341話 結論を下す時
バオクリエアからの禁輸品。
細菌兵器の強奪未遂事件。
そして、連絡係ノルベールの監禁。
この辺がウィシャートを突き崩すキーになりそうだ。
だが、そうなるとなぁ……
「ん~……」
被害が……いやでも、もう結論は出ている、か。俺の中では。
でもなぁ……
「ん~……」
「おい、どうしたオオバヤシロ。話を聞けと言ったのはテメェだろうが」
ゴッフレードが俺を睨み付ける。
散々ビビり散らかした直後のくせに、すぐにふてぶてしい態度に戻りやがる。
その辺が他の連中と違うんだろうな。
こいつは根っからの悪党で、その生き方以外選べないヤツなんだ。
貴族になんぞなれるはずがない。
制度として貴族に召し上げられたとしても、こいつの性根はゴロつきのままだ。
早晩破綻してお家取り潰しになるのがオチだろうよ。
「お前さぁ、本気で褒美がもらえると思ってるのか?」
オールブルーム侵攻の足掛かりを作ればバオクリエアで貴族に。
そんなうまい話を、こいつが信用しているのか?
「企てが成功した暁には、事実を知るお前らなんか口封じされるだけだろ」
王族の裏側を知っているゴロつきなんざ、廃棄処分される未来しかないだろうに。
「分かってるよ、そんなこと。だがな、ただではやられねぇ、そう思わせることが出来れば当面――せめて俺の代までは手出ししてこねぇようには出来るさ」
先のことなんぞ知ったことかという考えか。
こいつらしいと言えばそうか。
ゴッフレードとノルベールが離れて暮らせば、どちらかがやられた時にもう片方が王族に反旗を翻せる。
たんまりと抱え込んだ王族の弱点を一斉放出する。そう思えば、王族もむやみに手を出せない……一代目までは。
王族としても、リスクを冒すことなく二代目の時に穏便に潰せば労はない、か。
打算までを考慮した計画、ねぇ。
「俺なら、オールブルーム侵攻中のどさくさでどっちも消すがな」
「それも考慮済みだ。俺とノルベールはバラバラに逃げる。二人同時に消すことは出来ねぇさ」
つまり、こいつらはお互いを保険にしているのだ。
どちらかが消されれば次は自分だ。なりふり構わずすべてを暴露する。
そうバオクリエアの王族に思わせることで手出しさせないようにしている。
だから、必死になってノルベールを探しているわけか。
もしノルベールが王族側に寝返っていたら、ゴッフレードの保険がなくなる。
こいつらは、お互いが生きていることで自分たちの身を守っているのだ。
バオクリエアに裏切られたら、オールブルームに乗り換える腹積もりなのだろうが、ノルベールがウィシャート家でバカ騒ぎをしたせいでその可能性も潰えたか。
今回の件が片付いた暁には、早急に退場願いたいな、こいつらには。
ま、とりあえずノルベールに会ってみるか。
ただし、ゴッフレードと会わせるのはもう少し待った方がいい。
「ウィシャートはノルベールとゴッフレードの関係を知っているんだよな?」
「あぁ。ノルベールの伝手で顔を繋いだからな。一応、俺はノルベールの手下のゴロつきってことになってるぜ」
実態は違うけどなと言いたげな顔だ。
だから、どっちでもいいんだっての、テメェらの力関係なんざ。
「つまり、ノルベールの消息がずっと掴めないまま――ウィシャートからの情報しか入っていない状況なら、バオクリエア側がお前を使って探りを入れさせる、なんてことも十分考えられるよな?」
「あ? ……ん~、どうだろうな。ノルベールはそこまで重要視されてねぇかもしれねぇが……いや、オールブルーム侵攻を急いでいると思わせるならそれもあり得なくはねぇか」
現状、バオクリエアは現国王が病に倒れたことでオールブルーム侵攻なんて考えていられないような騒動になっているだろうが、それはウィシャートが知り得ない情報だ。
俺たちが知っているのは、第二王子の側近ワイルから直接聞いたからで、その情報が他国であるオールブルームまで伝わるのはもっと後になってからだろう。
なら、第一王子が遅々として進まないオールブルーム侵攻計画にしびれを切らせたと思い込ませることが出来れば、もし、そういう可能性があるなら、ウィシャートと面識のあるゴッフレードを寄越しても不思議はないはずだ。
ほら、こいつは取り立てのプロだし。強引な手段に出てでも事態を進展させる意気込みがあるとアピールしているように見えるだろう。
脅しとしては上々だ。
「ウィシャートに揺さぶりをかける」
後日、俺たちはウィシャート家に事態の説明をしに行くことになっている。
その時がいいだろう。
「俺たちがウィシャート家に行く日に、ちょっとやってもらいたいことがある」
「ほぅ。聞かせてもらおうか」
「少々危険だが、まぁ、お前なら大丈夫だろう。死んでも死にそうにないし」
「言ってくれるな。まぁ、ちょっとやそっとのことじゃ死なねぇよ」
