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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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402/854

無添加57話 騎馬戦、開戦

 選手Aの後ろにBCが並んで立ち、AとBの左手と左手を、AとCの右手と右手をそれぞれ繋ぎ、BCの空いた方の手をAの肩に乗せる。

 これで『騎馬』が完成だ。

 その騎馬の上に選手Dが乗っかれば騎馬戦の準備は完了。


 あとは、騎乗する選手Dの鉢巻が取られないように、相手の鉢巻を奪いまくれば勝者となれる。


 騎馬戦は棒引き同様4チームの混戦で行われる。

 騎乗している選手の鉢巻が奪われたらその組は敗退。

 騎乗している選手が落馬しても敗退となる。

 すべての騎馬が敗退したらそのチームは負けとなり、最後まで騎馬が残ったチームの勝利だ。


 今回は生き残り戦ともいえるルールであり、相手をどんなに倒そうがそこは加味されない。

 まったく敵とぶつからず逃げ回って生き残っても、最後まで残りさえすれば勝者なのだ。



 だからこそのこの作戦だ!



「いいか、お前ら。他のチームには俺《オオバヤシロ》が指示を出していることだとは絶対に気付かれるな。特に騎馬戦では『オオバヤシロを無視してみんなが好き勝手やり始めている』と思わせるんだ」



 俺が棒引きの前に伝えた作戦はそういうものだった。


 棒引きでは、あからさまに俺の意見がごり押しされたかなり強引な作戦を取り、その結果白組は惨敗する。

 それを受け、俺に不満を抱いた白組の選手が「もうオオバヤシロの作戦には乗れない」と反旗を翻し俺を除外する。

 つまり騎馬戦は『オオバヤシロの意向は一切含まれていない』と思わせる。そういう作戦だ。


 そうして出来上がった白組の騎馬は、騎乗する選手がジネット、リベカ、マーシャ、シェリル、ムム婆さん――と、戦闘に不向きそうな、ぽわ~んとしていたり幼かったりシワシワだったりする人選になっているのだ。

 マグダやニッカという、若干好戦的な者も混ざっているが、そちらの方が却って説得力が増す。「あぁ、勝ちたいってヤツもいるんだな」と。全員が「勝ちよりも楽しむことが大事なの~」とか言い始めたら「また何か企んでるな?」と勘繰られるだろう。エステラやルシア辺りに。

 これくらいでいいのだ。

 なので、アホのリカルドのような目立つヤツをあえて騎乗させてやるのも効果的な目くらましとなる。やる気の差を見せつけることで『白組は統率力を失ったな』と思わせてやるのだ。


「はーっはっはっはっ! ついに来たな! 俺に相応しい、勇ましくも雄々しい競技が!」

「おい、リカルド! せめてお前くらいは攻め込んでいけよ!」

「なんだ、オオバ? 俺に期待をしているのか? まぁ、分かる! 分かるぞ! この競技において頼りになるのは俺くらいだからなぁ! ふはははは! 貴様もようやく俺の偉大さに気が付いたというわけか! 遅きに失した感は否めないが、まぁいいだろう! 貴様の期待に応えてやる! ふはーははははっ!」


 じゃ。精々頑張って目立ちまくってくれ。

 その間、こっちはこっちでこっそりと生き残るから。


「あの、ヤシロさん……わたし、こういうのは、本当に自信がなくて」


 俺と給仕長ズが組む騎馬の上で、ジネットが不安そうに俺を見下ろしている。

 戦を前に恐怖が湧き上がってきているのだろう。


「大丈夫だジネット。俺たちは戦いには赴かない。ただの散歩……いや、乗馬だと思ってのんびりしておけ」

「乗馬……ですか?」


 ジネットが誰かの鉢巻を奪うなんて、そんなこと出来るわけがないのだ。

 だが同時に、ここにいる誰もが『人畜無害で争いを怖がるジネット』から鉢巻を強奪することなど出来はしないのだ!

 厄介なエステラも、ジネットにはキツく当たれまい。

 ジネットが楽しそうに競技に参加していれば「真っ先に潰そう」なんて発想が出てくるはずもなく、「まぁ、今はまだ見逃しておこう」と考えることだろう。

 そして、「今はまだ」なんて思っているうちに誰かに潰されてさっさと退場すればいいのだ!


 生き残りゃあいいんだよ!

 生きてるヤツが正義だ!


 果敢に戦火に飛び込んで武勲をいくつも挙げて戦場で散るよりも、逃げて逃げて逃げ回って生き残ったヤツの方が偉いのだ!


 白組は、戦わずして生き残る作戦で行く!


 それも、俺が発案したと悟らせないように配慮したから、他のチームの連中はこちらの腹案に気付いてはいない。

 鼻息の荒い連中同士がぶつかってさっさと潰し合えばいいのだ!


