490話 ユナとレジーナ
「へ? ユナをレジーナの後継者に?」
風呂から上がってきた一同がアイスクリームを食べて盛り上がっている中、エステラを端っこに呼び出して話をしておく。
「いいんじゃないかな」
エステラの答えは、意外とあっさりしていた。
「ユナが嫌がらなければ、だけどね」
「まぁ、そこは強要するつもりはない」
「けど、今言ぅたら、『ここに残るためには、嫌でも言ぅこと聞かなアカン』とか思いそうやんなぁ」
ネガティブ出てるぞ、レジーナ。
そこまで嫌がりはしないだろう。
「とりあえず、しばらく陽だまり亭で面倒を見てあげて、その間にレジーナが薬のこと教えてあげたらどうかな? レジーナも、まだしばらくは陽だまり亭にいるんでしょ?」
「まぁ……せやねぇ」
「知識の流出とか、一切考えてないだろ、お前?」
「だって、ユナだよ? いい子じゃないか」
悪い子はいい子のフリがうまいんだぞ?
現に俺がそうだ。
「まぁ、別に、ウチのやり方が薬師ギルドに漏れたところでかまへんのやけどね。同じもん作ったって、向こうは高いんやろ?」
「向こうが特許を主張しなきゃな」
「とっきょ?」
「『これはウチのオリジナルで、薬剤師ギルドがレシピを盗用した』とかな」
「いや、だって、レジーナの薬はすでに三大ギルドが使ってるじゃないか。それに薬師ギルドの他の薬と作り方も材料も全然違うし、そんな主張は無理があるよ」
「『古来の製法で厳重に管理されていたものだったが、最近これを模倣した薬が出回っているという噂を聞きつけて取り締まるために公表した。改良を重ねて現在の製法に至ったが、昔はこういった製法を使用していたという「記録」がある』」
「……よく回る舌だね、本当に」
「『記録』なんか、今からでも、いっくらでも作れるさかいなぁ。狡っからいわぁ~」
まぁ、そういう手法も取れるという話だ。
「ほんで、黒ウサはんがそれに加担してはるって言いたいんか?」
「可能性はゼロじゃない、って話だ」
考えなしのバカ貴族をぶつけてきておいてこちらの油断を誘い、その裏でこちらの弱点を突いてくる作戦かもしれない。
「ちょっと調べりゃ、四十二区のお人好し具合なんかすぐ分かる。人畜無害そうなキャラを装って、重要機密を盗み出そうと謀っても、まぁ不思議はない」
「大丈夫だよ。ユナはいい子さ。ボクは、人を見る目だけはあるからね」
「「ホントだ、人を見る目以外が全然ない」あらへん」
「うるさい!」
俺とレジーナの視線が集まった胸元を隠してこちらを睨むエステラ。
自分で言ったんじゃん、「だけはある」って。
翻って「それ以外はない」ってよぉ。
「確かに、いやらしい貴族やったら、そういう手ぇも使ぅてくるやろうけど……そう思うんやったら、なんで黒ウサはんを陽だまり亭に迎え入れたん?」
「ユナは大丈夫だからな」
どんなにうまく隠そうとも、悪意を持ったヤツは『ニオイ』で分かる。
自然と出ちまうもんだからな、そういう悪意の欠片は。
「ナタリアやマーゥルくらい狡猾なヤツなら分からんが、ユナの言動は『バカ』が付くくらいまっすぐだ。あいつに他人を騙すようなスキルはねぇよ」
「ほなら安心なんとちゃうのん?」
「単純だからこそ、利用しやすいってこともあるんだよ」
何も知らない善良な市民の旅行鞄に麻薬を仕込んで、本人が気付かないところで運び屋に仕立て上げる――なんてことも、十分あり得る話だ。
善良な市民の体に盗聴器を忍ばせておけば、重要機密を盗み聞くことも可能になる。
「ユナの『会話記録』を見れば、お前との会話は全部筒抜けになるだろ?」
「ユナがそれを誰かに見せるっていうのかい?」
「たとえば、テレサが人質に取られたら、バルバラはなんだってするぞ?」
「……ユナにそういう人がいないか、一度調べてみる必要があるかもね」
「あぁいや、ユナを疑えと言ってるんじゃなくて――」
「そういう可能性を考慮して、それでも引き受けるんか、っちゅうことやんね?」
まぁ、そういうことだ。
あくまで可能性の話。
「ユナが誰かに命令されてここに来ているのなら、おそらくどこかでその『誰か』に接触をするだろう。だが、四十二区で『誰か』がこっそりとユナに接触するのは難しい」
「ハムっ子たちがいるからね」
「それに、四十二区に誘ったのはこっちだからな」
あの時のユナの驚きは、とても演技には見えなかった。
まぁ、いくら役者志望といえど、あそこまでの芝居は出来ないだろう。
「強引にこちらに食い込んでこようとしてたなら怪しいが、ユナはそうじゃなかった」
「君はユナを警戒しているのかいないのか、どっちなのさ?」
「していない、が、しなくていいとは思っていない」
「まぁ、それは誰が相手でも一緒やね。自分、他所の領主はんのことも、まだちょっと警戒してるやろ?」
当たり前だ。
あんな外圧に弱い連中。
「『今この瞬間』は信頼できる。だが、その信頼が未来永劫、無条件で続くとは思っていない」
「そんなのは、みんなそうじゃないか」
「だから、信じ過ぎるなと言ってんだよ」
「う~ん」っと、口をへの字に曲げ、腕を組んで頭を傾げるエステラ。
難しそうに眉間にシワを寄せていたその顔が、ぱっと明るくなる。
「やっぱりユナは大丈夫だよ。ボクが保証する」
何を判断基準にしたのかは知らんが、エステラはユナを安全だと判断したようだ。
……まぁ、俺も概ね同じ意見だけど。
ただ、もうちょっと警戒心を持ってほしいもんだが……まぁ、これが微笑みの領主様たる所以か。
「まぁ、エステラは、胸以外はなんでもあるからな」
「『人を見る目だけはある』、だよ!?」
「胸だけがあらへんからな」
「それはダイレクトな悪口だよ!?」
「「「胸がなぁ……」」」
「うるさいよ、しれっと増えたナタリアを含めた三人!」
近くのテーブルをバンバン叩いて、エステラが声を上げる。
はいはい。アイス食べてきていいから、機嫌を直せ。
「ジネット~!」
「は~い」
向こうでユナたちと話をしていたジネットを呼ぶ。
あ、ユナもついてきた。
べったりだな。
「話が終わったから、エステラにもアイスをやってくれ」
「はい。何味がいいですか?」
「いちご!」
