その2
読んて頂きありがとうございマッスル!あ、つい・・・
次の日の朝、私は珍しく寝坊してしまった
広がなぜキスをしたのか考え悩んでたらいつの間にか朝だった
素直に電話して聞けば良かったが、そんな勇気もなく・・・
急いで化粧をして車をとばしたら何とかギリギリ始業時間に間にあった
お昼頃、イレギュラーな仕事が入りお昼時間が大幅に削られあまり行きたくない近くのコンビニに行くしかなかった
彼が休みだったらいいのにな・・・と小さな期待もすぐになくなる
身長の高い少し細身の若い男の店員が私を見るやニコリと笑い
「いらっしゃいませ!ハローキティさん、今日は何を買いに来たんですか?」
あからさまにわざとらしく大きな声で話しかけてくる
私はギョっとすると周りにいたお客さん達が視線が痛い
その中に親子連れの子供が母親に「ハローキティだってーどこ?」と話ている
「ち、ちょ!」
「ハローキティさんにおすすめの新商品があるんですよー」
周りの視線が恥ずかしくて慌てて彼を止めようとすると
「名刺にそう名前が書いてありましたから」
と勝ち誇った顔された・・・
うぐぐ・・・
彼はおすすめの新商品を棚から取り問答無用に私に渡す
それは明太子パスタで半強制的に買えという事か?
まあ、お昼ゴハン買いに来たからいいけど
「ハローキティさん、こちらのドリンクもー」
「だぁーーもう、わかったわよ!!」
周りからクスクスと笑い声が聞こえ、ニヤニヤしている彼に私は渋々自分の本物の名刺を渡す
受け取った彼は今度はすぐに名刺の名前を確認にして
「大野奈々美さん・・・」
無駄にフルネームで呼びれると恥ずかしい
「これで気が済んだでしょ!」
私は最近お気に入りの野菜ジュースを棚から取りレジに向かうと先日彼とじゃれ合ってた可愛い女の子店員が私を睨んでいた
何とも言えない怖いオーラを放って精算してくれる彼女は間違いなく緑山が好きなのだろ
こういう女の勘はあたる
私はタジタジになりレジ袋を受け取ろうとするとヒョイっと緑山に横取りされた
「奈々美さん、今から食べるんだよね?温めなきゃ美味しくないよ」
あ、彼女のオーラに気を取られてお願いするの忘れてた・・・聞かれもしなかったし・・・
てか奈々美さんって勝手に下の名前で呼んでるし・・・
店員の彼がレンジをかけ温め、フォークも忘れてるよとレジ袋に入れて手渡される
その一部始終を見ていた彼女は更に不機嫌な顔をする
こ、怖いっです!!
私は逃げるように店を出ると何故か店員の彼もついてきた
真面目に仕事しなさいよぉー
「名刺のアドレスにメールしてもいいですか?」
名刺のアドレスは仕事用のパソコンアドレスなので私用は困る
ヘタしたらシステムの監査で引っかかるだろうし
「あれは仕事用だから・・・」
「だったら電話番号教えて下さい」
店員の彼の胸ポケットにさしてある元?私のペンをとり名刺と一緒に私に突き出す
ここで教えたくない、書かない、と突き放せば良いのだろうが、私は彼とのやり取りが正直楽しかったので拒否する事は出来なかった
少し震える手で電話番号を記入すると彼は笑顔で
「ありがとう、連絡します」
その笑顔に胸がキュンとなり私は顔を赤く染めた
過剰に期待しちゃダメ
好きになっちゃダメだ・・・
その日の夜、SNSでメールが届き
軽い挨拶と携帯アドレスとLINEアドレス
今度はちゃんと携帯に登録した
「おろ?」
ある日の朝、仕事に行く準備をして制服に着替えるとスカートのウエストが緩くなっている事に気が付いた
前はお昼ゴハン食べたらパンパンになっていたスカートなのに今は片手の掌がすっぽり入る
こりゃウエスト詰めた方がいいなー
嬉しい誤算だった
広からキスをされて2週間
あれから何も関わり合いがなかったのでとりあえず放置する事にした
いくら考えてもわからないし、広から何か言ってくる訳でもない
何もなかったように過ごせる自分は大人になったなーとしみじみ思った
コンビニの彼こと緑山くんとはすっかりメル友になり、何かとLINEが入って来る
今の私のちょっとした癒しだ
新商品の話や面白かった話など
たまに私の会社の人がコンビニに来たとか・・・
『今度の土曜日映画観に行きませんか?』
誘ってくれるのはとても嬉しかった
でも、今の私はまだ自信がなく用事があるからと断った
「用事ってコレですか?」
土曜の仕事休みの日、天気が良かったので久々に洗車をしようと近所のガソリンスタンドで愛車を磨き上げていると背後から聞き慣れた若い男の声がした
そろーっと振り返ると原付バイクに乗ってヘルメットを被っている緑山くんが少し不機嫌そうな表情で私を睨んでいる
