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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第四幕

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479話 GOサイン

「私の従兄弟を、ご存じなんですか?」

「あぁまぁ、確定じゃないけどな」


 鉱山で働く父を持ち、目を患った結果教会へ預けられた従兄弟。

 条件だけ見ればティムに合致する。


 あと、こいつの目、どっかで見たような気がしてたのも、ティムだ。

 あいつ、目が見えるようになってから、やたらとこっちの目を見て話すようになって、そん時のびっくりしたような、想像もつかない出来事に怯えるような、嬉しさと恐怖が同居しているような目がそっくりだった。


「会ってみたいか?」

「い、いえ! あの、きっと私なんかが会いに行っても、迷惑がられるというか……『金の無心に来たのか』と、煙たがられるでしょうから……」


 こびりついてるなぁ、こいつのネガティブ。


「まぁ、わざわざ会いに行くほど価値のあるヤツでもないけどな」

「……すみません、ウチの一族なんて、その程度のもので……きっと何かご迷惑を……」

「いやいやいや!」

「ヤシロ……」


 んだよ、エステラ?

 ちょっとした冗談じゃねぇか。

 まさか、こんなネガティブに受け止めるなんてさぁ……


「そんなに自分を悪く言うもんじゃないよ。君の演技は素晴らしかったじゃないか」


 エステラが励ますように言う。

 すると、黒ウサ少女は、頬を朱に染め、大きなタレ目をくりっとさせた。


「あ……ありがとう、ございます……うれしい、です」


 芝居が好きなのだろうな。

 褒められて嬉しそうだ。


「ねぇ、名前を聞いてもいいかな?」

「そ、そんな、私など! 領主様に名乗れるような者ではありませんので!」

「そんなことないってば」

「ですが……」

「エステラ――」


 正攻法しか知らないエステラに、秘策を伝授する。

 耳打ちで、こそこそこそ……っと。


「分かった」


 言って、黒ウサ少女の前で分かりやすく項垂れる。


「ボクなんかには、名前を教えたくないんだ……しょんぼり」

「そんなことないです! 本当に!」

「なまえ……」

「えっと、わたっ、私は、ユナです! ユナ・ニーヴと申します! すみません、こんなしょうもない名前で!」


 名前にしょうもないも何もないだろうに。


 さて。

 ユナと名乗った黒ウサ少女。

 ファミリーネームは『ニーヴ』というらしい。

 これで、ティムと血縁関係にあるかどうかが分かる――


「――と、思ったんだが、そもそもティムのファミリーネームを知らなかった」

「ごめん。実はボクも」


 興味なかったからなぁ、ティムに。

 もしかしたらと、期待を込めてジネットを見るが――


「すみません。伺っていません」


 ダメか~。


「教会へ入った者は、教会の子として扱われますので、ファミリーネームは持たない方が多いんです。強制ではありませんので、ファミリーネームを持ち続ける方もいらっしゃいますが」


 そういや、ベルティーナはベルティーナだし、バーバラも、アクアも、エリアスもファミリーネームを聞いたことがない。


「ソフィーは、ホワイトヘッドだったけどな」

「それはおそらく、いつか家に戻りたいっていう思いから、手放せなかったんじゃないかな?」


 エステラが見解を述べる。

 まぁ、概ねそんなところだろうな。


 家には戻れないと閉じこもっていたソフィーだが、今のあいつを見ていればよく分かる。

 あいつが家を手放せるわけがない。


 なるほど。

 そういうヤツはファミリーネームを持っていてもいいのか。


 ティムはどうだったか……たしか、病気をした自分のせいで父や兄に迷惑をかけたとか言ってたっけ。

 じゃあ、後ろめたさから、ファミリーネームを手放しているかもしれない。

 目のこともあり、家族のもとへは戻らないつもりだったろうし。


 そもそも、ソフィーとティムでは教会への入り方が異なるからな。

 途中入信の者は、ファミリーネームを手放さないのかもしれない。……知らんけども。



「けどまぁ、部外者がどうこう言うわけにはいかんよな」

「そうだね。ティムの気持ちもあるし」

「あ、あのっ、そもそも、従兄弟さんはご存じないかもしれません。私は、遅い子でしたから」


 ユナが生まれた時、ティムはとっくに教会にいた。

 じゃあ、その情報は得てないかもな。


「ボクたちが無責任に騒ぐのは、やめておいた方がよさそうだね」

「さり気なく、従姉妹っぽいヤツがいたぞって教える程度にしとくか」


 会いたがるとも限らないし、会ったからといって、何があるわけでもないからな。


「それよりも、お前ら、腹は満たされたな?」

「「「はい!」」」


 今日の公演が可能かどうか、その判断をしなければいけない。


「一度、通してやってみるぞ。それでいけそうなら上演する。ダメそうなら、引き続きラブダイブと人魚姫を上演する」


 そう告げると、演者の表情が変わった。

 こいつら、今日の初公演をもぎ取る気満々だな。


 いいだろう。

 その意気込みを見せてみろ!



