閑話(5):センエイ、動く
「やれやれ、こうして私が直接出向くとはね」
センエイのぼやき声に、シンが応えた。
「それより、なんで僕を連れ出したのか、そろそろ説明が欲しいところだね。位相解析なんか君でもできるだろ」
「かかか、そりゃへりくだりすぎだぜホルサの剣士。いくら私でも、二千年積み重ねたそちらの技術にはかなわんわ。私ができることは、せいぜい当たりをつけるくらいだよ」
「だが、それだけでもない。そうだろ?」
「なんでそう思う?」
「センエイ・ヴォルテッカともあろう大魔女が、僕の使い方を間違えるとは思えない」
「くく」
センエイは笑った。
「わかってるじゃんよ、シン。そうだよな。普通このタイミングでおまえを使うとしたら、敵大将の暗殺だもんな」
「いや、殺さないよ? 普通に誘拐してくるだけでいいだろ」
「えー。面倒じゃん。殺せよ」
「まったく君は野蛮だな……まあ、それはさておき。
相手になんの裏もなければそれで戦争は終わるんだけどね。ライ氏と『生贄』がピンポイントでトラブルを起こしたあたり、きなくささが段違いだ」
「サリがいないのもな。まあ、ハルカはそのあたりをわかっているとは思うが……」
「サリ、か……ねえ、センエイ。わかっているよね?」
「わかっているさ」
センエイは即答した。
「なにしろ一度、直接対決したんだからな。あいつのことは私がいちばんわかってる」
「あれは傑作だったねえ。『サリ・ペスティなんて名乗ってるけどどうせ偽物だ、私が叩き出してやる』とか息巻いて、なにひとつできずにたたきのめされたからね」
「いやあ、ホントにな! 私と相性悪すぎだろあの能力! わっはっは!」
「で、だからこそ攻略の方法も考えてたってわけだ」
「そうとも。あれから何度も考えた。サリを負かすにはどうすればいいか、あるいはもっと踏み込んで、サリが負けるのはどんなときか……」
「ほとんど隙がないからねえ、サリは。あの予知能力、自分に都合が悪いことが起こるときにはほぼ確実に、対処できるタイミングで自動的に予知するという技だ。しかも通常の神託や占術よりずっと精度が高い」
「そう。『もし本当に勝てるなら、遡ってその戦いの前に潰される』んだ。だからサリと戦って勝つためには、前提を覆すしかない」
「つまり、『サリにとって、負けた方がいい』戦いならば、あるいは」
「そういうこと。『勝利条件をいじる』ことによってならば、あるいはサリを出し抜けるかもしれない」
センエイはそう言って、ため息をついた。
「妖術師殿がどこまで考え詰めているかだな、これは。もしここまで考えた上でサリ対策を打たれていたら、私たちは一気に大ピンチだぞ」
「逆に言うなら、グラーネルがそこまで考えていなかったとすれば、僕たちの勝利は確定だ。だが……僕は、それはないと見てる」
「意見が合うねえ」
「どうする?」
「敵戦力の見積もりというなら、おそらく四つ以上」
センエイは言った。
「おそらくグラーネルは独立した魔人の傭兵を三グループは確保している。用途はわかるな? おまえ用、サリ用、そしてそれ以外用だ」
「そして、正面から攻めてきたあの岩巨人の大軍勢。それですべてかな?」
「さすがにそれ以上は用意できないだろ……と、思うがね。
そういうわけで、今回おまえがやるべきは、まずは潜むことだ。相手に、おまえ対策のカードを切らせないこと。そう思ったから私はこっちにおまえを連れ出した」
「了解したよ。とはいえ、別行動はするんだろ?」
「当たり前だ。私の技をおまえも知っているだろう?」
「やれやれ、制約の多いことだ。……では、僕はここで別れよう。君はどっちに行くんだい?」
「決まっているだろ?」
にやり、とセンエイは笑った。
「私が行くのは、いつだってかわいこちゃんの方さ。『生贄』なんぞという大役を任されてしまった可憐な少女、私が助けずして誰が助ける……ってね」
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「そういうわけでお邪魔するよー」
ひょいっ、と岩陰から顔を出して、センエイはにまっと笑った。
相手の少女は、少しおびえたような、こちらを見定めるような顔で、センエイの方を見た。
「あなたは……たしか、魔女の方でしたね。ライさまと一緒にいた……」
「お、覚えてるの? マジ? うれしいね、かわいこちゃんに覚えてもらえるのは」
「はあ……」
軽口をたたくセンエイを、やはり少し警戒した目で見る少女。
「さて、『生贄』ちゃんだね? うちの馬鹿が失礼して、こんなところまで飛ばしてしまって申し訳ない。尻拭いとして私が迎えに来たよ。怪我はないかい?」
「あ、はい。そういうことでしたか。
わたしは大丈夫です。ただ……すいません、少し確かめさせてください」
「ん?」
「光よ!」
「うおっ!」
少女のペンダントからものすごい光が放たれ、あたりの空間を威圧するように薙いだ。
まぶしそうに目を細めていたセンエイは、その光が収まってから、おどけたように言った。
「神話の力によるなぎ払いかね。人間には普通、無効なはずだが……?」
「あ、はい。そうなんですけど、魔物の中には人間に擬態する存在もいるらしくて。さっきから魔物に襲われていたんで、一応確認させていただいたんです。よかった、本物なんですね」
「なんだよ、そんなことを警戒してたのか。
大丈夫、ここにいるセンエイさんは間違いなく本物さ。じゃ、集落に帰ろう。みんな心配してる」
「いえ、それが、たぶんライさまも巻き込まれているんで……すみませんが、捜索を手伝っていただけますか?」
「ん? ああ、もちろんだとも。仲間の救出も大事な仕事だからね」
センエイの言葉に安心して、少女は歩き出した。
センエイはその後ろに続く。
目の前には無防備な少女の背中。
「なあ、『生贄』ちゃん」
「はい、なんです?」
安心しきった顔で少女は振り向き。
次の瞬間。センエイの胸を、銀に輝く刃が貫通した。