ストロベリーといえ。
子供か。
「あと、ユナの部屋なんだが――」
「わ、私なんて、その辺の床で大丈夫です!」
「ユナー、アウトー!」
「ぇ? あっ!?」
『私なんて』と言ったので、アイスを食べ終えた女子連中がユナに飛びかかってくる。
わぁ、怖い。
この画角で見ると、向かってくる女子たちの瞳が爛々としてて、めっちゃ怖かった。
草食動物の気持ち、分かっちゃった。
「客間にしようかと思ったんだが、今日は給仕長連中が使うし、今後も何かあると使うだろ?」
「確かに……その度に移動してもらうのでは、ユナさんが落ち着けませんね」
「だから、レジーナと一緒にオルキオに頼もうかと思うんだが」
「レジーナさんと同じ部屋に、ですか?」
「ダメだよ、ヤシロ! レジーナが伝染っちゃうじゃない!?」
「ヒドイこと言ゎはるなぁ、イヌ耳店員はん」
「どうせ、もうすでに部屋汚してるんでしょ? 脱いだ下着、ちゃんと片付けてる?」
「あんな、ニワトリはん。さすがに他所様のお宅でそんなこと――ひたたたっ! なんでほっぺ摘まむん!?」
「『ネフェリー、ちゃん』」
「ここ船の上ちゃうやんかぁ~!」
「『パウラ、ちゃん』」
「前も見たわ、この感じ!?」
「『ノーマ、ちゃん』」
「いや、さすがにキツネの鍛冶師はんに『ちゃん』は――」
「あ゛ぁ゛?」
「のーまちゃん」
いや、前に見たわ、この流れ!?
ここまでの流れ!
「昨日一緒に寝たマグダはどうだ?」
「……お~ぅ、もぅれつぅ~ん」
「伝染っとんなぁ、どーやら!?」
「自分で言うんだ、レジーナ……」
「これじゃ、ユナちゃん、絶対落ち着かないよね」
パウラとネフェリーからの冷たい視線を一身に受けるレジーナ。
まぁ、こいつの私生活も、ユナを投入することで改善されるかもしれない。
「とりあえず、荷物はそこに置いといて、寝るのは自由にすればいい」
拠点が決まってるってのが、安心感を生む。
何かある度に荷物を移動させるのは負担だし、身一つなら気楽に移動できるだろう。
「そうですね。どうですか、ユナさん?」
「ぃ、いえ、私は、本当に、なんだって……お任せします」
「初めての四十二区で落ち着かへんやろうし、今夜は店長はんと一緒に寝るのがえぇかもしれへんな。安心するやろ、店長はんの傍は」
「でも、……お邪魔になりませんか?」
「そんなことはありませんよ。わたしは、ユナさんと一緒だと嬉しいですよ」
「ちなみに、レジーナと一緒の部屋になると、いろいろ教えてくれるってよ、薬のこととか、医学のこととか」
「えっ!? 本当ですか!?」
すっごい食いつき。
本当に、薬学に興味があるのだろう。
「ウチが知っとることやったら、なんでも教えたげんで」
「すごい……夢のようです」
「その代わり、門外不出で頼むぞ、ユナ」
「はい! もちろんです! 口外はもちろん『会話記録』の扱いも気を付けます! いえ、漏らさないと誓います!」
誓っちゃったよ。
『精霊の審判』をかけてもいいという、すごい決意だ。
それだけのリスクを負っても学びたい。
そういうことなんだろう。
ちょっと反応を確かめる程度の軽い気持ちだったが、……うん。ユナは大丈夫だろう。
とはいえ、油断するつもりはないけどな。
女子連中が風呂から出たので、俺は大量のハムっ子を連れて風呂に入った。
まさに、芋の子を洗うような状況だった。
逃げんな、こら!
おとなしく泡まみれにされてろ!
いや、勝負じゃねぇよ!
洗うんだよ!
このっ、おとなしく……っ、誰だ今、俺のケツに泡をこんもり乗っけやがったヤツは!?
テメェら、いい加減に――よぉし、いい度胸だ! テメェらのその性根、叩き直してやる!
うぉりゃー!
「――ってやってたら、すげぇ、疲れた……」
ハムっ子たちを追い帰し、テーブルに座って項垂れる俺。
フロアが静かになって、一層疲れが増した気がする。
「外まで聞こえてましたよ」
くすくすと、アイスクリームを持ってきてくれるジネット。
……チョコか。
俺が甘過ぎるのはあんまりだと思ってのチョイスだろう。
「……抹茶アイスが欲しいな」
「お抹茶味のアイスクリームですか?」
「甘さ控えめで、ほんのり苦くて、美味いぞ」
「それは、是非今度やってみたいですね」
「ただし、マグダの手伝いがなくなる」
「ふふっ、そんなに苦いんですか?」
ほろ苦でも、マグダは手を貸さなくなるからな。
「かき氷で、抹茶小豆をやったろ?」
「あぁ、あれは落ち着いた甘さで美味しかったですね。なぜ気が付かなかったのでしょう。絶対美味しいですのに」
「大人がアイスに馴染むまで、需要が見込めなかったからな」
ストロベリーとか、ホント一瞬でなくなるんだよ。
ぼちぼち抹茶もいい頃合いだろう。
「レジーナさんがお好きかもしれませんね」
と、庭へと視線を向ける。
というか、オルキオの家の方だな。
さっき、ジネットと一緒にオルキオにお願いしに行ったらしい。
もう一人居候を頼むって。
オルキオとシラハも三十五区の祝賀会に参加していたが、もう戻ってきているようだった。
あ、さっき帰ってきたとこなんだ。
それで、俺が風呂に入ってる間に行ってきたのか。
遠出して、家に着いたら疲れて寝ちまうかもしれないからな。
確実に起きているうちに話に行かないと、ってところか。
ダメならダメで、ユナの今日の寝床を考えなきゃいけないしな。
「で、どうだって?」
「大歓迎だとおっしゃってくださいました」
それで今、レジーナと一緒にオルキオの家に行ってるのか。
ユナの荷物を置くついでに、ちょこちょこっと薬のことを教えてくるらしい。
じゃあ、今日はもう戻ってこないかもな。
「戻ってくるとおっしゃってましたよ」
「もうそのまま寝ちまえばいいのに」
「レジーナさんとしては、今晩はわたしの部屋でユナさんに休んでもらうつもりのようですよ」
不安が多い初日は、この中で一番懐いているジネットのそばにいた方がいいとか言ってたしな。
随分と気を回してるようだ。
ちなみに、俺が風呂に入っている間にウクリネスが来て、パジャマやら下着やら普段着を提供してくれたらしい。
提供だぞ。
……ユナに何やらせる気なんだ、あのオバサン?
