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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
六日目~七日目:悪党と燎原の魔王
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六日目(4):悪党、諭される

「ならばもう出発しましょう。さすがに予定を遅れすぎですからな」


 というクランの言葉で、俺たちは慌ただしく集落を去ることになった。


「結局、あいさつすらせずに出て行くことになっちまったな」

「魔人さんたちのこと?」


 馬車の中。横でパンをかじっているリッサに、俺はうなずいた。


「サリの奴、一応無事そうではあったけど、なにかとやり合ったっぽいしな。話くらいは聞いておきたかったんだが」

「まあ、でもクランさんの事情が優先だからね」

「だよなあ」


 俺はスープの残りにパンを浸しながらうなずいた。

 たしかに、クランの言う通りではあるのだ。

 ただでさえトンネルの落盤事故によって迂回を余儀なくされている状況で、その上岩巨人たちの戦争に巻き込まれて三日も足止めを食らったのだ。そろそろ商談への影響が深刻になりかねない遅延である。

 とはいえ、心残りがないわけでもなく。


「ライは、あいさつしておきたかった?」

「まあ、一応な」


 あいつらの言う通り、先に目的地で待っている程度の話だとしても、それは俺にとってのこと。

 あいつらは、これから戦いに行くのだ。

 それも、俺が体験したような、口八丁でどちらも死なないで済むような戦いではない。たぶん彼らの戦いは、どちらかが死ぬまで終わらない、本当にきつい奴だ。


「んふふ」

「なんだよ、リッサ。さっきからなにか言いたそうだな?」

「いやあ。自分を悪党とか言い張ってたライ少年も、なんだかんだで根っこは優しいいい子なんだなって」

「悪党が優しくてなにが悪いんだよ」

「……お、おおう。その方向の反論は予想してなかったな」


 苦笑するリッサ。

 俺は肩をすくめて、


「そもそも、俺が大悪党だってのは俺が決めたことだ。他人からどうこう言われる筋はないね」

「なんで悪党なの? 思春期?」

「一応世間的には思春期じゃねえの? 俺の年齢は」

「いやそうなんだけど、そうじゃなくて。怪盗とか義賊じゃないのよね?」

「別に怪盗でも義賊でもいいけど、俺にそういうスキルはないからなあ」

「じゃあなんで悪党?」

「大悪党な。小悪党なんて目指してもつまんねえ」

「そこ、重要なの?」

「重要だろ。小悪党なら小市民の方がまだマシだと思ってるよ。なにもできないけど誰の害にもならないってのは、悪い生き方じゃねえだろ」

「じゃあ、なんでそれじゃダメなの?」

「可能な限りビッグを目指せってのがクラックフィールド家の家訓なんだよ」

「家訓で生き方決めるのもどうかと思うんだけど。それにビッグを目指すだけなら、悪党じゃなくていいんじゃないの?」

「嫌だよ。悪党かっこいいじゃん」

「やっぱり思春期のアレじゃない?」

「ほっとけ」


 それ以上の問答を俺は打ち切った。

 ……正直。あまり踏み込まれすぎるのは嫌な話題ではある。

 俺の生き方は俺が決める。聞こえはいい言葉だ。

 実際のところ、俺が自分でこの生き方を決めたかと言われれば、ちょっと言葉に詰まる。

 俺は。

 実のところ――


「なんか小難しく考えすぎてる気がするなあ」


 リッサの言葉に、俺は我に返る。


「なんだって?」

「だから生き方。大悪党になるんだ! なんて、斜に構えなくてもいいと思うんだけど」

「いや、だからな――」

「そもそも」


 リッサは、びし、と指を突きつけてきた。


「ライは、もうただ者じゃないでしょ」

「…………。

 そ、そうかな?」

「いや、そこは自覚しといてよ。

 岩巨人の『生贄』を巡る戦争に巻き込まれて、そこで目立った武功を挙げた人間は、もう小市民とはみんな思わないよ」

「過去の業績に頼るのは小物のやることだと思うんだよ、俺は」

「言うほど過去かな? まだ昨日だよ」

「過去は過去だろ」


 俺が言うと、リッサは肩をすくめて、


「まあ正直言って、こんなおちびさんが岩巨人族の英雄って言われても誰も信じないとは思うけど」

「テメエいまチビって言ったな! おりゃ!」

「ボクが言いたいのはそこじゃなくて、キミの個性は十分確立してるってこと。いいか悪いかじゃなくて、そうじゃないとああいう活躍はできないでしょ。

 だからなんというか……いまのキミは、すでに個性的な人間が、俺は個性的なんだ! って必死でアピールしてるような、そんなちぐはぐさがあるんだよね」


 片手で俺の頭を押さえて突撃を軽くいなしながら、リッサは言った。

 悲しいことに、未だにこういうじゃれ合いではこいつに完封負けする俺である。

 俺は諦めて座り込みながら、


「そもそも、なんでおまえは俺にそんな話をしてるんだ?」

「え? 神官だからだけど」

「…………」

「悪に落ちようとしてる若者を諭して正道に立ち戻らせるのは、神職の仕事でしょ」


 真顔で言うリッサ。そう言われてしまえばぐうの音も出ない。

 俺はため息をついて、


「ちょっと後ろの車両見てくる」

「あ、逃げたな」

「うるせ。これ以上頭痛くなる説教に付き合えるか」

「はいはい。後でまた話そうねー」


 のんびり言うリッサにあっかんべーをして、俺は馬車から飛び降りた。

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