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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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812/812

495話 四十二区を歩く町娘たち

 港を出て、河原へ向かう。

 いつも遊ぶ広場よりも少し奥まで行くと、川漁ギルドが仕事をしていた。


「お~い、デリアちゃ~ん☆」

「ん? おぉ、マーシャ。あぁ~! ヤシロ~!」


 デリアが俺たちを見つけて、ぶんぶんと手を振っている。


「……私の時より、ヤシロ君を見つけた時の方が嬉しそうだった!」


 ぷく~っと膨れるマーシャ。

 フグみたいになってんぞ。

 拗ねるな拗ねるな。


「なんだ二人して、釣りか?」


 と、俺とマーシャにだけ話しかけるデリア。

 いやいや。


「エステラたちだぞ」

「え? ……ぅぉおお!? びっくりした!? いつからいたんだ!?」


 え、認識外だった!?

「なんか知らない人がいっぱいいるな~」とかじゃなくて?

 どんなフォーカス機能持ってんだよ、お前の目?


「風紀委員違い過ぎて、全然分かんなかった」

「雰囲気ね」

「ふいんき!」

「惜しい」


 エステラがデリアの言葉を正してやるが、正解にはたどり着かなかった

 まったくもって、惜しい。

 ……残念な娘って意味で。


「あら、すごい顔ぶれが、珍しいオシャレしてるわね」


 ゆっくりと、ルピナスが土手まで上がってくる。

 ちなみにデリアは、一気に駆け上がってきてたぞ。


「ヤーくんは、外周区と『BU』を統合して、大領主にでもなるのかしら?」

「誰がなりたがるんだよ、そんな面倒なポジション」

「デイグレアはなりたがっていたわよ」


 前三十区領主、デイグレア・ウィシャート。

 あいつ、外周区と『BU』を支配するつもりだったのかよ。


 まぁ、欲をかいて手を出しても、ギリギリ王族に潰されないかもしれないラインだよな。

 三等級貴族以上は、手出しすると王族が出てくる危険が増すけど、四等級以下なら、お家取り潰しなんて派手なことさえしなければ、裏から手を回して実効支配くらいは出来るかもしれない。


 ただしそれは、力が落ちた時に全員が敵に回るという悪手中の悪手だ。

 バカの発想だな。

 相手に感情がないとでも思い込んでなきゃ、そんな無謀はやるだけ無駄だと気付くはずだ。


「俺、ウィシャートより頭いいんで」

「でしょうね。だから安心だわ。あそこまで愚かな貴族は、当分出てこられないでしょうから」


 俺は別に、外周区を監視して、悪の芽を摘むとか、そんな面倒な慈善活動に邁進するつもりはないからな?


「それで、こんなにたくさんの美人領主を引き連れて、優雅にデートかしら?」

「下人に道案内させることをデートとは言わぬぞ、ルピナスよ」

「まぁ、可愛らしいお嬢ちゃんだこと。この編み込み、ヤーくんが?」

「ぅ……まぁ、そうだが」

「髪の毛、やってもらったのねぇ。嬉しかったんでしょう、ルシアちゃん?」

「そなた……っ、素が出ておるぞ」

「あっはっはっ! 河原にいて、こんな可愛い格好した女の子の前じゃ、素も出るってもんだよ! なんだい、なんだい。本当に可愛いじゃないかさ。ちょっとよく見せてごらんよ」

「えぇい、やめろ! 髪が乱れる!」

「また直してもらえば~?」

「酔っているのか、貴様は!?」


 ウザがらみしてくるルピナスの手を、振り払うルシア。

 ホント、キャラの使い分けが極端だな、ルピナスは。


「今日はルピナスが見張ってるから、デリアがサボれないのか?」

「サボんないぞ、あたい!」

「私に見張られて気合い入れるのは男衆だけよ。タイタとか、オメロの坊やがす~っぐ水遊びするんだから」

「今日はしてないのか?」

「したらゲンコツだから」


 おほほと、拳を握って笑うルピナス。

 おっかねぇ……


 ちらっと川を見ると、オメロがなんか俺に向かって手を合わせていた。

 ……お前ら、サボらず仕事しろよ。

 ……え、なに? 仕事はするけど、見られてるとやりにくい?

 なんでだよ。タイタの嫁だろうに。

 最近遊び過ぎて叱られたばっかりだからおっかない?

 自業自得じゃねぇか。

 ……ったく。


「今日はカンパニュラも編み込みしてるんだぞ」

「あら、そうなの!?」

「陽だまり亭で、ちょっとオシャレして接客中だ」

「じゃあ、ご飯を食べに行ったら、オシャレしたカンパニュラが付きっきりでお世話してくれるのね? 行かなきゃ!」

「いや、付きっきりはねぇぞ」

「大丈夫よ。あの娘は、私にとっても優しいもの」


 言って、いそいそと出かける準備を始める。

 河原に下りて、小さいバッグを開けて、中を確認して、蓋閉めて、小脇に抱えて、あ、リップクリーム塗った。

 小指にリップつけて唇に塗るのって、なんか色っぽいよな。


 で、また土手を上がってくる。


「それじゃあ、行ってくるわ。みんな~、サボっちゃダメよ~!」


 いや、お前がこれからサボりに行くんだろうが。

 自由だな、このオバ……お姉さん。

 お姉さんです!

 お姉さん!


