無添加5話 大切だからこそ
夜中に、倒れた三人が陽だまり亭へと集められた。
領主権限を行使した強制収容だ。
職権乱用? あぁ、そのとおりだけど、なにか?
「あ、あの……店長さん……」
「ね、ねぇ……なんか、みんな雰囲気……怖くない?」
「えっと……私、あの、こんな、寝間着で…………ヤシロもいる、のに……」
机と椅子を壁際に避けて中央にスペースを設け、そこに三人分の布団が敷かれた陽だまり亭のフロア。
少々寒いかもしれないが、今は我慢してもらう。
酷い目眩で立ち上がることも出来ないロレッタとパウラとネフェリーが、俺たちに囲まれる中で布団に横たわっている。
ロレッタはマグダが、パウラはノーマが、ネフェリーはデリアが担いできた。
陽だまり亭のセッティングは俺がやった。エステラは各家庭への説明に奔走してもらった。
「お宅の娘さん、しばらくお借りします」と。
そしてナタリアには――
「とりあえず、ロレッタさんたちと同年代の娘がいるお宅を回ってきましたが、やはり、同じようなダイエットをされている方は多いようでした」
四十二区内のダイエット事情を探ってきてもらった。
夜中に突然押しかけてしまった各家庭には申し訳なかったが、ナタリアの話では「娘が急に食事を取らなくなった」と心配していた親御さんもいるとかで。
そっちはそっちで早急に手を打つ必要がある。
「お前ら。なんで集められたか、分かってるな?」
「え…………あの……」
狼狽するロレッタ。パウラとネフェリーも顔を見合わせるだけで何も言わない。言えないでいる。
不安げに辺りを見回す三人。
横になる自分たちを、顔見知りが怖い顔をして取り囲んでいるのだ、不安にもなるだろう。
俺にノーマにデリアにナタリア、マグダにレジーナ。
それから、ネフェリーのところへ見舞いに行ってくれていたミリィと、ナタリアが家々を回っている間に事情を聞いたというベルティーナにイメルダまでもが揃っている。
そして、その中央に立ちいまだ一言も口を利いていないジネット。
相当怖い思いをしているようだ。
ちなみにオシナには帰るように言ったのだが、「手伝えることがあるかもなのネェ」と居座っている。
ま、今は無視しておく。
「みなさん」
ジネットが落ち着いた声を出し、貧血の三人が肩を震わせる。
ベルティーナでさえ恐れさせる、ジネット本気の迫力だ。俺でさえ、向かい合えばストレスで胃に穴が開きそうなプレッシャーを感じることだろう。
「みなさんの事情は、理解しました。みなさんがやられていたことも、やられていなかったことも」
ダイエットをして、食事をしていなかったことを言っているのだろう。
身に覚えがありまくりの三人は、悪戯がバレた悪ガキのように肩をすくめて俯いている。
「わたしは、怒っています……けれど、それ以上に………………悲しいです」
その言葉に、ロレッタが顔を上げる。
今にも泣きそうな顔をしている。
「ほんの一年少し前まで、食べることもままならなかったわたしたちは、ヤシロさんやエステラさん、その他本当に多くの方々の頑張りや優しさによって、信じられないくらいに豊かになりました。いつもお腹いっぱいにご飯を食べられて、飢えることも忘れそうなくらいに……」
ロレッタたちの顔に、罪悪感が広がっていく。
ジネットは、食事を無駄にしたことを怒っている――わけでは、ない。
「みなさんは、食事が食べられない方がよかったですか?」
ジネットが怒っているのは――
「ヤシロさんや、エステラさんや、多くの方々がこれまで必死に積み重ねてきてくださった努力は、みなさんにとっては煩わしいものでしたか?」
「そんなことないです!」
「そ、そうよ! あたしも、すっごく感謝してる! ネフェリーもだよね!?」
「もちろんよ! 本当に幸せで、みんなのこと大好きで……煩わしいなんて…………」
「ではみなさんは……」
――食事を放棄するという選択。
「……生きることを、否定されますか?」
食事とは、生き物が生きるために必要不可欠な行為。
人類はその知恵と技術によって飢えを克服し、飽食を勝ち取った。
