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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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423/821

無添加78話 オバケコンペ・午前の部

 アップルパイとサツマイモの蒸しケーキが物凄い人気だ。

 カボチャプディングってのも作ってみたのだが、運動場で食べるには不向きなのか思いの外売れない。

 やっぱプラスチック容器が欲しいよなぁ。

 持ち帰りが出来れば、絶対もっと売れるのに。


「今回のコンペにおいて語られるお話は創作されている部分が多いから、このステージの上で話したことに関して『精霊の審判』をかけることを禁止するよ」と、エステラが開会式で宣言し、皆が同意してオバケコンペは始まった。


 ……そろそろ教会に殴り込まれるんじゃないかってくらいに『精霊の審判』禁止を乱用してるよな。嘘吐きまくりだな、四十二区。

 ベルティーナ曰く、「悪意のない嘘は嘘の中でも嘘とは趣の違う嘘ですので嘘とは言い切れないと解釈出来ます」ということで問題ないそうだ。

 要するに「人を楽しませるために発せられる事実とは若干異なる言葉は嘘ではなくエンターテイメント」ってことらしい。


『精霊の審判』は人が裁きにかけて初めて発動する。

 そういうところはお互いの意志で分かり合いましょう――という精神らしいのだが、だったら俺が吐く嘘も許容してくれよ。それによって俺が物凄く楽しい思いを出来るはずだから。

 ダメか?

 だろうな。けっ。



 ジネットたちは観客席に座って観覧しているのだが、俺とベッコは壇上でイラストを描く係だ。

 舞台の中央奥に大きな黒板が設けてあり、俺は語り手の後方、やや下手側に椅子を置いてもらってそこに待機している。

 俺よりもさらに下手側にテーブルと椅子、様々な画材道具と一緒にベッコが置かれている。

 ……ん? あぁ、そうか。ベッコは物じゃなかったっけ。ベッコが座っている、だな、うん。


 舞台の下、真ん前には長いテーブルが置かれていて、そこは審査員席となっている。仮○大賞を思い出すな、この配置。仮装のイベントだからってパクってないぞ? ウーマロが設計したんだからな? 俺が来たらこうなってたんだ。いや、マジで。


 しかし、大丈夫かね。審査員を前に舞台に一人で立つって、結構緊張するぞ。参加者連中、ちゃんとしゃべれるといいんだけど。


 ――と、そんなことを考えていると、小さなオバケたちがわわわっと壇上へとなだれ込んできた。教会のガキどもだ。引率のベルティーナが最後尾をゆっくりと歩いてくる。

 団子状態で駆けてきたガキどもは、舞台中央に到達するなり今度は横一列に整列する。


 ゴーストや吸血鬼の仮装をしたガキどもに、会場から「かわいい~」という声が挙がる。

 頭に矢が貫通しているガキには一瞬悲鳴が上がったが、それがカチューシャだと分かると笑いが漏れた。いい感触だ。

 メイクだけしたガキや、頭貫通幼児を見てどこかから安堵の息が漏れてくる。やっぱり、結構ハードルが高いと思っていた連中は多かったようだ。

 これまで、何かある度にウクリネスの新しい衣装を見てきたからな。あれを自分で作れと言われたら、裁縫上手の母親たちも荷が重いと感じていたことだろう


 簡単でいいんだよ。

 ガキどもを可愛く飾り付けるくらいの気持ちでな。


「せーの!」

「「「とりっく、おあ、とりーとー!」」」


 ガキどもが両腕を上げて観客を脅す。

 脅された観客は例外なく笑顔になっていた。


「これは、お菓子あげちゃうね~」

「新しいレシピ教えてくれるのよね? アタシ、張りきって作っちゃう!」


 そんな会話がどこかから聞こえてきた。


 好感触。と言ったところか。

 審査員席のど真ん中に座っているエステラが嬉しそうな顔でこっちを見ていた。


 オバケ話を聞く前に仮装の例を見せておくことで、仮装衣装を作る方も何かしら取っ掛かりを掴めるだろう。

 ガキどもが「わ~」っと、ベルティーナの周りに集まっていく。

 これで、ベルティーナと一緒に舞台を降りればガキどもの仕事は終了だ。


 なのに、ガキどもを周りに従えたベルティーナが、最後にもう一アピールを追加した。

 にこっと笑って口を開ける。シスターベルティーナの口に鋭い牙が生えているのを見て、観客の中の何人かが息を飲む。驚いたようだ。


「お菓子をください」


 いや、違う。

 そんなダイレクトにお願いするんじゃないんだ。「イタズラされたくないよね? じゃあ、お菓子くれるよね?」って子供っぽいおねだりと脅しっぽいニュアンスで……まぁ、好きにすればいいよ、もう。


