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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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396/854

無添加51話 正座@砂利の上

 俺、正座@砂利の上。



 さっきもあったわ、この光景。


「……以上が、事の顛末」

「ありがとうマグダ。よく分かったよ」


 マグダがエステラにあらましを伝え終えたようだ。

 ん? 二人三脚の紐?

 とっくに解かれてるよ。俺の正座が確定した時点でな。……けっ。


 バルバラの嫁になる宣言に端を発した俺への審議が行われ、物の数分で結論が出たようだ。

 陪審員はおっぱいパトロールの面々、特にエステラは裁判官も併任している。……なんて偏った裁判だ。公平性の欠片もない。

 弁護人は一部始終を見ていたベルティーナと、ベルティーナの話を聞いて俺を信用してくれたジネット。


 そしてなぜか、マグダは検察官の立場だ。

 お前も見てたろうが、一部始終。


「というわけで、ヤシロは有罪」

「ちょっと待て、そこのぺったんこ裁判官!」


 お前の『裁判官』って、最も板って書いて『最板官』なんじゃねぇの!?


「はい、有罪。執行猶予なし」

「罪状はなんだ、コノヤロウ!?」

「領主侮辱罪だけれど? 身に覚えがあり過ぎるだろう?」

「バルバラの妄言の話はどこ行ったんだよ」


 やれやれと息を吐いて、エステラが赤い髪をかき上げる。


「また何か考えなしで思わせぶりなセリフを言ったのかと思ったんだけど、バルバラがちょっと飛躍し過ぎただけみたいだね」

「『また』ってなんだ。俺がいつ考えなしで思わせぶりなセリフなんか言ったよ」

「『会話記録《カンバセーション・レコード》』」

「そんな本気で探し出さなくていいだろう、別に」


 出現した透明の板を掴んで地面へ叩きつける。……つもりが、その前に消えやがった。あれ、壊せないのかな。


「つまり、こういうことですのね。ヤシロさんがテレサさんから『お嫁さんになってあげる』と言われた、それが発端であると」

「あぁ、そうだ。イメルダの言うとおりだよ」

「なんだ、そうだったのかぁ。それならあたいも何度か言われたことあるぞ。教会の女の子たちに」

「モテるさねぇ、デリア。誰かもらっておあげなよ」

「嫁なんかいらねぇよ。ノーマこそ、嫁に行けないならもらったらどうだ?」

「行けなくないさね! 大きなお世話さよ!」


 そこでなんで俺を睨むんだよ、ノーマ。

 デリアといざこざってろよ。俺に関係のないところで、好きなだけ。


「小さい頃は、みんなそういうことを言うんですよね、女の子って」

「ジネットも誰かにそんなこと言ったの?」

「あ、興味あるかも……って、ジネットの場合はお祖父さんか」


 パウラとネフェリーがきゃっきゃとジネットに食いつくが、それを否定したのはベルティーナだった。


「ジネットは、私のお嫁さんになってくれると言っていたんですよ」


 ベルティーナに憧れ、親愛の念を抱いているジネット。

 なんとも微笑ましい話だ。……ベルティーナがよだれさえ垂らしていなければ。


「あたしも妹に言われたことあるですよ」

「姉の、しょーもない自慢やー」

「しょーもなくないです! 意外と嬉しいもんなんです! それに、ハム摩呂も言ってたですよ、小さい時! 『おねーちゃんのおよめさんになるー』って!」

「ロレッタお義姉様。どうか私めにその権利をお譲りいただけないでしょうか」

「急にものすっごい畏まらないでです、ルシアさん!? 本気過ぎてかなり引いてるですよ、あたし、今!」


 跪くルシアから全力逃げするロレッタ。

 ちゃんとハム摩呂を抱えて避難している。


「まぁ、そういうわけで、いちいち大騒ぎするような話じゃねぇんだよ」


 だからそろそろ正座やめていいか?


「よくあることだろ? 俺、シェリルにも言われたからな。な、シェリル?」

「うんー! シェリル、やちろのおよめさんなるー!」

「それは本当ですか英雄様!?」

「あなたっ、え、英雄様が、私たちの義理の息子に……!?」

「ウエラー! 今すぐ帰ってありったけのトウモロコシを湯がいてくれ! 今日はお祝いだ!」

「はいっ!」

「ちょっと待て、アホ夫婦!」


 ガキの戯言だという話をしてるんだよ!

