無添加68話 それはたぶん筋肉のせいです
「私、筋肉が付いたんです。きっとそうなんです」
午後の客が少ない陽だまり亭。
フロアの端っこの壁に向かう席に一人座ってモリーが現実から目を背けている。
「お兄ちゃん、モリーちゃんどうしちゃったです?」
「あぁ、デリアの体重が予想より重かったことを不思議に思ったモリーにな、『贅肉より筋肉の方が重いから、痩せていても体重が重くなることはよくあることだぞ』って教えてやったら……あぁなった」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ。厳戒態勢の中体重計に乗った直後からな」
「いや、そうじゃなくて、筋肉の方が重いです?」
「厨房の牛肉で試してみろよ。同じ大きさの赤みと脂身だと、赤身の方が断然重いぞ」
「そうだったですか! あたしも運動会でちょっと筋肉ついたですね!」
「……お前、ちょっと太ったろ?」
「どきぃ!? そ、そそ、そんなことはっ、決してあんドーナツのつまみ食いのし過ぎじゃないです、たぶん!」
ここにもいたか、意思の弱い系女子。
「わたし、筋肉が育ったんですね」
「……ヤシロ。店長がモリーと同じ症状に」
「あぁ、マグダ。ジネットに教えてやってくれ。お前の体重の半分はおっぱいだって」
「そんなことないですよ!?」
「店長、また育ったですか!?」
「育ってません、胸は! ………………うぅっ」
『胸は』と言ったことで、自分で胸以外が育ったことを認めてしまったジネットがテーブルに突っ伏してしまった。
「運動会で、あんなに運動しましたのに……」
「その前後でちょっとカロリーを取り過ぎてたんだろうな」
思い返せば、運動会が始まる前からパンの試作が始まり、パン食い競走をしたり、あんドーナツやカレードーナツ、ホットドッグの試食なんかが畳み掛けるように舞い込んできたのだ。で、今朝はピザも食ったろ。
さらに思い返してみれば、素敵やんアベニュー関連で新しいヘルシー料理の試作をしたり、ノーマのダイエット料理のメニューをノーマと一緒に考案したり、ここ最近ジネットは何かと食べる機会が多かった。
ただでさえジネットは、普段から「お料理をしているとお腹が空かないんです」とか言って小食だったのだ。ここ数日間の食事量の方が、ジネットにとっては異常だったのだ。
「おまけに、素敵やんアベニュー関連の料理はオシナが、ダイエット料理はノーマが作って、パンはパン職人、新ドーナツはマグダとロレッタが練習してじゃんじゃん作っている状況だから、ジネットはほとんど料理をしていない」
以前と比べると随分と少なくなっている。
今日なんか、朝食の下ごしらえをしたくらいだ。昨日はノーマたちに代わってもらってたし。
「作ってないからお腹空いちゃったです?」
「……店長は、ちょっと変な娘だから」
「そんなことないですよ!? マグダさん、それは語弊がある表現です」
突っ伏していた上半身を起こし、椅子から立ち上がって、ジネットはグッと拳を握る。
「でも大丈夫です。今から、そうです、今この瞬間から今までどおり誠心誠意お料理と向き合えば、すぐに元通りになります!」
そんな意気込みを後押しするかのように、陽だまり亭にお客が入ってくる。
「ごめんくださ~い」
「いらっしゃいませ! ようこそ陽だまり亭へ!」
「カレードーナツを二つください」
「……少々お待ちください」
「はい、お待たせしたです! たった今出来た、揚げたてほっかほかです!」
「……店長、お会計」
「…………はい」
ジネットの意気込みを挫くように、カレードーナツを手にした客はほくほく顔で去っていった。
料理をさせてもらえない。
「……はうぅ…………」
そうして、近場にあったテーブルに再び突っ伏すジネット。
「店長、元気出してです」
「……はい。分かってはいるんですが……」
「……そのように、椅子に座って上半身をかがめていると、お腹の肉が二段、そして三段に……っ」
「シャキッとしましょう!」
シャキッと立ち上がったジネット。
あぁ、腹が『のっかる』感触って、いろいろな後悔を引き寄せるよな。
けど、ある程度ゆとりがあるのが普通の状態だからな?