 小さな牙のせいで妙な違和感を覚えていた観客たちだったが、いつもと変わらないベルティーナに安堵し、笑いが漏れる。


 ぺこりとベルティーナがお辞儀をして、ガキどもを連れて舞台を降りる。

 それと入れ替わるように、今度はナタリアが壇上へと上がる。

 手には数枚の紙の束を持っている。


 これから前座みたいな感じで、俺が陽だまり亭で話したモンスターの話を語ってもらうのだ。

 内容を書いた紙を渡したので朗読するだけでもいいし、ちょっとアレンジを加えてもいいと言ってある。

 ナタリアならそつなくこなしてくれるだろう。


 前座を設けることで、参加者の緊張をほぐす狙いがある。特にトップバッターはド緊張するしな。

 さらに、先に運営側が方向性を示すことでこちらの求めているものに近いコンペ内容にする意図も含まれている。


「では、先ほど教会の子供たちが仮装していたオバケたちのお話を語らせていただきます」


 よく通る澄んだ声でナタリアがオバケ話を語り始める。


 さすが一流の給仕長だ。ナタリアは語りも一級品で、聞いているだけでぐいぐいとその世界観に引き込まれていった。

 淀みない口調と澄みきった声、堂々としていながらも繊細で、情景が脳内にハッキリと浮かんでくるようだった。


 観客もわくわくした表情でナタリアの語りに聞き入っていた。

 ……ただ、わくわくしていられたのは最初だけだった。



「いやぁぁあああ!」

「ま゛ま゛ぁ゛ー!」

「ぅえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ん!」



 会場が、絶叫に飲み込まれた。


 ナタリア……、お前の全力の語り、怖ぇよ!

 内容を知ってる俺ですらちょっとビビっちまうよ!

 なに、その演技力?

 お前、吸血鬼に会ったことあるの? ってくらいのリアリティなんだけど!

 血を啜る音がめっちゃ生々しくてリアルなんだけど!?

 落語家のうどんみたいなクオリティじゃん!

 お前、血吸ったことあるだろ、実は!?


 ほら、ガキが泣いてるから!

 血を啜る音を立てながら会場をぐるりと見渡すな!

 目が合ったら呪われそうだから!


 やっと終わったと思ったら、次はフランケンの話が始まった。

 そうだった……こいつには『ミイラ』と『ゴースト&スケルトン』と『三つ目小僧』を含めて五つの話を渡してあるんだった……

 つか、フランケンの演じ分け凄まじいな!?

 どっから声出してるの!?

 お前の口の中に身長3メートルのオッサンとか住み着いてない?

 野太い声出るねぇ~!


 そんな、恐怖のナタリア劇場は全五話、三十分も続いた。


 俺、思うんだけど。ナタリアを最初に持ってきたの失敗。

 次のヤツ、トップバッターやらされるより緊張してると思うぞ。


 数名のガキが泣きわめき、数名の女性が恐怖で気を失い、数名の男どもが「お、俺ぁ平気だぜ?」みたいな顔で足の震えを必死に隠している。


 ナタリア……お前、いつクビになっても食いっぱぐれないな。


 あまりに会場の雰囲気が凍りついているので、せめてイラストは可愛く描いてやることにした。

 最初の仮装と合わせて、なんとか和んでくれ。

 ほれ、可愛いオバケのイラストだ。泣き止めガキども。


「ヤシロ様。私のイメージでは、フランケンはもっと禍々しく、吸血鬼も邪悪に……」

「お前はイベントを潰す気か」


 可愛いイラストを写実的に、劇画タッチに描き直せとでも言いたそうなナタリアの意見を聞く前に却下する。

 ガキどもが真剣に怖がって仮装したくないとか言い出したらどうするつもりだ。

 ハロウィンがナマハゲ的な、ガキが泣き叫ぶイベントになっちまうだろうが。


 それより何より、今日のこのオバケコンペが怪談大会になったらどうしてくれる。誰が夜中のトイレについてきてくれるってんだ!?

 さすがのマグダも、中にまではついてきてくれないんだぞ!


