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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第三幕

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549/821

351話 あの人は今……

 港の工事が再開して二日後。


「もうすぐ出来そうッスよ!」

「早ぇな、おい。まるで、工事中止期間中に今まで以上に掘り進めていたみたいな速度だな」

「どきぃ!? そ、そそそ、そんなことななななななはは~ッス」


 ウーマロがわざとらしくおどけて頭をかく。

 やっぱ進めてたか、工事。

 調査という名目で。

 それ、『精霊の審判』的にセーフなのか? まぁ、誰に指摘されるわけでもないだろう。


「まぁ、調査のためには壁を削ったり、海底の調査のために深く掘ったりとか必要だしな」

「そうなんッスよ! まさにその通りで、調査のために向こう岸へ行こうとすれば、必然的に船が通れるくらい掘ったり削ったり整えたりしなきゃいけないんッスよ! 安全第一、人命尊重の精神ッスね!」


 うまい言い訳を見つけたようだ。

 ウーマロの顔がキラッキラしている。


「ただ一個、気になることがあってッスね」

「あぁ、アノ件だな」


 実は、俺もここ数日気になっていたところなのだ。


「マーシャのホタテ、あれって毎日替えてるのかな?」

「そんなことは気になってないッスよ!?」


 え、だって、見た目にはいつも同じだしさ!

 でもマーシャみたいな女の子は着る物にも気を遣いそうだから毎日交換して洗濯もマメにしてるのかな~って気になるじゃん!?

 なるじゃん!?


「毎日ちゃんと替えてるよ~☆」

「ぎゃあ、出たッスー!?」

「むぅ、失礼だなぁ、キツネの棟梁くんは」


 海面からにゅっと顔を出したマーシャに、ウーマロが悲鳴を上げる。

 美女が急に出てきて悲鳴を上げるのはウーマロと、その女子に関するエロい話をしていた男子くらいなものだろう。


「だから、俺は悲鳴を上げない!」

「私に関するエッチな話、されてた気がするけど~?」

「まさか! しいて言うなら、俺たちは芸術について語らっていたのさ。な、ウーマロ?」

「……こっちに話振らないでッス」


 マーシャが登場して、ウーマロがこちらに背を向けてしまった。


 今、俺は港の工事が進む洞窟の中にいる。

 なんかもう、凄まじい勢いで工事が進んでて笑うしかない状況だ。

 以前調査に訪れた時は岩肌むき出しだった洞窟が、いつの間にか綺麗に舗装されてんだもんよ。

 壁にも床にもレンガが敷き詰められ、豪勢なダンジョンみたいになっていた。

 うっかりと勇者が迷い込んできてしまいそうな雰囲気だ。


 これもう、完全に洞窟の中も何かに利用する気満々だろ?

 ただの通路じゃねぇな、これ。


「洞窟内の通路、何に使う気なんだ?」

「最初は、メンテのために広めの通路をと思って作り始めたッスけど、手の空いた大工たちがどんどんと舗装していったんッスよ」


 あぁ、港に続く森の中の道が必要以上に豪勢になったのと同じ原理か。

 余ってんなぁ、大工。


「一応、全部ではないッスけど、魔物が嫌うレンガも使われてるんッスよ」

「なんつー贅沢な洞窟だ」

「で、洞窟が綺麗になったら、アッスントがやって来て『折角なので、ここにお店を出しませんか? 観光やデートで利用できるお店や、港で働く船乗りたちが気軽に利用できる飲食店などを備えると一儲けできますよ』って言って、妙に張り切ってたんッスよ」


 あぁ、それであの辺、必要以上に広いスペース確保してあるのか。


「あんまり掘り進めると、また壁がせり出してくるかもしれないぞ」

「大丈夫っス。それとは逆方向に作ったッスから」


 一応、声を潜めて会話する。

 言われてみれば、通路や店舗予定地は、四十二区から見て対岸側に設けられている。

 あれは、精霊神対策だったのか。


「カエルが出るかも~ってビビってるヤツはもういないのか?」

「いないッスね。先日の濃霧の時に、ブロッケン現象を目の当たりにした連中が大勢いたッスから。なんか、大はしゃぎだったらしいッスよ。『さすが四十二区! 面白い!』って言ってたらしいッス。オイラは陽だまり亭にいたんで聞いた話ッスけど」

「あの不思議現象は別に四十二区のせいじゃねぇよ」


 二十九区でも三十区でも起こってたっつーの。

 しかし、そのおかげで、大工連中が謎の影に怯えることはなくなったようだ。

 自分の目で見りゃ、恐怖心も薄れるのだろう。

 霧の中で蠢く怪しい影。その正体が自分の影だって理解も出来ただろうし。


 ……もっとも、ここで目撃された影は、ブロッケン現象とはまるっきり別物だと思うけどな。


 もう出てくるなよ?

 この次は言い訳出来ないからな?


 でも、おそらく大丈夫だろうと俺は思っている。

 今回の濃霧にせよ、突如せり出してきた破壊できない謎の壁にせよ、精霊神が一枚噛んでいるとしか思えない不思議現象が立て続けに起こっている。

 なら、カエルが再びこの洞窟に紛れ込まないように、精霊神がきっとどうにかするだろう。

 つか、しっかり管理しとけよ、精霊神。

 今回はお前の管理不足が原因の騒動だったんだからな。

 貸し一つだからな! 覚えとけよ! 忘れんなよ! そして、早急に恩を返すように。三倍返しでな!


「ねぇねぇ、ヤシロく~ん。私も陸に上がりた~い!」

「上がって平気なのか?」

「少しなら平気だよ☆」

「んじゃ、上がってこいよ」


 俺とウーマロがいる洞窟の通路から海面までは2メートルほど高さがある。

 この高低差で会話するのはつらい。

 というわけで、マーシャが通路に上がってくるらしい。

 どうやって上がるかは――



「ふらい、はぁ~い☆」



 もちろんマーシャジャンプだ。

 一度深く潜って、勢いよくジャンプしてくる。

 ミサイルのような勢いで飛び出してくるマーシャだが……絶対着地のこと考えてないよな、これ!?