慣れてないんだから、あんまやり過ぎんなよ?
ノーマになら、どんな際どい衣装を着せてくれてもいいけど。
「アタシも別に、慣れちゃいないさね」
「熱っ!?」
ふらっとフロアに戻ってきたノーマの煙管から、まだ煙の上る灰が俺の首元へ放り込まれる。
外で一服していたらしい。
あぁ、もう。
灰を払ったから床が……え、なに、自分で掃除するのノーマ?
なんで懐から雑巾出てくんの?
何を挟んでるの谷間に?
雑巾とか挟むと、ばっちくなっちゃうよ?
いつ顔を突っ込むか分からない場所なのに――痛っ!?
「……っていうか、煙管の先端がまだちょっと熱い……」
「自業自得さね」
小突かれたデコを押さえてうずくまる俺を、冷ややかな目で見下ろすノーマ。
なんか、すっごい絡まれる。
……はは~ん、酔ってるな?
「いや、君の言動の方が、よっぽど酔っ払いのソレだよ」
「懺悔してください」
パジャマ姿のエステラとジネットに叱られる。
……って、こら。
「なんでパジャマ着てんだよ、エステラ?」
「ウクリネスが持ってきてくれたんだよ。ボクたちの分もどうぞって」
「じゃなくて、お前らは館に帰るんだろうが」
「だって、ルシアさんが……」
と、エステラが指さす先で、ルシアが寝ていた。
俺が入浴前にせっせと作っていた、俺の巣で。
「すや~!」
随分パワフルな寝息だな。
で、メンズに寝顔見られていいのか、お前は?
「……このフロアはすでに、メンズ立ち入り禁止になっている」
あぁ、それで、風呂から上がるなり早々に退場させられたのか、ハムっ子連中は。
ロレッタが急き立てるように弟たちを外に連れ出してたもんな。
「で、俺をカウントから外すなよ」
「……もう、今さらかと思って」
思うなっつーの。
「すごくプレッシャーがかかってたみたいだよ」
「それは仕方がありませんよ、エステラ様。泡沫貴族とはいえ、統括裁判所に目を付けられ、明確な攻撃にさらされていたのですから」
と、エステラのお腹がしゃべっている。
あ、お腹じゃなくてトレーシーか。
完全に一体化しているから、気が付かなかったぜ。
「そんなわけないじゃないか」
「この抱っこちゃんも、すっかり見慣れた光景だな」
「ボクも、なんかもう、諦めの境地だよね」
諦めたらそこで試合終了らしいけどな。
「ナタリアたちは?」
「ボクたちの寝床を整えてくれてるよ」
「結局、どういう部屋割りなんだ? エステラは俺の部屋だろうけど」
「なんで決めつけるのさ?」
嗅ぎっ子だからだよ。
「ノーマは、今日どうするんだ?」
「今日は帰るさね。シェイカーも作ってみたいしね」
「……寝ろよ?」
「善処するさね」
また工房から締め出されるぞ。
ちなみに、今日陽だまり亭に泊まるのは領主三人と給仕長五人(ネネ含む)、マーシャとミリィだ。
ミリィ、本気で最後までマーシャ係を遂行するつもりで、朝からお泊まりを決めていたんだと。
なんてしっかりした子供なんだろうか。
「子供じゃないもん!」
「頬っぺたにストロベリーアイスがついてるぞ」
「はぅっ!?」
ぷっくり膨らんだほっぺに、ピンクのアイスがついていた。
ミリィはバニラを食べていたはずだから……
「おかわりか?」
「ぇ……っと、……まぐだちゃんと、はんぶんこ、を」
「マグダ?」
「……すや~」
狸寝入りの下手なヤツだな。
まぁどうせ、ジネットが許可してんだろうけど。
「客間に、ナタリアさんたち給仕長が全員で泊まるとおっしゃっていました」
「マグダが部屋を譲ってくれてね、君の部屋と合わせて二部屋あるんだ。そこにミリィとマーシャ、ボクたち領主が分かれて眠ることになったんだよ」
じゃ、マグダはジネットの部屋か。
ミリィもジネットの部屋に行くとすれば、俺の部屋にエステラとトレーシー。
マグダの部屋にマーシャとルシア、って感じかな。
「いや、ボクはルシアさんの方へ」
「お供しますわ、エステラ様」
諦めろ、エステラ。
そのくっつき虫、一回くっついたら離れないんだよ。
他の面々はロレッタが弟を追い出したタイミングで帰っていった。
デリアはカンパニュラと一緒に、パウラとネフェリーとイメルダも明日があるからと帰っていった。
テレサはロレッタと一緒だったから、長男あたりが送っていってくれたのだろう。
ベルティーナは、風呂の前に帰ってたけど。
訂正。
飯を食い終わったら即帰っていった。
「喜んでましたよ、シスター」
「飯か?」
「それもですけど、テレサさんからのお手紙です」
「あぁ~」
欲しがってたぞと教えてやったら、テレサはすごく嬉しそうな顔をして、すぐに手紙を書き始めた。
ベルティーナに、今日の出来事の感想を書いて、「はい!」と手渡していた。
ちらっと覗き込んだら、すげぇ綺麗な文字が並んでて、一瞬書籍かと思っちまったくらいだ。
「みんなに見せるそうですよ。『練習すれば、これくらい綺麗に書けるようになりますよ』って」
「いや、ならねぇだろ……」
テレサと比べられるガキどもが不憫だよ。
天才なんだから、テレサは。
「俺も、ベルティーナにお手紙書いたら、懺悔免除にならねぇかなぁ」
「そんな動機では、シスターが悲しみますよ?」
「死活問題なんだが?」
「そんな大事になる前に、口にしていいことかどうか考えてから発言するようにしてください」
「でも、世の中には『ワンチャン』っていうのがあるから!」
「『ない』ことの方が多いさよ」
ノーマが幼気な少年の心をぶち壊しに来る……
あったっていいじゃない!