モーニングスターやメドラのパンチにはビビってたけどな。
で、まぁ、ゴッフレードはいいとして……
問題はこのバカオウムなんだよなぁ。
「ベックマン。お前、芝居とか出来る?」
「任せるのであります! こう見えて、かつては歌劇団のトップスターを夢見たことすらあるのであります!」
夢くらい誰でも見れるわ。
やっぱ、こいつにはムリかもなぁ……
「テメェがセリフを教え込めばいい。こいつの特技の一つでな、言われた言葉をそっくりそのまま繰り返すってのがある」
まさにオウムだな。
「抑揚や強弱もか?」
「あぁ。それだけは大したもんだと俺も思っているぜ」
ゴッフレードがそこまで褒めるなら、ある意味有用なのだろうか。
「なにせ、何万文字もある文章だろうが、一言一句間違えずに記憶して復唱できるんだからな」
「そりゃあすげぇな」
「ただし、融通が利かねぇから毎度最初から同じ感情同じ速度同じ抑揚で聞かされることになるけどな」
気になったところだけをピックアップして照会とかは出来ないのか。
それはメンドクセェな。
記憶は出来るが、応用は出来ない。
「おまけに記憶が持つのは三日だけだ」
「すごい能力を持っているが、基本はバカなんだな」
「あぁ。こいつ以外がこの能力を持っていれば、もっとうまく利用できるんだろうがな」
結局、ベックマンは誰かに利用されることでしかその能力を活用できない残念人間というわけだ。
下っ端の中の下っ端だな。下っ端キングだ。
「で、それが『特技の一つ』ってことは、他にも何かあるのか? たしか、声を遠くまで届かせる能力も持ってたようだが」
「そいつはうるさいだけで特に使えねぇ特技だな。あと、こいつの特技で使えるとすれば、空が飛べることかな」
「マジでか!? お前、すげぇな!?」
「お褒めにあずかり光栄なのであります!」
「垂直にのみ、だけどな」
「前進できねぇのかよ!?」
「あっはっはっ、そんな、鳥ではあるまいに」
からからと笑うベックマン。
いや、笑い事じゃねぇよ。
すげぇのにいまいち使えねぇな、お前の特技は。
「けど、偵察には使えそうだな」
「残念ながら、こいつは見た物を正確に説明することが出来ねぇ」
「は?」
「たとえば……。ベックマン、街門の周りはどんな様子だ?」
街門に背を向けゴッフレードが問う。
ベックマンは街門をじっと見て、その状況を説明する。
「なんかどーんとしていて、人がわさーっといるであります」
「……うそだろ」
「終始、こんな感じだ」
「門の周りに人は何人いる?」
「いっぱいであります」
「数えろよ」
「数えるなど、そのように頭を使えば他のすべての機能が停止するでありますぞ?」
つまり、飛びながら人の数を数えたりは出来ないと……
で、空から見た情報を聞き出そうにも「わーっと」とか「んばーっと」とか、そういう表現しか出来ないのか……
「ちなみに、絵心は?」
「皆無なのであります!」
「使えねぇ」
「だから言ってんだろ。『復唱だけは使える』ってよ」
ん~……まぁ、俺のセリフを覚えさせて、ウィシャート家の前で小芝居を打たせることは出来るか…………いや、待てよ?
「ゴッフレード。ウィシャート家の見取り図とか持ってないか?」
「あるわけねぇだろ。ヤツの館はそのほとんどが秘密なんだ。応接室以外は覗き見ることすら出来ねぇよ」
「廊下の奥くらい覗き込めるだろう?」
「玄関を入ってすぐにあるのがドアだ。エントランスには無数のドアが並んでいる。廊下すら見ることは出来ねぇ」
なんて安らげなさそうな家だ。
「んじゃ、ある程度の予想を立てるしかないか」
まぁ、プロの目と細切れの情報があればなんとかなるだろう。
「ベックマン。お前にはちょっと飛んでもらうぞ」
「うむ! ノルベール様救出のためであれば、多少のムリは承知でありますれば!」
「そうか。なら、ちょっと大きな荷物を持って飛べるか?」
「荷物?」
「そうだな、60キロちょっとの大荷物だ」
「60キロ……で、ありますか……では、さほど高くは飛べないかもしれないでありますが」
「死ぬ気で飛べ。もしくは飛んで死ね」
「むむむ……」
「ノルベールの居場所を探るために必要不可欠だ」
「やるであります!」
よし。
あとは、どこから飛ぶか、だよなぁ……マーゥルにでも聞いてみるか。
あ、荷物の用意しなきゃ…………ま、別にいっか。
直前に「シクヨロ☆」って言やぁ間に合うだろうし。うん。
「ちなみに、ゴッフレード」
これは知っていようが知らなかろうがどっちでもいいのだが。
「Mプラントって知ってるか?」
「テメェっ……どこまで知ってやがるんだ?」
お、知っていたか。
細菌兵器強奪の時は、目当ての物が種だと知らなかったと言っていたが……あぁ、その後バオクリエアの人間が来て『失敗作だ』とか言ってたんだっけ?
