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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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無添加84話 お肉の下拵え

「も~ぅ、酷いなぁエステラは☆ ドア閉めちゃうんだもんなぁ~☆ このこのぉ」

「人のほっぺたを無遠慮に突っつかないように」


 陽だまり亭の中へ入り、マーシャが水槽の水をちゃぷちゃぷ波立たせてエステラのほっぺたをぷしぷし突っついている。


 マーシャの水槽を押していたのはギルベルタだった。

 なんでも、目が覚めたルシアがイメルダの家へ遊びに行ったところ、そこにマーシャがいて大はしゃぎ――と、朝っぱらから面倒くささ目白押しな状況だったようだ。

 よかったな、イメルダ。避難してきておいて。

 帰ったら、家の給仕たちを労ってやれよ?

 エステラんとこみたいに酒で箍が外れて大暴れ、みたいな状況になりたくなかったらな。


「おはよう、友達のヤシロ、友達のジネット。そして、微笑みの領主と陽だまり亭のみんな」

「出迎えが遅いぞ、カタクチイワシ。貴様など、デミリーの後を追え」

「それは断る」


 俺の毛根は無敵だ。……と、信じている。


 当然のような顔で椅子に腰掛けているルシア。

 なんかすっかり馴染んでいるみたいな顔だけどさ……お前、三十五区の領主で、本来ならよほどのことでもない限り四十二区になんか来ないはずの人間なんだからな?

 なに常連客みたいな顔してんの?


「ルシアもマーシャも、帰らなくていいのか? 曲がりなりにも責任者だろ?」

「ウチはしばらく、休漁日だから~☆」

「ウチも休領日だ」

「いや、ルシアさん……それはないです」


 領が休みってなんだよ。

 行政が滞ってるだけじゃねぇか、その状態。

 領主に休みなんかないんだよ。領民のためにきりきり働け。


「みんな理解している、三十五区の領民も、館の給仕たちも」


 ルシアに代わり、ギルベルタが弁明を始める。


「一層行政が滞る、遊びに行きたくてうずうずしているルシア様がいると」

「このお荷物領主!」

「失敬だぞ、カタクチイワシ!」


 事実を口にすることの何が失敬だ。

 ギルベルタが一人で四十二区に来ちゃって大慌てしていた頃が霞むくらいに頻繁に自区を空けやがって。この不良領主が。


「私は、私がいなくとも円滑に進む施政方法を編み出し実践しているのだ! 半年くらい留守にしても三十五区は揺るがん!」

「じゃあもう、お前いらねぇじゃん!」


 そりゃ、領主がいないだけで破綻するような街作りは問題だが……いなきゃいないでなんとかなっちまう領主もどうかと思うぞ。


「なに、今日中には帰る。明日は二十四区と会談の予定があるからな」

「ドニスと? 大豆でも買うのか?」

「いや、ホワイトヘッドが海藻や魚介から麹が作れないか研究をしたいそうでな」

「そりゃまた、美味そうな計画だな」


 海藻や魚介にはうま味成分がこれでもかと含まれているからなぁ。

 麹に囚われず、うま味成分の抽出でも研究してくれればありがたいんだが。


「貴様が海藻を食材に使用していると聞いてな」


 ルシアの言葉に、マーシャがひらひらと手を振る。

 マーシャからの情報らしい。そういえば、かつては網に絡まった海藻を『ゴミ』として処分してたんだっけな。


「現在、三十六区で味付け海苔の生産が始まっている。おにぎりに巻くと、大層な美味になるらしいな? ん?」


「なぜ教えなかった?」と言わんばかりの恨みがましい目で俺を睨んでくるルシア。

 むしろ逆に、なんで俺が無償で情報提供しなきゃいけねぇんだよ。情報が欲しけりゃ見返りを寄越せ。


「そうだ、カタクチイワシ。今度三十五区へ招待してやろう。出来たばかりの海苔を振る舞ってやるぞ? 僥倖だろう?」

「なんで新製品の味見を俺がしなきゃいけないんだよ。自分のとこでやれ」

「私はやがて四十二区の者に嫁ぐ身だ! 協力をしろ!」

「どっちもお断りだよ!」

「そういえばハム摩呂たんは!? 陽だまり亭のお手伝いのはずであろう?」

「今日は昨日のイベント会場のバラシだよ。簡易厨房を存分に使わせてもらったからな、人手を貸したんだ」

「ちぃ! 空気の読めぬ男め!」


 お前の役に立ってやるつもりなど毛頭ない。


「で、ヤシロ君は今から何するの~?」

「ん? あぁ、ちょっと肉の下準備をな」


 マーシャが肉の塊を指差して、わくわくとした表情を見せる。

 マーシャと肉って、あんまり見ない組み合わせだけど、食うのかな?


「そういえば、面倒な下処理があると言っていた、友達のヤシロは。手伝えるか、私に?」

「ギルベルタが手伝ってくれるなら大助かりだが……それを頼むとルシアがついてくるからなぁ……」

「何を言う、カタクチイワシ! ギルベルタの貸し出し有無にかかわらず、私の参加は確定している。どうせジネぷーの美味しい料理を振る舞うのだろう? 食せず帰れるものか」

「夕方からなんだよ、食うのは。下処理に時間がかかるからな」

「なんということだ……」


 明日予定が入っており、さすがに今日は遅くまで残れないルシア。

 渋々文句を言いなが帰っていくのだろう。


「今晩も泊まりか……」

「帰れよ!」

「呼べば来るぞ、ドニス・ドナーティは?」

「そう思う、私も。きっと来る、四十二区にならば」

「いや、二十九区を経由させれば本気で来そうだけども……お前らは帰れよ」


 これ以上こいつらを四十二区に滞在させると、本気で住み着きかねない。

 なんとしても追い返さねば。


「海苔のアドバイスに行ってやるから大人しく帰れ。……どうせ、ハロウィン当日も来る気だろ?」

「無論だ。私に内緒でハム摩呂たんやミリィたんの仮装を堪能しようなど、万死に値する無礼だぞ」


 んなわきゃない。

 つか、やっぱ来る気満々か。


「まぁ、カタクチイワシが海苔のアドバイスを自主的に申し出て、その上ハロウィン当日に私を盛大に持て成したいと言うのであれば、こちらとしてもそれを受けてやる準備はあるぞ」