背中を丸めても段にならない腹はちょっと痩せ過ぎだ。
「けど意外だな」
あんドーナツをもそもそと貪り食いながらデリアがジネットを不思議そうな目で見つめている。
あぁ、うん。ついてきちゃったんだ。
え、仕事?
さぁ。川漁ギルドの連中が笑顔で手を振ってたから特に問題ないんじゃないかな。「今日の作業はもうほとんど終わってるんです!」「ここから先は親方の特訓タイムだったんです!」「急用? どうぞどうぞ! 親方が必要なんでしょう!? お連れしてください! いえいえ、遠慮なさらず! 是非に! 是非に!」と、押しつけられ……いや、見送られたから、まぁ、大丈夫なんだろう。
……デリア、怖がられてるだけで、嫌われてはない、よね?
今度オメロにきちんと確認しておこう。うん。
で、デリアが何を意外がっているのかと言うと。
「店長もそういうの気にするんだな?」
「そりゃあ……」
唇を尖らせて、チラッと一瞬だけジネットの視線が俺を見て、即座に体ごと逸らされる。
「ちょっとは気にしますよ。わたしだって、オシャレとか、興味がないわけではないんですから……」
そうか。
ジネットもオシャレとか気にする年頃になったのか。
出会った頃は、パンツのふりふりにしか興味がないのかと思っていた。
「でもさ、店長は優しいし、料理も美味いし、家事も出来るだろ? あたいには出来ないことなんでも出来るしさ、ちょっとくらい太ったって欠点にならないと思うけどなぁ。おっぱいも大きいしさ」
「家事の技能と容姿やオシャレは違いますもん……」
「けど店長さん、可愛いですし、おっぱい大きいですし、容姿もばっちりだと思うですよ」
「そ、そんなこと……っ! わたしは、別に……可愛くなんて……」
「……店長はメイクをするとグッと美人になる。おまけにおっぱいも大きいので文句の付けようがない」
「美人だなんて……さすがに言い過ぎです……」
「けど、おっぱい大きいしなぁ」
「はいです。大きいです」
「……最強」
「もう! みなさん、ヤシロさん基準で語らないでくださいっ!」
「おいこら、ジネット」
俺、今回すっごく言いたいのを我慢してたのに!
俺が「おっぱい大きい」って言った瞬間「懺悔してください!」が飛んでくると思ってたから!
くっそ、こんなことなら混ざっとけばよかった!
「私なんて、おっぱいも大きくないですからね……」
一人、遠くの席でモリーが黄昏れている。
「「「「大丈夫、エステラよりは大きい」」」」
「みなさん……エステラさんに謝ってください」
ジネットに「めっ!」と怒られた。
「とりあえず、モリーも店長も運動すればいいんじゃないか?」
ぺろりとあんドーナツを平らげたデリアがなんてことはないような顔で言う。
「モリーの体が治ったら軽くジョギングしに行くか」
「ジョギング……です、か」
不安そうにジネットの瞳が揺れる。
そうだよな。ロレッタたちのダイエット合宿の時に、デリアの『軽く』を見ていると恐怖しか湧いてこないよな。
「ちなみに、距離はどれくらいですか?」
「ん~……細かい距離はよく分かんないけど、手っ取り早く痩せたいんなら、ルシア様んとこでも遊びに行くか?」
「「三十五区ですか!?」」
ジネットとモリーの声が揃った。
「それが、『軽く』なんですか?」
「軽ぅ~い感じで三十五区まで」
ジネット。お前も知ってるだろ?