その辺で情報を得たのかもしれないな。
どこで手に入れたかはどうでもいい。知っているなら都合がいい。
「あれは、ウィルスをまき散らす菌と急成長をする花が共生している物――だったよな。その花の方について、何か情報を知らねぇか?」
「あぁ、それなら多少はな」
「知ってるのか」
「おぅ。もともとは除草剤代わりに使われていた花だ」
その花は、周りの養分を強奪し、一瞬で成長して一瞬で枯れる。
その花の種を撒いて大量の水を与えれば、近くにある雑草から栄養素を奪い取り花を咲かせ、翌日には雑草と一緒に枯れるのだそうだ。
Mプラントは開花に三日かかると言っていたが、元になった花は一日で咲いて一日で枯れるらしい。品種改良の際に変質したのかもしれないな。……あ、品種改悪か。
花が枯れた後、付近には種が飛び散っているのでしっかりと除去しなければいけないらしい。
雑草を除去して畑を作り、さぁ野菜を作るぞって時にその花の種が残っていたら、作物の栄養を全部奪い取られるからな。
もともとは、植物を殺す『害草』という認識だったらしい。
「有名なのか?」
「俺の故郷じゃあな。性質上、他の国にはそれほど広がってねぇはずだ」
「その花の名前は?」
「……フロッセだ」
「お前の故郷の名前じゃねぇか」
「フロッセによって荒れた土地に人が住んで興した町だからな。その花の名をもらったんだろうぜ。詳しくは知らねぇがな」
なるほど。
国の名前になるくらいの花なら、知る人ぞ知るくらいの知名度はあるか……
「あ、じゃあもしかして、バオクリエアはその花が欲しくて?」
「さぁな。だが、併合された後、バオクリエアの連中はせっせとフロッセの種を集めて持ち帰っていたらしいぜ」
驚異的な成長と、周りの栄養素を根こそぎ奪い取るという習性は……確かに、悪用のしがいがありそうだ。
ホント、鼻がいいんだな、バオクリエアは。
「その種って、どっかで手に入るか?」
「バオクリエアに行けばな」
「そんな時間はねぇよ」
「私、用意できるよ~☆」
俺たちの話にマーシャが割り込んでくる。
「持ってるのか?」
「今はないけど、フロッセの研究をしている町なら知ってるよ。魔草の浸食に悩まされている町で、ここから割と近いから、船で行けば明日の夕方には戻ってこられると思う」
それは助かるな。
「友好的な連中なのか?」
研究材料を寄越せなんて言って、マーシャに危害が及ぶのは望ましくない。
「大丈夫だよ。取引もたまにしているし。彼らは、自分たちの町を守るために研究してるだけだから。どこかの国と違って、海を支配しようなんて野心も持ってないしね」
「けっ!」
マーシャがバオクリエアのことを心底嫌っているのはよく分かった。
まぁ、友好的な連中なら大丈夫か。
「じゃあ、その種をいくつか手に入れてきてくれるか? 小さい布袋一つくらい」
「うん。早い方がいいよね? じゃあ、今から行ってくるね☆」
言って、メドラの腕をぺしぺし叩く。
「港までお願いね、メドラママ☆」
「なんでアタシに言うのさ?」
「だって、ハビエルギルド長とランデブーすると、妙な噂が立っちゃうじゃない? エッチらしいし」
「こらこらこらぁ! ありもしないことを口にするんじゃねぇよ、海漁の! お前に邪な感情なんか抱かねぇよ!」
と、人払いの人垣の向こうからこちらをじ~っと観察しているイメルダの方を気にしつつ強く訴えるハビエル。
「だよな。お前の守備範囲は十歳未満だもんな」
「はっはっはっ。甘いな、ヤシロ。ミリィたんのおかげで、最近は実年齢なんかあってないようなものだと悟りを開いたんだぜ☆」
「うん☆ やっぱり危険だね、このヒゲのオジ様は☆」
マーシャが両腕で大きく『×』を作る。
はい、ハビエルアウトー!
「モーニングスター、ちゃんと手入れしないと明日には錆びてそうだなぁ」
「何で濡れる前提なんだよ!? 今日か!? イメルダには言うなよ、ヤシロ!?」
え~。どーしよっかなー。
「まったく……しょーもないオッサンだねぇ、ハビエル。あんたがそんなんだから、アタシが迷惑を被るんだよ」
「なんか、散々な言われようだな、ワシ……」
「自業自得じゃないかなぁ~☆」
いやいや、マーシャ。
自業自得にプラスアルファでお前の発言もかなり凶悪だったからな。
これで被害者がハビエルじゃなければ俺が証言者として庇ってやってるところだ。被害者がハビエルでなければ!
「それじゃあ、アタシは少し席を外すけど……ゴッフレード」
メドラがゴッフレードの顔に触れそうな距離でガンを飛ばす。
「……ダーリンに何かしたら、分かってるだろうね?」
「へっ。どうだかな」
おぉ、チューするのかと思ったぜ。
よく逃げなかったなゴッフレード。その胆力だけは凄まじいものだ。
「じゃあ、行ってくるね。すぐ戻ってくるから待ってておくれよ、ダーリン」
と、俺に向かって投げキッスを飛ばすメドラ。
凄まじい剛速球だ!?
高校球児が軒並み自信をなくすレベルの!
なのですかさずハビエルバリアー!
「ぎゃぁあああああ!」
直撃を受けてハビエルが地面へ沈んだ。
……なんて威力だ。
「……なんか、ワシ……泣きたい」
ハビエルがいてくれて本当によかった。
安らかに眠れ。
「……ちっ。俺が留守にしている間に何があったってんだ」
三大ギルド長と俺のやり取りを見て、ゴッフレードが眉根を寄せる。
「三大ギルド長が一同に介してるってだけでもとんでもねぇってのに……テメェは何をやらかしたんだよ、オオバヤシロ」
さてな。
俺は自分に正直に生きていただけだ。
こいつらが頻繁に顔を合わせるようになったのは、こいつらの中で何かしらの変化があったからなんじゃねぇのか。
「じゃあ、マーシャ。頼む」
「うん。ま~かせて、ねっ☆」
マーシャからウィンクが飛んでくる。
ふわ~んと風に乗って。
「アタシも、任せておくれね☆」
メドラからもウィンクが飛んでくる。
ドゴゥ! と、空気を切り裂いて。
「くそぅ、もったいないけど――ハビエルバリアー!」
「ぎゃぁああああ!」
マーシャのウィンクも受け取れなかった。
「メドラのは当然ながら……海漁のウィンクも胃にもたれそうだなぁ、おい」
「ひどぉ~い! ぷんぷん!」
ハビエルがげんなりしている。
まぁ、ハビエルの癒やしは「ぼんっきゅっぼんっ」じゃなくて「つるーんすとーんぺたーん」だもんな。
マーシャがメドラに連れられて街門を出て行く。
外の森に出ても、メドラがいれば安心だろう。
あとは……
「ゴッフレード。オールブルームに戻ったのはいつだ?」
「二十日ほど前だ」
「目立つことはしたか?」
「ノルベールがいるとしたらウィシャートの周りだろうからな。見つからないように探りを入れていたから、連中には気付かれてねぇはずだ」
うん。俺の質問の意図を把握していたか。
ウィシャートにゴッフレードの存在が知られていないならそれでいい。
「まぁ、ベックマンに再会した後は、テメェの周りを探ってたけどな」
「へへっ」っと笑うゴッフレード。
驚いたかと得意げだ。
ベックマンに会ってからってことは、そう日数は立ってないと思うが……え、俺の情報ってそんな数日で手に入るようなもんなの?
