305話 優れた調査員たち
「ようこそおいでくださいました。こちら、陽だまり亭でございます」
「すみません、間違えました!」
入ってきた大工が思わず出て行った。
「な? この辺の連中はそういう行儀のいい感じに緊張しちまうんだよ」
「なるほど。ヤーくんの言っていたのはこういうことだったのですね」
レジーナの診察を終え、陽だまり亭ルームツアーも一通り終わった後、カンパニュラは俺たちと一緒にフロアに立っていた。
と言っても、いきなり働かせるようなことはしていない。
カンパニュラはバイトではなく行儀見習いだからな。
こいつには、仕事をさせるのではなく、いろいろなものを少しずつ経験させてやりたいと思う。
「今出てったヤツ、呼び戻してくるな」
デリアがドアを出て逃げ出した大工を追いかけていく。
すぐに戻ってくるだろう。
「じゃあ、次は俺の言ったとおりにしてみろ」
「はい」
カンパニュラが水まんじゅうのようなぽや~んとした目で頷く。
分かったんだか分かってないんだか、よく分からないような表情なのだが、カンパニュラは分からなかったことは分からないと言ってくるのできっと分かっているのだろう。
数秒後、デリアの説得を受けた大工がおっかなびっくり「ここ、陽だまり亭、ですよね?」みたいな顔で店に入ってくる。
カンパニュラの背を押して、『いつもの』挨拶をさせる。
「いらっしゃいませ、ようこそ陽だまり亭へ」
「ぅはあ! 可愛いっ!」
カンパニュラの出迎えを受けて、先ほど一度表へ逃げていったカワヤ工務店の大工が床に沈んだ。
「お、ちゃんと出来たな、カンパニュラ」
倒れた大工を跨いで、デリアが店内へ入ってくる。
デリアに褒められたカンパニュラは、喜びよりも驚きの表情を見せている。
「すごいです。言葉遣い一つでここまで印象が変わるのですね」
いつでもどこでも最上級が求められるわけじゃない。
時には、敢えてランクを落とすことも重要なのだ。
そういうことを教えてやると、カンパニュラは感心したように深く頷いて、「なるほど。思い至りませんでした」と呟いた。
「そういうの、お前の母親はうまいぞ。帰ったらじっくり観察してみるといい」
「母様が? ……そうなのですか。私の前ではいつも優しい母様でしたので、使い分けているなんて知りませんでした」
「『怖い母様』もいろいろ見てるだろ?」
「はい。父様が酒場の女性店員さんを、少々よろしくない視線で見た時の母様は、歴代最高級に迫力がありました」
「……チャレンジャーだな、お前の父親」
ルピナスといる時に他所の女に目移りするとか……
「ヤシロだったら、すぐに首が落ちそうだね」
手伝いもしないのにずっと居座っているエステラが面白がって笑う。
ふん。俺の場合、そもそもルピナスのような危険な女には近付かないのだ。
「カンパニュラも、ヤシロが悪いことをしたら叱ってあげるんだよ。それが、ヤシロのためにもなるからね」
「余計なことを教えるな」
「私が叱ることが、ヤーくんのためになるのですか?」
「そうだよ。悪いことをしているって気付かせてあげないと、自分が悪いって自覚しないから、彼は」
「俺、悪いことなんかしてねーもん」
「ね? こういう男だから、遠慮なく、むしろ積極的に叱ってあげるんだよ」
「はい。留意してみます」
「はは……また、難しい言葉で了承してくれたね」
言葉のチョイスがいちいち小難しいカンパニュラ。
一回教会に連れて行ってみるか? バカなガキの中に混ぜればいい具合に知能指数下がるんじゃないだろうか?
「カンパニュラさん。どうですか? お仕事は楽しいですか?」
注文の料理をずばばっと仕上げて、ジネットが厨房から出てくる。
どうにもカンパニュラのことが気になるようだ。
「はい。ジネット姉様。とても楽しいです」
「では、今のような素敵な笑顔でお客さんを迎えてあげましょうね」
「はい」
ジネットとカンパニュラのやり取りをデレッとした顔で見つめている大工連中。
昼にはまだ少し早い時間なのだが、交代で休憩を取っているようで、今はトルベック工務店よりカワヤ工務店の大工の方が多い。
「では、カンパニュラさん。注文を取ってみましょうか」
「私に出来るでしょうか?」
「出来ますよ。大丈夫です、わたしが隣で見ていますからね」
「それに、相手は大工だから、失礼があってもセーフだ」
「あぁ……トルベックの大工の言ってたこと本当なんだ……いい店なのになぁ、ここ」
トルベック工務店の大工から、カワヤ工務店の大工へ、陽だまり亭のよからぬ噂が流されているらしい。
けしからんな。
連中は今後問答無用で陽だまり亭懐石を食わせるとしよう。
赤字分を回収するために!