 ジネットは、そういう作戦においてはかなり有利な働きをしてくれるだろう。

 冗談でも、ジネットを叩くような素振りを見せる者は少ない。女の子同士の「や~だ、も~。ぺしり」なんてのを除けばな。

 誰からも攻撃されないジネットこそが無敵なのだ!


「ジネット。俺たちはのんびり外周でも回って、騎馬戦を観戦しよう。知り合いを見かけたら声でもかけてやれ」

「はい。それでしたら怖くありませんね」


 ただ、俺が悪知恵を選手たちに吹き込んだと悟らせないために、最初は敵陣に突っ込むけどな。

 で、ジネットが「ぴぃ~!」って泣いて、エステラ辺りに「ジネットちゃんを苛めるな!」って怒られて、俺の後ろに構えている給仕長ズに「あなたは何もしなくて結構です!」ってユニゾンで忠告されて「ちぇ~、じゃーもーいーよ!」って俺が拗ねた素振りを見せた後、外周をぐるぐる回れば上出来だろう。

 そうすることで、『オオバヤシロは機能していない』と周りにアピール出来るのだ。


「とにかく、誰とも争わなくてもいいから、絶対に落馬はするなよ」


 それが一番心配なのだ。

 鈍くさいジネットがバランスを崩して落馬。そんな自爆が最も恐ろしい。

 イネスとデボラが後ろから支えてくれるだろうから、そこまで心配はしなくていいんだろうが。


「ありがとうございます。心配してくださって」


 何を勘違いしたのか、ジネットが見当違いな礼を述べ、俺の頭を撫でる。

 いいこいいこと、感謝の気持ちを伝えるように。


「……お前。今俺のこと、本物の馬扱いしてるだろ?」

「はっ!? す、すみません! 牧場で、お馬さんはこの辺りを撫でてあげると喜ぶと伺ったもので……つい」


 誰がお馬さんだ、コノヤロウ。


「それはそうと、痛くありませんか?」


 俺とイネス、デボラが手を繋いで作った鐙《あぶみ》の上に足を乗せるジネット。

 土足でいいと言ったのだが、頑なに靴を脱ぐと言って譲らなかった。周りを見渡せば、多くの選手が靴を脱いでいる。

 痛みで手が離れてしまうリスクを考えれば靴は脱いだ方が賢明か。


「大丈夫だからしっかり踏ん張れよ」

「は、はい」

「もし足が疲れたら我々の腕に腰を下ろしてください」

「でも、それはさすがにイネスさんやデボラさんに申し訳ないような……」

「大丈夫です、店長さん。私、柔らかいのは大好きですので」


 デボラがなんか言い出した!?


「ちょっとイネスー、お前の隣のデボラとかいう給仕長、本当に大丈夫な人ー?」

「問題ありません、コメツキ様。私も、好きな方です、柔らかいのは」

「大問題だな、給仕長二人とも!?」


 俺だって大好きだわ、ぽよんぽよんしたもの!

 くっそう!

 俺も騎馬の後ろ側に回れば合法的にお尻触り放題見放題だったのに!

 ブルマのお尻を!


「よし! 俺が後ろを担当しよう!」

「ダメですよ、ヤシロさん!? この格好は、後ろからは……見せられません」


 ヒザを曲げての前傾姿勢。

 結構まぁるくお尻が強調される格好だからなぁ……見たかったっ!


