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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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814/814

497話 静かなバー、か?

「ほら、酔っ払いは分散して寝てこい」


 まだ自我が残っている給仕長連中とマグダとロレッタに酔っ払いたちを運んでもらう。

 それ終わったら、ロレッタは帰っていいからな。


「パウラ、帰れるか?」

「だぁ~いじょ~、ブイ!」


 めっちゃ酔ってるな。


「悪いな。今日、店はムリかもしれん」

「ん……平気」


 オッサンがしゃべった!?

 しゃべれるのか!?

 いや、しゃべれるか。


「店、どうする?」

「一人でも、いける」

「あ、私手伝いますよ、マスター」

「いつもありがとうね、ネフェリーちゃん」

「いえいえ。友達ですから」


 ネフェリーが手伝いに行くらしい。

 とはいえ、こいつもちょっと飲んでるから、あんま張り切ると倒れちまうぞ。


「今日のネフェリーはほろ酔いでちょっと色っぽいから、オッサンどもに気を付けろよ」

「えっ!? ……も~ぅ! そんなこと言うヤシロが一番危険だよ~っだ!」


 よわ~い力で俺を押す。

 手の甲で頬を押さえ、「もぅ、顔熱くなっちゃったじゃない」とか言う。

 昭和女子ムーブだが、いつもより、やっぱりちょっとなまめかしい。


 顔が、ニワトリでさえなければ。


 実に惜しい。

 惜しいなぁ、ネフェリーは。


「あらしも、いろっぽいよ~! 酔ってるからぁ~!」


 パウラは、色気をどこかに投げ捨ててしまったようだ。

 ……どうか、ノーマみたいになりませんように。


「じゃあ、二人を頼むな」

「ん。また、教わりに来る、カクテル」

「いや、教えに行くよ。ただし、氷は必須だから、氷室、急げよ」

「んっ! 好き!」


 めっちゃハグされた。

 オッサンに「好き」とか言われてもな。


「あたしもヤシロ好きぃ~!」

「はいはい、酔っ払い」


 便乗して抱きついてくるパウラ。

 頭をポンポン叩いたら「えへ~っ」っと上機嫌だった。


「わっ、私もっ、酔った、かなぁ~?」

「やめとけ、ネフェリー。明日悶絶するぞ。そしてたぶん、パウラはそうなる」

「……うん、そうだね」


 けらけら笑うパウラを見て、ネフェリーが乾いた笑みを浮かべる。

 けどまぁ、何もなしってのもな。


「手伝いも、程々にな」


 そう言って、頭をぽんぽんと撫でる。

 おぉ、トサカがぷるぷるだ。

 コラーゲンでも詰まってんのか、ここ?


「えへへ……催促しちゃったね」

「こんくらい、いつでも」

「ホント? 実は結構いいな~って、思ってるんだよ、マグダとか。あと、意外とエステラとかも撫でてもらっててさ」


 そうか?

 エステラ?

 そうか?


「私も、もっと……いいよ?」


 と、おねだりしてくるネフェリー。

 やっぱちょっと酔ってるな、こいつも。


「でもほら、獣特徴あるとさ、触りにくいっていうか」


 ネフェリーの頭を撫でようとすると、ほぼ確実にトサカに触れるし。


「……ヤシロなら、いいよ?」

「いや、ダメだろう、その感じのヤツは」

「あ、そうじゃなくて!」


 恋人的な特別扱いじゃないと言いたげに、ネフェリーが大きく手を振る。

 手をパーにして、胸の前で「違う違う」って。

 昭和ヒロインムーブだ。


「トサカって、実はそんなに感覚ないんだよ。揺れてるな~とか、なんか触れてるな~くらいは分かるけど」


 そうなのか?

 たしか、血管通ってたよな、トサカって。


「ちょっと、ごめんね」


 そう言って、ネフェリーが俺の耳たぶを摘まむ。


「これくらいの感じ」


 まぁ、感覚がないわけではないが、そこまで敏感でもないって感じか。

 とはいえ――


「いきなり耳たぶ触られるのは、ちょっと照れるんだが?」

「あっ、ご、ごめんね!? ……やだ、私ったら」


 手を引っ込めて、手の甲で頬を押さえる。

 熱い時に出ちゃうクセか、それ?


「そこそこ照れるけど、イヤじゃないって範囲か」

「ま、まぁ……そう、かな?」


「そこそこ照れる」ことを許可しているというのが恥ずかしいのか、ネフェリーはもじもじと指を絡める。


「それじゃ、今度不意打ちで頭撫でよっと」

「不意打ちはダメ~! びっくりするから」


 言ってぽかぽかと俺を叩く昭和ムーブ。

 昭和の主人公なら、これで落ちてたんだろうなぁ~、顔がニワトリでさえなければ。


「そうだ。光の行進の時のお礼、なんかいいの思いついたら教えてくれな」


 ネフェリーはガキどもの面倒をずっと見てくれていたから、何か礼をするって――言わされたんだよな。

 こういう、サービスした後に聞いておけば、そこまで重いものは強請ねだられない。

 すでに報酬をもらっているような気がするから、「じゃあ、ちょっと軽めのヤツで~」って遠慮が出るもんなんだよ。

 頭一つ撫でるのも、別に無償の奉仕ってわけではないのだよ、ふふふん。


「そうだなぁ……、カクテルっていう、カンタルチカが楽しく変わりそうなものが誕生したから……あ、『誕生』じゃなくていつものアレだっけ?」

「やかましい」


 俺が生み出したんじゃなくて、俺の故郷にあったもんを教えてるだけだ――ってのを『いつものアレ』って言うな。

 雑なんだよ、認識が。


「じゃあ、ウチの養鶏場がちょっと楽しくなる工夫を考えて」

「養鶏場が?」


 なにその難問?

 とんち小坊主が「なむさんだぁ~」って、頭抱えそうな案件なんだけど?