だから見失いがちになる。
食べ物に感謝する心を。
クズ野菜であろうと、使い切れずに廃棄しなければいけなかった時代のジネットは、毎日毎日心を痛めていた。
俺たちはなにも、食い物を残すなとか、感謝してるならなんだって食えとか、ダイエットがダメだとかくだらないとかやめろとか、そういうことを言いたいわけじゃない。
食い物を粗末にするなとは、声を大にして言いたい。ちゃんと感謝しろとも。
でも、ジネットが怒っているのは、そういうことじゃない。
「無理をしている自覚があり、実際に体に異変が生じてもなお、それでも食事を拒むということは……生きることを拒絶することと等しいと、わたしは思います」
痩せるために死のうとするんじゃねぇよ。
そういうことなんだ。
たとえそれが、無自覚であっても、俺たちはそれを止めたいと思う。
綺麗って、そうじゃねぇだろ。
腰が細けりゃ、足が細けりゃ、それが綺麗だって言えるのか。
周りの人間に心配かけて、テメェの健康を害して、命すり減らしてまで手にしたい『美』って、死にかけの青白い顔と、まともに立つことも出来ないようなひ弱さと、ビタミン不足で荒れ放題な――骨に張りついた皮膚のことなのかよ。
「みなさんが完全に回復するまでの間、陽だまり亭は休業します」
「「「えっ!?」」」
ロレッタたちが声を上げる。
陽だまり亭はジネットの生き甲斐であり、人生そのものだ。
宣伝Tシャツに書いた『年中無休』が嘘になる……とか、そんなことを気にしている者はいないのかもしれない。忘れているか、そんなことで『精霊の審判』を使うヤツなんかいないと思っているのか。そもそも、そんなことどうでもいいくらいに衝撃を受けているのか。
あのジネットが陽だまり亭を休む。
自分がいなくても営業だけは続けていた陽だまり亭を。休む。
そのことが、ことの重大さをこの三人に分からせたのかもしれない。
三人は、取り返しの付かないことをしてしまったというような深刻な表情をしていた。
「陽だまり亭の休業は、わたしに対する罰です。みなさんはお気になさらないでください」
「ば、罰って!? 店長さん何も悪いことしてないですよ!」
「そうだよ、ジネット! あたしたちが勝手に倒れただけで……」
「あなたが陽だまり亭を休む必要なんて……!」
「いいえ。わたしは、ロレッタさんの雇用主という立場でありながら、ロレッタさんの異常に気が付けませんでした」
「そんな……それはあたしが勝手に秘密にして……」
「それに、それだけじゃないです」
淡々と決定事項を告げるジネット。
いつもとのギャップが、一層不安をかき立てる。
「わたしには、なんの権限もありません。にもかかわらず、わたしの勝手で、わがままで、みなさんに罰を与えようとしています。それはエゴであり、秩序から著しく逸脱した越権行為です」
「か、考え過ぎだよ、ジネット!」
「そうよ! 悪かったのは私たちなんだから……そうよ、私、進んでジネットの罰受ける! 私も、ちょっと最近酷かったなって、反省してるから……だから、ジネットは罰なんて受けなくても……!」
「いいえ。もう、決めたことですから」
パウラの説得も、ネフェリーの提案も、今のジネットには届かない。
受け入れられない。
ジネットが、自分で決めたことだから。
「わたしが、みなさんに罰を与えます。とてもつらく、苦しい罰です」
何も言えず、泣きそうな顔でジネットを見つめるロレッタ、パウラ、ネフェリー。
傍目に見ていれば、この三人はすでに十分反省して、ことの重大さも理解しているように見える。
だが、それは今この場所の雰囲気に、ジネットの言葉に呑まれているだけだ。
「マズいことになったようだ」「どうやらとんでもないことをしてしまったらしい」そんな、一瞬のうちに膨れあがった焦燥感がそうさせているだけだ。
そんな即席の感情では、ジネットが与えようとしてる罰からは逃れられない。
そんなその場凌ぎの反省では、……また同じ過ちを起こしてしまう。ダイエットに限らず、他の場面でも。
