表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
無添加

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

378/821

無添加33話 噛み合う歯車

「選手のみなさんは入場してください」


 エステラんとこの給仕が入場を促す。


「よぉし、行くぞシェリル! バアさん! かーちゃん!」

「え? あれ? 私も? え!?」


 なぜか、ウエラーまでもがバルバラによって連行されていく。

 まぁ、競技には出なくていいからそばで見ててやれよ。

 喜ばせ過ぎたお前にも原因はある。うん。


 でだ。


「モコカ。いけるか?」

「任せとけです」


 イネスとデボラに何かを吹き込まれていたモコカ。

 先ほどまでとは若干ではあるが、顔つきが変わって見える。

 ……空回らなきゃいいけどな。


「まぁ、力み過ぎるなよ」

「分かってるぜ、です! 給仕は影――影が濃ければ主役は一層引き立つってもんだぜです」


 と、イネスらに言われたんだな。

 よしよし。それでいいから力み過ぎて空回るなよ。

 ほんっとに、空回るなよ!

 ……うむ、心配だ。


 少しだけ、サポートしておいてやるか。


「お~い、バルバラ」

「なんだ、英雄?」


 トラック内へと移動し、選手待機列にいたバルバラの横へモコカを伴って並ぶ。

 互いを見て、双方が一瞬顔を強張らせる。


「俺たち三人が年長組の選手だ」

「お、おう」


 絶対に勝ちたいバルバラが、あからさまに嫌そうな顔をする。

 モコカはというと……割と冷静な顔をしていた。


「バルバラ。お前はさっき、俺の指示に従うと『約束』したよな?」

「おう。ちゃんと覚えてるぞ」


 その『約束』のおかげでウエラーに甘えられていることをきちんと認識しているようで、『約束』を守る気はあるようだ。嫌々感も滲ませていない。

 が、その強制性をもう少しだけ強めておく。


「新しく出来た母親と可愛い妹の前で約束を破るような『嘘吐きお姉ちゃん』にはならないよな、お前は」

「当然だ! アーシは嘘吐きじゃないぞ、かーちゃん、シェリル!」


 と、必死に弁明をする。

 妹大好きバルバラだ。『嘘吐きお姉ちゃん』なんて不名誉な称号は欲しくないだろう。

 よしよし。


「じゃあ、今回のレースはモコカの指示に従え」

「はぁ!? アーシは英雄の指示に従うって……!」

「『モコカの指示に従え』っていう俺の指示だ」

「う…………」


 ちらりと、バルバラがモコカへ視線を向け、眉間にしわを寄せる。

 そんな不服そうな顔を無視して、モコカに確認を取っておく。


「出来るな、モコカ?」

「おうです! 任せておきやがれってんだですよ!」


 さほど厚みのない胸をドンと叩いてみせるモコカ。

 しっかり頼むぜ、副給仕長。……まぁ、あそこの館には給仕が二人しかいないんだけど。


 さて……これでうまくいくのかどうか。

 自然と視線が貴賓席へ向かう。日傘がくるくる……涼しい顔しやがって。いつか『おつり』をもらいに行くからな。覚えてろよ、オバハン。



「それでは、第一走者は位置についてください!」


 実行委員の合図により、各チームの第一走者、年少チームのガキどもがわらわらと大玉の前に集まる。

 たかが30メートル。しかし、おのれの体よりもでかい大玉を転がしながらの30メートルだ。そこそこ長い距離だと言えるだろう。

 どんな結果になるか、やってみないと分からない。不安がいっぱいだな、今回の運動会は。

 単純なルールだから、そこまでおかしな事態にはならないと思うんだが……はたして。



「位置について、よ~い!」



 ――ッカーン!