「会話記録《カンバセーション・レコード》には、なぜ映像記録機能が備わっていないのか……」

「その機能があれば、コメツキ様がいつもどこを見て人と会話をしているのかが白日の下にさらされますね」

「うん。ない方がいいな、やっぱ! プライバシーの侵害だ」


 誰にも気付かれずにこっそり見ているささやかな楽しみが暴露されたりしたら、観覧規制がかけられるかもしれない。

 ない方がいい。便利過ぎるのも考えものなのだ、人間の社会というのは。うん。


「もう……いつもどこを見ているんですか」


 ジネットが俺の髪の毛をわしわしと毟る。

 やめろ、毛根がへそを曲げたらどうしてくれる。もっと可愛がってやってくれ。二十年後、三十年後の俺のためにも。


「コメツキ様、店長さん。そろそろ出陣です」

「んじゃ、ジネット。出発の合図を頼む」

「え!? わ、わたしですか?」

「お前が俺たちを操るんだから、当然だろ?」

「え、そ、そう、ですか? では……」


 照れなのか、躊躇いなのか、ジネットの手が俺の肩でむにむに動く。

 ……くすぐったいなぁ、こうもずっと触られ続けていると。



「で、では! しゅちゅじんでしゅ! ……はぅっ!?」



 盛大に噛んで、それに照れて顔を押さえるジネットを乗せて、俺たち騎馬は『しゅちゅじん』した。


「さぁ、しゅちゅじんだ。イネス、デボラ」

「共にしゅちゅじん致しましょう」

「足並みを揃えて、いざしゅちゅじんです」

「み、みなさん、足並みが揃い過ぎでは!? も、もう、忘れてください!」


 なんだか騎馬の連携が物凄くよく取れている。強い絆を感じる。

 さすがだジネット。こうも騎馬の心を一つにしてしまうとは。


「横から見ていると、物凄い揺れますね店長さん」

「こっちサイドも凄いことになってます」

「ちょっ!? み、見ないでください!」

「ズルいぞ、お前ら!?」

「ヤシロさんは前を向いていてください!」


 不公平だ!

 騎馬の先頭はハズレくじだ!

 ポジションの変更を要請する!

 もしくは、向きを180度変えたい!


「……店長チームの騎馬、足並みを揃えて」


 通りすがったマグダに注意されてしまった。

 あんなにも足並みが揃っていたはずなのに……戦場では刻一刻と状況が変化していくと、つまりそういうことなのだろう。

 油断出来ん。


 ざっくざっくと、騎馬が足音を鳴らして各チームスタート位置へと並ぶ。

 騎馬の数は各チーム十組。

 4人一組の騎馬が10組×4チームで、総勢160名の大混戦だ。

 これはかなりの迫力がある。


 空は闇。

 篝火が照らす夜のグラウンドに、今、開戦の合図が鳴り響く。



「怪我には気を付けてください。では、騎馬戦――よぉーい!」


 ――ッカーン!



 鐘の音と共に各チームの騎馬が一斉に疾駆する。


「よぉーし、ジネット! 突っ込むぞ!」

「え!? あの、先程とお話が違……ぅきゃあ!」


 ジネットの悲鳴を耳に、俺はエステラたちの騎馬を目掛けて突撃していった。


「エステラ、覚悟ぉー!」

「ぅきゃぁああああああ!」


 悲鳴はどんどん大きくなり、ジネットは背を丸めて俺の頭にしがみついてくる。腕を回して俺の頭に縋りつくように密着している。



 わはぁ~……柔らかぁ~い☆



 今、俺の後頭部が幸せの極致に!


「こら、ヤシロ! ジネットちゃんを泣かせるんじゃない!」


 悠然と構えるエステラが憤然と俺に注意を寄越してくる。

 だからこそ、あえてそれを無視して突撃する!


「行くぞジネット! エステラの鉢巻を奪い去るのだ!」

「む、むむ、無理です! 手が離せませ~ん!」


 ジネットの腕ががっしりと俺の頭を拘束する。

 後頭部パラダイスッ!


