたんだが……おまえもか、サリ」
「うん」
月明かりの中、サリは静かに答えた。
集落の中でも最も外に近い、例の大窓がある広間。俺たちはなぜかそこに来ていた。
本来なら身体を休めるべきだとわかっているのだが……
「最近多くのことがありすぎてな。頭を冷やして考えたいと思ってふらついてたんだが」
「そう」
「サリはどうした? なにか不安要素でもあるのか?」
「うん」
サリは、ぼーっとしているようなそうでもないような、無表情のままで答えた。
それからぽつりと、
「嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「昼間といい、明日といい。相手に誘導されて、いいようにされてる感じがするの。
ライが同行するのも相手の敷いたレールの上。そんな気がする」
「…………」
俺は少し考え、
「かもしれない。でも、他に気の利いた作戦もないだろ?」
「一応、ないわけではない」
「え、なにが?」
「わたしの目は、未来を見通せる目」
眼帯の方の目を指して、サリは言った。
「わたしは、このままだと破滅的な将来が起こるとき、その未来を見ることができるの」
「それも魔術か?」
「いいえ。これはわたしの体質。
十年近く前、わたしは魔物にとりつかれたの。身体を奪われるところだったんだけど、なんとか押しとどめた。これはその魔物の能力だと思う」
「危なくないのか?」
「正直、だいぶ危ない。いまのところ、致命的なタイミングで魔物が暴れ回るのは阻止できてるけど……」
「なんかそういう話ばっかりだな、最近」
うんざりしながら俺が言うと、サリは首をかしげた。
「最近? なにかあったの?」
「いや、スタージンの奴がな」
俺は昼間に、スタージンから聞いた話をサリに語って聞かせた。
「……というわけなんで、剣の力を引き出しすぎると俺も乗っ取られる可能性があるらしい」
「そうなんだ」
サリはうなずいた。
「たしかに、そういうのはあるかもしれない。気をつけておいたほうがいいかも」
「お互い苦労するなあ。なんでこうなったのやら」
「ライの場合、自業自得でしょ」
「まあな」
そこは否定できないというか、そもそもこいつには剣を盗もうとした場面を一部始終見られているので言い訳できない。
サリは少し考えて、
「正直、危ないことを避ける最善手は、ライを隔離することだと思ってる」
「だけど、相手は俺の居場所をなぜか特定できるっぽくて……」
「さっき言ったでしょ。わたしの目は悪い未来を見通せる。つまり、悪い未来が見えないようにライを隔離すれば、相手にはなにもできないよ」
「具体的には?」
「いますぐライがこの集落から出ていって故郷に一人で帰った場合、たぶんなにも起こらない」
「…………」
それは、考えてもいない選択肢だった。
そして、ありそうな話、でもある。
妖術師がどうやって俺の状態を出歯亀しているかはわからないが、俺が誰にも言わずにこの集落を一人で離れた場合、使い魔や内通者がいたとしてもなにもできないだろう。
もちろん、なんらかの魔術的な手段で俺の位置を特定することはできるかもしれないが、サリが言うからにはそれも無理なのだろう。
「それで、どうする? ライ」
「どうする、って……どうもしないよ」
「いますぐ去れば安全を確保できるし、わたしたちにも迷惑をかけないのに?」
「まあ、そうだな」
「なんで?」
「なんか大悪党っぽくないから」
「…………」
サリは、こくん、と首をかしげた。
「大悪党?」
「ああ」
「そういえば前、大悪党とか自称してた気がするけど。あれ本気で言ってたの?」
「おうよ。強きをくじき弱きを助ける世紀の大悪党、それがこのライナー・クラックフィールド様だ。サインいる?」
「大悪党にしては背丈が……あ、ごめん。いまのなし。気にしてるよね、ライ」
「そこで気を遣われると逆にリアクションに困るんだけど!」
「でもなんで大悪党?」
「かっこいいだろ?」
「かっこいいけど。それだけ?」
「男はなによりかっこよさを大事にしろってのがクラックフィールド家の家訓なんだよ」
「でも自称でしかない大悪党はそれほどかっこよくないと思う」
「おまえ的確にえぐってくるなオイ!」
「それ以前にライは善人でしょ。悪党は向いてないよ」
「根幹から!?」
やばい。いままでで一番対応に困る問い詰められ方をされてる。
冷や汗をかいている俺に対して、サリは特にリアクションもなく、ただ小さく吐息した。
「本当はふん縛ってでもライを置いていきたいんだけど」
「なんでそんなに俺を危険から遠ざけようとするんだ?」
「嫌な予感がするから」
サリの言葉を聞いて、俺は首をかしげた。
たしかに、最初からサリはそう言っていた。しかし……
「悪い未来をあらかじめ見ることができるお前が、そんなあやふやな予感に揺れてるのか?」
「それはそうなんだけど」
「もしかして、昨日なにかあったのか?」
言うと、サリはこくり、とうなずいた。