 ……トイレの怪談をしやがったヤツは、問答無用で八つ裂きにしてくれる。


 俺が黒板に描いたイラストは、すぐさまベッコがコピーして着色していく。

 なかなか可愛らしい仕上がりだ。

 その可愛いイラストをお披露目すると、張り詰めていた会場の空気が少しだけ緩んだ。ほっと息を吐く音がそこかしこから聞こえてくる。


 そして、前座で会場を凍りつかせたナタリアが舞台から引き摺り下ろされた後コンペが開始され、最初の語り手が登壇する。


「えっと、トルベック工務店のグーズーヤです。あの、僕、ナタリアさんほど上手くは語れないんすけど、よろしくお願いします」


 と、審査員席に座るエステラたちに頭を下げる。


 今回、オバケ話を審査するのはエステラとナタリア、ウクリネスとウーマロ、そしてイメルダだ。

 エステラとナタリアは実行委員として、そして領主としての視点で審査をしてもらう。

 ウクリネスとウーマロは、ハロウィンの雰囲気作りに欠かせない衣装と大道具担当として、自分の創作意欲が刺激されたものを選んでもらうことになっている。

 そしてイメルダは……ほら、昨晩とても面倒くさい役を押しつけてしまったので、まぁ、平たく言うと……接待?

 特別審査員の枠に収まってもらった。


 そんな特別審査員様が、登壇したグーズーヤを指して言う。


「顔が地味ですわね。不合格」

「ちょっとぉー! 顔は関係ないでしょうって!? 話を聞いてくださいよ!」


『1』と書かれたゼッケンを胸に垂らしたグーズーヤがひな壇芸人よろしく舞台の前まで進み出てくる。

 落ちろ!

 落ちて足をグネれ! ……ちっ、踏み外さなかったか。


「なぁ、グーズーヤ。その場所で『押すなよ』って言ってみて」

「絶対押す気じゃないですか、ヤシロさん!?」


 慌てて舞台中央へと駆け戻るグーズーヤ。

 つまらん! 貴様、それでも芸人か!?

 面白いのは顔だけか!?


「それじゃあ、君の持ってきたオバケの話を聞かせてくれるかい?」

「はい!」


 エステラに促されて、グーズーヤが語り始める。


「あの、なんかっすね。道具って、大切に使わないと、悪いことが起こるっていうか、罰があたるって、ウチのジーサンが言ってまして。あ、ジーサンはもう何年も前に亡くなってるんですけど。んで、ホントかどうか分かんないんですけど、百年使った古道具は魂を得るって、割と真顔で言ってたりしたんで、それがちょっと怖いっていうか……棟梁も、道具は大切にしろってすげぇ怒るんで、もしかしたら、そういうの、あるのかなぁって…………」


 と、なんとも歯切れの悪い感じで口を止め、チラチラとこちらを見てくるグーズーヤ。

 え、終わり?

 なにそのまとまってない話。

 せめてもう少しストーリーを組み立ててこいよ。多少盛ってもいいからさ!