「ヤシロ! 今すぐ停止してジネットちゃんを解放するんだ! さもないと後頭部を削ぐよ!?」

「無茶言うなよ! 敵の真ん前で停止など出来るか! それに今、後頭部めっちゃ幸せだし!」

「よぉし、分かった! ボクが君たちを守護するから一回立ち止まるんだ! 領主命令だよ!」


 この上もなく横暴な権力を振りかざし、エステラが俺の行動を制止する。

 足を止めると、ジネットがほっと息を吐き、慌てて俺の頭から体を離した。

 一瞬、後頭部がなくなったのかと思った。急激に軽くなったから。


「俺、もう一生頭洗わない」

「洗ってください! もう! 酷いです、ヤシロさん!」


 ジネットがぽかぽかと俺の頭を叩く。

 ぜ~んぜん痛くないけどな。むしろ頭ぽんぽんされているみたいでちょっと気持ちいいわ。


「コメツキ様。先程のポジションチェンジの要請に関しまして、再度話し合いの場を設けさせていただくことは可能でしょうか?」

「なに羨ましがってるのさ、イネス!? ヤシロが伝染《うつ》ったんじゃないだろうね!?」

「私も埋もれてみたい、あの膨らみに!」

「デボラも、慎んで!」

「いいや、このポジションと、おっぱい置きの座は譲れん!」

「ヤシロさんは懺悔してください!」


 俺だけジネットからのクレームだった。

 エステラが呆れ果てた顔で俺を見ている。


「なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」

「呆れて言葉も出ないんだよ」

「つまり、『抉れた乳が膨らまない』というヤツか」

「『開いた口がふさがらない』だよ、それは!」

「けど、開いた口はふさがるが抉れた乳は膨らまないじゃないか!」

「抉れてないわ!」

「エステラ様。本日の発言に関して『精霊の審判』は不問にしておいてよかったですね」

「嘘じゃないよ!? 明日の朝一でもう一回言ってあげようか!? っていうかナタリアうるさい!」


 騎馬戦の競技中に、そんないつものような馬鹿話を繰り広げる。

 ジネットがクスクスと笑い、イネスとデボラが静かにそれを見守り、ナタリアとエステラがイチャイチャしている。

 ホント、仲のいい領主と給仕長だこと。


 ――そして、そんなエステラたちの背後からそっと忍び寄る一騎の騎馬。


「今だ、突っ込め!」


 リカルドの号令に従い、モーマットたち農業ギルドのオッサンたちが走り出す。


「エステラ、覚悟!」

「リカルド――」


 背後から伸びるリカルドの腕に、エステラは――


「――見え見え」


 苦労することなく体を捻って奇襲を回避する。

 騎馬と騎馬が接近して入り乱れると、ナタリア率いる給仕チームが農業ギルドのオッサンたちの足をさりげなく踏む。


「あいてっ!?」


 モーマットが悲鳴を上げバランスを崩す。


「わっ!? バカ、このワニ!」


 落馬しまいと上体を逸らしたリカルド。頭の守りががら空きになる。

 その勝機を逃すエステラではなく、危なげなく、確実に、リカルドの白い鉢巻を奪い取っていた。


「ボクに挑むなんて、無謀だったようだねリカルド」

「やかましい! 騎馬の性能の差じゃねぇか! 俺だって、爺やウチの執事どもの騎馬だったらもっと上手くやったよ!」

「あはは。ボクなら、モーマットたちの騎馬でももっと上手く出来たと思うけど」

「じゃあその給仕長騎馬を降りて狩猟ギルドの騎馬に乗り換えてみろ!」

「ごめんね、ボク、嫁入り前の淑女だからみだりに男性に触れさせるわけにはいかないんだ」

「テメェが淑女なんてタマかよ!?」


 超高性能騎馬にまたがり、エステラが盛大に勝ち誇っている。


「淑女が聞いて呆れますわ!」


 突如、モーマットたちを押しのけて暑苦しい肉の塊が突っ込んできた。


「いでででで! バカ、木こり! 痛ぇって!」


 ぐりぐり押されてモーマットが涙目になっている。

 そして、そんな戦車のような筋肉騎馬に颯爽とまたがっているのは、言うまでもなくイメルダだ。


「数多の男性を手足のように扱えてこその淑女ですわ!」


 いや、それは淑女じゃなくて悪女だ。

 しかし、騎乗姿が妙に似合うなイメルダ。

 女騎士みたいでちょっとカッコいいぞ。


「我が木こりギルドの精鋭による木こり騎馬は、その類い稀なる筋肉により安定性抜群、パワーも申し分なく、サスペンションも万全で揺れも抑えられていますのよ!」


 4WDかよ。

 険しい山道でも平気で駆け抜けていきそうだな。

 安定性で言えば、確かに給仕長騎馬よりも木こり騎馬の方が上かもしれない。耐久力もありそうだし。


「ふ、ふん。はしたないね、イメルダは。嫁入り前の娘がそんな格好で男性にまたがるなんてさ」

「エステラさん……。あなた、頭の中エロい妄想でいっぱいですの?」

「はぁ!? な、なな、なんでそうなるのさ!?」

「これは健全なスポーツですわよ? そんな、多少の接触をいちいち卑猥な妄想に結びつけるなんて……頭の中桃色タイフーンなんじゃございませんこと?」

「へ、変な誤解を招くようなことを言わないでくれるかい!?」


 ほっほ~う。

 エステラの頭の中は桃色タイフーンなのか。


「エステラ……エッロ」

「妙なことを呟かないでくれるかい、ヤシロ!?」

「エステラえろーい!」

「だからって叫ぶなぁ!」

「エステラさん! まずは『エロい』を否定しましょう! そんなことないですからね!」


 ジネットが必死にフォローしている。

 気ぃ遣わせんなよ、エステラ。


「もぉおおう! 全部イメルダのせいだー! 倒してやる!」

「ご自分の思春期を棚に上げて随分な言い草ですわね! 受けて立ちますわ!」


 給仕騎馬と木こり騎馬が正面から衝突する。

 華麗な足裁きで相手の騎馬の足を止める給仕騎馬。

 しかし、モーマットたちとは違いちょっとやそっとの妨害ではびくともしない木こり騎馬。

 筋肉の膨れあがった太い足で逆に給仕たちの動きを封じ込める。


「オーホホホ! 騎馬が動けなくなれば、騎乗する選手の一騎打ちですわよ! 格の違いというものをお見せ致しますわ!」

「そっくりそのまま返してあげるよ、イメルダ!」


 正面からぶつかり身動きの出来なくなった騎馬の上。

 エステラとイメルダが睨み合う。

 と、イメルダが先に仕掛けた。

 背筋をぐぐっと伸ばして肩を持ち上げ――すとんと落とす。


「あ~、なんだか最近無性に肩が凝りますわねぇ~」


 すとんと落ちた肩の反動で一年前よりも育ったおっぱいがぶるるんと揺れる、波打つ、激しく荒ぶる!