 甲高い鐘の音と共にガキどもが走り出す。


「「「「うはははーい!」」」」

「みんな、大玉転がして!」


 青組陣営からエステラの叫びが上がる。

 青組のガキども、全力疾走だったな。ぶっちぎりじゃないか、ガキども『だけ』は。大玉、一切動いてないけど。


「戻って! 大玉転がすんだよ、みんな!」

「「「「はーい!」」」」


 盛大なロスをした青組。

 他のチームはというと、黄組は大人しいガキが多いのか、おっかなびっくり大玉を慎重に転がし前進している。


「そうそう! ゆっくりでいいからね~!」

「大事なのはコントロールさよ! 慎重におやりな!」


 応援席からパウラとノーマの声援が送られる。

 あそこは手堅いよなぁ、ほんと。全然目立たないのに、いい順位をキープしてんだもんな。


 赤組はというと、教会のガキどもがメインとなっているためか、チームワームも勢いもバランスよく機能し順調にレースを進めている。現在一位だ。


「みなさ~ん! がんばってくださ~い!」


 と、ベルティーナの声援が飛ぶ。救護テントから。

 ……お~お~、レジーナがまだ正座させられてる。叱られなさい叱られなさい。たまにはいい薬だ。



 そして我が白組は――


「だぁ~ぅ。ばぁ~!」

「「「かわえぇ~……」」」

「いや、走れよ!」


 去年生まれたばかりだという、農業ギルド組員の息子が一部の大人たちをめろめろにしていた。

 大玉は一切動いていない。1ミリも! 青組ですらまともに動き出したというのに!

 どこのガキだよ、あいつは!?


 あぁ、そういえば去年、子供が生まれて金がないから冒険家になるとかなんとか言ってたオッサンがいたんだっけ? ……あれがその無謀なオッサンか。

 ヌー人族らしいのだが、ヌーってどんな顔してたっけな……とりあえず、生まれたばかりのガキの頭にはまるっこ~いちいさ~い角が二つ生えている。触るとぷにぷになのだとか。……それ、角か?


「じゃなくて! 走れって!」

「おいおい、ヤシロ! 一歳の子供に無茶言うなよ!」

「じゃあなんで出場させた!?」


 応援席にいるモーマットが、自分のところのギルド組員を庇うように言う。

 そんなこと言ってる場合じゃねぇんだよ!


「ぁっこ~!」


 と、ヌーのガキが近くにいた四歳くらいのガキに抱っこをせがむ。

 四歳のガキはクチバシを生やした鳥系の獣人で、こともなげにヌーのガキを抱きかかえ、そして他のちんまいガキどもと一緒に大玉を転がして走り始めた。


「ヌーのガキさえいなければ万事上手くいっていたのに!」

「そーゆーこと言うなよ、ヤシロ! 可愛いだろ!?」


 可愛くてもポイントはもらえないんだよ!


 どうあってもモーマットは身内を庇いたいらしい。

 身内の前に、チームの総合優勝を大切にしやがれ!


 よたよたと、危なっかしいレースが続き……そして黄組、赤組、青組、白組の順でパイロンをターンする。

 奇しくも、『台風の目』の順位の真逆だ。


「お前らはちゃんと走れよ!」

「まーかせてくださいっすー!」


 トルベック工務店の大工んとこの見習いだというガキどもが腕まくりをして意気込んでいる。……若干口癖伝染(うつ)ってないか? お前んとこの棟梁の。

 それから、よく陽だまり亭に顔を見せるガキどもがちらほらと参加している。

 こいつらは年中走り回っている、無駄な体力の塊だから、そこそこいい成績が期待出来るだろう。


「いいか、よく聞きやがれください、ガキども様!」


 そんな意気込むガキどもに、モコカが声をかける。

 第二走者から勝負をかけるつもりらしい。


「テメェら様に繊細なコントロールとか無駄のない走りなんてもんは期待出来ねぇですから、Uターンのあとはただひたすら全力で走って戻ってきやがれです」

「全力でいいの?」

「モチのロンだぜです! 私たちがしっかり受け止めてやるってんだです!」


 と、バルバラの肩に手を置いて自信に満ちあふれた顔で言い切る。

 このガキどもの全力を受け止める……まぁ、この二人なら大丈夫だろう。俺は御免被るけどな。


「よし、しっかり受け止めようぜ、英雄!」

「俺をまぜんな」


 お前らだけでやれ。負傷退場になったらどうする。

 俺はここらのガキよりも繊細に出来てるんだよ。


 そんな作戦とも呼べない作戦を授けたところで、白組の第一走者が戻ってくる。


「「「たーだーいまー!」」」


 折り返しの15メートルで、四チームはほぼ横一列になっていた。

 青組が若干出遅れているくらいだ。

 あと、ヌー人族の赤子を抱いたガキが一切大玉に触ってないけど、まぁ本人が楽しそうだし気にしないようにしておく。


 そして、各チーム第二走者へと大玉が渡される。


「よぉし! 遠慮なく全力で行ってきやがれです!」

「「「「「おぉー!」」」」」


 と、白組と黄組のガキどもが一斉に走り出す。


「ちょっと、あんたたち!?」


 なぜかモコカの言葉に返事をした黄組のガキどもが、それはもう、物凄い全力で駆けていく。


「「「「全力ー!」」」」

「あんたたちに言ったんじゃないよー!? ちゃんとコントロールしてー!」


 隣のレーンでパウラが慌てた様子でガキどもに声を投げる。……が、哀れ。黄組のガキどもは折り返しのパイロンを越えて、さらに年長用の折り返しパイロンをも越えて、どこまでもどこまでも走っていってしまった。