 つか、シェリルに言われただけで、俺は認めていない!


「かーちゃん。英雄が息子になったら嬉しいのか?」

「それはもちろん! 恐れ多いことだけれど、光栄なことだわ」

「そっか……」


 あ、またろくでもないこと考えてやがるな。

 よし、さっさと切り上げよう。


「というわけで、この話はこれで終わりだ! 俺はまだ誰とも結婚するつもりはない、さぁ、競技を再開するぞ」


 俺が宣言したことにより、この話はこれで終わりだ。

 周りにいた連中、全員がそう思っていた。


 ただ一人を除いては。


 その『ただ一人』に、エステラがちょっかいをかけてしまう。


「まぁ、バルバラもあまり不用意な発言は慎むように。今日が『精霊の審判』禁止でよかったね」

「別に禁止じゃなくても関係ねーよ、領主」


「嫁になる」を反故にしてもカエルにはならないよと、「あはは」と笑って流そうとしていたエステラが『は』の口のまま固まる。

 バルバラが少し不機嫌そうに眉を曲げて、はっきりと言い切る。


「アーシは英雄の嫁になる! もう決めたんだ」

「い、いや……バルバラ、あのね……」

「なんだよ、領主? アーシが英雄の嫁になると何か困んのか?」

「こ、困るというか……じょ、常識的に考えてだね!」

「常識なんてもんは知らん! もう決めたんだ!」


 バカは変なところで意固地である。

 バカだから意固地なのか、意固地だからバカなのか。


 こいつ、絶対今のノリで言ってる。

 深くなんか考えてない。

「そっちの方がよくね? 絶対いいよな? いいに決まってる! よし、決定!」みたいな短絡的な思考だ。


 なのに、バカなばっかりに頑固で始末に負えない……面倒くさい。


「だってよ。アーシが英雄と結婚したら、英雄はテレサと結婚出来ないだろ?」

「そんなことしなくても、ヤシロはテレサに手を出したりはしないよ……」

「でも、英雄はおっぱい付いてりゃなんだっていいんだろ?」

「いや、さすがにそこまでは………………」


「ない」って言って!

 言い切って!

 自信を持って、胸を張って!


「けど、テレサは英雄に懐いてるし、一緒にいるとよく笑うんだよ」

「……でたよ、お子様キラー」


 エステラから謂れのない非難を向けられる。

 ガキなんぞ一人もキルしてねぇわ。


「アーシが英雄と結婚したら、テレサも英雄と一緒にいられるだろ? とーちゃんとかーちゃんも英雄が息子になったら嬉しいって言ってるしよ。アーシ、やっと恩返しの方法を見つけたんだ!」


 拳を握りしめ力説するバルバラ。

 その勢いを阻める者が名乗り出ない。かくいう俺も、『どーすりゃいいんだこのバカ女』状態だ。

 なに一人で盛り上がってやがんだ、このアホサルは……


「お待ち、おサルの娘」


 ゆらりと山が動いた。

 メドラだ。

 その表情には静かな怒りが浮かんでいた。


「黙って聞いてりゃ好き勝手言うじゃないか」

「アーシの人生だ。他人にとやかく言わせるつもりはねぇ」

「自分の人生を語るなら一人で完結しときな。ダーリンの人生をあんたのしょーもない独りよがりの犠牲にするわけにはいかないんだよ」

「なんだよ、あんたも英雄の嫁になりたいのか?」

「え、よ、嫁とか……お嫁さんとか……もじもじ」


 ここに来て照れるの!?

 なんかもう、すっごい今さらなんだけど!?


「覚悟がないヤツは引っ込んでな、でっかいオバサン!」

「覚悟……だって?」


 恐れ知らずのバルバラがメドラ相手に大見得を切る。

 周りの人間がひやひやする中、メドラが拳を握る。……死者が出ませんように。


「アタシはずっと死と隣り合わせの世界で生き抜いてきたんだ。瞬きほどの一瞬にだって気を抜いたりはしない。常に覚悟を腹にくくりつけて生きてるんだよ!」


 誰よりも死線をくぐり抜けてきたメドラが吠える。

 それに反論出来る者はどこにもいない。説得力に充ち満ちたセリフ。


「覚悟ならある! アタシは……アタシはねっ!」


 ぐりんっと、メドラの顔がこちらに向く。

 チビるかと思った。


「この運動会で優勝したら、ダーリンに交換日記をお願いするつもりなんだよ!」


 覚悟、弱っわ!?