根本的に大切なことを教えてやらなければいけない。
後ろめたい気持ちを抱いた時点で、自分でも気が付いているんだってことに気が付けってことを。
その後ろめたい気持ちを『言いたくない相手』がいるってことを、もう一回自分の中で確認してみろ。そいつはきっとお前にとって大切な存在なんじゃないのか? お前を怒ってくれるくらいに、親身になってくれるほどの。
少なくとも、「こんなこと考えてるなんて知られたら、心配される」って、お前自身が心配になる相手のはずなんだ、そいつは。
お前がそう思っているって、そのこと自体がもう……
お前にとって大切な人がそばにいるってことだろうってこと。そこに気が付けよ。
「これから、みなさんにはここで寝泊まりをしていただいて――」
お前を大切に思ってくれる人が、そばにいること。それを忘れるな。
……ってのは、意外と難しかったりする。だから、これでもかと思い知らせてもらえよ。もう二度と忘れられなくなるくらいに。徹底的に。
「――とっても美味しいお料理をたくさん食べてもらいます!」
「「「…………え?」」」
ジネットが笑みを浮かべる。
いつもの、優しく包み込むような笑みを。
ただ、少しだけ……涙で目尻が赤く染まっているが。
「いきなりお腹に重たい物はつらいでしょうから、まずはスープを作ります。少しだけ待っていてください」
言い残して、ジネットはさっさと厨房へと入っていった。
こっからは、俺が説明しといてやるか。
「これから俺が言うことが当たっていたら、お前ら三人、ジネットの言うことを素直に聞くと誓え。一切の反抗心も猜疑心も抱かずに、だ」
布団の上で体を起こした状態の三人に目線の高さを合わせ、俺はしゃがんだままでこいつらの身に起こっていたであろうことを論う。
「最初、飯を抜いただけで1キロ近く体重が落ち、『これはいける』と思った。しかし、三日もすれば体重は減らなくなった。そこで『もっと食事の量を減らさなきゃ』と思いさらに食事の量を減らした。一日三食が二食、一食と減り、酷い時は絶食もした。それでも減るのは少しだけで、我慢出来なかったりちょっと油断したりで多く食べるだけでビックリするくらいに体重が増え『これはヤバい』と焦り一層食事制限をし始めた。そうすると、頭が回らなくなり立っているのもつらくなってきた。このダルさを解消するには食べるしかないけれど、少し食べ過ぎただけで体重が増えてしまうのだから元の食事に戻せば一瞬で太ってしまうんじゃないか、きっとそうだ、あぁ食べるのが怖い! そうだ、太りにくそうな物だけを食べて飢えを凌ごう! 一応食べているんだしきっと大丈夫、倒れたりなんかしないはず! 今だけ、ほんの少しの間だけ頑張れば痩せて綺麗に……そして限界を迎えた。……反論のあるヤツは?」
三人が三人とも、キレーに俺から視線を逸らし、額に汗を浮かべていた。
図星も図星、ド図星だったようだ。
「み…………見てた、ですか?」
「あほか。見てたらもっと早く殴ってでも止めてたわ」
「で、でもね、ヤシロ! 絶食はよくないって思って、最低限栄養になる物は食べてたんだよ!?」
「わ、私も! ……そりゃ、朝とか、抜いたりはしたけど……でもちゃんと食べてたし!」
「ちなみに、いつ、何を食っていたか言ってみろ」
「え……っと…………怒らない、です?」
「怒る。つか、もう怒ってる。これ以上怒られたくなければ素直に答えろ」
「え…………っと……ですね…………あたしは、お腹が空くと眠れなくなるので、寝る前にお腹に溜まるものを…………」
「具体的には?」
「クルミをピーナッツバターで固めたオリジナル料理を……」
「あたしも……ウチのソーセージ、脂いっぱいで太りそうだから、軽くてカサカサしてるピーナッツ食べてた。……寝る前に」
「私は、もやしを…………でも、いっぱい食べたよ。お皿にいっぱい!」
「味付けは?」
「えっと、飽きちゃうからいろいろ……お味噌とか、醤油とか…………イチゴジャムとか、チョコレートとか…………」
…………なるほどな。
「そりゃ太るわ」
「「「えぇ!?」」」