こいつの言う『軽い』『優しい』って、距離とか難易度じゃなくて、心持ちの話なんだよ。
軽い気持ちで100キロマラソンとか、そんなノリだから。
「さすがにそれは……領主様のところに『遊びに』というのも、引っかかりますし」
「モリーちゃん、残念な片鱗が見えてもそういうところはちゃんとしてるです」
「……失われない常識が垣間見えて安心する」
そんなどうでもいいところで感心しているロレッタとマグダ。
そんな声も聞こえていないのか、ジネットは青い顔をしてボーッとしている。
みんなで荷車を曳いてほぼ一日かけて歩いていった三十五区までの道程を思い返していたりするのだろうか。
それをジョギングでなんて、まぁジネットには無理だ。
「あのぉ……」
そろそろと、ジネットがゆっくりと挙手をする。
遠慮がちに、後ろめたそうに、中途半端な位置に、こっそりと。
「わたしは、少し食事制限をすれば元に戻ると思うので……運動は、その……」
「店長さん!」
ガシッと、ロレッタがジネットの両肩を掴む。
真正面から真っ直ぐにジネットの瞳を覗き込む。
「食事制限のダイエットの危険性を教えてくれたのは店長さんです!」
「いえ、あの……はい、それはそうなのですが……限度を見誤らなければ、特に問題はないかと……」
「もしっ、そんなダイエットで店長さんが倒れでもしたら…………あたしは、自分の身を切るような罰を店長さんに与えなければいけなくなりますっ」
身を切るような罰。
それは、ジネットが陽だまり亭を休みにしてまでロレッタたちに課したダイエット計画のことを指しているのだろう。
あれで、ロレッタが一番つらいと思ったのが、ジネットに身を切らせたことだったのだろう。
そんなロレッタの覚悟を受けて、ジネットはこくりとのどを鳴らし、そして――
「う…………うんどう、しま、……す」
泣きながらそう宣言した。
口にした直後から後悔の念が顔に表れている。
……まったく。
「ジネットの運動神経でデリアの特訓に挑めば、空腹で倒れるより高確率でジネットが寝込むことになるな」
「……でしょうね。わたしもそう思います」
ジネットもその自覚があるようで、運動音痴に配慮なんかされないデリア流の特訓についていけるわけもないのは誰の目にも確実で、よって仕方なく――
「……はぁ。俺がカリキュラムを組んでやる」
「ありがとうございます!」
――仕方ない。そう、仕方ないことなのだ。
ジネットを欠いては、陽だまり亭は立ち行かない。
存続の危機だ。
「ヤシロさん! 私も! 是非私のカリキュラムもお願いします!」
モリーが必死な形相で訴えかけてくる。
デリアの規格外さを肌で感じたのだろう。
「んじゃあ、デリア。俺がメニューを考えるから、それを教えてやってくれるか?」
「あたいの考えた特訓じゃなくてか?」
「その『お前の考えた特訓』を受けたオメロはどうなった?」
「寝込んだ。あいつ軟弱だからなぁ」
「この二人はそのオメロより軟弱なんだ」
「あはは、まっさかぁ!」
お前、デリア……あの2メートル超のアライグマ人族よりジネットやモリーの方が頑丈だと本気で思ってるのか?
オメロの評価、どんだけ低いんだよ、お前の中で。
「あと、バルバラも参加させるから、四十一区の面々と一緒に体操させてやってくれ」
「おう! 任せとけ!」
デリアは加減が出来ないだけで、与えられた仕事はきちんとこなしてくれるんだよな。
まぁ、デリアの場合は他の女性陣がへばるような運動を楽々とこなしてみせることで、「これが出来るようになる頃には、私もあんなナイスバディに!」という目標になってくれるって部分でも重要なんだけどな。むしろそっちがメインだ。
「んじゃ、夕方までどうしようか? あたい、なんかやることあるか?」
四十一区の女性たちが来るのは夕方だ。
「昼飯時に~」なんて話をしていたバルバラだったが、畑仕事を終わらせてから合流したいという申し出があり、夕方に合流することになっている。
それまでは暇になるわけだが……
「それじゃあ、デリアさん。お願いがあるです」
ロレッタが手をぽふっと叩いてデリアに「お願い」のポーズを取る。
隣にはマグダも並び、デリアに助力を要請する。
「この後、教会と近隣の子供たちにドーナツを配りに行くです」
「……規模の小さいパン祭りならぬドーナツ祭り」