「マーシャ、歌を頼めるか?」

「任せて~☆ そう思って、演奏隊も呼んであるから☆」

「「「「ど~も~☆ お邪魔しま~す☆」」」」


 いつからいたのか、寿司人魚四人娘が揃っていた。

 手にはそれぞれ得意な楽器が。

『うみのまつりば』も、三十五区初お披露目だ。


「それじゃ、時間がない! ミスっても止めないからそのつもりで!」

「ミスなど出すわけがない!」

「「「我々は!」」」

「「「芝居の中に生きる者だ!」」」



 なんか、すげぇ気迫。



「意気込みだけでは、いいお芝居は出来ないわ。空回らないよう、しっかりと芝居の中に生きなさい」

「「「はい!」」」


 マーゥル先生からのお言葉をいただき、役者がスタンバイする。


 スタジオを半分で区切り、ステージと観客席に分ける。

 俺たちは観客席だ。


 最初から最後まで、客として見られるのは貴重だな。


「楽しみですね」


 隣で、ジネットがわくわくと瞳を輝かせている。

 お前のエビフライが引き出した、連中の底力、見せてもらえばいいさ。


「素晴らしい演技が出たら『えびふりゃー!』って掛け声かけてやろうぜ」

「えっ、えっ? そういうマナーがあるんですか?」


 ねぇよ。

 歌舞伎じゃあるまいし。

 花形が登場して屋号を叫ぶとか、ムリムリ。難しいんだから、あれ。


 隣で「えびふりゃ、えびふりゃ」と小声で練習するジネット。

 ついつい笑ってしまったら、反対隣から小突かれた。


「イジメるな、ボクの親友を」

「イジメてねぇよ」


 エステラの隣にはルシアが座り――一応ここの給仕長シュレインが椅子とか持ってきてくれたんだよ、マーゥルが演技指導している時に――観劇の準備が整った。


「みんな、ぶっつけで行くからね☆」

「「「「は~い☆」」」」


 人魚たちも準備万端のようだ。


「のわ~! 観劇のお供に、駄菓子を持っていってのわ~」


 エカテリーニが駄菓子を配り歩き、いよいよ通し稽古――ゲネプロが始まる。

 ノンストップで最初から通して最後までやり切る。本番と同じ完成版を上演する通し稽古だ。



「戦いの傷跡は、まだ根深い――」



 初っ端のセリフを、イーガレスがしゃべり始める。

 三十五区領主の視点で、時代背景が語られる。


 人間、人魚、人龍、人狼、四種族の壮絶な戦争が終結し、そして技術を提供し、人間はすべての人種と交流を断った。


 そこへ、新たな交流の窓口を開こうと、人魚の女王がやって来る。



 それは、生半可な覚悟では出来ない、歴史に名を刻む偉業であった。




 って感じだ。


 人間サイドと人魚サイド、観客はどちらの情報も得ることが出来る神の視点で見られるので、双方の葛藤がよく分かる。

 やきもきし、ハラハラし、二つの種族が手を取り合った時、思わず歓声が漏れた。


 そこで流れる『うみのまつりば』。


 人間との交流を深めた、人魚からの「好き」が詰まった、ある種のラブソングだな。個人こじん間のではなく、人種間の。



 そして、締めくくり。

 戦争を終結させた立役者であり、少し前までは敵方であった人魚を深く理解し、人々のためになると鋭い先見の明まで見せつけて、人間の国王が港を開き、海への交流を開始する。


 大きく開け放たれたこの扉によって、人魚と人間は交流を深め、互いに助け合い、そして今へと繋がっていく。



 わっ、すっげぇや、王様!

 懐が広くて聡明でいらっしゃる!



 人魚の女王の勇気と、人間の王の決断によって、今という時代は豊かになったのだ。



 と、盛大に王様を持ち上げてある。

 なぜかって?


 統括裁判所のバカ貴族を黙らせるためだよ。



 これだけ王族を絶賛している内容にケチをつけるってことは、「え、なに? あなた、アンチ王族の人?」って思われちまうだろ?


 さぁ、イチャモン、付けられるもんなら付けてみやがれ!



 それはそれとして、芝居は素晴らしいものになった。

 脚本の出来がいいのもさることながら、演者一人一人がきちんと芝居の中で生きていた。


 今日のこの数時間で、連中は見違えるほどうまくなった。

 この芝居なら、見る者を魅了することが出来るだろう。



 その証拠に、芝居を観終わった者たちからは惜しみない拍手がもたらされた。

 ずっと鳴り続ける拍手は鳴り止む気配すら見せない。


「えびふりゃー! えびふりゃー!」


 隣でジネットが「えびふりゃー」を連呼しているのが、この芝居が素晴らしかった何よりの証拠だろう。


 ……冗談だってのに。他所ではやるなよ?