「焼き鳥屋でも始めれば?」

「もぅ! 怒るよ?」


 だって、養鶏場を楽しくったって……


「卵狩りとかやってたぞ、ウチの故郷では」

「卵狩り?」

「広大な敷地で放し飼いされてるニワトリの卵を探して、一人二個くらいまで持って帰っていいんだよ」

「面白そうだけど……ウチ、広大な土地とか持ってないよ?」


 だよなぁ。

 鶏舎で飼ってるもんな。


「そう言えば、ヒヨコってずっと生まれ続けてるのか?」

「うん! もう、可愛くて可愛くて! ほら、四十区で養鶏場の指導員っていうか、アドバイザーやってるじゃない?」


 パーシーの友人が四十区で養鶏場を始めるってんで、ネフェリーにアドバイスを求めてきてたんだよな。

 ネフェリーは暇を見つけては四十区へ行って、あれこれアドバイスしているらしい。

 ホント、面倒見がいいというか、頑張り屋だな。


「それで、養鶏場ネットワークが出来てね、ウチの子たちはいい卵を産むって言ってもらえてね」


 それで、ネフェリーのところで生まれたヒヨコを、四十区の養鶏場や四十二区の別の養鶏場に譲っているらしい。


「みんな喜んでくれるんだけど、本当はウチが一番幸せなんだよ。だって、あんな可愛いヒヨコをい~っぱいお世話できるんだから!」


 卵を産めるようになるまでは、ネフェリーのところで面倒を見るらしい。

 で、卵が産めるようになったら譲ると。

 話だけ聞けば、飼育の手間や飼料などの経費が掛かる面倒な仕事だが……ヒヨコ大好きなネフェリーには、天国のような仕事らしい。


「オスは?」

「十分生育するまで、ちゃんと幸せに暮らしてもらってるよ」


 屠畜はする。

 鶏肉は必要だからな。

 そこまで聞き分けがないわけじゃない。

 でも、昔のように無意味な屠畜、望まない屠畜をしなくなったことが、ネフェリーは嬉しいのだそうだ。


「じゃあ、今はヒヨコ天国か」

「そうなの! ヤシロも是非遊びに来てね! めっちゃ可愛いから」

「じゃあ、そのヒヨコを可愛がる場所を作ればいいんじゃないか?」

「え?」


 日本でも、小動物と触れ合えるアニマルカフェなんかがあって、そこではヒヨコが大人気だ。

 あいつら、好奇心旺盛で食欲旺盛だから、手のひらにエサ乗っけとくとめっちゃ寄ってくるんだよ。

 くちばしのカットをして怪我しないようにしておけば、ガキでも安全に触れる動物だ。


「アスレチックとか作ると、めっちゃ遊ぶぞ。段差があれば上るし、坂があれば滑るし」

「なにそれ、めっちゃ楽しそう!」

「よし、じゃあウーマロを確保しよう」

「あれ、そう言えば今日ウーマロさんは?」

「……シャワーが完成したため、本日は一日家で爆睡すると言っていた」

「じゃあ、明日なら平気だね☆」


 わぁ、四十二区の領民全員が大工を酷使する☆

 ウーマロ、ガンバ☆


「……ヤシロ、酔っ払いの収容が終わった」

「そうか。ありがとうな」

「それじゃ、私たちもそろそろ行くね。ヤシロ、また一緒に計画練ろうね!」

「たたき台作っとこうか?」

「うん! 私も、お父さんたちに話しておくね!」


 嬉しそうにトサカを揺らして、ネフェリーが出て行く。

 パウラは、父親にぴったりくっついて甘えながら出て行った。


 あの甘えた姿を見られまくって、明日あたり悶絶することだろう。


「また、楽しい場所が出来るんですか?」


 ほろ酔いのジネットがくったりと頭を傾げて聞いてくる。

 酔っとるなぁ。


「出来たら見に行くか。……あぁいや、その前にちょっと手伝ってもらってもいいか?」

「はい! お任せください!」


 ピシッと敬礼して、えへへ~っと笑う。

 酔っとるなぁ。


「じゃあ、マグダ。店じまいだ」

「……うぃ」


 随分と早い時間に店じまいだ。

 カンパニュラとテレサは、早めに帰した。

 一緒にお風呂に入るんだと、楽しそうに帰っていったよ。


「……これで、よし」


 マグダが『close』の看板に何かを引っかけたのでなんだろうと見に行けば――



『close』

『ただしウーマロとベッコは除く』



 ――と、なっていた。

 爆睡中のあの二人が、夜中に目を覚まして空腹だったら受け入れるって?

 フロアにいるの、俺じゃねぇか。

 ……起こされるのかねぇ。やれやれだ。




「ちょっとユナの様子を見てくる」

「お供します」


 ほろ酔いジネットがきりっとした顔をする。

 酔ってはいるが、意識ははっきりとしている。

 こいつも心配なんだろうな、ユナが。


「マグダも、ついてきてくれるか?」

「……片付けは?」

「あとでやっとく」

「……了解した」


 酔っ払いどもが廊下で何か仕出かしていないとも限らないからな。

 マグダに偵察してもらわないと。

 ……ジネットだと「ほにゃぁー!?」って言うだけで、対処できないこともあるしな。


「階段、気を付けろよ」

「はい。ありがとうございます」


 手すりに掴まり、反対の手で俺の腕を掴んで、ゆっくりと階段を上がっていくジネット。

 先行したマグダが、「……問題ない」とサインをくれる。

 酔っ払いどもは大人しく眠ったらしい。


 自室の前で、ドアをノックする。


『ほいな~』


 中からレジーナの声が聞こえてくる。

 そっとドアを開けると、自分の部屋じゃないような匂いがした。


「アロマか?」

「せや。よぉ眠れるようにな」


 と、小声で言うレジーナ。

 見れば、ユナは眠っているようだった。


「お昼頃からうとうとし出して、夕方に寝たさかい、夜中に目ぇ覚ますかもしれへんなぁ」

「そりゃ気の毒に」


 夜に目が覚めても、何も出来ないからなぁ、この街は。

 ネットがあるわけでもないし。


「マグダ、チェアベッドを持ってきてやってくれ」

「……ちぇあ?」

「川遊びの時にノーマが寝転がってたヤツだ」

「……あぁ、お色気増強椅子」


 どんな認識してんだよ。

 まぁ、チェアベッドに横たわってた水着のノーマは、物凄い色気を振りまいてたけども。


「完全にフラットにはならないが、結構リクライニング出来るから、床よりマシだろう」

「床でかまへんのに」

「ユナが目を覚まして、お前が床で寝てたらどう思うよ?」

「まぁ……せやね。ほなら、よろしゅう頼むな、トラ……マグダはん」

「……任せて」


 感謝の気持ちを込めて名前呼びか?