「なんで接待が追加されてんだよ……」

「ギルベルタの仮装が見たくないのか?」

「……はぁ。ジネット、たぶんこいつら前日から来るから、客室空けといてやってくれ」

「お泊まりか、友達のヤシロ!?」

「ギルベルタだけな。ルシア様ほどの高貴な御方をお泊め出来るような歓待はここでは無理だからなぁ~」

「ふん。殊勝なことを言ったつもりか」


 ルシアが俺の喉を突く。

 やめろ、お前! 喉は危険なんだぞ! 今一瞬、マジで「うっ!」ってなったわ!


「こう見えても私はなかなか融通の利く領主でな。宿泊先に特定のこだわりなど持ち合わせてはおらぬのだ」


 やれ、天蓋付きのベッドじゃなきゃやだーとか、内装が可愛くないとやだーとか、そういう不満は言わないらしい。

 言えばいいのに。で、「こんなとこ泊まれるか!」って帰ればいいのに。


「贅沢は言わぬ。ただ。ハム摩呂たんが添い寝してくれさえすれば」

「すみません、ルシアさん。この度四十二区では入場制限の条例を発布しようと思っていまして、ちょっとお招き出来ないかもしれません」


 エステラが全力でルシアを拒否している。

 自区の領民の危機だもんな。頑張れよ、領主様。


「ふん! 冗談だ」


 絶対嘘だ。

 目がマジだったぞ。


「ジネぷーの大切な店だ。文句の付けようもない。ジネぷーが許してくれるのであれば、喜んで世話になろう」

「はい。少々古い佇まいで恐縮ですが、来てくださるなら大歓迎致します」

「あはぁ! 可愛い! その爆乳、実は獣特徴なんじゃないかなぁ!?」

「出入り禁止にしますよ、ルシアさん」

「その発想はなかったな! これは是非検証してみなければ!」

「追い出すよ、ヤシロ?」

「もう。お二人とも、懺悔してください」


 俺とルシアに、ジネットが頬を膨らませて怒る。


「ぷっ……三十五区の領主が、変態薬剤師と同列の扱いですわ」


 イメルダが悪ぅ~い笑みを浮かべている。

 確かに、ジネットに懺悔しろと言われる女子はレジーナくらいだもんな。

 レジーナと同列か……ぷぷー!


「ヤシロさん並みですわね、ルシアさん」

「言葉が過ぎるぞ、イメルダ先生!」

「ヤシロになりたくなければ自制するべきですよ、ルシアさん」

「名誉に関わるもんね~☆」

「お前ら、寄ってたかってうるせぇよ」


 こいつらに構っていると仕込みをする前に日が暮れてしまう。

 さっさとルシアを追い返して、肉の下拵えに取りかかろう。


「じゃあバルバラ。ちょっと手伝え……あれ? バルバラは?」

「……バルバラなら、あそこ」


 マグダが指差す先、カウンターの陰にバルバラが身を潜めて震えていた。

 ……何やってんだよ、あいつは?


「おい、バルバラ」

「え、英雄! そ、そいつ、そいつ、怖い話するヤツだ! 追い出してくれ!」


 あぁ~、そうか。

 オバケコンペの中でも群を抜いて怖い話をしたのがこいつらだからな。バルバラは苦手意識を持ってしまったのか。


「こら、サル人族の少女よ」


 カウンターに隠れるバルバラに、ルシアが近付いていく。


「人を見て怯えるとは失敬ではないか。貴族として敬えとは言わぬが、せめて人として相手の尊厳を傷付けるような態度は取るべきではないのではないか?」

「ぎゃー! 近付いてきたー!」


 ルシアをかわして、テーブルを蹴って、俺の背後へと飛び込んできたバルバラ。

 こら、テーブル踏むんじゃねぇよ!


「バルバラ……」

「ご、ごごご、ごめんって! ごめんなさい! あとでめっちゃ拭くから!」


 一応、何を怒られたかは分かっているようだ。

 まぁ、ちょっとは進歩してるのかな、こいつも。


「ルシア。このように怖がっているヤツがいるから、今日はもう帰れ。肉は今度食わせてやるから」


 どうせ、そう遠くないうちに再来するんだからな。

 ……と、さっさと帰るように促したのに。


「ギルベルタ。最長でどれくらいの滞在が可能だ?」

「おそらく平気、月が真上を過ぎるくらいまでは。明日、しんどいけれど、朝起きるのが」

「そうか。それは仕方ないが、甘受するしかあるまい」


 ルシアの目が妖しく、挑発的に光った。

 ……あ、居座る気だ。


「カタクチイワシ。今日、今晩、まさにその肉を食して帰ることに決まったぞ」

「なに決めてんだよ。帰れよ。明日に差し支えるぞ」

「私は領主だ。会談中に粗相をするようなことはない。たとえ体調が万全でなかろうともな」

「プロ意識があるなら、当日に備えて万全を期せよ」


 どこに向かってる、お前のプロ意識?

 発揮する場所、そこじゃないだろう。


 一体、何を考えているのやら……


「以前より、見境なく美女にちょっかいをかける男だとは思っていたのだが……」


 ルシアの手が、俺の頭を掴む。

 そして、俺の顔を間近から覗き込んでくる。


「こうまでべたべたひっつく女は、これまでにはいなかったのではないか? ん? まさか恋仲にあるなどと申したりはしないだろうな? 貴様、カタクチイワシのクセに調子に乗っているのではないか?」


 なんだなんだ?

 何に因縁を付けられてるんだ、俺は?