 ……怖ぁ。


 ルピナスがるんるんと陽だまり亭に向かい、河原を覆っていた張り詰めるような緊張感が緩んだ。

 どんだけ緊張してたんだよ。


「ヤシロ、ごめんなぁ。今日は魚獲らなきゃいけないから遊びに行けないんだ」

「デリアちゃん、私に『ごめん』は?」

「ん? 今ヤシロに言ったじゃん?」

「私にも言って~!」

「え~、なんでだよぉ?」


 ばっしゃばっしゃ水を跳ねさせて抗議するマーシャ。

 ごめん、言ってやってくれるか? この娘、こうなると長いから。


「悪かったって、マーシャ」

「ヤシロ君に言う時より、可愛さが足りない」

「悪かったな、可愛くなくて」


 おぉ、デリアが膨れた。

 ぷくっと頬を膨らませて、こっちをチラっと見てる。


 あぁ……じゃあ。


「デリア。マーシャとお揃いの頭にしてやろうか?」

「え? ホントか!? やったぁ! マーシャの頭、今日かわいいなぁ~って思ってたんだ」

「じゃあ、言ってよ~! 『今日、可愛いね』って」

「マーシャ、今日はなんか可愛いぞ」

「『も』だもん!」


 デリアに水をかけるマーシャ。

 いつもこんな感じで、マーシャが甘えまくってるんだろうな。

 顔つきや声の出し方が全然違う。


 というわけで、編み込みが終わるまでの間、デリアと少ししゃべることになった。

 別に何をしに来たってわけではない。

 ただ、マーシャが会いたいと言ったのだ。

 ルシアも川漁ギルドの仕事を見たがったので覗きに来ただけだ。


「そうなのか? じゃあ、みんな~! 仕事を見せてやってくれ~!」

「「「おぉー!」」」


 オッサンどもが声を上げ、バッシャバッシャと水飛沫を飛ばす。


「行くぞ、オメロ!」

「おうよ、タイタ!」

「「必殺――水流ドラゴンっ!」」


 ばしゃー! っと、オッサン二人がとんでもない水飛沫を巻き上げて、きゃっきゃっとはしゃいでいる。


「遊んでんじゃねぇよ」

「オッカサンがいないと、あぁなっちまうんだ。あたい、舐められてんのかな?」

「いや、それはないよ」


 エステラ。マジのトーンでのツッコミとかやめてあげて。

 デリアが舐められてるとか、絶対あり得ないけども。


「それでも、魚は獲れているようですね」

「効率は、悪そうですけれど」


 イネスとデボラが岸に打ち上げられる魚を目で追う。

 水飛沫を上げて、魚ごと岸に打ち上げているらしい。

 効率が悪いというか、びっしゃびしゃになるだろう、あんなやり方。

 あぁ、濡れるのが楽しいのね。子供か、お前ら。


「我々なら、ナイフでもっと効率よく狩れますよ?」

「ダメだぞ、えっと……ナタリア、だよな?」


 ちょっと自信ないっぽいな。

 髪の毛ちょっとイジっただけなのに。


「生け捕りにして、河原でちゃんとシメるんだから。あと、陽だまり亭用のは生きたまま届けるんだぞ」


 シメ方一つで、味が変わるからな。

 デリアのシメ方なら問題ないと思うが、デリアが担当できない時もあるし、まぁ、ジネットにやらせるのが間違いない。


「私なら、根絶やしにすることも出来るよ☆」

「マーシャは、今日は川に入るの禁止な」

「え~☆ なんで~☆ デリアちゃ~ん?」


 いや、なんでじゃねぇよ、マーシャ。

 根絶やしにしてどうする。

 生態系を壊すな。


「ほい、出来たぞデリア」

「おぉっ、ありがとヤシロ!」


 頭を振って、視線を上向けて、なんとか編み込みを見ようとするデリア。

 いや、無理だからな?

 残像で自分の髪型とか確認できないから。


「似合うか? ヤシロ」


 そして、素直にわくわくした顔で聞いてくる。


「すげぇ可愛いぞ、デリア」


 なので、素直に褒めておく。

 さすが俺。めっちゃ可愛い仕上がりだ。


「……えへへ」


 デリアは変に照れるよりも、嬉しいが前に来るタイプなので褒めやすい。


「あのな、ヤシロ」


 にへ~っと口を横に伸ばして、デリアが言う。


「頭、撫でられてたの、気持ちよかった。ありがとな」


 言って、ちょっと照れた。


「じゃ、あたい、仕事してくるな! みんなも、好きに見てていいから! じゃ!」


 早口で言って、勢いよく土手を駆け下りていく。

 照れるは、照れるんだよな。


「オメロ~、見てくれ! ヤシロが可愛いって~!」


 と、嬉しそうに言いながら、川で遊んでいたオメロに向かって飛び蹴りを食らわせる。

 ……なぜ、蹴った?

 え、照れ隠し?

 オメロ、なんか、ごめん。


「美女を引っかけに来たのか、貴様は」

「違ぇわ」

「釣り上げられろ、カタクチイワシ」

「お断りだっつーの」


 それから、俺たちはしばらく川漁ギルドの仕事……いや、水遊びを眺めて河原を後にした。




 河原を出た後、ミリィの店に寄ってみたんだが、ミリィはいなかった。

 今日は森か。


「四十二区の森は危険だから、なるべく近寄らないようにな」

「君だけだよ、あの管理された森で何度も何度も捕食されているのは」


 しょうがないだろう?

 あそこの植物、俺ばっかり目の敵にしやがって!


「たぶん、魔草は精霊神が作って世界にばら撒いてるんだぜ?」


 だから、俺ばっかり狙ってきやがるんだ。

 精霊神の性根の悪さが染みついてんだよなぁ魔草には。


「なんでもかんでも精霊神様のせいにするな、フケイイワシ」

「そこまで行くと、大好きと同じに見えますね」


 やめて、ナタリア。

 甚だ遺憾。


「見てみたいですね、魔草に捕食されるコメツキ様を」

「えぇ、是非」

「え、なに、イネスとデボラは俺が嫌いなの?」


「じゃ~、これから捕食されに行くか~!」とはならないからな?

 そんなキラキラした目で見てもダメ!


