293話 最低な一日
昨夜は結局、「まだうっすら血がにじんでいるので、完全に血が止まるまでは包帯をしておきましょう」と言われ、特殊メイクが出来なかった。
自分で言った割に、ジネットは俺の腕の包帯を見る度につらそうな顔をしていた。……だからさっさと覆い隠したかったってのに。
なので、早朝にさっさと特殊メイクをしてしまおうと『傷跡』を作成した。
この『傷跡』を左腕に貼りつけて、皮膚との境界を分からなく加工すれば出来上がりだ。
切られた皮膚のめくれ方や、覗く傷口の赤み、痛々しさは実にリアルで見事の一言に尽きる。
さすが俺だ。ハリウッドだろうがNASAだろうが、俺ほどの技術を持った特殊メイクアーティストはいないだろう。
机に置いているのに生々しい傷跡にしか見えない。
一瞬「えっ、この机、生身!?」って思っちゃうレベルだ。
さてそれじゃあ腕に貼りつけようかなぁ~と思ったところで、部屋のドアがノックされた。
開けてみればジネットが立っていた。
「あの、窓から明かりが見えたもので、もう起きてらっしゃるのかなって」
そう言って、視線がすっと左腕の傷へと向かう。
そんなに心配しなくてもいいのに。
まぁ、ジネットは、マグダが怪我をした時も毎日ハラハラしてたしな。性分なのだろう。
「手伝いが必要か?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「下着を洗濯するなら、俺が見張りをしといてやるぞ」
「ヤシロさんです、見張られるのは」
もぅ……と、頬を膨らませて、ジネットはすぐに笑みを浮かべる。
「痛みで目が覚めたりしませんでしたか? 切り傷は時間が経ってから痛みが増しますから」
まぁ確かに、時間を追うごとにじんじんとした痛みは増していったが、今はもう平気だ。
いや、痛いよ? 痛いけど、泣くほどではない。それに、ピークももう過ぎた。
あとは、治るまでず~っと「地味に痛いなぁ……」ってちょっとイライラするだけだ。
「あ、アレが傷口ですか? えっと、特殊メイク、でしたっけ?」
机の上にのせてある『傷口』を見つけ、ジネットがぐぐっとつま先立ちになって覗き込む。
いや、見たいなら入ればいいのに。
あ、そうか。ジネットは俺の部屋に勝手に入らないんだよな。気にしなくてもいいのに。
「入るか?」
「いいんですか?」
「いいよ。見られて困る物もないし」
この街には紳士の嗜み図書も売ってないしな。
「では。お邪魔します」
少々緊張した面持ちで部屋へ入ってくるジネット。
他の部屋と同じだろうに。
特に俺の部屋は荷物が少ないし。
いや、マグダの部屋も荷物は少ないか。
客室なんかほとんど何もない。
……荷物少ないな、この家。
まぁ、マグダは、少しずつ大切な物が増えているようだけどな。
ちょっとした思い出の品や記念品を棚に並べるようになっている。
徐々にだが、女の子っぽくなっている気がする。
そのうち、部屋に入るなとか言い出すのかね。
それはちょっと楽しみなような、寂しいような。
「…………」
ふと気になることがあり、『傷跡』を見て「うわぁ、痛そうです……」とか言っているジネットに確認してみる。
「なぁ、ジネット。マグダにさ……『ヤシロの物と一緒に洗濯しないで』とか、言われてない?」
「え?」
いや、ほら、年頃の女子ってそういうもんらしいじゃん?
「特には、聞いていませんが?」
「ジネットは、嫌だったりしないか? 男物を洗濯するのとか」
「わたしは、割と好きですよ、お洗濯。綺麗になった洗濯物を『パンッ!』って干す時には、ちょっとした達成感を味わえますし」
とりあえず忌避感はないようなのでよかった。
だが、完全に好意に甘えてるよな。
ジネットがやってくれるというから、洗濯は任せっきりだ。
ここは、俺もちゃんとお返しをするべきだろう。
「なんなら、洗濯代わるぞ?」
「だっ、……ダメです」
ぷくっとほっぺたを膨らませて鼻をぷしっと押された。
「洗濯した後のもダメですのに、洗濯前なんて……絶対お見せできません」
どうやら、ジネットのパンツを洗わせろと言ったのだと思われたらしい。
いやいや、自分の分くらい自分で洗うぞって意味だったんだが……
「ヤシロさんにはいろいろ助けていただいていますし、それにわたし、家事は好きなんです。ですので、これまで通り任せてください」
そんな素敵な笑顔で言われちゃ、反論の余地もないな。
「それじゃ、お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、ご迷惑をおかけしてばかりですが、よろしくお願いします」
二人で頭を下げ合って、笑う。
なんだこの茶番。
でもまぁ、機会があればジネットのパンツを洗ってあげよう。そうしよう。あくまで親切心から。NO邪、YES親切。
「あの、これを腕に貼りつけるんですか?」
――と、俺が邪な気持ち100%でパンツのことを考えていると、ジネットが机の上の傷口を指さして聞いてくる。
「あぁ、こうして貼りつけて、あとは皮膚の色になじませると本物みたいに見えるだろ?」
「ぅあ……」
実際に腕に貼ってみせると、ジネットが眉を寄せて声を漏らした。
「あの、それを貼るのは、みなさんがいる前でにしてあげてくれませんか? その……いきなりその傷を見ると、きっとびっくりされると思うので」
俺としては、本物の傷を隠す意味でもさっさと貼りつけてしまいたいんだが……
「マグダさんが、怖がるといけませんから」
マグダは、自分が怪我をすることは恐れないのに、親しい者が怪我をすることを嫌がる。
ま、みんなそうなのかもしれないけれど、マグダはそれが顕著だ。
教会のガキどもの相手をする時も、怪我をしないようにさりげなくフォローしてやっているみたいだし。
「分かった。んじゃ、寄付の前にな」
「いえ、あの……子供たちも、この傷を見ると驚いてしまうと思うので……出来れば教会で」
ガキどもの前で貼りつけるのかよ……邪魔しないように見張っててくれよ。
「うぅ……痛そうです」
恐る恐る『傷口』に指を触れるジネット。
いや、これは乱暴に触っても痛くないから。偽物だから。
偽物だって分かっていてここまで怖がるのはジネットくらいだとは思うが……それでジネットが安心するならそうするか。
教会だから出来ないなんてことはないしな。
「分かった。じゃあ、飯の後でだな」
「はい。……今日はお手伝いは結構ですよ?」
「いや、これ偽物だからな? そんな大怪我してないから、俺」
「でも、怪我はされていますし」
「もうすっかり痛みもねぇよ」
……『すっかり』は嘘だけど。
「今日は、消化にいいものを用意しますね」
「それはさすがに関係ねぇわ!?」
腕を怪我しても、消化器官関係ないから!