人間だもの!
「風呂上がりはきっとみんなノーブラだから、廊下に飛び石を置いてぴょんぴょん飛んで移動してほしいよな」
「それさね、一度考えて口に出すべきじゃないって気付かなきゃいけない発言は!」
「試しにやってみようという流れに――」
「なりません! もう、懺悔してください!」
「懺悔したら、ご褒美にホットミルクを作ってほしい」
「へっ、もしかして寒気がしますか? ヤシロさんは川に落ちたんですから、温かくしなければいけませんよ? 懺悔はいいですから横になってください。ホットミルク、作ってきますね」
言い終わるや否や、厨房へ向かうジネット。
懺悔の後でよかったのに……
「ジネットちゃんを騙すんじゃないよ」
「懺悔はするつもりだったよ。ただ、ちょっと寒気がしたからな」
「本当に風邪じゃないんかぃね? もう横になんなね」
「ルシアに占拠されててな」
「まったく……アタシが上まで運んでくるさね」
「及ばない、それには。運ぶ、私が、ルシア様を」
と、布団を持ってやって来たギルベルタが言う。
なに、その布団?
そして、同じく布団を持ってやって来た給仕長チーム。
「いえ、フロアで寝ると楽しそうかと思いまして」
「不許可だよ!?」
エステラにダメ出しされて、給仕長連中は全員、布団を持って二階へと帰っていった。
なんだ、その二度手間……
「ほんじゃ、おやすみなね」
と、ノーマが帰ってほどなく、布団を持って二階へ戻った給仕長たちがフロアに戻ってきた。
「では、眠たくなるまで遊びましょう」
と、イネスがきらきらした顔で言ってくる。
「お給料をつぎ込んで購入したメンコを持ってきています」
と、デボラがお手製っぽいケースを開けてみせる。
中にメンコがぎっしりと。
百人一首か。
「あ、私も、外周区と『BU』の全領主様のメンコはコンプリートしましたよ」
と、ネネ。
え、外周区とか『BU』の地味な領主のメンコとかあるの?
「あるよ。協賛金を募って、協力してくれた領主のメンコは作るって、君が言ったんじゃないか」
とんと記憶にないが……
「目指している、私も、コンプリートを」
「ギルベルタもか? 欲しいか、地味領主のメンコなんか」
「違う、私が目指しているのは」
と、これまたお手製らしいメンコケースを取り出すギルベルタ。
なんでみんな持ってきてんだよ……
「これ、私のコレクションは」
と、広げられたのは、俺、俺、俺――俺の各種ユニークなポーズのメンコたちだった。
「英雄シリーズ、これは」
「ちょっと、ベッコの息の根を止めてくる」
「ダメダメ~、まだ使うから~☆」
止めるな、マーシャ!
やらねばならぬのだ!
びこーず、イラってしたから!
「俺の知らないメンコが山のようにあるんだが?」
「ベッコも、英雄教の信者だからねぇ」
俺の不幸が楽しくて仕方ない様子のエステラと、その向こうで食い入るように英雄メンコを検分しているジネット。
ジネット、お前は骨董品のツボでも鑑定してるのか?
あ、暗くして隠し絵柄がないか確認してる。
そして、何か計算して……「お小遣いやりくりしてメンコくじを引きに行かなければ!」みたいな顔してんじゃねぇーよ。
「ナタリアは?」
「もちろんコンプリートしておりますよ、エステラ様のユニークメンコの数々を」
「ナタリア給仕長、お話があります」
即行で食いついたな、トレーシー。
早めの投資で得た区の財源が、エステラグッズに溶けていく……
区民が浮かばれねぇよ。
「イネスは? メンコとか興味ないかな?」
エステラがイネスに話を振ると、イネスは胸元からすっと二枚のメンコを取り出す。
俺と、マーゥルのメンコを。
「お仕えする主様の分だけを手元に置いています」
「認識間違ってるよー!?」
お前の主はゲラーシー!
「げら……?」じゃねぇんだよ!
忘れようと努力すんな!
消えないから、人の記憶って、そうそう!
「そういえば、人の記憶を喰らう魔草が存在すると聞きました」
「それ、大切な思い出から順に食っていくヤツだから!」
ここに被害者がいるから、軽々しくギャグに使わないでね!?
まぁ、お前らは知らんのだろうけども!
で、なに、ジネット?
急に腕に手を触れて……思い出してくださって、本当によかったです……じゃねぇーんだわ!
いいんだよ、もう、済んだことは!
で、なに「これだけは絶対欲しいです」みたいなヤツチェックしてんの?
何を書き留めたの?