「魔草に捕食されたら、お前ら全員に抱きついてやるからな?」

「相当臭いらしいな? 義姉様が言っておったぞ」

「あぁ、ヤシロに抱きつかれてたねぇ、ロレッタ」


 あの時のロレッタの騒ぎっぷりを思い出して、エステラが笑っている。


「年頃の女性に抱きつくのは、感心しませんよ、オオバヤシロさん」


 トレーシーが真っ当なことを言う。

 ――今現在、年頃の女性に抱きつきながら。


「どの口が言ってんだ」

「私はいいのです!」

「いや、よくはないですからね? 怒ってないだけで、許容はしてませんから」

「同性ですから、セーフです!」

「同性でも、アウトなものはアウトですからね?」


 めっちゃ乳揉まれたこともあったからなぁ、どさくさに紛れて。


「お前、本当に女に生まれてよかったな、トレーシー」


 これで男だったら、何回か処刑されてるぞ。


「年頃の女性はアウト……ということは、マーゥル様はセーフですか……」

「危険な発言は慎んでくれるかい、イネス!? ここ、四十二区だから!」


 四十二区で、マーゥルの悪口が囁かれてた――とか言われたら堪ったもんじゃないもんな。

 エステラが必死だ。


「一度抱きついてみてもらえますか?」

「ふざけんな」

「喜ばれるかもしれませんよ」

「喜ばれてもキレられても、どっちもゲームオーバーなんだよ、俺は」


 正解のない二択なんぞ選べるか。

「針山地獄と血の池地獄のどっちがい~い?」みたいなもんだよ。

 どっちもお断りだ。


「ちなみに、ゲラーシー様は、年頃の男性なのですが?」

「ですがなんだよ?」

「レッツ、トライ☆」

「なに、イネス、お前は地獄の道先案内人かなんかなの?」


 お前の紹介する道、全部地獄に通じてんじゃん。


「では、三十二区からは、イベール様の奥様をご提供いたしましょう」

「惜しいなデボラ。俺にはご褒美じゃないんだ、人妻って」


 そういうのを喜ぶ層もいるらしいが、俺は違う。


「やはり、Cカップではダメでしたか……」

「違うなぁ、拒絶した理由、そこじゃないんだ」


 もっと、倫理観の問題なんだけどなぁ~、わっかんないかなぁ~?


「……ヤシロ」

「俺は倫理的に正しいことしてるっつーのに」


 エステラ裁判は、どんなに審議を尽くそうと俺が有罪になるように出来てるから、受ける意味がないのだ。

 もっと公明正大な裁きをしてみせろ、三流裁判官め。



 ちゅーわけで、ミリィの店で空振りした俺たちは、そのまま農道を回ってランドリーハイツへとやって来た。


「一瞬、ユナの部屋をここにしてもいいかと思ったんだ」

「あぁ、そうだね。たしかまだ部屋は空いてるから、ありと言えばありだったんだね」


 まぁ、オルキオが面倒見てくれるらしいから、それに甘えておこう。

 あいつ、一人暮らしとかさせると、まともな飯食わなそうだし。


「昔のロレッタみたいに、噛みしめるとほのかに甘くなる草とか食いかねないからな……」

「やめて。その話、泣いちゃうから……」


 エステラは、ハムっ子連中が陥っていたかつての困窮を気付けなかったことをずっと悔やんでいる。

 過去はどうしようもないとはいえ、それでも引き摺るのがエステラだ。

「帰りにベビカス買ってってあげよう」とか言ってる。


 あいつら、いくらでも食えるけどな、もはや。

 つーか、あいつらが作ってる時あるしな。


「まぁ、ヤシロちゃん様!」


 ランドリーハイツの前に来ると、ランドリーハイツ管理人のイロハがいた。


「いえ、ランドリーハイツに入居している娘たちの管理者ですよ!?」


 似たようなもんだろうが。

 もういっそのこと、ランドリーハイツの管理人になって、ここに骨を埋めちまえよ。


「それはとても魅力的なお誘いですけど、……ねぇ?」

「ウチの領民をたぶらかすな、カタクチイワシ」

「カタクチ……まぁ!? ルシア様ですか!?」

「う、うむ。……そんなに分からんものか?」

「まぁまぁまぁ! なんとお可愛らしい! あら、まぁ! ギルベルタちゃん!」

「そう、と応える、私は」

「まぁ~あ、可愛いこと! お家に連れ帰りたいわ!」

「徒歩二秒で着くけどな」


 五歩くらい歩いたら着いちゃうな。


「今日はみなさんで視察ですか?」

「デートだ」

「よく恥ずかしげもなくそのようなことがほざけるな、カタクチイワシ」

「まぁまぁまぁ。さすがですね、ヤシロちゃん様は。こんな美人をたくさんエスコートされて」


 くすくすと、笑うイロハ。

 こいつも、随分と馴染んできたな。

 最初は「こんな大きな部屋落ち着きません」「ここの代表なんてとてもとても」ってうろたえていたのに。


「いろんな方が気にかけてくださいますからね。本当に素晴らしい街ですよ、ここは」


 イロハに言われて、エステラが「えへへ」と嬉しそうにしている。


「……取るなよ、エステラ」

「取りませんよ。まぁ、来る者は拒みませんけどね」

「イロハよ。ノスタルジック街道はよい雰囲気になっておるぞ。大衆浴場が出来ればもっと賑わうだろう。シャワーもなかなかのものだ」

「うふふ。はい、存じ上げておりますよ」


 必死なルシアに、イロハが笑いをこぼす。

 シラハも三十五区を出て、ずっとシラハを支えていたイロハも、今は一時的とはいえ四十二区に来ている。

 ルシアが不安になるのも、仕方ないか。


「なんでしたら、ルシア様も四十二区に来られてはどうです?」


 こらこら。

 さすがに領主は引き抜けねぇよ。


「素敵な殿方がいらっしゃるでしょう?」

「うむ。ハム摩呂たんが成人した暁には、それも真剣に考慮せねばならぬな」

「うふふ……、そうですね」

「なんだ、今の間は?」

「いえいえ。うふふ」


 イロハにからかわれ、ぐぬぬと牙を剥くルシア。

 お~お~、意地でもこっちを見まいと、顔と視線をイロハに固定してやんの。


 ……三十五区の領主イジリ、こっちにとばっちりが来るから勘弁してほしいよなぁ。


「わぁ! ルシア様!」

「えっ、本当に!?」

「本当だ、ルシア様だ!」

「きゃ~! 可愛いです!」

「ルシア様~!」


 休憩時間なのか、ランドリーハイツの面々が集団で戻ってきた。

 あっという間にルシアが取り囲まれる。


 大人気だな。


「今日が幸せなのも」

「「「ルシア様のおかげです」」」

「やめい! それはもうよいのだ! 済んだことだからな!?」


 あぁ、統括裁判所のバカ貴族を釣り上げるために、俺が広めたヤツね。

 まだやってんのか。

 つーか、イジられてるなぁ、ルシア。


「ルシア様、ルシア様」


 イチモンジセセリ人族の小さい女子が、ルシアを見上げて大きな瞳をキラキラさせる。


「三十五区と四十二区を統合して、日替わりで二つの区を行き来して統治するって、本当ですか!?」

「そんな計画などないぞ!?」

「でも、大工のみなさんが!」


 あぁ、それな、連中の妄想なんだ。

 願望といってもいい。


「あれはただ、今日のルシアが可愛過ぎで大工連中が暴走しただけだから、真に受けるな。『そう決まった』とか言い出すと、お前が嘘吐いたことになりかねないから、気を付けろよ」

「そうなのですか……」


 としょんぼりして、イチモンジセセリ人族の少女は俺をじっと見つめてくる。


「――ところで、『今日のルシアが可愛過ぎた』は、カタクチイワシ様のご意見ということでよろしいですか?」

「違ぇわ! 大工連中が暴走した理由がそれだっつってんだよ」

「いろんな理由が考えられるけれど――『やっぱ、一番の理由は、ルシアが可愛いからだよな』っていうことですね!?」

「おい、誰だ! この比較的おとなしかったはずのちっちゃい子に変な病気感染させたヤツは!?」


 すき焼きやった時、この娘はすごく大人しかったぞ!


