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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
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348/821

無添加3話 慣れない職場で大奮闘

「時間がない。パーシー、簡潔に答えろ」


 詰め寄ってきたパーシーの肩を掴んで、逆に追い詰めるように体を近付ける。

「え、お、おぅ……」と戸惑いを見せるパーシー。だから、そんなんいいから聞かれたことにだけ答えろ。いいな? 聞くぞ。


「お前、ネフェリーの行動を監視していたよな?」

「か、監視なんかしてねぇし! た、ただ……遠くから見つめていただけ……」

「定義はどうでもいい! 見てたんだよな!?」


 関係のない話をしている時間はない。イエスかノーで答えられる質問だ。時間をかけるな!


「こ、ここ最近は……その……モリーがうるさくて……ちゃんと仕事しないなら、代表の座を正式に譲れって……でなきゃ従業員とお得意先に失礼だからって……だから、俺……ここ最近は四十区に缶詰めでさぁ……」

「つまり、ネフェリーが倒れた理由に心当たりはないんだな?」

「あ、あったら、あんちゃんに聞きに来たりしないっつーの!」

「そうか……」


 どうでもいい時は執拗にストーキングしていたくせに……


「使えねぇタヌキだな!」

「ひでぇーよ、あんちゃん! 俺だって、出来ることならずっと見つめていたいっつーの! でも、モリーも怖いんだよ! あいつ、怒るとさぁ……!」

「ジネット」

「はい」


 くだらない話をし始めたパーシーを無視して、作戦の変更を伝える。


「ネフェリーに何か精の付く物を作ってやれるか? あとでハムっ娘にでも持たせてやってくれ」

「はい。温かいおじやを作っておきます」

「あとマグダ。大至急デリアを呼んできてくれ。仕事が滞るようなら後日俺が補填するからって。悪いが拒否権はなしだ」

「……心得た。四分半で戻る」


 言うが早いか、マグダの姿が店内から消えた。

 凄まじい速度で飛び出していったマグダの足音が、もう聞こえなくなっていた。


「デリアが来たら、マグダにはノーマとレジーナを呼んできてもらってくれ」

「そうですね。レジーナさんのお力が必要になるかもしれませんね」


 嫌な想像ばかりが膨らんでいく。

 インフルエンザも怖いが、ペストや赤痢、腸チフス、マラリア……衛生面が改善されたとはいえ、ここは医学の進歩していない異世界なのだ。下水だって、俺が伝えた原始的で簡易的なものしかない。

 流行病が蔓延したら……打つ手がなくなってしまう。


「あ、あんちゃん! ネフェリーさんのお見舞いだったら、俺が行って看病までしてやるぜ! いや、遠慮とかいらねぇし!」

「あほ。体調が悪い時の姿を男になんか見せられるか。そういうところに気を遣ってやれないと、本っ気で嫌われるぞ」

「そ、……そんなに、か?」


 ネフェリーはイマドキの普通の女の子で、中でもファッションや流行に敏感な多感な時期だ。恋人でもない異性に絶不調の姿を見せたくはないだろう。


「ミリィが看病に行ってくれりゃ安心なんだが……ミリィ、ちょっと行ってきてくれないかな……」

「ネフェリーさんのお見舞いはわたしが考えます。ミリィさん、可能かどうか聞いておきますね」

「聞きに行ってもいーよー!」

「ありがとうございます。では、お手紙を書きますから、少し待ってくださいね」

「はーい!」


 ハムっ娘の勢い任せの説明では、おそらく正確な情報は伝わらないだろう。この、今の切迫した状況は。

 そのあたりを考慮して、ジネットは手紙を書くと言ったのだろう。

 きちんと、人の能力と効果的な使い方を考えているな。さすがだ、店長。


「な、なぁ、あんちゃん! 俺にも、何か出来ることねっかな? なんだってやるぜ! 今は四十二区の一大事なんだろ!? 四十二区は俺たちの工場を生き返らせてくれた大恩人だ。その恩人のために一肌脱がねぇで、何が砂糖工場の責任者だ! なぁ、そう思うよな!?」