エステラとかジネットのことまで結構調べられてたと思ったけど。
「街の連中は口を揃えて言ってたぜ。『ヤシロは陽だまり亭の店長と領主様と、どっちとくっつくのかはっきりさせろ』ってな」
「……具体的に誰と誰だ?」
「そいつは言えねぇな。それが証言者の弱みになるなら、俺が美味い汁を吸わせてもらう。『オオバヤシロに告げ口するぞ』ってな」
冗談めかして言うゴッフレード。
いや、こいつならためらいなく利用するだろうな。
だが、そんなふざけた証言をしたヤツなどどうなっても知ったこっちゃない。
少しは痛い目を見るといい。
……ったく。
何がはっきりさせろだ。
「こ、こほん。まぁ、噂というものは、赤の他人が無責任に面白おかしく揶揄するものだからね」
で、噂の的の一角が、髪の毛と同じくらいに頬を赤く染めて咳払いをしている。
……まったく。
どいつもこいつも無責任な噂を好き勝手に広めやがって。
「それで、フロッセの種が何かになるのかい?」
「種もだが……一度その花を見てみたい」
Mプラントがフロッセを改良して作られているなら、外見が似ている可能性が高い。
「ウィシャートもMプラントのことは知ってるよな?」
「当然だ」
だよな。
使者を襲わせて種を強奪しようとしてたんだからな。
「ゴッフレード、俺が指示するまでどこかに身を隠しておけ。出来れば四十二区の外で。俺との接点を悟られないようにな」
「……それで?」
「準備が出来たら使いをやる。それまで、ベックマンが目立たないようにお目付け役を頼む」
「ちっ! ……一番厄介なことを押しつけやがる」
「まぁ、敗者は勝者の言うことを黙って聞いとけ」
「分かったよ。……ただし」
ゴッフレードの目がギラリと光る。
その下で口元は弧を描いている。
実にギラついた笑みが俺の顔を覗き込む。
「成果は残せよ?」
協力してやるから結果を残せと。
あほが、こっちが協力してやってるんだっつの。
「お前たちの働き次第だ」
ギラつく瞳を睨み返して、話を終わらせる。
さて、まだまだ準備に時間がかかりそうだ。
とりあえずは……60キロの大荷物に話をしに行くかな。
ゴッフレードたちとの会話を終えて、みんなのもとへと引き返すと真っ先にオルキオが駆け寄ってきた。
「ヤシロ君。申し訳なかったね。なんだか、面倒なことになってしまったようで」
今日のことをベックマンに話したのはオルキオだ。
その責任を感じているのだろう。が、まぁ、他のタイミングで来られてたらもっと迷惑していたところだ。
よくはなかったが、最悪は回避できたと思っておこう。
「大丈夫だ。むしろ、ウィシャートのところへ行く前でよかった」
「ウィシャートに会いに行くのかい?」
「あぁ。説明をしに来いと言われてるんでな」
「……ヤシロ君を招いたのかい? 一体なぜ……」
「というか、エステラを呼び出しやがったから俺が割り込んだ感じかな」
「あはは。それなら納得だ」
軽く笑った後、オルキオは視線を鋭くして声を潜めた。
「エステラさんを一人にしてはいけないよ。連中は、女性や子供だからと手加減はしない」
むしろ、そういう相手にこそ連中は容赦をしない。
「まぁ、何かあればなんでも相談しておくれよ。なかなか会いには来られないけれど、ヤシロ君や四十二区のみんなのためになら可能な限り協力をするから」
「そうか。助かる」
協力してくれるのか。
そうかそうか。
「もう少し近くに住んでいれば、今の言葉を盾にあれこれとおねだりをしに行くところだがな」
「あはは。さすがに三十五区は遠いからね。シラぴょんもね、もっと四十二区に遊びに行きたいって言っているんだよ。陽だまり亭のご飯をもっと食べたいって」
「引っ越してこいよ」
「それは素敵な提案だね。でも、私は三十五区で仕事を始めたところだからね。彼らを放ってはおけないよ」
獣人族、虫人族の身元保証と彼らへの仕事の斡旋。
オルキオがいなくなると困る連中もいるのだろう。
「それがなければ、こっちに来てもいいかもね。シラぴょんとのことを除けば、楽しい思い出のほとんどはこの街でのことだからね」
貴族だったころより、お家取り壊し後に流れ着いた四十二区での生活の方が楽しかったとオルキオは言う。
「最近はアゲハチョウ人族のみんなも考え方を改めてね、シラぴょんも大分自由に行動できるようになったんだよ」
これまでは『悲劇のシラハ様』から一時も目を離せなかったアゲハチョウ人族。
それも、ウェンディたちの結婚式から変わった。
今では、お付きの者もなくこうして遠出できるようになっている。
オルキオの存在も大きいのだろう。
「じゃあ、もっと頻繁に顔を見せてやれよ。ジネットが喜ぶ」
「そうだね。心がけておくよ」
「で、ついでに俺のお願いも聞いてくれ」
「あはは。そうだね。出来ることなら、ね」
「いやいや。到底不可能なことであっても死ぬ気でムリしてくれていいからな?」
「親切ぶって、何をとんでもないことを言っているんだい、ヤシロ君? ちょっと本気っぽくて心臓がキリキリしてきたよ……」
可愛らしくおねだりをしたところ、オルキオが死にそうな顔になった。
なんだよ。度量の小さい。
「ヤーくん」
シラハと一緒にいたらしいカンパニュラが駆けてくる。
「お疲れ様でした。話し合いは実りあるものになりましたでしょうか?」
「まぁ、まだなんともだな」
「そうですか。ですが、ひとまず無事に終わったようで安心しました。……あちらの方からは、少々危険な香りがしていましたので。ヤーくんが酷いことをされないかと不安でした」
ゴッフレードを警戒していたらしいカンパニュラ。
誰にも分け隔てなく接するカンパニュラだが、ジネットよりかは警戒心があるようだ。
「まぁ、ヤシロの方が乱暴しようとしていたけれどね。モーニングスターで」
ポンッと肩を叩き、エステラがしたり顔で言う。
え、なに?