「カンパニュラ。ジネットちゃんのマネをしてごらん。笑顔で、楽しそうに、お客さんとおしゃべりをするみたいにさ」
そうカンパニュラにアドバイスをして、「ごめんね、ちょっとだけ付き合ってあげて」と、カワヤ工務店の大工に耳打ちする。
「微笑みの領主様の耳打ちっ!?」
耳打ちされた大工が一回「ビーン!」と伸びた後に、伸びたままの状態で床に倒れ込んだ。
その後、ボウリングのピンが倒れた時のような軌道で床をぐるぅ~りと転がる。
「エステラ。実験台を壊すなよ」
「悪気はなかったよ! ……って、実験台って!?」
床に転がる大工の額をぺちぺち叩いて起こし、椅子に座らせる。
「じゃ、練習台よろしくな」
「まぁ、別にいいですけど……」
と、俺には渋い顔を見せる。
「ありがとうね」
「微笑みの領主様のお願いですもの! 喜んで!」
エステラにはこの愛想である。
なんだろう、俺とエステラに対するこの差。
「乳のサイズは大差ないと思うんだが……」
「そこで態度の差が出てるわけじゃないよ!? ……って、誰が大差ない胸か!?」
エステラが怒り、そしてジネットがまたいつものごとく「懺悔してください」と叱ってくる――と思ったのだが、ジネットよりも先にカンパニュラが動いた。
俺の袖をひっぱり、注意を自分に向けた後、腰に手を当てて、俺を指さして、俺を差した指を上下にぶんぶん振りながら、ほっぺたをぷっくりと膨らませて精一杯怖い顔をしてみせる。
「ヤーくん! そういうことを女の子に言っちゃダメなんですよ! ごめんなさいしてください!」
ぶんぶん、ぷっくり、ふんすー。
え、なに、これ。
かわいっ。
「一時間に一回くらいみたいな、この催し物」
「ヤシロ。君のために叱ってくれてるんだから、反省くらいしなよ」
「いやでも、ジネットもめっちゃ肩ぷるぷるさせてるぞ」
「す、すみません、あの……あまりに、可愛くて……」
「も~ぅ、聞いているのですか、ヤーくん! 叱られた後は、ちゃんとごめんなさいするものですよ!」
むぅむぅ! と両腕をぶんぶん振って抗議してくるカンパニュラ。
やり慣れていないことをするものだから、呼吸のタイミングが計れずに顔が真っ赤になっている。
「ほら、ちゃんとごめんなさいしないと、カンパニュラが倒れちゃうよ」
「しょーがねーなぁ……」
叱るカンパニュラに免じて、今回は素直に謝っておくか。
「エステラ。おっぱいぺったんことか言ってごめん」
「おぉーい! 他に謝罪の言葉は思い浮かばなかったのかい!?」
「無い乳ぺったんな事実を指摘してごめん」
「謝る気ないだろう!?」
「おっぱいちっちゃいなーって、大きな声で世間に公表しちゃってごめん!」
「って言ってる声が物凄く大きいよ! 悪意の塊なのかい、君は!?」
「おっぱいが――」
「もういいよ!」
ふぅ、もう謝罪は必要ないと言われた。
これで和解成立だな。
「ほれ、ちゃんと謝ったぞ」
「はい。よく出来ました。お利口さんです」
にっこにこな笑顔で俺を見上げてくるカンパニュラ。
内容はともかく、ごめんなさいと伝えることが重要らしい、カンパニュラの中では。
……それって若干、教育失敗してね?
「ヤシロさん」
ここまでの流れをじっと見守っていた大工が、低い声でつぶやく。
「その娘の頑張りに免じて、陽だまり亭懐石~彩り~を一つもらおうか」
どうした大工!?
めっちゃきらきらした目ぇしてるけど!?
お気に入りのキャバ嬢にドンペリピンク入れるみたいな感覚!?
お前のツボにドストライクしちゃった!?
じゃあ悪いけど、しばらく出禁な?
「ヤシロさん」
「ヤシロさん」
「ヤシロさん」
その他、店内にいた大工たちがガタッと立ち上がり、こちらに向かってサムズアップを突きつけてくる。
「「「こっちにも、陽だまり亭懐石~彩り~を頼むぜ☆」」」
この街に、ドンペリピンク的な文化が根付いてしまった。
ご祝儀懐石か?
「ジネット、めっちゃ懐石入ったけど、いけそうか?」
「はい……」
緩みきってまだ元に戻らない頬を両手で押さえ、ジネットがカンパニュラを見つめている。
「カンパニュラさんのために、わたしも頑張りますね」
作る方もご祝儀気分なのかよ。
「そこですかさずお手伝いに立候補するロレッタちゃんです!」
「……マグダは、前回の練習で店長に及第点をもらった」
陽だまり亭懐石をまかないにした日、マグダとロレッタは飾り切りの練習をしていた。
及第点がやれたのはそれぞれ一種類だけだ。
マグダはカボチャ。ロレッタはカブ。どちらも直線的な切り込みを入れるだけなので比較的簡単だ。
まぁ、正直戦力にはならんが、盛り付けくらいは手伝えるだろう。
「じゃあ、三人で頼む」
「任せてです!」
「……フロアはヤシロに任せる」
「おう、任せとけ」
「あたいもいるぞ、マグダ」
「……デリアは…………まぁ、がんばって」
「おう! 頑張るぞ!」
今、確実に頭数に入ってなかったよな、デリア。
まぁ、カンパニュラがデリアのマネをして接客を覚えると後々大変だもんな。
よし、ここは先手を打っておこう。
「じゃあ、カンパニュラ。エステラのマネをして接客の練習をしてみるか」
「はい!」
「えっ、ボクがお手本するの!?」
「お前しかないだろう。男の俺のマネじゃ、女子の可愛らしさを引き出せないし、……デリアのマネをさせる気か?」
「それは、……そうだけどさぁ」
「よろしくお願いします、エステラ姉様」
「くぅ……っ、このタイミングで初の『姉様』呼び! カンパニュラはきっと大物になるなぁ……」
嬉し悔しい感情がエステラの表情を緩ませる。
チョロいなぁ、ウチの領主様。
カンパニュラをマーゥルのところに預けたらとんでもないことになるかもな。
はは……、恐ろし過ぎて冗談でも言えねぇな、そんな提案。
そんなことをしつつ、俺は待っていた。
各区の給仕長に頼んでおいた調査の結果が届くのを。
まぁ、尻尾はつかめねぇと思うけどな。
「ほら、カンパニュラ。お客さんのお水が減っているだろう? こういう時は『お水いかがですか』って聞いてあげるんだよ」
「なるほど。さすがエステラ姉様です。その思いやりの心が、広く領民から愛される所以なのですね。尊敬します!」