 熱い。

 お前が意気込んでも出来ることなんかたかが知れている。

 こいつは料理も掃除も接客すら碌に出来ないのだ。

 忙しい時にフォローが必要な人材は枷になる…………なので。


「じゃあ、エステラに状況を説明してきてくれ。まだ未定だが、下手したら区を挙げて対策を講じる必要があるかもしれない異常事態だとな」

「お、おう! 任せろ!」

「ちゃんと説明出来るか?」

「大丈夫! 会話記録カンバセーション・レコード見せっから!」


 言って、来た時同様慌ただしく店を出ていくパーシー。

 ……まぁ、それが一番確実ではあるんだけど…………ちっとは自分で努力しろよ。どう話せば伝わりやすいかとか、頭使ってよぉ……


「ヤシロ! なんか一大事なんだって!?」

「……ヤシロ、デリアに説明を、マグダはノーマを呼んでくる」


 パーシーと入れ替わりでデリアとマグダが入ってくる。


「あ、待てマグダ! レジーナも呼んできてくれ!」

「……レジーナ? …………なるほど。理解した」


 こくりと頷いて、マグダが飛び出していく。

 全速力で飛ばしている。たぶん、途中でパーシーを追い抜くだろうな。


「すまんな、デリア。仕事、大丈夫だったか?」

「この後、夜釣りをやる予定だったけど、ちょっと先に延ばすことにした。ヤシロの一大事の方が重要だって、オメロたちも言ってたし」


 あいつら……そう言っとかないとこっちの一大事が気になってデリアの気が荒れると踏んだんだろうな……ま、ありがたいが。


「悪かったな。その夜釣り、今度俺も手伝うから、今日はこっちを手伝ってくれ」

「ホントか!? ヤシロと一緒に夜釣り出来るのか!? やる! あたい、こっちの手伝いめっちゃやる!」


 なんだか知らんがメチャクチャ嬉しそうだ。

 アレかな?