「うぉっと、危ねぇ!?」

「ないすきゃっち~☆」


 ナイスキャッチじゃねぇよ……


「叩きつけられたらどうするつもりだったんだよ」

「ヤシロ君なら、絶対受け止めてくれるって信じてたよ☆」


 だとしても、せめて事前に一言くれ。

 うっかり見殺しにしかねないからさ。


「もう、降ろして平気だよ~☆ お姫様抱っこのままでも平気だけど~☆」

「ぐっふっふっ、陸に上がっちまえば、抵抗も出来まい、げっへっへっ」

「あ、ヤシロさん。この辺、定期的にメドラさんが通るッスよ」

「あと、メドラママに厳令されてる女性狩人もね~☆」


 ……ちっ。

 分かってるよ。

 やたらと巡回してるんだよなぁ、この辺。


 まぁ、ウィシャートが何か仕掛けてくるなら、この場所が一番危険だからな。


「それじゃあ、ウーマロ。話を戻すが――毎日取り換えるくらい替えのホタテがあるなら、一個二個なくなっても気が付かないと思わないか?」

「そんな話はしてなかったッスよ!?」

「わ~、キツネの棟梁くん、エッチだ~☆」

「オイラ、してないッスよ、そんな話!?」


 マーシャにからかわれ、明後日の方向へ抗議の声を上げるウーマロ。

 マーシャはさすがに見られないか。

 女子チームの中でも、一際色香がすごいもんなぁ。

 エロいってんじゃないのに、男を惑わせるオーラが迸ってるからなぁ。

 まぁ、露出が多くて純粋にエロいってのは否定できないけども。


「そうじゃなくてッスね」


 マーシャの登場で盛大に逸れた話を、ウーマロが懸命に戻す。


「組合の方で、ちょっと不穏な動きがあるようなんッスよ」


 そんな話を、オルキオもしていたな。


「あの、情報紙の女性記者がいたじゃないッスか?」

「ド三流か?」

「その記者の血縁者が、組合の役員の一人なんッスけど――」

「組合から大工が大量離散した責任を背負わされて、権力の確保に躍起になってんだっけ?」

「さすがヤシロさん、詳しいッスねぇ!?」


 それはたしか、タートリオが教えてくれたんだっけな。

 それで、引退した貴族のジジイの愛妾だか第三婦人だかにあのド三流記者を押し付けて縁故を繋げようとしてるとかなんとか。


「そのドブローグ・グレイゴンなんッスけど」

「そんな名前だったっけなぁ」

「……ヤシロさん、微妙に人の名前と顔を覚えるの苦手ッスよね?」

「覚える必要性が見出せないからな」


 俺の脳みそには、記憶しておかなければいけないもっと大切なものがたくさんあるからな。

 膨らみとか、揺れとか! むぎゅっ感とか!


「で、そのドブノヨーナ・ニオイゴンがどうかしたのか?」

「さら~っと悪意をまき散らすッスよねぇ~。まぁいいんッスけど」


 ウーマロが咳ばらいをして、声を潜める。


「結構追い詰められてるみたいで、大いに荒れてるみたいッスよ」

「ほうほう」


 余裕ぶっこいて弱者いじめしてたら、いつの間にか自分が弱者枠にいたと。

 ま、よくあることだ。


「それで、オルキオさんの事業が広がりつつあるじゃないッスか」

「これから本格的に手を広げるらしいぞ」

「うわ~……じゃあ、爆発も近いかもしれないッスね」

「組合の役員とオルキオが競合してるってのか?」

「というかッスね……、オルキオさんが紹介する仕事は、給料はともかく、きちんとした仕事なんッスよ」


 さすがに高額の仕事ってわけにはいかないのだろうが、オルキオが斡旋する以上、働き口はまっとうなところだろう。

 獣人族を見下したり搾取したりするような場所を紹介するわけがない。


「――で、組合に圧をかけられて自由に仕事が出来ない大工が、『ならあっちの方がいいんじゃないか』って動きを見せ始めたみたいなんッスよね」


 組合お得意の「言うこと聞かないとハブるぞ。干すぞ。仕事やらないぞ」戦法が裏目に出てるのか。

 組合が仕事を回さないなら、組合を抜けてオルキオのところにいけばいいや、と。


「大工の中には、獣人族を下に見ている棟梁とかもいるッスからね」


 眉間にシワを刻んで、ウーマロが厳つい顔をする。

 棟梁が人間だと、獣人族を見下したりするのだろうか。

 まぁ、貴族様は無条件で獣人族を見下しているようだし、そこに取り入ろうとするヤツは似たような思考回路になるのかもしれないな。

 へぇ~。


「そんなとこやめて、オルキオなりウーマロを頼ればいいのに」

「そういう風潮が出始めたんで、荒れてるんッスよ、グレイゴンは」


 なるほどねぇ。


 身から出た錆以外の何物でもないのだろうが……

 荒れるのは構わないが、トチ狂ってこちらに危害を加えに来るなよ?

 そんなことになったら、徹底的に潰すからな?




 ……と、思ったのがフラグになったんだろうなぁ。



 数日後、俺はそのトチ狂っちまったらしい、噂のドブローグ・グレイゴンとやらに遭遇することになる。






 俺が無自覚でフラグを立ててしまってから数日。


「貴様らぁ! ここで何をやっとるかぁ!」


 その爺さんは突然現れ、突然訳の分からないことを喚き散らした。

 黄みがかった白髪をぼさぼさに振り乱し、華美なくせに随分とくたびれた服を身に纏っていた。


「港の工事は中止のはずだぞ! 工事をやめろ! 即刻この場を立ち去るのじゃ!」


 ツバをまき散らしながら、作業中の大工たちに詰め寄っていく。


「この場所にはカエルが出るのじゃぞ! カエルじゃ、カエル! 呪いをもらっても知らぬぞっ!」

「なんだこのジイサンは!?」

「ほら、邪魔すんなジイサン。危ないからあっち行ってろ」

「なんじゃと!? 貴様らこのワシを知らぬのか!? コレだから亜人は! 教養もない卑しい蛮族どもめ!」


 そんなとんでもない発言に現場の空気が変わった。


「誰だ、あいつ?」

「……マグダも見たことがない」


 たまたま、大工連中に差し入れという名の昼飯を持ってきていた俺とマグダは、その奇っ怪なジジイの奇行を目撃した。


「なにやってんッスか、あんたは!」


 ウーマロが物凄い速度で駆けてきて、ジジイの前に立ち塞がる。


「出おったな、トルベック! 諸悪の根源がっ!」


 ジジイはウーマロを見つけると、ただでさえボサボサな白髪を逆立てた。

 あぁ……もしかして、こいつが、アイツか?


「貴様のせいで何もかもが滅茶苦茶じゃ! 死んで詫びを入れろ、亜人風情が!」




 ドゴンッ!




 と、洞窟が揺れた。

 何事かと音の出所――俺のすぐ後ろを振り返ると、マグダが洞窟に拳を突き立てていた。

 マグダの拳の周りは半径1メートル近くが大きくヘコんでいた。


 拳一発で、こんなことになりますか。

 プチメドラみたいで、ちょっとヤだなぁ~。


「…………へっくしょん」


 遅い遅い遅い!

 くしゃみの反動でついうっかりを装うにしても、肝心のくしゃみが完全に出遅れちゃってるから。


 まぁ、ウーマロに向かって死ねだの亜人風情だの言うジジイがいたら、そりゃマグダは怒るわな。


「……チッ、野蛮な亜人め」


 しかし、ジジイは懲りない。

 つーかさ。

 ここ、獣人族だらけなんだけどさ、よくもその中で悪意を込めて亜人なんて言えるよな?


 え、自殺願望有り余ってんの?