「あはぁ! カンパニュラは可愛いなぁ! おいで、ケーキをご馳走してあげる!」
「いや、微笑みの領主様、お水は!?」
カンパニュラが笑っている。
……まぁ、それ以上にエステラがはしゃぎ過ぎているが。
カンパニュラは知らない。
自分が暗殺されかけていたということを。
自身の体調不良が、その後遺症だということを。
出来るなら、知らせずに完治させてやりたいところだ。
これから成長していく中で、一人での外出が出来なくなってしまわないように。
路上で襲われた者は、一人で出歩くことに恐怖を抱くことがある。
見ず知らずの大人八人に取り囲まれて、あることないこと吹き込まれたってのも、相当な事案だが……やっぱり命にかかわる脅威は桁違いに恐ろしいものだろう。
さて、どのタイミングで、どこまでのヤツに知らせるべきかな。
「失礼いたします」
凛とした声が陽だまり亭に響く。
待ちわびた人物の登場だ。
「ご依頼のもの、お持ちしましたよ、コメツキ様」
「早かったな、イネス」
「……待ちわびたというお顔に見えますが?」
まぁ、ぶっちゃけると待ちわびたけどな。
でも、今朝急に頼んだことをこの短時間で調べてくれたのだ、それは十分に早いと言える。
「いらっしゃいませ、ようこそ陽だまり亭へ」
入口に立つイネスに、カンパニュラがよく通る声であいさつをする。
見たことのない小さな少女がエプロンをつけている様を、イネスはじっと見つめる。
そして――
「コメツキ様のストライクゾーンはガバガバですね」
「勝手なことを抜かすな」
俺のストライクゾーンは外角高めだよ!
D~K! 低めは狙わない主義だ!
……とはいえ、打てそうなら積極的にバットを振っていく所存ではあるが。
……ん? 何の話って、ストライクゾーンだが?
年齢? 俺はそんな小さなくくりで物事を語るつもりはないんでな。
「BからOKになったのですか?」
「待ってくれるかい、イネス。ストライクゾーンの話じゃなかったっけ?」
「えぇ、ストライクゾーンのお話ですが……何か?」
「え、なに、その『何言ってんのお前?』みたいな顔? 確実にボクの言ってることの方が正しいからね?」
エステラにはまだ分からんのだ。
恋愛において、年齢なんてもんはさほど関係ないのだということをな。
……まぁ、ドニスやオルキオやフィルマンは危険人物として引き続き厳重な警戒が必要だろうが。
ん? ハビエル? アレはもう一発アウトだ。警戒なんてレベルはとうに過ぎている。
「こちらが、調査結果をまとめた資料になります」
そう言って、俺が待ちわびていた物を差し出してくる。
受け取り、ざっと資料に目を通す。
……ふむ。
まぁ、思った通りの結果だ。
「イネス、ちょっと俺の部屋へ来てくれるか?」
「大丈夫です。市場調査の依頼の際、きちんとナタリアさんに忠告いただいておりましたので」
「忠告? 何の話だ?」
「勝負下着をつけてくるようにと」
「部屋に連れて行きにくくなる情報を寄越すな!」
そして、何の忠告をしているんだ、ナタリア!?
つか、そんなつもりねぇわ! 何が「大丈夫です」だ!?
「人に聞かれるとまずいから内緒話をしに行くだけだ」
「そうなのですか? では、なぜ勝負下着が必要に?」
「こっちが聞きたいわ!」
お前、しばらくナタリアに接触するな。アレは感染する。
「お待たせしました、コメツキ様。おや、イネスさん、さすがお早いですね」
少し遅れて二十三区領主付き給仕長デボラが陽だまり亭へやって来る。
手には、俺が依頼しておいた調査の資料を持って。
さすが優秀だな、お前らは。
「おや、私が最後でしたか」
そして程なくナタリアがやって来る。
同じように、資料の束を持って。
「同区の私が最後とは……もう一度、気を引き締め直す必要がありますね」
「そんなもん、いちいち気にすんなよ」
「勝負下着を選ぶのに迷ってしまいまして、遅くなりました」
「気ぃ引き締め直せ! 今ここで! 緩み過ぎだから、お前は!?」
「はっ!? 調査に意識を取られてすっかり失念していました! 替えてきます!」
「行かなくていいから、デボラ!」
「エステラ姉様。今は、何のお話をされているのでしょうか?」
「あぁ、あの人たちの話は聞かなくていいよ。っていうか、むしろ聞かないで」
エステラが物凄く怖い目で俺を睨んでくる。
っていうか、お前んとこの給仕長発信だからな、この一連? 責任を取るべきはお前だからな!?
「ナタリアさんは、複数お持ちなのですか、勝負下着」
「そうですね。気候やその日の気分、二人の仲の進展具合に合わせてセレクト出来るよう常時二十点は用意してあります」
「二十点もですか……私はまだまだですね」
「ちょっと黙って、ナタリア、イネス! 今このフロア男性だらけだし、小さな子供もいるから!」
ナタリアとイネスの会話に、大工のオッサンどもが聞き耳をそばだてている。
「オレ、別に興味ねぇから」風を装っても、意識は完全にナタリアたちに向いている。
お前ら、会話一切しなくなったな。聞くのに必死か、エロ大工ども。
「こんにちはみなさん。今日はどうされたんですか、お揃いで」
ご祝儀懐石がなぜか流行り、今日は厨房にこもりっぱなしのジネット。
ひょっこりと覗いてみれば、フロアに給仕長が集まっているので出てきたようだ。
「何か難しいお話ですか?」
「いえ、勝負下着に関して少々」
「まだまだ研鑽が必要だと思い知らされていたところです」
「参考までに、店長さんの勝負下着に関してお話を聞かせていただけますか?」
「えっ? えっ!?」
「ジネットちゃんから離れて、ナタリア、イネス、デボラ!」
圧のすごい給仕長ズの輪の中から、ジネットを引っ張り出して背にかばうエステラ。
俺に視線で「さっさと奥に連れて行け」と合図を寄越す。
……お前、面倒くさいことを俺に押しつけるなよ。
「じゃあ、ちょっと俺の部屋で話をしてくる。悪いがフロアを頼むな」
「あ、あのっ、ヤシロさん!」
給仕長ズを連れて部屋に戻ろうとすると、ジネットが慌てた様子で俺を呼び止めた。
「その……お部屋で勝負下着のお話を?」
「違うわ!」
「「「違うのですか!?」」」
「今度お前らの主全員ここに集合させろ! 説教してやる!」
領主だろうが関係ねぇ!