「なんだ、またヤシロが子供らを甘やかしてんのか?」
「違う。食い物を無駄にしないための無償労働力の有効活用だ」
「ん? なに言ってんだ、ヤシロ?」
「照れ隠しです」
「……いつものこと」
「だから……違うっつぅのに」
勝手な解釈を広める二人にため息を漏らしつつ、そんな二人の気遣いに微かに頬が緩む。
ジネットを教会に連れて行けば、きっとガキどもが群がってジネットと一緒にドーナツを食いたがるだろう。
そしてジネットはそれを断れない。
また、ベルティーナは少し元気のないジネットに目敏く気が付いて胸を痛めるだろう。
隠す……っていうと心証が悪いが、今は少し時期が悪い。
こんな状態のジネットをガキどもには見せない方がいい。
俺は懐から銅貨を一枚取り出して厨房へと向かって放り投げた。
「ヤシロさん? 一体何を……」
「あー、しまった! お金が飛んでいってしまったー」
全員の目が俺に集まる中、俺は言葉を続ける。
「『もしかしたら』竈の中に転がり込んだ『かもしれない』なぁ。『もしそうなら』竈の火を一旦落として探さなきゃー。うわー、俺、1Rbも無駄に出来ない倹約家なのにー! 今すぐ見つからないと気が気じゃなくて仕事出来ないかもー」
そんな俺の言葉を聞いて、マグダがふぁさりと尻尾を揺らす。
「……それは大変。では、しばらくの間、竈は使えない『かもしれない』」
「なるほど。これは店長とお兄ちゃんは残って竈の対応をした方がいいですね!」
マグダの言葉にロレッタが乗っかる。
ジネットは目をぱちぱちと瞬いて、小首を傾げる。
「……そのように子供たちには伝えておく」
「そうすれば、子供たちもシスターも店長さんの不在に不安を覚えないですよ」
「……あ」
ガキどもは、ジネットがいないと毎回決まって「ジネットねーちゃんはー!?」「なんでいないのー!?」と喚くのだ。
そんな時、「ジネットは今、店の竈を使えるようにしている」と言えば、「なら仕方ないか」という空気になってくれるだろう。
ガキどもは「仕事だ」と言えば、文句は言うが駄々はこねない。そこら辺の教育はベルティーナがしっかりしているからな。
まぁ、ベルティーナには何か勘付かれるかもしれないが……ジネットくらいの年頃の悩みだ。一定の理解は示してくれるだろう。
それから、マグダたちは素早く出発の準備を整える。
「それじゃ、行ってくるです!」
「……留守は任せた」
「あたいがしっかり面倒見てきてやるからな!」
大手を振って、大量のドーナツを抱えた三人娘が店を出ていく。
扉の前で見送って、声が遠ざかっていったところで店へと入る。
ぱたんとドアが閉まると、ジネットが「はぁ……」とため息を漏らした。
「気を、遣わせてしまいましたね」
そう言って、弱々しい笑みを俺に向ける。
「ありがとうございます。ヤシロさんも」
「まぁ、食い過ぎがよくないのは確かだからな」
「ですね。……反省します」
肩をすくめるジネット。
モリーも気まずそうに頬を搔いている。
そんな二人を椅子に座らせて、俺はその前に立つ。
「夕方から、デリアのシェイプアップ体操を受講してもらうわけだが」
その時の心持ちに関して、俺は一言言っておく。
「ジネットの言うとおり、数日節制すればジネットは元の体重に戻るだろう。数日食い過ぎただけだからな。けど、お前は筋肉がなさ過ぎる。基礎体力を付けるつもりで受講しろ」
「そうですね……来年の運動会で、筋肉痛にならないくらいにはなっておきたいです」
ははっ、そりゃ高望みが過ぎるぞ、ジネット。
目指す分にはいいけどな。
「モリーは、自分の家でも出来るように体操のやり方を覚えて帰るんだ。継続は力なりだ」
「はい。自分を律する心を鍛えるためにも、毎日続けてみます。……節制も、出来る限り」
忙しかったり疲れていたり、ちょっと嫌なことがあってイライラしていたりすると、予定を全部投げ打ってしまいたくなる。
そんな心の弱さに負けないようになると、モリーは言う。
一朝一夕では難しいだろうが、頑張るだけの価値はある。
「で、バルバラは協調性を養うために参加させる。とりあえず、遅刻しないようにあとで釘を刺してくる」
みんなと同じ動きを決められた時間行う。
それが出来るようになれば、多少は周りを見渡して空気を読む練習になるだろう。
張り切り過ぎたらデリアに活を入れてもらえばいいし。