 べたべたも何も、お前らが怖がらせるからバルバラがこうなったんだろうが。俺はむしろ被害者だ。


「妬いている、ルシア様は、ヤキモチを」

「ぬぁあ!? それは違うぞ、ギルベルタ! だ、誰がカタクチイワシなんぞに! 私はただ、カタクチイワシの毒牙にかかりそうな不憫な美少女を救うためにだな……! えぇい、こっちを見るなカタクチイワシ!」

「テメェが俺の頭を拘束してんだろうが」


 なら手を離せ。


 ルシアの手を振り解き、エステラとジネットにバルバラを引き剥がしてもらい、一息吐く。

 毒牙だのべたべたしてるだの、勘違いも甚だしい。

 ……で、そこで拗ねるなよ、ルシア。お前がそういう態度とか顔をするから、妙な噂が……


「ヤシロさん……すごいなぁ」


 モリー。その呟きの意味するとこはなんだ?

 口には出すな?

 口に出すと、とばっちりが全部パーシーに向かうことになるぞ。

 まぁ、俺はそれでも構わないのだが……とりあえず黙っておくといいと思うぞ。


「ルシア姉~、よ~く見てみなよぉ~☆ その娘、運動会の時のあの娘だよぉ」

「運動会の時の……? あぁ! あの、恋の芽生え娘か!」

「こ、こいのめばえむすめ!? って、アーシの、こと、か?」

「うむ! 人が恋に落ちる瞬間というのはなんとも美しいものだと痛感したぞ」

「うんうん。可愛かったよねぇ~☆」

「そ、そんな……可愛いとか…………あ、ありえねーし!」

「あらあら~? ちょっと彼の口調が移っちゃってな~い?☆」

「むきゅう……」

「よし、連れて帰ろう!」

「自重してほしい、ルシア様。そろそろ出る、手が」


 バルバラから引っぺがされるルシア。

 この人、三十五区の領主なんだよなぁ。

 俺が言うのもなんだけど、扱い、酷いもんだな。


「おねーしゃ、つれてっちゃ、めー!」

「ぐっはぁ可愛い! なんだこの可愛い生き物は!? 妖精か!? ミリィたんの親族か!?」

「バルバラの妹だ」

「よし、セットでもらおう!」

「出す、手を、私は!」

「ちょっと待ってです! 店内で流血沙汰はやめてです!」


 ロレッタがルシアの命を守り、マグダがテレサを変質者から守っている。

 なぁ、もうホント帰ってくれよ……下拵えしたいんだわぁ。


「えっとじゃあ……バルバラを生け贄にしてルシアを黙らせるとして、ギルベルタ、ちょっと手伝ってくれ」

「ちょっと待てよ、英雄! まだちょっと怖いから一緒にいてよぅ!」


 えぇい、甘えるな。

 いまだにお前の甘えにはちょっと鳥肌立つんだよ。慣れてなさ過ぎて。


「私が手伝ってやってもいいぞ? 貴様に出来ることなら、まず間違いなく私にも出来るであろうからな」

「そうかい。んじゃあ、モツの下処理を頼むぜ」


 言いながら、肉の塊とは別の袋に詰め込んだモツを引きずり出す。



 でろ~ん。



 と、乳白色や薄ピンクの内臓が姿を現す。

 マーシャは「きゃっ!」と可愛らしい悲鳴を上げ、ギルベルタは一瞬肩を震わせ、マグダは無表情で見つめているが耳がぺたーんと寝ていて、ロレッタが「うわっ、グロいです!?」と率直な意見を述べて、イメルダが眉間にシワを寄せ、バルバラが「ぎゃー!」と分かりやすく騒いで、テレサが「おねーしゃ、だーじょーぶ、ょ?」とバルバラに抱きついて、モリーが両手で顔を覆い隠した。

 一様に、この見た目は受け付けないらしい。


 で、反応がなかったルシアはというと。


「……ふぅ」

「倒れた!?」

「意外と苦手、ルシア様は、スプラッター系が」


 鉄のメンタルを持つ無敵の女領主にも苦手なものがあったらしい。

 とりあえず、騒がしいのが大人しくなったのでフロアの端っこの席に座らせておく。


 そんな間にも、ギルベルタはモツの見た目を克服したようで、興味深そうな視線で覗き込んでいた。

 テレサも興味があるのか、近付いて観察している。

 マーシャは忌避感を見せてはいないが、近付こうとはしていない。

 エステラも苦笑いだ。

 ロレッタは「キモいですね~、うわ~、ぐちゃぐちゃです~」とか言いながらも普通に観察している。

 一方のマグダはフロアの壁際でこちらに背を向けていた。


「マグダ。お前魔獣の解体とかしたことなかったっけ?」

「……解体はあまりしない。狩猟ギルドに依頼しているから」

「そっか。じゃあこういうのを見るのは苦手なのか」

「……見るのは平気。ただ……そこは臭くて美味しくない。見ているだけであの不快感が蘇ってくる」


 見るの、平気じゃねぇじゃねぇか。

 もっとも、気持ち悪いって感じじゃなくて、嫌いな食べ物を見るような感じで見たくないようだが。


 そっか。『赤モヤ』状態のマグダは生で魔獣を食うからな。内臓系は臭みが酷く美味しくは感じなかったのだろう。


 とりあえず、モツの見た目に忌避感を感じていない――下処理で触るのに抵抗がなさそうなのは、ジネットとギルベルタくらいか。

 ん? イメルダ?

