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その1

恋に臆病になった女性への応援小説・・・・を目指してます(´・ω・`)

しとしと雨が降っている中、傘を持たず私は歩いていた

少し前に彼の住んでいるアパートの階段で転び右膝が擦りむき血が滲み出て、履いていたパンプスのヒールが折れてストッキングも見事に破れてしまった

会社の制服と鞄もびしょ濡れになって、片足しか靴を履かず雨道を歩くなんて・・・

22年間生きてきて、これ程自分が惨めだと思った記憶はない

おかしいなー今日の運勢一番だったのになぁ

私こと大野菜々(おおのななみ)はトボトボと路駐している愛車の所まで戻るとびしょ濡れの鞄の中に手を入れ車の鍵を探す

コケた時に鞄の中身もグチャグチャになり、中々見つからなかったが掌にジャラっという鍵の感覚があたりに探し出す事が出来た

少しホッとしてキーレスでロックを解除してびしょ濡れのまま運転席に乗り込んだ

愛車の三菱ekワゴンのハンドルに片手を置き

「次の休みの日に洗車してあげるから、今は汚れるの許してね」

と独り言を呟くと車に乗るまで我慢していた涙がボロボロ溢れだした


3ヶ月前

同じの会社の営業の彼から告白され、生まれて初めての彼氏が出来た

その時は有頂天になって親友に自慢しまくっていたが

たった今、見事にフラレタ

「別れよう。やっぱりなんか無理みたい」

そう言われ私は何がいけなかったの?直すから、別れるなんて、言わないで!と食い下がったがダメだった

彼の態度が変わった時期は肉体関係を持った頃からである

私は初めてを捧げる事だけに一生懸命になって、彼を楽しませる事が出来なかったからだろうか?

それとも・・・私が太っているからだろうか・・・

私は身長158センチ体重58キロの超ぽっちゃり系である

お願いだからデブって言わないで欲しい・・・

彼に告白された時とさほど体型は変わってないがぶっちゃけ嘘をついていた

嘘と言ってもぽっちゃり系女子なら誰でもあると思うのだが、補正下着を来たり着痩せ服をチョイスしたりして少しでもスタイル良く見せたりお化粧も少しでも小顔に見えるメイクをしていた程度だが・・・

何にしても私は彼にフラレたのだ

あー明日から会社行きたくない・・・もう辞めちゃおうかなー

でも、男にフラレたから辞めるってかっこ悪いなー

膝痛いな・・・

悔しいな・・・本当に好きだったのになぁ

うっうっとひとりで思いっきり泣いて、少し落ち着くと大きく深呼吸して両頬をパチンと叩いて気合いを入れて家に帰った


「おはようございます」

勤めている会社は生活雑貨を卸している中小企業で私は伝票発行をメインとした事務職についていた

毎日、決められて時間に受注伝票を発行し倉庫に届けるのが私の仕事でそこそこやりがいもある

紙の伝票でたまに手を切るのは嫌だけどね

いつものように自分の持ち場に付き仕事をしていると彼が出社してきた事に気がついてしまった

見ない様に意識していたのに無意識に視界の隅で追ってしまう

ああ、情けない・・・もうあんな奴忘れようと決めたのに・・・

私は視線を落とし目の前の仕事をする事にだけに集中した

昼休みになり、少し前までは私が作ったお弁当を彼と一緒に食べていたのだが今日は何も準備していない

何か適当に済ませよう財布だけ持って近くのコンビニへ向かった

チリーン

「いらっしゃいませー」

コンビニのドアが開く音と同時に若い男の店員さんの声が店内に響く

お昼時のコンビニなだけあって店内には3〜4人の客がいた

何か物凄く甘い物と辛い物が食べたい

私は普段手に取らない担々麺のカップラーメンと板チョコを選びレジに向かった

レジは二箇所あり、片方は主婦っぽいお姉さんでもう片方は大学生ぐらいの若いおにいさん

出来れば同性の人の方がいいなと何となくお姉さんのレジに並ぼうとすると若いおにいさんから声をかけられた

「こちらのレジどうぞー」

「あ、はぃ」

ちっと思いながら渋々カップ麺とチョコをレジカウンターに置く

「只今ドーナツの新商品がありますがいかがですか?」

チラリと横に置いてあるドーナツのショーケースを見ると粉砂糖がまぶしてある美味しそうなドーナツが目に止まった

しかし、お昼ゴハンに担々麺、板チョコ、ドーナツは流石にないなと思い断ろうとしたが

「あ、いりませ「俺的にはこの白いドーナツがオススメなんですが」・・・」

私の言葉を遮ってきたレジの店員さんをみると少し茶髪でちょっと眼力が強い男の子がニコっと笑った

「・・・じゃソレ下さい」

一瞬変な空気が流れ耐え切れなくなった私は視線を逸し何故か負けた気がしながらドーナツを買う事になった

ドーナツはおやつにしよう

え?板チョコは・・・非常食?