「格の違いを見せつけられてしまいました……」

「敗北感を醸し出さないで、ナタリア! 負けてないから!」

「「「「えっ!?」」」」

「騎馬戦での話だよ! ウチの騎馬とヤシロと外野も含めて、いろいろうるさいよ!」


 乳格差には触れずに、あくまで騎馬戦では負けてないと論点をズラすエステラ。

 騎馬戦なんか、今どうでもいいだろうが!


「あったまきた! 絶対鉢巻を奪ってやる!」

「出来るものならやってごらんなさいまし!」


 ある意味で下半身を拘束された状態での攻防。

 上半身の柔軟さや俊敏性、体幹の安定感が物を言う。

 そして、駆け引きがその勝敗を大きく分ける。


 右手で牽制しながら左手で鋭く鉢巻を狙うエステラ。並みの相手なら今の一撃で勝負はついていただろうが、対するイメルダもやるもので、奇襲を上手くかわし返す刀でエステラの鉢巻を狙う。

 息を飲むような攻防が繰り返される。


 騎馬たちも、地味ながらも熾烈な攻防を繰り広げている。


「エステラ! テメェ分かってるだろうな! この俺に勝ちやがったんだ! しょうもない相手に負けたりしたら許さねぇぞ!」


 と、敗北者のリカルドが関係ないのに声を荒らげる。

 なに「お前を倒すのは俺だ!」的な、やがて仲間になる敵ポジションっぽいこと言ってんだよ。

 見ろよ、エステラがイラッてしてお前のこと睨んでるぞ。


「余所見などと……その油断があなたの敗因ですわ!」


 このタイミングを待っていたとばかりに、狙い澄ましたイメルダの一撃がエステラに襲いかかる。

 速度、腕の角度、そしてタイミング。

 いくらエステラといえど、これはさすがにかわせない。勝負あった――と思った瞬間、エステラが消えた。


「……えっ!?」


 イメルダの腕が空を切り、脇腹ががら空きになる。


「その油断が君の敗因だよ」


 突然消えたエステラが、突如姿を現す。

 それと同時にイメルダの赤い鉢巻を奪い取った。


「騎馬が前後にしか動けないなんて、いつから思い込んでいたんだい?」


 今の瞬間。

 エステラがイメルダの攻撃に完全に捕らえられていたはずのあの瞬間。

 ナタリアがグッとヒザを曲げて思いっきり沈み込んだのだ。地面にヒザを突くくらいに深く沈み、エステラは座った人間一人分くらい下降した。

 そして、イメルダの攻撃が空振りに終わると同時に再浮上しイメルダの鉢巻を奪取したのだ。


「ボクたちはチームで戦っているんだ。木こりをただの乗り物としか認識していなかった君とボクの差がこれさ」


 呆然とするイメルダに、エステラが誇らしげな表情で言う。


「どうだい? ウチの騎馬は素晴らしいだろう?」


 と、自慢するエステラ。

 自分のとこの給仕たちが誇りのようだ。

 ――で、そんなことを言うとだな。


「テメェ、エステラ! やっぱ騎馬の性能に頼ってんじゃねぇか! 今自分で認めただろ!」

「あぁ、リカルド。君との差は騎馬じゃなくてそれに跨る者の純粋な力量差だから」

「はぁ!? ふざけんなコラ! 降りてこいエステラ! サシで勝負してやる!」


 リカルドがきゃんきゃんと噛みつく。

 メンドクサイのに懐かれてるなぁ、エステラのヤツ。


「さて、それじゃあボクたちも戻ろうか」


 リカルドとイメルダという、立場的なライバルたちに快勝して上機嫌なエステラが、騎馬に指示を出す。


「よろしいのですか?」


 ナタリアが俺を見ながらエステラに問う。

 俺たちの騎馬は無傷だ。

 それを放置しておいていいのかと、ナタリアは聞いているのだ。


「一回保護すると約束したからね。今回は見逃してあげるよ」


 にこにこと、機嫌よさげにエステラが言う。

 そして、上機嫌なままジネットにウィンクを飛ばす。


「でも、この次出会ったらその時は覚悟しておいてね、ジネットちゃん」

「は、はい。エステラさんも、ご武運を」

「あはは。ありがとー」


 エステラが手を振り、それを受けて方向を変える騎馬。

 こちらに背を向けてゆっくりとエステラたちの騎馬が動き出す。


 そのタイミングで――


「えい」


 俺は騎馬後方の選手にヒザかっくんを喰らわせる。

 騎馬を構成する三名の内、左後方の選手が体勢を崩す。

 エステラのバランスが崩れ、ナタリアが驚きの表情でこちらへと振り返る。


 経験がないだろうか。

 手を繋いでいる者がバランスを崩した時にそちらを向いたせいで引きずり込まれて一緒に転んでしまった。そんな経験が。