 言う必要もないだろう。あいつは視界にすら入れようとしていない。


「あの、ヤシロさん……これを、食べるんですか?」


 モリーが青い顔で尋ねてくる。


「これって、内臓……ですよね?」

「おう、牛のな」

「…………お肉を食べた方が美味しいんじゃないかと?」


 もちろん肉も食うけどさ。


「モツは肉よりもローカロリーでビタミンとミネラルが豊富なんだ。コラーゲンも含まれているし、美容にはいいんだぞ」


 もっとも、プリン体も多いからほどほどにしないといけないけどな。


「食感はこりこりしていて、ふわっ、とろっとしていて、下処理を正しくしておけば臭みもなくなる。美味いぞ、モツは」


 焼いてもいいし、鍋にしてもいい。

 土手焼きなんか作ったら、ハビエルがまた泣いて喜ぶだろうな。


「亜鉛も豊富だから、テレサは頑張って食べてみような」

「ぅ、ぅん。たべて、みゆ」


 ちょっとおっかなびっくりという風ではあるが、テレサは前向きだ。

 バルバラは再びカウンターの陰に入り込んで顔を伏せてぷるぷる震えている。

 料理しないヤツは、滅多に目にしないもんな、内臓。


「じゃあ、ジネットとギルベルタ。下拵えを手伝ってくれるか?」

「はい」

「やってみたい思う、私は! 手伝いたい、友達のヤシロと、友達のジネットを!」

「ロレッタはタレの準備の手伝いを、マグダは肉のカットを手伝ってくれ」

「任せてです!」

「……肉ならば、切れる」


 というわけで、厨房へ向かうメンバーはこんなもんか。


「じゃ、エステラとイメルダでルシアとマーシャの相手をよろしく!」

「ボクも手伝うよ!」

「ワタクシも行きますわ!」

「もぉ~、酷いなぁ☆ 今は飲んでないから平気だよぉ~☆」

「おほほほ、ご冗談がお好きなんですのね、マーシャさん」

「そうだよね……マーシャは外泊とかしてテンションが上がってると素面でも面倒くさいんだよね……」

「随分な言い草だなぁ、ぷんぷん☆」

「……マーシャさんの可愛らしさって、胃にもたれますわよね」

「あ、分かる、それ」


 なんだか、エステラとイメルダの仲がどんどんよくなっていく。

 凄い深いところで理解し合ってないかあいつら? もう親友だろう。


「あ、あの! アーシも、手伝う! そ、その……英雄の役に、立ちたい、から……」


 と、ぷるぷる震える足をなんとか踏ん張ってバルバラが言う。

 いや、無理しなくていいんだけど……


「だから、怖くなったら抱きつかせて!」

「抱きつかなくて済むように怖さ取り除いてやるよ……」


 日光に当たれば、肌を覆う薄ら寒さも掻き消えて怖さも半減すると思うけどな。

 とりあえず、火の番でもさせておけば薄ら寒さを忘れるだろう。

 で、あとはユニークオバケの話でもしてやればなんとかなるだろう。


「あーしも、おてちゅだぃ、すゅ!」

「大丈夫か、テレサ?」

「だーじょーぶ!」

「では、厨房は刃物や火があるので、わたしと一緒にいてくださいね」

「ぁい!」


 テレサはジネットと手を繋いで、マグダとロレッタに肉を運んでもらって、モツは俺が持って、厨房へと入る。

 あぁ、ようやく下拵えが出来る。


「ジネット。モツの下処理が終わったら、いくつかはタレに漬け込むからな」

「漬け込むんですか?」

「あぁ。それを焼くと、美味い!」

「タレが焦げて、香ばしくなりそうですね。うふふ、焦げた香りが食欲をそそりそうです」


 さすがジネット。ある程度予想は付くのか。

 それを上回る美味さを約束してやろう。


「ってわけで、モツの下処理だ。マグダは肉をブロックごとに切り分けておいてくれ」

「……任された」

「バルバラ、とりあえずはマグダの助手を頼む」

「お、おう! …………ちゃんと、そばにいなきゃヤだからな?」

「へいへい……」


 どうせそこまで広くない厨房だ。

 嫌でも視界には入るだろうよ。


 まずは巨大な肉塊を部位ごとのブロックに切り分けてもらう。

 薄くスライスするのはあとで俺とジネットが担当する。

 肉の切り方で味が代わるからな。


「んじゃ、こっちは内臓の下処理だ」


 まずは、大量の水と塩を用意する。


「ロレッタ、水を大量に汲んできてくれ」

「任せてです!」


 ボウルにモツを放り込み、そこへどばどばっと塩をぶっかける。

 塩がモツの表面のぬめりと匂いを吸い取ってくれるのだ。

 表面のぬめりは脂と不純物……まぁ、ゴミや汚れだな。これは雑味が酷くて味を悪くする。なので徹底的に刮ぎ落とす。


「こうやって、大量の塩で揉むように擦り洗うんだ。その後で塩を大量の水で洗い流す」


 本当は流水にさらしたいのだが、水道がないので断念する。

 こまめに水を取り替えればなんとかなる。

 モツは水気を吸うので、洗い流した後はしっかりと水気を切っておく。味が落ちるからな。


 ある程度ぬめりを落としたら、今度は塩に代わって小麦粉でモツを洗う。

 やり方は同じで、小麦粉をどばどばと振りかけて臭みとぬめりを擦り落とす。

 惜しげもなく小麦粉を使って、ごっしごしぬめりを落とし、そして大量の水で洗い流して、水気をしっかりと拭き取る。


「すんすん……ん~、まだちょっと臭いか」

「しつこいです、臭み!」


 興味が勝ったようで、ロレッタは顔をしかめながらも下拵えを見守っていた。


「ちょっと茹でてみるか。あとは牛乳に漬けてみよう」


 軽く下茹でをしてやると臭みが取れる。

 同様に、牛乳も臭みを取ってくれる。こっちは牛肉にも応用出来るお手軽臭み除去方だ。おまけに、牛乳は肉質を柔らかくしてくれる。


 結構握力を使うので、少量だけ下処理を行った。

 続きはジネットとギルベルタに手伝ってもらう。


「その前に、ジネット。醤油ダレと塩ダレを作るぞ」

「はい。ロレッタさん、お手伝いをお願いします」

「任せてです!」


 俺もちょっと疲れたので休憩がてら違う作業を行う。


 醤油をベースに、白ごまとニンニク、ショウガ、砂糖にごま油なんかを入れて味を整える。辛みには豆板醤を使ってみる。リンゴをすり下ろして入れてみるのもいい。


「んっ! ……ぴりっと辛くて、美味しいです」


 ジネットの合格が出た。