「戻ってきなさぁあ~いっ!」


 パウラの怒声が風に乗り、ようやく黄組のガキの耳に飛び込む。

 遙か向こうで大きくUターンをし、黄組のガキどもが戻ってくる。


 白組のガキどもは、先ほどの作戦通り、Uターンまでは全力を出さないように調整している……つもりらしいな、アレで。すっげぇ雑なボールコントロールだが、黄組みたいに暴走しないだけましか。


「よぉし、お前ら! 頭使えな! 頭!」


 と、デリアが自分が苦手とすることを他人に強要している。

 が、教会の比較的優等生な獣っ娘たちが川漁ギルド見習いたちをうまくリードして、危なげなくレースを進めていた。

 なんだ、川漁のガキども。ちょっと年上のお姉さんにいいところ見せたいお年頃か? マセやがって。……教会の女子に手ぇ出しやがったら、オメロが洗われることになるからな? よく覚えとけ。



 一方そのころ、出遅れていた青組のガキどもは――


「これさ。思いっきりパンチして大玉飛ばしてさ、手ぶらのまま全力で追いかければ速くない?」

「頭いい!」

「それやろう!」


 と、なんともガキらしい作戦を立てて――


「思いっきりねー!」

「手加減なしねー!」

「お前の限界を見せてみろー!」

「よっしゃあ! んんん……ぱーんちっ!」

「「「ぬぉぉおおお!? めっちゃ飛んでいった!?」」」


 ――大方の予想通り、折り返しのパイロンを越えてどんどん遠ざかっていく大玉を追いかけて走る羽目になっていた。

 それが想像出来ないのがガキだよな、うん。大玉は、自動で曲がりはしないのだ。


 ただ幸運だったのは、この大玉がノーマお手製で、骨組みに細く軽い、そのくせやたらと丈夫なワイヤーが仕込まれていたためにぶっ壊れなかったことだ。表面を覆う魔獣の革も、衝撃に強く伸縮性に富んでいるため、裂けたり破れたりはしていない。

 ……なんて無駄に高性能な大玉だ。これ以外に使い道ないのに。



 そんなわけで、赤組と白組の総合得点最下位&ブービーチームがトップ争いをしながら戻ってくる。


「みんなぁ~! がんばってぇ~!」


 赤組の第三走者、ミリィ率いる生花ギルドの女性たちチームだ。

 ……あれ? ミリィ以外の大きいお姉さんって壮年チームなんじゃ……


「なぁ、ミリィ。赤組の第三走者ってミリィ一人……?」

「違うょっ!? みんなまだまだ若いぉ姉さんたちだょ!? ……怒られちゃう、よ?」


 こそっと注意してくれるミリィ。だが…………若い?

 いや、まぁ、いいんだけども。………………………………若い、か?


「みんなー! 一番で帰ってきたら、陽だまり亭のお子様ランチ食べさせてあげるわよー!」

「「「「まじでー!?」」」」


 赤組のまだまだ若いお姉さんたちが声を上げると、赤組のガキどものスピードが上がった。

 どうやらあのガキ連中はこのまだまだ若いお姉さんたちの息子たちらしい。

 そして、このまだまだ若いお姉さんたちは……どうやらちょっと怒っているらしい。……視線が刺さってるんですが……こっち見ないでくれないかなぁ。


 赤組が白組を追い抜き、突き放し、独走を始める。

 そこで、モコカが動いた。


「ガキども様たち! テメェ様たちの本気はその程度かよですか!? その程度で本気だとか、ちゃんちゃらおかしいぜですよ! ヘソが茶を点てるですよ!」


 すげぇな、ヘソ!? 沸かすどころの騒ぎじゃねぇな!