お前はそーゆー一言を言わないと発作でも起こすの?
「カンパニュラ。危険人物には近付いちゃダメだよ」
「はい。ですが、ヤーくんは危険な方ではありませんよ。とても優しい頼れる方です」
「……どうしよう。最も危険な人間のそばに置いたせいで、カンパニュラの危機探知能力が故障したみたいだ」
エステラの冗談に、カンパニュラがくすくすと笑う。
余裕な雰囲気であしらわれてるぞ、エステラ。
どっちが領主か分かんねぇな、もはや。
「カンパニュラ」
「はい」
「もしかしたら、だけどな」
冗談に笑っていたカンパニュラの瞳が俺を見上げる。
目線を合わせるようにしゃがんで、カンパニュラの瞳を覗き込む。
「お前の親戚に酷いことをするかもしれない」
絶縁したとはいえ、ウィシャート家はカンパニュラと血の繋がりがある親類だ。
そこをどうこうしようという俺を、こいつはどんな目で見るのだろうか。
「誰も傷付かない未来が一番望ましいのはもちろんですが――」
胸の前で手を組んで、カンパニュラは九歳とは思えない落ち着いた笑みを湛えて言う。
「私は、ヤーくんの成そうとしていることを支持します。ヤーくんなら、きっとみんなが笑って暮らせる未来に導いてくれそうですから」
それは、ともすればジネットやベルティーナが見せるような落ち着いた微笑みで……よく見てるな、ホント……と、少し呆れてしまった。
「それに、私は子供ですので政治の難しいお話は分かりませんから」
よく言うよ、まったく。
こんな小さい子供なのに、よく理解している。
改革には痛みを伴うと。犠牲がつきものだと。
個人的な感情を挟まずそう言えてしまうのが、ちょっと怖いよ。
「母様たちをいじめたウィシャート家は嫌いだから潰れてしまえばいいと思います」くらい言ってくれれば、逆に子供らしくて安心できるんだがな。
「カンパニュラ。四十二区は好きか?」
「はい。素敵な方ばかりで、笑顔が絶えなくて、私の第二の故郷だと思っております。私、四十二区が大好きです」
「「「じゃーもう引っ越しておいでよカンパニュラちゃーん!」」」
「急に湧いてくるな大工ども!」
あっれぇ、よく見たら農業ギルドの連中も混ざってるな。
あ、木こりもいる。木こりは全員イメルダ一筋だと思っていたのに、浮気者め。
「ありがとうございます。でも、母様たちが寂しがりますので」
「「「俺たちも寂し~ぃ!」」」
「あらあら。困りましたね。うふふ」
キモいオッサンどもが筋肉をむっきむっき言わせて身をよじっている。
じゃあ、代わりにお前らが四十二区を出て行くってのはどうだ? 名案じゃね?
「かにぱんしゃ、おうち、帰ぅ、の?」
不安そうなテレサ。
そうだな。こいつが一番寂しがるだろうな。
答えにくそうにしているカンパニュラに代わって、俺が短く答える。
「ウィシャートとのゴタゴタが片付けば、な」
「……そっか」
俯き、つま先で足下のレンガをなぞる。
「けど、おとーしゃとおかーしゃと一緒が、いちばん、だもん……ね」
そうして、寂しさを飲み込んで我慢する。
「でも、今すぐってわけじゃない。それまで、思い切り甘えさせてもらえ」
テレサの頭に手を乗せると、テレサはくしゃっと笑って「うん」と頷いた。
「……ぁ、うんじゃなかった。はい」
「『うん』でいいよ」
「いい……の?」
「あぁ。俺の前ではな」
「…………うん」
にこーっと笑って、テレサが俺の胸に飛び込んでくる。
「えーゆーしゃ、だいしゅち」
わーい、モテたモテた。
「おい、ヤシロ、ちょっと相談が――」
「あぁーっと、モーニングスターが滑りましたわっ!」
うん、聞こえない聞こえない。
面白家族のドツキ漫才(致命傷)なんか、な~んにも聞こえない。
「ヤシロさん」
テレサとカンガルーの親子ごっこをしていると、ジネットが不安そうな顔で声をかけてくる。
「あの方たちは、危険な方なのでしょうか?」
ゴッフレードに臆することなく、というか一切気にも留めず振る舞っていたジネット。
きっとノーマやパウラあたりから話を聞いたのだろう。
「まぁ、危険ではあるな」
「そう……ですか」
ジネットがゴッフレードのことを知らなかったのは幸いかもしれない。
俺がいなかった時期も、そこまで追い詰められることがなかったってことだもんな。
「ヤシロさんの恩人の方なので、心よりのおもてなしをしたいと思ったのですが……止められてしまいました」
「ゴッフレードはともかく、ベックマンなら問題ないんじゃないか?」
「ゴッフレードさんはベックマンさんのお友達ではないのですか?」
「友達かどうかは知らんが、俺が助けられた件とは無関係だな」
「そうなんですか」
そんな話をすると、ジネットはどこかほっと息を漏らした。
「では、パウラさんの忠告を無視することなく、ご招待が出来ますね」
おそらく、「ゴッフレードだけには絶対近付くな」とか言われたんだろうな。
パウラ、本気でゴッフレード嫌いだもんな。
俺としても、ジネットはゴッフレードとは関わってほしくない。
「あ、でも」
眉根を寄せて、視線を二度三度とさまよわせて、意を決したようにジネットが俺に忠告する。
「どんな方であれ、凶器を人に向けてはいけませんよ? 間違って怪我でもさせてしまえば、きっとヤシロさんの心まで傷が付いてしまうと思いますから」
仮に、あの時あのままモーニングスターでゴッフレードの顔面を潰したとして、「うわぁ、心に傷が~」程度で済むなら安いもんだよ。