こんな憂鬱な気分の毎日が数日続き、少し慣れて来た頃

「大野さん、この資料第三倉庫の伝票と照らし合わせてきて」

私は会計の係長に頼まれ第三倉庫に行くと元彼こと石谷広いしたにこうがひとり別件の仕事をしていた

背が高く趣味で社会人バスケをしているだけあって、がっちりした体型にけしてイケメンではないが切れ長い目をした元彼が私に気が付き一瞬手を止めたがすぐに自分の仕事を再開した

そうですよねーフッた女なんか興味ないですよねー

えーえーこちらもあんたなんか興味ねーよばぁーか!!

と脳内で思いっきりを強がってみせたがホントは傷つきまくっていた

早く終わらせてこの場を去ろう

マッハで資料と伝票を照らし合わせていると不明な点が出てきた

しかも、担当石谷・・・

嫌だ、話しかけたくない

係長に報告して後で聞いてもらえば・・・

ダメだ、ここで逃げちゃダメだ

これは仕事、仕事の話

「・・・い、石谷くん」

ペンを持つ手をギュと握り締めて伝票を見ながら元彼の名前を読んだ

二人しかいない倉庫に少しピリっとした空気が漂う

「・・・なに」

小さな声で不機嫌そうな返事が返ってきて私は目頭熱くなり泣きそうになった

そんな嫌そうに返事しなくても・・・く、我慢しろ私!

「この伝票、数字がおかしいんだけど何かあった?」

声が震えるのを一生懸命押さえ視線をテーブルの伝票に向けたまま一枚の伝票を広に差し出すと寄ってきて伝票を手に取る

「これ返品伝票先月末に上げてるやつ、合算で」

「そう、わかった」

出来るだけの元彼を見ない様に伝票を受け取り自分の仕事に戻ると意外にも広はその場を動かず背中に視線を感じた

振り向いて何?って聞くべきだろうか

私が変な汗をかいていると広はため息を吐いて倉庫を出ていった

なんで私がため息つかれなきゃいけないのよー・・・

ああ、なんか情けない・・・

凹んだ私は家でひとり飲み会をしてストレス発散する事にした

仕事が終わるとアルコールを買って帰ろう思い近くのコンビニに寄るといつかのドーナツセールス?の若い男の店員さんが商品出しをしていた

「いらっしゃいませー」

客の気配を感じて商品出ししながらを視線を変えず挨拶をしている若い男の店員の場所が今から買おうとしていたワイン売り場だったので私はどうしようか少し悩んだ

暫く店内をウロウロしてたら移動するかな?