病気じゃないから、俺!
やっぱり、ジネットはちょっと天然なんだろうな。
あ、訂正。かなり天然だ。
「……おはよぅ」
騒がしかったのか、マグダが起き出して俺の部屋へと入ってきた。
「おはようございます、マグダさん」
「悪い。うるさかったか?」
「……平気。ヤシロが痛みで起きたら助けに来るつもりだったから」
マグダは、普段は寝坊助なのに、緊急事態下では狩猟モードになるのだ。
夜間も神経を研ぎ澄まし、仮眠中でも微かな物音で目を覚ましたりする。
でも体はまだ子供なので、寝なくても平気という時間は短い。
今日も昼寝の時間を設けてやらないとな。
ジネットに起こされるのを毎朝楽しみにしているのに、自分から起きてくるなんてな。
昼寝の後、思いっきり甘やかされて起こされるといい。
「……ヤシロ」
ジネットが怖がるので腕から剥がして机に置いた『傷口』を見て、マグダが言う。
「……机が大怪我を」
「まだ寝ぼけてるのか?」
どこの世界に切られて血を流す机があるんだよ。
怖ぇよ、そんな呪われた机。やめてくれよ。今夜から一人で眠れなくなるだろ。
「これを、こうして腕に貼りつけるんだよ」
「……ぴぃっ」
『傷口』を腕に貼りつけてみせると、マグダが短く鳴いて、ジネットの腰にしがみついた。
そして、じぃっとジネットを見上げて訴えかけるように言う。
「……店長。ヤシロに消化のいいものを」
だから、病気じゃねぇし、この『傷口』は偽物だってのに……
なんとなく、どこに行っても同じような反応をされそうだったので、ジネットの言うとおり教会で、大勢の前で「偽物ですよ~」と見せつけながら装着することにした。
まったく、四十二区の住民はどいつもこいつも心配性で天然だらけなんだよなぁ……
「どうした、オオバ!? 一体誰に……はっ!? まさか、昨日の傷が悪化して!?」
寄付を終えて陽だまり亭へ戻ると、リカルドがやって来て一人で大騒ぎを始めた。
教会で合流したエステラにナタリア、ついでにロレッタまでもが「すーん」な顔でリカルドの一人お祭り騒ぎを見ている。
「ナタリア。説明してなかったのか?」
「話しかけて、知人だと思われたくありませんので」
そっかぁ、それは仕方ないなぁ。
……って、リカルドは俺が特殊メイクをするって話をした時この場にいたはずなんだがな。
あぁ、そうか。こいつは口頭で聞いた情報と、実際目で見た物が脳内で関連付けられない残念な男なのか。
「特殊メイクとかいうので偽の傷跡作るって言ってたなぁ……それよりその傷どうした!? 大怪我じゃん!?」って、視覚情報が強烈だと脳がバグを起こすらしい。
いや、こいつの脳がバグってるのはいつものことか。
「大丈夫だ! こんな傷、我が家の薬ですぐ治療してやるからな!」
とかなんとか、暑苦しい顔で言った後、何を思ったのか俺の体を力一杯抱きしめやがった。
「きっと治る! 心配すんな!」
ぎゃー、ちかーん!
「エステラ。なんとかしろ、幼馴染だろ?」
「ごめん。ボクは今、『巻き込まれたくない』って感情でいっぱいなんだ」
なんてヤツだ!?
頼りになりゃしない!