 手を繋いでいる者が自分とは逆方向へバランスを崩した時は、素早く手を離すか、反対方向へ体を捻って肩を持ち上げなければ自分もまたバランスを崩してしまうのだ。


 しかし今回、ナタリアは給仕の手を離すことが出来ない。

 なぜならそこにエステラの足が乗っているから。


 複数の選択肢が一気に提示された時、人は得てして最も選んではいけない選択をしてしまいがちだ。

 すなわち、『選択しない』という選択を。

『何も出来ない』とも言うけどな。


 ほんの一瞬。

 一呼吸もないほどのわずかな時間のうちに起こったアクシデント。

 ナタリアはその一瞬で体勢を立て直そうとした。表情が変わった。

 こんな状況でも踏ん張っちまうのがエステラ&ナタリアなのだ。


 だが……させねぇ。


「ジネット! エステラが危ない!」

「はっ!? エステラさん!」


 俺の声に、ジネットが慌てて手を伸ばす。

 そんなジネットの行動に、エステラは思わず手を伸ばしてしまった。ジネットに向かって。

 本来であれば、ナタリアにしがみついて踏ん張らなければいけない腕を、後方のジネットに向かって、体を捻るようにしてだ。


「……あ」


 伸ばした手と手がお互いに空を切り、エステラはそのまま地面へと落下した。

 せめてもの足掻きとばかりに、ナタリアが落下の衝撃を最小限に抑えるように腕を伸ばしてエステラを抱きかかえたが、それが原因で騎馬は崩壊。エステラは地面に足を着いた。


「あ、あの……エステラさん。大丈夫、ですか?」


 不安げなジネットの声に反応することなく、エステラは俺を睨む。


「君という男は!」

「んだよ。お前は見逃すと言ったが、俺は一言もそんなこと口にしてねぇだろうが」

「けどそこは紳士協定として……あぁ、もう! 自分で言ってて『ヤシロ相手に何言ってんの?』って思えてきたよ!」

「まぁ、そういうことだ」

「んんんんっ……もう! この競技凄く得意っぽいのに! もっとやりたかったぁ!」


 最後には駄々をこねる子供のように手足をバタつかせていた。


「んじゃあ、今度給仕たちを集めて騎馬戦大会でも開けばいいだろ。お、なんなら給仕の訓練に取り入れたらどうだ?」

「運動会で活躍したかったのにぃ!」


 悔しさと怒りが収まらず、不完全燃焼な闘志がくすぶっているエステラ。

 泣くなよ、こんなことくらいで。どんだけ負けず嫌いなんだよ。


「それに、ウチでやったらナタリアが敵になるもん……」

「……お前、ひたすら勝ちたいだけなんだな」


 結局、最強の騎馬にまたがっているというアドバンテージを譲りたくはないようだ。

 自覚してんじゃねぇかよ、強さの秘密は最強の騎馬だって。


「これ、絶対さっきの報復でしょう。『自分の掘った穴に落ちる』とか言ったから」

「んなもんは根に持っちゃいねぇよ」


 そう思ってもらわないと、こっちが困るところだ。


「ただ、ジネットを使って倒せそうなのがお前くらいしかいなかったんでな」

「……卑怯者。ボクがジネットちゃんに手出し出来ないことを利用して……」

「あと、ちょっとイライラしてたから八つ当たりしたまでだ」

「やっぱり根に持ってるんじゃないか!」


 砂を掴んで投げてくる。

 こらこら、失格した選手が競技中の選手に危害加えてんじゃねぇよ。

 反則負けにするぞ、青組。


「ヤシロなんかを信用したボクがバカだったよ!」

「そうですね、オオバカですね。私が忠告したにもかかわらず」

「ジネットちゃんは無害だと思ったんだよ!」

「店長さんが無害なのは重々承知しております。ですがその下にヤシロ様がいることを考えれば『この騎馬』は油断出来ないと考えるのが普通です」

「ならそう言ってよ、ナタリアのバカー!」

「オオバカのエステラ様には言われたくありません。やーい、オオバカ、オオバカ」


 やめて、ナタリア。

 なんか『オオバカ』が『オオバ化』に聞こえて不愉快だから。


「ナタリアだって油断してバランス崩したくせに……」

「確かに予想外ではありましたが、油断はしておりませんでしたよ」

「じゃあなんで騎馬が崩れたのさ!?」

「振り返った際……とてつもない遠心力が! えぇ、エステラ様には理解の及ばない遠心力がかかってしまいまして!」

「って、胸を掴みながら何言ってんの、ナタリア!?」

「振り回されてしまいました」

「そんな遠心力かかるわけないだろう!?」

「えぇ、そうでしょうね、エステラ様ならば!」

「全人類みんな一緒だよ!」


 いやぁ、それはどうだろうな、エステラ?