 そんなもん、飯食いながらでも言えるだろうが!

 まぁ、絶対断るけども!


「じゃあ、ライバルか……」


 バルバラがバキボキと指の骨を鳴らす。

 バカバカバカ! やめろ、おい!

 いくらメドラでも、理不尽に殴りかかられたら怒るぞ!?

 誰にも止められない大惨事が起こるぞ!


「たぶん、アーシはあんたには勝てない。見てれば分かる、あんたは強い」


 強いの桁が違うんだよ、メドラは!

 デリアより強いからな!? お前が惨敗したデリアよりも!


「けどな……アーシはテレサととーちゃんとかーちゃん、それからトットとシェリルのためなら命だって惜しくねぇんだ! 英雄を手に入れるためなら、この命すらかけられる!」


 バルバラが戦闘モードとでも言うべき凄まじい闘気をまき散らす。

 きっちり飯を食って、日々規則正しい生活と農作業を繰り返してきたせいか、デリアと戦った時よりも一層パワーアップしている。

 空気がビリビリ震えて、見ているだけで息苦しくなるほど圧迫感を感じる。


 これ、怪我人を出さずに止めるのって無理なんじゃ……!?


「英雄を賭けて、アーシと勝負だ!」


 メドラの顔面目掛けて跳び上がったバルバラ。

 だが、次の瞬間バルバラが視界から消えた。


 上かっ!? と、思ったら下だった。


「……身の程は、弁えるべき」


 マグダが、バルバラの首根っこを掴んで地面に押さえつけていた。

『赤モヤ』は出ていない。

 なのにバルバラは一切の抵抗が出来ないでいる


 マグダ……お前もパワーアップしてない? さっきのバルバラ、結構おっかなかったけど、余裕なの? え、マジで?