「落ち着けリカルド、そして離れろ、キモい」
ごつごつする筋肉の感触が不愉快でならない。
腹立たしい以外の感情が湧いてこない。
「特殊メイクするって言っておいただろうが」
「特殊……じゃあ、それは偽物なのか?」
「そう言ってんだろうが」
「……なんだ、そうか」
はぁ……っと大きく息を吐き、だらんと肩を下げる。
「それだけの傷なら、左腕に後遺症が残ってもおかしくないと思って……焦ったぜ」
狩人がこんな怪我を負えば、この先の人生を悲観して気弱になったりするものなのだろうか。
リカルドの反応がマジ過ぎた。
「ただまぁ、怪我をしたのは事実だ」
なんてことを、兄貴面全開で語り、不穏に近付いてきて、肩を組む。
「無理はするな。何かあったら、すぐ俺に言うんだぞ。いいな?」
「いいことあるか!」
肩に回された腕を「ぶーん!」って振り解いてやったわ。
「エステラ、除菌! 兄貴面した『アニ菌』を伝染された!」
「誰が『アニ菌』だ!?」
「あぁ、それ、不快だよねぇ」
「貴様も理解を示してんじゃねぇよ、エステラ!」
むしろ、お前が理解しろよ。こっちサイドの不評をよ。
「うわっ!? 何事ッスか、この濃ゆい空気?」
リカルドが「よかった、安心したぜ」なんて面倒見のいい兄貴感を振りまく中、ウーマロが陽だまり亭へやって来た。
お前、来るのが遅ぇよ。
さっきお前がこの場にいたなら、間違いなくウーマロバリアーでリカルドの攻撃を防いでいたというのに。
「汚れ役を俺に押しつけるなよ……」
「オイラの担当でもないんッスけど」
俺のげんなりした顔と、リカルドの無駄に暑苦しい顔を交互に見て、なんとなく状況を察したウーマロが「災難だったッスね」みたいな顔をこちらに向ける。
「ヤシロさんをここまで消耗させるなんて、意外とすごい人なんッスね。さすが四十一区の領主様ッス」
「え、なに? 憧れちゃう? あげようか?」
「いや、いらないッス」
「『オイラは、ヤシロさんさえいてくれればそれでいいッスから』やね! 捗るわぁ!」
「エステラー! 除菌ー!」
「ごめんヤシロ。『ソレ』に効く薬は、『ソレ』自身も生み出せてないんだよ」
「ちぃっ、使えねぇな『ソレ』!」
「なんやねんな、目の前で人のこと『ソレ』呼ばわりして」
お前の名前を口に出すと爛れそうなんでな。
「約束通り、傷口見に来たで~」
と、朝っぱらから外へ出てきたレジーナ。
こんなタイミングでの登場でなければ、もうちょっとくらいは歓迎してやれたというのに。
「でもその前に、『漢の三角関係』をもうしばらく観察させてもらうわな」
「そんなおぞましい関係は存在しねぇから黙るか今すぐ帰るかどっちか選択しろ。その穢れたメモ帳かお前本体のどっちかを燃やすぞ」
あぁ、なんかもう、朝から陽だまり亭の店内が濃い……
「お、薬剤師か。貴様の作った入浴剤は素晴らしいな。アレを素敵やんアベニューでも販売したいから量産体制を構築しておいてくれ」
「あ、すんまへんなぁ。ウチ、知らんメンズとは口利いたらアカンて言われとるんやわ」
「もはや知り合いだろう!? 俺、結構四十二区に来てるんだぞ!?」
「ホント、なんでこんなに頻繁に来るのさ。暇なの、お隣の領主さん」
「名前くらい呼べよ、エステラ!?」
「ボクも、父から見知らぬ男性と口を利かないように教育されているから」
「幼馴染だろうが!」
「その件に関しては持ち帰り検討し、追って文書で回答するよ」
「検討するまでもなく事実だよ!」
リカルドが美女に挟まれてハッスルしている。
ただ、どこからどう見てもモテてるようには見えないのがリカルドクオリティだな。
「はぇ~……これが特殊メイクかいな」
リカルドがエステラに意識を向けた隙に、レジーナが俺のところへ避難してきて、左腕の『傷跡』を眺めて嘆息する。
あ、俺は早々にリカルドから距離を取ったから。
近くにいるとアニ菌浴びまくっちゃって不快だし。
「よぅ出来とるなぁ。ほんまもんの傷みたいやわ」
「ここの皮膚をちょっとめくるとな……」
「うわっ! 血ぃが生々しい色しとんなぁ……ホンマ、なんでこんなもんに全力なん? もうちょっと適当でもえぇんちゃうん?」
やるからには全力だろう、普通。
嘘はな、嘘だと見破られたら終わりなんだよ。
「痛々しいなぁ。見てるこっちの乳首がむずむずするわ」
「妙なところをむずむずさせんじゃねぇよ」
背筋か尻だろ、むずむずさせるなら。
「あぁ、そうそうレジーナ」
今回は、珍しく、実に珍しく、『呼んでもいないリカルドが勝手にやって来た』わけではないのだ。
「素敵やんアベニュー用に入浴剤とシャンプーと石けんを作ることになりそうなんだが、レシピを頼めないか?」
「レシピ?」
「数が数だからな。お前に全部作らせるわけにはいかないんだよ。もちろん、レシピはウチの領主様――いや、お隣の頼れる領主様がきっちり買い取ってくれる」
「そうだね! 先輩領主であらせられるシーゲンターラー卿がきっちりと買い取ってくれるよ。ね、シーゲンターラー卿?」
「わざとらしいんだよ、貴様は!? ……まぁ、あの入浴剤はいい物だからな。レシピに金くらい出してやらんでもない」
「というわけで、四十区、四十一区、四十二区で製造販売できる権利をリカルドのお金で売ってくれないかい?」
「なんや、たくましゅうなったなぁ、微笑みの領主はんも」
今後、銭湯を始め個人宅に風呂が普及していく予定なので、入浴剤などは売れるようになるだろう。
ならば、四十二区内にも工場が欲しいところだ。わざわざ四十一区まで買いに行くのは面倒だし、レジーナに全部任せるわけにもいかないし。
レジーナは本業で必要な場面が多々あるからな。
雑用は他人に振るのがベストだ。
「レシピ言ぅたかて、ウチのメモ書きくらいしかあらへんで?」
「お前のメモ書きなら十分だ」
レジーナはかなり几帳面な性格で、分量や調合方法が事細かにびっしりと書かれたメモをいくつも持っている。
一度カレーの時に見せてもらったが、知識のある者が見れば再現が可能なくらい詳細に書かれている。
まぁ、素人にも分かるように翻訳してやる必要はあるだろうが、それくらいなら俺がやってもいい。
レジーナはちょっと天才肌過ぎて、一般人に理解できるように噛み砕くのが苦手という節がある。
自身の使う薬の材料に関してうまく説明できず、一般人から忌避されていたように。もっと一般人の目線に立てば簡単に解消されるようなことが、こいつは苦手なのだ。
きっと生まれながらに天才だったんだろうな。
凡人の思考が理解できないのだろう。
……もっとも、それは薬学に関してのみだけれども。
それ以外のことに関しては、凡人以下のポンコツだし。
天才の思考も凡人の思考も理解できる俺なら、その橋渡しが出来る。
金はきっちりもらうけどな。
「じゃ、リカルド。言い値でいいよな?」
「貴様が決めるな!? こっちが言う台詞だぞ、それは!?」
大丈夫だ。
絶対言い値で買わせてやるから。……逃げられると思うなよ?