床に正座で小一時間叱りつけてやるからな!
「あ、ヤシロ。ボクその日はしょーもない用事があるからパス」
「せめて大事な用があるって言え、パスしたいなら」
「それに、ナタリアがそうなったのは君のせいだし」
「責任転嫁も甚だしいな」
お前がちゃんとしつけておかないからだ。
あと本人の資質だな。……とんでもない資質を持って生まれてきたもんだ。気の毒に。
「ちょっと、カンパニュラの体調のことで話をしてくる。あまり聞かれていいものじゃないから」
不安げな顔をしていたジネットに耳打ちをしておく。
ふざけた空気になっているが、こっちはすぐにでも情報共有が必要な案件だ。さっさと話を聞きたい。……のに、ナタリアたちがふざけるから。
「そうなんですか」
ちらりとカンパニュラを見て、ジネットは神妙な面持ちで俺に言う。
「あとで、わたしにも聞かせてくださいね。……わたしも、心配ですから」
「あぁ。じゃ、夜にでもな」
「はい。お部屋に伺います」
……ん?
「では、マグダさんを呼んできますね。フロアをお願いしないと」
言って、ジネットが厨房へ駆けていく。
いやいや。
別に俺の部屋じゃなくても……
…………え、今晩ジネットが俺の部屋に来るの?
内緒の話をしに?
えぇ……
「さ、行こうか、諸君」
「明らかに緊張されてますね」
「まぁ、『夜』ですからね」
「店長さんのように無防備な雰囲気は破壊力が大きいのですね」
こっちの内緒話をしっかりと盗み聞いていた給仕長ズが口々に好き勝手言っているが、ここは敢えて聞こえないふり!
……あぁもう。勝負下着の話ばっかりするから、脳内にパンツがチラつく。
これから真面目な話するのにさぁ。もぅ……
調査報告を見た結果、市場に毒物は出回っていなかった。
「やはり、危険な毒物を扱っている店はないか」
「そうですね、表向きは」
ナタリアが涼しい声で言う。
まぁ、裏ルートなんてところでは多少扱っているかもしれないな。四十区に闇市なんてもんもあったし。
「一応、闇市まで調べさせましたが、ここ十年を遡っても、毒物の取り扱いはなかったようです」
「ナタリア、四十区まで調べてきたのか?」
「いえ、別動隊の報告をまとめたまでです。ただし、信用できる報告であると思いますよ」
ナタリアが信用できると言うのであれば、それはもう完全に信用していい情報なのだろう。
最近ちょいちょい思うのだが、ナタリア――お前、自分の部下に偵察隊いるよね? 忍者的な手下何人か抱えてるよね?
それって以前からいたの? なんか、最近情報収集能力爆上がりしてる感じするんだけど、……え、育てたの?
最も触れちゃいけないタブーが身近にあるような気がして、それ以上は突っ込まないでおいた。
ナタリアに「あなたは知り過ぎました」とか言われちゃ、人生が強制終了されるからな。
「ヤシロ様」
俺の考えを読んだのか、ナタリアが鋭い視線をこちらへ向ける。
「今、お尻のことを考えていましたね?」
「考えてねぇわ!」
『知り過ぎた』って考えてただけで『尻過ぎた』とは考えてねぇよ!?
なんだ『尻過ぎた』って!? 過剰にお尻ってどんな状況だ!?
「『あなたは尻好きぺったん』と、心の声が聞こえた気がして」
「思ってねぇわ、そんなこと」
尻が好き過ぎて触っちゃってんじゃん。
そこそこ勢いよく叩いちゃってるね、ぺったんって!
「わぁ、お餅みた~い☆」って? 捕まるわ!
