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神様の剣と懲りない悪党  作者: すたりむ
二日目:悪党と帰らずの草原
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閑話(1):外道どもの蠢動

「ふむ……イレギュラーじゃの」


 老人は水晶玉を前にそう言って、くちびるをとがらせた。


「スペアプランを使わねばならん。幸先悪いのう。やれやれ、準備作業が追加だわい」

「それはいいのだが、プランが根本からこけたりはしないだろうな? いまさらそれでは困るぞ」

「ひょひょ。心配症じゃのう」

「心配のひとつもしたくなる。これだけの対価を支払ったのだからな」


 そう言って甲冑姿の男が差し出した手には、丸い形の物体が乗っている。

 生首、であった。


「注文通り。幸せの絶頂にある若い娘の首と所望されたから、結婚式を襲って手に入れてきたが……いかに境界線の付近とはいえここは慣習上、人間領だ。我らの活動と発覚すれば、大事になるぞ」

「その懸念も、儂との共闘が成功すれば消し飛ぶ。最初からそのつもりで乗ったのじゃろう、おぬしは?」

「それはそうだが、その『成功すれば』というのが曖昧では困るのだ。いまさらできませんでした、では済まんぞ、妖術師」

「ひょっひょっひょ。心配には及ばんよ」


 大事そうに首を受け取りながら、妖術師と呼ばれた老人は笑った。


「実を言えば、相手には間諜を仕掛けておる。さらに、旧知が一人おってな。やり方次第でいかようにも寝返らせられる」

「用意のいいことだ」

「でなくばこのような企て、起こすことはできんよ。これは、世界を敵に回す行為なのじゃからな」

「ふん……」


 甲冑男は鼻で笑って、


「ならばせいぜい早く済ますことだ。我が軍の力、いつまでも貴様が好きにできると思うなよ」


 と言って、その場から背を向けて去って行った。


「ひょひょ。ずいぶんといきりおる、若造が……」


 老人はつぶやいて、それからぎろりと目を向けた。


「で、まだなにか御用かのう、お嬢ちゃんや?」

「お嬢ちゃんはやめてくれ。さすがにそんな年齢は過ぎた」


 言ったのは、先ほどの甲冑男と似たような戦装束に身を固めた女である。

 女、と言っても、人間の男の平均を上回る体躯の上に、兜までかぶっている。そこから覗く顔だけを見れば美形と言えるが、中性的で美男とも美女とも取れる。声を聞かずに性別を簡単に判断できる相手ではない、はずなのだが。

 しかし老人はいとも簡単に見抜いていた。そして、猫なで声で続ける。


「個人的な頼み事かね? それともなにか思うところでもあると? どちらでもええぞい。話に乗ろう」

「ああ。まあ、そうだな。実を言うと少し迷っていたのだが、それを聞いて考えが固まった」

「なんじゃね?」

「その首、どうせいらないんだろう? くれ」


 言われて、老人はきっきっきと笑い、


「なぜいらないと思う? 儂は呪術のために必要と言ったはずじゃがな」


 老人の言葉に、女は憮然と返した。


「人間の娘一人程度の呪詛がいまさら必要な御身ではあるまい。どうせ、そうさな、我が上司の小心者っぷりに目をつけ、引き返せないように罪を犯させたな?」

「……なかなか面白い見解じゃのう」


 老人の笑みが、一段階深く変化した。

 女はそれを見ても一向にひるまず、言葉を重ねる。


「そしてたぶんそれだけではない。襲わせた村の位置がやや不自然だ。察するに――」

「察するに、なんじゃ?」

「……いや。憶測を重ねるのは悪い癖だ。いまのは撤回する」

「ふむ。まあ惜しいところをついてたとは思うがのう」


 老人は他人事のように言って、それから女にぽい、と生首を放り投げた。

 女は無造作にそれを受け取り、去って行こうとする。


「しかし儂の方が聞きたいのう。そんな生首ひとつ、どうするつもりじゃ?」


 言葉に、女は肩をすくめ、言った。


「別に。捨てられる程度なら、供養してやろうと思っただけだ」


 その言葉とともに女はいなくなり、その場は老人ただ一人が残った。


「……ひょひょ、ひょひょひょ!」


 笑い声がこだまする。


「供養、供養と来たか! この聖典世界、なんの意味もない行為だというのに供養!

 面白い、面白いぞあの娘! なんという美徳と正義と良識に満ちた心か! こうも忙しい時でなければ、その魂を砕いて慰み者にしてやるところぞ!」


 笑い声がけたたましく響き、そして不意に静寂が訪れた。


「……下らん。良識など、そんなものにこだわっておるから世界は……」


 静かに、憎悪をたぎらせた声で老人はつぶやき、そして宙空をにらみ据えた。


「神剣によるインスタントな解法は、いったんは頓挫したが――」


 つぶやく。


「単に魔王を呼ぼうというのなら失敗だが、あり合わせの魔王(・・・・・・・・)ならすでに現存する。なあに、いくらでもやりようはあるわい」


 ぎらぎらした目で虚空をにらみつけて、老人は続けた。

 それは、彼なりの宣戦布告。

 世界に向けての憎悪の詰まった、戦いの幕開けを知らせる合図であった。

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