それともワイン取って貰おうかな・・・

チラチラと若い男の店員を見ているとふと店員さんが視線をあげた瞬間目が合ってしまった

私はすぐに視線を逸らしたが店員は何かを察したようで

「あ、何かお取りしましょうか??」

と自分が立っている売り場を見回す

よく見るとワインの棚と隣接して薬棚がありその中にサニタリー用品やコンドームといった売り場だったのでその事にお互い同時に気が付き気まずい空気が漂う

「えーと・・・」

「はっ!ワイン!ワイン下さい!そこの赤ワイン」

我に返り慌ててワインを取ってもらうと若い男の店員はぷっと笑いながらワインを手に取る

「これも美味しいですが、こっちの白ワインの方個人的にオススメですよーそこのジャーキーつまみにしたら間違いないです」

屈託のない笑顔で薦めてくれる若い男の店員につられて頬が緩んでしまった

じゃー買っちゃおっかな

この店員さんセールス上手いなーと思いながら、白ワインのスモールボトルとジャーキーをカゴに入れた

「ありがとうございます、今度感想聞かせて下さい」

「あ、はい」

会計を済ませ笑顔で商品を入れたレジ袋を渡す若い男の店員につい笑顔で答えてしまった

私は久しぶりに笑った気がする・・・・

その日の晩、好きなDVDを観て薦められた白ワインにジャーキー、おつまみを食べて久しぶりに熟睡できた

次の日の朝一番に思った事


やっぱり、私変わりたい


次の日から何か少しフッきれた気分になり、久しぶりに鏡で自分の顔をまじまじと眺める

少し乾燥して荒れた肌、目の下にクマちゃんがいるしタプタプした肉が顔をデカくし鼻を低くしている

髪も黒くボサボサしていて、あまり艶もない

「私、こんなんだったっけ?」

自分で自分の顔を忘れていた

とりあえずひとつひとつ、いま自分の出来る事から変えていこう

いつもはクシでとかすだけだった髪を軽く濡らし丁寧にドライヤーでブローをかけていく

顔の保湿もいつもより念入りにして、久々に眉毛を整えた

今日の仕事帰りにドラッグストアに寄って、整髪用品と洗い流さないトリートメントとパックと新しいに口紅を買って帰ろう

あと、全身が見える姿見鏡が欲しいな

少しずつでいい、前向きに何かやって行こう

週末、私は久しぶりにひとりで洋服買いに出かけた

偶然見つけた雑貨屋で小さな青い硝子玉のイヤリングを見つけ一目惚れした

私はコレが好き

値段もさほど高い物ではなかったので衝動買いをしてさっそく耳につける

好きなもの身に着けていると気分も上がる

ボーナス近いし洋服も上から下までコーデ買いしちゃおうかなー

自分好みの洋服が沢山置いてある店を発見して嬉しくなった

彼と別れなかったらこの店も知らなかったかも

ウキウキといざ服を試着するとどうもしっくりしなかった

うむむ、やっぱりダイエットは必須事項のようだ

お店の店員さんとも仲良くなり、今回は体型カバー出来る服一着で我慢する事となった

この日から私はストレッチをすることにした

怠けきった身体をまずほぐす事から始めようと思いネットで『ダイエット ストレッチ』で検索

食事も甘い物肉に偏らず野菜魚を取れるよう積極的に自炊する様にして、こまめに水分補給を心がけた

すると見る見る肌の調子が良くなり、便秘も解消

化粧ノリ良いのでメイクが楽しい


「その唇の色、かわいいですね」

「え?」

ある日の仕事帰りにいつものコンビニに寄るとあの若い男の店員さんがレジにいた

すっかりお気に入りの白ワインとジャーキーとその他おつまみを精算してもらおうとしていたのに、不意に唇を褒められた

商品が入ったレジ袋を受け取りながら

「あ、どうも」

とお礼を言うと若い男の店員さんは周りに人がいない事を確認して少し小声で「今度一緒に飲みませんか?」と誘ってきた

私は驚きキョトンとして返事が出来ないでいると若い男の店員さんは何やら紙に書いて私に手渡した

「俺のアドレスです、もし良かったら連絡下さい」

思いもよらないお誘いに私は嬉しくでその日一日のニヤニヤしっぱなしだ

これはあの噂のナンパというやつか!?

最近日々の努力もあってほんの少しではあるが痩せて女子力も上がっていると思っていたが・・・心浮かれて家に帰りもらったメモを見るとしっかりした字で『緑山毅(みどりやまたけし)』とアドレスが書いてある

スマホに登録しちゃおっかなーと、真っ黒なスマホ画面を見ると自分の顔が薄らと映つり手を止めた

・・・・・これが私

きっと冷やかしだろう

あんな若い男の子が私みたいなデブ・・・・・

姿見鏡で自分を眺め、ため息が漏れる

もっとモデルみたいに細かったら、もっと美人だったら・・・

きっとフラれる事も臆病になる事もなかったのにな

私はもらったアドレスをジュエリーケースの中にしまい半身浴をしようとお風呂に向かった


それから一時はコンビニに行かなかった

なんだか行きずらいというか・・・・あのお気に入りのワインを飲みたかったら他の所にある同じコンビニに行けば買うことが出来るし、お昼ご飯だって最近はまた自分でお弁当を作っているので困ることはない