「三十区に隣接する二十三区と二十九区でも、市場に毒物は出回ってないんだな」
「そうですね。行商人に対し、薬草や香辛料の持ち込みは厳重に調査を実施しております」
「二十三区も同じです。通常であれば、三十区の街門で止められオールブルーム内に持ち込まれることはないはずです」
もちろん、ルールを守るヤツばかりだったら――という前提条件がつくのだろうが。
「三十五区の方はどうなのですか?」
イネスが俺に問う。
「そっちにも手紙を出して調査してもらっている」
行商人が使うのは三十区の街門と、港がある三十五区の街門がほとんどだ。
そこ以外からでも入れなくはないので、密輸を完全に防げるとは思っていないが……
「おそらく、向こうも同じような回答だろう」
「でしょうね。危険な毒物が検査もされずに市場に出回っていれば、もっと大事になっているでしょうし」
今回俺は、ナタリアを通して給仕長たちに市場の調査を依頼した。
カンパニュラに使用された遅効性の毒物をはじめ、レジーナが持っていた猛毒、それ以外にも人体に害をなす毒物が市場に出回っていないか。
または、そういった毒物を持ち込もうとした者はいないか。
だが、結果は予想通り「そのような事実は存在しない」というものだった。
それ自体はいいことなのだ。
危険な毒物は街に入る前に発見され、持ち込まれていないという事実が分かったのだから。
問題なのは、その事実と現状が乖離しているということだ。
水際で堰き止めていたはずの毒物が街の中で使用されている。
レジーナのように、個人で輸入している者が他にもいるかもしれない。
レジーナの毒薬は禁輸されていない物らしいし。……あいつの猛毒が一番驚異的だと思うんだが……
禁輸されているのは、生命活動を阻害し、人命を脅かすような毒物だ。
レジーナの毒薬は、効き目は抜群だが命は奪わない。精々三日三晩全身がしびれて動けなくなる程度だ。……『程度』と言っていいのか分からんが。
「薬に関しては、レジーナの言い分を信じていいと思う――ってことを前提に聞いてほしいんだが」
他区の給仕長は、レジーナに対し俺たちほどの信頼は置いていないだろう。
ほとんど知らない相手だし、見かけたとしても区民運動会やイベントの時くらいだろう。
なので、俺たちは信用しているという前提のもと話を進める。
「カンパニュラに使用された遅効性の毒は『バオクリエアから』輸出を禁止されている毒物だ」
そんな危険な物が他国に渡ったりしたら、自分たちの国がその毒物に脅かされかねない。
危険物は、輸入はもちろん輸出時にも厳重に検査される物だ。
なので、そもそもバオクリエアから外に出ること自体が異常事態なのだ。
それが異国――このオールブルームで使用されていたということは。
「どこかの誰かが、バオクリエアと繋がって、秘密裏にそんな危険物の売買を行っているってことになる」
そして、バオクリエアとオールブルームの貴族、双方のお抱えになっている行商人に、俺は心当たりがある。
「ですがヤシロ様。仮にバオクリエアと内通し、そのような危険物の売買を行っている者がいたとしても、この国への持ち込みは街門で厳重に検査されますので不可能ではないかと――その外門に抜け道でもない限りは」
そうだな。
その通りなんだろうよ、ナタリア。
っていうか、お前は分かっていて言ってるよな。
「たまたま門番の目が見えにくくなる瞬間が、しばしばあるんじゃないか?」
「偶然にも同じ行商人の時にばかりそのような症状が出ることも、100%否定は出来ませんね」
「あぁ、そうだ。偶然ってのは重なるものだからな」
「そうなれば、それは運命なのかもしれませんね」
俺とナタリアの言葉遊びを、イネスとデボラは若干楽しそうに見つめている。
この場にいる者の中では、もう意見は一致している。
「ノルベールが持ち込み、ウィシャートに売っていたんだろうな」
「そうなると、かつてその行商人が『とある香辛料』を紛失した際、ウィシャート家が大慌てしたのも頷けますね」
うん。
そうなんだけど、『とある香辛料』とか急に言わないで。
心臓が「きゅっ」ってなっちゃうから。
俺が黙っていると、イネスとデボラがナタリアの言葉に返事をする。
「盗まれた物が禁輸品であれば当然ですし、それ自体が違ったとしても、その盗難が足掛かりとなり秘密が露呈するということはままありますからね」
「もしくは、行商人がわざとそうしたのではないかと勘繰り、潔白が証明されるまでは信頼できる者以外とは会わない――そんな発想になってもおかしくはありません、当代のウィシャートであれば」
内側から見たウィシャート家ってのは、相当に胡散臭いらしく、イネスもデボラもあまり好感は持っていないようだ。
まぁおそらく、外門の利権を笠に着て威張り散らしていただろうしな。『BU』は所詮『BU』だ。流通において、上流を抑えられているのなら、腹が立つことも飲み込まざるを得なかったのだろう。
「最近になって、ようやく表舞台にも顔を出すようになってきましたね、彼は」
と、イネス。
「詳しくは分かりませんが、裏でこそこそと活発に動き回っているようです。イベール様の館のそばでも、不審な者が散見されましたので」
と、デボラ。
「四十二区にも、絶賛不審者が急増中です!」
と、ナタリア。
ここ一番のドヤ顏である。
張り合うな。嬉しくないから、不審者の急増。
「とにかく、『リボーン』や土木ギルド組合、それに港の建設と、ここ最近俺たちはウィシャートの意に反するような行動を取り続けている」
「しかも、近隣の区が仲良く和気あいあいとですから、なおのこと鼻につくのでしょうね」
独りぼっちは寂しいでしょうし――という口調でナタリアは言うが、『仲良し』なんてぬるい言葉で向こうが受け取っていないことは重々承知している。
おのれ以外の区が徒党を組んで自身と反する立場に立つ。
それは、我が身を脅かす脅威に他ならない。
波状攻撃を個別に撃退しているつもりでしかないが、ウィシャートの立場から見れば、自分の包囲網が徐々に狭まってきているように感じるだろう。