「四十二区、悪いウィルスが蔓延してんじゃねぇの!?」

「だとしたら、君とレジーナだよ、発生源は」


 だったらなんで、俺に迷惑がかかってんだよ。

 俺が発生源なら、俺に都合のいいウィルスをばら撒くっつーの。


「きっと今日も、ルシア様をたくさん褒めていらしたんでしょうね」


 と、マヨラが前に出てくる。


「『……ふっ、可愛いルシアに頼みがあるんだ。デートの間は俺から目を離さないでくれ。きっと、お前が眩し過ぎて周りが見えなくなっちまうからよ☆』」

「「「わぁ、言いそう~!」」」

「言ったことねぇわ!」


 どこ発信のウザキャラなの、それ!?

 いつ俺が、そんなキザったらしさを通り越してバカ丸出しな発言したかなぁ!?


「……全部四十二区が悪い」


 と、ルシアがぷるぷる震えている。

 赤い顔で俺――をスルーしてエステラを睨む。


 見るのも恥ずかしくなってんじゃねぇよ。


「あと、そなたら! ルシアルシアと気安く呼び捨てにするのではない!」

「「これは、カタクチイワシ様の真似ですので、セーフです」」

「そんなルールはない! えぇい、懺悔してこい、カタクチイワシ!」

「とばっちりもいいとこだ!」


 知らぬ間に、ランドリーハイツが魔窟と化していた。

 恋バナ大好き女子を一つの場所に閉じ込めておくのは危険だということか……

 こいつら、さっさと三十五区に送り返してやろうかな。


 すき焼きの時、火傷を診てやったマヨラは、あれをきっかけに俺を尊敬するみたいなこと言ってたくせに……めっちゃ小バカにしてきやがる。


「オレは、カタクチイワシ様を尊敬してるんですだぜ☆」

「モコカみたいな口調になってんじゃねぇか」


 同列に語るな、あんな変わり種給仕と。


「――ふっ☆」


 それやめろっつーのに。

 やったことねぇから!


 きゃっきゃっ、きゃっきゃっと盛り上がる女子たちに体力を吸い取られ、俺たちは逃げるようにランドリーハイツを後にした。

 ……あそこにユナを預けるのは中止だな。


 ユナが、よからぬものに感染しかねない。

 くそぅ、レジーナのそばの方が安全だなんて、なんて魔窟だ、ランドリーハイツは。




 さっさとランドリーハイツを後にして大通りへ。


「ほほぅ、ここが手配書の貼られていた掲示板か」

「やかましいわ」


 まだ頬から赤みが抜けないルシアが八つ当たりしてくる。

 せんせー、イジメっ子がここにいます。


「指名手配されたのですか、コメツキ様は?」

「ん? あぁ、昔ちょっとな」

「それで、そんなぺったんこに……」

「ちょっと待ってデボラ! どーゆー意味!?」

「揉まれ過ぎて……」

「すり減って……」

「「ぺったんこに」」

「違うし、うるさいし、ぺったんこ言わないで、他所の給仕長二人!」


 エステラが、イネスとデボラからめっちゃ距離を取る。

 心の距離を。


「……ヤシロのせいで」


 どっちかって言うと、ルシアのせいじゃね?

 まったく……


「昔、ここのルールをよく理解していなかった時にな、他人からチョロまかした香辛料を高値で売りつけようとしたら、盗品だってバレたんだよ」

「ちょっ、ヤシロ!?」


 俺の袖を引いて、エステラが耳打ちしてくる。


「……いいのかい?」

「まぁ、もうノルベールとも和解したし、ゴッフレードもウィシャートもいない。時効でいいだろう」

「時効は被告が決めていいものではないわ、バカタレイワシ」


 事情を知っているルシアも参加して、ひそひそ話す。

 というかだな――


「マーゥルあたりがあっという間に嗅ぎつけて、事情を聞きに来るぞ。先んじて情報流しといた方が好感持てるだろ?」

「まぁ……確かに、バレて追及されるよりは……」

「四十二区で罰は科したのか?」

「科したというか……厳重注意と、あとは使用用途が人道的でしたので情状酌量の余地はあるかと」

「ならそれでよい。区内で捕らえた罪人の扱いは、その区の領主に委ねられている。被害者が統括裁判所にでも訴えていない限りは、上が出てくることもあるまい」


 おぉ、知らない間に罪が消えてた。

 ラッキー。


「そのおかげというと語弊があるが、それがウィシャート排斥のキーになったのも事実だ。殊更追及する必要もあるまい」

「するつもりはありませんでしたけど、ルシアさんにそう言ってもらえると、ちょっとほっとします」

「あくまで、個人的な解釈ではあるがな」

「じゃあ、今度マーゥルさんにも聞いてみます」

「うむ。『カタクチイワシ一回使用権』で相談に乗ってくれるであろう」

「勝手なこと抜かすな」

「では、その旨、主様にお伝えしておきますね」

「こっちの内緒話を、ばっちり聞き取ってメモしないでイネス。で、お前の主はゲラーシー!」

「ふなーしー?」


 惜しいけど違うな!?

 いや、そんな言うほど惜しいかな!?

 聞いたこともない名前でびっくりして、ちょっと訳分かんなくなっちゃったわ!

 もうホント、一切聞いたことがない!

 似たようなワードも、耳に覚えがない! ないったら、ない!


