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策略家の彼とポッチャリな私〜重い愛を乗せて〜  作者: 紫煙 くゆり


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10/42

10.ルーヴェンシュタイン様と呼べなくなる日(アレクシス目線)

図書塔の石造りの回廊に、午後の光が静かに差し込んでいた


レティシアはその光から逃げるように視線を伏せ、胸元で指を絡めている


「……ルーヴェンシュタイン様」


その呼び名にわずかに目を細める


「はい、レティシア

いかがなさいましたか」


この感情を悟られぬよう慎重に応える


「この間お貸し頂いた本についてなのですが……」


レティシアの好みを少しずつ探り、珍しい本を取り寄せては、時折そっと薦めている


「ああ、あの本ですか?返して頂くのはいつでも構いませんよ」


一歩、近づいた

彼女が逃げぬ距離を、だか、威圧的にならぬよう慎重に


「それと、一つお願いかあるのですが」


「お、おねがい、ですか……?」


彼女が顔を上げる

その顔を何度も夢で見る

怯えと、誠実さと、そして誰にも踏みにじられていない純粋さを見せる顔


「ええ。大したことではないのですが」


困ったような、でも重大な事に見えないよう微笑む


「貴方にルーヴェンシュタイン様と呼ばれるたび、どうにも壁を感じてしまいまして」


嘘ではない

そう呼ばれるたび胸の奥に鈍く重たいものが沈むのだ


「わ、私は……失礼のないようにと……」


「もちろん、そのお気遣いは理解しています」


レティシアは慎み深い

距離感を間違えぬよう慎重に考えているのだろう

だが、私はもっと彼女に近づいてほしい


「ただ、敬意はありがたいのですが、少し堅く感じられて

できれば、もう少しだけ親しみをこめて呼んでいただけたら、と」


沈黙

レティシアの指が震え、ドレスの布を掴む


「そう。例えば」


声を低くし、ひと息おく


「アレクシスと」


レティシアの息を飲む音が聞こえる


「……それは……」


拒絶か、と一瞬不安になる


「……失礼になりませんか?」


心の中で息を吐く

安堵と、愛しさが同時に胸を満たす


「いいえ

むしろ、私は……その方が距離が近くなったようで嬉しいです」


「……」


沈黙が続く

何をどう言おうか考えているのだろう

一つの提案をしてみる


「では、少し練習して見ませんか

今この場だけ

もし難しければ、すぐにやめていただいて構いません」


逃げ道は作っておく

レティシアはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吸った


「……ア……」


私はただ待った

策を巡らせ、駒を動かす時の待ち方ではなく

急かすことなく、ただ静かに


「……アレクシス、さま……」


かすれた声

それだけで、胸の奥に積み重ねてきた理性が、音を立てて崩れそうになる


(ーーこのまま)


「ありがとうございます、レティシア」


この胸の内を悟られぬよう、努めて優しく言う

優しく、穏やかに

自分にそう言い聞かせる


「こ、これで……よろしいのでしょうか……?」


「ええ。ですが……」


一歩、近く

いつもより近い距離

腕をそっと引けば、あっさりと私の胸の内に収まってしまうだろう

だが、まだだ


「いつか『様』も自然と取れる日を楽しみにしています」



策略家の微笑は、どこまでも丁寧で、どこまでも優しかった

重く、深く、逃げ場のない愛を胸に抱いたまま

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