 子供って、お祭りとか花火とか夕べの集いとか、夜に外で何かをするとテンション上がるし、アレな感じなんだろうな、たぶん。


「はい。お手紙書けました。では、これをミリィさんに渡してくださいね」

「はーい!」

「一人だと不安だから、一緒に行くー!」


 ジネットの手紙を持って妹が二人出て行く。

 残った妹が三人、俺の足下に集まってくる。


「「おにーちゃーん! ネフェリーさんのとこは、もういいのー?」」

「あたし、お仕事あぶれたー!」

「じゃあ、お前らは俺とカンタルチカの手伝いな」

「「「はーい!」」」


 俺が妹の相手をしている間に、ジネットがデリアに状況を説明していた。

 こっちはジネットたちに任せよう。

 カンタルチカの最ピーク時間帯か……未体験なだけに、妙に怖いぜ。


 まぁ、こういう状況だからな……仕方ない……本当は関わらせたくなかったのだが……


「オシナ……、頼みたいことがあるんだが」

「ウンウン。ば~っちり、任せちゃってネェ~☆」


 オシナに手を貸してもらう。

 だが、こいつは俺が連れて行く。陽だまり亭に残して勝手をされては困る。自分の居場所を作りかねないからな、この手の大人女子は。したたかなんだ、とにかく。


「ちなみに、何が出来る?」

「お料理と~、お酒も結構知識あるのよネェ。あ、デモデモ、あんまり早く動くのは好きくないネェ」


 ま、想像通りのスキルか。

 こいつはカウンターにでも立たせて、しっとりと客の相手でもさせておこう。

 カンタルチカなら、厨房で主導権を奪われようが知ったこっちゃない。そこはあのブルドッグ耳マスターが頑張るところだ。


「ジネット、カンタルチカがそろそろ限界だろうから、もう行くな」

「そうですね。きっと今頃マスターさん一人で困っていると思います。急いであげてください」

「こっちに来たヤツの対応は任せた。分からなければ俺に振ってくれていいから」

「はい。そうします」


 必要最低限の伝達だけして、俺はオシナと妹たちを連れて店を出る。


「あ、そうだ、デリア。ロレッタ、パウラ、ネフェリーと何か話をしなかったか? 気付いたことでもいいんだが」

「ロレッタにパウラにネフェリーか……特にはないなぁ……。何か思い出したら店長に話しとくよ」

「そうしてくれ。じゃ、悪いが陽だまり亭を頼むな」

「おう! 任せとけ! あたいは頼りになるからな!」


 ドンと胸を叩いて送り出してくれる。

 ホント。どこかでまとめて恩返ししとかなきゃな……借りを作りっぱなしってのは落ち着かないんだよなぁ。……詐欺師としての性分かねぇ。


「たぶん、すげぇ忙しい店だと思うが、お前のペースでやってくれていいから」

「ウンウン。そ~ゆ~気遣い、ほ~んとダ~リンちゃんは居心地のいい系男子だネェ~」


 人間を指して居心地がいいとか……背後霊くらいしか言わねぇぞ、そんなの。

 溺れそうだったので藁にも縋ってしまったわけだが……


「オシナ」

「ン~?」

「お前の悩みも、出来る範囲でなんとか出来ないか、考えてやるからな」

「ほょっ?」


 恩返しなんてのは気恥ずかしいので視線を合わせずに言ったのだが、オシナがガン見してくる。……いや、見過ぎだ見過ぎ! 回り込んでくるな! 顔を覗き込むな!


「ダ~リンちゃん、ホンット~に、やっさしぃ~子ネェ~」


 によによと口元を緩ませて俺の頭を撫でようと腕を伸ばしてくる。

 させないけどな!


「あ~ぁ、ホント……メドラちゃんとシェアしたいネェ~」

「そもそも、メドラの物じゃねぇから」


 シェアとか、サブイボ立つからやめてもらえませんかねぇ。


「それじゃ~ネェ~…………単独所有、狙っちゃお~かネェ~……」


 一本線で描かれたようなオシナの目が開いておっとり垂れ目が少しだけ蠱惑的な色味を増す。

 見られているだけで心臓が締めつけられるような息苦しさを感じた。


「……な~んて、ネ」


 ほろっと、落雁が口の中で溶けるように妖しい雰囲気を霧散させて、元のはんなり笑顔を浮かべるオシナ。

 ……だから、怖いんだよ。たまに垣間見せる大人女子の本気モード。今俺、草食動物の気持ちすげぇ分かるからな? 居酒屋にシマウマとかいたらめっちゃ意気投合しそうなほどに。


「とにかく、今晩を乗り切ることを最優先してくれ」

「ウンウン。まぁ~かせなさいっネェ~」


 ともすれば、純朴な男子高校生が夢中になってしまいそうな『可愛らしい年上お姉さん』的な雰囲気に見えるオシナ。

 俺が油断出来ないと感じているのは、メドラの親友を長年やっているという経歴からか、詐欺師である俺に近しい何かを感じているからか……纏う雰囲気の割に乳がCカップといまいち盛り上がりきれていないからか…………三番、かな?

 いやいや、まさかそんな。はっはっはっ。


 足早に大通りを進み、俺たちはカンタルチカへと急いだ。






「……ん…………んっ」


 相変わらず無口で無愛想なブルドッグ耳を垂らしたオッサンマスターが俺に抱きついて「ん、ん」と低い音を漏らしている。

 やめてくれる? 帰るよ?


