無添加52話 ジネット、走る!
「次はいよいよわたしたちの番ですよ、ロレッタさん!」
「なんか、思い出したかのように障害物競走が再開されたですね」
そうなのだ。
怪我人が出てしまったことで、それらの救護と協議のために競技は一時中断されていたのだが、とりあえず『一人を抱えてもう一人が走るのは禁止』というルールが設けられて競技は再開することとなった。
で、再開一発目のレースがジネットとロレッタの参加するレースというわけだ。
「なんかもう、すっかり攻略法とか忘れちゃったです」
「わたしも、休憩を挟んだことで出来そうな感じがすっかりなくなってしまいました」
「……えっ?」
「マグダ、『出来そうな感じあったの!?』みたいな顔してやんな。ジネット的にはイケそう感があったんだよ」
とはいえ、休憩を挟んでテンションが落ちてしまったのは全チーム一緒なので、それで不平不満を言うわけにはいかない。
「すみませんでした。私が考えなしな行動を取ってしまったばっかりに」
「モリーのせいじゃねぇよ」
「そうだよ、モリー。気にする必要はないさ。むしろ、そのことに気付けなかったボクたち運営委員会の方にこそ責任はある」
「いや、出来もしないくせに『これで楽勝~』とか調子に乗った選手どもが一番悪い」
「ヤシロ、話をまとめにくくなるから余計なこと言わないで」
だって、俺は別に悪くないもんよ。
けど、モリーが気に病む必要は一切ない。
……って言っても気にするんだろうなぁ、モリーは。
「モリーはもう少し兄貴を見習えよ」
「えっ!? ど、どど、どの辺りをで、でで、ですか?」
「ちょっ、モリー!? 動揺し過ぎだし! 見習うとこいっぱいあんべ、オレ!?」
「犯罪行為を開き直って恥じない図太い神経とかな」
「犯罪行為なんかしてねーし!」
「ごめんなさい、ヤシロさん。私、ストーカーを正当化出来るような無神経にはなれそうもありません」
「ひどーい! オレの身内が一番ひどいわー、マジで!」
むしろお前がモリーを見習えと毎日念仏のように言い聞かせたいっつの。
「英雄の言う通りだぜ」
と、なぜか俺の隣にぴたりと寄り添うバルバラ。
「アーシも全然、あんたに怒っちゃいねぇしよ」
「でも……」
「ほら、そんな顔すんなよ。あんたはきっと笑ってた方が可愛いヤツだ。テレサと一緒だな。だから笑ってろ。な?」
「……あり、がとう、ございます」
「ん。気にすんな」
ぱしぱしとモリーの肩を叩いて「どうよ?」みたいな顔をこちらに向けてくるバルバラ。
え、それって、俺に対するアピールなの?
「英雄って、こういう気の利く女がいいんだろ? おっぱいの次に」
「どこ情報だ、それは?」
「えっと……ヤシロさんは料理上手な方がお好きなのではないんですか?」
ほほう、モリーよ。随分と的を絞った意見だな。
それはどこ情報だ……って、お前が勝手に思い込んでいるだけだよな、な? ん?