「グーズーヤ」


 審査員を代表して、ウーマロが自分の部下の名を呼ぶ。


「舐めんなッス」

「いや、真面目にやったんすよ、これでも!」

「まったく魅力がないッス! 怖くもなければ可愛くもなく、わくわくもしないッス! そもそも、物を大切にするのは常識ッス!」


 完膚なきまでのダメ出しだ。

 ナタリアの語りでハードルもかなり上がってたしなぁ。


 でも、会場の奥様方はちょっとほっとしてるみたいだぞ。

 こういうのでいいのかもな、子供連れのファミリー層には。

 しかし、面白みが全くないってのも困りものだな。

 これじゃ、仮装のアイデアにすら繋がらないだろう。


 しょうがない。

 俺は黒板に日本でお馴染みの物化け、付喪神のイラストをいくつか描いていく。

 化けわらじ、化け傘、化け茶釜に化け提灯。


「あら、まぁ! ヤシロちゃんのイラスト、とっても可愛いですねぇ。私、そのオバケ傘の衣装作ってみたいわぁ」


 ウクリネスの言葉に賛同するようにエステラやイメルダも「あれは可愛い」「いえ、あちらの方が」とイラストを指差しながら相好を崩す。


 全般的に評判がよさそうなので化けブラジャーを追加する


「ヤシロ、卑猥な絵を描かないように」

「バカ、エステラ。こいつは何十年もずっと使い続けられたブラジャーなんだぞ」

「ヤシロ様。普通何十年も同じサイズのブラジャーを使い続けられる人は……はっ!? あわわっ、申し訳ありません、幼少期よりサイズが一切変わっていないエステラ様!」

「君らのコンビプレイ、打ち合わせなしで完璧なのはなんなの!?」


 エステラがぷぅぷぅ怒っている間に、ベッコが着色済みのイラストを広げてみせる。

 こらベッコ。化けブラジャーを忘れんじゃねぇよ。

 あわよくば年頃ボインちゃんに化けブラジャーのコスプレしてもらおうという目論見が頓挫しちまうだろうが。


「ん~……グーズーヤはしょーもなかったッスけど、ヤシロさんのイラストはどれも独創的で、なんだか本当にいるんじゃないかって思えるような親近感もあって、凄くいいッスね」

「では、ヤシロ様のポイントということで評価しておきましょう」

「なんでですか!? 僕の話なのに!」

「お前の話だけじゃポイントは付かなかったッスよ」


 さっさと退場しろと、ウーマロが手を振る。

 グーズーヤが肩を落として舞台から降りる。


 次いで舞台へ上がったのはヤンボルドだった。

 トルベック工務店が続くな。


「オレ、好きになったら一途。尽くすタイプ」


 何の話を始めたんだ、このウマ男。

 誰がお前の恋愛話に興味なんか――


「頼まれてもいない部屋の掃除を、家主がいない隙にこっそり忍び込んでやっちゃうくらい尽くす」

「怖ぇよ、ヤンボルド!?」

「忍び込むのも、忍び込んだ痕跡を完全に消し去るのも、実は得意」

「だから怖ぇって! ただ、怖いのベクトルそっちじゃねぇーんだわ!」


 パーシーみたいなヘタレでもパーシーみたいに抜けているわけでもないから余計怖い。ただのストーカーは心底怖い。

 ……深い意味はないが、部屋に個別の鍵が欲しくなってきた。


「ヤンボルド、『冗談でした』って宣言してからさっさと舞台を降りるッス」

「そう、冗談。みんな、冗談…………ふふ」


 ウーマロに睨みつけられてヤンボルドは舞台を降りていく。

 ……本当に冗談なんだろうな。

 しかし、ウーマロを審査員に入れといてよかった。あいつ、よくあんな連中をまとめ上げてるよな。ちょっと尊敬しそうになって踏みとどまったぜ。


「ウーマロ、踏みとどまったから勘違いすんなよ」

「何がッスか!? よく分かんないッスよ!?」


 俺に尊敬されようなんて十年、いや、十二年早いぜ。


 それから、参加者が順番に舞台に立ち、拙いながらもオバケの話を語る。

 ナタリアの語りを参考にしたのか、声を作ったり、間を空けたり、小細工をするヤツが現れ始めた。

 成功してるヤツはほとんどいないけどな。


 十組程度の話が終わる頃には、ナタリアショックも完全に薄れ、ユニークなオバケ話には笑いが漏れたりしていた。


「子供たちが一番怖がっているのは、お布団に濡れた地図を描くオバケで――」と、ベルティーナから聞いたのと同じ話を語る主婦がいて、それには子を持つ母親連中が声を出して笑っていた。

 一緒にいるガキは苦々しい顔をしている。大きくなっているヤツほどそれは顕著で、いくつになっても言われ続けているんだなってのがよく分かった。


 祭りが大好きな顔馴染みも大勢参加していた。

 モーマットがお手伝いのハムっ子を連れて舞台へと上がる。

 自信があるのか、口角を持ち上げて舞台上の俺へ視線を寄越してきた。


 何か策があるようだな。

 そのハムっ子をどう使うのか、お手並み拝見というこうか。


「新月の夜、畑に行くと……植えた覚えのない野菜が花を咲かせているんだ。月もないのにその白い花は淡く光を放ち、耳を澄ませば『ぼそぼそ……ぼそぼそ……』って何か声が聞こえる。よく聞き取れないんだが、その声は土の中から聞こえてくるんだ。それで、まさかと思って、でも確認しなきゃと思ってよ――」