「人形がグレードアップしている!?」


 芝居が終わり、演者が一新された人形に改めて驚愕している。

 ベッコ、頑張ったなぁ。

 エビフライ、食っていいぞ。


「さて、マーゥル、ナタリア、マーシャ。出来はどうだった?」


 この芝居に関して、特に一家言持ってそうな連中に尋ねてみる。


「上演には堪え得る出来になったと思うわ」

「そうですね。これから熟成されていけば、まだまだよくなるでしょう」

「聖女王への感謝を忘れず、最後まで演じ切ってね☆」


 と、全員が上演の許可を出した。


「――ってことなんだが、ルシア?」

「うむ。では、本日より、三十五区劇場では、この演目を上演する!」


 ルシアの許可が下り、一同から歓声が上がる。

 本来は、責任者のパキスが決めればいいことなんだが、今回は事情があるからな。

 その事情も、こいつらには話してある。


 統括裁判所のバカ貴族を黙らせるために、矢面に立ってもらうってことも。


「ラブダイブを愚弄した愚か者に、目に物見せてくれるわ!」


 イーガレスが燃えている。

 こいつ、何気に自分が好きな物を貶されるの、めっちゃ怒るよな。

 ルシアに盾突き、劇場を愚弄し、芝居にケチをつけたバカ貴族に対しては、完全に敵意を向けている。


 ……こんな弱小貴族が統括裁判所に噛みついたら、痛い目見るかもしれないのに。


「まっすぐなバカだな」

「最高の誉め言葉だな、連中にとっては」


 ルシアがくつくつと笑う。


「何があっても、お前の味方でいてくれるって、確信したよ」

「ふん……そうだな。私も、そこは疑っておらぬ」


 長きにわたり、スアレス家を支えてきたイーガレス家。

 今後も、しっかりとスアレス家と三十五区を守ってくれそうだ。


「じゃあ、この辺片付けて劇場へ運んでくれ。スタンバイを頼む」


 もう間もなく、噴水の完成式典が始まる。

 式典をやった足で、この芝居を上演するのだ。時間はない。


「皆の者! 大急ぎで準備をするのだ!」

「急げ! しかし、慌てるな! 人形一体、小道具一つが我らの魂と心して扱え!」

「「「はい!」」」


 イーガレス親子に言われて、役者と見習いたちがスタジオを片付け、同時に運び出しの準備を始める。


 すげぇ大変な作業なのに、どいつもこいつもにっこにこだ。


 そんな中――


「うみのまつりばようこそ~♪」


 小さな歌声が耳に届いた。

 マーシャにも聞こえたようで、まったく同じタイミングで互いを見てしまった。

 おかげで、ばっちりと視線が合う。


「……ね?」

「……だな」


 互いに言いたいことは同じだったようで、小さく頷きを交わす。


 上手い。

 小さな声だが、耳に届いたその歌は、すげぇ上手かった。

 声の響きや柔らかさが、なんというか、才能以上のたゆまぬ努力の結晶のような、とにかくすげぇ長い時間の結晶のようなすごさを感じだ。


「ユナ」

「ひゃっ、ひゃい!?」


 声をかけると、猟師に見つかったウサギよろしくぴょんっと跳ねる黒ウサギのユナ。

 物っ凄い小動物感。


「今の歌――」

「はゎわ!? す、すみません、私なんかが勝手に口ずさんでしまって! 烏滸がましいことこの上もなくてすみません!」


 物っ凄い勢いで頭を下げるユナ。

 何度も下げるユナ。

 パンクロックライブの最前列か、お前は。ヘッドバンギングっつーんだ、それは、もはや。


「もう一回歌ってみろ」

「い、いえ! 私なんて!」

「エステラ」

「え? あぁ、うん……しょんぼり」

「はぁぁあ、すみません領主様! 領主様にそのようなお顔をさせてしまって!」


 意味も分からず、しょんぼりしただけのエステラでも効果抜群。

 極端な性格だな、こいつは。


「そのネガティブ、さっさと直せ。まともに会話も出来ん」

「すみません、すみません、すみません! もう、私など皆様の視界に入らないように、世界のすみっこでひっそりと隠れ住みます!」

「いや、ネガティブを直して外に出て来いっつってんだよ」

「私のような者が、そんなこと、烏滸がましい!」


 えぇい、くそぅ!


「ジネット!」

「はい?」

「なんとかしてくれ」

「えっと…………では」


 困り笑顔で、ジネットがユナの前まで歩いていく。


「ユナさん」

「は、はい!」


 殴られるとでも思ったのか、ユナが身を丸めて固くする。

 どんな生活送ってたんだ、こいつは?


「さっき、わたしの料理を美味しいと言ってくださって、わたしはとても嬉しかったですよ」

「で、でも、それは、本当に美味しかったから……」

「はい。そのユナさんの素直な気持ちがとても嬉しかったんです」


 言いながら、ユナの手を取り、ゆっくりと、乾いた土に水滴を一滴ずつしみ込ませていくように語りかける。


「ユナさんの言葉は、人を幸せな気持ちにしてくれます。ユナさんの笑顔は、見る者を楽しくさせてくれます。ユナさんは、とっても素敵な人だと、わたしは思いますよ」

「…………お姉さん」

「ふふ。そう呼ばれるのは新鮮ですね」


 カンパニュラは「姉様」だからな。

「お姉さん」はなかなかないか。

 ジネットの周りには、もっとお姉さんがいっぱいいるしな。


「わたしは、ユナさんが好きです。ですので、今だけ、ほんの少しの時間だけでも構いませんから、わたしの好きな人のことを悪く言うのは我慢してくださいませんか? 悲しくなってしまいます」

「……す、き…………私なんかが……?」

「はい。他の誰でもない、ユナさんのことが、わたしは好きです」

「…………ぉ……ねぇ……さんっ」


 ユナの瞳に涙が浮かび、あふれていく。


 きっと、教会にはこういうガキが多く集まってくるのだろう。

 ジネットは、本当にベルティーナの後継者みたいな存在だな。


 まぁ、本人はシスターになる気はなく、今後もずっと陽だまり亭で料理を作っているだろうけれど。

 ベルティーナ、まだまだ引退できないな。

 ジネットレベルの後継者なんか、そうそう出てこないだろうし、気長に育成してもらうとしよう。


「『私なんか』と言いたくなった時は、『私だって』と言い換えてみてください」


 お、いいアドバイスだ。

「私なんか」に続くのは否定文が多いが、「私だって」に続くのは前向きな言葉が多くなる。


「私なんか何をやってもダメで」と言いたくなった時、「私だって」と置き換えると「私だって、頑張ればもしかしたら達成できるかも」と意識がポジティブに向かう。

 そう簡単にはいかないが、それを意識するだけで、人の思考ってのはかなり大きく変化する。


 その第一歩としては、なかなかいいアドバイスだと言える。

 さすがだな、ジネット。


「ヤシロさんに、以前教わったんです」

「ごめん、待ってジネット」


 今、心の中でお前のこと大絶賛してたんだわ。

 それが、俺に聞いたとか言われると、自画自賛してたみたいで、クッソ恥ずかしいんだけど?


 つか、俺言ったか、そんなこと?

 いつ?

 まったく記憶にないんだけど。


 でさ、ユナ、そんな感動した目でこっち見ないで。

 お前を励ましたの、お前の隣の『お姉さん』だから。


「あの……どこまで出来るか分かりませんが、私、頑張ってみます」

「はい。そう思えた時点で、ユナさんはもう一歩を踏み出していますよ。引き続き頑張ってくださいね」


 お、いい褒め方だ。

 ゼロから一歩踏み出すのは大変だが、実はすでに一歩踏み出していたんだと知れば、その先歩き続けることはそこまで大変だとは認識しなくなる。

 自分の成果を認められるっていう成功体験も得られる、いい褒め方だ。

 やるな、ジネット。


「ふふ、これも、以前ヤシロさんが言っていたことのまねっこです」

「記憶にないけども!?」


 俺の知らないところで俺に染まるのやめてくんない?

 ベルティーナ方式で成長していって、ジネットは!


「ジネットちゃんがヤシロみたいになるのは、ヤだなぁ……」

「同感だが、うっせぇよ、エステラ」


 自分で思うのと人に言われるの、心のモヤモヤ感が雲泥だから!