「英雄」
「んだよ」
「アーシ、トウモロコシ湯がけるぞ」
「だからどうした!?」
「四回に三回は失敗するけど」
「100%になってから出来ると豪語しやがれ」
「違うんだよ! かーちゃんに『湯がく』ってなんだって聞いたら『さっと熱湯に通すことだ』って教えてくれたから、トウモロコシをさっと熱湯に通したら、すんっっっげぇ硬かったんだよ」
「トウモロコシは湯がくって言うけど、結構な時間茹でなきゃいけないんだよ!」
「紛らわしいんだよ!」
「俺に言うな!」
女将さんは『炊く』って言ってたよ。
ヤップロックんとこでは『湯がく』って言ってるみたいだけどな。
あと、北海道に行った時に「湯がいたトウモロコシ」って言ってた。本場がそう言ってるんだから湯がくでいいんだ、きっとな。
そんな、俺にべったりなバルバラを見て、モリーが顎を摘まんで少しの間黙考する。
「あの、ヤシロさん……たぶん違うと思うんですけど…………まさか?」
「うん、モリー。お察しの通り違うから」
さすがモリーは察しがいい。
このややこしい状況を正確に理解してくれたようだ。
俺のせいじゃないのに、俺が物凄く面倒くさい目に遭っているってことをな。
「まぁ、あれだ。怪我人のほとんどが自業自得を理解してるし、誰もモリーを責めたりしねぇよ」
「……それが事実だとしても」
「もし、どうしようにもなくムカついたら、その時は兄貴に責任取らせるから気にすんな」
「ちょっ、あんちゃん!? 何言ってんの、マジで!?」
「未成年である妹の行動は、保護者がきちんと責任取るべきだろうが」
「すんげー正論きたー!?」
「……そういうこと、でしたら」
「モリーも納得しちゃったー!?」
「つまりアーシは、ムカついた時は兄貴の方を殴ればいいんだな?」
「いろんなもん吹っ飛ばして雑な解釈する人いたー!?」
少しだけ表情が軽くなったモリー。
この娘の場合、本当に兄貴に責任をおっ被せればいいなんて考えてなくて、周りがそこまで気を遣ってくれているんだからいつまでも自分が沈んでちゃダメだって判断したんだろうな。
そのきっかけとしては、パーシー弄りは打ってつけだっただろう。
「モリー、青組に戻るぞ。あんちゃんのそばにいるとオレがどんどん酷い目に遭うんだ」
「遭えばいいじゃない。私、ヤシロさんのそばにいるの好きだよ」
「ひでーよ、モリー!?」
兄貴をからかうモリー。
ただ、ここには今ちょーっとそういう冗談が汲み取れない面倒なヤツがいるんだよな……
「なんだ? お前も英雄が好きなのか?」
バルバラが全身から闘気を立ち上らせる。
モリーはさっと顔色を変え、そして至って平静を装って言う。
「恋というニュアンスは含んでいません」
「そっか。ならよかった! やっぱあんたはいいヤツだなぁ」
勝手に肩を組んでにこにこ顔をこすりつけるバルバラ。
モリー。迷惑なら迷惑って言っていいんだぞ。
しかし、参ったことに。
俺も含めて、エステラやジネット、マグダやロレッタでさえもこの状況のバルバラをどう嗜めるのがベストなのか、探りあぐねているのだ。
どう対処すればいいんだろうか、こいつ?
「よし、パーシー。バルバラとモリーを連れて青組へ帰れ」
「余計なの入れんなし!?」
余計なのって……お前、ネフェリー以外にはホント酷いよな。
絶対モテないぞ。顔はそこそこ整ってるのに。つかモテるな。ムカつくから。
「……じゃ、バルバラをよろしく、パーシー」
「よろしくです、パーシーさん」
「おいおーい、陽だまり亭女子ーズ!? オレの意見もたまには聞いてー!」
「何を騒いでるの、みんな?」
とことこと、ネフェリーがやって来る。
トレーシーはいない。まだ足を結んでいないようだ。まぁ入場の時盛大にコケたしな。
「おっ、ネフェリーか! さっきはあんがとな。アーシ、勉強になったぞ」
「ありがとうって言われるようなことはしてないけどね……」
「ネフェリーさん、こいつ……いや、この人となんかあったんですか?」
「あったというか……」
「『恋』について教えてもらったんだ」
「ちょっ!? バルバラ、恥ずかしいからやめてよ、もう!」
「恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいよ!」
チラチラと、こちらを窺うネフェリー。
恋とかって、男子の前では話したくないよなぁ。
つか、マジで小学校のニワトリ思い出すなぁ、その動き。
「男の子のいないところで、ね」
「おう。じゃあまたいろいろ教えてくれな」
俺たちから離れてバルバラに耳打ちをして、強めに釘を刺すネフェリー。