 そこで、モーマットはしゃがんだハムっ子の頭を掴み、一気に引き上げる。


「こうやって、花の根元を握って、一気にその根を引き出すと――」

「きああああああっ!」

「って、苦悶に満ちた人間の顔みたいな根っこが悲鳴をあげるんだ!」


 ハムっ子をマンドラゴラに見立てたこの寸劇。

 その評価は――


「「「かわぃい~!」」」

「いやいやいや! おかしいだろ!? 怖いだろ!?」


 いや、モーマット。

 ハムっ子にそれをやらせても怖くはねぇよ。

 むしろ、会場の反応の方が正解だよ。


 なので、俺も精一杯可愛いマンドラゴラを描いてやった。

 まるっこい大根のようなフォルムのマンドラゴラだ。

 地方自治体がゆるキャラとして採用すればふるさと納税が全国から集まってきそうなほどの可愛いクオリティだ。グッズ、作ってもいいぜ。


「違ぇよ、ヤシロ! もっと禍々しい顔なんだよ! 苦悶に満ちた人間の顔でよ! 一目見るだけで絶望して気を失っちまうくらいの……!」


 熱く語るモーマットを無視して、マンドラゴラ役のハムっ子をしゃがませて引っこ抜く。


「きぁあああああ!」

「「「かわいい~!」」」

「これが世論だ」

「くそぉ……俺ぁガキの頃、こいつが怖くて日が暮れたら畑から逃げるように家に帰ってたってのに……」


 なるほどな。

 農家のガキがいつまでも外で遊ばないように作られた物語なのか。


「レジーナ。マンドラゴラって実在するのか?」

「おるで~」

「ぅへぇぇえ!? マジか!?」

「マジやで~、ワニの農家はん」

「マジでいるのかよ!? アレって子供を怖がらせるための方便じゃないのか!?」

「年間数名やけど、犠牲者もおるんやで」

「怖ぇ!? やっぱめっちゃ怖ぇよ!」


 会場のすみっこに待機しているレジーナに尋ねると、さも当然という顔で存在を認めた。マンドラゴラは実在するらしい。やっぱ薬の材料にでもなってるのかね。


 今回のオバケコンペは内容が濃く、長丁場になることが予想されていた。

 だから一応レジーナを待機させている。

 もっとも、そのためにレジーナ用に屋根付きの観覧席が作られたんだけどな。運動会の時の救護テントの使い回しなのだが。

 領主より優遇されてるな、あいつ。ただの日光嫌いな引きこもりなのに。


 ふと見ると、ジネットが観客席からいなくなっていた。


「ジネット……そんなにモーマットの話を聞きたくなかったのか……」

「違ぇよ! ジネットちゃんは調理場に行ったんだよ! そろそろ昼時だから!」


 必死な形相で調理場を指差すモーマット。

 んだよ。知ってるよ。そろそろ俺も腹減ってるし。

 でもな、モーマット。


「だからといって、ジネットがモーマットを嫌いではない証拠にはならない」

「泣くぞ!? ジネットちゃんに嫌われたら、俺は本気で泣くからな!?」


 こいつは、ほとほとメンタルの弱いヤツだ。

 洪水による不作の時も、俺をダシに金策しようとしてマグダに怒られてマジ焦りしてたしな。必死だったなぁ、あの時のモーマット。

 モテなくていいから嫌われたくないって思いがにじみ出している。


「だからモテないんだよ、お前は」

「うるせぇよ! お前みたいにいろんなところからモテるよりは平穏な方がマシだ」

「なんだよ、それ?」

「領主様やギルド長に追いかけ回されるとか……俺だったら胃が死ぬ」


 俺の胃も何度も死にかけてるわ。

 特に某狩猟ギルドの某メドラ。……アレ、見る度に視力が落ちてる気がするんだよなぁ。


 けど、領主ってなんだよ?