 随分と丸くなったな、レジーナ


「あの顔見とったら、甘やかさなアカンよぅな気ぃになってくるな」

「ジネットと同じ病だな」

「ヤシロさんもですよね」


 くすくすと、上機嫌で笑うジネット。


「なんや、店長はん、酔ぅてはるんか? 珍しいなぁ」

「ヤシロさんが、とっても美味しいお酒を作ってくださったんです。とても甘くて、飲みやすい、美味しいお酒でした」

「ほぇ~、また女子受けしそうなもんを。自分、女酔わせてなにする気ぃなんや?」

「なんかしたら、明日の朝日が拝めなくなるだろうが」


 この街で、誰かを酔い潰してフトドキを――なんてした日にゃ、人生が終了しちまうよ。


「具合はよさそうだな」

「せやね」


 すぅすぅと、静かな寝息を立てるユナ。

 顔色もよく、息も掠れていない。


「疲れが溜まっとったんやろ。栄養あるもん食べてぐっすり寝たら、すぐ良ぅなるわ」

「夕飯、食ってないよな?」

「あぁ……店長はんがお弁当作ってくれはったんやけど、ごめん、まだ食べてへんわ」


 ユナを気遣って、飯を食ってなかったのか。

 まさか、心配で?

 いきなりそこまで過保護にはならないよな。


 まぁ、病人のそばで食うのは気が引けるもんだ。


「起きてなんか食べたい言ゎはったら、一緒に摘まませてもらうわ」

「いや、俺がなんか作ってやるから、寝てたら起こせ」

「えぇんかいな?」

「ジネットがほろ酔いなんでな」

「わたし、お料理できますよ?」


 幾分酔いは覚めたと言っても、まだちょっとふらついている。

 今日はもう休め。

 明日からまたバリバリ働くんだろ、どうせ?


「寝室が酔っ払いどもに占拠されてるからな。マグダが寂しがらないように、一緒の部屋で寝てやってくれ。そろそろ眠たくなるころだろうし」

「そうですね。……うふふ。では、今日はマグダさんを独り占めです」


 って言っとけば、ジネットも自然と寝るだろう。

 もう、目がぽや~んってしてるし。


「ほんま、よぅ回る口やなぁ」


 レジーナがこっそりと笑っている。

 だろ?

 一級品なんだぞ。


「……レジーナ、これを使って」

「おおきにな、マグダはん」

「……むふー」


 名を呼ばれ、満足げなマグダ。

 チェアベッドをベッドの横に置いて広げ、リクライニングを限界まで倒す。


「……少し、拭く」


 長らく倉庫にしまってあったから、ちょっとほこりっぽいのだろう。


「では、シーツを持ってきますね」

「あぁ、いや、それは俺が」

「わたしも出来ますよ?」

「じゃあ、一緒に」

「はい!」


 仕事を全部取り上げるとへそを曲げそうなので、共同作業ということにしておく。

 ジネットは、酔うと幼児退行してしまうらしい。


 祖父さん。

 あんたの気持ちがちょっと分かりそうだよ。

 こいつのわがままを止めるのは、至難の業だ。


「ジネット。先に行ってシーツを出しといてくれ、あと毛布も」

「は~い」


 と、少しだけ先行させ――


「マグダ。それが終わったらジネットを寝かしつけてきてくれ。あくまで、マグダからのおねだりという『てい』で」

「……うむ。甘えられていると思っている店長を、盛大に甘やかしてあげられるのはマグダだけ」

「じゃ、頼むな」

「……まかせて」


「むふー!」っと息を漏らすマグダ。

 ホント、扱いやすい。どっちも。


 レジーナがくすくす笑っていたが、無視してジネットを追いかける。

 ……まだ廊下にいたよ。

 酔って、普段の足の遅さに拍車がかかってるな。


「ジネット、追いついたぞ~」

「まぁ、随分と早かったですね」


 くすくすと笑う。

 きっと、何が面白いのか、本人も分かっていないだろう。


「まだ、シーツを出してませんよ?」

「でも、『一緒に行こう』っていう約束は守ったろ?」

「はい。守っていただきました」


 ずっと上機嫌だ。

 こんな酔い方なら、今後はそれなりの頻度で酒を飲ませてやってもいいかもな。


 あ、そうだ。


「味見、変わってくれてありがとな」

「あじみ、ですか?」

「酒の味見、代わってくれたろ?」

「あぁ~。だって、それは……うふふ」


 思い出して笑う


「ヤシロさんが、可愛くて」


 かわいい?


「お酒、苦手なんですね」


 あぁ、咽たからか。

 あれは、マジで久しぶりだったからで……まぁいい。そういうことにしとこう。


「二十歳になったら、がぶがぶ飲むようになるよ」

「ほどほどにしないと、ダメですよ?」

「そりゃお前だろう、酔っ払い」

「酔ってませんよ? ぜ~んぜんっ。……うふふ」


 わけもなく笑っちまうのは酔っぱらってる証拠だよ。


「でも、もしそうなら、いつか一緒にお酒を飲みたいですね……二人で」


 そうだな、いつか一緒に――


「二人で?」

「はい」


 一緒に、だけでなく、二人で、か――

 まぁ、他意はないのだろうけれど。


「もし、ヤシロさんがお酒に酔ったら、わたしが介抱してあげたいですから」


 それは、ジネットにしては珍しい主張で――


「誰にもゆずりません」


 ――ちょっとした独占欲だった。

 ……別に、誰も好き好んで取りゃしねぇよ、酔っ払いの介抱なんて。


「じゃあ、ジネットが酔ったら、俺が介抱するな」

「わたしは酔いませんよ~、……うふふ」


 酔っとるやないかい。


「お祖父さ~ん、シーツを借りに来ましたよ~」


 祖父さんの部屋のドアを開けながら、ジネットが言う。


「そんな呼びかけして、返事が帰ってきたら、いくら祖父さんでも『ぎゃー!』って言うぞ、俺は」


 夜にはやめてくれ。


「うふふ」


 ずっと笑いながら、ジネットがシーツと毛布を引っ張り出してくる。

 いっつも思うんだが、こうしてしまわれているシーツや毛布が綺麗なのはなんでだ?