「離せこのっ、マグダ!」

「……ヤシロは陽だまり亭の大切な従業員」

「大丈夫だ。結婚しても陽だまり亭で働くことは出来……」


 マグダの指に力が加わり、バルバラが「ぐぇっ」と短い声を漏らす。


「……店長もきっと寂しがる。店長を泣かせることは、マグダが許さない」


 みしみしと、バルバラの骨が軋みを上げる。


「……それに、ヤシロは店長やマグダの大切な家族」


 静かな声で淡々と紡がれていくマグダの言葉。

 ジネットが口を押さえてマグダを見つめている。

 驚いているようだ。マグダの吐露する本音に。


「……マグダの大切な人を『賭け』の対象にするなんて、無礼千万……許されざる行為」


 そこまで言って、マグダが数ミリだけアゴを上げる。


「…………ついでにロレッタも寂しがるし、ロレッタも大切。うん。大切」

「忘れてた感満載ですよ、マグダっちょ!? 取って付けたワード・オブ・ザ・イヤーを受賞出来そうなくらい取って付けたですね!?」


 マグダ流の照れ隠しだ。

 そうムキになるなロレッタ。


「……ヤシロは物ではないし、ヤシロのことを大切に思っている人間は周りにたくさんいる。バルバラ一人のわがままでどうこうしていい問題ではない」


 そこまで言って、マグダがバルバラを解放する。


 野生の動物がするように、飛び起きて距離を取るバルバラ。

 驚愕に目が見開かれ、顔や服が汚れていることなど気にもしないでマグダを注視している。いや、警戒している。


 そんなバルバラをいつもの無表情で見つめて、マグダが首をこてんと傾ける。


「……分かった?」

「け、けどよぉ!」


 バルバラが反論しようとした矢先、マグダの姿が消えて、一瞬でバルバラの目の前に出現し、尻尾で「すぱーん!」と頬を打った。

 くるりと一回転して、優雅な所作でマグダが再度問う。


「……分かった?」

「…………は、はい」


 マグダ……お前、強いな。


「け、けど、アーシは、本気で……」


 まだ反論するのか、バルバラ。

 もう諦めろよ。別に俺のこと好きでもないクセに。


「っていうか、バルバラはヤシロのことが好きなの?」


 俺が思ったことをそのまんま、ドストレートにパウラが問いかける。

 パウラも少しふくれっ面だ。

 尻尾も膨らんでいる。


「好き……?」

「だから、好きっていうのは……こう、どきどきしたり……ね? ネフェリー?」

「えっ!? なんで私に振るの!?」

「バルバラに『好き』ってどんな感じか教えてやって! 得意でしょ!?」

「得意じゃないよ!?」

「いいから!」

「もう……パウラは……」


 ぶつぶつと言いつつ、丸投げされたネフェリーがバルバラの前に立つ。

 ちらりと、一度こちらに視線を向けて、すぐに逸らす。

 小学校のニワトリもよくキョロキョロしてたなぁー、なつかしいなー。


「す、好き……っていうのは……凄く幸せな気持ちのことで……」

「いや、『好き』は分かってんだよ」

「じゃあ説明させないでよ、もう!」


 ネフェリーが顔を真っ赤にしてパウラのもとへと戻る。

 トサカとの境目があやふやになる。あんまり熱くなるなよ。香ばしい匂いしてきそうで怖いから。


「アーシはテレサが好きだし、かーちゃんやとーちゃん、トットやシェリルが好きだ」


 それはもう十分過ぎるくらい分かっている。


「だからまぁ、家族になれば好きになるんじゃないか?」

「バルバラっ、あんたヤシロのこと好きじゃないのに結婚したいとか言ってるの!?」

「そうだけど、悪いか?」

「『悪いか』……って」


 パウラがあんぐりと口を開ける。


「テレサとかーちゃんとシェリルが英雄を好きなんだよ。じゃあ、別に結婚してもいいじゃねぇか」

「ねぇ、バルバラ。結婚って、家族のためにするものじゃないんだよ?」


 古式ゆかしい日本のご家庭では「結婚は本人たちだけでするものじゃない」とかいう話を聞くことがあるが……まさか本人を蔑ろにするヤツがいるとはな。政略結婚かよ。どっこにもコネなんかねぇぞ、俺は。


「ヤシロの気持ちもあるし。ねぇ、ヤシロ?」


 ネフェリーが突然俺に質問を振ってくる。

 俺の気持ちを語るなら、結婚なんて選択肢があるわけもない。


「英雄! アーシのこと好きじゃないのか?」

「お前、俺に好かれるようなこと一個でもしたかよ?」

「んだよ。アーシは結構好きでいてやってんのに。え~っと、名前なんだっけな……姐さんとこのアライグマの……アイツと同じくらいにはさ」


 名前すら覚えてないヤツと同等って、それもはや好きでもなんでもねぇじゃねぇか。

 で、たぶんそれオメロだよな?

 アレと同列とか、俺のプライドが許さない。ならランク外の方がまだマシ。


 まぁ、その程度で結婚を語るような女はお断りだな。

 そんな流れでこの話を破断にしてやろう……と、思ってたのに、先にヤツが爆弾をぶっ込んできやがった。



「じゃあ、英雄は誰が好きなんだよ?」



 会場、シィーン!


 静寂が耳に痛いってホントだね。

 すげぇ嫌な静けさ!


 なんか方々から視線感じてるんですけど!?

 俺にそういう話を振るんじゃねぇよ!

 俺は詐欺師で、ここで本業を再開するための地盤固めをしている最中で、特定の誰かとそーゆー特別なアレになるとか、アレなわけで、だからつまり、それは要するに…………



「……別に」



 そっぽを向くと、会場中からため息が聞こえてきた。

「う~っわ……」みたいな、蔑むようなため息がな。


 うっせぇわ!

 じゃあ誰でもいいから代わってみろよ!?

 この状況で「俺っちの好きなおんにゃのこは、キ・ミ・さ☆」って名指し出来るヤツがいるなら名乗り出てみやがれ!


 つか、別に好きなヤツとか、別に、アレだっつーの!