「飯に関しては……そうだなぁ……」
厨房を見つめて、俺は眉根を寄せる。
「抜本的な改革が必要……なのかも、しれないな」
少々難しい問題に直面して眉間のシワが深くなる。
さて、どうしたもんか……
「あっ、そうだ。ヤシロさん」
俺の眉間のシワを見て、ジネットが柔らかい声を出す。
なんだ? と、ジネットを見ると、眉間のシワがなくなったのを確認したのか、ジネットの頬がほっと緩んだ。
「小銭、探しに行かなければいけませんね。なくしたら大変です」
「あぁ、大丈夫だ。調理台の上に乗るように投げたから」
たとえ、状況のでっち上げのためとはいえ、お金を地面に投げ捨てるのは少々気が咎める。
なので、壁や柱に跳ね返って調理台の上に乗るように加減して放り投げたのだ。
「え? そんなこと出来るんですか?」
「まさか……」
信じられないと言った表情でジネットとモリーが厨房に入っていく。
そしてほぼ同時に「あっ!」という声を上げた。
「……凄いです、ヤシロさん」
「本当に調理台の上にありました」
「だから、そう言ったろうが」
投げる時の角度と強さ、投げる物にかける回転で、おおよそ狙いどおりの場所に投げることは可能だ。指裁きの訓練のためにマスターしたマジックでは当たり前のように必要な技能だった。
「ちなみに、モリー。どれでも好きなテーブルを選んでみろ」
銅貨を返してもらい、モリーにテーブルを選んでもらう。
次いで、ジネットに四隅のどこか、もしくはど真ん中かを選んでもらう。
二人の意見を参考に、『入り口そばのテーブルのど真ん中』という場所が決まった。
俺はそこへ目掛けて銅貨を放り投げる。
一度テーブルで弾んだ硬貨が「キンっ……カラン」と硬質な音をさせて、入り口そばのテーブルのど真ん中に止まった。
「す、すごいです、ヤシロさん!」
「ヤシロさん、どうやってるんですか? 何か仕掛けが……?」
「仕掛けはない。ただの慣れだ」
言いながら、先程の銅貨の上にもう一枚の銅貨を放り投げる。
「カチャリ……っ」とくぐもった銅の音がして、二枚の銅貨がぴたりと重なる。
「さっきの銅貨の上に乗りましたよ!?」
「それも、綺麗に二段重ねに!?」
三枚目から急に難易度が上がるんだが、まぁここまででいいだろう。
ズレるんだよな、三枚目を投げると二枚目が。
驚いているようだし、これくらいでいいだろう。
「継続すれば、結構不可能ってないんだぞ」
「私、頑張ります!」
「あのっ、わ、わたしも!」
素直なモリーと、単純なジネットが揃って拳を握る。
その意識が、微かに自身のお腹に向かっているような気配を感じる。
うんうん。やる気が出たようで何よりだ。
「ヤシロ~いる~?」
がらんとした陽だまり亭にエステラが入ってくる。
入ってすぐのテーブルに積み重ねられている二枚の銅貨に視線を向ける。
「触るな。俺のだ」
「なにを遊んでるのさ?」
「違うんです、エステラさん! ヤシロさん、凄いんです!」
「はい! 人間業とは思えない所業でした!」
「いや、ヤシロが人間離れしてるのは知ってるけどさ……」
誰が人間離れしとるか。
エステラを適当な席に座らせて、俺は大切なお金をきっちりと回収しておく。
ジネットが厨房へ戻りお茶の準備をして戻ってくる。
「ウチのお茶、1Rbなんだけどなぁ……」
「ちゃんと払うよ……うるさいなぁ」
渋い顔をして、エステラが俺に手紙を押しつける。
「んだよ?」
「ラブレターだよ」
「俺にか?」
「読めば分かるよ」
そう言われて、丸められた羊皮紙を広げる。
そこには、三十五区領主のエムブレムが刻印されていた。
ルシアから?
俺は手紙の内容を目で追った。
カタクチイワシ
三十五区へあんドーナツとハム摩呂たんを献上せよ。
カレードーナツも忘れぬよう。
本日の夜までに指定の物を揃えて馳せ参じるように。
私にこき使われる栄誉を貴様にくれてやる。光栄に思うがよい。
追伸
今日、ギルベルタは館で一日体操着姿だったのだぞ。羨ましかろう。ふははは!
「羊皮紙を無駄遣いすんじゃねぇよ」
「うん。ボクもまったく同じ感想を持ったよ」
「というか、これ、……アイツ、夜に来るな?」
「うん。ボクもまったく同じ感想を持ったよ」
なんとも回りくどいやり方だが、「なぜ持ってこないのだ、カタクチイワシ!」と四十二区に乗り込んでくる予定なのだろう。
なに、あいつヒマなの?
