二日目(24):祭りの終わり、そして
(なぜこうなったのか、よくわからない……)
(わからない、けど……)
(最悪の未来は、なんとか回避できたよ、ライ……)
「サリ!」
弧竜にとどめを刺して動かなくなったのを確認した俺は、サリに駆け寄った。
サリはボロボロの身体で微笑み、
「ライ……よかった……生きて……」
「いいから黙ってろ! ええと、治療できる人間は――」
「はい役立たずはちょっとどいてなー」
「うわっと!」
センエイが割り込んできた。
センエイは腕をまくってサリの身体を調べ、
「んー、思ったより傷、浅そうだね。服の防御耐性のせいかな?」
「たぶん……」
「サリの体質だとやけどはすぐ治るだろうけど、打ち身がひどいな。肋骨はどうだ?」
「まだ治ってない」
「了解。どっちにせよ、応急処置が必要だな。バグルル、ちょっと手伝ってくれ!」
「あの神官に、頼めば……」
「ん、ああ。それはな……」
てきぱきと作業をしながら会話を続けるセンエイから、俺はそっと離れた。さすがに、この状況で専門家の邪魔をするわけにはいかない。
ともあれ、なんとかなった。
「よかった……俺が下手打ったせいで、誰かが死ぬことがなくて」
「なーに暗い顔でシリアス決めてんだこいつ!」
「いってえ!」
ばちーん、とペイに背中をたたかれて、俺はむせた。
「竜退治だぜやったー! これはしばらく豪遊できるぞ!」
「おい、呑気にやってるなよペイ。テンとハルカを手伝って竜の死体保存に動け。鮮度が悪くなると売値が下がるぞ!」
「おっとそうだった。じゃ、これから作業なんで後でな、ライ!」
コゴネルの指示に、ペイはあわてて竜の死体の方に向かっていった。
「よ、お疲れさん」
「コゴネル……これで、よかったのかな?」
「それこそ、さっきのペイの言うとおりだろ。なにを暗くなってんだ。
だいたい、おまえがいなきゃ今回、死屍累々だったんだぜ。それを、一人の死者もなく切り抜けられたんだ。なにを気にすることがある?」
「けど、そもそも竜と戦うことになっちまった理由が俺のせいだし、結果的にサリに怪我させちまった。反省くらいはしとかないと、ばつが悪くてな」
「自分の始末を自分でつけたんだ。誰も文句は言わねえよ。
それに、結果としてよかったんじゃねえのか? 竜の死体は高値で売れる。おまえの借金の問題も、これで解決だろ」
「そうだよライ兄ちゃん! やったー、大金持ちだー!」
「うお!?」
がしぃっ! といきなりしがみついてきたマイマイに、おもわずよろける。
「おまえ、いままでどこにいた? ていうか、気絶してなかったか?」
「うん! 目が覚めたら竜が死んでた!」
「あ、そう」
「ああ、マイマイ。ちょっといいか?」
「ん、なにコゴネル? 儲けたお金でなにを買うかの相談?」
にっこにっこ笑うマイマイに、コゴネルはびしっと指を突きつけ、
「おまえは今回の報酬の分け前、なしだ」
「えええええええっ!? なんでええええっ!?」
「なんでー、じゃねえだろ。誰のせいでこんな大騒ぎになったと思ってやがる。しかもおまえはライと違って、戦闘には一切参加してないし」
「えー、いいじゃんそんな細かいことは気にしなくても! 仲間でしょー!?」
「細かくねえんだよボケ。しかも歩哨の仕事までサボってやがったな。俺たちの信用問題に関わるだろうが」
「い、いや、それはそのう……」
コゴネルのガチ説教が始まりそうだったので、俺はそっとその場を離れた。
まあ、たしかに。結果だけを見れば、丸く収まったんだろう。
だが、まだなにかしら、自分の中で飲み込めてないところがある。
そもそも、弧竜が最初に遺跡にダイブしてきたときの展開に、若干の違和感があるというか……
「まあ、いいか」
とりあえず、全員生き延びて、借金の問題も解決した。
それに。
俺は、まだ戦いの余熱みたいなものを帯びている、手元の剣を見た。
戦神バルメイスの剣だったというそれは、なぜか俺の手に収まり、力を発揮してくれている。
(こいつの正体も、そのうち明らかにしとかないとな……)
密かに俺は、心に誓うのだった。
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「すいません、スタージン神官……おぶってもらっちゃって」
「いやあ、気にすることはありませんぞ、ポエニデッタ神官。あのような強力な秘儀を三度も打てば、精神力は尽きて当然というもの。むしろよく最後まで持たせたというものでしょう」
「そう言ってもらえて助かります……あ」
「やあ」
彼は、まるで待っていたようにそこにいた。
たしか、名前はシン。魔人の一人で、比較的冷静で温和な人という印象があった。
だが。
(スタージン神官が……緊張している?)