「それからウーマロ。素敵やんアベニューをちょっと急いで完成させてくれ。ついでに、その支部みたいな、軽く体験できる場所をニュータウンに数棟頼む」
「頼む単位が当たり前に『棟』になってるッスよ!?」
いやほら、そういうのは多い方がいいから。
「大丈夫だよ、ウーマロ。素敵やんアベニューの宣伝にもなるそれらの支部は、広告費の名目でシーゲンターラー卿が支払ってくれるから!」
「こういう時だけ嬉しそうな顔で持ち上げてんじゃねぇよ、エステラ!? ……ちっ。なるべくまけろよ、トルベック」
エステラに頼まれたら断れないのか、お前は?
キャバ嬢に全力で貢ぐダメ男みたいだな。
どうしよう。陽だまり亭にリカルド専用のドンペリピンクでも置こうかな?
シャンパンタワーとか、毎月やらせてみるか。
「で、何を企んでやがるのか、聞かせてもらおうか?」
今回はこっちから呼び出したってこともあり、リカルドが嬉しそうに企みフェイスをさらしている。
新たな計画に関われるのが嬉しくて仕方ないようだ。
それじゃあ、四十一区の領主を巻き込んで悪巧みを始めるとしますかね。
「おい、オオバヤシロ。発行会に動きが……って、貴様どうしたのだ、その傷は!?」
リカルドを交えた話し合いをしていると、呼んでもいないゲラーシーがイネスを従えて陽だまり亭へとやって来た。
「まさか、あの後また一悶着あったのか!? なぜ私を呼ばぬ!? イネス、報復の準備をせよ! もはや、事は四十二区内で留まることではない!」
「まずは落ち着きましょう、ゲラーシー様」
「あぁ、なんと痛ましい……気をしっかり持つのだ、オオバヤシロ! 今度の敵は厄介ではあるが、私はそなたの味方でいてやるからな!」
などと、ゲラーシーが暑苦しい台詞を吐きながら、俺が座る席の隣まで来て、おもむろに俺の頭を抱きしめやがった。
「ちかーん!」
「うわぁ……野郎同士の抱擁ってのは、見苦しいもんだな」
「君も同類なんだよ、リカルド。ミスター・エーリンとは気が合うと思うから仲良くするといいよ。出来れば四十二区を飛ばして」
金の話が終わった途端、リカルドに対する態度が通常営業に戻ったエステラ。
お前、キャバ嬢だと二流だな。
その気にさせ過ぎた客に刺されないように気を付けろよ。
「ゲラーシー様。昨日、ナタリアさんより話を聞いていたはずです。コメツキ様のあの傷跡はフェイク。偽物です」
「これが偽物だと!?」
言いながら、俺の左腕を乱暴に持ち上げるゲラーシー。
イテテ!?
痛ぇっつの!
フェイクの下に本物の傷があるんだっつの! ジネットたちが心配するから言わないけど!
「まるで本物だな……」
傷口を指で押し広げて「うわあ……」と顔をしかめるゲラーシー。
こいつは本当に、四歳児みたいな思考回路だな。
気になる物があると、気が済むまで弄り倒しやがる。
「イネス。あと十年くらいすると、お前の下着をこっそり盗むようになるかもしれないから気を付けろよ」
「誰がするか、そのような破廉恥なマネ!?」
「気を付けます」
「そなたも真に受けるな、イネス!」
いやいや。
ちょっとアレなヤツは、女兄弟の下着にまで興味が向いてしまう時があるのだ。
中学の時のクラスメイトにもいたよ。姉貴のパンツを盗んで、バレて、両親と姉貴からぼっこぼこにされてたヤツが。ちょうど十四歳の頃だったなぁ。
「ゲラーシーの精神は、あと十年で思春期のピークを迎えるだろう」
「とうに経験済みだ、思春期など!」
「えっ!? まさか姉貴のパンツを!?」
「誰が盗むか、あんなオバハンのパンツなんぞ!」
「あらあら、ゲラーシー。大きな声だこと」
突然、マーゥルの声が聞こえて、ゲラーシーの顔が黒く染まる。
いやもう、青なんて生ぬるい色じゃない。土気色? いやいや、腐葉土も真っ青などす黒さだ。
「身内にも、敬意は払うものよ。失言をした自覚があるのなら、指摘される前に謝罪をして訂正なさい」
マーゥルがゲラーシーに微笑みかける。
あ。あの笑顔、直視すると魂抜かれるヤツだ。
マーゥル、日本の企業にいたらすっげぇパワハラ上司って言われてたんだろうなぁ。……よかった、アレの部下じゃなくて。
「た、確かに、失言がありました。深くお詫びいたします、姉上」
「そう。過ちを認めるのはいいことだわ。では、訂正なさい」
「はい。姉上のパンツにも興味を持ち、機会があれば拝借いたしたいと思いま――」
「それじゃないわ、訂正する箇所は。それから、あなたには、当面私の屋敷への接近を禁じます」
『オバハン』を訂正するんだよ、バカゲラーシー……
で、なんでマーゥルは俺を困ったような顔で見てるんだ?