なんだか後ろめたい気分も数日すると薄らいでいた

何もない、ただアドレスを貰っただけの仲なのだから気にする事はない・・・

仕事が終わり帰る準備をして更衣室から出ようとした時、休憩所から数人の男の声が聞こえた

休憩所は喫煙所も兼ねており自動販売機と小さなカウンターでよく営業たちが煙草を吸いながら休憩している所だ

「えーお前、大野と別れてたのかよー!やっぱなー」

自分の名前が聞こえ帰ろうとしていた足をピタリと止めた

休憩所から死角となる場所だったのできっと彼らには私の姿は見えてない

「先輩なんで別れたんっすか??結構本気だったじゃないですかー」

今年新人で入ってきた一番若手の営業の声が聞こえ私はグッとカバンを持つ手に力が入る

告白してきたのは広からだった

私は自分が太っているのを自覚していたので異性からあまり女性としての魅力がないのだとわかっていた

それなりに親しみやすいキャラを作ってそれなりに過ごしてきた

そんな私に何度も声を掛けてきて、会社の飲み会後、家まで送ってくれてメルアド交換して・・・・

最初は友達ポジションなんだと自分に言い聞かせていたがその事を広に言うと

「違うよ、俺の彼女ポジションになって貰いたいんだけど?」

あまりに予想外の返事に顔を赤くし頷いた私

あの時が一番幸せだった


「あーまぁね、なんとなく」

声だけでわかる

私の事はどうでもいいっと言われているようだ

これ以上聞いてても自分が傷つくだけだとわかっている

ゆっくり彼らにバレないように帰ろうとした時、もう一人の声おそらく広と同期の相沢の声が聞こえてしまった

「やっぱあれだろ?セックスがキモかったんだろ?」

・・・・・・・え

私は頭の中が真っ白になり固まる

キモい?気持ち悪い?

「相沢先輩ーそこ直球すぎっすよーそこぼかすトコロー」

「んだよー、別にいいよなぁ?石谷」

「・・・・・」

「ほら付き合ったのあいつ初めてだって言ってたじゃん、アッチ良くなかったんだろ?」

「・・・・べつに」

「もー相沢先輩、まだ下ネタ早すぎっすよ!」

ほとんど聞こえない広の声に対し煩過ぎる相沢と新人

そうだよね・・・・気持ち悪いよね・・・・・

女としてのプライドなんてそんなに高くないと思っていたが私は震える程悔しかった

「まースタイル良かったら多少目の保養で我慢できるけど、大野じゃーなー」

ぎりっと歯を食いしばりゆっくりその場を離れ車に乗る

こんな私だって・・・・こんな私だって声かけてくれる人いるんだから!!

