20.保護
冬の気配が街を包み始めたある日
私は街に1人で佇んでいた
婚約騒動の件が片付いたものの
事後処理や、屋敷に押し寄せる噂、他の政略結婚の伺い、他貴族の悪意ある視線
図書塔でアレクシス様にお礼を言う時間が取れないほどの忙しさだった
そして、そのすべてが、私の心を消耗させる
結果、それら全てに逃げ出したくて、衝動的に家を飛び出してしまった
夕闇の街をあてもなく歩く
「……私は、ただ静かに暮らしたいだけなのに」
思わず小さなため息を一つ付いた
次の瞬間、穏やかだが鋭い声が聞こえた
「外の世界は、レティシアに優しくありません」
振り返ると、そこにはアレクシス様が立っていた
何故ここに?
――お礼をしなければ
屋敷に連れ戻される?
――久しぶりにアレクシス様と会った
ここから離れた方が
――なんだかホッとする
色々な考えが頭の中を駆け巡る中、アレクシス様と視線が交わる
初めての会った時から、彼のアイスブルーの瞳は、私を逃さない力があった
侯爵は淡々と言葉を紡ぐ
「貴女に不利益をもたらす者は多い、
無駄に心を消耗する前に、私の屋敷で貴方を保護したいのですが」
私はは驚きの声を上げる
頭で考えていた事が全部吹っ飛ぶくらいに突拍子もない事を言われた
「え、えっと……ほご?でも、そんなこと……」
困惑している私にアレクシス様は真剣な顔で言う
「名目は……そうですね
社会学習の為に私の家で侍女をしていると言う事にしましょう
安心してください
貴方の名節を汚すような真似は一切しないとレティシアに誓います」
私に……誓う?
そこは神にでは?
などと現実逃避も間近な事を考えてしまっていると
「レティシアが嫌ならば無理にとは言いません、拒否してください」
わたしに選択肢を与えてくれている
でも、その言葉は形式上のものに過ぎない
アレクシス様の表情は確信している
私の心を見透かしているかの様に
「……おねがいします」
アレクシス様の存在にどこか安堵している自分がいる
だからなのか、自然と頷いてしまった
そうだ、婚約騒動の件でのお礼を言わなくては
「あの、アレクシス様、グリムヴァルト様の件、尽力してくださってありがとうございます
もっと早く言うべきだったのですが、時間が取れなくて、でも直接言いたかったので
少し遅くなりましたが、ありがとうございます」
そう言って頭を下げる
「頭を上げて下さい、礼など必要ありませんよ
私が好きでした事ですから
私も、もう少し早くレティシアに会おうと思っていたのですが少々手間取りまして」
アレクシス様は優しく言葉を掛ける
話しながら、いつの間にか馬車まで先導されていた様で、それに乗って屋敷に帰って来た
屋敷に帰りお父様にこの話をすると、この提案に二つ返事で了承した
圧力をかけられた時にアレクシス様が色々助けてくれ、事後処理にも協力してくれたと、アレクシス様の事を信頼しているみたいだった
こうして、私はアレクシス様の屋敷に迎え入れられた
外界の騒音も、嫉妬も、危険も、すべて門の外に置かれる
アレクシス様は静かに言った
「ここでは、貴女を守ります
余計な心配は要りません」
私は小さく微笑む
まだ心の半分は不安で満ちている
だが、思う
――ここでなら、私は安心して息ができる
アレクシス様は、私の不安を理解し、 無理に歩ませることも、強制することもない
ただ、静かに、そばにいる
その日から、私の世界は変わった
外部からの圧力は遮断され、心の平穏を保てる安全な空間に私はいる
アレクシスは何に少々手間取っていたんですかねぇ