その行動がどう映ったのか知らないが、パーシーが見当違いなことを聞いてくる。
「なぁ、あんちゃん。あの女、ネフェリーさんと仲いいん?」
「あぁ、そうだな。これから親友になるかもしれんから親切にしといた方がいいかもな」
なので適当なことを言っておいた。
どうせ今日の発言に関しては『精霊の審判』対象外だ。
そもそも「なるかもしれない」は嘘にはならない。
だから。
「そっか! じゃあ親切にしてくる!」
と、パーシーの鼻息が荒くなったところで、俺には一切の責任がない。
「なぁ、あんた。バルバラさんだっけ? こっち来なよ。レースがよく見える場所があるんだぜ」
「いや、アーシは英雄の隣にいないと」
「あんちゃんはまだレースが済んでないんだ。近くで騒がれちゃ迷惑だって、マジで」
「英雄は迷惑なんて言ってないぞ!」
「口にしなくても、心ん中でちょっとでもそう思われたら嫌じゃね? 好かれたいって想いが暴走して真逆の結果とか、笑えねーっしょ、マジで」
「……兄ちゃん、それが分かってるのにどうして……?」
モリー。
お前の兄貴はな、一般的な理屈は分かっているんだよ。
ただ、自分のことが客観的に見られないだけで。
「オレさ、なかなか振り向いてくれない相手に、少しでもよく見られたいって努力するその気持ち、理解出来っからよ。力になるぜ、マジで」
パーシーがまともなことを言っている……ように見える。
これがすべてネフェリーに対する『オレ、あなたの友達にも優しく出来る男なんですよアピール』だってのを度外視出来れば、な。
で、自分のことに鈍感なネフェリーは。
「パーシー君って、面倒見がいい人なんだね」
なんて罪作りな発言をして、パーシーが「むはぁあ! ポイントゲットぉ!」とか拳を突き上げた瞬間を狙ったかのように顔を背けて――
「……けど、今のバルバラを応援されるのって、なんか複雑というか……微妙なんだよね……」
と、難しい顔をしてぶつぶつ言ったりしていた。
なにここ?
四角関係五角関係のややこしい少女漫画の世界かなにか?
もう誰でもいいから勝手にくっつけよ、面倒くせぇ!
まぁ、くっついたら叩き潰してやるけども!
「ヤシロ。今、思いっきり自分を棚に上げているような顔をしていなかったかい?」
「エステラ、お前は俺研究家か? 表情筋の動きごときで俺の感情を読み取ろうとしてんじゃねぇよ」
バルバラを浮かれるパーシーに預け、こちらはこちらでレース再開に向けて準備を始める。
まずはアドバイスだな。
「ロレッタ」
「はいです」
「足を出す時は外向きを意識して走れ」
「外向き……ですか?」
そうだ。
ジネットは極端に内股だからな。
ロレッタまで内股で走ると足を縛る紐をお互いが『引っ張り合う』ことになる。
それはまさしく『足を引っ張られる』ことになり、走る邪魔になるし、転倒のリスクも高くなる。
そこで、双方ががに股になるくらい股関節を開いて足を外に向けて出すようにすれば、紐は引っ張られることなくスムーズに走れるようになるのだ。
「足を外に出すと店長さんを押してしまったり、蹴ってしまったりしないですかね?」
「大丈夫だ。人間の体は思っているほど柔軟に動いてはくれない。外向き過ぎるかな~くらいでようやく真っ直ぐになる。そんなもんだ」
「……あたし、結構極端な動きとか出来ちゃうですけど?」
「う~ん……獣人族の場合はどうなのかなぁ……」
人間の場合は、極端過ぎるくらいやったつもりでもまだまだ内向きだったりするんだが……
「じゃあ、ジネットの足に合わせろ」
「分かったです。ちょっと意識してみるです」
ロレッタは普通に器用だから、なんとかしてくれるだろう。
地味に器用だから。
地味に普通だから。おぉ、しっくり来た。うんうん、地味に普通だなロレッタ。
で、問題のジネットだが……
「お前は、ロレッタのことを気遣うな」
「え!? で、でもそうするとロレッタさんの負担が……」
「お前に気遣われる方が負担を増やすことになるんだよ。お前の全力に合わせても、ロレッタはかなり余力を残している状態だ。ここは素直に甘えて、全部を預けるくらいの方が逆にやりやすいんだよ。な?」
「そうです、店長さん! あたしにドーンと任せてです!」
「そう、ですか?」
「あのな、ジネット。得手不得手ってもんがあるんだ。もしロレッタが無理して張り切ってお前の料理に手を出したらどうなるかを考えてみろ。お前はまだまだ余力があるのに、前菜とメインとスープとデザートを全部ロレッタがやるって言い出したら?」
「あ……」
「叩き出すだろ?」
「いえ、そこまではしませんが……」
「ま、そんな感じだ」
出来もしないのに無理をするな。