 こいつ、こまめに洗濯してんのか?

 使ってないのに?

 マメだねぇ~。


「では、ヤシロさんは毛布をお願いします」

「いや、両方俺が持つから、ジネットはドア係を頼む」

「片方持ちますよ?」

「二人とも手が塞がったら、誰がドア開けるんだよ?」

「あっ、そうですね。……うふふ」


 まぁ、そうなったら小脇に抱えて開けるけども。

 ジネットは荷物なんか持たなくていいから、まっすぐ歩いてくれ。


「お祖父さんにお願いして、開けてもらいましょうか?」

「だから、それで開いたら、俺は毛布を放り出して逃げるからな?」


 ポルターガイストじゃねぇか。


 ――って思った、まさにその瞬間!

 祖父さんの部屋のドアがひとりでに開いた。

 ぎぃ……っと音を立ててゆっくりと……


「ぎゃぁぁあああ!?」

「……ヤシロ、うるさい」


 マグダかよ!?

 戻りが遅いから見に来たらしい。


 なんっちゅータイミングでドア開けるんだよ、お前は!?

 思わず叫びそうになったわ!


「……めっちゃ叫んでいた」


 ギリセーフ!


「……ヤシロは、自分に対する判定が激甘」


 結局、俺とマグダで荷物を持ち、ジネットがドア係を担当して、俺の部屋へ布団を運んだ。


「お前らはこのままここで寝ろ。オルキオには俺が言いに行っておくから」

「あ、それでしたらわたしが――」


 マグダ。


「……ふゎあ~ぁ、マグダ、もうねむたくなっちゃったな~」


 めっちゃ棒読み!?


「そうなんですか? それは大変です。わたし、今日はマグダさんと一緒にお休みしたいな~って思っていたんです」

「……それは奇遇。マグダも、今日は店長が一緒でなければ眠れないと思っていたところ」

「では、一緒にベッドに行きましょうね」

「……手を繋いでいくことを推奨する」

「はい」


 こうして、お互いがお互いを甘やかしていると思い込みつつ、二人はジネットの部屋へと向かった。

 これで、間もなく眠りにつくだろう。二人とも。


「んじゃ、ちょっとオルキオんとこに行ってくるわ。ユナをよろしくな」

「ん。ほな、そっちもよろしゅうな」


 レジーナに挨拶をして、俺はフロアへ戻った。

 もう、二階に上がることはないだろう。


 んじゃ、行きますかね。お隣さんへ。




「オルキオ、夜分にすまん」


 ドアをノックして呼びかけると、中から見知らぬ女性が現れた。

 ……誰だ?


「どうされましたか、ヤシロちゃん様?」

「めっちゃシラハの関係者だな」


 呼び方がイロハとおんなじだ。


「あ、そうですね。お話しさせていただくのはこれが初めてでしたか。こちらからは毎日毎日こっそりと見つめておりましたので、どうにも初めてという気がいたしませんで」

「え、なに、怖いんだけど?」

「大丈夫です。NOタッチ、YESヤシロちゃん☆」

「怖さが拭えてないんだけど?」


 何者なんだ、こいつは?


「自分は、BBDC所属のSP――シラハ様専属のボディーガードです」


 あぁ、オルキオのとこの、所謂『若い衆』か。

 たしか、メンズは家の外の待機所で、女性が室内の待機所でオルキオたちを守るんだっけな。


「ちなみに、SPは、『シラハたんぺろぺろ』の略ではありません」

「いや、分かってるけどね!?」


 むしろ、その可能性なんか思いつきもしなかったけども!?


「レジーナ様が宿泊されるということで、人員を増加させたところなのです」

「そうなのか」

「はい、めっちゃ狭いです、部屋」


 そこは、ウーマロにでも言ってくれ。


「増員したところで悪いんだが、今日はレジーナもユナも陽だまり亭に泊まることになった。ユナが風邪を引いてな」

「マジぽよ!?」

「どういう感情表現だ!?」


 ユニークなの採用したなぁ、オルキオ!?


「そ、それで、大丈夫なのですか?」

「もう容体も安定して、あとは明日までぐっすり眠ったら元気になるよ」

「そうですか……さすが、レジーナ様」


 なんか、めっちゃ敬われてるなレジーナ。

 きっと、オルキオがそういう風に言ってくれてるんだろう。

 薬師ギルドに狙われているから、しっかり守ってやってくれと。

 そんで、四十二区には不可欠な薬剤師だから、丁重に扱ってやれ、とかな。


「レジーナのこと、尊重してやってくれてるんだな」

「それはもう! あの方は素晴らしい方です!」


 こいつの思い入れは、オルキオに言われたからってだけの熱量じゃないな。

 またあれか? 三十五区で人知れず人助けしてた系か、レジーナめ。


「打てば響くエロワード! どんな角度からでも打ち返してくるド下ネタ! まさかそんなものまでピンクな味付けに!? さり気ないワンポイント卑猥のスペシャリスト! 尊敬に値します!」

「オルキオー! 人員の配置換えしてくれるー!? 大至急ー!」


 あんなもんに共感を覚えて、あまつさえ敬うような危険人物を、陽だまり亭のそばに置くんじゃねぇよ!

 もっと、湿地帯寄りに住処をこさえてやってくれるかな!?