 そして、そんなモコカの挑発に、ガキどもが食いついた。


「「「まだまだ本気出してないもんねー!」」」

「じゃあ、ドーンとぶつかってきやがれです! 私と勝負しようぜですよ!」

「「「うぉぉおおおおおおお!」」」


 白組のガキがぐんっと速度を上げて突進してくる。

 あっという間に赤組を抜きトップへ躍り出る。

 釣られるように赤組も速度を上げ、二つの大玉が砂煙を上げてこちらに向かってくる。


「ぇ……ぁの……これ、…………止まる、……の?」


 ミリィが青い顔をして二歩、三歩と後ずさる。

 ガキどもの親であるまだまだ若いお姉さんたちも冷や汗をかいている。


「ちょっと、あんたたち! 少しは減速しなさい!」

「ブレーキ! ブレーキ!」


 まだまだ若いお姉さんたちが叫ぶも、残りはあと数メートル。これは止まれない!


「構うこたぁねぇぜです! そのまま突っ込んできやがれください!」


 一方の白組はさらにガキどもを煽り、そして、両チームの大玉が待機列へと突っ込んだ。


「「「きゃぁああああ!」」」

「「よしきたぁああ!」です!」


 上がった声は二種類。

 まだまだ若いお姉さんたちの悲鳴と、がっちりと大玉を受け止めたモコカとバルバラの気勢。


 俺はというと。


「ミリィ、大丈夫か?」

「ぁ……ぅ、ぅん。ぁりがとぅ、ね。てんとうむしさん」


 危険な大玉の軌道からミリィを待避させ、念のために背を大玉に向けるようにしてミリィを守っておいた。

 いや、ほら。

 虫人族で俺よりも力持ちなのは知ってるんだが、やっぱミリィだし。


「ぇへへ……守ってもらっちゃった」


 こんな風に嬉しそうに笑ってくれるし。

 そりゃ助けるさ。


「よし、ミリィ! 今のうちに赤組を引き離すぞ!」

「待って! みりぃ、赤組!」


 一緒に白組の大玉を転がそうと俺とバルバラの間に入れてみたのだが、ミリィはスタート前に気付いて、赤組へと逃げていった。

 くそぅ、ゲットし損ねたぜ。


「ほら、行くぞ、英雄!」

「ヤシぴっぴは玉に触れなくていいからとにかく全力で私たちについてきやがれです!」


 言うが早いか、モコカとバルバラはとんでもないスピードで走り出しやがった。

 待て待て待て!

 コレについてこいって!?

 大玉なんかなんのハンデにもなってねぇじゃねぇか!


「おサルさん! 大玉のど真ん中を押しやがれです!」

「やってる!」

「曲がってんだよです!」


 バルバラの手の位置が若干センターからずれているせいで、白い大玉が徐々に右に曲がっている。

 それを上手くサポートして軌道修正しているモコカ。

 しかし、それではモコカの速度が死んでしまう。

 だが、バルバラの独走になれば必ず大玉はコントロールを失う。

 こいつは、難しい舵取りが必要となるぞ。どうする、モコカ?


「手の向きを変えやがれです! 指を上向けんじゃなくて、下向けて大玉を押しやがれください!」

「まどろっこしいだろ、んなの!?」


 モコカが指示を出し、自分への負担を最小限に抑えようと試みる。

 が、バルバラがそれに歯向かう。


「『嘘吐きお姉ちゃん』に成り下がりやがるですか!?」

「……ちっ! わーったよ!」


 うまくバルバラを黙らせ、自分の指示を通す。

 少々荒っぽいが、まぁ及第点だろう。


 モコカの指示に従い、バルバラが手首を返して指を下向ける。

 相撲の張り手のような押し方の場合、パワーは出るが指先が大玉の回転に巻き込まれてしまいコントロールが難しくなる。

 一方、指を下に向けると指が大玉の回転に巻き込まれなくなるおかげでコントロールが利きやすいのだ。


 その差は歴然で、ふらついていた大玉の軌道が途端に真っ直ぐになった。

 その違いは、バルバラにも分かったようで、「へぇ……」と、感心したような声を漏らしていた。


 しかし、よく知っていたなモコカ。大玉のコントロール方法なんて。

 イネスたちの入れ知恵か?