「焼いた肉を付けて食べるタレと、漬け込むタレを作りたいんだが」

「では、こちらは付けダレにしましょう。漬け込むなら、もう少しコクを出した方が……」


 と、調味料をいくつか引っ張り出してくる。

 あ、味噌入れるか。分かってるな、さすがだ。唐辛子な~、いいよな。うんうん。


「お兄ちゃん、大変です……あたし、仕事ないです!」

「諦めろ。ジネットは今、別の世界へ旅立ってしまったんだ」


 火が付いたジネットは止められない。

 しょうがない。簡単な塩だれをロレッタと作るか。


「ロレッタ。鶏ガラスープを持ってきてくれ」

「はいです! 店長さん秘伝の美味しいのがあるです!」


 コンソメをマスターしたジネットは、あれ以降いろいろなスープを研究している。

 最近のヒットは鶏を丸ごと使用した贅沢な鶏ガラスープだ。

 肉は邪魔なんじゃないかと思ったんだが、これがなかなかどうして、美味いんだよなぁ。


「それから、レモンとニンニク。あとはネギをたっぷり刻んでくれ」

「任せてです!」


 ロレッタが長ネギを取り出し、輪切りにする。


「はい、ストップ!」

「ほぅ!? まだ二切れですのに!?」

「長ネギを刻む時は、縦に切れ目を入れて、それからこうしてみじん切りにしていくんだよ!」


 長ネギの白い方に包丁を入れ、縦の切れ目を適当な数入れる。

 で、横に向けて刻んでいけばあっという間にみじん切りが出来る。


「ほい、やってみろ」

「しかしながら、さっきの二切れですでに目がしぱしぱしてるです! ちょっと限界が近いです!」

「ネギ切った手で目元触るからだよ……」


 こいつは、なかなか料理スキルが上がらないな。


「んじゃあ、ニンニクをすり下ろしてくれ」

「はいです!」


 ニンニクを一欠片渡してすり下ろしてもらう。

 その間に、ネギに白ごまを振って、鶏ガラを流し込み、塩で味を調えて、レモンをこれでもかと搾って、すり下ろしニンニクを混ぜていく。香り付けにごま油も少々。


「ロレッタ、味を見てみろ」

「はいです!」


 小皿に少量取ってロレッタに渡す。

 すると。


「臭っ!? なんかあたしの指臭いです!? ちょっ! ニンニクってこんな匂いキツイですか!?」


 そりゃ、ニンニクを摘まめばそうなるよ。

 お前、ニンニク使ったの初めてだったのか?


「ふぉおお!? 洗ってもにおいが取れないですー!?」


 あぁ、もう、うるさいな。


「ロレッタ。これで指を拭いてみろ」

「これ、絞ったレモンですよ?」

「いいから」


 ニンニクの匂いが指についたときは、薄めた酢かレモンで洗うと匂いが取れる。

 ただ、酢は匂いがキツイのでニンニクの匂いが消えても酢の匂いが残ることがある。

 なので、レモンがおすすめだ。


 意外なところでは、ステンレスを触ると匂いが消える、なんて裏技もあるらしい。

 これは試したことがないので効果の程はよく分からんが、金属イオンがニンニクの匂いを分解してくれるそうだ。


「うはぁ! 匂いが消えたです! もう臭くないです!」

「ロレねーしゃ! にぉい、にぉい!」

「テレサちゃん、嗅ぎたいですか? ほら、嗅いでいいですよ」

「くしゃくなーい!」


 知能が近い二人がはしゃいでいる。

 いや、すまん。それはちょっと失礼だったか。テレサに。

 テレサの方が算数得意だもんな。


「う~ん……香りはいいですけど、ちょっと味が濃いです……」

「当たり前だ。肉を付けて食うんだから」


 スープじゃないんだから、何かを付けたことを想定して味を見るんだよ。

 ちょっと貸してみ。……うん。ほらみろ、ばっちりじゃねぇか。


「してみた、マネを、友達のヤシロの。してほしい、確認を」


 こっちでタレを作っている間に、ギルベルタがモツを洗っていてくれたらしい。

 ぷりぷりっとした小腸が美味そうに輝いている。

 においも上手く取れている。上出来だ。


「さすが給仕長だな。覚えが早いし、仕事が丁寧だ」

「教わった、私は。給仕の心得を、先輩から」


 噂のホタル人族先輩仕込みの給仕術。しっかりと継承されているようだ。

 まぁ、ホタル人族先輩は給仕長ではなかったんだけどな。


「じゃあ、ちょっと試食してみるか」

「そうですね。タレもどれが一番合うか検証してみたいですし」


 と、にこやかに笑うジネットの目の前には十数種類の小皿が並んでいた。

 ……それ全部試食するなら、それはもう試食じゃない。食事だ。


「シスターさん呼んでくるですか?」

「いや、大丈夫だ」

「……そう。ヤシロの言うとおり。シスターベルティーナは、肉を焼いていればそのうちやってくる」

「納得です!」

「あの、みなさん……シスターも、教会でお役目を果たされていますので、そうそうお暇ではないんですよ?」


 という、ジネットの無理めのフォローをさらっと無視して、マグダが切り分けてくれた肉を俺とジネットで薄くスライスしいていく。

 一口大で、焼き時間を短縮出来るように、でもしっかりと噛み応えのある厚みで。


「……ヤシロ、七輪の準備が出来た」

「さすがマグダだ。気が利くな」

「……当然。副店長だから」

「え、いつの間に?」

「……キャリア順」


 ん~……俺、やっぱ一番新人扱いなのかなぁ。

 まぁ、いいんだけどな。副店長とか、やりたいわけじゃないし。


「くすくす。じゃあ、副店長さん。お肉を運びましょう」

「……うむ。者ども、続くといい」


 マグダを筆頭に、ロレッタ、ジネット、テレサが肉を運んでいく。

 俺は数種類のタレを持ってフロアへと戻る。


「わぁ~! お肉がいっぱいだねぇ~☆」

「カタクチイワシ……な、内臓は? 内臓はきちんと捨てたのであろうな?」

「誰が捨てるか、もったいない」


 嫌なら食わなくて結構。

 俺が食うから。


 おっかなびっくりなルシアや、いつもの如く食べる前は懐疑的なエステラが訝しげな視線を注ぐ中、焼肉の準備を進める。

 陽だまり亭には排煙設備がないため、大窓を開放して外で焼く。

 匂いがこもると取れないからな。


「まずは、普通に肉を焼いてタレの味を確認してみるか」

「はい」

「ロレッタ。白飯を大盛りで頼む」

「ご飯、ですか?」


 焼肉と言えば白米!