「最近では、レジーナ様のお顔を見るだけでムラムラします!」

「オルキオー! 早くー!」

「な、なにごとだい、オオバ君!?」

「コレ!」

「ん? あぁ……、あはは。どうにも彼女たちは、レジーナさんに懐いているようでね」


『たち』だと!?

 一人じゃないのか!?


「昨日も、ユナちゃんを連れて戻ってきた時に、結構盛り上がっていたよ」

「それで戻りが遅くなったのか、あいつ!?」


 しょーもねーな!?

 ユナを連れてる時に!


「まぁ、でも、害はないから」

「……ホントか?」

「…………ないといいなぁ」


 希望じゃねぇか!?

 それも、儚い系の!


「『はかない』のはパンツくらいで充分だ!」

「何の話かな!?」

「よっ! 待ってました!」

「君も悪ノリをしないように!」


 どうやら、このシラハ専属SPは、下ネタが大好物なようだ。

 よし、分かった。


「絶対、ナタリアには会わせるな」

「あはは……、怖い化学反応を起こしそうだね。気を付けるよ」


 ある意味、レジーナよりもたちが悪いからな。混ぜるものによっては。


「それで、私に何か用かな?」

「あぁ、ユナが風邪を引いてな」


 今朝からの状況と、今夜は俺の部屋に泊めることを簡潔に話して聞かせた。


「そうかい。心配だけれど、レジーナさんがいれば安心だね。ゆっくりと休ませてあげてね」

「この後ちょっと起きてきそうなんだよな。何か消化にいいものか、あったまるもんでも作ってやるよ」

「オオバ君が、かい?」

「ジネットを酔わせちまってな」


 そこで、軽くカクテルの話もする。


「なるほど。三十三区領主の嗜好に合致しそうだね。さすが、オオバ君だ」


 ころころと喉を鳴らし、何か言いたげな目で俺を見る。


「もし可能なら、私にもご馳走してくれないかな?」

「一人で飲むのか?」

「シラぴょんも呼んでいいのかい?」

「呼ばなかったせいで離縁とかされると、後味悪いからな」

「あははっ、そんなことにはならないけれど、……でもそうだね、拗ねた可愛い顔は見てみたいけれど、楽しげな笑顔の方がより素敵だからね。呼んでくるよ」


 よく澱みもなくすらすらと誉め言葉が出てくるもんだ。

 俺なんか「ご飯を美味しく食べてくれそう」くらいしか出てこないもんな、シラハへの誉め言葉。


「任務中なのが悔やまれます」

「そのうち、カンタルチカでやるみたいだから、そん時に楽しんでくれ。――陽だまり亭から遠く離れた場所で」


 お前、酔っぱらったら絶対下ネタ言いまくるだろう?

 すっごい迷惑!


「やぁ、お待たせ」

「こんばんは、ヤシロちゃん。私までお呼ばれしていいのかしら?」

「軽い寝酒だと思って付き合ってくれ。それに、シラハがいないと、脱ぐかもしれないからな、オルキオは」

「おいおい。もうそんなことはしないよ。……まいったな」


 あははと笑うオルキオ。

 この家に住み始めてから、また表情が柔らかくなった。

 一時期は相当張り詰めてたからなぁ、どっちも。


 祖父さん。あんたの遺した土地、あんたの友人を救ってるみたいだぞ。

 大したもんだ。


「ジネットの祖父さんは酒とか飲んだのかな?」

「彼は強かったよ。私たちが酔いつぶれても、一人平気な顔で、みんなの介抱をしてくれたんだ」


 そこは似なかったんだな、ジネット。

 そこまで強くはなさそうだ。


「じゃあ、陽だまり亭でいいか?」

「おや、今日はもうお店を閉めたんだね」

「店長が酔っ払って寝ちまったからな」

「あはは。見てみたかったなぁ、酔っぱらった彼女を」

「ダメよ、オルキオしゃん。そんなことを言っては、ジネットちゃんが可哀想だわ」

「まぁ、祖父さんへの報告がてら、聞かせてやるよ」

「それは楽しみだ」

「陽だまり亭さんにご報告するの、ヤシロちゃん?」

「ジネットの失敗談が大好きだからな、祖父さんは。聞かせてやれば喜ぶだろうさ」


 そんでまた、よく通る声で「ほっほっほっ!」って笑うんだ。


「すごいね。まるで彼をよく知っているようだ。どこかで会ったのかい?」

「まぁな」


 一回会えば、そして一回話せば、あの祖父さんの人柄はよく分かる。


「今日は、彼の話をしたい気分だよ」

「俺が聞いていい範囲の話なら、是非聞かせてくれ」

「いいよ。しっかり者に見えて、彼は結構ヤンチャでね」

「よし、じゃあ、その話はカクテルを飲みながらだ」


 酒が入れば口も滑るだろう。

 この次会う時に、からかうネタを仕入れておこう。


「カウンターでいいか?」

「いいね。昔はあそこが我々の特等席だったんだよ」


 心持ちウキウキとして、オルキオが陽だまり亭に入る。

 俺たちを置いて、真っ先にカウンターの席に座った。


「やぁ、来たよ」


 そして、かつて祖父さんが立っていたのであろう場所に挨拶をする。

 今の、ジネットが見てたら喜んだだろうな。


「二人とも、酒は?」

「シラぴょんは強いよ」

「オルキオしゃんは、すぐ酔っちゃうのよ」

「なんでお互いのを答えんだよ」


 自分のを答えろっつの。


「んじゃ、まずは軽めのヤツから」


 甘く、アルコール度数も低いカクテルを作る。

 カシャカシャとシェイカーを振ると、オルキオは感心し、シラハは手を叩いて褒めてくれた。


「素敵だわ、ヤシロちゃん」

「まったくだ。そこらの貴族よりも、よっぽど華がある」

「オルキオ。ただの事実はお世辞にはならないぞ」

「あはは、まったくだね」


 甘いイチゴのカクテル。

 お猪口ではなく、グラスに少量ずつを注ぐ。


「少ないのは、私への配慮かな?」


 すぐに酔うからと少量にしたのかって?