そのメモ没収したいわぁ。
「ただいま~……って、なにしてるん?」
レジーナとユナが戻ってきた。
デボラとギルベルタのコレクションを見ている輪を覗き込んでくる。
「わぁ、知らへんオッチャンが仰山」
「いや、会っているはずだよ、レジーナは」
「ウチ、人に会ぅても、顔とかほとんど見とらへんさかいに」
「乳ばっか見てんじゃねぇよ」
「そら、自分や」
「エステラを悪く言うなよ」
「君だよ!」
「自分らや」
「複数形にしてボクを含めないでくれるかな!?」
お前、誰かに会う度に胸見てんじゃん。
胸見て、ちょっとしょんぼりしてんじゃん。
え、待って……いつか勝てる相手に出会えるとか思ってる?
確率低いぞ~?
「これで遊ぶんかいな?」
「そうだなぁ……とはいえ、二種類揃ってなきゃババ抜きも神経衰弱も出来ないし」
こうも綺麗に収納してあると、普通のメンコやメンコ落としも気が引ける……
「でしたら、私のメンコを持ってきますね」
ジネットが言って二階へ向かう。
「ご一緒します」とナタリアがついていく。
荷物持って階段とか危ないって?
子供か。
「これが、イーガレス様がおっしゃっていたメンコなんですね」
「ご覧になりますか?」
「い、いえ! そんな、触って汚しでもしたら……」
「かまいませんよ。ヨゴレ領主ばっかりですから」
こら、デボラ。
お前はそういうこと言っちゃダメなキャラだろ。
「この人なんか、ヨゴレの極みですよ」
って、ゲラーシーのメンコを差し出すな、イネス。
四十二区にいる間は何しても許されるとかいうルールないからな?
「……綺麗な絵ですね」
「レジーナのメンコもあるんだぞ」
「そうなんですか!?」
「いや、ウチのメンコもって……ほとんどの人のメンコあるやん。なんでウチだけ特別みたいな言い方すんねんな」
「わぁ~」と感動するユナ。
なんか、ちょっと一緒にいて、すっかりレジーナを尊敬しているようだ。
薬のこと、ちょっと教わってきたからかな。
「……ユナ。これを」
と、マグダがレジーナのメンコを差し出す。
「素敵です! すごいなぁ……さすが先生です」
「いや、ウチだけやないから」
「……このメンコは特別仕様。こうやって暗くすると――」
「ベティ先生です!?」
ユナは、レジーナがベティだと認識しているようだ。
別に呼び分けなくてもいいのに。
「す、すごいです! 先生は、やはり偉大な方なのですね!」
「ちゃうちゃう! これは、そこのおっぱい魔人はんが悪乗りしはっただけや」
さっとメンコを取り上げマグダに返すレジーナ。
おぉ、珍しく顔が赤い。
照れさせられてるレジーナは新鮮だな。
「にやにや……」
「にやにやしぃな!」
「むらむら……」
「それはウェルカム☆」
「その病気を早く治しなよ、レジーナ。ユナに悪影響が出る前に」
エステラにつむじを押されて「いたた!」と蹲るレジーナ。
「無体やわ~」と、涙目で抗議している。
「お待たせしました」
と、またまたお手製っぽいケースを持って戻ってくるジネットとナタリア。
……ケース、デカくない?
「この大きさを知っておりましたので、同行したのです」
さすが給仕長。
ぬかりない。
「こんなに買ってたのか……」
「いえ、カンパニュラさんやテレサさんと港へ行くと、つい」
ジネットは案外収集癖があるんだよな。
情報紙や『リボーン』も、身内が載ってると大量に買い込むし。
祖父さん、すまん。
ジネットが浪費家になっちまったよ。
清貧なあのころはもう戻ってこないかもしれん。
まぁ、本人が楽しいならいいけどな。
身を持ち崩すほどのめり込むこともないだろうし。
「たくさんありますので、これでババ抜きをしましょう」
そうして、修学旅行の夜のような時間が始まる。
いつの間に用意したのか、シートがフロアに敷かれクッションが用意されていた。
ジネットが二枚あるメンコを抜き出していき、エステラが数を確認している。
人数が多いから、ちょっと多めの枚数でやってもいいだろう。
俺、ジネット、エステラと腰に巻き付くトレーシー、マグダ、マーシャ、ミリィ、ナタリア、ギルベルタ、イネス、デボラ、ネネ、レジーナ、そしてユナ。
十四人もいる。
「軽く遊んだら、もう寝に行けよ、お子様たちは」
と、マグダとユナとミリィに言う。
「夜更かしするもん!」
と、悪い子宣言するミリィ。
ほわぁ~。
「ルシア姉、明日悔しがると思うな~☆」
「どうせ、明日も遊び呆けて帰るんだろ?」
「その予定、我々は。済ませてきた、やるべき仕事は」
なんか、三十四区との会談があったらしいが、今日、あの場で済ませたらしい。
三十四区の領主の扱い、雑だよなぁ。
ダックだから、別にいいけど。
「ヤシロ、300ペアくらい出来たんだけど」
「そんなにいらんわ!」
夜が明けちゃうよ!?
「とりあえず100枚でやるか」
「ということは50組ですね……どのメンコを使用するか、厳選しましょう、エステラさん」
「いや、適当でいいから!」
ジネットが熟考モードに入りかけていたので、給仕長に選出を任せた。
なんかバランスよく選んでくれるだろう。
「ほな、黒ウサはんも混ざり」
「わ、私もいいんですか?」
「おや、今のはネガティブな発言ではないでしょうか?」
「抱きつきましょうか?」
「好き、案外、私は、もふもふが」
落ち着けイネス、デボラ、あと主の病に感染するなギルベルタ。
ユナが怖がってるから。
「ルールはやりながら説明するから、とりあえずやってみよう」
「最初は練習ですね」
言いながら、ジネットが全員に一枚ずつ配っていく。
で、手札を広げて、絵柄を確認して……
「あの……、全部ペアになってしまいました」
「お前のそのババ抜き無敵チートなんなの?」
ジネットの手札がいきなりゼロになったので、再度配り直した。
強過ぎるのも問題だな。
「勝ったヤツにご褒美を、と思ったが、それじゃジネットが独占しそうだから、最下位のヤツは罰ゲームな」
「ふぇぇええ!?」
素っ頓狂な声をあげるユナ。
「こんな美女だらけとゲームして、どんな罰ゲームさせる気なん?」
と、俺をからかうレジーナ。
そうだな――
「負けたヤツは、ここにいるヤツのことを呼び捨てにするとか」
「えっ!?」
ユナが青ざめる。
が、狙いはそれじゃない。
レジーナ。
弟子にしようってのに、いつまでも『黒ウサはん』はないだろう?