「なぁ、ウーマロ。そこの小汚いヨボヨボが、組合の役員とかいう……たしか、ドブクッセー・ゲローリンだっけ?」

「惜しいッス、ヤシロさん。掠りもしてないッス」


 掠ってもないのに惜しいのか。

 さすがだな、俺。とんだミラクルボーイだ。


 で、ウーマロの反応を見る限り、こいつがトルベック工務店を嵌めようと画策した土木ギルド組合の役員、ド三流記者の叔父に当たるドブローグ・グレイゴンらしい。


「ヤシ、ロ……?」


 そのグレイゴンが俺を見る。

 ゆらりと体が揺れ、急に駆け出したかと思うと、どすどすと足音を鳴らして接近してくる。


「貴様がうちの姪を苦しめた外道かぁぁあ!」


 両腕を伸ばして迫ってくるジジイは、まるでゾンビ映画さながらの迫力で……

「あ、コレなら勝てるな」って思っちった。


 マグダが即座に反応して助けに来てくれようとするが、それを視線で止める。

 大丈夫だ。

 こんなジジイには後れを取らない。


 年齢を重ねているだけじゃなく、金に物を言わせていつも他人を使っていたのだろう。普段から体を動かしていないのがバレバレな体の硬さだ。

 ちょっと走っただけで、今晩あたりこむらがえりで苦しむことになるだろうことが容易に想像できる。


 ジジイが迫ってくるのと同じ速度で後方へ下がる。

 ウーマロに合図を送り、周りの大工たちを退けさせる。

 俺が自由に動き回れる空間を空けてもらう。


「姪って、誰のことだ?」

「忘れたとは言わせんぞ!」

「忘れた~」

「貴様ぁぁああ!」


 ひょいひょいと逃げながら、ジジイを煽ると、面白いように食いついてくる。

 後ろに逃げ、少しスピードを落として、ジジイの手が触れそうになったところで体を捻ってターンする。

 ほらほら、今度はコッチだ。

 はいはい、あんよは上手、あんよは上手。


「貴様のせいで情報紙の記者をクビになった哀れな我が姪のことだ! バロッサ・グレイゴンの名に覚えがあるじゃろう!」

「残念だが、しょーもないヤツの名前はすぐに忘れるようにしてるんだ」

「殺してやるぅうう!」


 姪可愛さに援助をし、その結果金に困って金策に駆けずり回っていたという情報も得ている。

 それを、「しょーもない」と切り捨てられては、ジジイもキレるだろう。


 で、そんな興奮してると、正常な判断が出来なくなるぞ。


「なぁ、ジジイ。なんか怒ってる?」

「当たり前じゃ!」

「じゃあ、俺を捕まえられたら、両手を突いて謝ってやるよ」

「その言葉、違えればカエルにしてくれるぞ!」


 年寄りの冷や水という言葉は知らないようで、ジジイは俺の挑発にまんまと乗って、全速力で俺に向かってくる。

 工事中の洞窟の中で。

 広いとはいえ、まだ転落防止の柵も作られていない通路で。

 一歩でも踏み外せば2メートル下の海へドボンとダイブする羽目になるこんな場所で。


 海を背に、通路の際に立っている俺に向かって。全速力で。

 で、捕まる直前に俺がくるっと体を捻ると――


「ぅわぁぁああ!」


 当然、海へ落下するわけで。

 ドブローグ・グレイゴンは情けない悲鳴を上げながら海へと落ちていった。


「ぶわっ! 助けっ! ワシは、泳げん……っ! ぶわっ!」


 どう見ても運動が出来るようにも見えず、貴族らしいだらしのない体をしているジジイは、当然のように泳げず溺れている。


「貴様らっ! なにをぼーっと見ておる! ワシを助けろ!」


 ばっしゃばっしゃと水音をさせて、ジジイが喚いている。

 獣人族ばかりのこんな場所で。

 散々、亜人だの蛮族だのと罵った獣人族を相手に。

 死ねだ殺すだと言っていたジジイが「助けろ」と上から命令をしてきやがる。


「よろしいのですか、ミスター・ドブローグ?」


 通路の上から、遙か下の海であっぷあっぷ溺れるジジイを見下ろす。


「下賤な蛮族が高貴な御身に触れても?」

「なっ!? 時と、場合を、考えぬか、愚か者!」

「そうそう、俺、愚か者だから、時と場合を考えられないんだよな~」


 このジジイは一体いつになったら気が付くのだろうか。

 自分の立場に。

 自分を客観視できないヤツってのは、どうしてこうまで醜いのか。


「貴様っ! ワシが死んでもいいのか!?」

「いいけど?」


 うっすらと笑いながら言ってやると、グレイゴンは言葉を失った。


「どうする? 俺や、ここにいる大工たちに非礼を詫び、『助けてください』と頭を下げるか?」

「誰が、貴様らなぞに!」

「じゃあ、自力で岸まで泳ぐんだな。さぁ、仕事を再開するぞ!」

「「「おーう」」」


 大工たちが低い声で返事をする。

 やはりというか、誰一人溺れるジジイを助けようとする者はいなかった。


「まて! ワシは、本当に……っ、ぶぁっ! 泳げ、ないのじゃ!」


 ……はぁ。


「……だから?」

「早く助けぬと、死んでしまうぞ!」

「……だから?」

「いがみ合っている、場合か! 物事の優先順位を考えろ、バカが!」

「……だから?」

「なんでもいい! さっさとワシを助けろ!」


 ん~……

 もともと、ある程度懲らしめたら助けてやるつもりだったんだが……

 こいつを助けたら大工たちが暴動を起こしそうだよなぁ。

 とはいえ、ここで死人を出しちまうのはなぁ……

 どうすっかなぁ。


「ひぃいい!?」


 俺がこのあとの対応を考えていると、溺れるジジイが奇っ怪な悲鳴を上げた。


「に、人魚じゃ! 人魚が出た! 早ぅ! 早く引き上げてくれ! 殺される!」


 見れば、ジジイの周りをマーシャがゆっくりと旋回していた。

 マーシャの長い髪が波に揺れて怪しく広がる。


「ここでの非礼をみんな謝るなら、助けてあげる☆」


 おどけたように言うマーシャ。

 だが、その声はいつもの朗らかなものとはかけ離れた、肌が粟立つような恐ろしい響きをしていた。


「謝罪がなければ…………沈めるよ?」

「分かった! 謝ってやる! ワシが悪かった! これでいいじゃろう!?」


 そんなもんが謝罪になるかよ。


「ま、しょうがないね」


 マーシャも呆れているようだ。

 力も知恵もないのに、プライドだけは有り余るジジイに。


「それじゃあ、100点満点中2点の謝罪だったので、2点の助け方をしま~す」