面白いくらいに驚愕する三人の獣人アホっ娘トリオ。
うん。お前らは元気になるまでアホっ娘トリオだ。反論は許さん。
「で、ででで、でもですね、こんなもんですよ?」
と、ロレッタが手のひらを上に向け指を軽く曲げて見せる。大体野球ボールが握れるくらいの大きさだ。
……そんな巨大なピーナッツバターの塊を寝る前に食ってりゃ太るっつうの。
「いいか。まず根本的に、夜中に甘い物を食うと太る」
「「「なんで!?」」です!?」
「人間には生活サイクルってもんがあるんだよ」
カロリーというものの存在と、そいつの摂取量と消費量のバランスで太ったり痩せたりするという、日本ではごくごく当たり前に知られていることを噛み砕いて説明してやる。
エステラやナタリア、ノーマたちも知らなかったようで感心したように聞き入っていた。
「で、人間の体は常にエネルギーを消費しているんだが、最も消費量が抑えられるのが夜間なんだよ」
痩せたいなら、朝がっつり食って夕方を控えめにすることだ。
ただし、絶食はお勧めしない。
「脂肪を燃やすには筋肉が必要なのだが、飯を抜けばその筋肉が痩せていく。結果、脂肪が燃焼されずに太りやすい体になってしまうんだ。それこそ、『ちょっとした油断』で激太りするようなな」
「…………」
アホっ娘トリオが顔を真っ青にする。
「あと、カロリーの多さは重さやカサカサ感には関係ないから」
「えっ! でもさ、軽い物食べたって体重増えない……よね?」
「ん? どうしたパウラ。ロレッタのアホが伝染したのか?」
「ひ、ひどいよヤシロ!? それは酷過ぎる!」
「って言ってるパウラさんも十分酷いですよ!?」
涙ぐむパウラたちにいいことを教えてやろう。
「ナッツは、油の宝庫だからめっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっちゃ太るぞ?」
「「「そんなに!?」」ですか!?」
では、ここで証人に発言をしてもらう。
実体験を交えた貴重なお話だ。みんな心して聞くように。
「というわけで、俺が忠告したにもかかわらずハニーローストピーナッツを食い過ぎて一時期ヤバイくらいに体重を増やしたエステラから、ナッツの危険性を語ってもらおう」
「ちょぉおっと、ヤシロ!? なんで言うかな、そういうことを!? っていうか、なんでヤシロがそのことを知っているのさ!?」
「逐一ご報告を差し上げました」
「やっぱり君の仕業かぁ、ナタリア!?」
エステラは、ハニーローストピーナッツにドハマりして、四六時中ポリポリ貪り食って、よそ行きのドレスが着れなくなったのだ。
格式高いよそ行きのかなり気合いの入ったドレスだけに、少し体形が崩れると入らなくなるサイズだったようで……エステラは泣きながらダイエットをしていたと――
「――ナタリアから面白おかしく話を聞いている」
「ナタリアァァァァアアア!?」
「『お腹を摩擦すれば、お腹周りの脂肪が溶けてなくなるはずだよ! ナタリア、この乾いた布で遠慮なく摩擦してくれ! ボクが泣いてもやめなくていいから!………………んなぁぁぁあ熱い熱い熱い! 待って待って! ごめん、これ無理! 脂肪の前に皮膚がズタボロになっちゃぅぅぅわああああああ痛いぃぃぃいい! 火傷がいたいぃぃいいい!』事件のことですね」
「それ名称じゃなくて内容だよ! タイトルだけで中身全部バレちゃってるよ!」
エステラの奇行に、周りにいる全員が苦笑いを漏らしている。
「というように、ナッツの油は油断出来ないんだぞ」
「ナッツの脅威を伝える方法、きっと他にもあったよね!? っていうか、いまいちナッツの脅威は伝わってなくないかな、今の話!?」
ナッツをすり潰すとどれだけのオイルが出てくるかを説明してやると、ロレッタとパウラは身を寄せ合って震え出した。
これまで、そんな油の塊にピーナッツバターを追加して食べていたのかと、マジでヘコんでいた。
「で、でも、私は野菜だよ? もやしには、油なんかないよね?」
「夜中にジャムを貪り食ってりゃ太るっつうの」
「貪り……ってほどじゃ…………」