 俺がどこの領主にモテてるってんだ。言いがかりも甚だしいわ。


「モーマット。お前には、リカルドが俺に惚れているように見えるのか? レジーナの病気が感染したんじゃないか?」

「なんで四十一区だ!? 他にあるだろう、思い当たる区が!」

「せやねん! よぅ分かってはるなぁ、ワニの農家はん! やっぱ二十九区はんとの三角関係が今は激熱やねんな!」

「ほら、モーマット。お前の話が発端だから責任持って相手してこい」

「ちょぉっと、待て待て待て! 俺に責任なんかねぇだろ!? つか、無理無理無理! 二人きりはまだキツイ! なに話していいか分かんねぇよ!」

「えらい言われよぅやなぁ、キツイなんて酷いわぁ……」


 頬に手を当て、よよよ……と泣く素振りを見せつつ、レジーナが懐から妙に『こんもり』した袋を取り出す。

 心なしか『こんもり』が蠢いている。


「何も話さんでも大丈夫やで? ただ黙ぁ~ってこのちょこっとだけ怪し~い薬飲んでくれたら、ウチ勝手に観察するさかいに」

「だってよ、よかったなモーマット」

「何一つよくねぇよ! バカっ! 押すな! 落ちる! 落ちるから!」


 口のサイズがデカイばっかりに失言の多いバカワニを舞台から突き落とす。

 大丈夫。この程度の高さなら怪我もしない。

 中学校の体育館の舞台くらいの高さだ。


 まぁ、突き落とされたらそれなりには怖い思いはするだろうが……甘んじて受けとけ、それくらい。


 いくらレジーナでも「キツイ」はキツイだろうが、え、こら、ワニ。

 ちゃんと冗談だって分かるニュアンスで言えよ、そういうことは。

 俺、ちょっとイラッてしちゃったぞ?


 そう思っていると、エステラが小さくため息を吐いて、座ったままモーマットを見上げる。


「モーマット……謝っておいでよ」

「俺、何か悪いこと言ったか? 俺は悪くないよな?」


 舞台の下でエステラに言われ、モーマットが困惑している。

 審査員席のテーブルにヒジをついたまま、笑顔でエステラが問う。


「……ヤシロに好意的な領主のくだり、もう少し詳しく話してくれるかい?」

「え? あ、いや、違う違う違う! あれは別にエステラのことじゃなくて……」

「エステラのことではなく……なんだ?」


 エステラの背後にルシアが立っている。

 目は『すわって』いるけどな。


「…………ごめんなさい」

「ボクらのことはいいけどさ」


 と、一切大目に見る気がなかったエステラが肩をすくめて優しい人のフリをしている。

 怖いわぁ、あぁいうタイプが一番怖い。


「二人きりはキツイっていうのは、いくらレジーナでも可哀想じゃないかな?」

「え……あっ、いや、そんなつもりは全然! いや、マジだぞ! そんなつもりじゃないからな、レジーナ!」

「あはは、んなもん、気にしてへんわな」


 とか言って手をぷらぷら振るレジーナだが、嘘だな、あれは。

 あいつは何気に『一緒にいるのを拒まれる』のを寂しいと思うヤツなのだ。

 自分は誰かと一緒にいるのを全力で拒んでるくせにな。


「ほんま、こんなん些細なことやのに……過保護やなぁ、お二人はんは」


 言いながら、エステラと、なぜか俺へと視線を向ける。

 俺は何もしてねぇだろうが。


 俺は舞台の上からモーマットを見下ろして言ってやる。


「分かったかモーマット。レジーナと一緒にいるとメンドイとか疲れるとかたまに殺意覚えるとか、本当のことを言うと可哀想なんだぞ」

「いや、言ってねぇよ! つか、お前が酷ぇよ!」

「そうだよ、ヤシロ。誰もレジーナは危険人物というより卑猥人物だとかいっそ口をまつり縫いすればいいのにとか薬剤師ギルドから半径10キロは少年少女の立ち入りを禁止にすべきだとか、本当のことは言ってないんだよ」

「さらに輪をかけて酷ぇな、エステラ!?」

「な~んや、二人とも、照れ隠しかいなぁ~。ホンマ、衆人環視の中で【自主規制】したろか思うほど可愛かわえぇ~なぁ~」

「お前も否定しながらさらっととんでもない発言してんじゃねぇーよ!」


 モーマットがうるさい。


「「モーマット、声がうるさい」」

「せやね」

「ちきしょー! お前らと絡むといっつもこっちが損をする!」


 足音を荒らげながら、モーマットが退場していく。

 だが、途中で振り返り――


「でも、すまなかったな、レジーナ!」


 と、デカイ声で謝罪する。 

 素直なんだよなぁ、基本は。

 まぁ、素直とバカは紙一重だしな。


 レジーナがちょっと照れくさそうに手をふって日陰のさらに奥へと引っ込む。

 やれやれ、なんて事態の収拾を感じていると、まだくすぶっているらしい面倒くさい火種に声をかけられた。


「カタクチイワシ」


 エステラの背後に立ち、腕を組んで舞台上の俺を睨みつけているルシア。


「謂われなきただの噂など、真に受けるでないぞ」

「分かってるよ」

「どうだかな。こちらが迷惑を被ることになるゆえ、期待などするでないぞ」

「誰がするか」

「それに、二十七区という可能性もあるしな」

「あのイリュージョンおっぱいにモテるんなら、望むところだけどな!」

「えぇ……考え直した方がいいよ、ヤシロ……」


 え、なに、エステラのその酸っぱそうな顔?