「じゃあアーシでいいじゃん」

「ふん! Fカップを越えてから言え!」


 そうだそうだ。

 こうやっていつものノリでかわしてやればいいんだよ。

 ……まぁ、若干何名かから「ほほぅ、E以下は無価値だってか?」みたいな殺気を感じるが……そうじゃないじゃん? 小さいのは小さいのでいいとして、今はバルバラが届きそうもない高みを告げることによって諦めさせるという高等テクニックなわけで……


「確かに、アーシのおっぱいは小さい……」

「だろ? だからまぁ、諦め……」

「けど、これでもいいっていうなら、好きなだけ揉んでいいぞ」


 …………

 …………

 …………なにを馬鹿なことを。あはは、あは。


「今、お兄ちゃんの心の中から『ぐらぁっ!』って音が聞こえたです!?」

「……分かりやすく揺らいだ」

「ヤシロさん……もう、懺悔してください」

「ヤシロ……君ねぇ、時と場合というものを考えて……」

「ホント、しょーがない男さねぇ」

「待て待て! まだ何も言ってないだろうが!」

「『何も言えなくなった』という事実がヤシロ様の本心を如実に語っていると申し上げているのですが?」


 ナタリア。

 一分の隙もない理論で論破を計るのやめてくれる?

 別に揺らいでないし!

 ほんのちょっと、『24時間年中無休』って日本ではよく聞いていた懐かしいワードが脳裏をよぎっただけだっつの!


「バルバラさん。そのようなことを口にしてはいけませんよ」

「けど、シスター」

「いけません。バルバラさんは可愛い女の子なんですから」

「…………可愛くなんか」

「私には、とても可愛く見えますよ?」

「…………ん」

「約束、してくれますね?」

「……うん。分かった」

「はい。いい子です」


 殺伐とした空気の中、ベルティーナがバルバラに教育を施した。

 ムチではなくアメを使った教育だ。


 そうそう。

 そもそもバルバラが妙なことを言い出すからいけないんだ。

 バルバラが悪い。そうだとも。


「ヤシロさん」


 ベルティーナが手招きをしている。


「懺悔、しましょうね?」

「……あとで、まとめてでいいかな?」


 どうせ、この話題が片付くまでに何回か懺悔しろって言われそうだしな。

 ……俺にはムチの教育なんだな、ベルティーナ。


 しかし、どうしたもんかな、この空気。

 折角エステラが開会宣言で『この運動会で優勝しても嫁とかそういう話はなし』って言ってくれたってのに……ぶり返してるよな、絶対。


 ここでジネットが――



「そんなことで揺らぐなら、わたしのおっぱいを自由に揉んでください! 24時間年中無休で!」



 ――とか言ってくれれば、他の連中が「それには敵わないやー」って諦めてくれるだろうに。

 ……よし、提案してみるか。


「ジネット、試しに『そんなこと――』」

「懺悔してください」

「まだ何も言ってないのに!?」

「エッチなことを考えている時の顔をされていますっ。もぅ」


 えぇ……俺、そんな顔もしてたの?

 ジネットがちょいちょい言う『いつもの顔』って何種類くらいあるんだろうな……つか、顔で決めつけるのって酷くない?


「ものすっごくエロそうな顔で素晴らしいことを言うかもしれないじゃないか」

「普通の顔で言ってください、素晴らしいことは!」


 ブサメンフェイスでイケメンゼリフ吐いたっていいじゃないか!

 エロメンがジェントルメン発言したっていいだろう!?



『いつでも君のそばにいるからね』



 ……おぉっと、ヤベぇ。

 これ顔で、歓声か悲鳴に分かれるヤツだ。逮捕もあり得るヤツだ。


「……とにかく、バルバラはきちんと『恋』を知ってから結婚を語るべき」


 収拾が付かなくなり始めた空気の中、マグダがまっとうなことを言う。

 そうだな。

 そんな当たり前のことが出来てないこの状況がおかしいのだ。

 特別なことなんかしなくていいんだ。

 まずその『普通』を普通にやりゃあいいんだよ。


「ロレッタ。『あたしみたいに普通になれ』って言ってやれ」

「『あたしみたいに』は断固拒否するです!」


 普通の権化であるお前が手本を示さないでどうする!?

 お前以上に普通なヤツなんてどこにもいないってのに!