そんな視線を感じ取ったのか、給仕長連中がネネを除いてこちらに視線を向けた。
……頑張れ、ネネ。
「それじゃあ、君にはなんの罰にもならないじゃないか」
「じゃあ、俺は全員をちゃん付けで呼んでやろうか? エステラちゃん」
「ぅぐ……っ! それ、こっちがなんかダメージ受けそうなんだけど?」
「まぁいいではありませんか。今夜だけの座興ですよ、エステラ」
「君も、負けてないのに呼び捨てにしないようにね、ナタリア!?」
「トレーシー。エステラに名前、呼び捨てにされたくね?」
「そ、それは……『トレーシー、好きだよ、トレーシー』……いいですね!」
「呼び捨てだけですよ、罰ゲームは!?」
「好きなセリフを一個言わせるとかでもいいかもな」
「やりましょう! さぁ、みなさん準備をしてください! 本命を引き当てるまで、終わりませんよ!」
トレーシーが意欲に燃えて、ババ抜きが始まった。
案の定、ジネットが一番で上がり、給仕長たちの巧みな操作によってレジーナとナタリアがラストに残り、危なげなくナタリアが勝利していた。
エステラがさっさと上がって、トレーシーがすごく悔しがってた。
「がっでむ!」とか言ってた。
女領主って、ユニークだなぁ。
「というわけでレジーナ」
「なんやねん、ヤシロ」
こっわ!
めっちゃヤサグレてんじゃん。
まぁ、給仕長連中の動き見てたら、嵌められたのは分かるわなぁ。
だからって、そんな荒んだ目をすんじゃねぇよ。
「とりあえず、全員のこと一回呼んでいってみ?」
「誰に口利いとんねん、ちょーしのってたら、どつきまわすど?」
「いや、呼び捨てにするだけで、ガラまで悪くなる必要ないから」
そんな、田舎の不良みたいに。
「では、まずは私からお願いします」
と、ナタリアが挙手をする。
はぁ~……っとため息をついて、レジーナがナタリアを見る。
「な…………ナタリア」
「なんでしょうか、レジーナ様」
「いや、呼び捨てにするだけで、主にはなってへんさかいな!?」
「承知しておりますよ、レジーナ様」
「敬っとるやないかーい!」
レジーナに突っ込まれてくすくす笑うナタリア。
ちょっと酒が入っているのか、妙に上機嫌だ。
「では、次は私が」
「いえ、先に私を」
「呼んでほしい、性と聖の偉人レジーナに」
「え、待って。耳慣れへん二つ名付いとってんけど?」
「いいから呼んでやれよ、性人」
「そっちはよう聞くわぁ。なんやろ、落ち着くわぁ」
罵られて和んでんじゃねぇよ。
「ほな……イネス」
「おぅ、もれつ~ん☆」
「……デボラ」
「えくすたしぃ~☆」
「……ギルベルタ」
「ほっとほっと、体の一部が」
「これ、自分が仕込んだんか?」
「残念だな、レジーナ。……独学だ」
なんでこう育っちゃったかなぁ、有能な給仕長たちが。
「で、大オチのネネだが」
「やめてくださいね!? 過度な期待を寄せられても、何も出来ませんからね!?」
「流れは、見てたから分かってるやんな?」
「やめてくださいってば!?」
「他の給仕長に出来て、お前に出来ないことなんて、何もないよな?」
「出来ないことだらけですよ!?」
それは、堂々と公言していいことじゃないだろう、ネネ……
「まぁ、当たって砕けろだ」
「砕けろと言われましても……」
「大丈夫です、ネネさん。我々が見守っていますよ、面白がって」
「最後の一言で台無しですよ、ナタリアさん!?」
「「「面白がって」」」
「悪い給仕長がいます! いや、悪い給仕長しかいません、ここには!」
「そんな騒いでていいのか? なんて返すか、早く決めないと、フリが来るぞ?」
「えっ、あの、ちょっと、待ってください! えっと、え~っと……」
「ほなら、いくで~」
「待ってくださいってば!」
「ネネ~」
「ぅ…………うっふぅ~ん。………………すみません、見ないでください!」
クッションを抱えたまま俺の布団に飛び込んで、頭から布団をかぶってしまったネネ。
こんもり膨らんだ布団がぷるぷる震えている。
「「「「わー、超せくしー」」」思う、私は」
「お気遣いは結構ですっ!」
涙声が布団の向こうから聞こえてくる。
「恐ろしい罰ゲームやなぁ~」
「君は面白がっている方じゃないか……」
呆れてため息を吐くエステラ。
ほれ、お前も呼んでもらえ。
「はぁ~……全員やらな終わらへんのやろうなぁ…………ぺった、あ、間違えた、エステラ」
「いい度胸じゃないか、レジーナ?」
おそらく、「レジーナ様」って悪乗りをかぶせてこようとしていたのであろうエステラ。
やりたいことが見え見えで、レジーナにかわされてやんの。
「はいは~い☆ 私も呼んでみて~☆ 呼べるものなら~★」
「ちょぅ待って! 命の危険がある場合、これはパスしてもえぇやんな!?」
「大丈夫大丈夫~☆ 知らんけど★」
「狩る気やん!? 絶対狩る気やん、あの人魚はん!」
「ちゃんと呼び捨てにしてくれなきゃ~、海にかわってお仕置きだよ☆」
「めっちゃ可愛い顔でめっちゃ怖いこと言ぅてきはるやん……」
まぁ、たぶん大丈夫だから呼んでやれ。
「マーシャは、耳元で囁いてやると、ドキッとして攻撃の手が止まるぞ」
「それ、自分の時だけやん。なに、自慢なん?」
「うるさいよ~、二人とも★ そんな事実はないからね~★」
わぁ、星が黒い。
「はぁ……もう…………マーシャ」
「ふゅ……っ。…………ん~~~! なんだって?」
「聞こえへんフリ、下っ手!?」
この中で誰より耳がいいくせに。