「もし、今よりちょっとでもご自分を好きになれたら、今度はご褒美に甘いものをご馳走しますね」

「本当ですか?」

「はい。腕によりをかけて作ります。期待していてください」

「わぁ……!」


 ユナの目がきらきら輝く。

 ジネットの料理の腕を知らなくても、ジネットが放つ大物オーラに期待は高まるだろう。

 その期待を、余裕で飛び越えてくる腕前だから、マジで期待しておくといい。


 材料費と人件費は領主から徴収するから、お前は気にせずご褒美を受けるといい。


「勝手なことを抜かすな、カタクチイワシ」


 渋ちん領主の言葉はスルーしておく。

 それよりも、だ。


「ユナ。落ち着いたなら、一つ頼まれてくれるか?」

「は、はい! も、もう、すっかり、と、おち、おちち、おちつきますたー!」


 嘘を吐くな。

 なんだ「落ち着きマスター」って?

 何をマスターしたんだ、お前は。


「いいから、お乳突け」

「はい!」


 ぷにぷに。



 うむ! Cカップ!



「こんな素直な子に何やらせるのさ、君は?」

「陸地で藻屑にするぞチチツキイワシ」

「待て、俺は突いていないからセーフだ!」

「もっと別のツッコミ方ないんかいな。ほんま、しょーもないなぁ、自分」

「乳の話になった途端食いつくレジーナも、大概だと思うよ~☆」


 と、賑やかになり、ユナが顔を真っ赤に染めていく。

 あまり、注目されることには慣れてないようだ。


 こいつ、本当に役者になりたいのか?

 無理なんじゃね?


「もう『うみのまつりば』覚えたのか?」

「え?」

「さっきの劇中歌だ」

「は、はい! とっても素敵な歌でしたので、……歌もすごく素敵で、声も綺麗で……感動してしまいまして……それで……」

「わ~い、この子、すっごくいい子~☆ 抱きしめてあげよ~☆」

「とんでもないです! お体が汚れます!」


 ざばっと両腕を広げたマーシャが、しょんぼりする。


「ぁ、ぁああ、あのっ、すみません! 私なん……あ、いや、私だって、あの、すみません!」


 ん~、さすがに一朝一夕では直らないか。


「これじゃ歌えないな」


 こんなにテンパってちゃ、歌なんか歌えないだろう。

 まぁ、どうしてもってわけじゃないから、いいか。


「さっきの鼻歌、すげぇ上手かったから、ちょっと聞いてみたかっただけなんだ。悪いな」

「本当ですか!?」


 めっちゃ食いついた!?


「上手かったぞ。な、マーシャ」

「うん☆ 私に『上手い』って思わせるなんて、なかなかだよ☆」

「…………嬉しい」


 と、泣き出す。

 あ~あ~、もう。感情の振り幅すごいな、こいつ。


「ぐじゅ……あのっ!」


 涙と鼻水を袖で拭って、ユナは眉をぎゅっと吊り上げる。


「歌わせてください! この感動を、全部込めて歌います!」



 そんな決意と共にユナが背筋を伸ばす。

 寿司人魚四人が伴奏を始め、そして歌い出したユナは――本当に歌が上手かった。


 いや、これは、掘り出し物だわ。




「すごいな」


 思わず、素直な称賛が漏れた。

 いや、見事見事。


 さすがにマーシャと比べるのは酷だが、十分に上手い。

 マーシャ以外だと、今まで聞いた中で一番上手いかもしれない。


「見事だね」

「はい、とても素敵な歌声でした」


 エステラとジネットも拍手を送っている。


「きれいな、声、……いいなぁ」


 と、ミリィはちょっと羨望の眼差しが入っている。


「これで、マーシャがいなくても、歌のシーンがなんとかなるな」

「い、いえっ! そんな、私なんて、とんでも――」

「『なんて』は禁止だろ?」

「私だって飛んでないです!」


 おっと、どうした?

 テンパり過ぎてアホになったか?

 誰も飛んでねぇよ。


「ぁ、あの、歌を褒めていただけたのは嬉しいですが……でも…………」


 役者たちに背を向け、肩を竦めて、ぎゅっとまぶたを閉じる。

 そして、閉じた口から、微かに恐怖の理由が漏れ聞こえてくる。


「……先輩方を差し置いて、そんなの……ここにいられなくなります……っ」


 あ~、なるほどな。


 こいつ、きっとどこかで圧力かけられてたんだろう。

 貴族の家の下人なんてやってると、「出しゃばるな」「調子に乗るな」ってさんざん言われ、ちょっとでもいい思いをしているなんて思われた日には「気に入らない」と当たり散らされていたのだろう。


 こいつのネガティブは、そういうところから来ているんだろうな。

「私なんかがそんなことしたら、また叱られる」って。


「後ろ見てみろ」

「……ぇ……ぁの……」


 声、ちっちゃ。

 怖くて振り向けないか。

 んじゃ、向こうから来てもらおう。


「イーガレス」

「うむ」


 準備の手を止め、イーガレスがユナの前に回り込む。


「やってみないか? 歌姫を」

「ぇ…………」


 現当主に言われ、目をぱちくりさせるユナ。

 他所で何を言われてきたか知らんが、ここではそんなことは起こらない。


「そなたが歌ってくれると、きっと観客は喜んでくれるぞ」


 そう言われて、ユナはまん丸い頬を真っ赤に染める。

 嬉しさが、あふれ出していく。


「まぁ、すぐに決めずともよい。そういう可能性も、頭の片隅に置いておいてくれ」


 イーガレスが、ユナの肩をぽんっと叩く。

 デッカい手だな。

 ユナが小さいのかもしれないけれど。


「今日は特別な日。噴水の完成式典を祝う特別な公演は、是非ともマーシャ殿にお願いしたい」

「うん☆ 今日の主役は、さすがに譲れないよ☆」

「そんなっ! とんでもないです! そのように言っていただけただけで…………本当に、嬉しいです」


 褒められると嬉しいんだよなぁ、こいつも。

 でも、貪欲にそれを求めようとはしない。


 なかなか、難しい性格だ。

 こういうのは、時間と信頼できる人間が必要になる。

 焦ると、全部がダメになるんだよ、こういうタイプは。

 許容量を超えると「やっぱり無理です!」って、目の前にあるすべての選択を投げ捨てて殻に閉じこもってしまう。

 その後、一生後悔し続けることになろうとも、今の葛藤や苦しさに抗えないんだ。


「分かるわぁ、その気持ち」


 と、レジーナが呟く。

 視線が合うと、はっとして、照れ笑いを浮かべた。


「いや、ちゃうねん。四十二区でな? なんや、ウチのことよぅ褒めてくれはる人が多いやん? けど、ウチ自身は避けられ続けとったころと……もっと言ぅたら、祖国で命狙われとったころから考えても、なんも変わってへんねん」