というか――
「そういうのは、日常的に俺に刃物を突きつけてくるお前の親友に言ってやってくれ」
「では、エステラさんにそういうことをされないよう、ヤシロさんは言動に気を付けてくださいね?」
うむ。
きっとこういうのを『贔屓』と言うのだろう。
まったく、酷い世の中だ。
「お、いたいた」
ジネットたちと別れて、俺は目当ての男を見つける。
「よう、お荷物」
「誰がお荷物でござるか!?」
身長は俺とほぼ同じで、最近は肉付きも多少よくなっているとはいえ筋肉はさほどなく、太っているわけでもない。というかこの身長なら痩せ過ぎか。
「ベッコ。お前の体重って60キロくらいか?」
「さすが、慧眼でござるな。まさしくピタリでござる」
標準体重よりは少ないが、予想通りの体重か。
「そういえばお前、以前『めちゃくちゃ高いところに強引に連れ去られて遙か上空から街の景色を見てみたい』とか言ってなかった?」
「言ってないでござるよ!? えっ!? 拙者何かさせられるでござるか!?」
「ちなみにさぁ、お前ってさぁ、20メートルくらいの高さから落ちたらさぁ、死ぬ?」
「死ぬでござるよ!? ごく普通に死ぬでござる!」
「『きゅっ!』って我慢したらなんとかならない?」
「落下を我慢で乗り切れる人はたぶんいないでござるよ!?」
「よっ! パイオニア!」
「その道を切り拓く自信がござらん!」
なんかぎゃーぎゃーと、若干反発気味に反論されてるが、一応報告の義務は果たしただろう。
「じゃ、よろしくな」
「何をでござるか!? 一切内容が分からないでござるよ!」
「よし、あとはウーマロか」
「待ってくだされ! 拙者との案件、終わってないでござる! せめて何をやらされるのかだけは聞かせてほしいでござる!」
「だって、教えたら断るじゃん」
「そんな内容のことを告知なく強制するつもりだったでござるか!?」
「そんな顔すんなって。俺たち、赤の他人だろ?」
「そこは『友達』と言ってほしいところでござる! 友達といえど許容できぬこともあるでござるけども! で、『そんな顔すんなよ』はおそらく拙者側の立場の者が言うセリフでござらんか!?」
もう、うっせぇなぁ。
分かったよ。説明してやるから来いよ。
面倒だが説明してやることに決め、ベッコを会場の端へ連れて行く。
道中、通りかかったウーマロの首根っこを掴んで。
「じゃ、本題に入るが――」
「その前に、オイラなんで連れてこられたか説明してほしいッス!」
「なんだよ、お前ら。似たようなことばっか言って」
「そう思われるなら、是非今一度ご自分の言動を省みてほしいでござる!」
「ん? ……俺、なんかしたか?」
「ヤシロさん、それをマジで言ってるッスからね……」
「なぜ誰にも刺されていないのか、最近は少し疑問に思うようになったでござる……」
なんだよなんだよ。
隙あらば夜道で刺そうってのか?
とんでもねぇヤツらだ。
「ウーマロは一ヶ月マグダ禁止!」
「死んじゃうッス!」
「ベッコは一ヶ月呼吸禁止!」
「それは比喩ではなく確実に死ぬでござる!」
それが嫌なら協力しろ。
な~に、四十二区のためだと思えば、お前らはなんだって出来るだろう?
「実はな……かくかくしかじか、ぱいぱいゆさゆさ……というわけでな」
「真面目に教えてほしいッス」
「ヤシロ氏は真面目な顔でふざけてくるので、対応に困るでござる」
ちょっとしたお茶目なのにブーイングの嵐だ。
遊び心のないヤツらめ。
「ウィシャートを丸裸にするための道具を作ってほしいんだ」
「丸裸……ッスか?」
「それは……」
ウーマロとベッコがゴクリとつばを飲み込み、同時に口を開く。
「「レジーナさん(氏)案件ッスか」でござるか?」
「そうじゃねぇよ」
マジであのオッサンを裸にするんじゃねぇよ。
お前らがタッグを組めば、かなりいい物が作れると踏んでいるんだ。
「ちなみにベッコって、夜目は利く方か?」
「それには少々自信があるでござる。お金がなかった時分は、夜は暗闇の中で創作活動を行っていたでござるからな」
「遠くのものは見えるか?」
「暗い上に遠いとなると、細部までは難しいかと……」
「んじゃあ、明け方にするか」
「……えっと、ちなみに、どこで何を見せられるでござるか?」
「おぉ、そうか! 花火を上げて注意を逸らしてみるか」
「いや、あの、拙者の質問に――」
「ゲラーシー辺りに、何か祝い事を作ってもらえばいいか。二十九区なら近いし」
「ヤシロ氏!?」
「大丈夫だ! 花火の費用はエステラが持つ! 何も心配すんな!」
「拙者の心配、全然そこら辺にはないでござるよ!?」
「諦めるッスよ、ベッコ。あのすっとぼけた顔を見れば分かるッス。……オイラたちに拒否権はないんッスって」
さすがウーマロ。物分かりがいい。
よし褒美に、怖い思いをするのはベッコだけにしておいてやろう。
「ノーマぁ~! ベッコを閉じ込められる檻とかないか?」
「何やらされるでござるか、拙者!?」
「あと、マーゥル。ゲラーシーに言って許可をもぎ取ってほしいんだけどさ~」
「姉上を介さず私に直接言え、オオバヤシロ! 姉上の権力を当たり前のように使うな!」
ベッコとゲラーシーが物凄い勢いで迫ってくる。
つか、ゲラーシー、足速いなぁ。そんなにマーゥルに介入されるのが嫌なのか? 怖いのか? え、嫌いなの?