名前呼ばれて、めっちゃ噛みしめてたじゃん、さっき。「ん~~~!」って。
それで聞こえないフリはムリがあるだろう。
「じゃあ次は、ミリィとジネットだな」
「ゎぁ~、ちょっと楽しみだね、じねっとさん」
「よろしくお願いします」
「そんな畏まるようなこっちゃないねんけど……ほな、先に店長はんからな?」
「え、誰、ですか?」
珍しく、ジネットが悪乗りして、意地悪なことを言っている。
レジーナ相手に、遠慮がなくなってきたんだな。
ロレッタやマグダと、たまにこういう遊びをしている。
「あんま悪い影響受けたらアカンで、……ジネット」
「はい。畏まりました、レジーナ様」
「だから、それやめーや!」
「うふふ」
レジーナがジネットをぺちっと叩く。
叩かれたデコを押さえて、ジネットが嬉しそうに笑う。
なんて珍しい光景だ。
そして、レジーナが、なんかイヤな予感するわ~、みたいな顔でミリィを見る。
「……ミリィ」
「はい、レジーナ様」
「もうえぇっちゅーねん」
そして、ミリィにもデコピンを。
同じようにデコを押さえて、同じように嬉しそうな顔で笑うジネットとミリィ。
満喫しとるなぁ、罰ゲームを。
で、マグダ……なのだが。
「…………むにゅ」
眠気が押し寄せてきたようで、うつらうつらと船をこいでいた。
あぁ、これはもう寝かせないとダメだな。
「連れてってやってくれるか?」
「せやな。店長はんの部屋でえぇんかいな?」
「え? 誰ですか?」
「……アホなことしとらんと、先行ってベッドの準備したってんか、……ジネット」
「は~い、承知しました、レジーナ様」
「ほんま、もぅ……何がオモロイねんな」
いや、十分面白いが?
「あぁ、せや」
ジネットを見送り、眠りに入ったマグダを抱き上げて、レジーナがこちらを振り返る。
「ユナ」
「は、はい!」
緊張しながらも、自分の番を待っていたユナがばっと顔を上げる。
「ごめんけど、ドアとかあるさかいに、手伝ってくれへんか?」
「は、はい! もちろんです」
「そんなキバらんでえぇさかいに、一緒に来てんか」
「は、……はい」
ユナが立ち上がり、レジーナの隣に立つ。
マグダの背をぽんぽんと叩きながら、レジーナが、何気ない風を装って言う。
「もし、イヤやなかったら、今後も名前で呼んでもえぇやろか……ユナ?」
「はい! もちろんです! 嬉しいです!」
照れて顔を背けるレジーナの顔を覗き込むように、ユナがレジーナの前に回り込む。
「あの、これまで、あまり名前を呼んでいただく機会がなくて……薬師ギルドでは、人として認められていなかったといいますか……父がいなくなってからは、名前を呼んでくれる人もほとんどいなくて……ですから、みなさんに名前を呼んでいただけるの、すごく嬉しいです!」
そう言って、ここ一番の笑顔で言う。
「先生に呼んでもらえるのは、一番嬉しいです!」
「……さよか」
へぇ、一番ねぇ。
ジネットを超えたのか。
薬のこと、教えてもらえるのが本当に嬉しいんだろうな。
「ほな、これからもよろしくな、……ユナ」
「はい、先生!」
ユナが、これまで見せたことがないくらいに「にこー!」っと笑う。
そういう顔が出来るようになれば、もっといろんな世界が見えてくるだろうよ。
「……むにゃむにゃ。……マグダは、まだ呼ばれてない……」
「ほいほい。お布団行こうな~、マグダ~」
「……もう少し、ママ親のように」
「どないしたらえぇのんな? ウチ、子供おったことあらへんのやけど?」
「……背中ぽんぽんが必須」
「はいはい。ほ~ら、寝に行くで、マグダ~」
「……むふー」
マグダの背をぽんぽんと叩きながら、ユナを引き連れて厨房へ入っていくレジーナ。
何気にレジーナって、すげぇ甘やかすよな、年下のこと。
案外、あいつは母親に向いているのかも――、とか血迷ってしまった。
いやいや、どう考えても、あいつは母親に向いてないだろう。
子供が気の毒過ぎる。
錯覚、錯覚。
気のせい、気のせい。
「……あのぉ」
と、エステラのお腹がしゃべる。
「私、完全にいないことにされていませんでしたか?」
「完全に同化して、見えてなかったんじゃないか?」
ババ抜きで最下位争いするエステラを応援するとか言って引っ付いたままだったから、トレーシー。
俺も、「エステラの腹、よくしゃべるな~」って思いかけてたし。
「代わりに、エステラが呼んでやれば?」
「えぇ~……」
と、不満顔を晒すが、そうしないと締まらないだろう?
「はぁ……まったく、なんでボクが」とか文句を言いつつも、自分の役割をきちんと把握しているエステラ。
「……そろそろ離れてくれないかい? トレーシー」
「きゃい~ん☆ イヤです!」
「離れて!」
「もう一度名を呼んでくださらないと嫌です!」
「トレーシー!」
「『好きだよ』」
「それは言いません!」
そんな感じで、賑やかに、夜は更けていった。
あとがき
汚染、させん!
宮地です☆
なんか、自治体のポスターにありそうなキャッチフレーズから始めてみました。
あ、いえ、
本編でのレジーナ汚染の話ではありません。
ユナ、全力で逃げて!
それが無理なら、せめて防汚処置しといて!
(>△<;
ユナ「む、むらむらしますっ!」
エステラ「そういうとこは、無理して見習わなくていいから!」
そうそう、それで、ムラムラといえば――
……「ムラムラといえば」で始まる会話をしていいのでしょうか?
(・_・;
いえ、汚染です、汚染
皆様、サジェスト汚染という言葉をご存じでしょうか?