「いやあ、どうもこんにちは! 弧竜退治、お疲れ様です!」
「僕はほとんど活躍できなかったけどね。能力の相性が悪かった。
そういう意味では、そちらのお嬢さんには感謝したいな。助力がなければ確実に死者が出ていただろうし、そうなれば、この後の任務に当たって大打撃だっただろうからね」
ごく平静に会話するスタージンとシン。
だが、背負われているからこそ、リッサには理解できた。
スタージンは平静を装っているが、いつでも戦闘に移行できるように注意している。まるで――目の前の人物が、恐るべき敵であるかのように。
「ふふっ。相性、ですか……」
「なにか?」
「いえ。ご謙遜を、と思いまして。仮にも名高きホルサの剣士ともあろうお方が、竜母にも至らぬ竜相手に、遅れを取ることなどありますまいに」
「へえ、それは驚いた」
対するシンは、ごく普通に驚いた、という顔をした。
「サリやハルカならともかく、僕の素性まで知ってるのかい。バグルルの知り合いとは聞いていたが、あなたはずいぶんと『こちら側』に詳しいようだ」
「無論です。そもそも……あなたもまた、神の伝統を引き継ぐ者。神殿が知らないはずがありましょうか」
「ま、たしかに。僕らの組織の通称だって『見えざる神殿』だからね」
肩をすくめて言う彼に、スタージンは尋ねた。
「それで? 今回の戦い、あなたはわざと手を抜いているようでしたが……種明かしをお願いしても?」
「そんなにたいしたことじゃないよ」
シンは苦笑した。
「ただ単に、僕らの敵である妖術師が、この機に乗じてちょっかいをかけてくる可能性を危惧してたのさ。だから力の大半を、周辺への探査に費やしていたんだ。
いまもそう。竜を倒してみんなの気が緩んだこのタイミングが一番危ないからね。もう一回り、見回ってくるつもりさ」
「なるほど……」
スタージンが警戒を解くのが、リッサにはわかった。
「どうやら、あなたは思慮深い方のようだ。あのグループにあなたがいることは、彼らにとって幸運でしょうな」
「それを言うなら、そちらもそうだろう。『石弓』殿。あなたが最後のギリギリまで登場を遅らせたのは、その時間を使って、不届き者が周りにいないか確認していたからだろう?」
「ははは、隠し事はできませんなあ!」
「ふふ。じゃあ、僕はもう行くよ。また今度、機会があればじっくり話そう」
言って、シンは手を振り、去って行った。
ふう、とスタージンは吐息。
「いやあ、困ったお人ですなあ……」
「あの人……スタージン神官はずいぶん警戒しておられましたけど、なにか曰くがあるんですか?」
「まあ、結果としては杞憂でしたよ。なにぶん、手前もいろいろと耳が早い身。相手のバックボーンを知っていると、どうしても疑り深くなってしまいましてなあ」
いけないいけない、と言いながら、スタージンはまた歩き出した。
ほう、と息をついて、リッサは思う。
(まあ、深入りはしないでおこう……今日は、なんか疲れたし)
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かくして。
俺。世紀の大悪党を目指すライナー・クラックフィールドは、旅に出て最初のどでかい試練を乗り越えた。
だが、その裏でとんでもないことが起こっていて。さらには、それが自分自身どころか、世界全体の運命をも大きく変えることになる、などということには――
このときはまだ、気づくよしもなかったのである。
【お知らせ】
二日目はここまで、そして連続更新もここまでになります。
次回は三日目から五日目まで、また書き上がってから連続公開という形式になりますので、よろしくお願いします。