「イベール様には……」

「言っといていいぞ。それで俺を攻撃してくるつもりなら、『受けて立つ』と言っといてくれ」

「いえ。そのようなことはなさいませんし、私がさせません」


 一瞬、空気がピリつくくらいの殺気を放つデボラ。

 なんでお前が怒るんだよ、おっかねぇよ、悪かったよ。


「しかし、憑き物が取れたような顔だな。私に告白した時には、緊張で今にも倒れそうな顔をしておったというのに」


 まぁ、確かにあの時は死にそうなほど緊張してたけど……


「お前が真剣に聞いてくれて、ちゃんと応えてくれたから、かもな」


 ルシアに話した後から、正確にはルシアが赦してくれた後から、すげぇ楽になったんだよな。

 俺が香辛料を騙し取った行商人ノルベール。その付き人のオウム人族ベックマン。

 ベックマンに会って以降、変な動悸がしてたんだが、ルシアに話した後からそれもなくなった。


 あれも一種の懺悔だったのかねぇ。


 そう、ジネットに過去の話をした時のような、……それで、その後全部がうまく片付いた時のような――心がふわっと軽くなる感じがしたんだよな、あの時。

 ルシアには、デッカい借りを作っちまったかもしれない。


「ありがとな、ルシア」

「や、やめい! ……急に改まれると、なんかこっちが恥ずかしくなるわ、タワケ」


 なんでか、俺以上に照れて、ルシアがそっぽを向く。


 そして、ルシアだけじゃなくてもう一人。


「エステラも、ついててくれてありがとよ」

「まぁ、約束したからね。もう絶対、君を一人にはさせないって」


 こちらは照れることなく、むしろ俺を照れさせるようなクサイ発言を恥ずかしげもなく言い放つ。

 もうちょっと大人になったら、今までの言動がまとめて全部恥ずかしくなったりするのかもな。

「ちょっとイキっちゃったかな~」って。

 あんま、黒歴史を量産すんなよ?

「あ、今いいこと言った」とか、黒歴史候補だから。

 特に、「あ、いいこと思いついた! 誰かに言いたい! ……よ~し、これを言うために状況を整えて、今度披露しちゃうぞ~」とか考え始めると、それは確実に黒歴史になる。

 名言っていうのは、言おうと思って準備しておくと途端にチープになるからな。


 感情の波に抗わず、最高のタイミングでふいに発せられた言葉こそが、名言たり得るのだ。


 お、今いいこと言ったな。

 よし、今度どっかで言ってやろう。

 みんな感動するぞ~、くっくっくっ。


「なので、俺は犯罪者だからあんま懐くなって主どもに言っといてくれ」


 最近、懐かれ過ぎて肩凝ってるからなぁ~――と、そんな冗談を言ったら、イネスに抱きしめられた。

 俺より少しだけ背の低いイネスが、俺の頭を包み込むように抱き寄せ、耳元で囁く。


「あなたが自分の罪を許せるように、私も少し同じ罪を背負いましょう」


 ぽんぽんっと、後頭部が叩かれる。

 いや……別に、そんな重い十字架背負ってないんだけど?

 むしろ、もうすっかり軽くなって、あっさり騙されたノルベールが悪いと思い始めてるけども……


「では、私も背負いましょう」

「共有する、私も、友達のヤシロの罪を」


 デボラとギルベルタも抱きついてきて、みんなで俺の頭を撫でまわす。



 ……あぁそうか。

「気にしてない」って思ってる時点で、ずっと気にしてたってことなのか。


 まったく。

 ジネットみたいなこと言いやがって、どいつもこいつも。


「分かった。もう十分背負ってもらったから大丈夫だ」


 両手を上げて解放を求める。

 ほら、離れろ。もういいから。


「おかげで軽くなったよ。ありがとな。――ネネ以外のみんな」

「い、いえ! 出遅れてくっつける場所がなかったのでタイミングを見計らっていただけで、気持ちはみなさんと同じですよ!?」

「いや、いいって無理しなくて」

「ヤシロさぁ~んっ!」


 もどかしげに両腕を振るネネ。

 そういう反応してくれると、空気が軽くなっていいよ。


「人には歴史があるものです」


 と、イネスが自分の過去を語り出す。


「私も幼少のころに万引きをして、母に吐くほど叱られたことがあります」

「イネス!?」


 何やってんの!?

 っていうか、なんで急にそんな話をし始めた!?


「指先の器用さを鍛えようと実地訓練に励んでいまして」


 他に方法なかったのか?


「雑貨や服飾、食料品などを万引きしては、一時間後に気付かれずに戻しに行くという行為を繰り返し」


 本気で訓練のつもりだったんだな。


「腕が上がってきた折、ちょっと調子に乗ってベッドを万引きしたら母に見つかりまして」

「よく万引き出来たな!?」

「持ち出すのは簡単でしたが、返しに行くまでの一時間、私室に保管していたところ『家具が増えてんじゃねぇか』と」

「そりゃ見つかるよね!?」

「そして、事情を話したところ……おっと、これ以上は規制が――」

「何されたの!? 表現濁さなきゃいけないようなことされたのか、母親に!?」

「「分かります」」

「分かっちゃったね、給仕長二人!?」


 ナタリアとデボラが頷いている。

 イネスを含め、この三人は母親が前給仕長だったパターンか。

 母親が一番厳しい家だったのだろう。


 ギルベルタは、父親が厳しかったんだっけな。


「そういう経験でしたら、私もありますよ」

「デボラも!?」

「ある、私にも、幼き日の過ちが」

「ギルベルタまで!?」

「私は……特には」

「あぁ、案外必要だったのかも、危険と隣り合わせの訓練!?」


 ネネだけはリスクを冒すことなく成長してきたらしい。

 そこの差、出ちゃってるのかなぁ!?

 ない方がいいんだけどね! なんかね!?


「では、我々の罪も」

「背負ってください」

「ありがとう伝える、友達のヤシロに」

「さほど重くもなかった罪を勝手に背負って、空いたとこにくっそ重たいの載せてこないでくれる?」


 一応、全部罰を受けて清算しているらしい。

 まぁ、俺のと違って被害は軽微だからな。品物も返してるし。


 俺?

 俺のは、ほら、ノルベールの命救ったし?