「なぁ、『恋』ってなんだ?」


 またバルバラが妙なことを言う。


「好きってのとは違うのか?」


『恋』と『好き』は、果たして違うのか。

 まぁ、違うだろうな。


「お前の言ってる『好き』とは別もんだよ」


 バルバラの言っている好きは、家族に対するものや、デリアへの憧れ、居心地のいい場所に対する好意だ。

 それは恋ではない。


「じゃあ、『恋』ってどんなだよ?」

「どんなって……」


 俺に聞くなよ、そんなもん。

 なんて答えりゃいいか分かんねぇよ。

 そういうのは得意そうなヤツに聞けっつの。


「ネフェリーに聞け」

「どうして私に振るのよ、みんなして!?」


 いや、だって。

 恋とか好きそうだし。

 占いとかおまじないとか、女の子っぽいことなんでも知ってそうだし。


「だから、えっと……恋っていうのは…………もっと、一緒にいたいなぁ、とか、もっとお話したいなぁ、とか……でも、顔を見るのが恥ずかしかったり、もっと自分を知ってほしいのに、知られ過ぎるのは怖かったり……て、手に、触れたいなぁとか、温もり、を……感じ…………ぅぁああああ、もうむりー!」


 トサカがLEDのように発光している。……ように見えるくらい、顔が真っ赤だ。

 まぁ『恋』を語れってのは、ある意味地獄みたいな質問だよな。


「じゃあ次はパウラ」

「ヤシロ、面白がってるでしょ!?」


 いやいや。

 需要があるかなぁ、と思ってな?


「こ、『恋』っていうのは……凄く幸せな気持ちになるんだけど、でも、ちょっとしたことで不安になったりしてさ、それで……誰にも取られたくないなんて、自分でもびっくりするような感情が芽生えたりして、ホント、びっくりの連続で、自分がどんどん変わっていっちゃう感じで……それが怖いような、でもわくわくするような…………つらいことも、ある……けど、でも、それでも、そんな不安とかが、顔を一目見ただけで全部ぱぁーってなくなっちゃうような、凄い力を秘めてて……なんか、凄いパワーをくれるものなの、『恋』って!」

「パウラ。……分かる!」

「ネフェリー!」


 抱き合うパウラとネフェリー。

 共感を得たのか、周りの女子が数名「うんうん」と頷いている。


 女子的にはそんなもんなのか。


 男子的には「うっはぁ、揉んでみてぇ!」みたいなもんが『恋』だと思うんだが……


「な? ウーマロ」

「よく分かんないッスけど、共感は出来ないッス!」


 ちっ。

 こいつ、人生守りに入りやがったな?


「全っ然分かんねぇ……。ロレッタ、分かるか?」

「ぅへい!? きょ、弟妹の前でなんて質問するですか!?」

「だよな? 分かんないよな?」

「分かんないとは言ってないですよ!? わ……分かりは、する、ですよ」


 うぉおおお……ロレッタが照れている。

 なんだろう、このむずむずする感じ……ちらちらこっち見んな。


「まったく、『恋』も知らぬとは……」


 長い耳をゆっさりと揺らして、小さな先駆者がやって来る。


「お子様なのじゃ」


 初恋を見事実らせて、現在婚約中の勝ち組、リベカである。


「『恋』知らずして真の結婚など無理な話じゃ。悪いことは言わぬ、まずは全力で『恋』をするのじゃ」

「……リベカの言うとおり。バルバラに結婚はまだ早い」

「そうです! 結婚の前に本気の『恋』です!」


 バルバラを取り囲む女子たちが揃って「うんうん」と頷く。

 それを目の当たりにして、バルバラもようやく、渋々と言った感じではあるが、矛を収めた。


「……分かったよ」


 そして、女子の人垣をかき分けて俺の前まで来るや、ビシッと指を立てて宣戦布告を突きつける。


「運動会が終わるまでにアーシが本気の恋をしたら、アーシを嫁にもらってもらうからな! 覚悟しとけよ、英雄!」

「……はは」


 乾いた笑いしか出なかったが、俺は安堵していた。

 これで大丈夫だ。


 バルバラが突然、雷に打たれたように恋に目覚める――なんてこと、あるはずがないからな。


「ま、頑張れよ」

「おうよ!」


 男前な笑みを浮かべてバルバラが拳を突き上げる。

 そして、拳を突き上げたままの格好で――


「英雄も、アーシに恋したけりゃ恋していいからな!」


 ――そんな男前な発言をくれた。

 今度は乾いた笑いすら出てこなかったよ。


「ヤシロさん」


 肩を叩かれ、何事かと思ったら……


「では、お話も終わりましたので」


 にこやかなベルティーナとジネット。二人に連れられて、俺はウーマロ作の簡易懺悔室で懺悔を強要されたのだった。


 世の理不尽って、なくなんないもんだよなぁ……くそぅ。







あとがき




ちょっと前にツイッターで話題となった大阪人検定で100点を叩き出した

非大阪人の宮地です。


レジーナ口調の研究の賜物と言えます。

いえ、言えまんがな。


どうも、『本物よりホンモノ』宮地です。


さて、

ついに発表されました新元号!


