その3
最終話です!読んで頂きありがとうございます!
私は携帯を両手で握りジッと睨んでいた
明日は緑山くんと映画の約束した日
しかし、広の車で送ってもらったあの日から4日間連絡がない
私から何かLINEしようかと悩みに悩んだ結果、なんて書いたらいいのか全くわからず・・・
『会社の飲み会で酔って送ってもらっただけだよー』
と送っても言い訳ぽいし、そもそも緑山くんの彼女でもないのでそんな事報告しなくてもいいじゃないか
ここは何もなかった様に
『土曜日は何時に待ち合わせします?』
とか・・・ダメだ、気まずい・・・他に男いるのに映画誘ってきやがったよーって思われ、どんだけ最低女だ・・・
せめて、せめて誤解だけでも解きたい
私は思い切って緑山くんが働いているコンビニへ向かうと意外とお客が多く忙しそうだった
店内に入ろうか躊躇しているとコンビニ横に置いてある見覚えのある原付バイクが目に止まる
この前彼が乗っていた原付バイク
お店の中で仕事をしている緑山くんを遠目で眺め私は前もって買っていた映画の前売り券を手に取り彼の分だけを原付バイクのメーターに挟んだ
もし、これを持って映画に来たら、私は気持ちを伝えよう・・・
ちょっとした賭けだった
土曜日、新しく買った洋服を着ていつもより丁寧にヘアメイクを施し、お気に入りのイヤリングを着けて普段履かないヒールの高い靴を履く
今、私に出来るで精一杯のオシャレをして映画館に向かった
映画館のロビーで今人気SFアクションの映画前売りチケットを握り締めて背筋を伸ばし時計を見るとまだ上映30分前だ
私は高いヒールがちょっと辛いのでベンチに腰をかけた
もし彼が来なかったら、それはそれで仕方がない
でも、もし来てくれたら・・・
私は妄想で顔を赤くしてひとりで悶えてしまった
隣のベンチに座っていたカップルが奇怪な目で私を見ている事に気が付かないくらいに
ふと映画館の入り口に目をやると遠くに見覚えのある若い男の姿が見えた
ちょっと茶髪で紺のシャツに薄いデニムジャケットを合わせ斜め掛けバック掛けてベージュのチノパン姿はどこからどう見ても最近の若者だ
間違いない・・・緑山くんだ
私は嬉しくて真っ赤な顔が更にニヤけてしまった
来てくれた・・・
きっと原付バイクに置いた前売り券を持ってココに・・・
私はベンチから立ち上がり彼に駆け寄ろう思った瞬間、隣で楽しそうに頬を染め笑顔で彼に話しかける彼女が見えた
白いワンピースにすらりと伸びた細く美しい足、ウエーブかかった髪がより一層彼女の可愛さを引き立てる
このカップルは間違いなく、今日この映画館一番のベストカップルに選ばれるであろう
私の隣のカップルには悪いが・・・
私は少し浮いた腰をゆっくり下ろしお似合いのふたりを眺めた
そしてガラスに薄っすら映る自分を見る
髪を耳の後ろでひとつに束ねて、カラシ色のチュニックにワインレッドのカーディガンを羽織ってストライプ柄の黒いスキニーパンツ姿のぽっちゃり女子
私じゃ彼女の様にベストカップルにはなれない
ふたりは私に気が付かず、私に背中を向ける形でチケット売り場に並んだのでコッソリ気配を消して映画館を出て行く事にした
普段は履きなれないヒールに少しよろめきながら映画館を出るといつの間にか雨が降っていた
まるで今の私の心のようだった
告白する前から勝手に失恋した私は家に帰ると買置きしていたワインを開けた
やけ酒である
テレビを付けて適当につまみを出してひとりポロリと涙を流した
もっと・・・彼女みたいにいい女になりたい・・・
緑山くんに教えてもらった白ワインを飲み干し
私なりのいい女になるまでもう買わないと心に誓った
それから数日後私は行きつけの美容室でセミロングの髪に縮毛矯正してもらった
失恋したらバッサリ髪を切るって話もあるけど私なりの気分転換だ
少しお財布の中身が寂しくなるのは仕方がない
髪型をストレートにした評判は予想以上に良く、会社の同僚も似合ってると褒めてくれた
広とはアレからまともに話をしていなかったが、会社でスレ違いざまに頭をポンっと撫でられた
フラレた女からフッた女に進化?した私は何とも言えない心情だ
「大野さんちょっと制服大きいんじゃないですか?」
お昼ゴハンを数人の女子社員と食べていると、一番若い子に指摘された
確かに、ココ最近コンビニ行かないし食欲があまりなかったのでまた少し痩せた気がする・・・特に胸のあたりが気になる所だが・・・
Lサイズの制服が少しブカって見えるらしい
しかし、またいつ戻るかわからないのでMサイズに変更するのはまだやめておいた
この日の昼から緊急会議が入っており、私は書記に駆り出されるとまた社長の気まぐれが訪れた
コンビニでスイーツ買ってきてって・・・
超行きたくない・・・