俺のせいじゃねぇからな? ゲラーシーに素養があっただけだろう。
……開花させたのは、俺、か? いやまさか。そんなまさか、そんな、ははっ。
「まぁ、これが特殊メイクなのね? 痛そうだわぁ」
と言いながら、『傷口』の下にある本物の傷口をぐりっと押してくるマーゥル。
受けた辱めの咎を俺に押しつけやがった。
俺、関係ないのに!
ヤなオバハンだこと!
「イネスも見たかしら?」
「はい。拝見しました。昨日、ゲラーシー様が『偽の傷を作るというのはこんな感じに違いない』と、インクで頬に傷を描いておられたのですが、見当違いも甚だしくて鼻で笑いたい気分を今精一杯我慢しております」
「そんなことを考えていたのか、イネス!?」
「笑っていいわよ、イネス」
「では、失礼しまして。……ふっ、全然違うじゃん……しょっぼ」
「貴様、イネス!? 主に向かってその口の利き方はなんだ!?」
「マーゥル様の許可を得ましたもので」
「くぅ……オオバヤシロ! 貴様と会ってからイネスがおかしくなったのだ、責任を取れ!」
「自分で再教育しろよ……」
というか、どう見てもナタリアに悪影響を受けてんだろ、こいつは。
主を小馬鹿にする時の表情がそっくりだ。
「それで、ヤシぴっぴ。今度は何をするのかしら?」
興味深そうに、しれ~っと俺の前の席に陣取ったマーゥルが笑顔を向けてくる。
ざっくり説明はしたろう?
情報紙を廃刊に追い込むんだよ。
「そうそう。情報紙発行会に動きがあったわよ。どうやら、三十区や二十二区に本部を移転する計画は頓挫したみたいね。予想通りなのだけれど、土着の貴族の反発が大きかったようよ」
隣の区のことだ。喜々として情報収集をしていたのだろう。
「姉上!? それは私がオオバヤシロに伝えようと持ってきた情報ですよ!?」
「あら、ゲラーシー。情報というものは鮮度と速度が重要なのよ? 出すタイミングを逃しているようでは話にならないわ」
「ぐぬぬ……っ」
何をやってもマーゥルには勝てないゲラーシー。
お前はもっと基礎からやり直せ、いろいろと。
「シーゲンターラー卿とトルベック工務店の棟梁さんがいるということは、素敵やんアベニュー関連のお話ね?」
面子を見て当ててくるマーゥル。
これくらいはお手の物か。
「素敵やんアベニュー、まだ未完成だったけれど、面白くなりそうね。少し遠いのが玉に瑕だけれど」
「見に行ったのか?」
「えぇ。見違えるほど華やかになっていて驚いたわ」
情報が早いと言うより、フットワークが軽いな、このオバハン。
え、なに? その年齢でも「綺麗になりたい」とか、まだ思ってんの?
「シンディが通いたいって、うるさいのよ」
「焼け石に水って言葉を教えておいてやってくれ」
いや、マーゥルのとこのオバチャン給仕長シンディなら、仕事の合間に四十一区まで通っちまうかもしれないな……アグレッシブな主従だこと。
「発行会が動いたとこいうことは、間もなくこちらに接触してきそうですね。ナタリア、準備をしておいて」
「もうすでに」
エステラとナタリアが瞳を輝かせる。
発行会を四十二区へ誘致する。避難させてやると言うべきか、罠にはめてやると言うべきか。
エステラの瞳の輝きは、憎い相手を罠にかけられることへの喜びか、莫大な家賃収入に対する期待か――家賃収入だな。あいつはどこまでも貧乏性だからなぁ。
「ついでに、カワヤ工務店の人員もこっちに回すように通達しておいてくれ。ニュータウンにいろいろ作らせる」
「港はどうするんだい?」
「そっちはオマールとウーマロに任せて、それぞれの二番手をこっちにもらおう。ヤンボルドと組むことになるカワヤ工務店のナンバー2には申し訳ないが……」
「アイツ、見ず知らずの他人相手でも自重しないッスからねぇ……」
まぁ、不安は残るが、仕事はきちんとするだろう。大工としてのプライドは高めだし。
「あ、そうだ、ウーマロ。ルシアさんがね『発行会が使用したマンションに泊まるのは御免だから、大至急新たなマンションを建設するように』って。『出来れば四階建てで』だそうだよ」
「『月の揺り籠』級のものを大至急は無理ッスよ、さすがに!?」
この街一番の高級(笑)宿クラスのマンションを大至急か。
「ウーマロの知り合いって、無茶ぶりするヤツしかいないのか?」
「きっと、みんなヤシロさん基準で物事考える癖がついたんッスよ……」
こんなところでも俺が責められる。
俺、何もしてないのに。
ヤ~な感じぃ~。
「じゃ、ウーマロ。素敵やんアベニューの体験教室用の支部を三日でよろしく」
「それッスよ! 方々に悪影響与えてるのは!?」
「マグダ――」
「……ウーマロ、がんばっ」
「やるッス!」
「……君の態度も問題なんだと思うな、ボクは」
という感じで、むさい男たちの密度が上がりつつある陽だまり亭で、情報紙廃刊へ向けた作戦が動き始めた。
「お、おおばくんっ!? だ、だだだ、大丈夫なのかい!?」
「あぁ、いい! 動くな! ワシが医者に連れて行ってやる!」
遅れてやって来たデミリーが俺の全身を不安げにペタペタ触り、業を煮やした様子でハビエルが俺をお姫様抱っこする。
えぇい、降ろせ。
オッサンの分厚い胸板が不快で仕方ない!