 何があったんだよ、俺らが知らない時に。

 そんなメンドクサイ仕上がりなの、あれ?


「ふん……一小市民の戯れ言とはいえ、不愉快な気分にさせられたな」


 苛立たしげなため息を漏らして、俺を指差した後、手首を百八十度返して人差し指を上向きにくいっくいっと折り曲げて俺を呼ぶ。


「詫びの代わりにランチを奢らせてやる。貴様のお勧めを速やかに紹介し、私に献上せよ」

「素直に『一緒にお昼食べよ~』って言ってみろよ、ルシア」

「戯けたことを抜かすな、カタクチイワシ! ほら、さっさとせよ! お腹と背中がくっつくぞ!」

「……胸と背中はもうくっつきかけのくせに」

「よぉし、ヤシロ! ボクのお昼も奢らせてあげるよ、感謝して献上するように!」


 うわぁ、領主が横暴だよぉ。

 権力を振りかざしてやりたい放題だよぉ。


 げんなりする俺の耳に、誰にも聞かれまいと必死に声を押し殺したのであろうウーマロの言葉が届いた。


「……どう見ても領主様にモテてるッスよね」


 よし、ウーマロの財布を使うことにしよう。はい、決定!

 ……エステラとルシアにバラされたくなければ金を出せ、ウーマロ。ぷんぷん!



 ……つか、あいつらもさぁ、噂されるのがイヤなら、もうちょっと自覚と自重しろってんだ。



 うん、俺は悪くない!


 俺の無実が俺の中で確定されたところで、オバケコンペは一時中断して、お昼タイムを取ることになった。







あとがき




どうも!

お盆なので現世に戻ってきている宮地です!


ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ!

キュウリ「ひひーん!」

他所様の先祖「まだこんなところで油売ってんのか? もうお盆、終わっちまうぜ。ったく。今ならまだ間に合うぜ……乗れよ(キュウリに)」


的なイケ霊に同乗させていただいて、ぎりぎりお盆に間に合いました。


いや~、方向音痴なもので、うっかり黄泉比良坂転がり落ちちゃって。てへっ!

よかった間に合って☆



そんな不思議体験しちゃうんじゃないかって妄想が広がる夏休み!

皆様イカとお過ごしですか?


イカ「あっつぅ~……オレ、マジもうダメ。ちょっと冷凍庫入ってくるわ」

私「え~、お前自然解凍しなきゃいけないからメンドイんだけどなぁ~」


イカと過ごす夏2019。



とかなんとか言っている間に、レビューをいただきました!!

2019年 08月 12日 21時 03分の方!


夏休みだからかもしれませんが、こう、通知表の担任欄にいいことが書いてあった時のような、そんな気恥ずかしさと嬉しさを感じました。

あくまで『個』としての意見を逸脱せず、だからこそ説得力があって、誰に何を言われようと揺るがない力強さを感じました。押しつけがましくないのに聞き入ってしまうような魅力的な語り口が印象的でした。そうなんです、文章なのに言葉として聞いているような、そんな生っぽさを感じました。

最後の段落は、経験者から未経験者へのアドバイスのようで、この一段落の存在がレビューをぎゅっと引き締めているように思えました。


言いたいことに焦点を絞ったブレのない潔さに満ちたレビューでした! ありがとうございました!!



というわけで、しっかりとおさらいをしておきましょう!

リピートアフターミー――



あとがきは別腹で!



はい、皆様、よ~く覚えておいてくださいね。

取っておいて、後日でも構わないんですよ。あとがき。

あ、ただ、この季節はきちんと冷蔵庫にしまっておいてくださいね。足が早いので。


「生魚か!?」

「え、生魚って足早いの?」

「はやいよ」

「じゃあ、女子にモテるじゃん!」

「いや、小学生か!?」

「よし! 俺、将来小学生の生魚になる!」



将来の夢:小学生の生魚



担任「(ぷるるるる……)あ、宮地君のお母様ですか? 申し訳ないのですが、ちょっと学校までご足労願えませんかと……いえ、宮地君のことで……えぇ、彼の将来に関しましてお話が……」



