12 アマーリエさんの許可をいただく
ながらく無断で連載を中断して、ほんとうに申し訳有りませんでした。
利き腕をいためてしまい、仕事で最小限しか使えなくなっていました。
これから無理せず、ゆっくりと更新していきます。
改めてよろしくお願いいたします。
「なんだって、リナちゃん!! あんた、冒険者になりたいだって!?」
アマーリエさんが大音量で叫び、リューイさんの前に仁王立ちしている。目がつりあがって、般若も真っ青な形相だ。
あたしもリューイさんもあまりの迫力と恐ろしさに半歩後ろに下がったほどだ。
「いつまでも帰ってこないし、やっと帰ってきたと思ったら、こんな小さな女の子を冒険者にしようってのかい!
どんな甘い言葉でそそのかしたんだい! 言ったはずだよ、街中にあたしの目が光ってると思いなって。覚悟はできてるんだろうねえぇぇ」
地獄の底から響いてくるようなノンブレスボイスに、リューイさんは本日四度目のフリーズ。あたしもフリーズしたいけど、そうもいかない。
自活への道を一歩踏み出さないと。そのためにリューイさんが必要なのだ。
「アマーリエさん、お願いです、聞いて下さい!」
あたしは一歩前にでた。両手を組んで胸にあて、小首をかしげて上目使いでアマーリエさんを見上げる。
小さな女の子と誤解されてるの、最大限に利用するんだ。あざとくて嫌な方法だけど……がんばれ、あたし!
成人女子の自尊心はちょっと横に捨てておくのだ。ありがたいことに、金の小枝亭にはあたし達しかいないしな、
「……!」
アマーリエさんは言葉につまって、あたしを見おろしている。
「どうか聞いて下さい。リューイさん、あたしが冒険者になるの、止めてくれたんです。
ですけど、あたしは両親ともはぐれてしまった寄る辺ない身の上です。路銀も底をつき、両親を探す旅を続けることもできないんです。
親切なアマーリエさんと旦那さんのおかげで昨晩は暖かい寝床で夜を過ごせました。とても嬉しかったです。でも、これ以上迷惑をかけるのは……。だから冒険者になって、自分の力で生活するお金を稼ぎたいんです」
ちょっと目をうるうるさせてみる。ごめんなさいと、アマーリエさんに内心で土下座しながら芝居を続ける。
ああ、アラサー直前で異世界に跳ばされて黒歴史を人生に刻むなんて、ほんと思いもしなかったよ。
「……リナちゃん・・・・・・」
「冒険者登録できる12歳にはなってるんですよ。リューイさんにあたしを鍛えてくださいって、お願いしたんです。自分の力で自分を守って、はぐれてしまった両親を探したいんです」
嘘と真実、どっちも混ざってるけど気持ちは本物だ。届け、あたしの自立心!
「はああ」
アマーリエさんは大きなため息をついた。背中に背負っていた怒気が消え、彼女の存在が心なしか小さくなったように感じる。
「……分かったよ、リナちゃん。あんたの独立精神はたいしたもんだ。うちで働いて路銀を貯めたらいいと思ったんだがね。女の子の独り旅は危ないから、護身術も教えてとかね。いろいろ考えてたんだけどさ」
アマーリエさん、人が好すぎます。昨日出会ったばかりのあたしの未来を、そこまで考えてくれていたなんて。
「アマーリエさん、ありがとうございます」
そしてごめんなさい、嘘ばかりついて、ほんとにごめんなさい。今度はほんとに涙がでてきた。ありがたさと、ごめんなさいの涙が。
「リナちゃんの事は俺に任せてください。俺がパーティーを組んで責任を持って教えますから」
フリーズ解凍したらしいリューイさんが、あたしの肩を抱きかかえて胸をはる。
その手をアマーリエさんとあたしが同時に払いのけたのは当然のこと。
「気安く女の子に触るんじゃないよ。これだから若い冒険者は!」
「扱いひどくないっすか、豪腕の姐さん」
「リナちゃんはあたしの娘みたいなもんだ。それと駆け出しのくせに、気安く豪腕なんて余分じゃない」
「駆け出しって、俺はもう中級の資格持ってますよ」
「お黙り、まだまだ青いんだよ」
リューイさんとアマーリエさんの掛け合い漫才(?)が続く中、厨房の奥からアマーリエさんの旦那さんがちょいちょいとあたしを呼んでいる。
なんだろうと、そっと近寄っていくと小皿に盛られたクッキーと温かな香草茶を渡された。
厨房の椅子に座れと手振りで示され、その視示に従う。
旦那さんはにやりと笑って、わしわしとあたしの頭を撫でてくれた。
「あったかいです」
香草茶の温もりと、旦那さんの頭を撫でる無骨な手の温もりと。
どっちの温もりも、あたしの心を優しく優しく包んでくれた。