「マスター、感謝してるー!」

「ここまで嬉しそうなマスター初めてみたー!」

「マスターはじめてみたー!」

「「「マスター、はじめましたー!」」」

「はじめんじゃねぇよ。意味変わってるから」


 オッサンに「ん、ん」と抱きつかれながら、俺を見てどこか安堵した表情を見せた妹たちに囲まれる。

 カンタルチカで動き回っていたのは四人の妹だけだった。それも年少組のだ。

 俺が連れてきた三人と合わせて七人。三人は厨房で皿洗いなどをさせて、四人を外に出そう。


「オッサン。カウンターはこのオシナに任せる。オシナ、酒の種類は分かるな?」

「は~い! 得意ネェ~」

「オッサンは厨房で飯を頼む」

「……んっ!」

「フロアは俺と妹で乗り切るぞ!」

「「「「はーい!」」」」


 妹たちに元気が戻った。

 散々走り回っていたくせに、疲れた素振りも見せない。

 やっぱ、こいつらにとっては責任者って存在が大きいんだろうな。どんな失敗をしてもきちんと責任を取ってくれる後ろ盾は、いてくれるだけで心に余裕が出来るもんだ。


 それから、軽く店内の設備や料理の内容、酒の種類と値段、先払いのシステムなどの説明をオシナと共に受けて、俺のカンタルチカ一日バイトが始まった。







 ……し、死ぬ…………


「お~い、ヤシロ~! こっち魔獣ソーセージおかわりだー!」

「こっちはフルーティーソーセージ二つなー!」

「エール!」

「ビール頼む!」

「俺が聞きに行ってから言えや!」

「「「「パウラちゃんなら、これでちゃ~んと持ってきてくれるぞ」」」」


 大ベテランと一緒にすんじゃねぇっつの!

 つかパウラ、あいつすげぇな。

 満席のフロアのあちらこちらから声がかけられて、誰が何を頼んだのかなんてまるで把握出来ない。

 もしかして、イヌ人族は耳が俺たちのそれよりも高性能なのかもしれない。

 くっそ。イヌ人族が優れているのは尻尾の可愛さくらいだと思っていたのに……侮れない。


「ダ~リンちゃん。これとこれは向こうの席ネェ。これ出したら戻ってきてネェ。そしたら、向こうの料理用意しとくからネェ~」


 カウンターに立つオシナは、フロア全体を見ることが出来るので、注文の出所をしっかりと把握してくれていた。正直助かる。ネフェリーじゃ、こうは行かなかったかもしれない。


「真面目に働くヤシロが見られるなんて、今日はラッキーだなぁ」

「俺はいつも陽だまり亭で頑張ってんだろうが」

「よく言うぜ。いっつも奥の席で座ってるだけじゃねぇか」

「違いねぇ! がははは!」


 アホどもめ!

 俺はあの席に座っていろいろ考えているのだ。お前らが及びもつかない高次元の深い思考でな!


「今日はパウラちゃんの可愛い尻尾が見られないから帰ろうかと思ったが……これはこれで面白いもんだなぁ」

「なんだ。俺のお尻がそんなに可愛いか? 触りたかったら触っていいぞ。有料だけどな」

「がはははは! おい、ヤシロ。お前こっちの店に来いよぉ! そしたら、オレ毎日通うぜ!」

「そりゃいいや! そーしろよ、ヤシロ!」

「お前なら、パウラちゃんの婿って認めてやってもいいぜぇ」


 お前らは何様だよ。どの立場で物言ってんだ。

 だいたい、毎日こんなに忙しかったら俺の本業が疎かになるだろうが。

 この街のシステムを完全把握して、精霊神までもを詐欺にかけるという大偉業の、その準備がよ。


「俺には、他にやるべきことがたんまりあるんだよ」

「あーはいはい。おっぱい観察だろ?」

「違うわ!」

「だから陽だまり亭でケーキとか始めたんだろ、女の客呼びたくて」

「違うわ!」

「どうせ、陽だまり亭に留まってるのも、あの店長のボインが目当てなんだろ?」

「…………」

「おい、否定しねぇぞ、こいつ!?」

「なんてヤツだ!?」

「恥を知れ!」

「あれは街の宝だ、手ぇ出すんじゃねぇぞ!」


 おそらくそうだろうとは思っていたが……ジネットのファンってのは結構いるんだな。知名度も上がったしなぁ、陽だまり亭。

 だがしかし、ジネットの爆乳は誰にもやらん!

 あれは、俺が愛でて楽しむものだ! お前らは寄るな、見るな、思い出すな!