 あのままウィシャートとつるんでたら、きっといつか消されてたぞ、ゴッフレード諸共。

 だから、な? チャラだ、チャラ。

 ……元気でやってるといいなぁ、ノルベール。


「掲示板のせいで酷い目に遭った……撤去しようぜ、こんなもん」

「出来るわけないだろう。二度とここに手配書が張り出されないように、真っ当に生きるんだね」


 へーへー。

 真っ当に生きていれば、世間の目に煩わされることもないってか?


 と、掲示板の方に目をやると、木の陰にマヨラがいて、こちらを窺っていた。

 ん? いつからそこにいた?


「あの、これ、トレーシー様のハンカチ、染み抜きが終わったものがあったのでお渡ししようと追いかけてきたんですが――」


 言いながら、見る見る顔が赤くなって、瞳がきらきらと輝きを増していく。


「ルシア様、カタクチイワシ様に告白されていたんですね!?」

「「はぁ!?」」


 何を言ってるんだ、こいつは?

 ついに現実と妄想の区別がつかなくなったのか?


「『会話記録カンバセーション・レコード』!」


 マヨラが嬉しそうに呼び出した『会話記録カンバセーション・レコード』には、こんな会話が記録されていた。



『しかし、憑き物が取れたような顔だな。私に告白した時には、緊張で今にも倒れそうな顔をしておったというのに』

『お前が真剣に聞いてくれて、ちゃんと応えてくれたから、かもな。ありがとな、ルシア』

『や、やめい! ……急に改まれると、なんかこっちが恥ずかしくなるわ、タワケ』



「おめでとうございます!」

「「違ぁーう!」」


 その後、熱暴走を起こすマヨラに事の経緯を懇切丁寧に説明して、誤解を解いた。

 放熱させるのに苦労した……

 いいから、その「またまたぁ~」みたいな目をやめろ!


 まったく。

 真っ当に生きても世間の目に煩わされんじゃねぇか。

 ……なんて日だ。




「いらっしゃー……どしたの、みんな?」


 カンタルチカに入るや否や、ルシアが座席に座り、足を組んで「エール!」と注文を入れた。


「っていうか、ルシアさん? わっ、みんなも可愛い~! ……で、なんでヤサぐれてんの?」

「まぁ、いろいろあったんだよ」


 エステラが事情説明を放棄して、パウラは「ふぅ~ん。まぁ、どうせいつもの感じでしょ?」と、概ね正解を言い当てる。

 それはそうと、マーシャがずっとくすくす笑っている。


「みんな可愛い髪型でいいなぁ~。あ、マーシャもやってるんだ」

「えへへ~、い~でしょ~☆ デリアちゃんもやってもらってたよ」

「え~、いいなぁ~! ねぇ、ヤシロ、あたしにもやってよ」

「なんで俺がやったって分かんだよ?」

「だって、ヤシロしかいないじゃん」


 そんなことはないと思うけどな。

 で、パウラにやると、ついでにネフェリーにもやらないといけなくなりそうで怖いんだけど?

 ……ネフェリー、どこが髪なの?


「それで、今日はなに? みんなでお酒?」

「いや、まぁ、でも、とりあえずルシアさんに一杯あげてくれるかな」

「えぇ~、これだけいるのに一人しか飲まないの~?」

「パウラ、グレープフルーツジュース」

「はい、20Rb」


 チィッ!


「……物価が上がってる」

「お値段据え置きなんだけど?」


 俺は無料で飲んでたもん。


「領主のせいか……増税領主め」

「心外なこと言わないでくれるかな? 増税なんてここ数十年したことないよ」


 いや、そこはしとけよ。

 なに、親子二代にわたって甘々なの、お前ん家?