「偽物だ、この『傷跡』は!」
「えっ!? これがか!? ……どう見ても本物だな」
「私にも見せてくれるかい、スチュアート?」
「ほれ、見てみろアンブローズ」
「いや、先に降ろせよ!」
お姫様抱っこのまま「ほら、ここ」じゃねぇんだよ!
俺は子猫か!?
「うふふ。ヤシロさん、大切にされていますね」
「オモチャにされてる気分だよ、俺は……」
ジネットが偉いさんがひしめく各テーブルを回ってお茶を出している。
しっかり料金を請求しとけよ。
こいつら、陽だまり亭を占拠してやがるからな。一般の客が遠慮して入ってきにくい空間にしやがって。貸し切り料金を別途請求してやろう。個別に。
「あ、こんにちわっす~。今日も盛況ですねぇ。あ、僕焼き鮭定食」
「オレ、カルボナーラ、ナーラ抜き」
「いや、ヤンボルドさん、それ結局なんなんっすか!?」
「この居並ぶ偉いさんたちを見ても、大工さんたちは普通に入ってくるですね」
「……この面子は陽だまり亭では見慣れた顔ぶれ。緊張も遠慮も必要ない面々」
「ちょっと待って、マグダ。その認識は改めようか」
グーズーヤとヤンボルドに続いてどやどやと大工が飯を食いにやって来る。
結構長く話し合いをしていたようで、気が付けば時刻は昼飯時になっていた。
「うはっ! 微笑みの領主様だ! ラッキー!」
「ぅきゃ~! こっち見た! まぶしいっ! その微笑み、100万ボルト!」
「エステラ、ここ飲食店だからさぁ……」
「ボクのせいじゃないよね!?」
「その前に、ウチの大工を不衛生みたいな扱いやめてくれるか?」
オマールが俺に文句を言ってくる。
エステラに言えばいいものを、俺に。
トルベック工務店とカワヤ工務店の大工たちはすっかり打ち解け、信頼し合い、一緒の釜の飯を食って過ごしてきたかのような連携を見せている。
誰とでもすぐ仲良くなれるとか、お前らはガキか。
「じゃ、ニュータウンに支部を三棟ほどよろしくな」
「「「「ちょっと待って!? なんのことかまったく話が見えないし、何を三棟!?」」」」
カワヤ工務店の大工たちは声を揃えて驚いているが、トルベック工務店は違う。「あぁ……またなんかそーゆー感じかぁ」みたいな諦め顔をしている連中がほとんどだ。さすがだな、トルベック工務店!
「港の工事、今日の進捗はどうッスか?」
今日は朝からこっちのミーティングに参加しているウーマロがヤンボルドたちに話を聞いている。
「ひ・み・ちゅ☆」
「グーズーヤ、説明するッス」
「問題ないですよ」
「おいおい。ナンバー2が完全無視されてるけど、アレが普通なのか?」
オマールが戸惑い顔を晒しているが、……慣れろ。アレがトルベック工務店のナンバー2だ。
「ゴロつきはどうッスか?」
「もう全然平気です。仮に変なのがやって来ても、グスターブって人が物凄く怖い顔で辺りを見回りしてるんで、何も出来ないと思いますよ」
マーシャの役に立ちたいグスターブが張り切っているらしい。
じゃあ、しばらくは大丈夫か。
「グーズーヤ。お前、オマールと協力して港の工事をまとめられるッスか?」
「えっ!? なんで僕なんですか!? 棟梁とヤンボルドさんは!?」
「素敵やんアベニューの完成を急がなきゃならなくなったッスから、ヤンボルドは向こうの陣頭指揮を任せるッス」
「あぁ、女子受けはウチで一番ですもんね……」
「俺、女子力に、自信、ある」
あるのかよ。
まぁ、お前のデザインは女子受けするけど。
「オイラはニュータウンの再開発を進めるッス」
「え、それって棟梁がやらなきゃいけないんですか? 後回しでも……」
「ルシア様に『月の揺り籠』級のマンションを求められてるんッスよ!? オイラ以外の誰がやるんッスか!?」
「あぁ……ルシア様、ヤシロさんで薄めないと単体だと強烈ですもんねぇ……」
ルシア、俺のいないところでどんなことしてんだよ。
……で、俺で薄めるってなんだよ?