 チラッと自軍の応援席を見ると、イネスとデボラが誇らしげに立っていたので、サムズアップを送っておいた。

 途端ににやける給仕長ズ。……安いなぁ、あいつら。


「ほら、またブレてるぜです!」

「どこがだよ!?」

「腕が下がってやがるです!」

「んなこと言ったって、しょうがねぇだろ! ほとんどアーシ一人で押してんだからよぉ!」

「もうへばったのかよですか? 情けねぇ姉だぜですね!」

「んだとぉ!? アーシは全然へばってねぇ!」


 体の軸が若干ブレ始めていたバルバラの背筋がピンと伸びる。

 おかげで、大玉のブレがなくなり、勢いを増してぐんぐん前進していく。

 ちょっとしたフラつきは、モコカが右へ左へと移動して軌道修正をしている。


 上手くコントロールしてんじゃねぇか。ボールも、バルバラも。

 よし、これだけ出来りゃ、もう俺がいなくても大丈夫だろう。

 というわけで、俺、減速~…………ダメだ、もう限界だ。こいつら、バカみたいに速いんだもんよ……もう、ついていけない……一人くらいリタイヤしたって問題ないだろう。俺の思いを胸に抱き、お前たちだけで残りを走りきってくれ。


「ヤシぴっぴ! 遅ぇよです!」


 ……ちっ。こっそりフェードアウトしてやろうと思ったのに、モコカに気付かれてしまった。


「もっと前に出やがれください!」


 なんだ、モコカ。俺までコントロールする気か? 生意気な。誰がお前の好きなように操られるかよ。つか、これ以上速く走れるか! 限界だっつうの!

 俺、ここら辺で待ってるから、お前らだけで行って折り返してこいよ。あとで合流するから。


「……仕方ねぇですね。こうなったら……師匠直伝、『Bでも寄せれば谷間はDカップ!』」


 モコカが両肘を締めて胸をぎゅむっと寄せ、前傾姿勢になりながら体操服の襟元をぐぃ~んと引き下げた。

 瞬間、ちらりと見える見事な谷間!


「ごめん、もうちょっと詳しく!」


 思わず追いついちゃったね!

 え、なに?

 その技、どこで覚えてきたの!?


「英雄……お前ぇ、ホントしょーもねーな」

「うるさい! 谷間と下乳・横乳には無限のパワーがあるのだ!」


 というか……『師匠直伝』って……ベッコが教えたのか?


「さすがだぜですね、レジーナ師匠」

「あいつかよ!? つか、いつ弟子入りしたんだ、あんなイロモンに!?」


 こいつが師事するのは変態ばっかりか!?

 しかし、今回はいい仕事をしたなレジーナ!


「ほら、ぼやぼやしてねぇでターンの準備しやがれですよ!」

「ターンってどうやるんだ?」


 バルバラには『手加減』とか『力調節』なんてもんは期待出来ない。

 さぁ、どう出るモコカ?


「おサルさんはちょっと右にズレてそのまま全力で前進しやがれです! ヤシぴっぴはセンターで大玉が飛び跳ねないように上の方を押さえておきやがれください!」


 そして、400メートル地点のパイロンが迫る。


「おサルさん、全力だぜです!」

「おぉよ!」


 バルバラが全速力で大玉を押す。

 勢いに押されて浮き上がろうとする大玉を俺が必死に抑えつける。

 そしてモコカは――


「曲がりやがれぇぇぇえぇええでぇぇぇえす!」


 大玉の前へと回り込み、バルバラとは反対側の下方に手を添えて回転を加える。

 大玉に横方向の回転が加わり、地面を擦りながら小さな弧を描いて大玉がパイロンの周りをターンする。


「そしたらおサルさんは真ん中! ヤシぴっぴは離れて死ぬまで全力疾走だぜです!」

「よっしゃぁああ!」

「ふざけんなぁあ!」


 モコカの指示に、俺とバルバラが同時に速度を上げる。


 そう。モコカの言う通りに。


 俺たち第三走者は……いや、このレースの白組は、モコカが動かしている。

 状況を把握し、自ら行動し、そして他人をも意のままに動かす。

 それらは、一流の給仕に求められることだ。


 そして、これまでのモコカに足りなかったものだ。


 そしてさらに言うなら、こ~んな面倒くさい思いをしてまでモコカとバルバラを焚きつけた理由でもある。

 マーゥルに頼まれてしまったのだ、モコカに足りない部分であり、給仕に必要な部分を、モコカにでも分かるように教えてやってほしいと。


『モコカちゃん。とっても可愛くてお気に入りなんだけれど、給仕としての技量が上がらないのよねぇ……奔放なのは長所だからそこは残してあげたいし、私が直接言うと……ねぇ?』