私「そうして、なんやかんやあって、今こうしてお話を書いているのです」



出版社の皆様、

自叙伝の執筆依頼、お待ちしております☆




そんなわけで、本編ではオバケコンペが始まりました。

怖い話になるかと思いきや、基本可愛い感じです。


初っ端の本気モード給仕長を除けば。


語りの上手い人の怪談って、引き込まれるんですよねぇ。


昔、子供のころに『てめぇらがぜってぇー知らねぇ世界(意訳)』という番組がありまして。

いや、某番組の一コーナーだったんですけど、

夏休みはそれが楽しみで。

毎日欠かさず見てました。


あの頃は怪談特番とかいっぱいあったんですが

最近はとんと減りましたよね。

技術が上がり過ぎちゃって、加工とか、誰でも出来ちゃう昨今、

本物でも「つくったんじゃねーのー?」と思われてしまうのですからしょうがない。

もう、私たちが知らない世界なんて、ないのかもしれませんね……


ならいっそ、

「みんなが知ってる世界」とかやればいいのでは…………




再現VTR


少女「あれは、ある年のお盆。とても暑い日のことでした」


(SE:セミの声)

――炎天下をとぼとぼ歩く姉と弟二人


少女(スカートにタンクトップ)「暑い……」

双子の弟・カナメ「姉ちゃん、喉渇いた……」

双子の弟・ジュン「コンビニで飲み物買おう」

少女(タンクトップに汗)「……だね。じゃあ、あそこのコンビニ行こう」


――コンビニ。自動ドア「ウィーン」


少女(汗しっとり)「わぁ……涼しい~」

カナメ・ジュン「「すずし~」」


コンビニは、ドアが開いた瞬間が……一番涼しく感じました。



――スタジオ

コメンテーター「分かるぅ~」

司会者「知ってるぅ~」



こんな感じで!

うん、一切怖くない!?

けど、むしろそれでよくない!?

あとはタンクトップを視聴者プレゼントにでもすれば! はがき、送りますよ!?


あ、再現VTRに登場する人物やお店はすべて架空の物ですので、似ている人とかがいても一切関係ありません。



あ、あと、夏と言えば、

縁側で、ぐでぇ~っとしているうちにいつの間にか寝ちゃっている系女子、

あれがいいんです! たまらないんです!

だらけ具合が!

寝て起きたら夕方で「うわぁ……寝ちゃったなぁ」みたいなちょっとした後悔と気だるさがまた、いいんです!

都会から遊びに来てた親戚の少年(同じ歳)とかに起こされる感じとかがね――



――夕暮れ。縁側。ウチワを片手に居眠りする少女。スカートは短いのにギリギリ見えない!


少年「おい。起きろよ。風邪ひくぞ。起きろって、ジュン」

少女「ん、んん…………カナメ君?」

少年「バーちゃんが、もうすぐメシだって」

少女「ん……わかった」

少年「…………(じぃ~)」

少女「……ん? なに?」

少年「……よだれ」

少女「っ!? ……見んな、バカ(ウチワ投げつけ)」



んなぁぁあああ!

こんな親戚欲しかったなぁ!


――スタジオ

コメンテーター「分かるぅ~」

司会者「知ってるぅ~」




というか、

夏の夕暮れって、もうそれだけでなんかいいですよね。

楽しいのと物悲しいのと、充実感と疲労感、昼が終わるのが残念だけど夜が来るのが楽しみな感じとか……そんなものがみんな一緒くたになって、あの一瞬のために全力で夏を生きているような、そんな感じが。すごく好きでした、子供のころ。

そんな夏の一瞬を思い出すと、キラキラ輝いていて……


虫の声を聞くと、思い出すんですよねぇ……



――夏の夕暮れ。


ヒグラシ「カーナカナカナカナカナメジュン」



――スタジオ

コメンテーター「分かるぅ~」

司会者「知ってるぅ~」




そんな三本立て、「みんなが知ってる世界」を製作すればきっと視聴率が取れること、

そしてとある俳優さんの仕事が増えること間違いなしです! 誰とは言いませんが!



そんなノスタルジーに浸りながら、

今年のお盆を過ごしました。


なかなか実家には帰れないのですが、

また、あのド田舎であふれるようなセミの声に包まれてみたいものです。

東京では、セミの声すら滅多に聞こえませんからね。


ヒグラシの声を聞きながら、夕暮れの帰り道をとぼとぼ歩く、なんて風流ですよね。



ヒグラシ「ナメジュンナメジュンナメジュンナメジュン」


私「うむ、風流である」

友人「え、今の何!? ちょっと怖いんだけど!?」

私「ははっ、都会っ子め」



と、いつか都会で出来るであろう友人を地元に招待したいものですなぁ。

えぇ、きっとそのうち出来ますので、そう遠くないうちに、きっと、たぶん。




次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海


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