「カクテルはごくごく飲むんじゃなくて、静かにオシャレに飲むんだよ。恋人同士がロマンティックに、ダンディな男が一人で渋くな」

「なるほど。それじゃあ、シラぴょんの美しい瞳に」

「オルキオしゃんの優しいまなざしに」

「「乾杯」」

「祖父さ~ん! こいつらが明日二日酔いで苦しむよう祈っといてくれ」

「あっはっはっ! 彼なら、それくらいのことをやってのけそうだから怖いねぇ」


 それから、何杯かのカクテルを飲む間に、今日のジネットの酔っぱらいっぷりや、祖父さんの昔話を話したり聞いたりした。


 バーというには賑やかに、わいわいと楽しく酒が消えていく。

 どうかな、祖父さん。

 あんたも楽しんでるか?


 ジネットも、楽しそうだったぞ。



 そんなことを思った時、耳の奥で微かに「ほっほっほっ!」と、笑い声が聞こえた気がした。


 ま、気のせいだろうけどな。




「ちょっとえぇやろか?」


 ふらりと、レジーナがフロアに顔を出した。


「盛り上がっとんな」

「やぁ、レジーナさん」

「こんばんは、レジーナちゃん」

「家主はんに、お外はん、こんばんは」


 レジーナが言うと「こんばんは」が「こんばんわ」に聞こえるんだよなぁ。

 イントネーションでさ。

 あと、『お外はん』言うな。

「お外で――」のエピソード、四十二区では禁止だから。


「お前、オルキオんとこのSPに病気伝染(うつ)したろ?」

「あ、会ぅたん? おもろい人やろ~、あの人」


 お前だよ、おもろいのは。


「ユナ、目を覚ましたか」

「さっきな。まだぽや~っとしとるけど、お腹空いたみたいやさかい、なんか頼めるか?」

「あぁ、それじゃあ、私たちはそろそろお暇しようかな」

「本当に、楽しかったわ。ありがとうね、ヤシロちゃん」

「こっちも有意義だったよ。ジネットを怒らせて口を聞いてもらえなかった時に祖父さんがしょげ返ってた話、今度ジネットに話しておくよ」

「あははっ! 私たちはきつく口止めされていたんだけどねぇ」


 文句があるなら言いに来い。

 それはそれで、ジネットが喜ぶからな。


「んじゃ、またな」

「あぁ、ユナちゃんをよろしくね」


 オルキオと挨拶を交わし、厨房へ入ろうとした時――



 ガッ!