 ……だから、『ねぇ?』をやめろってんだよ、ババアどもめ。

 どいつもこいつも「察してね」みたいな顔をしやがって。


「おい、アブラムシ! 本当に全力でいいのか!?」

「問題ねぇですから、余計なことは考えずにただ突っ走りやがれです!」

「でも、待機列にはムム婆さんやかーちゃんがいるんだぞ!? こんなスピードで突っ込んだら……!」

「その大切な連中様たちに、勝利の瞬間をプレゼントしたくねぇのかですか!?」

「やっぱ危険だ!」


 一瞬、大玉の速度が落ち、その瞬間モコカがこれまで見せたこともないような感情を露わにする。



「私を信じやがれです!」



 その声を聞いて、俺は自然と口角を持ち上げていた。

 感心半分、呆れ半分だ。


 モコカは今変わろうとした。だが、こいつはどこまでも真っ直ぐ過ぎる。

 給仕長に必須の『毒』を、まだ持っていない。

 そこくらい、俺が手を貸してやるか。


 イネスとデボラの給仕長ズに何かを吹き込まれたのは確かだろうが、こいつはきちんと『自分から』殻を破ろうと努力した。だから、そのご褒美だ。


「あ~ぁ、こりゃ負けたな」


 死ぬ気で速度を上げて、バルバラの隣に並び、そして最大限に見下した視線を向けてやる。


「約束したことすら守れない『嘘吐きお姉ちゃん』は、一番も取れない『負け犬お姉ちゃん』なんだな!」

「……ん、だと?」


 もっとスマートに決めたかったが、すでに心拍数が限界に近い。脳に空気が回っていない。

 勢いだけで乗り切るしか術がない。


「姉貴がこれじゃ、妹もたかが知れてるよなぁ!?」


 安い挑発だが、アホのバルバラにはこれくらい分かりやすい方が効くだろう。


「ふっ…………ざけんなぁ!」


 ドン! ……と、バルバラが一気に速度を上げる。


「アーシは負けねぇし、嘘吐きでもねぇ! そして、テレサは……シェリルもっ、めっちゃ可愛いんだっつーの!」


 バルバラが、残った体力のすべてを脚力に注ぎ込んだんじゃないかってくらいの加速を見せる。

 お前、人智は超えるなよ! あぁ、くそ! お前も獣人族なんだよな! それも速度に自信があるタイプの!


「テメェも約束は守れよ、アブラムシ! 絶対、ムム婆さんとかーちゃんを守れよ!」

「愚問だぜです」


 ぐんぐんゴールが近付き、アンカーの『壮年』チームが迫ってくる。

 いや、こっちがジジイババアに迫っていってるんだけども。


「止めてみせろぉ、アーシの全力をぉおお!」

「よしっ、今だぜです! ヤシぴっぴ! 横で揺れてるおっぱいを揉みしだきやがれです!」

「いや、それ犯罪だから!」


 モコカの言わんとするところを察し、俺はバルバラにタックルを喰らわせる。

 突然真横から衝突されたバルバラが、俺の体もろとも地面へと転がる。

 要するに、最後まで全力で来られたら止めきれないから、バルバラの動きを止めてくれってことだろ?

 このバカは、ゴール手前で速度を落とすとか大玉を止めるとか、そういう調整がクッソ下手だろうしな。

 ギリギリまで全力を出させて、強制排除するのが一番ロスが少ない。


 ……のは分かるが、「揉みしだけ」はねーだろ。


 …………そして、なんで俺は取り囲まれてるんだろうか?

 なぁ、答えてくれるか、エステラ、ナタリア、ノーマにデリアにマグダに、ほっほ~ぅ、メドラまでいるのか。よかった、酸素の回ってこない脳が早まった判断を下さないで。


「……ててて……なんなんだよ、英雄?」

「モコカの作戦だよ」

「作戦?」

「ん」


 俺は俺で、転倒のダメージと、無茶な全力疾走でもうガタガタだ。

 アゴをしゃくってあとは自分の目で確認しろと丸投げする。


「おぉ! なんか、すげぇぶっちぎりじゃねぇか!」


 痛む体をひねってコースを見ると、白組のムム婆さん率いる近所のしわしわ仲間が「えっさほいさ」と息を合わせて大玉を転がしていた。

 第二走者で躓いた黄組と青組、そして第三走者へのバトンタッチで盛大に事故った赤組との差は歴然で、白組のジジイババアが揃ってぽっくりいかない限り、このリードは縮まらないだろう。

 年寄りの冷や水はどのチームもお互い様だし……こりゃ、勝ったな。


「あ~ぁ……ったく」


 再び地面に倒れこみ、誰に憚ることなく大の字で寝転がる。

 実に面倒くさいミッションだった、マーゥルの頼みは。

 けど、まぁ。


 なんでかなぁ。

 悪くない気分だ。


 爽やかな青春の汗の影響か?