いやぁ、惜しい!

かすってましたねぇ、私の予想!


え、

いやいや、

かなりいい線いってたじゃないですか!


頭文字、

PとRは、もうほぼ同じといえるじゃないですか!


パイオツ(巻き舌)


こうすれば、PなんてもうほとんどRです。




令和



かっこいい字面ですね。

私は好きですよ、なんだかしゅっとしてて、


ご令嬢の令、

和服美人の和。


華やかさと慎ましさを兼ね備えたいい名称だといえるでしょう。



そして、『令』は【0】とも置き換えられ、

『和』は【○】とも置き換えられる。


つまり『令和』を置き換えると……



【○○】



こういうの、すごく見覚えがありますよね!( ゜∀゜)o彡°

メッチャ馴染みがありますね!( ゜∀゜)o彡°


すごくいいと思います、新元号!( ゜∀゜)o彡°




いやぁ~、

予想、かすってましたねぇ~!



なんだか、

世界が愛と柔らかさに満たされる、幸せな未来を予感させてくれますね。






というわけで、

我が社でもお昼前に号外が出回りまして、

総務の部長が手書きで書いた新元号をコピーして社員に配布したんです。

みんな気になってましたからね。


そして、その号外を見た我々社員の反応は――



「い、今和?」

「こんわ?」

「きんわ?」



『令』が完全に『今』になってまして……

おそらく会見を見てそのまま書いたんでしょうね。

思えば、字体もちょっと似せてありましたよ。


でも、如何せん達筆スキルが不足し過ぎていました。


あれはどう見ても『今』でした。



そうして、当然のように話題に上ったR18論争。



課長「ねぇねぇ。令和18年になったら『R18』だね! ぷぷぷ!」

宮地「そうですね。国道18号線みたいですね(穢れなき眼、きらきら)」

課長「……ズルいなぁ」



ただ一つ心配なのは、

R18年生まれの子たちが十二~十四歳くらいになったころ、

ビデオ屋さんの黒いカーテンに書かれたR18を見て、



R18ボーイズ「俺たちの居場所だ! ひゃっほー!」



と飛び込んでいかないかどうか……



R18ボーイズ「俺たち専用の空間かと勘違いしちゃった☆てへっ☆」



なんて言い訳が通用するなんて羨ま……けしからん!

我々世代が、どんなに苦労してトレジャーをゲットしていたか……


時には山を登り

時には国道を歩き

時には深夜に自転車を飛ばし……


それらすべてがご近所さんに目撃されて学校と親に筒抜けになっていたアノ頃!


あの時代の苦悩を、苦労を、

今の若者たちは少しでも味わう必要があるのです!

そう、大人になるために!



楽をして得たおっぱいになど、なんの意味も無……いや、おっぱいは尊い!




最近の若者は、少し恵まれ過ぎている気がします。

ワンクリックで世界各国のおっぱいが検索出来る世界……

それは果たして、幸せなことなのでしょうか。


若い世代の諸君には、もう一度議論を尽くしてもらいたい。


私は期待しているよ。

君たちが世界をより素晴らしいものにしてくれることを。



頑張れ、乳ジェネレーションズ!




あっ、いっけね。

新元号『乳世』じゃないんだった☆



すっかり『乳世』のつもりで演説ぶっこいちゃいました。



いや~、ちっぱいちっぱい☆

あっ、いっけね、『しっぱい』だった☆(若者よ、これが昭和だ!)




さて、新元号発表でなんだか前向きな気分になれたところで、

あとわずかとなった平成に心残りがないよう、全力で頑張っていきましょう!




では、最後にもう一度、

来月から始まる新しい元号を記して今回の締めとさせていただきます。




【○○】






( ゜∀゜)o彡°



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海


※注:新元号を小馬鹿にする意図は一切ございません!

令和、楽しみに待ってるよ~(^▽^)ノシ

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