……自分で仕掛けておいて勝手な発想ではあるが。
「暴発して何をしでかすか分からん以上、警戒はし過ぎるくらいでちょうどいいと思っておけ」
「現在、レジーナさんに解毒薬の生産をお願いしています。数が揃い次第、近隣の区へお配りします」
「薬のような高価な物を、よろしいのですか?」
「我が主の申し付けですので」
「微笑みの領主様に感謝をお伝えください」
「二十三区からもお願いします。後日改めて我が主から感謝の言葉を送ることになると思いますが」
「受け取っておきましょう」
給仕長の間でそのような話が進み、今後の段取りが話し合われる。
第一に、被害者を出さないこと。
手遅れになる前に対処できる基盤を作っておくことが大事だ。
頭を叩き潰すのはその後でもいい。
とんでもない毒薬が出てきた以上、もう少し慎重に行動しなけりゃな。
……カンパニュラが四十二区にいる意味を、向こうがどのように解釈するか、分かったもんじゃない。
「では、こちらの情報を『BU』内で秘密裏に共有願います。こちらは外周区と情報共有を行っておきます」
ナタリアがそんな言葉でこの会合を締める。
俺も、ちょっと気を引き締め直さないとな。
「そうでした。こちらもお渡ししておきますね」
俺の部屋を出る間際、イネスが別の資料を手渡してきた。
ぱらぱらと中を見てみると、そこには二十九区のとある貴族の情報が載っていた。
ドブローグ・グレイゴン。
土木ギルド組合の重鎮にして役員の一角。
ウィシャートのアホにそそのかされて、ちょっとはっちゃけ過ぎちゃった痛々しい老人だ。
「よくもまぁ、ここまで調べ上げたな。初恋の相手まで書いてあるじゃねぇか」
「それだけ敵が多いということです」
誰かの調査をする際、そのターゲットが多くの者から愛されている場合は情報が集まりにくい。
人気者ならいろんな人が情報を持っていると思われがちだが、人気者の悪評は突いても出てきにくいのだ。
悪いことをしていないわけではない。
悪いことでなくとも弱点になり得る事柄だってある。
だが、それですら聞き出すのは困難なのだ。
なぜなら、人気者だから。
人は、自分が好意的に捉えている相手のあまりよくない情報を他人に話そうとはしないものだ。
そもそも、その『よくない情報』ですら「きっと何か理由があるに違いない」とか「誰かの思い違いに相違ない」とか、一次ソースをねじ曲げてでも好意的に受け止めようとする傾向がある。
たとえば、密室でジネットの足下に血だらけのウーマロが転がっていたとしよう。
それを見た人物のほとんどが「ウーマロが転んで大怪我をした」と捉えるだろう。
そして、「ジネットはそんなウーマロを介抱しようと近付いたのだろう」と。
きっと誰も「ジネットがウーマロをぼっこぼこにぶちのめした」とは思わない。
これがアノ情報紙のド三流女記者だったら?
きっと誰もがウーマロを見た瞬間にド三流記者に掴みかかるだろう。
「てめぇ、ウーマロに何しやがった!?」ってな。
ジネットの情報を得ようと街中で聞き込みをしても、せいぜい「料理上手」とか「優しい」とか「おっぱいが大きい」とか「たまらんなあの爆乳」とか「挟まれてみたい谷間二年連続第一位」とか「この前の突風、ジネットのおっぱいが揺れたのが発生源だったんじゃね?」とか、そういうポジティブな情報しか集まらないだろう。
一方のド三流だと――まぁ、いろいろ集まるだろうなぁ。
「こんなこと言われた」とか「自分を棚に上げて」とか、情報でなくとも「あの服のセンスなに?」とか「品のない文章」とか「声が耳障り」とか、挙げ句の果ては「この前こんな派手なパンツ買って帰ったのよ~」とかそんなプライベートな情報まで集まりそうだ。
悲しいかな、人というのは「あの人嫌な感じね~」というものに共感してほしい生き物であるのだ。
そしてその共感は「私、こんなの知ってる」「こんなの見たわよ」と様々な情報を呼び寄せる。
つまり、調査をしていて『初恋の相手』なんて情報まで出てくるってことは、それだけ周りの者によく思われていないという証拠なのだ。
だってよ、もし誰かがジネットのことを嗅ぎ回っていたとしても、誰も「ジネットの勝負パンツはスケスケです!」なんて情報は教えない。
どこの誰とも分からんヤツに教えてやるには惜しい情報だからな。
この情報は、知っている者だけが知っていればいいものなのだ。
ちなみに、今日のジネットはリネン生地で作った生成り色のパンツを穿いている。
リネンの生地はどうしても糸のバラツキが出てしまうのだが、それがまたいい風合いを醸し出していて……あれはいいものだ。
だが、誰の手の者か分からないような諜報員に、そんな美味しい情報は教えてやらない! やるものか!
それが、人間の心理というものだ。
「グレイゴン家は、意地っ張りな家系のようですよ」
「だろうなぁ。姪っ子を見てると、ちょっと痛々しくてこっちが恥ずかしくなるよ」
ドブローグ・グレイゴンの姪。
バロッサ・グレイゴン。……そう、あのド三流記者だ。
自己顕示欲が肥大化しているというか、自己肯定力が強過ぎるというか。
イネスの調査によれば、幼い頃から「アタシを見なさいよ!」というタイプだったらしい。
「では、こちらの資料もご覧ください、コメツキ様」
続いてデボラが別の資料を寄越してくる。
結局、資料を両手に持っちまったのでもう一度部屋へ戻る。
ぱらぱらと資料をめくると、こちらにはまた別の貴族の情報が載っていた。
テンポゥロ・セリオント。
情報紙の会長を務める貴族の一人だ。
以前陽だまり亭で見たあいつだ。あのでっぷりと肥え太ったオッサンだ。
実は、情報紙の動きがきな臭くなってきた頃から、イネスとデボラには情報収集を頼んでおいた。
俺やナタリアが『BU』に乗り込むと目立つからな。
なにせ、『BU』は外から来る者と外へ出る者への監視が凄まじいから。
で、『BU』の中の人間に情報収集を頼んでおいたのだ。
おかげでいろいろなことが分かった。