「廃嫡しちまえばいいのによ、あんなの。三十五区の当主は何をしているんだ?」
「残念ながら、その『あんなの』が当主なんだよ」
「親の怠慢だな」
「一人娘らしいから、仮に父親が現役であったとしても廃嫡は選択肢になかったろうね」
「乳も無いくせになぁ」
「それには賛同しかねるけれどね」
ちぃ。最後で裏切られた気分だ。
「でさ、ヤシロ……何をしに来ると思う?」
「まぁ大方、あんドーナツの製法を教えろってところかな」
「だよねぇ。新しいパンの登場は確かに衝撃だったけれど、あんドーナツやカレードーナツはその上をいったからねぇ」
「そうなるように仕組んだからな」
あとから出された情報の方が記憶には残りやすいのだ。
特に、先に提示された物以上に優れている箇所がある場合はな。
今回で言えば、その安さが衝撃となった。似たような味なのに。
「けど、製法は渡せないでしょ?」
「ん~…………」
「『ん~……』って……。え、なに? ドーナツの製法を広めるつもりなの?」
「なんでだよ?」
「だよねぇ。ヤシロがそんな他人に利益をみすみす明け渡すようなマネしないよねぇ」
いや、「なんでだよ」ってそういうつもりじゃ……ま、いっか。
「ところで、どうしてモリーがここに?」
「砂糖関連の新商品が目白押しだった影響でな」
「あぁ……そっか」
「うぅ……エステラさん、視線が正直過ぎます」
自身の腹へと向かったエステラの視線に、モリーが表情を曇らせる。
「エステラさんは、凄くスタイルいいですよね?」
「出るとこ出ないで引っ込むところ引っ込んでるからな」
「ヤシロうるさい」
「どうやって体型を維持してるんですか?」
「乳に栄養が全部行ってるんだよ。でも全栄養を注ぎ込んでも尚育たないんだよ!」
「ヤシロ、うるさいっ」
ヒザをカカトでぐりぐり蹴られた。
貴族ってやーねぇー!
「ボクは人に見られる機会が多いからね。常に意識しているっていうのは、体のラインを保つのに大きな要素になってると思うよ」
「ナタリアなんか、寝る時全裸だから綺麗なスタイルしてるもんな」
「それとこれとは関係ないよ!」
「じゃあ、私も全裸に……っ」
「待ってモリー、落ち着いて!」
「えっ、もしかしてエステラも全裸で……?」
「ヤシロ、ほんっと、うるさい」
カカトのぐりぐりが強さを増した。
これが貴族の強権かぁ、怖いわぁ~。
「はぁ……セクハラ講習でも始めようかなぁ……」
「講師はレジーナか?」
「アレは受講すらさせない、隔離する」
なるほど。俺とほぼ同じ意見だな。
アレは関わらせちゃいけない。関わらせた時点でこっちの負けだ。
「あぁ、でもそうだな。エステラの意見にも一理あるな」
「え? セクハラ講習?」
「違ぇよ。全裸を見られるって話だ」
「そんな話はしていないよ」
「他人の視線を意識するってのは、体にいい緊張感を与えてくれるんだ」
モデルと一般人で笑顔の自然さが違うのは当然なのだ。
向こうはプロだから。もっと言ってしまえばそれが出来るからこそプロたり得るのだ。
筋肉は意識して使ってやることでその能力を十分に発揮出来る。
逆に言えば、意識してやらないと十分なパフォーマンスは望めない。
「ジネット、モリー。ちょっとお腹を出して大通りを歩いてみるか?」
「「絶対無理です!」」
半泣きで拒絶するジネットとモリー。
エステラもあきれ顔でため息を漏らす。
「そんなの、ボクだって嫌だよ」
だが。
「いいや。お前らには必ずやってもらう――」
今すぐじゃなくてもいいんだ。
ほんの少し先に『そーゆー予定』が入っていれば、嫌でも意識せざるを得ないだろう。
「お前らみんな、楽しいお祭りだぁ~い好きだろ?」
俺の満面の笑みを見て、その場にいた三人の女子が顔を引き攣らせた。
「……ヤシロ、どんな邪悪な企みをしているんだい?」
「ヤシロさん……とりあえず、考え直しませんか?」
「わ、私、他区の領民ですし……」
「大丈夫。『ヘソ周り、みんなで晒せば怖くない』ってな」
「「そんなわけないじゃないですか!」」
悲痛な叫びを上げるジネットとモリーを見つめて、俺は結構前に約束していたあのイベントを開催することを考えていた。
あとがき
どうも、みやじ♂です。
いえ、パクってませんよ。
つ○く♂さんとは一切無関係です。
ちょっと名前に記号とか入れたらモテるかなぁ~と思ってパク……
パクってないですよ!