ドメスト汚染ではありません。
ドメストは汚染されたトイレの頑固汚れを綺麗にしてくれるヤツです
根こそぎです!
サジェスト
ネットで検索すると、関連する検索結果とか、ワードとか出てくるヤツです
「旦那」と検索ボックスに書き込むと
「ウザい」とか「邪魔」とか「消えろ」とか出てくるヤツです
……頑張れ、全国の旦那さん
(;_;)
で、そういう検索のときに表示されるサジェストって
全国の人が検索したデータをもとに、「こんな候補があるよ~」って表示される、んです、よね? たしか。知らんけど
つまり、多くの人が同じようなワードで調べていると、それが上の方に表示されるというわけで
……頑張れ、全国の旦那さん
(;_;)
で、そのサジェストが汚染されていると
具体的には――
先日「歩く」を別の言葉に言い換えるとどんなものがあるかな~っと思いまして
「歩く 類義語」
って検索したんですね。
あ、微エロ注意です
(・_・;
そしたら
「軽くイク 類義語」
とか、それ以外にも、ここには到底かけないような卑猥なワードが
だぁぁぁぁああああー!
っと表示されまして。
Σ(゜Д゜;)「なんでなんで!?」
ってなりまして。
みんな「歩く」でどんな卑猥な言葉検索してるの!?
歩きながら何するつもりなの、じゃぺぇーん!?
って思ってたんですが、
これ、おそらく
「類義語」に引っかかってるんですね、あれ
(^^;
そしておそらく、原因、知ってます
数年前から話題になりました生成AI
昨年、爆発的に進化を遂げまして
ありとあらゆるイラスト系生成AIが誕生し、進化し
本当にすごくきれいなイラストが誰でもゲットできる時代になりました
そんな中、老若男女とわず
卑猥な画像を求める方が大勢いらっしゃるんですよ、きっと
でも、画像生成AIは規制が厳しく
卑猥なイラストや画像は、まぁ生成できません。
「美少女 おっぱい丸出しで!(≧▽≦)/」
とか、プロンプト(≒AIにこういうの描いてって伝える注文書)に書いても
『ポリシー違反です』と表示されて、生成できませんでした
……あ、もとい、出来ないそうですよ。聞いたところのによると。どうやらね。知らんけど~。
( ゜3゜)ぴゅ~ぷぴ~♪
つまり、生成AIは健全であり、卑猥なイラストは生成しませんということなんです
なんです、が――
おそらく外国の会社だからか、日本語がまだ弱いんでしょうねぇ
抜け道があるんです
まぁ、英語でも同じ現象が起きているらしいですが――
☆★悪用しないでくださいね!☆★
『裸』『ヌード』というワードは、男女問わず問答無用でNGになります
ポリシー違反で生成できません
ですが、『服を着ていない』『一糸まとわぬ姿』だと、
検問をスルーすることがあるんです!
※上のたとえは、悪用防止のため検問に弾かれるワードを使用しています。『服を着ていない』『一糸まとわぬ姿』はほぼすべての生成AIでポリシー違反で弾かれますので試さないようにお願いします。
ニュアンスだけ汲み取ってくださると幸いです
で、そうすると起こるのが――
『卑猥な言葉』+『類義語』
などの言い換えを検索する卑猥なチャレンジャー
『ヒワインジャー』の爆誕です!
もう、大量に発生しております
その結果、
普通に「〇〇 言い換え」とか検索すると、
卑猥なワードがざっくざく出てきます
……ちゃんとしようよ、じゃぺぇ~ん(^^;
でですね、
先日、「偉い人から物をもらった時って、なんて言うんだっけな~」って思って
「いただく 尊敬語」で検索したら
『めっちゃ卑猥な言葉』+『尊敬語』
って候補が出てきまして
Σ(゜Д゜;)敬語使うような相手に、何してんの!?
それもかなり上位の方に対する敬語で調べられてて……
Σ(゜Д゜;)どんなモノ描かせる気なの!?
『卑猥なワード』の尊敬語って……
やんごとなき御方が、お卑猥してあらせられる
とかか!?Σ(゜Д゜;)
いや、言わんわ!Σ(゜Д゜;)
皆様、ご利用は、くれぐれも健全に☆
全国勝手に健全推進委員会委員長、宮地さんからの、お・ね・が・い☆
Σ(゜Д゜;)いや、どの口が!?
あ、前回のあとがきで『僕と彼女の口外法度』のOP作ったよってリンクを貼りまして、
見に行ってくださった方の中に
Σ(゜Д゜;)いや、EDもあるじゃねぇか!?
と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんし、あらせられるかもしれません
実は、あれも結構苦戦していまして、
いつアップできるか分からない状態だったので前回は触れなかったんです。
というのも、
ぶかぶかトレーナー着て三角座りしているイラストがあるんですけども
何度描かせても、パンツ見えちゃうんですね
それで、メインヒロインのパンツは見せちゃイカンだろう!
ということで、
プロンプトに『パンツは絶対見せないで』って書いて画像生成したら――
『ポリシー違反で、生成できません』
どうやら、「女子高生+パンツ」というワードで、問答無用でアウトだと判定されまして
じゃあ、仕方ないから「パンツ」ってワードを使わず、
いいイラストが来るまで生成を繰り返した結果――
パンチライラストが数十枚
(# ゜Д゜)どっちがポリシー違反じゃい!?
お卑猥してあらせられるの、あなた様側であられますからね!?
最終的に「ショートパンツを穿かせる」というワードを入れて事なきを得ました。
そんな悪戦苦闘したMVの全容は、こちら☆
(≧▽≦)っ https://youtube.com/shorts/r59DtXIVrJY
可愛い仕上がりになったので、是非見てあげてください!
ついでに、『僕と彼女の口外法度』本編も作者ページから飛べますので
是非ご覧ください!
向こうは向こうで、イチャイチャがいっぱいです☆
『異世界詐欺師』も負けてられませんね!
今後もいっぱいイチャイチャするぞ!
\(≧▽≦)/
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