「ぅおわっ!?」


 何もないところで躓いて、俺は思いっ切り転倒してしまった。

 ぃ……痛ぇ~、アゴ打った。


「大丈夫かいな、自分? 酔うとるわけやないんやろ?」

「たぶん……祖父さんが、『しゃべんな』って言ってる」

「あははっ! いや、ごめん、笑っちゃ悪いね。でも……ふふふ、彼ならあり得ると思ってね。とてもシャイで、彼女の前ではいつもカッコを付けていたからね」


 そんなことを言ったオルキオが、椅子から立ち上がった瞬間に――転んだ。


「ぁイタ!?」

「オルキオしゃん!?」


「あはは……」と、打った尻をこすりながら、オルキオはカウンターに手をかけて立ち上がる。


「『よくもしゃべったな』だってさ」

「俺にもそう聞こえたよ」


 心なしか、祖父さんの声が聞こえた気がした。

 めっちゃ照れ声だったけどな。


「オルキオ、祖父さんに詫びのカクテル作るから、もう一杯付き合ってくれないか?」

「いいだろう。彼の分まで、私が飲むから、シラぴょんのも含めて三杯頼むよ」

「レジーナ、ユナにもうちょっと待ってろって言っといてくれ」

「分かったわ。軽めのもんで、お腹あったまるヤツにしてな」

「大丈夫だよ、任せとけ」

「あと、前の卵のお酒、あれも出来るか?」

「そんな、あれもこれも食わせると、腹苦しくなるぞ」

「せやけど、体にえぇもんやったし、前に飲んだ時、えらい元気出たし――」


 そんな風に言葉を並べるレジーナを見て、俺とオルキオは同時に吹き出した。


「な、なんやのんな?」

「お前も、身内には過保護になるんだなってよ」

「レジーナさんは、いつでも冷静で適格な判断をしていたから、そうやって慌てている姿が珍しくてね。すまないね、可愛かったからつい笑ってしまった」

「可愛ぇって……ガラちゃうわな」

「いいえ、あなたはとっても可愛いわ、レジーナちゃん」


 シラハもにこにこだ。

 ユナの経過については、レジーナが一番理解しているはずなんだが……ちょっとでも苦しさを取り払ってやりたくなるのは、親心ってもんだもんな。


「美味い風邪うどんを作ってやるから、上で待ってろ」

「風邪うどん?」

「京都の知り合いに聞いたって、女将さんが昔作ってくれた料理だ。美味いぞ」

「きょう、と?」

「あぁー……、俺の故郷の昔の都だ。その町には昔から変わらない伝統的な文化が今も深く根付いていてな」

「ほな、自分の故郷の昔ながらの療養料理なんやね」

「まぁ、そういうことだ」


 柔らかくなるまで煮込んだふやふやのうどんに、溶き卵を回し入れてふわっと固めるかき玉が最高にマッチして美味いんだ。

 ちょっとだけ浅葱あさつきを添えて、ふうふうしながら食うと、胸の奥と鼻の奥があったまって、ぐっすりと眠れた気がする。


「美味しそうやな」

「お前の分も作ってやるよ。弁当、食ってないんだろ?」

「あぁ……せやね、食べ忘れてたわ」


 嘘吐け。

 心配で食えなかったくせに。


「ヤシロちゃん」


 シラハがにっこりと微笑んで俺を呼ぶ。


「美味しそうね」

「寝る前に食うと太るぞ?」

「シラぴょんは、ちょっとくらいふっくらしても可愛いよ」

「うっせぇわ、オルキオ、うっせぇ」

「……おかわりぃ」

「まだ一杯目も食ってないだろうが……ったく。待てるなら、作ってやるよ」

「待つわ」

「私も、待っている間に陽だまりの祖父さんに謝っておくよ」


 ちゅーわけで、オルキオと祖父さん、シラハの分のカクテルを作ってからうどんを作りに向かう。


 カクテルはコーヒーにウォッカ系の酒と生クリームを混ぜたアイリッシュコーヒーもどきにした。

 コーヒー好きな祖父さんには、こういうのが合うだろう。


「君の照れ屋は相変わらずだね。娘に素の自分を見せるのが、まだ恥ずかしいのかい?」


 なんて、オルキオが祖父さんに話しかけている声を聞きながら、レジーナと一緒に厨房へ入る。


「なんか手伝えることあるかぃな?」

「そばについててくれりゃ、安心できて助かるよ」

「さよか。ほな――」


 と、俺に体を寄せて、ぴたっとくっついてくるレジーナ。

 ……こいつ、看病疲れで頭回ってないんじゃないだろうな?


「俺じゃなくて、ユナのそばに、な?」

「あっ!? せ、せやんね! ごめん、間違えたわ」


「あはは~」って頭を掻くレジーナ。

 お前もしっかり休めよ。


「すぐ出来るから、上で待ってろ」

「そうさせてもらうわ」

「その代わり、俺が廊下でとんでもないものに遭遇した時は、擁護を頼む」

「とんでもないものって、なんやのん?」

「酔ったナタリアやルシアが寝てんだよ、二階」

「あはは~。ラッキースケベの宝庫やなぁ」


 全裸で廊下をうろつくことはないと思うが……酔ってたからなぁ。

 まぁ、レジーナに証言してもらおう。

 全然、信頼できないけども。


 レジーナを部屋へ返し、うどんを作る。


 実は朝のうちにジネットにうどんを依頼しておいたんだ。

 風邪といえばうどんだからな。

 使わなきゃ、俺が食うからいいかと思ってな。


 うっわ、めっちゃ美味そう。

 風邪用だからって、あんまりコシが出ないように依頼しておいたが、いい塩梅だな。

 煮込めば柔らかく、さっと湯がけばしこしこのうどんが食えるだろう。


 ……俺の分も作ろうかな。

 いや、四人分でいいな。


 大量にうどんを茹で、ユナ用のは柔らかく、レジーナのはもう少しだけしっかりと、オルキオとシラハの分はコシを感じられる程度に茹で分けて四人分の煮込みうどんを作る。


「じゃあ、相手できなくて悪いが、食い終わったら置きっぱなしにしといていいから」

「待っていない方が、オオバ君も自由に動けるかい?」

「なら、お言葉に甘えさせてもらうわね」


 食ったら帰ってもらう。

 見送りできなくて悪いけどな。


「代金はどうしようか?」

「レジ係はジネットだからな。ジネットに聞いてくれ」

「あはは。そうだね。御馳走様」


 店にないメニューの値段は勝手に決められないからな。

 きっとジネットがきっちり徴収してくれることだろう、店長だしな、信じるぞ、ジネット!

 暴利をむさぼるチャンスだぞー!


 ……は~ぁ。


「それじゃあ、ユナちゃんによろしくね」


 シラハに言われ、二人分のうどんを持って二階へ上がる。

 若干の緊張…………ほっ、危険物はなかった。


 自室へ向かうと、マグダの部屋のドアに張り紙が貼ってあるのが見えた。

 なんとなく見に行ってみると、ドアと壁にまたがるように貼られた紙には大きな文字で『封!』と書かれていた。レジーナの文字で。


 なんかあったのかな?

 で、片付けておいてくれたとか?


 ……魔窟だな、ここは。


 自室のドアをノックして返事を待つと――


「は、はぃ……ど、どうぞ」


 と、ユナの声が返ってきた。


「しゃべらせてやんなよ、風邪の時に」

「喉は大丈夫やさかいに、心配あらへん」


 めっちゃ緊張してたじゃねぇか。


 ベッドに体を起こしてこちらを見ているユナ。

 顔色は……暗くてよく見えねぇな。


「具合はどうだ?」

「は、はい! おかげさまでもうすっかり! 今からでもすぐに働けま――」

「もう夜やから、静かにしぃや」

「……はい。すみません」


 立ち上がりかけたユナを、レジーナが座らせる。


「朝になったら、ジネットに報告してやってくれ。料理の味と、今の体調を」

「は、はい。とても美味しくて、なんだかすごく元気が湧いてきます」

「ジネットに、な」

「は、はい。……すみません、なんだか、感動してしまって、誰かに話したくて」


 そんくらい美味かったって言ってやれば、ジネットは喜ぶよ。


「うどん煮てきたから、食えるだけ食え。残していいからな」

「そ、そんな、残すなんてとんでもな――ヤシロさんが作ってくださったんですか!?」

「この人、料理もめっちゃうまいんやで」

「……本当に、何者なんですか?」

「ただの飲食店従業員だよ」


 うどんくらいでそんな驚くな。


「ほい、レジーナの分」

「おおきに。わぁ、こらまた、美味しそうやわぁ」


 たぶんレジーナの好きな味だと思うぞ。


「これがジネットの弁当か?」

「あぁ、せやねんけど……全然食べてへんかったわ。申し訳ないことしてしもたな」

「いや」


 あいつなら、こうなることを見越して――ほらな?


「冷めても美味い弁当だぞ、これ」

「そうなん?」

「もらっていいか?」

「それでえぇのん? ウチらあったかいの食べるのに」

「お前のうどんも一口奪う」

「『もらう』やのぅて『奪う』んかいな」


 からから笑って、レンゲでスープを一口飲む。


「はぁ~……えぇお味やわぁ。ユナ、食べ。これ美味しいで」

「はい。……いただきます」

「じゃ、俺も~」


 夜中に、三人で飯を食った。

 ユナは「あつ、あつっ」と言いながらも美味そうに食ってくれた。

 うん、これなら、明日には元気になってるだろう。


 あと、冷えた弁当は、めっちゃ美味かった。







あとがき




時空を超えたかもしれない、宮地です


先日、

とある大都会の駅の傍でこんな人たちを見かけました――



男A「朝キャバ、どないです?」

男B「可愛い子おるん?」

男A「そらもう! めっちゃ可愛い子おりますで」

男B「おっぱい大きい?」

男A「おっきい、おっきい! 巨乳ばっかですわ!」

男B「触れんの?」

男A「触んのはあきませんねん。我慢したってください」

男B「固いこと言ぃなや~!」

男A「いや、今柔らかい話してますやん」

男B「ホンマや!?」



令和の東京ですよね、ここ!?