 ジネットならたぶん、おっぱいの遠心力だけで空を飛べるぜ?


「コメツキ様。ここは目立ちます、一度外周へ避難しましょう」


 イネスに言われ、俺たちは激戦区から離脱する。

 負けたにもかかわらずいつまでも居座っているエステラと、そのエステラを指差して笑っているのに全身全霊でスルーされ続けているリカルドと、「敗れても美しいワタクシ」を全身で表現しているイメルダをまるっと無視して、俺たちは移動を開始した。


 途中、ノーマが俺たちに狙いを定めて向かってきたが、ジネットが――


「ぅきゃう!?」


 と、悲鳴を上げて頭を抱えた姿を見て、そのまま横を通り過ぎていった。その向こうにいたデリアへ狙いを変えたようだ。

 うんうん。やっぱジネットには手が出しにくいんだろうな、みんな。

 赤組がベルティーナを担ぎ出していたら同じように手出し出来なかったかもしれないが、ベルティーナは応援席にいる。

 唯一ジネットとやり合えたかもしれない強敵の不参加に、俺はほくそ笑む。


 狙われれば一発アウトだろう。

 だが、狙われにくいというのはこと騎馬戦においては強力な武器となる。


 そのまま俺たちは外周を回りながら方々で繰り広げられる激しい戦いを観戦して回った。

 立ち止まっていると目立ってカモられるからな。うろちょろしているのが一番の目くらましになる。

 強敵ほど戦いに赴いて早くに討ち死にしていく。


 戦わないことが必勝法。


 そんなヒミツの作戦を実行しつつ、俺は俺の肩に乗せられた手が「うきゅう!?」「ひゃう!?」という奇妙な悲鳴とともに時折強く握られる感触を、誰にも悟られないように一人で楽しんだ。

 なんだろうこのむにむに動く温かくて柔らかいヤツ。なんか、すげぇくすぐったくて気持ちいいわ。

 あと、たま~に馬扱いで頭を撫でられるのだが、それはそれでいい感じだ。

 馬って、こんな気分なのか。

 嘶いてみようかな、ぶるるる……


「……ヤシロ。お馬さんごっこの約束、忘れないように」


 途中すれ違ったマグダがぽそりとそんなことを漏らす。

 楽しそうに見えたんだろうな。

 へいへい。じゃあまぁ、そのうちな。


 そうして、篝火に照らし出される中、騎馬たちはその数をどんどんと減らしていった。







あとがき




令和到来!

素晴らしい時代にしようじゃありませんか、皆様!


人に優しくありたい。

そんな抱負を掲げて、新元号を一歩一歩丁寧に歩いていきたいと思います。


まず手始めに、

子供には優しくしたいと思います!



あっれれぇ、新元号になってすぐお巡りさんに取り囲まれてるぞ~ぅ?



違うんですよ。

子供は国の宝って言うじゃないですか。

あれってその通りだなぁって思った出来事があったんです。



電車通勤をしておりますと、

ホームや車内で結構な声量ではしゃいでしまう子供たちをしばしば見かけるんですが、

先日、会社の最寄り駅のホームで

「ママ、こっちー!」って、

後ろを振り返りながら走ってきた女の子(たぶん三歳か四歳)に思いっきりぶつかられたんですね。


私、ちょっと仕事の資料を読んでいたもので、声は聞こえていたけれどこっちに来てるって気付かなくて、

避けることが出来ずに右足に思いっきり「どーん!」って。


慌てて振り向いたところ、幸い女の子は転ぶようなこともなく、ただぶつかっただけだったのでよかったんですが、

振り向いた私とバッチリ目が合っちゃって、ちょっと怯えた表情されまして、

で、ママのもとへダーっと走って逃げていかれたんです。


そしたらそのママが、「すみません!」って、

ちょっと遠くから頭下げて、

で、しゃがんで女の子の顔を見つめながら

「ぶつかったら『ごめんなさい』でしょ! ママ一緒に行ってあげるから『ごめんなさい』しに行こ」って。


それで、ママさんが女の子の手を取ってとことこ~ってやって来て、

「本当にすみませんでした。お怪我はありませんでしたか?」と、まず私に聞いて、

私が「大丈夫ですよ」って言ったのを聞いてから女の子に「ほら」って言って、背中をぽんって。


そしたら女の子が俯きながら

「……ごめんなさい(ぺこり)」って。



えっ、なに、可愛い。持って帰る!