他に誰かぁーと涙目で見回すが今回も無理そうだったので、諦めトボトボとコンビニに向かう
そんな私の後ろから駆け寄る足音が聞こえた
「俺もコーヒー買いに行く」
広が私の横に並ぶ
なら、広にスイーツ買い頼むというのは・・・ないな
しばらく沈黙のまま歩くと
「髪型変えたんだ、似合ってるよ」
「へへ、ありがとう」
なんだか照れくさく笑う私を眺めていた広も少し微笑んだ
「奈々美、俺と別れてどんどんキレイになっていくな。どんな嫌がらせだよ」
「え゛」
そりゃ広と別れてから色々頑張って自分磨きを少しずつしてきたけど、欠して嫌がらせでしているつもりはない
「別にいいけど」
そう言った広は笑っていた
コンビニに着くと一瞬店内に入るのを躊躇ってしまった
広が先に入りドアを開けているので私はギュッと拳を握り中に入る
「・・・いらっしゃいませ」
少し元気のない聞き覚えのある声が聞こえ、私は変な汗が出てきた
視線を向けるべきか、それもと見ない方がいいのか
「奈々美、どれ買う?」
カゴを持って私に話しかける広の声で我に返った
「えっと、プリンとかシュークリーム系から見てみよう」
私は広の顔を見ると何か不審な表情を浮かべていた
「大丈夫か?」
「ん?、なにが?」
とぼけた顔で笑う私だったが緑山くんの顔は見れない
沢山のスイーツをカゴに入れてレジに向かうとやっぱり彼が静かに私達を見ていた
広がカゴをレジに置いて私は出来るだけ緑山くんの顔を見ない様に俯き精算を待っていた
「あと別会計でホットコーヒー、あ、奈々美いる?」
「い、いらない」
「じゃホットコーヒー1つときなこドーナツ1つ」
手際よくコーヒーカップとドーナツを準備する緑山くんは無表情だった
広はドーナツを受け取ると私に差し出した
「好きだったよね?これ」
付き合っていた時に私はこのドーナツが好きでたまに食べていた
「あ、りがとう・・・」
確かにもらって嬉しいがよりによって緑山くんの目の前で・・・私が困った顔をしていると緑山くんがスイーツたっぷりのレジ袋をレジカウンターに置き、それを広が手に取った
「4250円です」
少し震えた手でスッとお金を渡すとお釣りとレシートをもらってお店を出た
帰りにありがとうございましたの挨拶が聞こえなかったのは気のせいだろうか・・・
生きた心地がしなかった・・・
ピロリン
その日の夜、LINEが入ってきた
『彼氏さんと仲直り出来て良かったですね』
お風呂あがり、髪を乾かそうとしていた私は緑山くんからの突然のメッセージに固まった
違う・・・彼氏じゃない!!
髪を濡らしたまま、急いで返信する
『彼氏じゃない』
『別に隠さなくてもいいです』
『ぜーったい彼氏じゃない!!緑山くんこそ彼女と仲良いじゃない!』
ハッ!!!!
感情的になり過ぎていきおいで余計な事を送ってしまった・・・
すぐに既読になったが返信がない
えーと・・・どうしたものかと携帯画面を見つめていると突然画面が切り替わり電話番号表示になった
ピロリンロリン〜♪
電話の着信音が響く
私は恐る恐る電話に出る低い声が聞こえ胸が締め付けられる
「俺です」
お、オレオレ詐欺・・・
「緑山です、いま電話いいですか?」
「うん・・・」
彼と電話での会話は初めてで声を聞いただけで心臓がドクドクしている
私は顔を赤くして携帯を持つ手が小刻みに震えていた
「俺、彼女いません」
「・・・・・でも、映画観に行ってた・・・」
一緒に映画観に行ってただけで、彼女じゃないって言うのだろうか
あんなにお似合いだったのに・・・
「・・・やっぱり、アレ奈々美さんだったんですね」
「?」
緑山くんは少し不機嫌な声色に変わった
「バイトの子が奈々美さんから映画の前売り券もらったって持ってきました。彼氏が出来たからもう俺と映画に行けないから貰ったって。おかしいと思ったんですよ、あの子の分の前売り券忘れたって言ってたから」
私が原付バイクに置いていった前売り券、彼女が取ったのか・・・まあ、私も浅はかな考えで置いたのも悪いが・・・
「・・・映画館で奈々美さんの後姿が見えました。俺、見間違えかと思ったけど」
「・・・・っ」
私は声に出さない様に泣いていた
彼女じゃなかったんだ・・・ただ、それだけ嬉しくて・・・
「奈々美さん、元彼とよりを戻したから俺を避けてたんじゃないんですか?」
「戻ってない。会社の飲み会で間違えたアルコール飲んじゃって、送ってもらっただけだし・・・」
どうしよう、声が震えてしまう
「・・・・・そう、ですか」
電話越しに沈黙が続く
私は溢れる涙を止めるのに一生懸命だった
鼻をすすったら泣いてるってバレてしまう
頭に被せていたタオルで鼻を抑えた
「なんか、すみません。俺、勝手に誤解してて・・・格好悪いですよね」
そんな事ない!決してない!