 そう言って、胸をぎゅっと押さえる。


「否定され続けとったウチのまんまやのに、同じことして褒められるんは、なんや、こそばゆいねん」


 世間の見方が変わった、ってことはある。

 漫才頂上決戦を制したその瞬間から世間の見る目が変わり、今まで「面白くない」と言われていたネタが、途端に「めっちゃ面白い」と言われる――なんてこともあるくらいだ。

 人の感じ方なんて、案外そんなもんだったりするわけだけれども――


「お前が『変わってない』なんてことはねぇよ」


 少なからず、レジーナは変わった。

 積極的に人と関わるようになったし、イベントにも自主的に参加するようになった。


「見えてなかったものが見えてきただけだ」


「面白くない」と言われていたネタも、本当は面白かったんだよ。

 それを「めっちゃ面白い」と感じる人間に届いていなかっただけで。


「変わったように感じるのは、出会いが増えただけだ」


 少なからず、四十二区にはお前の命を狙うヤツはいないからな。

 それどころか、お前を守ろうってヤツとたくさん出会ったはずだ。


 出会いは新たな環境への入口だ。

 そりゃ戸惑うさ。


 俺だって、こんなお人好しやお節介焼きと、こんなに長く一緒にいるなんて思わなかったもんよ。

「騙される方がバカなんだ」なんて、今じゃ大っぴらに言えないからなぁ。


「騙しきれない俺の方が、もっとバカだ」って、分かっちまったし。



「とはいえ、戸惑う気持ちも分かる。だから、時間をかけて、自分の中で納得させていけばいい。『あれ? もしかして、自分って案外、すごいのかも?』ってな」

「……まぁ、せやね」

「ユナもな」

「…………」


 ユナがこちらを見て、瞳を潤ませている。

 ……泣くなよ、面倒だから。


「ユナさん。もし、まだちょっと自信が持てないのなら、わたしに歌を聞かせてくださいね」

「……お姉さん」

「わたしは、ユナさんの歌がとても好きですから、聞かせてくれると嬉しいですよ」

「…………はい。ぜひ!」


 こうして、確実な安心があると、人は変革の第一歩を踏み出せる。

 今回、ジネットがいてくれてよかったな。

 ジネットでなきゃ、このこびりついたネガティブは薄まることもなかっただろう。


「もうすぐ、わたしの大切な人たちが三十五区に来るんですが、その方たちにも聞かせてあげてくれますか?」

「え……っと、あの…………それは、まだ、少し……」

「では、二人きりでこっそり、ですね」

「こっそり…………ふふ、はい」

「じゃ、盗み聞きにいこ~っと」

「あ、ボクも」

「にゃぁあ!? だ、ダメです! さっきは、ちょっとアレでしたけど、やっぱり領主様がいると緊張してしまって……すみません!」

「はい、エステラ残念。俺だけ盗み聞きしてくるわ」


 領主様には聞かせられないんだってよ。

 とか思っていたら――


「え? …………領主様じゃ、ないんですか?」


 ユナがビックリするようなことを言ってくる。

 俺のこと、領主だと思ってたのか?


「だって、イーガレス様や、三十五区と四十二区の領主様とも対等以上の関係で――」

「ふふ、そうね。傍から見ると、そのように見えてしまっても仕方ないわね、ヤシぴっぴ」


 ちぃっ、マーゥルが嬉しそうにイジってくる。

 メンコでイジった仕返しか?


「俺はただの一般人だよ。庶民だ、庶民」

「えぇっ!? だって、誰よりも偉そうに……あっ、すみません!」

「はっはっはっ! よい。気にするな」


 と、勝手なことをのたまうルシア。

 なぜお前が言う?


「こやつも、たまにはそういう素直な意見に耳を傾けるべきなのだ」

「じゃあ、一般人らしく、もう口出しやめま~っす」

「そう拗ねるな。拗ねて可愛いのは十歳までだ」

「ぼく、やちろ、じゅっちゃい。おんなゆに、はいりゅ!」

「よし、この者を引っ捕らえろ! 要注意人物だ」


 俺の首根っこを掴むルシア。

 こんな扱いされる領主がどこにいるよ?

 一般人の首根っこ掴む領主もそうそういないと思うけどな。


 で、エステラ。

「錯覚だから、落ち着いて、ジネットちゃん!」じゃねぇーんだよ。

 そこそこ可愛かったやろがい!

 ジネットフィルター通さなくても可愛く見えたやろがい!


 ジネットなんか、俺が可愛過ぎてぷるぷるしてんじゃねぇか。

 見習え、少しは。


「まぁ、そんなわけで俺はそこらの一般人だから、そう畏まるな」


 とはいえ、侮ったら泣かすけど。


「そ、そこらの一般人が、貴族のイーガレス様に次々指示を……?」


 顔中に「?」をまき散らして、ユナがパニックを起こしている。

 そんなパニくることか?