出来ないなら出来るヤツに甘えてしまえ。
お前一人で戦っているんじゃない。
お前には頼れる仲間がいるんだ。
と、そのようなことを話して二人を送り出した。
「ご高説、お見事」
「やかましい。お前もナタリアに随分気を遣われているんだぞ」
「もちろん理解しているよ。だから、ボクは任せるところは全力で任せているのさ。ナタリアは信用に足る人間だからね」
「そのセリフ、ナタリアが聞いたら――」
「……エステラのベッドで『はぁはぁすんすん!』しそう」
「違うよね、マグダ!? どうして無理矢理割り込んでおかしな方向へ誘導するのかな!?」
そんなもん、「面白いから」に決まってるだろうが。
「とにかく、残り数レースだけど、怪我のないように。無茶な作戦はしないようにね」
「俺は怪我をするような無茶はしねぇよ」
痛いのは嫌いなんでな。
エステラが去ったころ、選手の整列が完了した。
スタートラインに見知った顔が並んでいる。
青組はネフェリーとトレーシー。
よく見える席でパーシーが張り切って声援を飛ばしている。
隣にはバルバラ。ホントに連れて行ったんだな。モリーが微妙な顔をしている。
で、黄組はパウラとウェンディ。
パウラは徒競走でぶっちぎりの一番だったから、ウェンディは足が遅かったというわけか。
あんまりせかせか動く印象もないし、そもそも研究者だしな。妥当か。
そして白組はジネットとロレッタ。
二人ともキリッとした顔をしているが……あいつらの場合、張り切ったら張り切った分だけ空回りそうなんだよなぁ。
ラストの赤組はデリアとミリィのでこぼこコンビだ。
デリアがミリィを抱えて疾走すればこのチームの独壇場だっただろうが、それはルールで禁止された。
さて、一気に不利になったその身長差をどう克服するのか、見物だな。
「ミリィ。別に慌てなくていいからな」
「でりあさん……ぅん。ぁりがと、ね」
「あたいの速度に合わせてくれりゃそれでいいから」
「それ、みりぃ的にとっても無理しないと無理だょ!?」
ミリィ、無事にゴール出来るといいな。
「位置について、よぉーい!」
――ッカーン!
給仕が合図を出し、選手が一斉に走り出す。
驚いたことが三つ、悲しいことが一つある。
まず、デリアがミリィの歩幅に合わせてゆっくりと走っている。
デリアが暴走すれば、ミリィは確実に引き摺られてしまうなと冷や冷やしていたのだが、デリアのヤツ、ガキどもの面倒を見るようになって大人になったんだなぁ。
「さすがデリア、子供の扱いが上手い!」
「みりぃ、ォトナだょ!?」
ゆっくり走るミリィが必死の抗議を寄越してくる。
あはは。面白いなぁ、ミリィジョークは。
で、第二の驚きが――
「ウェンディ、鈍くさっ!?」
「し、仕方ないじゃないですか、英雄様!? ……私は研究者……日陰に咲く一輪の花なんですから……」
ウェンディがとにかく躓く、こける、パウラにしがみつく。
快活なパウラの速度を物の見事に殺してくれていた。
「ま、まぁ、気にしなくていいよウェンディさん。人には得手不得手があるし」
「うぅ……パウラさんが優しい方でよかったです。でも、心底申し訳ないです」
作り笑顔のパウラに頭を下げるウェンディ。
なんで作り笑顔だって分かるのかって?
パウラの尻尾がゆ~っくりと左方向へ揺れているからな。
犬は不機嫌な時に尻尾を左側へ振ることが多いのだ。
理由はまだはっきりと解明されていないらしいが、パウラのあの顔を見るにハズレてはいないだろう。
よし、確認してみるか。
「パウラー、もし今隣にいるのがベッコだったら?」
「殴ってる」
「ごめんなさい、パウラさん! 鈍くさい女でごめんなさい!」
「いや、その前にパウラ氏が拙者にごめんなさいしてくだされ!」
いっちょ前にベッコが不服を申し立てている。
生意気な。
もう一回出場させるぞ、当然メドラとペアで。
で。
一番の驚きはというと。
現在、白組が先頭なのだ。
ジネットが集団の先頭を走る姿をこの目で見られるなんて、そんな日が来るとは夢にも思っていなかった。
「店長さん、いい感じです」
「ロレッタさんが合わせてくださっているので、とても走りやすぅうきゃあああ!?」
油断した直後に盛大にすっ転んだジネットと巻き添えのロレッタ。
よかったな、平均台の上じゃなくて。
ロレッタがうまくジネットに合わせて、平均台をスムーズにクリアした白組は他のチームを置き去りに次のボール運びへと取りかかる。
すげぇリードだ。
これはひょっとしたらひょっとするかもしれない。
そして、最後に悲しい出来事が一つ……
「トレーシーが、サラーシーだ……」
まっっったく揺れてない!