「そんなにマーゥルが嫌いか?」
「ばっ!? ちがっ! あ、姉上を煩わせるようなマネは慎めと言っているだけだ!」
「……ぷっ、シスコン」
「誰があんな老女――!」
「え、何か言ったかしら、ゲラーシー?」
「ひぃいい!」
ゲラーシー、お前さぁ、老女はないだろう老女は。
しょうがない。マーゥルが不機嫌だと周りの人間が萎縮するから機嫌でも取っておいてやるか。やれやれだぜ。
「むしろ、マーゥルは幼女だ」
「それは言い過ぎだわ、ヤシぴっぴ」
あっれぇ~。全然喜んでないな~。
若ければいいんじゃねーのかーこーゆーのはー。
「マーゥル。少しバタバタすると思う。迷惑をかける」
「あら、どうしたの改まって。もう、覚悟の上よ」
三十区で騒動が起これば、隣の二十九区は確実に被害を受ける。
なにせ、四十二区と三十区に挟まれてるんだからな。
「それに、それを乗り越えた先に楽しい未来を用意してくれるんでしょう。ヤシぴっぴなら」
「そうなればいいがな」
正直、どうなるかまだ分からん。
だが――
「これは、現段階では俺の個人的な意見なんだがな」
こいつには話しておいていいだろう。
「やっぱ、ウィシャートは潰さないとダメだという結論に至った」
アイツを野放しにすれば、この先ずっとバオクリエアからの侵略の危険が付き纏う。
ことあるごとに難癖を付けられ、その度に誰かが危険な目に遭うなんざ真っ平だ。
領主を潰せばその反動は計り知れない。
とはいえ、それで俺が泣き寝入りしなければいけない理由にはならない。
揺り返しが来るのだとすれば、そんな制度にした王族が悪い。
そうなるまで放置した近隣の領主も悪い。
ほら、俺に非なんぞ一欠片もないじゃねぇか。
「幸い、俺にはと~っても仲良しな領主のお友達がい~っぱいいるから――な☆」
と、ラーメン試食会場の貴族専用スペースを振り返ると領主のオッサンどもが一斉にこちらに背を向けやがった。
……ほほぅ。
「ラーメンのレシピと、無料講習会でどうだ?」
背を向けた領主たちの肩がピクッと動く。
「事態が解決したら、大衆浴場なんかもいろいろなところに作れるようになるんだけどなぁ~」
ゆ~っくりと、領主たちがこちらを向く。
全員の視線がこちらを向いたことを確認して、俺はにっこり笑顔で手招きをした。
はい、領主さん、全員集合。
ラーメンの試食だけしてさっさと帰るつもりだった?
残念だね。
中には無駄な抵抗をする者もいたが、渋々ながらもこの場にいた全領主が俺の周りに集まった。
ラーメンや大衆浴場など、欲しいと思っている物が手に入るかもしれない期待感と、何をやらされるんだという不安が内包する複雑な表情。
そんな強張った顔つきの領主をぐるりと見渡し、俺は声を潜めて口を開く。
「バオクリエアの現国王が病に倒れた。継承権第一位の第一王子はウィシャートを使ってオールブルーム侵攻を企てている危険人物だ」
場の空気が張り詰める。
「『湿地帯の大病』も、バオクリエアから持ち込まれた細菌兵器が原因だった」
「それは……っ!」
大声を出しかけたリカルドを一睨みして黙らせる。
領主以外には、まだこの話は伏せておくんだよ。声を落とせ。
「……それは、本当なんだな?」
俺の視線の意味を理解して、リカルドは声を落とす。
「あぁ。証拠を出せというなら出せるが、今は時間が惜しい。とりあえず信用してくれ」
無茶なことを言っているとは思う。
だが、信じてもらうほかはない。
信じてもらって、現在の危険な状況を把握させなければ。
「ウィシャートと繋がっていたゴッフレードが証言しました。その内容は、ボクたちが個人的に調べて行き着いた答えと合致していました」
ゴッフレードの話に出てきた細菌兵器や第一王子の思想は、レジーナに聞いたものと合致していた。
信用できる情報だろう。
「ウィシャートが……バオクリエアと繋がっていた、と?」
三十九区あたりの領主が鼻にシワを寄せる。
「ウチの三十七区も、ゴッフレードにかなり荒らされたが……ウィシャートの差し金だったとは」
「ウィシャートは、ゴッフレードを使って自分にとって都合の悪い相手を攻撃していたそうです」
「あぁ、なるほど。ウチの区にはウィシャート家との縁談を断った家があった。船を多く所有する貴族なのだが、港へ対するウィシャート家の執念のようなものを感じて断ったと言っていた。その途端、ゴッフレードが暴れるようになって……」
ウィシャートは、バオクリエアの船がこっそりと入港できる港を欲しがったのかもしれない。
それで、四十二区に新たに出来る港にも興味を示していたのか。
「ルシアのところは大丈夫だったのか?」
「ゴッフレードが暴れていたことはあったが、まぁ、なんとか退けたというところか」
ルシア相手に強引な手には出られなかったのかもしれないな。
下手に手を出すと噛みつかれるからな、ルシアの場合。
「……バオクリエアが攻めてくる、のか」
「その可能性は高いです」
誰かの呟きを拾って、エステラが現在の危機的状況を分かりやすく説明する。
「バオクリエアは薬学の最先端を行く大国です。侵略には毒物を使用する可能性が高いです。……皆様の区で、『湿地帯の大病』が再来する可能性もあり得ます」
その言葉は、領主たちの顔を青ざめさせるだけの威力があった。
「それをさせないために――どうか、力を貸してください」
他区の領主に向かって頭を下げるエステラ。
それを突っぱねる領主はいなかった。
ただ、今すぐ答えは出せないと保留にする者がほとんどだった。
即決したのはリカルドとルシアとデミリー、そして、トレーシーだけだ。
……ゲラーシーよ。
まぁ、マーゥルに言って強引に協力させてやる。
そして、もう一人。
「……という切羽詰まった状況だから、協力よろしくな、ベッコ」
「くぅう……なぜ領主様の話し合いに拙者が混ざっているのかと思っていたでござるが……絶対に断れない状況に追い込まれたでござる……っ!」
そうして、ウィシャートご退場に向けての第一歩が大勢の領主の見守る中、力強く踏み出された。
あとがき
4桁の暗証番号をことごとく『8102』にしようかと画策中の宮地です。
これで、暗証番号がバレることはないでしょう……ふふふ。
本編では、長らくゴッフレードとの会話が続き
後半はもううんざりしてきてしまっていたので、
ベッコの登場で思いっきり弾けちゃいました☆
てへっ!(☆>ω・)
いや~、
やっぱり四十二区はいいですね。
四十二区民、最高です。
というわけで、
ゴッフレードとバオクリエア、ウィシャートの関係なんかがずらずらと語られましたが
悪い連中です。
特にバオクリエア。
とんでもないです。
まぁ救いなのは、
四十二区の中に『味方のフリしてこちらを攻撃する成りすまし野郎』がいないことですかね。
「今後の四十二区のことを考えれば、ウィシャート様には逆らわず庇護下に入る方が安全だし経済的にも恩恵を受けられるし領主としての格も上がるし、港の権利くらいあげたって問題ない、むしろこちらから『是非もらってください』って差し出すくらいでちょうどいいよ~!」
とか言うキャラがいたらそいつこそが諸悪ですからね。
エステラのそばに湧いてきたら即排除しますね。
外患誘致は、裁判なしで極刑です!