 これ常識!


「なんとなく、手巻き寿司を思い出すね、この配膳」

「そうですね。調理前の食材が並んでいる感じが似ていますね」


 エステラとジネットが隣に座ってわちゃわちゃしている。

 ……というかエステラ。そこがベストポジションだって悟ったな? ジネットの隣が一番美味い物が出てくるんだ。ジネット経由で。


「ねぇねぇ、ヤシロ君。お肉がちょっと薄過ぎないかなぁ?」


 マーシャが言うには、以前食べた肉料理はもっと分厚くて、噛み応えが抜群であごが疲れて、やっぱり海鮮が一番だなぁって思ったのだそうだ。

 さりげに海鮮アゲしてきたか。


「店主がでっかい鉄板で豪快に焼くならそれでいいが、こいつは客が自分で焼いて食うスタイルだからな、これくらい薄くないと待ってられないんだよ」


 さっと焼いてさっと食う。

 それが焼肉スタイルだ。


「なぜ客が自分で焼かなくてはいけないのだ?」

「その方が、こだわれるからだ」

「こだわり、だと?」


 ルシアは訝しそうに眉根を寄せるも、「とりあえず見せてみよ」と、否定はしなかった。


「んじゃ、手本を見せてやるよ」


 手本という程のこともないのだが、俺は肉を一切れ取り、金網の上に載せる。

 しばらく待つと、赤かった牛肉が美味そうな焦げ茶色に変色していく。

 脂が垂れて木炭に落ち、堪らない香りを立ち上らせる。


「俺は、片面をしっかり焼いて、反対の面がややレアくらいで食うのが好きなんだよな」


 焼き過ぎない程度に火を通し、それを小皿に分けたタレへと付ける。

 そして、白飯にワンバウンドさせて口へ放り込む。


「美味いっ!」


 そしてすかさず、白飯をかっこむ!


「んまーい!」


 これが焼肉だ!

 ステーキもいいけど、焼肉で白飯を掻き込むこの快感は他では味わえない!


「脂が気になる、赤身が気になるってヤツはしっかり焼いてもいいし、牛脂は飲み物だってヤツはレアッレアで食ってもいい。これは、誰にも邪魔されずに自分の好みで肉を焼いて、自分のためだけの肉料理を自分で楽しむ食い方なんだ」

「あぁ、確かに。変にこだわりのあるお店に行くと、焼き加減を決めつけられることがあるんだよね……」

「どこの店だよ、それ」

「……四十一区」

「で、お気に召さないと」

「不愉快きわまりなかったね。……ボク、お肉を押して赤い汁がにじみ出てくるの苦手なんだよ」

「じゃあ、ウェルダンにしてやればいい」

「よぉ~し、ウェッルウェルにしてやんよ!」


 エステラがバラ肉を一枚金網に乗せ、七輪の中心部でしっかりと焼き始める。

 と、ルシアが「ちょっと待つのだ、エステラ」と、持論を展開する。


「よいか? 牛肉のうま味というのは脂の甘さにあるのだ。脂を落としきってしまうのは愚かな行為であるぞ。むしろ、軽く炙るくらいでちょうどいいのだ」


 言いながら、バラ肉を金網に載せ、両面を軽く炙って小皿へ移す。


「えっ!? それだけでいいんですか!? ほとんど生ですよ!?」

「生ではない、レアなのだ」

「うわぁ……赤ぁ~」

「ふふん。まぁ、エステラにはまだ分からないかもしれぬな、この大人の味が……美味ぁー! なんだこのタレは!? 美味過ぎるだろう、カタクチイワシ!」


 さっとくぐらせた醤油ダレを凝視して、ルシアが声を上げる。

 相変わらず、食いながらしゃべるヤツだ。


「どれ、もう一枚!」


 エステラの一枚目が焼けるのを待たず、ルシアが二枚目をサッサッと炙って口へ放り込む。


「うまー! くっ! 確かに白いご飯が欲しくなるな……寄越せ、カタクチイワシ!」

「新しいの持ってきてもらえよ! 俺の食いさしなんか奪ってないで!」

「待てるか!」


 と、横暴な領主が白飯を強奪していく。


「こら、カタクチイワシ! ご飯にタレを付けるとは何事だ! 汚れているではないか!」

「バカ、お前、そこが一番美味いんだよ!」


 焼肉のタレの付いたご飯。

 コレに勝るものが世界にあといくつある? 数えるほどだぞ!


「あえてワンバウンドさせる。それが通だ」

「ふん、何を愚かなことを……まぁ、一度やってみるが」

「割と素直、食に関しては、ルシア様は。知っているから、美味しいことを、友達のヤシロがもたらす料理が」


 また肉を一枚炙って、タレに付けて、ご飯にワンバウンドさせて、肉を食べて、タレの付いたご飯を掻き込む。


「これが革命か!?」


 相当美味かったらしい。


 ……っていうか、いいのかなぁ。

 貴族の婦女子が俺の食いさしのご飯、めっちゃ掻き込んでるんだけど。

 焼きタレのついた。


「ここでのことは、口外禁止かもねぇ~☆」


 うん。

 良識ある女子から見ても、やっぱりアウト案件っぽいな、この事案は。

 ルシア……自分の行動顧みて。


「みなさん、ご飯をお持ちしました」

「おぉ、すまぬなジネぷー! ほれ、返すぞカタクチイワシ」

「食いさしを返すな!」


 この扱いは桃色に脚色されて噂されるようなものでは決してない!