隣のネフェリーはそこそこ揺れてるのに!
「サラーシーとゲラーシーなんて嫌いだー!」
「さらっと俺をディスるな、オオバー!」
遠くからしょーもない領主の声が聞こえてきたが渾身の力でスルーしてやった。
「ネフェリーのクチバシがワシみたいに鋭くなって隣のさらしを食いちぎればいいのに……」
「ネフェリーさんがそんなことするわけねぇだろ、あんちゃん!?」
なんだよなんだよ!
どいつもこいつも遠~くから俺の呟きにいちいち返事しやがって。
声聞こえ過ぎじゃね!?
ワンルームかよ、ここ! 聞き漏らせよ、もっと! 俺に注目してんじゃねぇよ!
「……ちょろりん」
「こら、やしぴっぴー!」
な?
なんでみんなこんなに耳がいいんだろう……運動会というイベントが選手や観客の五感を研ぎ澄ませているのか?
……んなわけあるか。
「……ヤシロ。声が大きい」
「え!? 俺の声が!?」
「……ヤシロの声はよく通るので、遠くにいても耳に入りやすい」
「そうなのか。じゃあ、おっぱいが揺れる音と同じ原理だな?」
「……それは賛同しかねるけれど」
ちっ。
才能ある人間は、いつの世も理解されないものよ。
けれど、百年後には俺の理論が常識として世に広まっていることだろう。俺はそんな未来を信じている。
そう、ゆっくりと弾んでいた張りのあるHカップが少しだけバウンドの速度を上げた、そんな音を誰もが聞き取れるようになる未来をな!
「でりあさん、みりぃ、もう少し速く走れそう」
「そっか! じゃあ、ちょっとだけ飛ばすぞ!」
「ぅん!」
赤組が速度を上げた。
でこぼこコンビの息がぴたりと合っている。
平均台を共に乗り切ったことで絆が強くなったようだ。
前を行くネフェリーとトレーシーを猛追する。
「追いつかれそうです、ネフェリーさん!」
「こっちもペースを上げましょう、トレーシーさん!」
木製のボールを運び終えたネフェリーとトレーシーが長い足を目一杯に広げて走り出す。
しかし足が長いな、あの二人は。
ルシアやエステラもそうなんだが、領主ってのは手足が長いよな。血統か、いい物を食って育ってきた影響か。
で、そんな領主に遜色ないネフェリーの脚線美。
……ホント、なんで顔がニワトリなんだろうなぁ。
「ネフェリーさん、楽しそうな顔してんなぁ! かはぁ! マブい!」
え、なにパーシー?
どこが楽しそうだって? クチバシの端でも緩んでるってか?