Σ(゜Д゜;)

昭和の大阪じゃないですよね!?


不意に耳に飛び込んできた関西弁

お互いに「あ、関西なんですか?」とかいう反応もなく

当たり前のように交わされるラリー!

そして始まる漫才


なにこのナチュラルな感じ!?


もしかしたら、

私はあの瞬間、昭和の大阪に飛ばされていたのかもしれません


男B「固いこと言ぃなや~!」

男A「いや、今柔らかい話してますやん」

男B「ホンマや!?」


こんなの、令和の東京で聞こえてくる会話じゃないです!

(>△<;)


聞いた瞬間「これはあとがきに書かねば!」って思いましたけれども!


世間には、不思議なことが転がっていますねぇ~

(*´ω`*)



なぜ自分で思いつけなかったのか……


「固いこと言うなよ」

「今柔らかい話してんだよ」


なぜ、これが思いつけなかったのか!?

悔しい!( ノД`)シクシク…


まだまだ精進が足りていないようです!

もっとおっぱいのことを考えなければ!


 (;゜Д゜)今以上!?

 (;゜Д゜)それ以上!?

 (;゜Д゜)愛されるのに!?


 Σ(゜Д゜;)なんか聞いたことあるな、その流れ!?



さて、本編でもちょっと不思議な出来事が――

お祖父さん、ちょこっと出演? かも?(笑)


なんか、こういうタイミングで何か起こって

「あ、亡くなったあの人が怒ってる」とか、そういう会話

結構昔からしてた気がします


お祖母ちゃんとか、霊魂の存在を当たり前のものとして捉えていたようですし

私も、よくそういう話をされました

これは、年代なのか地域なのか……もしかしたら案外独特な感覚なのかもしれませんね


お盆に蝶々を見ると、ご先祖様が帰ってきたんだ――みたいな感じの話ですね


ちなみに、お盆に町長さんを見ても、それは普通に町長さんが出歩いているだけですので

ご先祖様は関係ありません。



宮地「あ、町長さんだ」

町長「固いこと言ぃなや~!」

男A「いや、今柔らかい話してますやん」

町長「ホンマや!?」

宮地「お前、町長だったのか!?」



そんなことが起こるかもしれません、

そう、お盆ならね☆



あと、今回の見所は、

ちょい疲れレジーナの天然です!

( *´艸`)



ヤシロ「そばについててくれりゃ、安心できて助かるよ」



これを、「お前がそばにいてくれると安心するよ」と解釈したわけで

「さよか。ほな――」と、寄り添っちゃうっていう……


よくないですか!?

(≧▽≦)


書いててすっごい楽しかったんです、ここ!

もう、それだけはお伝えしておこうと!


頭のいい人の天然が、大好きです☆



レジーナ「固いこと言ぃなや~!」

ヤシロ「今、柔らかい話してんだよ」

レジーナ「ホンマや!?」



すっごいしっくりくる!?

Σ(・ω・ノ)ノ!



あぁ、自分で思いつきたかった……

あのオッサンたち、面白かったなぁ……くそぅ

(かなり引きずっております☆)


あぁ、そうそう

今回は、ジネットがほろ酔いで、

お祖父さんの部屋へレジーナ用のシーツを取りに行くんですが

「お祖父さん、シーツ借りに来ましたよ~」って話しかけて

ヤシロが「返事があったらぎゃーって言うぞ」みたいなことを言って、

その後、両手がふさがったら「お祖父さんにドアを開けてもらいましょう」とか言う冗談をジネットが言うと、絶妙のタイミングでマグダがドアを開けて、ヤシロが「ぎゃー!」っていう展開のネタが前半にあり


後半ではオルキオがお祖父さんの秘密をしゃべって、ヤシロがジネットにしゃべろうとしたら、二人ともコケてしまい、「祖父さんが怒ってる」って思う――


っていう感じで、ずっとお祖父さんの存在が感じられる作りになっております

(*´ω`*)


もしかしたら、珍しく酔っ払ったジネットが可愛くて

覗きに来たのかな? と、そんな感じなのかも

ジネットが「お祖父さ~ん」って呼びかけたから、ふらっと来ちゃったのかもしれませんね~


それくらいの不思議なことなら

起こったって不思議ではありませんものね



この世界には、不思議が溢れているのですから



先日も、「えっ、ここって令和の東京だよね!? え? 昭和の大阪!?」って思った不思議な出来事に遭遇しまして――


あ、この話知ってます?

もういいですか?

そうですか


いまだにちょっと引きずってるんですけどねぇ……

なんで自力で思いつけなかったかなぁ……

他人様の発言なので、本編で使えないのが、非常に惜しい!

あぁ、悔しい!


もっと面白いこと、頑張って思いつきます!


もし本編で「固いこと言うなよ」が出てきた時は――

「こいつ、ヤリやがったな!?」って思っておいてください☆

(☆>ω・)b


いや、やりませんけどぉ~

やりませんけどぉ~

( ・3・)~♪


とりあえず

今からおっぱい修行に旅立ちます!


俺より強いヤツに会いに行く……いや!

乳のデカいヤツに会いに行く!( ゜∀゜)o彡゜



修行に勤しみ過ぎて更新が遅れないよう頑張ります☆



次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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固いこと言いなや 今柔らかい話してますやん のあとに、ほんまや!で落としてるけど 固くするのはお客さんの方で の追撃を入れるか入れないか このライン難しい判断ですよね エピソード814の感想として書…
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