 この晴れ晴れした気分は。

 それとも、『自分を信じろ』と言ったモコカの声が、しっかりと給仕のそれになっていたって確信出来たからか?


 まぁ、なんだっていい。

 とにかく、このレースはいただきだ。

 これだけの苦労をさせられて一位が取れなきゃ割に合わん。



 徐々に脳に酸素が戻ってくる。


 ジネットが声を張り上げてムム婆さんを応援している。

 白組の連中がやけに盛り上がっている。

 隣に転がっていたバルバラが立ち上がり、飛び跳ねて、そして駆け出していく。


 あぁ、そうか。

 きっと勝ったんだろうな。よしよし。


 あいにくと、こっちはもう体を起こす気力も残ってねぇ。

 ……吐きそうだ。

 一瞬だけ心臓外せないかな?


 空が青く、風が心地よく――

 酸素を得た脳で俺は少しだけ考えた。


 揉みしだくのはさすがにダメだろうけど……ドサクサに紛れて一揉みくらいはしてもよかったんじゃないだろうか……実に惜しいことをしたもんだ。うん。







あとがき




謹んで新年のお慶びを申し上げます。


とか言うと、きっと「ちゃんとしてる人」っぽく見えちゃう新年、

ア・ハッピー・おめでとうニュー・いや~!


うん。

この程度なに言ってんだか分からないくらいの方が私っぽい。



昨年中は大変お世話になりました。

本年も相変わりませぬご愛顧をよろしくお願いいたします。


2018年は如何にして揺らすかばかりを考えていた一年でしたが、

2019年は違います!


寄せます!

むぎゅっ! です!


揺らしも、寄せも、散らしも出来る!

もちろん抉れもねっ☆


無限の可能性に挑戦する一年になればいいなと思います。




というわけで、

2019年の幕開けはモコカの「むぎゅっ!」から始まりました。

BでもDになれる夢の、夢のっ、必殺技です!


まず、前屈みになるだけでワンサイズ大きく見えますからね!

是非お試しあれ!

いえいえ、この技に関しましては著作権とか主張しませんので、

女子の皆様は遠慮なくお使いください。

ただ、その際ご一報いただけると幸いです。すぐ駆けつけます!




「女の……谷間を寄せる音がした」(ドンッ!)




……おかしい。

○NEPIECEで読んだ時はカッコイイセリフだったのに、少し弄っただけでただの変質者に……



とにかく、本年も相変わらずのヤシロたちをお楽しみください。



と、新年のご挨拶をしたところで、

いつものように谷間の話でも…………も、もうしてるっ!?


なんてことだ、

いつの間に……一切記憶がないです……(ぷるぷる)


えっと、じゃあ、

もう少し本編のお話を。


テレサ(サル耳、細長い尻尾のサル人族幼女)が出てきて、

若干シェリルとキャラ被ってんじゃないかなぁ~、

と、お思いの方、いらっしゃるかもしれません。

そうでない方にも、念のためにここでもう一度認識のすり合わせをさせていただきたいのですが、


シェリルは、



見た目が完全にオコジョです。



両親ともに、獣属性マックスの家系ですので、

トットもシェリルも、オコジョなんです。

初見でヤシロが地の文で


『一組の家族がいた。父親と母親、そして息子と娘が一人ずつ。全員、丸い顔に丸い耳をつけて、全体的に細長い、イタチのような姿をしている。』


と言っていますので、

家族全員オコジョなんです。

ですので、ウエラーさんやシェリルは中性的な美人さんなんですね。


ヤップロックとトットは、どちらも押しが弱く、

常識の枠から外れることを躊躇い、無茶をしない、

ある意味で常識的であり紳士的である反面、ちょっとヘタレで思い切りが弱い性格なんですが、

ウエラーとシェリルは思い切りがよく、自分がやりたいことはやりたいとはっきり態度で示すタイプなのです。

そういう意味では、確かにウエラーもシェリルも男っぽいかもしれませんね。

言ってしまえば図々しいとか厚かましいとも言えるかもしれませんが、

しっかりもので、いつも夫の背を押すウエラーは素敵な母親であり奥様だなと思います。



――と、その『奥様』という表現、

もしかしたらそのうち使えなくなるんでしょうかね?