ルシア・オレか。……誰が牛乳だ。
「四階建ては後日でいいぞ。とりあえず支部を三棟でいい」
「ヤシロさん、さらっと『でいい』とか言ってますけど、鬼ですからね、その発言?」
グーズーヤがなんか言っているが、所詮グーズーヤなので気にしない。
ウーマロが出来ると言えば出来るのだ。
もしそれでも反論があるようなら……
「あれ、グーズーヤ。なんか声変じゃないか?」
「ぎゃー! ガスライティング!? ヤシロさんのはえげつないですから勘弁してください!」
何がえげつないんだよ、失敬な。
……そういえば、ベッコを最近見てないけど……あいつ、元気、だよな?
あれ? なんか不安になってきた……
「お邪魔するでござる。頼まれていた似顔絵が出来た故、確認をお願いしたく参上つかまつったでござるよ」
「なんだよ、ベッコ! 元気なのかよ!?」
「拙者、何かしたでござるか!? すこぶる元気でござるけど、怒られる理由が分からぬでござるよ!?」
めっちゃ元気そうだった。
もう一回二回くらいガスライティングをしかけても平気そうだ。
「まぁ、本当にそっくりねぇ。すごい技術だわ」
ベッコの似顔絵を見て、マーゥルが感心したように言う。
ベッコには、例の首を掻き切られた(と、思われている)長髪のゴロつきの似顔絵を描いてもらったのだ。
……あれ? マーゥル、いつ見たのあいつの顔?
あいつ今、牢獄だよな? 見に行ったの? どんだけ情報に貪欲なの?
「じゃあ、これはモコカに渡して、うまく情報紙へ提供させるわね」
「えぇ。お願いします」
被害者(と、思われている長髪のゴロつき)の似顔絵は、うまいこと情報紙発行会の手に渡るだろう。
被害者の似顔絵があると、一層凄惨さを演出できるからな。
「ややっ!? やややっ!?」
マーゥルたちのやり取りを見ていると、ベッコが俺の前へ詰め寄ってきた。
暑苦しい。
「どうしたでござるかヤシロ氏!? 酷い怪我でござる! レジーナ氏のもとへお連れするでござる!」
「落ち着け! 背負おうとするな!」
あぁ、もう! 今日、なんだかオッサンとの触れ合いが多い!
イライラする!
「ごきげんよう、諸君! 四十区、いや、オールブルームで随一のお洒落カッフェ~、『ラグジュアリー』のオーナーシェフにして、ヤシロ君のバディ、私だよ」
俺のイライラがマックスになりかけた時、イラッとする声を発しながらポンペーオが陽だまり亭にやって来た。……呼んでねぇよ。
「そろそろ陽だまり亭に新作のケーキが登場している頃合いだと踏んでね、教わりに来てあげた次第だ」
来んじゃねぇよ。
今それどころじゃねぇんだよ。
つか、教えねぇよ。
「ん!? んんん!? どーしたんだい、ベストフレンド!? 腕はシェフの命じゃないか!? その腕を怪我するなんて!? オーマイ、ディアフレンド……」
と、泣きながらハグされて、イライラがマックスを振り切った。
「ポンペーオ。新しいスイーツ教えてやるから、今から一週間四十二区で支店出せ。大丈夫。どっちの区の領主もここにいるから許可はすぐ下りる。……俺がいいと言うまで、四十区へ帰れると思うなよ……?」
「な、なんだか知らないけれど、君の腕の代わりを出来るのは私だけだということだね? 分かった、協力しよう、マイブラザー!」
くそぅ、腹立つほどポジティブだ!
「オオバ君はアレだね……人たらしだね」
デミリーが、なんか悟ったような顔でうんうん頷いていたが無視を決め込む。
オッサンどもに懐かれても嬉しくないっつーの!
昨日と打って変わって……
今日という日を総括すれば、最低な一日だったと言えるだろう。……けっ。
あとがき
お姫様抱っこも、オッサンがメンズを抱えていると暑苦しい……
まいど、宮地さんです。
なぜ私はこんな話を書いてしまったのでしょうか……
いや、きっと前回、ヤシロがあまりにいい思いをしていたから
( ・`д・´)ノ 成敗!
せねばと思ってしまったのでしょう。
これでもかと暑苦しいオッサンたちを詰め込んでみました。
ウェンディの父、元祖半裸タイツマンことチボーとか、ベッコの父とかセロンの父とか
そこら辺まで出してやろうかと思っちゃいましたがメンドイのでやめました。
あと、文字数を食いまくるケアリー兄弟も、今回はパスで。
……あ、ケアリー兄弟はアリクイ兄弟の本名です。
スタイリッシュゼノビオスとか、いつか再び出てくるんでしょうかね?