そうこうしているうちに、ネフェリーたちが白組に追いついてきた。
ジネットの息が上がっている。スタミナが切れかけてるのか……
「ロレッタ! ジネットはバウンドのエネルギーが他の誰よりも大きいから消耗が激しいんだ! しっかりと押さえててやれ!」
「お兄ちゃん、うるさいですよ!?」
「なんなら、俺が押さえるの手伝おうか!?」
「うるさいって言ってるですよ!?」
あそこの運動量が他の連中とかけ離れてるからスタミナが切れるんだと教えてやってるのに。
まったく、なぜおっぱいを掴まないのか……
「ロレッタのヤツ、なぜジネットのおっぱいを掴まないんだ……?」
「……それに、説明が必要?」
マグダは答える気がないようなので、俺も気にしないようにする。
俺だったら絶対押さえるのを手伝ってやるのになぁ。
「……店長たちが暗黒迷宮へ入る」
なんとか追いつかれずに暗黒迷宮に突入したジネットたち。
しかし、二番手三番手との差はほぼないに等しい。
迷路で迷えばあっという間に逆転されてしまうだろう。
「ウェンディさん、頑張って! ほら、立って!」
「す、すみません、なんだか走りにくくて……うきゃあ!?」
パウラとウェンディは致命的に歩幅が合っていない。
遅れから焦りがにじみ出しているパウラは、少しでも早く進もうとしてしまい、それが却ってウェンディの転倒を誘発させている。
「ウェンディさん、今回ジネットより酷いよ!?」
「それはあんまりです、パウラさん!?」
うん。
お前ら、悪気がなかったとしても酷ぇぞ。
素でジネットを出来ない娘扱いじゃねぇか。
いやまぁ、事実なんだけども。
「けれど、店長さん。今回は全然転びませんね」
「そうなのよね。ロレッタとペアだからスタート地点から一歩も動けないんじゃないかと思ってたのに」
パウラはロレッタを過小評価している。
あいつはやればそこそこ普通に出来るのだ。飛び抜けて素晴らしい成績は残せないけれども。普通に凄いのだ。普通に。
ウェンディは、ジネットよりかは運動が出来ると思っていただろうし、パウラにしてもロレッタよりも自分の方が上だと思っていたに違いない。
だが、実際一緒に走ってみたら思いも寄らない展開になってしまっている。
焦ってるんだろうな、結構。
この差が、俺がロレッタに教えた「足を外に出すように走れ」というアドバイスの結果だ。
運動が出来ないヤツをどれだけサポートしてやれるか。その差が如実に表れているのだ。
パウラの方が脚力が強いから、ウェンディは足を持っていかれて真っ直ぐに走れず、ただでさえ運動が苦手なのにおかしな方向に力をかけられて転倒してしまうのだ。
相性が悪かったな、このペアは。
さて、そんなパウラとウェンディのペアが悪戦苦闘している間、他のチームの選手はというと。
「で、でりあさん、どっち行くの!? そっち、壁だょ!?」
「トレーシーさん、急に止まらないで――きゃあ!?」
「おい、ミリィ! ここになんかいるぞ! なんか捕まえた!」
「ぃたたたた! デリアさん、それあたしです! あたしの頭です!」
「ネフェリーさん! なんだかこの壁、物凄くほゎんほゎんです!?」
「ト、トレーシーさんっ、そ、それは壁ではなく、わたしの、あの……と、とにかくあまり突っつかないでくださいっ!」
暗闇の中で盛大に迷っているらしい。
というか、トレーシーが突っついてたのって――
「絶対おっぱいだ!」
「……口に出さずにはいられなかった模様。ヤシロだから、仕方ないけれど」
暗闇の中で迷走する他のチームから遅れること数十秒。ようやくパウラとウェンディが暗黒迷宮へと突入する。
それまでの間、どのチームも迷宮からは出てこなかった。
だがっ!
「「「「眩しっ!?」」」」
「あ、これで道が分かりますね、ロレッタさん」
「わぁ、これなら、怖くない、ね、でりあさん」
「ウェンディさん……敵に塩送ってどうするのよ……」
「え? あの…………す、すみません」
中でウェンディが発光したらしく、全チームが揃って暗黒迷宮から出てきた。
「「「ウェンディ(さん)、ありがとう」」ございます」
「いえ、あの……やめてください」
俯いて走り出すウェンディ。
しかしパウラが続けずに盛大に転倒していた。
そうして、横一列で再開された二人三脚障害物レース後半戦。
キャタピラでのカーブは身長差がある赤組が有利となり、ネフェリーとトレーシーのコンビも危なげなく二人三脚に適応し、ロレッタが飴探しで『どうやったらそこまで白くなるの!?』というくらい顔を真っ白にして頑張ったのだが、結局は赤組が一着となり、白組は三着でのゴールだった。
……まぁ、普通な結果だな。
さすがロレッタ。ジネットと一緒でもブレない普通さ加減だったよ。
あとがき
お花見、しましたか!?
満開の桜が大好きな、宮地です。どうも!
そして、
レビューをいただきました!!
[2019年 04月 05日 13時 50分]の方!
なんとも心地よい文章ですね。とても真っ直ぐな感情が文章から表れていて、非常に好感の持てる書き口が印象的です。この飾らなさと、勢いのある文章はマネしようとして出来るものではなく、大切にしていただきたい才能の一つであると思います。相手の懐に飛び込んでいけるような潔さといいますか、伝えたいのであろうことが理屈でなく感情として伝わってくるといいますか、人に好かれそうな感じがします。
自分なりの楽しみ方や推しキャラなんかがさらっと盛り込まれていて、生の声感も出ていますし、リアリティのある今っぽさが読み手に深いインパクトを与える、親近感を覚えるレビューでした! どうもありがとうございました!!
