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夜行列車/寝台に棲む猫  作者: 大岩幽霊
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彷徨するホバ

【彷徨するホバ】

「はっ、はっ、はっ…」


拓郎とガト、二人は走った。次の車両も、そのまた次の車両も…

しかしただ薄暗い寝台車両が続くだけで、二股で切り替え車両部分にいつ到着するのか全く分からない。


「早くこの車両から乗り換えなくては…」


拓郎は不安と息苦しさで胸が締め付けられ涙が溢れてきた。しかし足は止められない。駄目かも知れないと思いながらも帰りたい一心でひたすらに走った。

ガトも走った。拓郎を無事にあちらの世界に送り届けなければならない。

そしてもう幾つ目の車両なのか分からなくなった時だった。ドアを開けて飛び込むと通路奥の突き当たりドア前になにやら揺らめくものがいた。

拓郎とガトが足を緩めて目を凝らして見ると人の輪郭をした黒く揺れる影のようである。


「ガト、あれは何?」


「無視しろ!」


影は手のようなものを拓郎たちに伸ばしている。

拓郎は足が徐々にゆっくりになってゆく。


「拓郎、絶対に足を止めては駄目だ!」


近づいてきて徐々にその輪郭が見えてくる。その影の目にあたるの部分は窪んでおり、口にあたる場所は大きく開いていた。

それを見た拓郎は自分の足はどんどん重くなってゆくのを感じた。


「拓郎、見ちゃあ駄目だ!ドアだけを見ろ!」


拓郎の身体中に恐ろしくて鳥肌がたった。足を一歩前に出すのに力がいる。拓郎は歯を食いしばった

ガトは拓郎の周りをぐるぐる周りながら声を掛けた。


「あれはホバと言って、三途の川も渡れず元の世界にも戻れないさ迷う魂だ!誰かの体に取りついて元の世界に戻ろうとしたり三途の川を渡ろうとするんだ。でも決して何処にも辿り着くことはできない。見ろ!逆に奴に取りつかれた者は二度と何処へも行けない。永久に奴の周りでさ迷い続けることになるんだ!」


「うぅぅ…でも…手や足が、…鉄のように…重たいぃ…」


ホバは拓郎の至近距離まで近づくと影から流れ出る何本もの煙が拓郎の体に伸びていることがはっきり見える。歯を食いしばって前に進もうとする拓郎の手や脚や体に煙が縄のように絡らまって止めようとする。ガトは煙の間を飛び回って断ちきってゆくが煙は直ぐに元通りになる。

拓郎はやっとのことでドアノブを握ったものの煙に腕を引っ張られてドアを開くことができない。

煙の帯は太くなっていき、もうガトがいくら断ち切ろうとしても断ちきることはできなくなった

次第に影の口らしきものは大きくなり、やがてホバの全身が人の輪郭から崩れ大きな袋のようになりながら拓郎を呑み込もうとしてきた。


「ガト!助けて!」


「諦めるな!」


「あぁぁ…」


「間に合わない!拓郎!」


拓郎もガトも目を瞑った。いよいよ拓郎の頭が影の口から出る煙に呑み込まれそうになったのだ。だがその瞬間、数匹の猫が拓郎の頭と影の口の間に割って飛び込んできて風が起こった。

それによって影の口から出ていた煙の形が壊れた。

続けて数匹の猫が拓郎の脚に絡みついた煙を断ちきった。影は大きく揺らめき煙が宙に広がってゆく。

ガトは目を開けてその状況を見た。


「あっ!」


そして後ろを振り返った。そこには猫男と無数の猫たちが喉を鳴らしながら影を睨んでいた。


「親方!」


更に最前列にいる猫から次々に影に向かって飛んでいく。すると影の姿はどんどん崩れていった。急に拓郎の体が軽くなった。拓郎は目を開けたが周りを見ずにドアノブを引いた。


「拓郎!今だっ!」


その声に押されて拓郎はその車両から出た。続けてガトも飛び出て、直ぐにドアが閉まった。

その時になって拓郎は初めてドアのガラス越しに中の様子を見た。猫が影に向かって飛び込む度に人間の形が崩れゆき殆んど煙だけに変わっていく。

拓郎は通路の先にいる猫男に目を移した。猫男は例の如く猫顔をして笑っていた。


「有り難う!」


猫男に拓郎の声は届かなかったが、拓郎の口の動きで首を縦に頷いた。


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