「あっ、そうだ。お父様に手紙書かなきゃ」


 話題に上がって思い出される父。

 先代領主さんよぉ、お宅の娘は薄情に育ってるぞ。

 普段、父のことなんて全然考えてないみたいだ。

 乳のことは毎日考えてるのに。


「それは君だよ」


 いいや、お前もだ。


「うん。エステラもだね」

「ひどいよ、パウラ!?」

「そう言われるような言動を慎まないとね~☆」

「マーシャまで……ヤシロのせいで」


 なんで俺だ。

 人のせいにすんな。


「我々も少しいただきましょうか」

「そうですね。軽くなら」

「私は案外弱いと自負しておりますが、お供しましょう」

「便乗する、私も」

「後ろ二人はやめとけ」


 酒が弱いと自負しているデボラと、酒を飲むと「ぽわぁ~」ってしてふらふらするギルベルタは止めておく。

 飲みたきゃ、この後ちょっと飲ませてやるから。


 そうそう、そのためにここに来たんだった。


「パウラ、蒸留酒ってあるか?」

「蒸留酒? あ~、ウチにはほとんどないなぁ。父ちゃんが趣味で飲んでるブランデーならあるけど」

「いいもん飲んでやがるな」

「でしょ~? お客さんには出さないんだよ。高いからって」

「もっと高く売ってやりゃあいいのに」

「ウチの客層じゃ、ちょっとね~」


 まぁ、ここはお安く飲んで食って大騒ぎする場所だからな。

 高級な酒を静かに嗜むような客は来ないか。


「どっかにバーとかないか?」

「バー?」

「カウンターで静かに酒を飲むような感じのところだよ」

「檸檬とか?」

「あそこ、スイーツ屋だろう?」

「マスターさんが、趣味で自分の好きなお酒を出してるんだよ。お店が狭いから、落ち着いた雰囲気で飲めていいんだって。……父ちゃんが」


 パウラが仇敵を睨みつけるような鋭さで父親を睨む。

 他所の酒場に金を落としてる父を許せないようだ。


 まぁ、自分の店で飲むのと他人の店で飲むのは、全然違うからな。

「うんうん!」って全力で頷いてるな、オッサン。

 つーか、そんな飲みたきゃ、自分の店でも扱えばいいのに。

 え、なに? 「あったら全部飲んじゃうからダメだ」って? 自制しろ。


「でも珍しいね、ヤシロがお酒飲みたがるなんて」

「飲みたいんじゃなくて、使いたいんだよ」

「またケーキ?」


 あぁ、パウラには洋酒を使ったケーキを教えたんだっけな。

 だが違う。


「今度三十三区の酒好き領主が四十二区に来るかもしれないから、そいつに飲ませる酒を準備しようと思ってな」

「それで、ウチに招待したいんだね! まかせて! 美味しいお酒用意しとくから!」


 いや、たぶんヴァルターは、カンタルチカの酒には感動しないと思うぞ。

「美味い」とは言っても、自分のとこでも飲める酒だ。

 歓待という意味では、こういう場所で酒を飲ませるのも手法として間違いじゃないかもしれないが、どうせならその一歩上を行く驚きを与えたい。

「四十二区、侮れねぇ!」ってくらいにな。


「だからカクテルを作ろうと思ってな」

「かくてる?」

「いくつかの酒を混ぜる飲み方だ」

「へぇ~……、美味しいの?」


 さすが酒場の娘。

 知らない飲み方には興味があるらしい。


「ノーマが、カクテルを作る道具を作ってくれてな」

「え、いつ? ずっと三十五区でシャワー作って、昨日帰ってきたところだよね?」


 うん。

 まったくもってその通りなんだけど、不思議と出来てるんだよ、なんでか。

 世の中って、不思議だよなぁ。


「え、それって、今日やるの?」

「まぁ、今日やらないと、こいつらが飲ませろってうるさいだろうし」

「当然だ。次はいつ来られるか分からぬのだ。飲んで帰る。そもそも、今日は頑張った私を歓待する日であろうが」


 いつ決まったのか知らんことを、決定事項かのようにのたまうルシア。

 あ~ぁ、もう飲み始めちまってる。


「も~ぅ! あたし、昨日休んじゃったから今日はフルで出るつもりだったのにぃ~!」


「だったのにぃ~」って……来るつもりか?


「当然でしょう? ヤシロが考えた新しいお酒の飲み方を、カンタルチカの看板娘であるあたしが知らないわけにはいかないじゃない!」

「俺が考えたんじゃなくて――」

「あぁ、はいはい。いつものアレでしょ? じゃあ、ソレでいいから、あたしにも飲ませて」


 雑だな、俺の扱い!?


「それに、お酒の街の三十三区領主様を唸らせる自信作でしょ? 興味あるもん」

「……ん。……ん」


 なんか、パウラの後ろでオッサンが圧をかけてくる。

 自分も興味があるってことらしい。


「そうだ、ウチでやりなよ!」

「こんだけ領主がいて、酒飲みの中に置いとけるか」


 こいつら、酔っぱらうと絡むから。


「ハロウィンの時だって、似たような感じだったじゃない」


 まぁ、それはそうなんだが……


「いろいろと準備があるからな。陽だまり亭じゃないと無理なんだ」


 氷がいるしな。

 何往復もしてられん。


「じゃあ、あたしも行くね」

「だったら、ネフェリーも誘っといてくれ。誘わないとうるさいから」

「あ~、ヤシロ、うるさいとか言うと、ネフェリー怒るよ?」

「じゃあ、そこは黙っといてくれ」

「ざんね~ん、あたし、怒られてるヤシロって、結構好きだから」


 もっとマシなとこ好きになってくれよ。

 微笑んでいる俺とか、涼しげな眼差しの俺とか――


「おっぱいを堪能している俺とか。おぉそうだな、それを見るためにはおっぱいを――」

「じゃあ、ネフェリーとジネットに詳細伝えとくね」


 なんでジネットまで!?


「叱られてきなよ、もう」


 敵が多いな、この街は!?


 蒸留酒がないかとカンタルチカに来てみたが、醸造酒がほとんどか。

 ビールもエールもワインも清酒も、みんな醸造酒だ。

 ワインを蒸留するとブランデーになるので、やっぱあるところにはあるって感じなのか、蒸留酒。


「新しいお酒の飲み方かぁ……、楽しみだなぁ」


 いつか、パウラがカウンターでシェイカーを振るようになるかもしれないな。

 ここの地下に氷室作りたいとか言ってたし。

 風呂は諦めて、氷室にするんだよな。パウラはお客様ファーストだから。


「ねぇ、いつから始めるの? やっぱり夜?」

「いや、こいつらを帰さなきゃいけないから、もうちょっとしたら始めるぞ。日が暮れる前には馬車に乗せる」


 そうでなきゃ、こいつらまた泊まっていくとか言い出すから。


「じゃあ、ちょっと味見して、お店戻れるじゃん! やったね!」


 酒を飲んで仕事をしても怒られない、大らかな街だよ、四十二区は。


「ん――」


 と、パウラの親父さんがカウンターから出て来た。

 手にはかけ看板。


 ……え、臨時休業?


「オッサンもついてくるつもりかよ!?」

「ん!」


 めっちゃ目をキラキラさせてやがる。

 好きなんだなぁ、酒が。


「じゃあ、開店は夜からって書いとけよ」

「……ん」


 さらさらと文字を書き足して、いそいそとドアにかけに行くオッサン。

 いや、俺らこの後ミリィに会いに森まで行くんだが……

 まぁ、俺が行くと捕食される危険があるから、パウラにお遣い頼もうかな。


 ミリィに言って、リンゴをもらってきてもらう。

 ユナのお見舞いと、カクテルにちょっと使いたいんだよな。


 というわけで、移動する先々でダメージを受けたルシアと、エステラさえいればなんでもいいトレーシーは陽だまり亭に戻ることに賛成した。

 結局、ゆっくり街を散策とか、出来ないんだよなぁ、こいつらは。







あとがき




パウラ父、実は最初は結構ペラペラしゃべってたんですよね

今でこそ、無口キャラみたいな扱いですけども


『異世界詐欺師π』をアップしていく中で、当時の話をチラチラ読み返していると

パウラ父、めっちゃしゃべってる!?

しかも、若干ガラ悪い!?

と、驚いてしまいました(^^;


なんか当初は、

可愛いヤンキー系少女父親って、ヤンキー系の強面お父ちゃんだよね~

みたいなイメージで書いていたんでしょうか

そんな雰囲気醸し出してましたね、パウラ父

しかも、ロレッタと再婚したそうにしてましたし、ギャグっぽくですけども


今とキャラが違うな~って


今はもう完全にカールオジサンのイメージで書いてます

オーバーオール着て、無害そうで、「まいうー」とか言って


あ、違う人が混じった!?