111件です!
わんわんわん!
パウラですね!
もしくは整列したぺったん娘を横からみた図、にも見えますが。
1(つるーん)1(すとーん)1(ぺったんこ)
そんなわけで、
もうご覧になっていただけましたでしょうか、
『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』四周年記念SS
『4周年SS 突撃! 隣の家庭訪問』
SS置き場の方に置いてありますので、知らなかった~っという方は是非☆
ちょっと長いですけれども。
気が付けば四年です。
ところどころ休みを挟みつつの四周年ですけれども。
SS置き場の〇周年SSも三つ目です。
(二周年、三周年、四周年の三つですよ☆)
毎回、〇周年SSは、
本編ではあんまり出てこない四十二区の女子たちにスポットを当てて
新しい一面を見ていただこうと
賑やかに、
バカバカしく、
程よくイチャイチャしつつ、
ちょっと長めの10000文字オーバーの大ボリュームでお届けする――と、
特に明確に決めたわけではないんですが、なんとなくそんな感じになっていたんですが、
よくよく考えたら……
今の区民運動会がまさにそんな感じでした!?
(」゜口゜)」< なんてこったー!
ど、どうしましょう……
何を書きましょう……
と、そわそわ悩みまして、
ふと外を見たら桜の花びらが
縄跳びをするボインちゃんのボインのようにゆらゆら揺れていまして。
そうだ、春っぽい話を書こう!
そう思ったんです。
それで、春っぽいって何かなぁ~
と考えて、
お花見は去年したし、
入学式とか……は二周年で学校やったし……そうだ!
家庭訪問だ!(ノシ゜▽゜)ノシ
と思い至りました。
私の通っていた小学校は、毎年春先に家庭訪問があったんですよね。
担任の先生が生徒の家を回って、
新任の先生だと道知らなくて迷子になってたりして、
それを生徒に見つかったりして、
その後一年間ずっと言われ続けたりして、
ウチ、田舎でしたからねぇ。
担任「えっ……このけもの道に分け入っていくの?」
生徒「ここ、普通に通る道だよ?」
担任「いやいやいや……」
生徒「大丈夫大丈夫」(ガサガサ)
担任「……アスファルトの上を歩こうよ」
みたいな、ね!
というわけで、
四十二区でもやってみましょう、家庭訪問!
という感じで、プロットを練り始めました。
何かしら問題があって、それの解決のためにみんなの家を回る。
そんな大筋がパッと決まり、
じゃあ、折角なんで普段みんながやらないようなことをやろう! と。
で、家庭訪問といえば、お茶とかお菓子とか出てくるよなぁと思って、
じゃあ、みんなの家で、みんながそれぞれヤシロたちをおもてなしする感じでどうだろうかと。
みんながちょっとした料理とかしてくれて、
そこに個性が出れば楽しいんじゃないかと。
ミリィはフルーツたっぷりのサラダとか、
デリアは豪快なシャケ料理とか、
ネフェリーはふわふわのオムレツとか、
ノーマさんはお袋の味。
そんな感じで書き始めたら、
まぁー文字数かかるかかる。
料理を作る描写して、出来栄えを書いて、味のレポートしてたら、
とてもじゃないけれど全員出来ないぞと。
そんなわけで、料理は無しにして、
とりあえず家を回るってのだけを残そうと。
そう言われてみれば家庭訪問も「教師にお茶は出さなくて結構です(すべての家で飲んでたら膀胱破裂しますしね)」みたいな注意書きがあったなぁと思い出し、
おもてなしは無しな方向で、
…………で、
書き上がったら、あんな感じになっていました。
どんな感じになっていたのかは、是非ご自身の目でご確認ください。
ただ一言、
悪気はなかった!
そして、やり切りました!
それだけが伝われば本望です。
そんなわけで、
異世界詐欺師のなんちゃって経営術【SS置き場】にあります
『4周年SS 突撃! 隣の家庭訪問』
どうぞよろしくです!
(ふぅ、ここでSSの宣伝しておけば、「あれ? 障害物競走、また次回に続くで終わってね!?」ってことに気付かれないだろう……ふっふっふっ)
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