情報紙には三人の会長が存在する。
二十三区、テンポゥロ・セリオント。
二十九区、アドバン・ホイルトン。
二十五区、タートリオ・コーリン。
この三名が情報紙を運営する権利――『運営手形』を所有し、その実権を握っている。
『運営手形』は、まぁ言ってみれば株式のようなもので、情報紙発行会結成時に創業者三人が金を出し合い、搬出金の多さで手形の多い少ないが決められたらしい。
手形を三個持っている者より、手形を五個持っている者の意見の方が通りやすい。そういうシステムで、その時々で『運営手形』を三者間で融通して運営を行ってきた。
「今月ちょっとピンチなんだわ。手形一個を10000Rbで買ってくれないか?」と、そのような感じでな。
創業時の取り決めにより、手形は三者以外の者への売却を禁止され、手形のやり取りも三者の均衡が壊れない範囲で行うよう決められていた。
これはあくまで発行会を腐敗させないための措置であり、発行会を乗っ取らせないための決めごとだった。
だが、そこに介入したバカがいた。
ウィシャートだ。
つい先日、二十九区に住む発行会会長の一人、アドバン・ホイルトンの孫が結婚をした。
そのお相手が――ウィシャート家の娘だ。
分家に当たる家の者で、現当主デイグレアから見れば三親等、叔父の娘に当たる人物なのだ。
ホイルトン家の孫は長男で、次期当主と言われている人物なのだが、こいつがもう随分と前からそのウィシャート家の娘に熱を上げていたらしい。
じらされてじらされて、このほどめでたく結納の運びとなった。
そして、時を同じくしてホイルトン家の『運営手形』の大半が二十三区貴族のセリオント家に売却された。
その結果、あのでっぷりとした会長様が、発行会の実権を独占してしまったというわけだ。
それすら見込んで、娘をホイルトン家に近付けていたのだろうな。
「お前と結婚できるのなら、『運営手形』くらいいくらでも売るさ! なにせボクチンは次期当主だからな!」……って感じか? バカなボンボンめ。
ホイルトン家とコーリン家の会長は、それぞれ当主を退いたジジイが就任しているのだが、以前会ったでっぷりオヤジことテンポゥロ・セリオントだけは現当主が発行会会長も兼任している。
爺さんが死んだのかと思ったが、テンポゥロによって早々に引退させられたそうだ。
発行会の実権を握る気満々だったんだな、テンポゥロは。
で、『運営手形』の三分の二近くを手に入れたテンポゥロ・セリオントは我が物顔で情報紙発行会を私物化したと、そういうわけだ。
だから、現状に怒りを覚えている記者や発行会の職員たちは大勢いる。
特に、今回まったくの蚊帳の外で、いきなり運営権を剥奪されたに等しい二十五区のタートリオ・コーリンは激怒しているらしい。
そりゃそうだ。
コーリン家はこれまでと変わらず三分の一の『運営手形』を所有しているのに、「こっちは三分の二を所有している」と、強制的に運営権を奪われたのだからな。
セリオント家も、三分の二の手形があれば好き勝手できるのだから、コーリン家の『運営手形』を買うようなことはしない。
コーリン家の『運営手形』は完全に死に手形になってしまったわけだ。
金にもならず、権力も奪われたコーリン家の怒りは計り知れない。
――なんて人物がいるんだから、会いに行かなきゃだよな、やっぱ。
だが、その前にレジーナのところだな。
早急にやらなきゃいけないことがあるからな。
くそ、こんなことならさっき帰さなきゃよかった。
面倒くさい……
……果たして、あの引きこもり女子は受け入れてくれるだろうか。
「弟子を取って薬学を継承しろ」なんて、コミュニケーション能力をフル活用しなければいけない要求を………………無理っぽいよなぁ。
あとがき
先日、多摩御陵へ参拝して参りました宮地です。
むか~しむかし、
ほんの一時なんですが、
一年前後という短い期間だけなんですが、
多摩御陵のそばに住んでいたことがあるんです。
関西から東京に引っ越そうとしていた時で
内見とかせずに即日入居可の物件を探していた時にたまたま見つけたのがその物件だったんですね。
狭い1Kでプロパンガスで、
随分と山の中にあるなぁ~と思っていたら、
山なんじゃなくて、御陵の近くなので自然が雄大に残してある場所だったんです。
どうりで木々が綺麗だったわけです。
当時は植物には興味もなく、
実家が本気の山奥だったので自然にも興味がなく、
特に意識もしてなかったんですよね。
大きな樹木よりも膝丈くらいの茂みの方に興味津々な時代でしたし。
……え? あぁ、いや、
それくらいの茂みにはよくエッチな本が落ちて……もといトレジャーが隠されていることが多くて、えぇ地元では。
ドラクエでも、木はただの障害物ですが、茂みはたまにアイテムが隠されているじゃないですか。
ファミコン世代にとって、木と茂みってそういうもんなんですよね。
ね☆
なので、この時も茂みのみを調べて樹木には注意を払っていなかったんです。
あとになって思い返してみると、
部屋の鍵を受け取る時に大家さんが言っていたんですよね
近くに御陵があるよって。
けど、当時の宮地さんってば――
大家さん「近くに多摩御陵があるんですよ~」
宮地「タマゴ漁?(あぁ、タマゴ狩りが出来るのか。養鶏場だな、うん)へ~、そうなんすか~」
――みたいな感じで、そこに住んでいる間に一回も行かなかったんですよ。
もったいない……
すごく素敵な場所でした。
管理された自然って、ここまで美しいのかって
静かで、雄大で、時間がゆっくりと流れていて
神聖な気持ちになれる場所でした。
中にいる間は邪心なんてものは心の中から綺麗さっぱり消え去っていましたね。
まぁ、外に出た瞬間茂みの捜索を開始しましたけれども!
……なかったですね。
きっと、近隣もきちんと管理されてるんでしょうね。
名前でも書いていない限り撤去されてしまうのでしょう。
皆様、今後エッチな本を捨てる時は背表紙に大きく『宮地拓海』って書いといていただけますか?