「貴族や領主という肩書きに囚われるな。いいか? こいつら、しょーもない、俺、すごい、よって、俺の方がえらい!」

「ほざけ」

「よくも恥ずかしげもなくそういうことが言えるよね、君は」

「我々は、異論はないぞ、カタクチイワシ様よ!」


 ルシアとエステラが反論を寄越し、イーガレスが同意を寄越す。

 じゃあ、今後敬語でしゃべるぞ、お前ら。

 寂しがるくせに。


「そら、よぅ分からんわなぁ、こんなん。他所ではあり得へんもんなぁ」


 けらけらと、レジーナが笑い――


「まぁ、深く考えんことやね。慣れやで、慣れ」

「は……はぁ…………」


 と、アドバイスを送って、軽ぅ~い空返事をもらっていた。

 全然納得されてないみたいだぞ、お前のアドバイス。


「それでは、皆様お召し替えをいたしましょう」

「用意した、ルシア様の館に、皆様の控室を」


 ナタリアとギルベルタが言い、俺たちは急いでルシアの館へと移動することになった。


 じゃ、劇場の準備、しっかり頼むぞイーガレス家。

 今日は濃い一日になりそうだ。




 ルシアの館に移動したら、ウクリネスがいた。


「ウクリネス、知らないかもしれないけど、ここ、三十五区なんだ」

「もちろん、存じ上げていますよ」


 にこにこと、大荷物を持って立っているヒツジ顔のおばさん。


 俺が初めて服屋を訪れた時の、「どーせ客なんか来ないしなー」的な、暇そうな雰囲気が懐かしいよ。

 奥でくつろいでるのを「すみませーん」って呼ばないと出てこない感じ。

 今じゃ、奥で何かしら作ってて、呼ばれないと出てこない感じなんだろうけど。


 ……変わってねぇな、客目線で見ると。


「では、エステラ様。こちらへ」

「私たちもお手伝いさせていただきます!」


 ナタリアが連れてきたエステラんとこの給仕の向こうに、ルシアの館の給仕が並んでいる。


「……え、なんで?」

「是非!」

「ルシアさん?」

「やらせろと聞かなくてな。まぁ、悪いようにはしないから、使ってやってくれ」

「えぇ……」


 ルシアの館にも、エステラファンがいるようだ。

「ルシアさんのところの給仕だから信頼しますけど、見ず知らずの女性に肌を見られるのはちょっと……」とかなんとか言っているエステラ。

 お前は、水着で川遊びも、大衆浴場も平気なタイプだろうが。

 お嬢様ぶるな。


「店長さんはこちらへ」

「へっ!?」


 ジネットの腕をがっしりと掴む、ルシアの館の給仕たち。

 別動隊か?


「港でお見かけして、是非お手伝いさせていただきたいと、志願者がこんなに!」

「「「よろしくお願いいたします!」」」

「い、いえ、わたしは自分で出来ますから……」

「「「……しょんぼり」」」

「あ、あのっ、では、よろしくお願いします!」

「「「わ~い!」」」


 こら、ルシア。

 躾けがなってないぞ。

 目ぇ逸らしてんじゃねぇよ。


「貴様が来るまでは、もっと控えめな給仕たちだったのだ……」じゃねぇよ。

 人のせいにすんな。

 お前んとこの給仕だろうが。


「マグダたちは一緒じゃないのか?」

「一緒でしたよ。みなさんは今、一足先にお召し替えされてます」


 と、ウクリネスが言ったタイミングで、ロレッタがデカい扉から出て来た。

 ふわふわと裾が広がる、可愛らしいドレスだ。

 ほんのりとメイクもして、ちょっと大人っぽい雰囲気を纏っている。


 ちらっと見えた扉の向こうでは、給仕たちが優雅に、でもかなりの早足で動き回っていた。

 あの大広間を着替えスペースにしてんのか。

 この館、目隠しパーテーションいっぱいあったから、中で仕切られてるんだろうな。


 ……どれどれ?