いえ、「家の奥にいる者」的なニュアンスで差別的だと訴える方が結構いらっしゃいますし。


でもそれを言い出すと、

『家内』も同じようなニュアンスですし、

『嫁』も『もらうもの』というイメージが根強いですし、

じゃあ、なんて言うのか?

『カミさん』や『カアちゃん』や『カカァ』ですかね?

なんか昔のオッチャンみたいですよね(^^;


「ウチのカカァがよぉ」って? いやいや……


上品な奥様ってイメージのキャラを『カミさん』って表現するのは、やっぱりちょっと違うんじゃないかと。


最近では自分の配偶者を『パートナー』と呼ぶ人がいるとか……横文字……(・_・ )すーん

『ワイフ』や『ハズバント』って欧米に迎合するんでしょうか?

『マイハニー』とか? いやいや……


あまり、何もかもを「よくない」と決めつけるのは勘弁してもらいたいものです。


誤用でも、本来の意味でなくても、

伝わりやすい、馴染んでいる、空気に合っている表現を優先させたいと思っています。



テンションは「上がる」ではなく「張る」が正しいとか、

「さわり」は要点なので「さわりだけ話す」は序章を話すことではないとか、

「姑息」は「卑怯」という意味ではないとか。


知ってますけど、「もういいじゃん」って思ってるんですよね。


「おのれ……姑息な手をっ!」

って使いたいですもん。


あと、これは私がよく使う表現なんですが、「檄を飛ばす」

これは「激励する」ではなく「自分の意見を多くの人に伝える」というような意味なんですね。

ですが、「私はお前を信じている」とか「お前に期待しているぞ」とか、

そういう思いを多くの人、外に向かって発信することって、それはもう「激励する」とか「鼓舞する」のと同じでいいじゃないかと。


そういうのはもう、

出版する時に出版社が「ちょっとまずいんで直してください」と言われた時に直せばいいんじゃないかと思うんですよね。


そういえば、昔もありましたね。


『ハーフ』はダメですよと、

過去に校正さんに言われたことがありまして。

『エルフとドワーフのハーフ』ってキャラだったんですが、

一巻の時は問題なかったんですが、二巻発売前に「『ハーフ』はやめましょう」みたいな話になったようで……

「途中で変えるのって変じゃないですか?」って激しいバトルをした記憶があります。


『素っ頓狂』もダメなんだそうで……

「すっとんきょー」って響きが好きだったんですけどねぇ……しっくりくる類義語がないんですよねぇ、『素っ頓狂』。


けど、ナタリアに対しては「ちゃんと仕事しろよ、このすっとんきょー!」ってツッコミたいんですもの!!


ですのでまぁ、

誤用を見かけた際は、「まぁ、こんな意味で使ってんだろうな」と

脳内で修正・補完しておいてください☆



と、長々と書きましたが、

つまり何が言いたいのかというと――



シェリルの見た目はオコジョなんですよ、というお話です。



……え?

いえ、確かそんな話だったはずです。

入り口は。


物凄い美少女をイメージされていた方、申し訳ありません、

動物図鑑を見てイメージの修正をお願いします。

オコジョです。

ちなみに、ヤップロックファミリーは夏毛に生え変わることはないので、年中真っ白です。(尻尾の先は黒いんです)


……でも、おっぱいあるんですよねぇ、ウエラー。

オコジョなのに!

「おっぱい大好きか!?」って話ですよ!

大好きですよ!

えぇ、大好きですとも!


むしろ、おっぱいが嫌いな人なんてこの世界にいるのかって話ですよっ!



(」゜□゜)」< おっぱいが、好きだぁぁあああああ!


(」゜□゜)」< 大好きだぁぁぁああああ!


(」゜‐゜)」


( ゜∀゜)o彡°




そんな、2019年のはじまり。

本年も呆れず疲れず、

よろしくお付き合いのほどお願い申し上げまするぅ~!


本年もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