「それはそうと、あの色っぽいねーちゃんは誰なんだよ?」

「そうそうそう! 俺も気になってたんだよな!」

「あれもヤシロの知り合いか? 呪い殺すぞテメェ」

「いや、怖ぇよ、おっさん」


 オシナのおっとりとした雰囲気と、その柔和な表情から醸し出されるそこはかとない女性らしさが、その顔や仕草と相俟ってなんとも色っぽい大人の魅力となって辺り一帯に充満しているのだ。

 カウンター付近に座る男どもがもれなくオシナの色香にあてられてとろけてしまっている。


「オ、オレ、ちょっとお酒ご馳走しちゃおうかな」

「あっ、テメ! 抜け駆けすんじゃねぇよ!」

「おれっちが先に行こうと思ってたんだよ!」

「争うなよ、見苦しい。……で、ヤシロ。あのねーちゃんの好きな物とか知らねぇか?」

「「「テメェ、ふざけんなよ!」」」


 オッサンどもがとっくみあいのケンカを始める。

 こういうのも、酒場ならではだよなぁ……


 パウラのいない時に揉め事起こすんじゃねぇよ…………ったく。


「あのオシナだがな……」

「「「「うんうん! オシナちゃんがなんだって!?」」」」

「あいつは、メドラの大親友だ」

「「「「………………」」」」


 大食い大会以降……というか、魔獣のスワーム討伐とかそこら辺からなのだが、メドラが狩猟ギルドの方針を変更したとかで、メドラはすっかり有名人となっていた。

 これまでは、「狩猟ギルドのギルド長に会えるのは極限られた一部の人間だけ」という暗黙のルールがあったのだが、最近は「各支部の連中は可能な限り本部に顔を出して交流しろ」とお達しが出ているようだ。


 ウッセ曰く、「これまでは本部の中だけで交流と結束を深めていたんだが、スワーム討伐以降支部との連携も密に取るようになったんだよな」ということらしい。

 噂によると、メドラはマグダのことが甚く気に入っているようで、交流がなかったことでマグダのことを知らずに過ごしていた自分を悔いたとか恥じたとか、そんな感じで今後はどんどん交流しようという風に方向転換したのだそうだ。


 一部の人間からは、「――っていうのは建前で、何かと理由を付けて会いに行きたいだけなんだよ、『ダーリン』に」なんて世迷い事が聞かれたりしたのだが、そんなもんは俺の耳には届かない。却下だ。不許可だ。あっちむいてぷんだ。


 そんなわけで、メドラという名前を出せば、四十二区に住むなんの変哲もない一般領民であっても――


「「「「…………へ、へぇ~……」」」」


 ――と、顔を真っ青にするくらいの破壊力を発揮するようになっていた。

 これはもうあれだな。玄関に『メドラ』って書いたお札貼っておけば除霊も出来る勢いだな。…………いや、悪霊が寄ってくるかもしれない。もしくは、メドラという名の魔神が……


「ウフフ~。ひょっとしてひょっとして、オシナのお話ネェ~?」


 ふらふらと、タルジョッキに入ったビールを持ってやって来るオシナ。

 自分の話がされていると悟りやって来たのかもしれない。

 カウンターに陣取っているオッサンどもから殺気の籠もった視線が飛んでくる。


「ハ~イ、これご注文のビールネェ」

「妹にでも持たせればよかったのに」

「オシナ的にも、こっちのみんなともお話したかったからネェ~」

「「「「かっ、可愛いっ!」」」」


 健気な少女を見るような目でオッサンどもがオシナを見つめている。

 ……お前ら、キモいよ。


「オシナに興味津々なお客さんたちにぃ~、と~っておきのオシナ情報を教えてあげるネェ~」

「「「「えっ!? マジで!」」」」

「ンフフ~。オシナはネェ~……実はネェ~…………」


 散々もったいぶって、オッサンどもの顔がぐぐぐぐぐっと近付いてくるのを待って、待って、待って、焦らして、限界まで引っ張っておいて、オシナがいたずらっ子のようなお茶目な口調で言う。


「メドラちゃんと同じ年齢としなのネェ」

「「「「…………」」」」


 オッサンども、目が点。

 盗み聞きしていた周りのオッサンどもも沈黙。

 そして――


「「「「「えぇぇぇっぇぇぇえぇえええええええぇえええぇえぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇえぇええぇぇえぇええええぇえぇぇぇえええええええええええええええええええ!?」」」」」


 ――絶叫が轟いた。


 やかましいわ!

 どんだけ驚いてんだよ!

 いや、俺もビックリしたけども!