私はパーカーにデニムのパンツ姿で化粧も日焼け止め程度しかしてなく髪型も洗車の邪魔にならないようざっくりひとつに束ねて色気も何もない格好だった
「あ、えーと・・・」
映画の誘いを断っていた手前気まずい・・・
緑山くんは洗車場の隅に原付バイクを停めてヘルメットを置い降りてきた
「手伝いますよ」
そういうと、袖をまくってバケツに入っていた洗車用スポンジを手に取り車を洗い出す
「え、いいよ!自分でするし、服汚れちゃうよ」
慌てて止めようとするが緑山くんはお構いなしにゴシゴシと洗っていく
「俺、今日どうせヒマですし」
少し嫌味ったらしく言う彼に私はバツが悪くなった
手際よくドンドン車を洗っていくので私は諦めて一緒に洗う事にした
緑山くんのお掛けでさくさく洗車が出来て丁寧にワックスまでかけれたので愛車がピカピカに輝いている
「ぅわーありがとうー」
「じゃ、洗車も終わった事だしお昼食べに行きませんか?」
「え?」
まくっていた袖を戻しながら私を見てニコリと微笑む
全く断らせる気がないようだ・・・
私達は近くのファミレスに行く事になった
時間はPM2時だったのでチラホラ席が空いており私はハンバーグ定食を頼み緑山くんはチキン南蛮定食にした
「奈々美さん、休みの日って何してますか?」
「別に普通に過ごしてるけど・・・」
「・・・彼氏とかいないんですか」
緑山くんは少し気まずいそうに聞いてきた
「今はいない」
私はなんだか恥ずかしくなってテーブルを見つめた
「一ヶ月前ぐらいにフラレたの」
別に隠しておく事でもないし私はハハっと笑うと彼は目を少し細めた
「なんでフラレたんですか?」
「え?」
そこ突っ込むの!?
私が理由聞きたいぐらいだよ・・・とほほ
「なんて言われたんですか?」
まるで刑事の取締りの様な状態になっていた
緑山くんは真面目な顔をして聞いてくる
「なんか、無理って・・・あ、あの緑山くん顔怖いよ?」
「すみません、もともとこんな顔なんで」
そういう意味じゃないんだけど・・・
「あの、付き合ってたの3ヶ月間ぐらいだったし、きっと相性が合わなかったんだと思うのよね」
そう思うしかなかった
私と広は合わなかったんだと・・・それがたとえ体の相性であっても・・・
「奈々美さん、今でも元彼の事好きですか?」
緑山くんは私が考えないようにしていた事をド直球で聞いてきた
私は少し目を泳がせ固まった
今でも広が好き?
「は、はは。どうだろう?わかんないや・・・」
注文した定食がテーブルに並べられ私は答えを誤魔化しながら定食を食べると緑山くんも定食を食べだした
私は広の気持ちがわからない
誰か教えてくれないかな・・・
緑山くんなら男の気持ちわかるのかな・・・
「ねえ、緑山くん」
「はい」
「男の人って、フッた元彼女にキス出来るものなの?」
一緒、目を丸くして定食を食べる手を止め少し考えると
「出来るでしょうね、まだ気持ちがあるなら」
「・・・・」
「その時なにも言われなかったんですか?」
緑山警部の尋問がまた始まった
「なんで何も言わないんだよって言われた」
緑山くんは私の目をジッと見て何か考えると
「奈々美さん、元彼のこと本当に好きでしたか」
「う、うん」
「キスがしたい程?」
「え・・・・」
少し悲しく困った顔をして緑山くんが私に言った
私は広が好きだった
告白されて嬉しくて、一緒にいると楽しくて
ただ一緒にいるだけでも幸せだったけど、手を繋ぎ、キスをして、それから・・・
よく考えてみたら私から広を求めた事がなかった
デブで恥ずかしいと思っていたから消極的だったのもあるが、正直したいと思わなかった
ただ、一緒にいるだけで幸せだったのだから
ギュッと胸が締め付けられる
私が切ない顔をしていると緑山くんが苦笑した
「俺に元彼の相談しないで下さいよ」
「あ、ごめん。こういうの聞ける人いなくって」
「いいですよ、今は」
「?」
「あ、映画いつ行きますか?」
緑山くんがニコっと笑いまた映画に誘ってくれた
私は目の前にいる彼の誘いを断り切れず、再来週の土曜日に今話題のSFアクション映画を観に行く約束をしてしまった
年に一度、会社の決起大会&懇親会というイベントがある
会社の倉庫の一部が会場となり、上半期頑張っている社員を表彰して、その後は宴会が始まる
私は宴会の準備に駆り出され、テーブルセッティングや飲み物の準備に忙しかった
バタバタと会場を動き回り一段落すると先輩が手招きして私を呼んだ
「大野さん、お疲れさま!もうだいぶ落ち着いたから大野さんも飲んでね。あ、車だったよね?ノンアルね」
とノンアルコールビールが入っていたコップを手渡されると私はもう喉がカラカラに乾いていたのでグビグビと飲む
