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異世界に跳ばされた  作者: リィナ
10/12

10 でぃふぁれんとじぱんぐ

長らくお待たせしました。10話目の更新です。

恋愛部門エントリーとか、詐欺なんじゃないかと自分でも思ってます。

 どうあってもあたしをローティーン認定するリューイさんに、あたしの中の何かが切れた。

自分のショルダーバックから財布をだし、写真つきの社員証を見せ付ける。

リューイさんは目を見開き、あたしと社員証の写真を見比べる。

確かにあたしは童顔で、一般的日本人より小柄だけどな。

OLの戦闘服「スーツ」を身に纏ったら、成人扱いされてきたんだからね。


『岡野隆一さん、私の話を聞いてらっしゃいますか? 私は社会人で、成人している女性です。貴方に嘘などついておりませんし、嘘をつく必要性も感じておりませんが』


居住まいをただし背筋をピンとさせてリューイさんの目を見すえ、彼の名前をことさら丁寧に日本の姓名で呼んでみる。

仕事モードでモンスタークレーマーに対応する時のあたしの癖で、その時の表情、雰囲気、態度、非の打ち所がないほど慇懃らしい。

だが、会社の後輩女子一同は


「お局さまより百万倍こえーよ!」


と口をそろえて青ざめ、冷や汗を流すほど怖い…らしい。

なんでも背後から滲み出るオーラが、黒くて冷たくて澱んでもやもやしているそうだ。

どんなだよって、小一時間ほど後輩女子たちを問い詰めてみたい。

もしあたしの日本に帰ることができたら、やってみたいことの一つである。


 問題の御仁、岡野隆一氏ことリューイさんは、完全にフリーズしている。

漫画でよくあるような、冷や汗だらだら状態といったら解ってもらえるだろうか?

さきほど接客してくれた店員さんが、料理の皿を持ってきた。

まずあたしの前に皿を置き、続いてリューイさんの前に置く。

木製の皿には香辛料をまぶして蒸し焼きにした白身の魚に、野菜ベースのソースをかけた料理が盛り付けられていた。

オレンジや黄色の細かく刻まれた野菜のソースがアクセントの、目も鼻も刺激して食欲をそそる一品だ。

カトラリーと籠に盛った黒パンと、チーズを薄く切ったもの、果実を搾ったジュースを丁寧にセットしていく。

ちらりとリューイさんを眺め、あたしには最上級の笑顔でこういった。


「ごゆっくりどうぞ」


どもども、と軽く会釈をする。気持ちいいほどの接客のプロフェッショナルだね。

こんな美味しそうな料理は、心ゆくまで喜んで楽しませていただくよ。

異世界二日目、日本の十円玉しか使えないあたしとしては、貴重な一食なんだから。

それも極上に近い料理ときてるのだからね。


フリーズ中のリューイさんはどうするかって? 

そんなの、ほっとくに決まってる。

冷めないうちに食べなきゃ、料理とお店に失礼だしね。


『いただきま~す♪』


美味しいものを前にすると、人間は自然と心がはずむ。それは私も同じなわけだ。

蒸した魚の切り身をナイフで切り分け、野菜のソースを絡めて口にいれる。

まず香辛料の香りが鼻腔ではじけ、野菜ソースの酸味と甘味が舌を心地よく刺激する。

最後に白身魚のほのかな甘味と舌触りが加わり、完璧な調和を奏でる。


『しあわせ』


金の小枝亭の素朴な料理もとっても美味しかったけど、このお店の料理はさらにこたえられない。

跳ばされた異世界のお料理は大当たりみたいだ。

二口目、三口目と、その豊かな味を堪能し、合間に黒パンとチーズを楽しんだ。


 あたしが料理の大半を食べ終えたころ、フリーズリューイさんが解凍したようだ。

ギギィって音がしそうな感じで首を動かし、視線を彷徨わせ、最終的には目前の料理に目を留めた。


『ええと、あの、そのですね。印旛さん、こちらの料理は美味しいれひょう? お気に召しましたれしょうひゃ?』



…カンデ~ル。


違う。日本語、かんでる!

それも久しぶりに使用してるであろう丁寧語、かんでるよ、リューイさん!

そんなに仕事モードのあたしは怖かったのかい? 

リューイさん、冒険者やって生活してるなら、普段モンスター退治とかしてるんじゃ・・・あたしはそれ以上ってことなのかい?

それはそれで、ローティーン扱いよりくるものがあるんだけどな。


「ええ、とっても美味しいです。…その、私も言い過ぎました。ごめんなさい。だから、敬語はやめてください、印旛じゃなくリナと呼んでください、ね? せっかくのお料理、冷めちゃいますよ」


ひきつり気味の笑顔を浮かべて、なるべく優しげに料理を薦めた。


「……ひゃい」


まだかんでるよ、リューイさん。けど、フォークとナイフを持って食べ始めたからよしとしようか。



 うーむ、いかんいかん。

聞きたいことは山ほどあるから、リューイさんを怯えさせてはいかんな。

ちらちらとあたしの顔色を伺いつつ、魚料理を食べてるリューイさん。あたしは、黒パンにチーズをはさんでお相伴中。


『リューイさん、あなたが暮らしてた日本は西暦何年ですか? それとその当時の元号を教えていただけますか?』


元号が同じなら、リューイさんとあたしの住んでた日本は、同じ確立が高いのではなかろうか。

だから真っ先にこの質問をぶつけてみた。

彼は眉間に皺を寄せ、しばし考え込んだ。


『俺が帝国の国境地帯に跳ばされたのが、今から五年ほど前でね。星暦1988年、当時の日本の元号は…天成20年だったかな?』


やっぱりね。ビンゴみたいだ。

あたしの脳裏に彼の話す『星暦』と『天成』の文字が浮かんでくる。

きっと、あたしの日本の漢字に自動翻訳されたんだと思う。

あたしの故郷の日本と、リューイさんの故郷の日本は、似てるけど違う日本なのだろう。


『リューイさん、あたしは西暦201×年の日本、平成2×年の日本から跳ばされてきたんです』


メモ帖に「西暦」と「平成」の漢字を書いて、リューイさんに渡した。


『あたしと、リューイさんの日本は、異なる日本みたいです』


リューイさんが本日二度目のフリーズを披露したのは、いうまでもない。





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