 熟年夫婦でもしないわ、こんなご飯のシェア!


「んんんん! 美味しいです! あたしの作った塩ダレ、美味し過ぎです!」

「……醤油ダレ、奥が深い」


 ロレッタとマグダも、好きなように肉を焼いて食べ始めている。

 焼き加減はいろいろ研究しているようだ。これから自分の好みを見つけていくといい。


「よし、これくらいがいいや!」


 エステラが自信を持って取り上げた肉は、もうかっさかさに脂が落ちきった状態だった。

 炭、一歩手前じゃねぇか。


「うん! 美味しい! 歯応えも最高! このタレ、美味しいね!」


 肉の焼き方って、好み分かれるよなぁ。

 ただ、エステラ。あんま人前でそこまでは焼くな。グルメじゃないってバレるから。


「モリーとバルバラはどうだ?」

「はい、美味しいです!」

「英雄! これ、とーちゃんたちにも食わせてやりたい! 姐さんにも!」

「また今度な」

「おう! とーちゃんたち、喜ぶな、テレサ!」

「よろこぅー! おぃしー!」


 向こうでも好評だ。


「イメルダは?」

「ベッコを探しに行ったよ」

「……あいつ、味で決めてるの? 作るか否か? 見た目じゃなくて?」


 そして、マーシャはというと……


「うん! この塩ダレ、ホタテによく合う~!」

「自前のホタテ出てきた!?」


 いつの間にか、七輪の上に海鮮が並んでいた。

 頑なか!?

 デリアの鮭ばりに揺るがないな、こいつの魚介愛。


「お肉も美味しいよ~☆」

「でも、魚介の方が美味いんだろ」

「ま~ね~☆」


 まぁ、魚介も美味いしな。

 俺もホタテもらおう。


「ヤシロさん、ヤシロさん!」


 一人、もくもくと肉を焼いてタレの味を確かめていたジネットだったが、輝くような笑顔で俺の袖を引っ張ってきた。


「第一わっしょいが出ました!」

「なにその気になる新ワード!?」


 とりあえず納得のいくタレが見つかったようだ。


「こちらの方がインパクトはあるんですが、こっちの方がお肉の美味しさが引き立つんです。でも、これはこれでちょっと辛口で後を引く美味しさがありまして」


 ジネットの中でお勧めの三種を順に食べてみる。

 第一わっしょいが出たというタレは、さすがというか、めっちゃ美味かった。

 ただ、これはタレが美味くて、どの肉を食べてもタレの美味さが印象に残ってしまう感じではある。


「エステラみたいに、肉の脂身に興味がないヤツにはコレが合うだろうし、ルシアにはそっちの肉の美味さを引き立たせる方がいいだろうな。あと、白飯じゃなくて酒で肉を食いたいヤツには後引く辛さのヤツがいいだろうな」

「なるほど、タレも好みによって使い分ければいいんですね!」


 納得したのか、ジネットが次の肉を焼き始めた。

 どうも、タレの味を確かめるために薄い肉をさらに小さくして焼いていたようだ。

 だが、今度はきちんと一枚分。

 ちゃんとした歯応えや食感を含めて味を見ようというのだろう。


「で、感想はどうだ、ベルティーナ?」

「さすがジネットです! これは世界が変わりますよ!」


 大方の予想通り、肉を焼いているうちにベルティーナが輪の中に入り込んでいた。

 幸せそうな顔でお肉を頬張っている。

 そうかそうか、美味しいか。


「よし、じゃあ次はモツを試してみるか」


 軽く肉を食った後で、下拵えの終わったモツを持ち出す。

 ルシアとエステラが顔をしかめ「お肉だけでよくない?」みたいな否定的な意見を寄越してきたが、無視して金網に載せる。


 モツ。

 いいよ、モツ。

 堪らないよ、モツ。

 早く焼いて食いたいよ、モツ。


 焼肉屋では『マルチョウ』呼ばれる小腸、『シマチョウ』こと大腸、ミノ(第一胃)、ハチノス(第二胃)、センマイ(第三胃)、ギアラ(第四胃)、レバーとハツ、そして横隔膜『ハラミ』を順々に焼いていく。



 その直後、陽だまり亭に衝撃が走った。



 四十二区に食肉の革命が起こったのは、まさにこの瞬間だったかもしれない。







あとがき




今年の残暑はどこへやら。

巷ではそろそろ涼しくなりそうな予感ですね。


どうも、ウェザーリポーター宮地です。


明日は突発的な豪雨が予想されますので、

折りたたみ傘をカバンから出して、

白いブラウスでお出かけください。

あっ、下にシャツとか邪道ですよ!

あと、なるべく透け感が綺麗な色味のおブラ様をおつけいただけるとこちらとしても張り切り甲斐があります。



レッツ、貼り付き!



本日は9月15日ですか。(今回の更新日です)

逃げに逃げて、ぎりっぎり夏休み延長出来る限界がこの辺りでしょうかね?



少年宮地「先生……実はウチに幽霊が出まして。……えぇ、お祓いに一週間くらいかかりそうで……えぇ、ですので学校行くのはもう少し遅く……えぇ、お盆から居座られまして…………はい、はい、じゃあ、そういうことで、シツレイします、霊だけに! なんつって!」(がちゃん! ぷーぷー)



それで、激しい除霊バトルで負傷した足が完治するのにさらに一週間。

……まぁ、このくらいが限界でしょうね。

半月粘れただけでもめっけもんです。

あぁ……半月余裕があったのに宿題がまだ終わっていない…………



そんな思い出のある9月15日ですね☆



学生さんはそろそろ夏休みが懐かしいんじゃないでしょうか?