そうすれば、きっと全部私の元に届いて……いや、その前に
(*^艸^)「この『宮地拓海』って人背表紙に名前書くって……小学生か(笑)」
Σ(゜Д゜)「っていうか、尋常じゃない数だな!?」
ってなりますね。
ヤバい、また警視庁の人が来ちゃう……(゜△゜;)
皆様、計画中止です!
やめてください、
ろりっこ雑誌と熟女雑誌を同じ日に捨てて
「こいつのストライクゾーン四次元か!?」みたいな印象を与えようとするの!
人様に言えない際どい趣味嗜好を私になすりつけるの禁止ですよ!?
もう違う話にしましょう。
よくない空気です、この辺。
まったくむぅ。
で、ですね、
多摩御陵の近くに、
日本一桜がたくさん植えられている
森林総合研究所 多摩森林科学園
という場所があるんですが、
ここがまた、いいんですよ!(≧▽≦)
入場料300円で、広大で美しい山林を散歩できるんです。
結構なアップダウンなんですが、地面が柔らかい土なので足も全然疲れないですし、
何より綺麗に管理されているのですごく綺麗なんです。
紅葉には全然早く、桜の時期とはかけ離れて、
花々が咲き乱れるわけでもない
いわゆる一番の閑散期にお邪魔したんですが、
それでも十分、十二分に楽しめました。
むしろ、桜の時期で人がごった返す時期よりよかったんじゃないかと。
静かでのんびり歩けて、鳥の声が聞こえてくるんです。
実家を離れて早数十ね……数年。
私に足りなかったのはこういう山や自然との触れ合いだったのでしょう。
すごく癒やされました。
宮地「がさがさ……」
茂み「落ちてへんでー」
まぁ、トレジャーこそ見つかりませんでしたが、
得るものの多い貴重な時間でした。
桜の季節は絶対綺麗ですよ。
\( ̄▽ ̄)/知らんけど
そして、入り口に付近には
無料で入れる森の科学館という施設がありまして、
室内に大きな木が「どーん!」と生えている
木の香りが充満している素敵な建物があります。
森に生息する動物の剥製や、桜の花が展示されていまして、
ここもいろいろ見るところが多い。
宮地「がさごそ……」
トイレの用具入れ「こんなところに隠されてへんでー」
まぁ、トレジャーこそ見つかりませんでしたけれども。
科学館を堪能して帰ろうかと思ったところ、
出口に松ぼっくりが大量に置いてあったんですね。
「ご自由にお持ち帰りください」って。
「あ~、子供たちはこういうの喜んで持って帰るだろうな~」って思って
ちょっと見てたんです、
いろんな種類があって、スギとか松ぼっくりじゃない松ぼっくりっぽいのとかいろいろ。
「いろんな形があるんだな~」って見てたら、
科学館の職員さんらしきおじいちゃんが
「もういいのは残ってないでしょ?」って声をかけてきまして、
このおじいちゃん、本当に人がよさそうで物腰の柔らかい、
一目見たら「すきっ!」ってなる人続出しそうな
『ザ・いいおじいちゃん』みたいな人だったんですが、
また人のよさそうな笑顔で「子供たちがみんな持ってっちゃうんですよね」って
嬉しそうに言ってくるんですよ。
ただあの、私……
子供ではないので松ぼっくりは欲しくないんですよね……(^^;
ちょこっと「へ~」って見ていただけで。
なので別に残念でもないんですが……
なんなら、どの松ぼっくりが「いいの」なのかも分からないですし。
でも、おじいちゃんがですね
「松ぼっくり、かわいいですよね~」みたいな顔でにこにこ話しかけてこられたので
「そうなんですか~、子供は好きですもんね、松ぼっくり」って話を合わせたんです。
そしたらですね……
森の科学館を出て、さて帰ろうかなって時になって、
おじいちゃんが追いかけてきまして――
「折角来てくれたしね」
――って、ポケットから、
それはもう見事に笠の開いた立派な松ぼっくりを取り出して
差し出してくれたんですっ!
いい人!
きっとこれ、おじいちゃんのとっておきで、
もしかしたら自分用だったのかもしれないなって。
だって、松ぼっくり置き場にはなかったものですし!
そしてこの松ぼっくりって
きっと、管理された広い森の中を歩いて探して見つけてくるんだろうな~って思うと、もう、その松ぼっくりがすごく特別なもののように思えてきて、
その特別なものを『喜んでほしいから』みたいな気持ちで差し出してくれる……
あなたは、四十二区の住民ですか!?
あぁ、きっと陽だまり亭とか四十二区の人ってこういう感じなんだろうなぁって
直に感じることが出来ました。
あの広大な森に囲まれて生きていると、きっとこのおじいちゃんのように
広い心と思いやりを持った素敵な人間になれるんだろうなぁ~って。
ちょっと感動しつつ、ありがたく松ぼっくりをいただいてきました。
ただ、
……私、別に松ぼっくり欲しくなかっ……いえ、ありがとうございます!
大切にします!
玄関に飾るか、大きめの鉢を買ってきて植えます!
……松ぼっくりって、植えたら木になりますか?
松ぼっくりたそ「わたし、木になります!」
というわけで、
多摩御陵と多摩森林研究科学園、
結構近くにあるので一度訪れてみてはいかがでしょうか?
ただし、どちらもけっこう広い(森林研究科学園はもはや山)ので
両方いっぺんに行くと、
足が死にます( ̄▽ ̄;)
あと、トレジャーはありません。
でも松ぼっくりはもらえます。
私は、14時くらいに家に帰って、
その日一日何も出来ませんでした。
「もう……なんもしたくない……」って、
寝転がって携帯ゲームして過ごしちゃいました。てへっ☆
感想返し遅れ気味でごめんなさい。
ちゃんと拝見しておりますよ。
いつもありがとうございます。
というところで、
次回もよろしくお願い致します。
宮地拓海