「じゃあ、どれくらい使ったんだよ?」
「ふ…………二日で、一瓶」
「ぇぇえ!? そ、そんなに食べちゃった、の? ねふぇりーさん……」
「ネフェリー……あんた、それは使い過ぎさね」
「あたいでもそこまでは食わねぇぞ」
「開いた口が塞がりませんわね……」
「ほんなら、その開いた穴を塞ぐために……」
「レジーナ、黙れ。もしくは塵と化せ」
驚愕する一同の顔を見て、ネフェリーが自身の異常性にようやく気が付いた。
きっと感覚が麻痺してしまっていたのだ。
これほどまで食事を我慢しているんだからこれくらい大丈夫に違いないと。知識のなさと、つらいことを我慢し続けている自身への甘えとが合わさって。あと、空腹により正常な判断が出来なかったのかもしれない。
しかし、異常性に気が付けたのはよかった。そこに気が付けなきゃ、……レジーナのように手遅れになってしまうからな。あいつの異常性はもう手の打ちようがない。
「ケーキは軽い。が、それを食い過ぎて太ったって自覚はあるだろう?」
「う…………ぅん。」
「砂糖は、太るぞ?」
そう。
四十二区は急激な発展を遂げ、貧困による飢えから解放された。
仕事が回るようになり、富が平等に分配され、経済が回り始めた。
それに合わせるように、これまでなかった美味い食い物が一気に増えた。というか、俺が持ち込んだ。持ち込んでしまった。
それはケーキであったりドーナツであったり、とにかく、食い過ぎれば太るようなもので、それでいてついつい食い過ぎてしまう物ばかりだった。
つい一年ほど前まで飢えに苦しんでいた連中が、正しいダイエットの知識など持ち合わせているわけもなく、そうなれば単純に食事制限という方向に思考が向いてしまうのはある意味で仕方がないのかもしれない。
だから、きっとこれは俺の仕事だ。
ジネットが手伝ってくれるようだから、それに便乗して広めてやるとしよう。
カロリーと、ダイエットの正しい知識を。
「最も効率的なダイエット方法を教えてやろう」
「ホントですか!?」
「ヤシロの言う方法なら信用出来るかも!」
「私、どんなつらいことでも耐えてみせるよ!」
素直に教えを乞うアホっ娘トリオに、俺は教えてやる。
と~っても簡単なダイエット方法を。
「しっかり食って、思いっきり体を動かす。以上だ」
食った分のカロリーをしっかり消費してやれば、自然と痩せる。
それ以上にいいダイエットなんぞない。
「というわけで、デリア。ノーマ。お前らには講師として参加してほしい」
「おう! 任せとけ! あたいも店長の意気込みを汲んで、仕事を休んでこっちに付き添ってやる!」
「アタシも、付き合ってやるさね。……まったく、最初にアタシに聞いてくれりゃ、綺麗に痩せる食事でも教えてやったのにねぇ」
「美を追究するのでしたら、ワタクシにもお声をおかけなさいまし。ヤシロさん、ワタクシも参加しますわよ」
「じゃあ、頼む」
この三人は健康的に痩せている、ダイエットのお手本のような連中だ。
精々しごいてもらうといい。……たぶん、一朝一夕では到達出来ない高みにいるんだろうけどな、この三人は。特にデリア。……一応、死ぬなよ、お前ら。
「ほなら……ウチは健康管理のために通わしてもらうわな」
「「出不精のレジーナが自ら進んで!?」」
「あ、あぁぁあ、あたしたち、とんでもない状態にまで追いやられていたですね!?」
「もっと大切な人んとこで気付いときぃ~や、自分ら。卑猥な仕上がりになる怪しいダイエット薬開発したろかな、ホンマ」
どんな薬を作るつもりだ。
まぁ、作らせねぇけど。
「……ヤシロ。マグダはしばらくパウラの家に居候する」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのはロレッタだった。
「……店長にはもう話してある。マスターも、快く受け入れてくれた」
「そうか。向こうを手伝うなら、その方が何かと便利かもな」
「……寂しくても、泣いてはダメ」
「お前もな」
二人で会話をしていると、ロレッタが慌てた様子で割り込んでくる。