「なに、さりげなく覗こうとしてるですか、お兄ちゃん!? させないですよ!?」


 おしゃれをしても、性格までは変わらないロレッタ。

 あんまりデカい声を出すなよ? メイクが崩れるぞ。


「似合うじゃないか。今日は一段と可愛いぞ」

「ほにょ!? お兄ちゃんが普通に褒めてくれたです!?」

「腰のところを掴んで『ぐんっ!』って下に引っ張ったらおっぱい零れそうなデザインで、なかなかいいな」

「不安になるような感想寄越してこないでです!? 掴ませませんよ、絶対!」


 俺が体勢を低くすると、同じだけ体勢を低くして身構えるロレッタ。

 面白い、俺とやろうってのか……


「なに騒いでんさね?」

「助っ人のノーマさんです!」

「ズルいぞ、ロレッタ!?」


 絶対勝てないじゃん。


「っていうか、ノーマ、今日はまた……すごいな」

「胸の話じゃないだろうねぇ?」


 と、これでもかと強調されている谷間を手でそっと隠す。

 うん。おっぱいも谷間もすごいんだけど……


「めっちゃ綺麗だな」

「ぅゅぃっ!? そ、……かぃね?」

「な、ジネット」

「はい。とっても大人っぽくて素敵です」

「くふっ……そうかぃね。なら、よかったさね」


 大胆に肩や背中が出る黒いドレスなのだが、胸元や腕の先という縁の部分が白で飾られているので、妖艶さだけでなくちょっと清純さも感じる。


「三十五区への泊まり込みが続いてから、どんなことになってるか心配してたんだが、元気そうで安心したぞ」

「くふふ……今日は随分優しいじゃないか。たまにはおしゃれもしてみるもんさねぇ」


 と、スカートを翻し回ってみせるノーマ。


 ノーマは元気そうだ。

 ノーマは。


 ……他の連中のことは聞かないでおこう。

 たぶんウーマロくらいは無事なはずだし、たぶん。


「今日、みんなこのレベルなのか?」

「はい。きっと驚くと思いますよ」


 自信を垣間見せるウクリネス。

 その自信は自惚れではなかったようで――


「あ、ヤシロ~! みんなも早く着替えてこいよ」

「……陽だまり亭のエプロンを脱いだマグダは、港に舞う潮騒の妖精」

「ヤーくん、ジネット姉様。見てください。給仕さんに着せていただきました」

「あーしの、かっこょ、なの!」

「あ、ヤシロ! 見て見て! 尻尾を考慮したデザインなんだよ、これ! 可愛くない? 可愛いよね!?」

「私の、ちょっと大胆過ぎないかな? ねぇ、ヤシロ、変……じゃ、ないよね?」


 どどっと出て来た顔見知りたちは、揃いも揃って華やかだった。

 なんとなく、黒やモカ系統の落ち着いた色合いが多い。

 その中で、差し色がとても鮮やかに映えている。


「デリア、今日のドレスはかっこいいな」

「だろ~? 可愛いはもういいやって思ったけど、これなら割と動けるんだぞ」


 いや、ドレスで賊を捕らえるようなことは、今日は起こらないから。

 起こっても、連合騎士団に丸投げだ。


「マグダは本当に妖精だな」

「……むふー」


 今回のドレスがよほど気に入っているのか、いつも以上ににこにこしているように見える。

 まぁ、半眼無表情なんだけども。


 カンパニュラとテレサは、同じ形のドレスを着ている。

 ペアルックだな。

 仲のいい姉妹のように見えて、とても微笑ましい。


「じゃあ、パウラは自慢の尻尾を、ネフェリーはその大胆に開いた胸元を見せてもらおうか」

「や~だよっ」

「もう、ヤシロのエッチ」


 二人とも、趣は違うがよく似合うドレスを纏っている。

 この中の誰か一人をエスコートしろって言われたら、ちょっとすぐには決められないくらいに、みんなとても綺麗だった。


「お待たせいたしましたわ」


 最後に、イメルダが優雅に出てくる。

 別に待っちゃいないが、待たせた感を演出してくる。


 しかし、やはり、さすがというべきか。


「恐ろしいまでに似合ってるな」

「当然ですわ」


 こういう式典用のドレスは、まさにイメルダの本領発揮だよな。

 マジで似合う。


「お前のエスコートに、そこらの紳士が列をなす理由がよく分かるよ」

「お上手ですわね。なんでしたら、先頭に並んでみますこと?」

「いや、今日は先約があってな」

「そうですの。日頃の行いを見直しなさいまし。とびきりの幸運を逃しておりますわよ」


 まったく。

 このイメルダのエスコートを逃すなんてな。

 ちょっと残念な気持ちになるよ。


「精々、大役を果たしなさいまし」


 そんな声援を残し、イメルダは女子たちの輪の中に入っていく。

 その途端、きゃーきゃーと女子たちが互いのドレスを褒め合う輪が広がる。


 ほんと、よかったよ。

 最初からエスコートする相手が決まってて。


「それじゃ、俺らもぼちぼち行くか……って、エステラとルシアは?」

「時間がかかるからと、先に着替えに向かわれましたよ」


 館の奥を指さして、ジネットが教えてくれる。

 人前に立つ領主は、観客であるこいつら以上に磨き上げるのだろう。

 式典までまだ時間はあるが……みっちり時間をかけてきそうだな。


「「「では、カタクチイワシ様は、こちらへ……」」……でゅふっ」

「自分で着替えるわい」


 さほど親しみもない女子に着替えを手伝ってもらうのは抵抗がある。

 つーか一人「でゅふっ」って言ったしね!?

 ジネット、ちゃんと満遍なく見てて、懺悔言い渡せよ!

 いっつも俺ばっかり。


「はい、これはミリィちゃんの分です」

「ぁ、ありがとう、うくりねすさん」

「「「では、ミリィさんはこちらへ!」」」

「ぁ、ぁの、みりぃも、自分で……」

「「「かわヨ、ゲットだぜ!?」」」

「話を、聞いてぇ~!」


 ミリィを拉致していく給仕たち。

 同性でも、看過できないラインはあるからな?


「べてぃ……レジーナさんは、こちらをどうぞ」

「今『ベティ』言ぅたやんな!? な、ヒツジの服屋はん!? こっち向きぃや! せぇへんで、ぎょーさん人が来はる会場で、あんなけったいな格好!?」

「じゃあ、素顔のレジーナさんを広く見てもらいましょうね。それはそれで、腕が鳴ります」

「待って! ……ちょっと考えさせてんか」


 大勢の人が集まるなら、正体を隠せるベティの方がダメージは少ないかも……とか、しょーもないことを考え始めるレジーナ。

 どっちでも一緒だから、さっさと着替えてこい。


「マーゥル様はこちらへ」

「ありがとう、シンディ」

「「「我々もお手伝いを――」」」

「及びません」


 マーゥルは、若い連中のように「ま、いっか」と肌を晒すようなことはしないらしい。

 シンディが言って、イネスとモコカがばっちりガードしている。

 …………って、あいつ、普通に陽だまり亭で風呂入ってねぇか?

 線引きがあいまいだなぁ、ったく。


「ベッコ」

「うむ。拙者はその辺の部屋を借りてササッと着替えてくるでござる」

「バカタレ。お前は、あの噴水を一人で彫り上げた最大級の功労者だろうが。徹底的に整えてもらってこい」

「いや、しかし――」

「だまらっしゃい!」

「なんのキャラでござるか、ヤシロ氏!?」

「らっしゃい!」

「お店でござるか!?」

「さぁ、給仕のみなさん、やっておしまいなさい!」

「「「あいあいさー!」」」

「なぜさも当然のようにヤシロ氏の命令で動くでござるか、ここの給仕たちは!?」


 担ぎ上げられるように連行されていくベッコ。

 盛大にオシャレさせてもらってくるといい。


「んじゃ、俺も着替えに行くか」

「「「ご案内します」」」


 にこにこ顔の給仕たちに連れられ、俺はなんかちょっと豪華そうな個室へと案内された。



 添え物でいいんだけどなぁ、俺は。







あとがき




ネタ帳に~ 書かれたネタが~ 意味不明~

宮地です


こんなことが書かれていました。


『群馬と福島は、車でも電車でも直接行き来出来ないらしい』


 Σ(゜Д゜;)だからどーした!?



先日、

朝、窓を開けたら土の上とかが白かったんですね

「えっ、雪!?」って思ってよく見たら、それ、霜で

一面、霜がおりてたんですよ。


あ、すみません、こんな冒頭からシモネタで☆


 Σ(゜Д゜;) 霜ネタ!?