なんですか、その目は!?
「あ、こんなところにホクロあるんだ。ふふ、セクシ~」
みたいな目で見て! いやらしい!
どうにもちょこ~っと先駆者のイメージが強過ぎるようで、
発想が似てるだけなのにパクり疑惑がついてまわりそうなので『♂』はやめておきます。
私レベルになるとですね、一つくらい没になったって、他にもいいアイデアがあるものなのですよ。
というわけで、改めまして、
どうも、みやじ。です
な~んですか、もぉ~!
全っ然、まったくパクってないじゃないですか~!
娘。
とか、知りませんもん!
なんですか、その目は!?
「立案者同じ人じゃねぇか!? それはそうとそのホクロ、セクシ~」
みたいな目で見て! いやらしい!
分かりました!
こうなったら、完全無欠にオリジナルなヤツにしますもん!
私レベルになるとですね、一つや二つ没になったって、他にもいいアイデアがあるものなのですよ。
というわけで、改めまして、
どうも、みやじ☆ひろです。
あぁーうっち!
名前が☆に引っ張られ過ぎました!
インパクト強いなぁ、パクリ元!
しょうがない、諦めて、
どうも、宮地です。
この前初めて気が付いたんですけれど――
桃太郎ってあるじゃないですか。
あれの冒頭でですね
おじいさんは山へ芝刈りに
おばあさんは皮と骨の洗濯板
って、なんで急におばあさんのおっぱい事情が暴露されてるのかなぁ? って思ってたんですが、
川へ洗濯に行っていたんですね!
八割くらいの方が勘違いされていると思うのですが、皆様はどうでしょう?
大丈夫でしたか?
大勢の前で間違えて恥をかかないようにしてくださいね☆
そういえば、
「俺、山の絵を描くのが好きなんだ」
って言っていた方のイラストを拝見したら、これでもかってくらいの爆乳娘ばっかり描かれていて
「えっ、山ってそこ!? おっぱい!?」
と、衝撃を受けたものですが……
おじいさんは山絵師ばっかりに
心酔しているのでしょうか!?
贔屓にしているのでしょうか!?
いわゆるところの『山』を重点的に描かれる神絵師様専門なのでしょうか、おじいさん!?
なのにおばあさんは洗濯板!?
あぁ、だから朝からずっと別行動なんですね!?
(」゜□゜)」< 愛をしっかり育んでー!
けれど、そんな二人に神様からの授かりものが。
そうです。
打ち出の小槌!
おじいさん「大きくなぁ~れ~」
おばあさん「(むくむくぷるん!)やだ、肩こっちゃったぁ~」
おじいさん「ばあさん!」
おばあさん「じいさん!」
――中略――
二人はその元気な男の子に『桃太郎』と名前をつけて大切に育てました。
はっ!?
すっごい寄り道したのに、ちゃんと正規ルートに戻ってきた!?
桃太郎すげぇ!
それで、なんでしたっけ?
鬼っ娘ランドに行くんでしたっけ?
犬・サル・キジ「「「えへっえへっ、おいらたちもお供させてくださいよ~、でゅふっ」」」
あぁ、間違いないですね、鬼っ娘ランドです。
きっと楽しい場所なんでしょうねぇ!
なんてったって、村中のお宝がそこに集まるんですから!
村人たち、鬼っ娘ランドに財産つぎ込み過ぎっ!
鬼のパンツはいいパンツって? やかましいわ!
と、ここまでいろいろとお話してきましたが、
つまり、何が言いたいのかというと、
私の体重が増えたのも、きっと筋肉がついたせいだと思うんですよね、たぶん。ううん、絶対。
うぃ~ふぃっととか、買おうかなぁ……
「俺、うぃ~ふぃっとを買ったら、ヨガをマスターしてヨガテレポートをやるんだっ!」
うむ、検討しておきましょう!
というわけで、次回はダイエットそっちのけで楽しい目論見のお話です。
次回もよろしくお願いします。
宮地拓海