「ま、待ってです! あたし、ちゃんと店長さんの言うこと聞いてすぐに元気になるですよ! だから、マグダっちょ……あの……」
マグダが陽だまり亭を出て行く。
一時的とはいえ、その事実が得も言われぬ寂しさとなり、ロレッタの胸に去来しているのだろう。
まして、自分が原因で引き起こしてしまった事態だけに、罪悪感は計り知れない。
「……ロレッタはマグダに自分の悩みを隠した」
「それは……」
「……だから、マグダも勝手なことをする。相談はしない」
「…………マグダっちょ……」
ロレッタに背を向け、マグダは尻尾をゆっくりと振る。
ゆっくりと歩き出し、ドアへと向かう。
「も、もう行っちゃうですか!? 明日の朝からでも……!」
「……明日も、仕事があるから」
ロレッタが伸ばした腕は、マグダには届かない。
マグダの足は止まらない。
ドアが開き、マグダが外へと足を踏み出す。
「マグダっちょ!」
必死の叫びに、マグダが足を止める。ようやく、止まる。
でも、振り返らない。
「ご、ごめんです! あたし、マグダっちょに心配かけたくなくて……でも、あたし、ちょっと残念な娘だから、却って心配かけちゃって……だから、あの…………ごめん、なさいです」
言いたいことはたくさんある。
けれど、うまく言葉にならない。
不安な心が、震える呼吸と共にフロアへと吐き出されていく。
ゆっさりと、ゆっくり一度尻尾が揺れて、マグダが向こうを向いたまま声を発する。
「……元気になったら、ロレッタがマグダを迎えに来て」
振り返らない。
けれど、しっかりとロレッタの心に向き合って、自分の気持ちを送り届ける。
「……マグダは、仕事をしながら待っている」
「……うん。分かったです。待っててです。きっと、すぐに迎えに行くです」
ロレッタの瞳からは、止めどなく涙が溢れ出していた。
それをマグダに悟らせないようにと、気丈に明るい声で言う。
「そしたら、一緒のベッドでお泊まりさせてです! 二泊三日は必須です!」
「…………望むところ」
もう一度尻尾を揺らして、マグダは一歩前進する。
振り返らないのは、マグダも泣いているから、なのかもしれない。
そしてドアが閉まるまでの間に、パウラとネフェリーにも言葉を向ける。
「……みんなきちんと元気になること。そしてパウラ……」
「うん。お店のこと、ごめんね。任せたから」
「…………早く元気にならないと、枕元の日記を読破する」
「ちょっと!? マグダ!? 待って! 待ちなさいってぇえー!」
物凄い形相で立ち上がろうとするパウラだったが、目眩からそれが敵わず、腕を伸ばして叫ぶしか出来なかった。
「…………ヤバい。……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……」
何書いたんだよ、日記に……
と、落ち込むパウラを生温かい目で見ていると、静かにドアが開き、マグダの耳だけがぴょこんと覗き込んできた。
「……ネフェリーは、本棚の裏の自作ポエム集を音読する」
「なんでマグダが知ってるのよ、それぇ!? 私、誰にも言ってないのに!」
パタンと閉まったドアに向かって腕を伸ばしても、動き出したマグダは止められない。
「……と、いうわけで。こういうイザという時に体が動かないのが如何に恐ろしい事態を招くか、みんなもよく分かったと思う。無理なダイエットだけは絶対にしないようにな!」
「……ぅん。みりぃも、気を付ける……ね」
ミリィを始め、その場のみんながうんうんと力強く頷いていた。
健康って、とっても大切なんだよな。
「お待たせしました。カボチャのポタージュです」
厨房から戻ってきたジネットは、カボチャのスープを持っていた。
芋栗南京はでんぷんが豊富でしっかりとカロリーを取れる食い物だ。こいつらの第一歩にはちょうどいいだろう。
「みなさん。痩せるために、まずはしっかりと体力を付けましょう」
最初は太るだろう。
だが、その体重の増加は太らない体作りのために必要不可欠なエネルギーだ。
ミクロで見るな、マクロで見ろ!