「ンフフ~。こ~んなオバサンでもよかったら、カウンターにお酒飲みに来てネェ~」


 ひらひらと手を振って、来た時同様ふらふらと帰っていくオシナ。

 ふらふらというか、ふわふわという足取りだ。


 オッサンども、放心。

 カウンターに戻るオシナを眺めて、誰一人、指一本動かす者はいなかった。

 ……そんなにショックかよ。


 かと、思ったのだが。


「………………有り、だな」

「おぉ! 有るよな!」

「なに、あの『オバサンでもよかったら』って!?」

「全然いいんですけど!? むしろ逆にプリーズだけど!?」


 新たな病気が発症したようだ。

 こいつは感染力高そうだなぁ…………


「な、なぁ! オシナちゃ……オシナさんって、エルフなのか?」

「い、いや。違うと思うが」

「厚化粧なのか!? 若作り?」

「見た感じ、ほぼスッピンであれだな」

「彼氏は!?」

「いるとは聞いてないが……」

「何歳下までOKかな!?」

「それは本人に聞いてくれ!」


 物凄ぇ詰め寄られてる!

 俺、オシナのことそれほど詳しくないのに!


 ちらりとオシナを見ると、「アラアラぁ~、諦めさせようと思ったのに、逆効果だったかもネェ~」的な苦笑を漏らしていた。


 オシナ。お前は甘いよ。

 ……四十二区って、基本的に残念な人種しかいねぇんだよ、マジで。


「ヤシロ様。遅くなって申し訳ございません」

「おぉ、ナタリア! 来てくれたか」

「エステラ様は陽だまり亭の方へ行っております」

「助かる。マジで」


 いつもの落ち着いた表情でナタリアがやって来て、俺の心は嘘みたいに軽くなった。

 指示を出さずに完全に任せられる人材って、本当に必要なんだよな。


「お兄ちゃん。妹たち、もうおねむだから帰らせるね」


 年長組の妹が半目でうつらうつらしている妹七人を器用に抱えて俺のもとへとやって来る。

 なんてアクロバティックな……こいつら、普段からこうなのか?


「お前、いくつだ?」

「十二だよ」


 しっかりした妹もいるんだ。


「遅くまで悪かったな。連れて帰って寝かせてやってくれ」

「うん。弟でよかったら派遣するけど……いる?」

「そうだな……マスターの手伝いが欲しいから……腕っ節の強そうなのを二人ほど頼む」

「うん。呼んでくるね」


 フロアは俺とナタリアがいれば回る。

 オシナもいるし。

 あとは、後片付けなんかを手伝ってくれるヤツがいればいい。


 俺は、よく懐かれるポジション故に、年少組の相手が多いから忘れがちだが、ロレッタの弟妹にもしっかりしたのはいるのだ。

 ただ、そういうヤツらはしっかりした仕事に就いているから突発的な手伝いに呼ぶのは難しいというだけで。


「あぁぁあああ、ナタリアさん! その鋭い瞳……罵ってほしい!」

「あ、俺も俺も!」

「おこぼれでもいいから、一罵り!」

「みなさんのご意向に沿いたいのは山々なのですが、残念ながら私は口下手ですので、ナイフでもよろしいですか?」

「「「さすがにそれは刺激的過ぎるよ~ぅ!」」」

「なぁ、もう帰れよ、酔っ払いども」


 アホな酔っ払いがアホなことを言い、ナタリアはそれを真顔でするりとかわす。

 さすが卒のない給仕長だ。


 ナタリアという一騎当千のチートキャラを得て、その後のフロア仕事はとてもスムーズだった。注文も滞らないし、トラブルが起きそうになってもナタリアが事前に制圧してくれる。

 そもそも、美人が増えてオッサンどもがみんな上機嫌になっていた。


 それから夜が深まるまで、カンタルチカから騒がしい声が途切れることはなく、夜の風が少し肌に冷たく感じ始めるころまで営業は続いた。

 とはいえ、通常時とは大きく異なる臨時態勢であることから、マスターの一存でこの日は閉店時間を早めることとなった。

 いつもより随分と早く店を閉め、マスターは長い長い安堵の息を漏らした。


 俺も肩の荷が下りた。


「サンキュウな、ナタリア。マジで助かった」

「いえ。ヤシロ様が分かりやすく助けを求めてくださることは稀ですし」

「お前には結構甘えてるだろ?」

「では、今度甘え返させていただきます」

「膝枕くらいしか出来んぞ」

「では、お尻枕を」

「それは男が女子に頼むもんだろうが!」

「いえ、それはそれで犯罪です」


 くそぅ、正解がない!