まぁ、きっと

街が変わって、パウラも変わって、

カンタルチカの雰囲気も変わって

パウラ父もいろいろ心境の変化があったのでしょう


……ということにしておきましょう☆



大人って、

少なくとも三つの顔を持っているものだと思っています。


幼少期の無邪気なころの顔と

思春期ころの無敵感と甘酸っぱい恋愛をしていたころの顔と

社会に出て大人の世界で身に付けた顔


そのどれもが、成長していく過程で失われていく、――わけではなく

全部きちんと残ってるものだと思います


いまだに、子供のころみたいにオモチャにはしゃいだり出来ますもの

きっと、皆様の中にも、そんな『あのころの顔』が眠っていると思うんです


まぁ、不眠不休であのころの顔が表に出まくってる人もいるかと思いますけども!

私とか!


( ゜∀゜)o彡゜ 思春期バンザイ☆


そこに、結婚とかしたら、

夫の顔、妻の顔、父の顔、母の顔と、どんどん増えていくわけですよ



なので!

パウラ父の性格が変わっててもなんら不思議はない!

辻褄合わないとか、そんなことはないのです!

うっかり設定忘れてんじゃねぇ―よとか、そんなことじゃないんです!


人間が描けているというのです、これは!

そーゆーことにしておきましょう、ここはひとつ!

うん、それがいいと思います!


はい、決定!( ̄▽ ̄)/



ちゅーわけで、

町娘の顔で、領主様たちが四十二区散策です


これ書いた時はたぶん、新人研修の準備に忙殺されてた時だったかと……

始まる前が一番大変なんですよ、今年度入社した新入社員の皆様!?

指導係とか、教育係の先輩たち、上司たち、なんか当たり前みたいに指導してるかもしれませんけど、

その直前、みんなてんてこ舞いなんですよ

(^^;


「こいつウッゼ!」とか思うかもしれませんけれど、おっちゃんたちも頑張ってるんですよー!


という感じで書いていたような気がします(笑)


まぁ、なんでも準備段階が一番忙しいもんですよね

いざ始まってみると、案外なんてことなかったりするものなんですけども

準備段階でしっかり不安要素を潰しておかないと後々痛い目見るのは自分なので

準備はもう、それはもう、入念にするわけですよ


準備がおろそかだと、

物語りが進まなくて、とりあえず女性キャラとイチャイチャするだけのお話になったりするわけです


……今だ、それ!?Σ(゜Д゜;)


準備、大事!



そうそう

今年度から、教育係に任命されたオバ……お姉さんがいるんですが

こちらの方、仕事は非常にデキる方なんですが、

とにかく人前で説明するとか、しゃべるとかいうのが大の苦手だそうで……


仕事中、めっちゃ私語してますよね、あなた!?

関係ない私の耳にまで届くくらいの大きな声で!

あなたの家の夕飯、結構な割合で把握してますよ、私!

いえ、あなたが大きな声で「昨日ハンバーグ作ったんだけどさ、余っちゃったから今日はハンバーグカレーにするのよ~」とか言ってるから

その時も私、「残る方逆じゃね!? カレーが残ったからハンバーグ入れてハンバーグカレーに、なら分かるんですが、ハンバーグって余るものなの!? 一人何個って決めて作るんじゃないの!?」って思ってましたよ?

口にこそ出しませんでしたけれども!


そんなオバ……Aさん! 仮にAさんとしておきましょう!


そんなAさん、新人の前で説明とかするのが本気で憂鬱だったらしくて

「ホントやだ~、ホントむり~」ってずっと言ってまして

それを見かねたのか、お友達のオバ――お姉さん! Bさんにしておきましょうかね、仮にね!

Bさんに励まされてたんですが、

このBさん、なんかイントネーションが独特な方で

というか、結構聞き取れないことが多いんですけども――



Bさん「大丈夫よ! Aさんミンキーモモだから、きっと新人さんとも仲良くなれるわよ!」



……ミンキーモモ?

え、Aさんミンキーモモなの?


宮地「……ミンキーモモ?」

Aさん「ね! 今、ミンキーモモって言ったよね? 私もそう聞こえた」

Bさん「言ってない言ってない! にんきももって言ったの!」

Aさん「え、なに? 『人気者』?」

Bさん「そう!」

宮地「いや『もも』って言ってたよ、今」

Bさん「それは、私、なまってるからー」

Aさん「あぁ、Bさんって、ちょいちょい変なとこ伸ばすよね。『ハンバーグー』とか」

Bさん「えっ、みんな『ハンバグ』っていうの!?」

宮地「そこじゃないよ!? 今、伸ばす伸ばさないの話してるとこ」

Aさん「絶対『にんきーもの』って言ってたよね、今」

Bさん「言ってないよ~!」

Aさん「じゃあ、もう一回言ってみて」

Bさん「ミンキーモモ?」

宮地「そうじゃなくて!? 『人気者』」

Bさん「にんきーもも」

宮地「寄せたじゃん! めっちゃミンキーモモに寄せてきたじゃん!?」

Bさん「もー! みんなが私のことミンキーモモとか言うからー!」

宮地「あなたには言ってないよ!?」

Aさん「私だから、ミンキーモモ!」

宮地「いや、あなたもミンキーモモではないけどね!?」



というわけで、

今年度はミンキーモモと二人で新人教育です


始まってみたら、ま~ぁ、しゃべるしゃべる、ミンキーモモ。


Aさん「あ、そこね、こうやった方が失敗しないから――あぁ、待って! そこ失敗しやすいから、一緒にやって行こう。ね、慌てなくていいから。え、なに? 緊張してんの? いいのよ、緊張なんかしなくて、バテちゃうよ、ご飯ちゃんと食べてきた? 朝は食べなきゃダメよ? ウチなんかさ、昨日ロールキャベツ余っちゃって、それ朝に食べてきたんだけど――」

宮地「だから、なんであなたの家は一人何個って数決まってそうなものが残るの?」

Aさん「違うのよ、いっぱい食べるから、多めに作るのよ、いっつも」

宮地「息子さんが?」

Aさん「私が」

宮地「お前かい!?」



今年度の新人教育は、非常に賑やかです☆




とまぁ、そんな感じで

人にはいろいろな顔があるとか、準備で大変な時期に書いてたな~みたいな感じのお話でした☆

しばらくは、ヤシロたちのわちゃわちゃした日常をお楽しみください☆



頑張ってストック作って

余裕が出来たら物語を進めていきたいと思います

(≧▽≦)/


次回もよろしくお願いいたします

宮地拓海

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