食のプロフェッショナルの言うことを聞いておけば、少なくとも不健康な体重の増減はないからよ。
「私は、今回見守ることにしたいと思います」
こういう時にお説教をしそうなベルティーナが穏やかな口調で言う。
どことなく嬉しそうに。少し泣きそうな顔で。
「ジネットに、任せます」
ジネットは変わった。
それを、ベルティーナも感じたのだろう。
こいつも、飯を食わないガキどもに食べることの大切さをその身をもって教えてきた教育者だ。
ベルティーナの教育がジネットを育てたんだもんな。託してみるのもまた教育だ。
「それであの……私のお食事は、しばらくダイエット料理になるのでしょうか?」
「……そんな泣きそうな顔すんなよ。ちゃんと作ってもらえるように言っといてやるから」
さめざめ泣くベルティーナを宥めて、その日の夜は更けていった。
あとがき
夏の早朝。
まだ草花が朝露を纏って眠りについている静かな中を散歩するのって気持ちがいいですよね。
ここ最近、毎日のようにそんな早朝の散歩を繰り返しています。
ピュアな気持ちで。
大体六時~七時くらいの間を。
……どこかの公園でやっているであろうラジオ体操を探しつつ。
ぴょんぴょん飛び跳ねる少年少女が見たい!
いや、楽しそうにぴょんぴょんする少女幼女が見たい!
物凄く見たい!
――という、純粋な心で。
静かな朝の散歩、いいものですよ。(最近、ラジオ体操ってやってないんですかね。一度も遭遇しません)
★わーにんぐ★
皆様。
いたいけな少年少女を「そーゆー目」で見るのはやめましょう。
宮地さんとの約束、DA・YO☆
(あれぇ、確か前回もこんなことを言っていたような……)
というわけで、一切法に触れないことでお馴染みの宮地です!
無事遠征も終わり舞い戻ってきました。
というところで――
レビューへのお返事です! しあ(〃´∀`)爻(´∀`〃)わせ♪
[2018年 01月 21日 00時 16分]の方
タイトルからして嬉しいことを!(*≧∀≦)ノシ
初めてのレビューを本作に書いてくださったようなのですが、
単刀直入に言って、素敵な文章です。何度となく読み返したくなるような嬉しい内容に、思わずうるっとしました。
等身大の言葉で、着飾らず素直に、伝えたいことだけを語ってくださっている。そう思えるような実直な印象の文体で綴られているのは、どこか懐かしさを思い起こさせる言葉たちで、親しい知人との会話を楽しむようにすらすらと読めました。
伝えたい言葉の骨格がはっきりと見えているからこそ、ストレートな表現で深みのある文章が生み出されてる。「あ、いいな」と思っても、真似するのはちょっと難しい、さり気ないセンスのようなものを感じるレビューでした。ありがとうございました!!
とか言っているうちに、
また新たにレビューを書いていただきまして、
これはもうちょこっと延長せざるを得ない感じですね♪
ふふふ、ありがたいです。
というわけで、
『家電転移~』の方の感想欄では告知したのですが、
ちょこっと遠征に行っておりました。
遠出です。電車に乗って海の見えるところまで……
怪しい男A「おい、さっさと船に乗せちまえ」
麻袋「もぞもぞ」
怪しい男B「ア、アニキ! こいつ、目を覚ましやしたぜ!?」
怪しい男A「なら、また眠らせてやりゃあいいだろうが」
怪しい男B「へい。♪ね~むれぇ~ね~むれぇ~♪」
麻袋「……ぱた。……くぅ……くぅ……」
怪しい男B「けっ、手間かけさせやがって」
怪しい男の娘「いつまで遊んでんだい。早くしな。船が出ちまうよ」
怪しい男A・B「「へい!」」
いやぁ、海って、いいですよねぇ。
麻袋は、ちょっと勘弁してほしいですけども。ほら、私って肌弱いですし、麻袋、結構摩擦が痛いですし。
でも、たゆたう海面を眺めるのはいいものです☆
とかなんとかいろいろありつつ、
戻ってきたのがついさっき。
そんなわけで、
今回の感想返しがSS尽くしとなっております。
テヘヘッ(*゜ー゜)>
実は、SSの方が書きやすいんです。
というか、SSは勝手にキャラが動いてくれるので
私は何も考えずに書けるんです。