ほぼ無意識で緑山毅が働くコンビニに向かいお店に入ると彼の姿はなかった

今日は休みだったのかな・・・・

荒んだ心を癒そうとしてきた私はがっかりして白ワインを手にとりレジに向かうとレジ奥のスタッフルームで彼を見つけた

あ、いるんじゃん

少し表情を明るくした瞬間、彼の背中を両手で押して笑顔でじゃれている若く可愛い女の子の店員がいた

「もー広ってばーいっつもそんな事して」

コロコロと表情が変わる彼女は明るめに染めたポニーテールにした髪を揺らしながら楽しそうに笑う

スタイルがよく唇がとても可愛い・・・・最近私が使っている口紅の色と似ていた

彼はそんな彼女の脇をちょこっとくすぐり返して笑っている

私がこんなに黒くドロドロした気持ちなのになんでそんな笑っているの・・・・・

嫉妬のような憎悪のようなよく解らない感情に自分が溺れていく

ああ。私はダメな人間だ

持っていた白ワインをそっと棚に戻しいつもの赤ワインを手にとりレジに持っていく

「いらっしゃ・・・いませ」

今頃になって私の存在に気が付いた若い男の店員さんは少し驚いてレジカウンターに置いてある商品を清算した

私はほぼ無表情でその様子を眺め

「あと、チョコナッツドーナツをひとつ下さい」

「・・・はい」

必要以上の言葉はいらない

無駄な笑顔もいらない

私は機嫌が悪い

そんなオーラを放っている私に店員は少し表情を曇らせる

最後、レジ袋を受け取ろうとすると彼はレジ袋を離さなかった

「・・・・・」

「・・・・・」

私は彼を見ないでレジを受け取ろうと少し強く引っ張ると店員はレジ袋から手を離した

そのまま無表情で背後に感じる視線を無視してコンビニを出て行く

これでいい、あの店員とは何もないもの

家に帰ると何もする気がしなくなっていた

メイクも落とすのがめんどくさい

ごはん作るのがめんどくさい

お風呂入るのがめんどくさい

洗濯するのがめんどくさい

自分自身が一番めんどくさい

ベットに倒れ込みゴロゴロしているとテーブルの上に置きっぱなしにしていた先日雑貨屋で見つけたイヤリングが目につく

寝転んだままイヤリングに手を伸ばし「可愛いな・・・」と呟くとジュエリーケースにイヤリングを直し中に入っていた緑山毅のメモを取ってゴミ箱に捨てた

私にはコレは必要ない

無気力な目を閉じて現実から逃げるように眠りについた

少し、ほんの少しだけ色を取り戻しつつあった私の世界はまた灰色に戻ってしまった

それでも少しずつ今出来る事を少しづつして世界の色を取り戻そうとしている


朝起きて一杯の白湯を飲み顔を洗い保湿する

髪も潤いを保つため洗い流さないトリートメントでコーティングしてブロー

軽くストレッチをして血行をよくするとお昼のお弁当を作り野菜中心の朝食を食べる

化粧して制服を着て姿見鏡で全身の自分を眺め

「・・・・よし」

今日の仕事帰りにまた違う口紅を買いに行こう

月末の時期、仕事量がいつもの1.5倍ぐらいに膨れ上がる事がある

その時、いかに効率よく仕事をこなし早く仕上げれるか

私はこの時期をゲーム感覚で楽しんでいた

どうせしなきゃいけない一番辛い仕事を楽しむ事が出来る私はやはり基本ポジティブ思考なんだと思う

どんなに自分が惨めだと思ってもそれを受け入れ流す事が出来るのも、そのおかげなのだろうな

PC室でカタカタパソコンに伝票の文字を入力しつつ、時計と睨めっこしながら次の伝票発行のタイミングを計っているとガチャリと扉が開く音がした

この時期この時間帯に来るのは大体決まって営業が滑り込みで売上計上したい伝票の入力依頼だとわかっている私は仕事が増えるのを億劫に思いながら振り返ると広がそこに立っていた

「これお願いしたいんだけど」

手には案の定追加の伝票リスト

私はわざとらしく迷惑な顔をして

「そこに置いておいて下さい」

と少しぶっきらぼうに言ってパソコンに視線を戻した

今、私は忙しいのだ

コイツに構ってられない動揺なんてしてられない

「・・・・なんで何も言わないんだよ・・・・」

追加の伝票を近くのデスクに置いて広は小さく呟いた

その言葉の意味が今いち理解出来なくて入力していた手を止める

私、いまそこに置いといてって口から言葉を発したよね?

何か言ってるよね?

少し首を傾げると時計の針が次の伝票発行の時間になっている事に気が付いた

急いで次の伝票発行の準備をしようと立ち上がり入り口付近にまだいる広をちらりと見るとその表情は怒っているような顔に見えた

なんで怒っているんだろう?さっき不愛想に対応したから?

わからない・・・・でも今私が伝票発行しなくてはいけないのはわかる

広を無視して伝票を発行するプリンタの所に向かおうとすると突然、腕を力強く引っ張られ体を壁に押し付けられた

目の前に広の顔が近づき唇に何かが当たる

何が起こっているのだろう

なんで・・・・・キスしてくるのだろう

驚きのあまりに固まっている私からゆっくり唇を離し広は部屋を出て行った

なんで・・・・・

結局その日の仕事は散々だった

集中力のない私は文字打ち間違えるわ、伝票印刷ずれまくるは仕事がどんどん遅くなり結局口紅を買いに行けなかった

どれだけ考えても考えても考えても・・・・あのキスの意味がわからない

私は広にフラれた

別れたくないって言ってもダメだった

気持ち悪いとすら思われていると思っていた

なのになんで「何もいわないんだよ」って・・・・・それでも貴方が好きって追っかけてきて欲しかったのか?