 言い終わるのと同時に、海の表面が大きく波打った。

 うねりを上げる大波が起こり、ジジイの体を港まで押し流す。


 おぉ……自然界を操る力、怖ぇぇええ。

 海にいる人魚は最強っての、マジなんだろうな。


 遠くで「ぎゃっ!」という悲鳴が聞こえた。

 きっと、港のどこかに頭でもぶつけたのだろう。

 ……しゃーない。引き上げに行ってやるか。


「ウーマロ。強制退場と接近禁止でいいか?」

「そうッスね。これ以上は、関わるだけこっちが損するッス」


 ウーマロは大工たちに向かって「それでいいッスよね?」と確認を取っていた。

 ここのボスがウーマロじゃなかったら、この筋肉ムキムキ軍団に袋叩きにされていただろうに。ジジイ、身の程を弁えろよ。


「さ~あ、この苛立ちは、仕事で発散させるッスよ!」

「「「う~っす!」」」

「じゃ~ね~、一番頑張った大工さんには、海漁ギルドからご褒美をあげちゃうね~☆」

「「「マーシャさんからのご褒美!?」」」

「海漁ギルドからね~☆」

「「「何貝だろう!?」」」

「ん~、ヤシロ君に感染した人が多いなぁ~、もう」


 俺を巻き込むな。

 濡れ衣もいいところだ。


 なんにせよ、きっと本人もぶち切れていただろうに、大工たちをうまく諫めてくれたウーマロとマーシャに感謝だな。

 現場はあいつらに任せておけば大丈夫だろう。


 通路を駆けて、洞窟をあとにする。

 以前は船を使わないと洞窟内へ行けなかったのだが、今では港から橋を渡って行けるように改良されている。

 どんどん便利になっていく。


 洞窟を出て波止場へ向かえば、ジジイが桟橋にしがみついていた。

 水に浸かると体力を削られ、這い上がることすら難しくなるんだよな。


「おい、グレイゴン」

「…………はぁはぁ……貴様……」


 桟橋にしがみついて、こちらを睨み付けてくる。

 まだ分かってないらしい。自分の立場が。


「貴族に、このような真似をしてどういうことになるか……覚悟しておくのじゃな」

「じゃあ、告げ口をされないように、今この場で証言者を消すしかないな――」


 お前が戻らなければ、ここであった無礼は知られることがないもんな?


「なっ!? ま、待て!」

「な? そろそろ学習しろよ。お前が口を開く度、お前の命は危険にさらされるんだ」

「そもそも貴様が――」

「沈めるぞ?」

「…………」


 ようやく口を閉じたグレイゴン。


「ほら、引き上げてやるから、二度とここへは来るな」


 腕を掴んで、強引に引き上げる。

 引き上げるついでに、耳元で忠告を囁く。


「……この次は、誰が暴走するか俺にも分からん。止めることは不可能だろうな」


 ごくりと、グレイゴンが喉を鳴らした。

 こんだけ怖い目に遭えば、もうここへは来ないだろう。


「……調子に乗っていられるのも今のうちじゃぞ」


 ま、それくらいの捨て台詞は言わせてやるさ。


「そうだな。とりあえず、今後の対応を協議するためウィシャートにでも会いに行ってみたらどうだ? ……そうすりゃ、テメェの置かれている立場ってもんがイヤでも分かるだろうからよ」

「……どういうことじゃ?」

「行って、その目で確かめてこいよ」


 まず間違いなく、すでにウィシャートはグレイゴンを見捨てている。

 情報紙への影響力もなくなり、トルベック工務店を追い詰めるはずだった組合は返り討ちに遭い、ウィシャートの計画はことごとく頓挫している。

 もともと、気に入らない者を潰すためだけに始まった嫌がらせのような行為だ。

 完膚なきまでに失敗した今、ウィシャートがそこに固執するとは思えない。


 それどころではないだろうしな。


 四十二区が面と向かって敵対した。

 姿を隠して外周から絡め手で――なんて、そんな時期はとうに過ぎている。


 いまさら、力を失い落ちぶれたただの貴族を、ウィシャートが重用するわけがない。


「行って、現実を見てこいよ」


 そう言って、グレイゴンを送り出した。

 ウィシャートに切られたと悟ったあのジイサンがどんな顔をするのか……


 ま、わざわざ見るほどの価値もないだろうけどな。






 それからさらに二日が経ち、その情報は俺の耳へと届いた。

 グレイゴンは、想像を上回る大惨事を巻き起こしたらしい。


「ドブローグ・グレイゴンは、爵位を返上することになったよ」


 エステラが、陽だまり亭に来てそう教えてくれた。

 返上とは言っているが、事実上取り上げられたのだろう。


 ドブローグ・グレイゴンは、俺に言われたその足でウィシャートの館を訪ね、そこで騒動を起こした。


 ずぶ濡れの衣服も厭わず、四十二区を出たその足でウィシャートの館へ向かったグレイゴンは、館の裏門へ回り「ウィシャート様へ面会を」と申し出た。

 だが、裏門を守る兵士に「面会の約束がないと入れない」とあしらわれてしまう。


 そこで、グレイゴンは「暁に杯を」という言葉を口にした。

 おそらく、それが合言葉なのだろう。

 裏で繋がり悪だくみをする者たちは、時に急を要する会合を開く必要が出てくる。

 そんな時、本来なら会えないはずのウィシャートと特別に面会できる特別パス。そんなのが、その合言葉だったに違いない。


 だが。

 グレイゴンは裏門を守る兵士に「深酒はお体に障りますよ」と、半笑いで言われ、取り合ってもらうことは出来なかった。

 つまり、その合言葉はもう効力を失っていたのだ。


 簡単な話だ。

 ウィシャートが「もう会う価値はない」と判断すれば、合言葉を失効させればいい。

 事前に「合言葉のことは他言無用」と約束させておけば、「合言葉を言えば特別に会えるはずだ」なんてことを口には出来ない。

 訴えることが出来なければ、合言葉を口にするグレイゴンはただ独り言を言っているだけになる。深夜を過ぎても深酒をしている節度のない飲んだくれだと侮蔑されて終了だ。


 そして、そこで初めて、自分が切り捨てられたことを悟るわけだ。


「奇声を上げて暴れ出したらしいけれど、あっという間に兵士に捕らえられたそうだよ」


「貴族に楯突いてどうなるのか分かっているのか、平民風情が!」と、お得意の罵倒を繰り出すも、相手はウィシャート家の兵士だ。「それは、ウィシャート様と表立って対立するという意思表示ですか?」と言い返されては言葉を飲み込むしかない。