私は間違いなく貴方をイケメンと思う!
「・・・今から、逢えませんか?」
「!!!!」
私は目を見開き驚きのあまり固まった
い、い、い、い、いまから?!
この泣きまくった顔をどうにか出来るレベルではない
でも、こんなチャンス逃すなんて・・・・
今、10時
準備に一時間・・・いや30分
明日仕事だけど、多少の無理は何とかなるし
「い、いいよ」
40分後、コンビニの近くの公園で会う約束をしてしまった・・・・
急いで髪を乾かし、薄い化粧をしてパーカーとデニムのパンツ姿で車に乗り込む
この流れでいくときっと私は緑山くんに想いを伝える事になるだろう
告白するんだったら、もっとおしゃれで可愛い格好をしてロマンチックに告白したかった
まあ、こっちの方が私らしいっちゃ私らしいけど
約束の時間より10分早く公園に着き車の中で待っていると原付バイクの軽快な音が聞こえてきた
緑山くんはトレーナーにスエットパンツを履いていてラフな格好だったので、あまり気合い入れた服装にしなくて良かったと胸をなでおろす
緑山くんは原付バイクから降りて私の車に歩み寄り助手席側に回った
「乗ってもいい?」
と首を傾げる緑山くんに私は頷くと助手席に乗り込んだ
私の愛車は軽自動車ではあるが空間が少し広く、成人男性と乗っても狭苦しいと思うことはない
しかし、いま隣に座っている緑山くんと同じ空間にいるだけで酸欠になりそうだった
「結構冷えますね」
「そ、そうだね・・・・」
薄暗い車内の中、赤面している顔を隠すように私は俯いてソワソワしていた
そんな私を見て緑山くんはぷっと笑った
「髪型変えたのですね、イメチェンですか?」
「うん・・・変かな?」
「似合ってますよ?なんだかちょっと幼く見える」
女子高生が皆縮毛矯正してるから、そんな感じに見えるのかな??
私は自分の髪に指を通し眺めた
「そういえば、緑山くん何年生まれなの?」
今更だが、私は彼の年をはっきり知らなかった
大学生って事はわかっているが何処の大学で何年生かも知らない
「俺、平成5年生まれですよ。今年の11月に24歳なります」
おろ?
24歳??
私より・・・・年上!?
ずっと年下と思っていた私はショックを受けた
心のどこかでお姉さんずらしていたからだと思う
「奈々美さんは何年生まれですか?」
「・・・・・い、言いたくない」
今更年下とバレたくないのが本心である
所が何か勘違いした緑山くんは少し困った顔をして
「俺、年上の女性、好きですよ」
ぐはっ・・・
衝撃的なダメージを食らった
私・・・年下です(泣)
私が凹んでいると緑山くんがキョトンとした表情で顔を覗き込む
年上だろうが年下だろうが私の気持ちが変わらないのだが
「緑山くん・・・私、22歳」
「え?」
「平成7年生まれ、老けてて悪かったわね・・・」
ははっと苦笑いをする私に対して、緑山くんは一瞬驚いた顔をしたがすぐに口の甲が上がる
「・・・なんだ、気使って損した」
少し伸びた前髪をかき揚げ緑山くんが座席の背もたれに体重をかけて力を抜いて座る
「緑山くん・・・」
「ダメ。毅」
何だか少し態度がデカくなったぞ
「俺も奈々美って呼ぶから」
私は口を尖らせ頬を染めた
ま、まぁ、呼び捨ては嫌いじゃない
「年上と思ってて遠慮してたけど、その必要もないみたいだし」
そういうと、毅は右手を私の左頬にそっと添え
「奈々美、俺と付き合って下さい」
ニコリと微笑みさらりと爆弾を落として言った毅に
私は驚きのあまり口を半開きにしたまま固まり、左頬に触れている毅の手からどんどん熱くなり顔が火照ってくる
夢を見てるのだろうか
こんな幸せな夢なら覚めなければいい
私の左頬に添えられてた毅の手が頭の上に移動して撫で撫でされ
「返事は?」
甘く囁く低い声に私は目頭が熱くなり、目に涙をためて返事をした
今度は私から好きだと伝えよう
終わり
最後の主人公と緑山くんは立場が逆転しちゃいましたね(笑)高卒で就職した主人公に対してに緑山くんは高卒後海外に留学したのち高学大学生をしているので24歳になってしまった…この先お付き合いしていく中で主人公は学歴の差に葛藤するでしょうねーははは
最後まで読んで頂きありがとうございます(*´ ˘ `*)