いや、でもキモイって・・・・


おおのさん、大野さん

「大野さん!聞いてますか??」

「え?あ、はい!」

会議に書記として参加していた私はここ数日かなりボーっとしていた

役職の方々があーだこーだと会議している内容をパソコンに入力していると最後に社長が

「これでみんなに何か買って配ってくれ」

と、私に万札を渡した

たまに社長の気分でスイーツを奢ってくれるのだ

そういう時は大抵コンビニにいってスイーツを買い集め皆に配るのも何故か私の役目になりつつあった

コンビニ行きたくない・・・・でも、別の所に行くと時間がかかるし誰か他の子に頼もうかと思ったが予想以上にみんな忙しそう

ちなみに私の忙しいのは昨日がピークだった

ため息をついて諦めてコンビニに向かうと他に誰もお客がいない店内にあまり会いたくない店員さんがレジにいた

いつも来ない時間帯に私が現れたので目を少し丸くしてこっちを見ている

私はそんな彼を見ないようにカゴをもってスイーツ売り場に行き、ゼリーやプリン、ケーキや大福、どら焼きシュークリーム・・・・はたから見たら私どれだけ食いしん坊に見えるんだろう・・・・

一通りカゴに入れて最後に棚の上の方にあるマドレーヌを取ろうとした時胸ポケットに入れていたペンがカゴにひっかかり抜け落ちてしまった

とりあえずマドレーヌを2つ取ってカゴに入れペンを拾うとすると横からすっと手が伸びてペンを奪われる

その手の持ち主を大体予想しながら顔をあげると若い男の店員だった

「どうもありがとう」

拾ってくれたと思い、返してと手を出すがその手のひらに一向にペンが置かれない

「これ、俺が拾ったんです」

「・・・・・・で?」

「だから俺もモノです」

「は?」

男の店員は不敵な笑みを浮かべると私のペンを自分の胸ポケットにさした

私はなぜ今落としただけのペンを奪われないといけないのか抗議の目を向け

「それは今、私が落としたペン。返して下さい」

それほど大事なペンではなく、会社で事務用品として支給されているものなので正直どうでもいいのだか、このまま理不尽にコイツにペンをとられるのが何故か許せなかった

「こんな方法は使いたくなかったのですが、名前と携帯アドレス教えてくれたら返します」

脅しではないか!おい!!

私は顔を引き攣らせ身を少し引いた

「お、教える訳ないじゃない・・・・」

「そうですか。じゃあこのペンは俺の物です」

「違う、私のペンよ」

「じゃ、証拠は?名前書いてます?あー会社名は書いているかな」

「~っもういい」

だんだんと腹が立ってきたので私は若い男の店員をその場に置いてレジにむかうと誰もいない・・・・

「今、俺だけです」

背後から聞こえる声にぐぐっと思いながらレジカウンターにカゴを置く

「早く清算して」

「お客様、少々お待ちください。今ペンの持ち主を探している所です」

くすくすと笑いながらゆっくりレジに入る男の店員もとい緑山はゆっくり商品をレジに通す

早くしろと言ったのに・・・・・

「なんで連絡くれないんですか?」

ゆっくりではあるが手を動かしながら聞いてきた声に私は返事をしなかった

「やっぱ、コンビニでバイトしている学生なんか眼中にないって感じですか?」

そんな事一度も思ったことがない

逆にバイトなのに真面目によく働くなと感心した事はあったが

視線を逸らしたまま私は小声で

「そんな事・・・・」

「じゃあ、連絡下さい」

そういわれても、もうアドレスを書いた紙は捨ててしまったし、ただの冷やかしかもしれないし・・・・

黙り込んでいると

「3820円です」

私は万札を差し出す

「あと名刺下さい」

名刺・・・確かに持っているがなぜあたかもこの場で名刺を渡すのが普通の流れという感じで言っているのだ?まるでポイントカードの扱いだ

「な、なんで」

「じゃ、お釣りとレシートあげません」

おい、それはダメだろう?

私はまた顔を引き攣らせ思わず緑山を見るとその表情はいたって真面目で・・・・本当にお釣りとレシート貰えなかったら困る

「そんなの事したらクビになるわよ・・・・」

「強硬手段です」

「・・・・・」

なんだかなー

冷静に考えると少し面白い悪戯を思いついた

私は自分の胸ポケットから名刺ケースを取り出し一枚名刺をレジカウンターに伏せて置く

「これでいい?」

彼はパっと表情が明るくなり小さく微笑んで「はい」と言って名刺を受け取りお釣りとレシートを渡した

私は少し俯き笑いをこらえながら沢山のスイーツが入ったレジ袋を受け取りコンビニを出た

彼に渡した名刺はハローキティのおもちゃの名刺である

先日甥っ子からもらって可愛いからと名刺入れに入れていたのだ

なんだか勝った気がして優越感に浸りながら会社に戻った

リアル恋愛って本当に難しい。小説の中の人間はみんな素直に自分の感情を表せるけど、現実は無理ですよねーうんうん。

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