 ウィシャートと結託して目障りな貴族を追い落としてきたのであろうグレイゴンは、これまで嫌というほど見てきただろう、潰された貴族の末路を。


 今度は自分の番だと思えば、身も震える。


「なるほど、よく分かったよ。まるで見てきたみたいだな」

「見てこさせたんじゃないか、君が」


 グレイゴンは必ずウィシャートに会いに行くと思ったので、ナタリアに頼んでグレイゴンを尾行してもらった。

 部下を貸してくれというつもりで頼んだのだが、どうやらナタリア本人が尾行してくれたらしい。


 そのおかげで、思いがけない情報も手に入った。


「ウィシャートと結託している貴族が使う、秘密の抜け道が存在するようだね。裏門で門前払いされたグレイゴンは、館から離れた場所にある倉庫に入っていったそうだよ」

「まさか、中まで尾行したのか?」

「みたいだね」


 ……あんま無茶すんなよ。

 ウィシャートの館へ通じる抜け道なんて、警備が厳重に決まってんだろうが。そこを守る兵がうじゃうじゃいたらどうすんだよ。


「幸いにして、警備は手薄――というか、見張りは一人もいなかったようだよ。その代わり、かなり頑丈な扉に鍵がいくつもついていたって」


 頑強な鉄格子が行く手を阻み、そこには十数個にも及ぶ鍵が取り付けられていたらしい。

 その鍵を前にグレイゴンは、懐から鍵束を取り出した。

 その通路を使う者にだけ渡された合い鍵といったところだろう。


 十数個ある鍵を貴族自ら開けさせるとか、十数個も連なる鍵束を持たせるとか、かなり相手を見下してる行為だと思うが……

 まぁ、格上のウィシャートの館へ自由に出入りできる特別感に浸れたのかもしれないけどな。


 だが、グレイゴンが持つ鍵は、ただの一つとして合わなかった。

 十数個、すべての鍵が取り換えられていたのだろう。


「血を吐きそうなほど叫んでいた。と、ナタリアは言っていたよ」

「きっと、その絶叫すらもウィシャートの自尊心をくすぐる恰好のエンターテイメントなんだろうぜ。悪趣味極まりない」


 その後、騒ぎを聞きつけてウィシャートの兵士が駆けつける可能性を考慮し、ナタリアはグレイゴンを置いて秘密の通路を抜け出した。

 その直後、鍵が開く音がして何かを喚くグレイゴンの叫びが響き、しばらくして一際凄まじい悲鳴が聞こえたのだとか。


「鉄格子を閉じる鍵はクサリに繋がれていたんだ。おそらく、向こう側からも開けられるように」

「騒ぎを聞きつけて鍵を開けに来た――ていの兵士にやられたんだろうな」

「そうなんだろうね。今朝届けられた手紙には、『ウィシャート邸へ忍び込んだグレイゴンを館の中で捕らえた』と書かれていたよ」

「嘘じゃねぇか」

「その秘密の通路がウィシャートの館の敷地だと考えれば、嘘じゃないのかもね」

「ま、そのこじつけがなくても、この件でウィシャートに『精霊の審判』をかけるヤツはいないだろうし、言ったもん勝ちだよな」


 この世界、目撃者や証言者がいないと犯罪の立証が難しいんだよなぁ。

 科学捜査なんかまったく取り入れられてないし。

 そもそも、貴族と平民の意見がぶつかったら、かなりの確率で貴族が勝つように出来てるんだろうし。


 貴族同士なら、力の強い方が勝つんだろう。


「グレイゴンはウィシャート邸に忍び込んで騒ぎを起こしたとされているよ」

「グレイゴンごときが忍び込めるような警備体制じゃないだろうが。誰か突っ込めよ、その矛盾に」


 賊の侵入を一切許さないと言わんばかりの厳重な警備をして、貴族ですら応接室まで、親族ですら館の奥には入れないことで有名なウィシャートが、グレインゴンなんて権力も腕力もないただのジジイに侵入を許すかよ。

 やっぱり茶番だな、この街の裁判は。


「それのみならず、グレイゴンは土木ギルド組合の役員という地位を利用して、組織を自分にとって都合のいいものに変えようと画策していたとの証言が出たからね」

「他の役員に手を回しやがったな、ウィシャート」

「だろうね。グレイゴンを売った『組合役員Ⅹ』としては、他の役員が失脚すれば利益にありつけるんだろうね。グレイゴンとは敵対する派閥だったのか、空いた席に親族なり懇意にしている誰かなりを滑り込ませる算段が出来ているのか……なんにしても、トカゲが尻尾を切った瞬間に新しい尻尾が生えたような状況だよね」


 結局、操りやすければ誰でもよかったのだ。

 いらなくなれば簡単に切り捨てられる。

 その様を間近で見ようと、「自分だけはうまく出来る」という謎の自信を持っているのが貴族という連中だ。

 そうして、腐った果実はいつまでもいつまでも市民や市場から養分を吸い続けていくのだ。


「関係のない二ヶ所の貴族から訴えがあったことにより、グレイゴンの自己弁護はすべて詭弁と結論付けられ、王族によって爵位を剥奪された……あぁいや、グレイゴンが爵位を返上することになったそうだよ」


 王族が貴族から取り上げるってのは、なるべくは避けたい表現なんだろうな。

 死ぬレベルの圧力をかけて、「言わなくても分かるよな? な?」ってのは、剥奪と同義だと思うがな。


「じゃあ、ド三流の結婚はどうなるんだ?」

「もちろん白紙だよ。今となってはただの平民だからね。いくら好色な貴族と言えど、平民の女を第三夫人にはしないさ」


 その気になれば、平民ごときは遊んで捨てることも出来るのだろう、貴族様は。

 わざわざ権利や力、金を与えてやる必要はない――と、判断するんだろうなぁ、好色魔のバカ貴族なら。


「グレイゴンはかなりの『亜人差別主義者』として有名だったからね。キツネ人族のウーマロが棟梁をしているトルベック工務店を目の敵にして追放しようと画策した、そんな言い分を疑う者はいなかったようだよ」


 トルベック工務店を潰したがったのはウィシャートだが、失敗したらその罪を擦り付けて捨て駒にするつもり満々だったのだろう。

 されるべくして指名されたわけだ、グレイゴンは。権力者たるウィシャート様の捨て駒にな。……笑えねぇな、まったく。


「一応、逆恨みはされるだろうと予測して、グレイゴンの似顔絵を各方面に配布したよ。ついでにバロッサ――君が言うところのド三流女性記者の似顔絵もね」

「ガキどもに被害が及ばないようにしないと、ベルティーナが怖いぞ。しっかり対応しとけよ」

「……ふふ。シスターの名前なんか借りずに、君の口から『子供たちは何がなんでも守れ』と言えばいいのに」

「俺は別に、ガキなんかどうでもいいんだよ」

「ふふふ。『精霊の審判』をかけられないと思っていれば、確かに言った者勝ちかもね」


 人の言った言葉を使って茶々を入れてくるな。

 ……まったく。


「狩猟ギルドと木こりギルド、それから海漁ギルドと金物ギルドが周辺の警戒をしてくれると申し出てくれたよ。ナタリアとその部下たちにも警戒はさせる。君も、十分気を付けるようにね。――一番狙われそうなのは、君だから」