あぁいえ、そうではなく、こう、きゅんっとしちゃって、

あぁ、やっぱり持って帰る!


……いや、ではなくて、

なんか泣きそうだったもので、「大丈夫だよ」と伝えたんです。

伝えただけです。触れていません! ホントです!



私「おじちゃんもごめんね。怪我なかった?」

女の子「うん」

私「痛くなかった?」

女の子「ちょっとイタかった」

私「大丈夫?」

女の子「うん! あのね、どーんてなったときね、ここ(肩)だったからイタくなかった。ここ(おでこ)だったらイタかったかも」

私「ここ(肩)でよかったね」

女の子「うん!」



まぁ、肩だったんで私の足は結構じんじんしてましたけどね!



で、何が言いたいかというと、


女の子と触れ合ってお話しちゃったわっほ~い!


……もとい、

子供って自分でもコントロール出来ないくらいのパワーで生きているので、

大人の方がちゃんとコントロールしてあげなきゃいけないんだなぁと。


このママさん、偉いのが

まず相手(この時は私)に対して失礼を詫び、

そして当事者(女の子)に悪いことをしたと自覚させ、

そしてその不祥事の責任をきっちりと親である自分が背負ってまず相手に自分の言葉で謝意を伝えて、それから女の子に謝らせた(=教育した)という手順が素晴らしいなと。


よく見かけるのは、

相手をほったらかして子供と二人の世界を作って、


親「ほら、おじちゃんに『ごめんなさい』は?」

子「……ごめんなさい」

親「えらいね~、言えたね~」

子「……えへへ」

親「すみませんでした」(ここで初めて相手の方に顔を向ける)


みたいな方、ホントよく見かけるんですが、

この時のママさんは完璧でしたね。

「子供のすることですから~(責任なんか取らなくていいですよね)」ではなく

「子供のすることですから(私が責任を請け負い、後に子供に言って聞かせます)」っていう姿勢は、きっと子供のためにもいいことだと思うんです。

生き方のお手本として。


そして、こうやってきちんとした対応をしていただくと怒りなんか全然湧いてこないんですよ。

だって、言ってしまえば子供にぶつかられた『だけ』ですから。

横綱に激突されたなら、いくら親方に「ごめんちょ☆」って言われてもぶち切れますが、

幼い女の子ですから痛みも大したことないですし、

むしろ女の子が怪我しなくてよかったなぁ~って思いの方が強かったです。


たぶん人と人との繋がり方一つで、受ける印象ってガラッと変わると思うんですね。


子供たちが元気いっぱいで、

周りの大人がそれを穏やかな気持ちで見守ってあげられる、

そんな世界になれば素敵ですよね。

そのためには、大人がきちんとした対応をして、子供たちをきちんと教育しなければいけないんですが。それが一番難しいところなんですが。

でも、そうなれたらいいですよね。



子供は国の宝。大切にしましょう。



女の子「おじちゃん、ぶつかったところ、なでなでしたげるね」(なでなで)



子供は国の宝ぁぁあ! 大切にしましょうおおおう! いや、大切にします! だからお嬢さんを僕にくださぁーーい!




ん~……令和に入って早くも二回目の完全包囲かぁ。

先が思いやられますねぇ、やれやれ。




さて、一方で区民運動会はお尻がっ、太ももがっ、顔のすぐそばに!?

で、お馴染みの騎馬戦です!

騎馬に跨る女子のあの格好……素晴らしい。


いい仕事、してますね。


膝を曲げ、腰を曲げ、腕を突っ張っての前傾姿勢。

素晴らしい。

英語で言うなら「デリィ~シャス」(たぶん間違っていない)



前回、パーシーがモテてイラッてしたのでヤシロとジネットをこれでもかとイチャイチャさせてみた結果――





爆ーーーーぜーーーーろーーーー!





エンターキーを「ッターン!」ってする力が700%アップしてノートPCが真っ赤に染まりましたよ。

まぁ、もともと真っ赤なノートPCなんですけども!


やはり、

『異世界詐欺師~』爆ぜるべきランキング不動の一位はオオバヤシロなんですね。

あ~ぁ! 後頭部挟まれたいなぁ!(←この歳になるまで口にしたことがなかった日本語)


騎馬戦、ヤシロたちの動きを中心にお送りしましたが、

次回は別の組の戦いなんかをもう少しお届けする予定です。



では、エステラさんが落馬した際にうっかりハミパンしてないか確認しに行かなきゃいけないので、今回はこの辺で!(しゅたっ!)



……うん。やっぱり子供の時の教育って、とっても、すっごく大切だと思う!

大人になてからじゃ、もう性格って治せないんです!



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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