――みたいなことも、ネタ帳に書いてあったんですが

当時の私、どこに勝算を見出していたのでしょうか……

(・_・;


いやまぁ、書きましたけども

よかったら使ってください。使える場所があるならば



ちょっと最近、物作りの話ばっかりだったので

ちょこっとネタ帳をひっくり返して、使わなかったネタの供養祭りを開催したいと思います。


もう時期的に「今さら……」みたいのがいくつかありまして

(^^;


ちなみに、

毎日ツイッター(現:X)にて、異世界詐欺師の宣伝ツイートをしているんですが、

今回のサブタイ『GOサイン』から、



マグダ「……ジャケットを、バッ、バッ!」

ロレッタ「それ、郷サインですよ!?」



というのを思い付いたんですが、秒速で没にしまして

何より、伝わりにくい!



マグダ「……ごーごごー!」

ロレッタ「ぐーぐぐー! ですよ!?」

マグダ「……ゴウひろみ」

ロレッタ「エドはるみです!? ちょっと似てるですね!?」



も、光速で没に。

エドはるみさんとか、今どきの令和っこは知らないかもしれませんしねぇ



ロレッタ「いや、エドさんのネタ自体はツイッター(現:X)で使ったですよね!?」

Σ(゜Д゜;)


 ……えへへ(〃´∪`〃)ゞ



と、こんな感じでどんどん供養していきます☆



まず、米不足が深刻化していた2024年ころのお話なんですが

ウチの会社の、やめちゃった若手

その昔、メールに件名を書くように言ったら


件名『了解しました』

本文『了解しました』


みたいなメールを送ってきた、ちょっとおっちょこちょいな彼なんですが、

その彼が、仕事中にやたら憤っておりまして、

なんだろうと思ったら、近所の弁当屋さんがあり得ないという話をしておりまして

「……(仕事しろよ)」

とか思いつつも聞いていたんですが――



彼「近所の弁当屋が、マジであり得ないんですよ」

社員「なになに? 何があったの?」

彼「この前、弁当屋で米が売ってたんですよ。『ウチで使用しているお米です』って」

(※全国的に米不足だったので、お弁当屋さんでもお米を売っていた時期があったんです)

社員「いいお店じゃん」

彼「違うんですよ! その米に『無洗米』って書かれてて! いや、洗ってねぇのかよ!? って! 今まで結構行ってたんですけど、洗ってない米食わされてたんですよ!? 気持ち悪くて! もう二度と行かないっすよ、あんな店!」

宮地「(ん? 待って、無洗米ってそいう意味じゃないよ)」

社員「それ、最悪だね。行かない方がいいよ」

宮地「(いや、お前もかーい!?)」


 ※無洗米は、洗わなくてもいい洗浄済みのお米のことです。念のため



衝撃でしたね。

無洗米を洗ってないお米だと思っていたなんて。


だとしても、

パッケージに書くのはおかしいだろうと、

洗うかどうかは、その後の人間次第なわけですし



で、そんな彼、

お弁当屋に行かなくなって、スーパーに買い物に行くようになったんですが――



彼「野菜って高いんっすね!」

社員「まーなー」

彼「あんな高いと、買えないですよ」

社員「量は減るよなー」

彼「だから、自分で取りに行こうかと思って」

宮地「(ん? なんか雲行き怪しいぞ……)」

彼「雑草って、野菜っすかね?」

宮地「(よし、ちょっと待とうか!?)」

社員「どうなんだろう……食えりゃ野菜なんじゃん?」

宮地「(違うよー!? 食えないから『雑草』なんだよ!? 『野草』や『山菜』ではなく!)」



……あの社員も大概だな……( ̄_ ̄;



あと、同じくらいの時期に、課長だった人が結構短気な人で

朝会社行ったらいきなり怒鳴られたことがありまして……



課長「宮地! いくら忙しくてもメールの確認くらいしろ! なんで昨日のうちに返信しないんだ!? 社会人は学生とは違うんだ! 『知りませんでした』『気付きませんでした』じゃ話にならないんだよ!」

宮地「昨日は有給取るって事前に報告して、前日に引継ぎと周知してありましたけど?」

課長「……知らなかったし、気付かなかった」



……おいこらー

おこっちゃうぞー

※時間が経ったので笑い話に出来てますけども

ブラックか、ウチの会社……(^^;



あと、

服屋さんに行った時に、お店にいた女性店員さんが、かなりお胸の雄大な方で

愛想もよくて、話しかけてきてくださって



巨乳店員さん「ゆっくり見てくださいね」

宮地「いいんですか!?」

警備員「いいわけないだろー」



つまみ出されまして――



別の日、雑貨屋さんに行った時の店員さんも、お胸がまことに雄大な方で



巨乳店員さん「気になるものがあったら、お手に取ってご覧ください」

宮地「いいんですか!?」

警備員「こりねぇなぁ、お前も」



つまみ出されまして――



別の日、布団屋さんに枕を見に行った時の店員さんのお胸がまごうことなき雄大さで



巨乳店員さん「肌触りや柔らかさとか、お試しくださいね」

宮地「いいんですか!?」

警備員「お巡りさんこの人です」

警察官「ちょっとこっち来てくれる?」


国家権力連れてくるのはズルいだろー!

(>△<;)




――と、こんなネタが手付かずで残ってました。

どこで使う気だったんでしょうか?


いつか、コンプライアンスがもうちょっとガバガバになるのを待っていた、とか?


 Σ(゜Д゜;)ならないよ!?


枕は盛りましたが、服屋と雑貨屋は本当です☆


 Σ(゜Д゜;) 盛ってんじゃねぇーよ!?


でも、ニトリの店員さんに、


ぺったん店員さん「触ってみてください、これ、もっちもちなんですよ」

宮地「(ぺったぺたっぽいですが!?)」



声には、出しませんでしたよ☆

(☆>ω・)b



というわけで、結構供養できましたでしょうか

今回はこの辺にしておきたいと思います。


本編は『ひろみポーズ』でしたか

……あ、『GOサイン』でしたね

惜しい! ニアミス!


この後も、ヤシロたちの企みにご期待ください☆


次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
これで後々王族がご観覧にきそうだなぁ
更新ありがとうございます!ジネットさんまじ天使!エビフリャーエビフリャー!100カワヨです!イーガレス氏の闘魂がガッツリ伝わってきました。流石英雄!女性方のドレス良いですねぇ。こちらの世界で当方見る機…
えびふりゃー!えびふりゃー!
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