一夏の経験とかしちゃいましたか?


思い出しますねぇ……学生だった頃の、一夏の経験……



少年宮地「あっ!? 道ばたに仰向けのセミが!? 大丈夫だ! まだ助かる! 戻ってこい! 戻ってこいセミー!」(心臓マッサージ「がすすす!」)

セミ「いや、もうしんどい! もうしんどいから! ワシ一夏で十分ですねん!」



それを皮切りに、十二匹のセミを救いました。

その年、我が家の周りはそーとー煩かったとかなんとか。



ミンミンゼミ「ミーンミンミンゼミィー!」

アブラゼミ「アーブラブラブラブラァー!」

ツクツクボーシ「いや、みんなして俺の鳴き方に合わせなくていいから!」



そんな、一夏の思い出。



そういえば、カブトムシ取りの名人とか

どこの市町村にも一人はいましたよね。

私も名人になりたかった……


私が子供の頃は、結構なオジサンが子供たちと一緒になって山に入って

カブトムシが捕れるところを教えてくれたりしたものです。

きっと、あの頃はまだ日本国憲法とかなかったんでしょうねぇ……

今じゃ事案ですものね。


……いや、待てよ?

もしかしたら、日本国憲法に『ただし、カブトムシ取り名人の場合は事案にならない』って明記されているのかも?

可能性はありますよね?

私、司法試験に受かったことないですし、憲法とかちょっと詳しくないので……ないことの証明は出来ませんもの!


そうか、

カブトムシ取りの名人になればいいんだ!



結構裏技とか知ってますしね。

なにせ、田舎者ですから!

その技を伝授してあげたいなぁ~とか思うわけですよ。

お子様たちって、無邪気に喜んでくれますからね。


お子様、可愛い~(^▽^)



……違う。そうじゃないです。

なんでこのタイミングで通報ですか?

和むところですよ、ここは。


「カブトムシの裏技~」辺りで察することが出来たでしょう?

あるじゃないですか、定番の、もはやお約束のアレが!

カブトムシを捕まえるための罠を仕掛けるくだりで、

使い古しのパンストに果物とアルコールを混ぜて発酵させた液を染み込ませるってヤツ!


そこですよ! 通報チャンスは!

だから、もう少し我慢してください!


じゃあ、もう一回ね。


え~……こほん。



宮地お兄さん「さぁ、少年少女たち~! 集まれ集まれ~!」

読者様「「「もしもし、警察ですか!?」」」



早ぁーい!

まだ!

これから!


みなさん、ダメですよ!

お約束は大切にしなけりゃ!

古典って凄いんですからね!


まったくもう……

もう一回だけですよ!


……こほん。



宮地お兄さん「少女幼女たち~! 集まれ~!」

読者様「「「「「もしもし、警察ですか!?」」」」」



……うん。

そこは仕方ないと思います。

二人増えましたしね、通報者。


分かりました、ちゃんとやります。



宮地お兄さん「カブトムシを捕まえる罠を作ろう~!」

少女「どうやって作るの~?」

宮地お兄さん「お母さんが使い古したパンストか、使い古したパンストを脱いだお母さんの生足をください」

少女「もしもし、警察ですか!?」



しっかりしたお子さんだこと!?

……ちょっと噛んだだけです。些細な言い間違いです。

使い古したパンストを持ってきてもらうんです。


だってほら、

私、メンズだし、家にパンストとかないですし、

親とも離れて暮らしてますし

パンストの入手経路がないんです!

仕方ないんです!

カブトムシを捕まえるのに必要なんです!

仕方ないんです!

はい、皆様、携帯置いて! 手は頭の上! ズルは無しですよ!



少女「は~い、ママのパンストもらってきたよ~」

宮地お兄さん「ありがとう。じゃあ、これは大切に……(カバンに収納。しっかりと蓋をして、大切に保管)じゃ、切ったペットボトルで作った罠を仕掛けに行こうか!」

少女「パンストは!?」

宮地お兄さん「あとでスタッフが美味しくいただきます!」

少女「もしもし! もしもしー!」



違うんです。

なんか、ペットボトルを半分のところで切って、飲み口が内側になるようにして重ねて、その中に果物とアルコールを発酵させた液を入れておくとカブトムシが寄ってきて罠に入り、しかもペットボトルの口が狭いからカブトムシの角が邪魔で逃げられなくなるって、画期的な罠がテレビで、詳しく言うと鉄腕なダッシュで言ってたんです!

T●KIOさんの言うことは絶対なんです!


ん?

パンストですか?

私を動かす原動力になりました。

横文字で言うと、カロリー、ですかね?



ナイスカロリー!(゜▽゜ノ)ノ⌒☆



そういえば、

小学校の授業で結構パンスト使いましたよねぇ。

針山を手作りしよう~ とか

砂団子を作ってみよう~ とか

廊下がぴかぴかになるパンスト雑巾を作ってみよう~ とか

銀行に押し入ってみよう~ とか

そんな授業で。


一体どんだけパンスト好きなんだ、ウチの小学校!?



……そう言えば、

冬のめっちゃ寒い日に、

家族が着る服を全部こたつの中に入れて温めていた時期に、

寝坊して、こたつの中の服を引っ張り出して、大急ぎで着て

慌てて家を飛び出して

猛ダッシュで学校に着いたら……ズボンにパンストが挟まってて……



クラスメイト「おっ、サイヤ人だ!」



パンスト尻尾しちゃった人……きっといますよね?

割といますよね!?

ズボンの後ろからパンストが尻尾みたいににょろ~んって!

いますよね!?



思えばあの頃からですかね……

パンストに親近感を覚えるようになったのは。

黒タイツも、いいですよね。



日本国憲法に書かれてないですかね?

『黒タイツは、いい!』って。


ないという証明は、私には出来ません。

なのであるかもしれないという希望を胸に抱いていたいと思います。



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海


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