「へいへい」


 と、適当に返事をしつつ、俺はそこまで深刻には受け止めていなかった。


 グレイゴンのようなタイプが恨むなら、俺じゃなく、きっと――



 まぁ、あのジジイにそこまで大それたことが出来るとは思えないけどな。






「もういっそのことさ、大々的にキャンペーンを組んでしまうのも手じゃないかな?」


 エステラのそんな発言で、四十二区では『不審者発見パトロール隊』なる者が結成された。

 メンバーは、ハムっ子と、護衛のオッサンども。

 あとは手の空いている有志ってところだ。


 もちろん、ハムっ子たちに不審者を見つけさせて片っ端から捕まえてやろうなんて集団じゃない。

 デカい声で「不審者はいね~がぁ~」と街を練り歩き、不審者にとって居心地の悪い街にしようという魂胆だ。

 防犯活動だな、要するに。


「ふしんしゃ、いませんかー!?」

「ふしんしゃどこー!?」

「ほんとにいるのー!?」

「いないかもー!」


 いや、いるんだっつの。

 都市伝説とかじゃないからな。


「ふしんしゃー!」

「でてこーい!」

「ふしんしゃ、だいぼしゅー!」

「いや、募集はしてねぇよ」

「ふしんしゃー!」

「いませんかー!?」

「いりませんかー!?」

「いや、いらねぇよ!?」


 ハムっ子が大きな声を上げて街を練り歩く。

 どうせ途中から遊び始めるだろうなと思ってついてきてみれば、案の定だ。真面目にやれ真面目に。

 不審者を見逃さないためのパトロールだってのに、終始にこにこしやがって。


「これだけ賑やかに騒ぎ立てれば、心にやましいものを抱えている方は、大きな動きはしにくくなりますね。さすがは、ハムっ子の皆様です」

「ハムっ子まで敬うのか、カンパニュラ」

「はい。皆様、得難い技能をお持ちですから。見習うべきところは多いです」

「……そーゆー思考をあいつらにこそ見習わせてぇよ、俺は」


 俺と一緒にパトロール隊に参加しているカンパニュラ。

 心なしか楽しそうだ。


 もう、大手を振ってウィシャートにケンカを売った状態なので、カンパニュラを陽だまり亭に残して存在を隠すようなことはしていない。

 どーだ、ウィシャート。

 お前の弱点に成り得る血縁者はこちらの手の内だぞ。カンパニュラはともかく、ルピナスは脅威だろ? ん? どーなの? ねぇ、ねぇ、そこんとこどーなの?

 ――って、感じだ。


「不審なヤツがいたら、すぐあたいに言えよ! 一人残らずぶっ飛ばしてやるからな!」


 カンパニュラの隣で、デリアがぱきぽきと指を鳴らす。

 わぁ、頼もしい。

 ちんまいガキどもの群れの中で、頭いくつ分飛び出ているのか。大きなデリアはいてくれるだけで頼りになる。

 そして、万が一のことがあっても実際頼りになる。

 いてくれると安心だ。


「おう、ヤシロ!」


 遠くから、ハビエルが手を振って駆けてくる。

 満面の笑みで。


「ハムっ子! いたぞ、不審者だ!」

「誰がだ、コラ!?」

「「「ふしんしゃー!」」」

「がお~! わるい子ちゃんは連れ去っちゃうぞ~☆」

「デリアさん、全力で退治なさってくださいまし」

「よし、勝負だ、ハビエル!」

「ま~てまてまて! 負けるつもりはねぇが、お前さんとマジでやり合うと怪我だけじゃすまねぇだろうが!」


 妹たちの声にでれ~っとした表情を見せたハビエルに、いつの間にそこにいたのか分からないイメルダが有罪判決を下し、デリアが嬉しそうにタイマンを申し込んでいた。


「おはようございます。ミスター・ハビエル。本日はお仕事でしょうか。朝早くからお疲れ様です」

「くぅうう! カンパニュラちゃんはいい子で可愛いなぁ! イメルダも、昔はこうだったんだよなぁ! 昔は!」

「では、今のワタクシを存分に味わわせて差し上げますわ。唸りなさいましっ、雷神の怒り(トール・ハンマー)!」

「せめて斧にしよう!? 最近、鈍器がお気に入りなようだけど!」


 禍々しい鈍器を振り上げて父親と戯れるイメルダ。


「仲良し親子め」

「よく見ろ、ヤシロ! 一歩間違えば殺人現場だぞ、これは!?」


 いや、だって、お前死なないじゃん。

 たぶんだけど、首と胴体を切り離した程度じゃ死なないよな?


「で、妹の群れが見たくて仕事をほっぽり出して遊びに来たのか? クビになれ」

「ワシがトップなんだよ。誰がワシをクビに出来るんだ」

「ワタクシですわ!」

「本気でやりそうだから、その権限まだ渡さないっ!」


 娘には強く出られない親馬鹿ハビエル。

 イメルダが跡を継いだら、館に幽閉でもされんじゃないのかねぇ。

 されればいいのに。

 するべき。

 やろう。

 そうしよう。


「それに、ワシは仕事でここに来てるんだよ」

「なんだ、まだ自然破壊し足りないのか?」

「あのなぁ!? ワシらがやってるのは森の管理だよ! 行商ギルドが港の洞窟に店を出すとか言い出したろ? なら、一般人がたくさん訪れる可能性があるからな。街門と通路の周りをもっと切り拓いて、魔獣の被害が出にくくするんだよ」


 魔獣は、滅多なことでは森から出てこない。

 なので、木を切り倒して通路や街門付近を森ではなくしてしまおうというわけだ。


 人間の都合で森林を伐採するのだ。

 要するに、自然破壊だな。

 ひどいヤツめ。


「あんまり森を切り拓き過ぎて、行き場を失った魔獣が大挙して押し寄せてくる――みたいな惨事は御免だぞ」

「その辺は大丈夫だ。狩猟ギルドが魔獣の数を減らすために狩りの頻度を上げてるからな」


 そうそう。

 生態系を破壊しない程度に、狩猟ギルドはその活動を活性化させている。

 魔獣除けのレンガといえど、完璧ではない。

 なので、強力な魔獣は多めに狩ってその数を減らそうというわけだ。


 マグダも、今日は日の出前から森へ出かけている。

 大物を狩って帰ると意気込んで出て行った。

 やはり、どれだけ陽だまり亭に馴染んでも、狩猟ギルドでの仕事はマグダにとって特別なものなのだろう。大きな仕事に、結構嬉しそうな顔をしていた。


 木こりが森を切り拓き、狩人が魔獣を狩る。

 そうして、街門から港までの道を安全にしようというわけだ。


「あとは、まぁ、グレイゴンみたいなバカな貴族が出張ってこないように、しばらくはコッチで睨みを利かせておけと、メドラにやかましく言われてな。あぁ、グレイゴンはもう貴族じゃないから『元貴族』だけどな」


 困り顔で肩をすくめてみせるハビエルだが、口元が笑っている。

 こいつも、その方がいいと判断しているということだろう。


「メドラには逆らえないってか?」

「当たり前だろ? あいつのパンチは痛ぇからなぁ」

「メドラの尻に敷かれたら、物理的に潰されそうだから、気を付けろよ」

「そりゃお前だろう、ヤシロ。もし一緒になる気があるなら覚悟をしておけよ」


 がははと大声で笑い、俺の背中をバシバシ叩くハビエル。

 痛ぇし、うるせぇわ。

 一緒になる気などあるか。

 尻に敷かれるのも御免だしな。


「どうせ敷かれるなら、巨乳置きに、俺はなりたい」

「どこにいてもしょーもない発言しかしないんだね、君は……」

「ん? よぉ、置き場いらず」

「ハムっ子たち! ここにいる不審者を牢屋へ連行してくれるかい? ミスター・ハビエルも、是非ご協力を!」


 様子見に来たのかなんなのか、ふらっと現れたエステラが、俺の顔を見るや否や難癖を付けてくる。

 俺、何も悪いことしてないのに!