「ぷはーいやー最近のノンアルビールは本当普通のビールと味が変わらないですよねー」
「よっぽど喉が乾いてたのね、もう一杯飲む?」
「はい!頂きます!」
飲み干したカップを置き、別のカップに口をつけ一口飲むと少し離れたところにいた係長がビール瓶をもってやってきた
「あれ?ここのカップ普通のビールよ?」
「へ?」
私はみるみると顔が赤くなり頭がボゥっとして来た
私はお酒に弱いのです
紙コップ一杯半飲んでしまった・・・
車で帰らないといけないのにぃー(泣)
懇親会の後片付けをして帰ろうと思ったが飲酒運転になるので車に乗れない
他の人たちは二次会に行く人や迎えが来る人など様々で帰って行った
仕方ない・・・バスかタクシーで帰るかとトボトボ歩き出すと一台の車が私の横に止まりドアガラスが開く
「乗れよ」
車の車種ですぐに持ち主が誰だかわかった
薄暗い車内の運転席の広が私を覗き込む
「バスかタクシーで帰るから」
「ーっ、乗れって」
と少し乱暴に広が助手席側のドアを車内から開けると私は渋々助手席に乗り込んだ
「酔ってるのにひとりで帰るとか危ないだろ、送る」
真っ直ぐ前を見て運転している広は少し恥ずかしがっているようにも見えた
このまま、真っ直ぐ家に送ってくれるのかと思ったが会社近くのコンビニの駐車場に停まる
「コーヒー買ってくるけど、何かいる?」
「え、い、いらない」
店内に仕事をしている緑山くんの姿が見え、私は胸がチクリとした
広の車の助手席で体を小さくして彼に見つからない事を祈る
やましい事は何もしていないのに怯えている
広がコーヒーを買って車内に戻って来ると一緒に買ったであろうミネラルウォーターを私に差し出した
「ありがとう」
受け取り蓋を開けて飲もうとすると店内にいた緑山くんと目が合う
彼は驚き固まった後、顔を歪め視線を逸らした
私は何とも言えない気持ちになり罪悪感で泣きそうになった
そんな私の気持ちを知らずに広は車を出して私を家まで送り届けてくれた
「送ってくれてありがとう」
さっきの緑山くんの表情が忘れられず、落ち込み車を降りようとした私の肩に広の手がかかる
「奈々美、待って」
嫌な予感がした
「やり直さないか?俺からフッておいて都合のいい事言ってるってわかってる。でも、それでも・・・奈々美の事が・・・」
薄暗い車内の中、私を掴む手に力がこもる
じゃーなんで私をフッたの?
また、やっぱ無理ってならないの?
言いたいことがあるのに言葉が出ない
少しの間沈黙が続くと広の顔が近づいてきた
ああ、キスされる・・・・
このまま受け入れるべきなのか
それとも拒絶するべきなのか
頭の中でぐるぐる考える
私は・・・・・
唇が触れる直前で広の身体を軽く押し返し俯くと
広は少し顔を歪め強引に迫って唇を奪っていった
「っつ、やめて・・・・」
私は涙目になりながら震えた手で力一杯彼を押し返す
「・・・・菜々美はずっとそうだ・・・・いつも俺を必要としてくれない」
「え・・・」
「告白も俺からデートの誘いも俺から、キスをするのも俺から、あの時だって・・・奈々美はいつだって俺からの誘いに答えるだけだった・・・」
それは・・・そうかもしれない
嫌われたくなかったし、初めての彼氏でわからなかったし・・・
「奈々美が俺の事、本当に好きなのかわからなくて・・・別れても好きだと言ってくれると思ってた」
「私は・・・」
広は狭い車内の中でギュッと私を抱き締める
少し震える広の腕と熱い息づかいが感じる
「なんで・・・わかってくれないんだよ」
彼がそんな風に思っていたなんて知らなかった
自分に自信がない私はいつも消極的でこんな私に付き合ってくれる彼にどこか申し訳ないとすら思っていた
「好きなんだ・・・」
広の小さく呟いた声に私の心臓はドクドクと音を大きくして顔に熱がこもる
心地いいぬくもりを感じて幸せな気持ちになる
このままよりを戻してもいいかも・・・
『奈々美さん』
頭の中で私の名前を呼ぶ緑山くんの笑顔が浮かぶ
あーあ、やっぱりそうなんだ・・・
私は小さく苦笑いを浮かべ広から離れた
「ごめん・・・私、付き合えない」
「・・・」
広は黙って悲しい瞳をして私を見つめる
私は目を逸らさず
「本当ごめん・・・」
軽くお辞儀をして車を降りた
私は・・・緑山くんが好きなんだ・・・
ギュッとする乙女心感出てますか?うーん。まだまだ修行が足りないかな・・・
男心なんて女にはわかりません。お互いが勝手に思い込みスレ違いが起きる事は結構あります。そんな事が少しでも起きないようにほんの少し勇気を出して素直になるといいと思います。ガンバレ恋する乙女!