もはや、何がスタイリッシュだったのか朧気にも覚えていませんが。
まぁ、機会があれば出てくるでしょう。
さて、
田舎生まれ田舎育ち大都会在住の宮地さんですが、(ふぅ、今日もこの街は眠らないぜ☆)
割かし虫は平気なんです。
さすがにムカデを素手でゲットだぜ! とかは出来ませんが、
家に虫が飛び込んできて、「いやー!」って大騒ぎしたり
虫が服について「ぎゃー! 取って取って取って!」と暴れ回ったりはしません。
蜘蛛とかコガネムシを室内で見つけたら、摘まんで窓の外へ「ぺい!」っと出来るくらいに虫は平気なんです。
素手でいけないヤツはティッシュ使いますが。
そんな中、
宮地さんを怖がらせる虫がいくつかいるんです。
基本的に害のあるものばかりなのですが、
毛虫とかムカデとか。
そういうのじゃなくて苦手な虫が、
カマキリ。
画像を見て「うわぁ……」ってなることはないんですが、
素手で捕まえるのはちょっと躊躇う……くらいには怖かったり。
小学校に入る前、家の前に茶色いカマキリがいまして、
めっちゃカマを持ち上げて威嚇してくるんです。
当然、世界の『可愛い』をぎゅっと詰め込んでこの世に誕生したような幼い宮地さんは泣きますよね。それはもう可愛く泣きますよね。
そしたら、母親がですね
母「大丈夫、噛まないから。触ってごらん」
って。
まぁ、いくらカマを持っていようとしょせんは虫です。
こっちが本気になれば一捻りですよ。
圧倒的強者の余裕を持って、恐る恐るカマキリに指を近付けたら――
指にカマキリ「がしー!」
カマで指を「がっちり!」
そしてそのまま流れるように「ばくー!」
宮地「噛むじゃん!? 今めっちゃ噛まれてるじゃん!?」
もう、ギャン泣きですよね。
カマキリの速いこと速いこと。
カマキリ「ふっ、どこを見ている――そいつは残像だ」
くらい言いそうなくらい早かったですね。
なんでも、カマキリって『同じ大きさだったら』生き物最強と言われているのだとか。
すべての動物を同じ大きさにして、最大のポテンシャルを発揮できる状況下に置いたら、カマキリは百獣の王にも勝ててしまうのだとか。
カマキリ、強ぇ……
と、実はこれまでさほどカマキリにはいい思い出がなく、
異世界詐欺師でもハムっ子をいじめるゴロつきとして登場したカマキリなのですが……
先日、無料動画サイトで
あ、いえ、エロいサイトではなく、健全なサイトですよ
なんで信じてくれないんですか!? 普通のサイトで……だから、そんな有名なエロいサイトじゃなくて!
あぁ、もう! ユーチューブですよ、ユーチューブ!
ユーチューブで、カマキリが可愛いって言っておられる方がおりまして、
たくさん動物を飼われている動物系ユーチューバーさんなんですが、
その方が大カマキリも飼っていると。
……可愛い、のか?
と、疑問に思っていたところ、
たまたまお勧め動画の中に、カマキリの一生を記録した動画がありまして、
なんでも赤ちゃんカマキリを捕まえて死んじゃうまでの全記録だそうで
じゃあ、ちょっと見てみるか~
と、気軽に動画を再生したのですが――
カマキリ、可愛ぇ~!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
いや、カマキリめっちゃ可愛いですね!?
エサとか必死に食べて、エサが自分より大きいと怖がったりして、
その赤ちゃんカマキリが脱皮を重ねて少しずつ大きくなって、
トラブルとか発育障害とかが発生してもたくましく生きて、
ちゃんと産卵までして、
そして、飼い主さんに見守られ、静かに息を引き取る――
ぅゎぁぁああああああ!
カマキリが死んだぁぁああ!(>△<。)
号泣しましたね。
初めてかもしれないです、ユーチューブで号泣。
いや、最初に言ってるんですよ?
一緒に過ごした○○○日間の記録って。何日か忘れましたけども、
そもそもカマキリは冬を越せないのも知ってますし。
でもね!
でもですね!
生きてほしかった!
いや、あのカマキリはいつまでも私の心の中で生き続けます!
めちゃ可愛かった……
正直、三日くらい引き摺りましたしね。
仕事しててもため息ついちゃったりして。
同僚「どした?」
宮地「うん……人生って、儚いよね」
同僚「……またおっぱいの話?」
宮地「違うけど!?」
……ちっ、
変な信頼寄せやがって……ぶつぶつ。
とにかく、
カマキリが可愛いこともさることながら、
ユーチューバーさん(うぷ主とか言うんですか? それはちょっと違う感じ? ちょっとネットのこととかよく分かってないですが、折に触れめっちゃ知ったかぶりしますけどもご容赦くださいませ)
まぁ、飼い主さんですね。その方がとにかく温かい方で
お人柄が動画や編集、文章に滲み出していて、
…………泣きますって。
ふつ~に最初から最後まで見てしまったんですが、
終わってからバーを見たら1時間18分もありました!?
Σ(・ω・ノ)ノ!
10分越えたらちょっと敬遠しがちな私が、
普通に78分も見てました。
78分って、カセットテープか!?
あぁ、いや、あれは74分でしたか。
カセットテープってね、60分、90分、120分といろいろ種類があったんですが、
74分っていうちゅーと半端な長さの物もあったんですよ。
なんで74分なんだろ~って思ってたら、
CDが最大で74分まで入るらしいですね。それに合わせたそうです。
じゃあ、なんでCDは最大74分なんだ~っていうと、
年末年始でお馴染みの『第九』がまるっと収録できるようになんですって。
へぇ~。
カマキリ可愛っ。
あ、すみません。
もう、今は何やってもカマキリが可愛く思えて。
きっとそのうち、いいカマキリ人族が出てきますね、これは。
めっちゃ美少女。
でも両腕がカマ。
……怖っ!?
あと、カマキリのメスは『オトナな男女のイチャコラフィーバー』の後――え、『交尾』は伏せなくてもOKなんですか? やだ、ヤラシイ!?(*ノωノ)
では、カマキリのメスは交尾の後オスを食べちゃうそうで、
美少女カマキリ人族(両腕はカマ)…………やっぱり怖っ!?
そんな人が出てくるのか、
それまでに宮地さんのカマキリ熱が冷めれるのが先か!?
たぶん熱が冷めるのが先っぽい!
というわけで、
随分と大人になってから、思いがけないところで幼少期の苦手を克服しちゃったというお話でした。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