「何も悪いことしてないのに!」

「ヤシロよぉ。お前は『精霊の審判』が怖くねぇのか、それとも単純に自覚がないのか、どっちなんだ?」


 俺は真実を口にしているだけだ。

 実際、エステラに乳置きは必要ないしな!

 それでも、ど~~~しても使いたいというのであれば――


「プレゼントしようか? お手製の乳置き」

「いらないよ!」

「だよね~」

「納得される謂われはないけどね!」


 出てきていきなり怒り出して、ずっと怒っているエステラ。

 何をしに来たんだよ。


「暇だから混ぜてほしいのか?」

「忙しいよ! ここ数日は各区の領主たちとの面会予定がぎっしりなんだから。……ルシアさんも、一日置きくらいに遊びに来るしさ……」


 三十五区へ会いに行った際、「頻繁に四十二区に行く」と言っていたルシアは、本当に頻繁に四十二区に来ている。

 見かねたエステラが、ウーマロに頼んでニュータウンに宿泊施設を作らせ始めた。

 間もなく港が完成するという、こんな時期に。


 まぁ、港の方はカワヤ工務店のオマールが取り仕切っているので、問題なく工事は進んでいるが。


「今日ルシアは?」

「昼過ぎに来ると思うよ」

「じゃあ、午後のパトロールは中止しよう」


 不審者発見パトロールといえど、正真正銘、真性の不審者に遭わせる必要はない。被害がどこまで広がるか、予測も出来ないからな。



 ――だというのに。



「不審者、はっけーん!」



 別働隊として、街の東側の見回りをしていた年中組の妹が数人、俺たちのもとへと駆けてくる。

 不審者を見かけたらすぐに知らせるように、その際は絶対に単独行動はせず三人以上の組を作って行動するように言い聞かせておいた。

 言いつけをきちんと守って、年中の妹たちが四人一緒にやって来る。


「妹たち。その不審者、ハビエルとどっちが不審だった?」

「「「「どっこいどっこ~い!」」」」

「それは不審だな!」

「おい、ヤシロ、こら。妹ちゃんたちに変なこと言わせるな」


 すぐ横から大人げない圧をかけてくる木こりギルドのギルド長。

 なんで俺だけに怒るんだよ。妹にも怒れよ、平等によ~。

 そーゆー贔屓なところが不審なんだぞ、お前は。


「ねぇ、君たち。その不審者はどんな人物だったんだい?」

「す~っごくキレ~な人だった~!」

「美人に不審者はいない! よって無罪!」

「待って、ヤシロ。……ルシアさんという例もいるわけだし」

「くっ……、そうだったな」

「お前ら、ここにいないからって、言いたい放題だな。ヤシロはともかく、エステラもよぉ」


 ハビエルが疲れ切ったような顔で肩を落とす。

 エステラに何を期待してるんだ。

 こいつはいつもこんな感じだろうに。


「その綺麗な人は、どう不審だったんだい?」

「あたしたちに声かけてきた~」

「それだけかい?」

「『ちょっと見ない間に大きくなったね~』って」

「知り合いなんじゃないのかい? 不審な点は見当たらないけど?」


 エステラの質問に交代で答える妹たち。

 確かに、不審な点は見受けられないが……


「『大きくなったね~』の時、こんな手の動きしてた~」


 と、両腕を自分の胸の前に持ってきて、大きく弧を描くように「ぼぉぃ~ん!」という効果音が聞こえてきそうな感じで動かす妹。


「不審者だ!? まごうことなき不審者だね、それは!?」


 おっぱいを「ぼぉぃ~ん!」ってするジェスチャーをしながら、『ちょっと見ない間に大きくなったね~』って?

 完全アウトじゃねぇか。

 一発退場レベルのレッドカードだな、その不審者は。


「……まったくもう、ルシアさんは」

「あいつ、もう来てたのか」

「決め打ちるすなよ、ヤシロもエステラもよぉ」


 何言ってんだよ、ハビエル。

 綺麗な人という情報と、そんなぶっ飛んだ行動をする不審者に心当たりがあり過ぎるため、俺たちの中で下手人はとある人物で確定したんだ。

 というか、ルシア以外いないだろう、そんなことをするヤツは。


 だが。


「ルシアさんちがうよ~?」

「別の人~!」

「見たことない美人さん~!」

「きらきらしてた~!」


 どうやら、ルシアではないらしい。

 ということは、俺とエステラはルシアに濡れ衣を着せたことになるわけだが……ま、そんな些細なことはどーでもいい。

 ただ――


「また変なヤツが紛れ込んだらしいな、四十二区に……」

「どーせ、君の知り合いだろう?」

「決めつけんな。濡れ衣とか、サイテーだぞ、エステラ」

「ヤシロよぉ。お前が言うなってめっちゃ言いたいぞ、ワシは今」


 俺たちが警戒しているタイプの不審者ではないが、一応見に行かなければいけないだろう。

 どーせエステラの関係者か知り合いなんだろうけれど。


「案内してくれ」

「「「「まかされたー!」」」」


 元気よく返事をした妹に続いて不審者が目撃された場所へと向かう。

 仕事があるハビエルとはそこで別れ、イメルダもハビエルの監視があるとのことで同じくその場で別れた。


 大通りを越えて、エステラの館の方向へ向かって進む。

 ほらな?

 やっぱりエステラ関連のヤツなんだよ。

 さ~て、誰だろうな~……美人な変態、結構いるからなぁ。


 何人かの顔を思い浮かべて現場に向かった俺なのだが、そこにいたのは思い浮かべた中の誰でもなかった。



「あっ! お久しぶりですね、ヤシロさん☆」



 きらきらふわふわした雰囲気で、笑顔を振りまきながらこちらに手を振る美少女。

 パトロール隊のメンバーも、たまたまその場に居合わせたのだろう街の連中も、その美女を知らないようで、まばゆいくらいに放たれているぷりてぃ&らぶりぃオーラに頬を緩ませている。特に男連中が、軒並み。


 まぁ、とびきりの美少女で、瑞々しい太ももを「ぱーん!」と見せつけ、四十二区の中に紛れればそれほどではないとは言え実際問題そこそこ存在感のある上向きなおっぱいが「ぼーん!」っと張り出し、にこにこと愛嬌を振りまかれていてはこの街の男連中などイチコロだろう。


 だから、素材はいいんだよなぁ、素材は。



 ただ、まぁ……ほっとした。



「よぉ、久しぶりだが元気そうで安心したぜ、ベティ・メイプルベア」

「うん☆ ただいまっ!」



 嬉しそうな声と一緒に、ベティの笑顔が咲き乱れた。







あとがき




やー、どっきどきです。

溺れるジジイを見殺しに☆

宮地です。


……どっきどきです


どうにも、誰かが苦しんでいるのを黙って見ていられない性分で……



えっ、スポブラがちょっと苦しい!?