その点、ゴッフレードはあからさまに悪者なのでまだマシかもしれません。
最終的には「あーんぱんち!」で「ばいばいきーん☆」となれば勧善懲悪にもなりますし。
とりあえず、四十二区に根っからの悪人はいないと
そんな安心感がほっとするなぁ~と、ベッコを見て実感しました。
まぁ、悪人はいなくても
変態は盛り沢山なんですけどね!(☆>ω・)
というわけで、
なかなかヘイトが溜まるお話が続いたので、
そろそろ、陽だまり亭に新メニューでもぶっこみますかねぇ(*´ω`*)
ともかく、
陽だまり亭で癒されたい気分です。
癒しと言えば、
最近、街中で赤ん坊を見るとちょっと癒されている自分に気付いてビックリです。
ほら、ありません?
赤ちゃん連れの親子とすれ違ったり、電車で向かいに座ったり、エスカレーターで後ろに立ったりして、
親御さんはこっち見てないけど赤ちゃんだけがこっちをガン見してくる状況の時
ついつい面白い顔をして笑わせてみようと試みてみたりすることが!
まぁ、大抵「なんだ、この大人は?」みたいな真顔で見返されるんですが。
たま~に、恥ずかしそうに顔を「ぱっ!」って隠して
その後「そろ~」ってまたこっちを見てきて、
面白い顔をするとまた「ぱっ!」って隠れて
みたいな、堪らんレベルで可愛い反応する幼女とかいますけども!
あれこそが無形文化財に指定されるべき日本の宝でしょうよ!
この前、
よちよち歩きのお子様を連れたママさんが、
散歩中の犬を見かけて
ママ「ほ~ら、たっくん。わんわんよ~」
とか言っていたんですが、
もしあれが犬じゃなくてフェレットだったらなんて言うんでしょうね?
ママ「ほ~ら、たっくん。あの、えっと……きゅ、きゅ~ぅ、きゅぃ~よ~」
とか?
山鳩だったら――
ママ「ほ~ら、たっくん。ホーホー、ホッホー、ホーホー、ホッホーよ~」
――って言うんでしょうかね。
別の日に、ペットショップの前で「ほら、わんわんのお店だよ~」って言ってるママさんがいたんですが
わんわんだけのお店ではないのでもう少し正確に表現してほしいところですよね。
ママ「ほ~ら、たっくん。わんわんにゃんやんちっちゅい~ちゅうちゅうア゛ー! ア゛ー! コンニチワ! コンニチワ! よ~」
とか。
あぁ、でも、最近はペットショップでカブト虫とかも売ってるんですよねぇ……
カブト虫は、なんて教えるんでしょうか、世のママさんたち。
ママ「か、かぶー!」
やだ、そのママさん、ちょっと可愛い!
話を戻しまして――
折角なのでママさんをいろんなお店へ連れて行ってみましょう。
宮地「というわけで、ペットショップ」
ママ「わんわんよ~」
赤ちゃん「わんわん!」
宮地「カーショップ」
ママ「ぶーぶーよ~」
赤ちゃん「ぶーぶー!」
宮地「吉野家」
ママ「ぎゅうぎゅうよ~」
赤ちゃん「ぎゅーぎゅー!」
宮地「フラワーショップ」
ママ「花*花よ~」
赤ちゃん「さよならだいしゅちなひと!」
と、このように
きっと可愛らしいい親子の会話が繰り広げられることでしょう!
あれ、この場合、可愛いのは親? 子?
まぁ、ただ花*花が言いたかっただけなんですけどね!
うむ、今回は健全なあとがきだったのではないでしょうか。
十八歳未満の方でも
ご家族と一緒でも
きっと大丈夫。
あ、警察関係者の方の観覧はご遠慮ください。
……いえ、幼女が可愛くて観察してたとか言うと連れて行かれそうで……
でも違いますからね!?
邪な感情は一切なく、
ただただ純粋にかわいいな~っていう
世界平和を望むのと同じような心で、ですからね?
それにどうせ赤ちゃんなら授乳シーンをがっつり観察したいというのが本音で――
( ̄д ̄)「はい、逮捕」
分かりました!
授乳しなくていいので、とりあえず『乳』だけでも!
『乳』だけでもぉぉおお!
次回、私がまだ塀の外にいられればお会いいたしましょう。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