ですので、時間がない時はついついSSになってしまいまして。
でも、感想のお返事にSSっていうのは、
いうなれば、
一緒に食事している時に人の話を聞かずに一方的にネタ披露しているようなもので、
実はあまりいい感じがしないというか、自分が書く立場ならという前提でですが、
私の、こう、自分勝手さというか自己満足感が溢れ出しているというか、
つまり、
お返事はちゃんとしたいなぁ~って思うんです。
ですので、
なるべく私の言葉でお返事させてもらいつつ、
遊びの範囲でSSを挟み込む、
くらいが理想です。
あくまで、「私が感想のお返事をするときは」という
私の勝手な考えですけども。
中には、「作者いらないからキャラと話したい」という方もおいでかもしれませんし、
そこら辺は皆様ご自由に感じていただいていい部分だと思います。
要するに何が言いたいのかと言いますと、
SSでお返事しちゃってごめんなさいね(*゜v゜*)テヘ
ということでした。
長々と失礼しました☆
またちょっと別の作品の話なんですけども、
『家電転移~』の方の感想欄で、ちょろっとマリリン・モンローの話が出まして、
ちょろり~んと検索したところ、
彼女、本名が「ノーマ・ジーン」っていうんですね。
ノーマさん。
やっぱり、せくすぃ~な名前なんですねぇ。
ノーマの名前を考えた時に、
なんとなくせくすぃ~な感じの名前がいいなぁと思って、
それで語感と、文字から漂うせくすぃ~な雰囲気で決めたんですが、
そうですか、モンローと同じ名前でしたか。
ブロンドに派手なメイク、そして大胆な衣装と、
モンローは随分と積極的な女性だと見えますが、実は彼女は内向的で神経質だったそうで、
そんなところもノーマと被るところがあるなぁ~と。
一見派手そうで経験豊富に見えて、
実は内気で純粋、穢れを知らない女性だったりする。
これはもう、ノーマと名前を付けた時から定められた運命だったのかもしれませんね!
じゃあもう、
今後はずっとノーマのスカート捲れ上がってることにしましょう!
常に下から風が吹いている設定で!
ヤシロ「ノーマ! お前をスカート捲り大使に任命する!」
ノーマ「お断りさよ!」
ヤシロ「いや、お触りはしねぇよ。たまにしか」
ノーマ「『お断り』って言ったんさよ! で、軽くお触りするつもりじゃないかさ、その発言は!」
ヤシロ「だって、パンツ見たいもん!」
ノーマ「『見たいもん』じゃないさよ!」
ヤシロ「……ぱんちゅ……見たい、もん……うるうる」
ノーマ「う…………あ、甘えたって…………そんなもの、見せられるわけ……」
ヤシロ「…………くすん」
ノーマ「うぅ………………ちょ、ちょっとだけなら……」
エステラ「待つんだノーマ! そんな分かりやすい手に引っかかるんじゃないよ!」
ノーマさんは、チョロ可愛い方がいいと思います!
というわけで、
…………くすん(チラッ!)
【 壁 】・_・)チラッ
【 壁 】⊙ ω ⊙╰ )チラッ
【 壁 】 ゜∀゜)o彡°チラッ
……ダメですか、そうですか。(ちっ!)
…………と、
気付けばまた長々とあとがきを書いておりますね。
しかし、今回は……ふふふ、
おっぱいの話題、出て来てません!
どうです!?
私もやれば出来るのです!
パンツのお話であとがきを持たせることくらいはね!(得意気)
そういえば、
本編ではようやくといいますか、
久しぶりにノーマとデリアが登場しました。
ベルティーナにナタリア、レジーナにイメルダもおります。
陽だまり亭のおっぱい率、爆上がりです!
ぽぃんぽぃんカーニバルだぁ!
ぃぃいいいいいいいやっふぉおおおおおおおいっ!
エステラとマグダ、それにミリィもおります!
ちっぱいフェスティバルだぁぁああああああああ!
やっぱり、おっぱいが揃ってこその『異世界詐欺師』ですよね☆
さぁ、次回も頑張りますよー!
というわけで、
おっぱいの話題が出てこないあとがきでした☆
(ケロケロ)
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