そんなブラ付けてちゃダメだ!

さぁ、僕に渡してごらん!

渡しなさい!

渡せぇええ!

寄越せ、すぽぶぅぅぅぅぅるぅぁぁぁあああ!



とはいえ、

大切な人に酷いことをした相手なら容赦なく成敗してもいいと思ってもいるんですが……



宮地さんの『素』が出ると、ひょっとしたらドン引きされるんじゃないかと

そっちの方がヒヤヒヤです……



…………ん?

……あっ、違いますよ!?

宮地さんの『素』って、素っ裸の『素』じゃないですよ!?

宮地さんの『ミヤジさん』が出ちゃう話じゃないですからね!


コラ、誰ですか、勝手にR18指定しようとしてるのは!?

大丈夫です! 健全なお話です!


たま~に、ツイッターとかで



「『異世界詐欺師』お勧めだよ~、下ネタ多いけど」



とか言われているようですけども!

下ネタだなんてとんでもない!


おっぱいは上半身なので上ネタです!




……まぁ、お尻に関しては言い訳できませんけれども。

…………お尻枕とか、何を言っていたんでしょうね、当時の私は。


いいですか?

過去は過去ですよ!

あの時代はあーゆーの、割とセーフでしたからね!?

掘り返さないのが大人のマナーですよ!



……だからって掘り返しに行こうとしないで、未成年の皆様!?

Σ( ̄□ ̄;)



世相を鑑みて、これからはキラキラ眩しいくらいに清らかなお話を書いてくんだぁ~(*´▽`*)



……さっきスポブラ寄越せとか言っちゃってた!?Σ(゜ロ゜;)


大丈夫大丈夫。上半身上半身。

なんなら、北半球在住ですし!

地球的に見れば上側ですし!


南半球とか……下ネタ丸出しですしっ!(*´艸`)ぷぷぷ



すみません、冗談です

怒りに任せてカンガルーとか送ってこないでください

持て余します



異世界詐欺師が一段落したら、

キラキラ輝くようなラブコメでも書いてみましょうかねぇ

そうすれば、宮地さんも浄化されるかもしれませんし



誰が浄化が必要な頑固なこびりつきエロスですか!?(ノ゜Д゜)ノ



初デートでね、

彼氏の方も彼女の方も、「今日こそはチューくらいいくかも……いや、いってやる!」って気合い入れてデートに臨んでるんですが

彼氏の度胸が足りず、覚悟が決まらずにずるずると時間が過ぎてしまって、

で、門限に間に合う電車に乗っちゃったりして

「もっと強引に引き留めてくれてもいいのになぁ~」って

彼女の方はちょっと不満で、

彼氏の方はヘタレたのを誤魔化すために「今度うどんでも作ろうよ~、出汁は何がいい?」とかおどけちゃったりして

彼女はそんなおちゃらけも気に入らなくて怒って電車乗っちゃうんです。

で、電車のドアが閉まった後、ドア越しに彼女が言うんです。



「意気地無し」



って。

でもドアが閉まったから声は聞こえなくて、

彼氏は彼女の唇の動きだけを見て言葉を理解するんです。



「乳首出汁」



そうか!

今度のうどんの出汁は乳首で取るのか!

そいつは今から楽しみだ!


――ってね☆



…………うむ(-_-;



上半身だからセーフ!



いや、さすがに乳首出汁は引きますかね?

絶対いい出汁が取れるとは思うんですけれども。

じゃあ、ちょっとストリーを変えて……



「乳首出し」



そうか!

次のデートはお互いに乳首丸出しで出かけようってことか!

そいつは今から楽しみだ!


――ってね☆



…………うむ(-_-;


でも、乳首開きTシャツって、

素敵やん?(*・ω・*)



あぁ、そうそう。

夏に向けて絶対にヒットする商品を考えたんですよ。


レディースのTシャツで、

前面の首から下~腰から上にかけてバッサリと布をカットして

胸が隠れる位置にホタテの貝殻を縫い付けるという

とってもオシャレな『ホタTシャツ』


『ホタT』です、『ホタT』!


メガヒット間違いなし!

マネ~のトラっ娘とかいうTV番組があれば

絶対商品化にこぎ着けましたのに! 惜しい! 残念で口惜しい!


ホタTがダメなら『シジミT』とかどうです!?

『アイミティ』みたいな語感で乙女心くすぐられません?


え、アイミティですか?

アイスミルクティの略です。

レモンスカッシュはレスカ

アイスコーヒーは冷コー

オットセイパイナップルはオッパイ!

オレンジパイナップルはオップル!

オットセイパイナップル・プレジデント・プール・ルーメンはオッパイプルルーン。



プレジデント・プール・ルーメンってなんだ!?Σ(゜Д゜)


……そもそも、オットセイパイナップルってなんだ!?Σ(゜Д゜)




っていうか、ここまでひたすらおっぱいの話しかしてない!?


ここから!

いまから頑張るから!


ここから読むようにしてください!

ここまでのはナシで!


さ~ぁ、健全なお話の引き出しを開けますよ~!


いっつも下の方の段の引き出しばっかり開けているから下ネタ満載になっちゃうんですよ!

私の引き出しには、ちゃんと上の段も備わっているのです!

たとえ、ピラミッドのように下の段の方が圧倒的にデカくても!


今こそ、上の段の健全な引き出しを――開け放つ!!




……(・_・ )


……( ・_・)


……(゜_゜ )


……( ゜_゜)


……(*゜▽゜)はっ!



フットサルをやってる途中で、ふっ……と去る




……しょーもなっ!?Σ(゜Д゜)

上の段の引き出し、しょーもな!?

下の段の引き出しはやたらと充実してるのに!

上の段イラネッ!?( ゜Д゜)、ペッ



というわけで、今後も下の段の引き出しをメインにお話を作っていきたいと思います☆


人々の倫理観、昭和後期に回帰SHI・RO☆\(*´▽`*)/



というわけで、誰かにお勧めする際は

「下ネタ多いけど平気!? 本当に平気!?」と十分に確認を取った上でお勧めしてあげてください(☆>ω・)うぉんちゅっ☆



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
[良い点] まずは無事に帰ってきたベティに安心しました! なにかにつけてマーシャもヤシロに引っ付くようになりましたね、ほんと身近なおっぱいには優しいのがヤシロのいいとこですが。 [気になる点] はたし…
[良い点] 前回の「スイッチ」で、ヤシロワールド(ぷるんぷるん)が戻りつつあるようでなにより 不審者だらけの今回、早く平和が戻ってほしいもので [気になる点] 誰だっけ…… やべぇ、思い出せん(…
[一言] これはたしかにハビエル級不審者
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