「あの、ヤシロさん……」


 表の灯が消えたカンタルチカに、ジネットがひょっこりと顔を出した。

 隣にはエステラとマグダもいる。


「もう、お店を閉めたんですか?」

「あぁ。やっぱパウラ抜きじゃキツいからな」

「そうですか」


 なんにせよ無事でよかったと分かりやすく顔に書いて、ジネットが息を漏らす。


 陽だまり亭も、少し早めに店を閉めた様子だ。


「おじや、食べてくださいましたでしょうか?」

「あぁ、そういや……」


 確か、妹が持って上がっていたような気がするが……忙し過ぎてそっちまで見に行っていられなかった。


「……ん」


 ブルドッグ耳のマスターが短く唸って、二階を指差す。


「お見舞いに伺っても、よろしいんですか?」

「……ん」

「どうしましょうか、ヤシロさん?」


 パウラの顔を見てやってくれということらしいが……


「俺が行くのはマズいだろう。ジネット頼む」

「はい」

「ボクも行くよ。話が聞けるなら聞きたいし」

「だな。マグダはやめとけ。大人数じゃ迷惑になる」

「……うむ。ここで待つ」


 フロアの椅子を借りて、適当に腰を下ろす。

 今日はマジで疲れた……


「ヤシロ様、お水でもお持ちしましょうか?」

「あぁ……いや、お前も疲れてるだろ? いいから休んでろよ」

「では、お尻枕を……」

「休ませてくれ、俺も」


 そういうの、もういいから。


「実を言いますと、私とエステラ様は今、少々厄介な事件を抱えておりまして……」


 俺の隣へ腰を下ろし、ナタリアがそんなことを言う。

 珍しい。

 ナタリアは、椅子を勧めても座らないことが多いし、何よりもこちらが聞いてもいない自身の苦労を話すようなこともしない。

 俺に聞いてほしいってことか。

 ……エステラが言いたがらない問題なのかな。


「二つあるうち、一つはお話し出来ないのですが……」


 と、暗に「そちらに関しても察してくださいね」と釘を刺しつつ、もう一方という方の問題についての話を始める。


「実は、ポップコーンを狙う賊を捕らえたのです」

「ポップコーン!?」


 その話に、俺は覚えがあった。

 アッスントが言っていた、四十一区の賊の話だ。

 ……マジで四十二区に乗り込んできやがったのか。


「すでに身柄を拘束し、牢獄へと統監しているのですが……なかなか強情な者で、何を聞いても一切口を利かないのです」

「そうなると、お前らは困るのか?」

「えぇ。その者がどこの誰なのかが分からなければ、罰の下しようがありません。問答無用で罰を与えることを、我が領主様はよしとされませんので」


 何も言わないなら問答無用で……って出来れば簡単なんだろうけどな。

 エステラなら、無理矢理にでも情状酌量の余地を探し出しそうだ。


「もし、お時間があればご助力願います」

「そうだな……まぁ、今日の借りもあるしな」

「助かります」


 強情者を組み伏す方法は、まぁいくつか知っているし。

 しかし、そうか。被害が出る前に捕まったか。


「妹たちに被害が及ばなくてよかったよ」


 ポップコーンを強奪するために妹たちに怪我でもさせたなら、情状酌量の余地なく極刑を言い渡していたところだ。


「あ、いえ。違います」

「違う……って、何が?」

「狙われたのはポップコーンなのですが……原材料の方です」


 は?

 と、思わず口を開けてしまった。


 原材料? ……ってことは。


「ヤップロックさんの畑が、盛大に荒らされてしまいました。復興には相応の時間がかかりそうということです」


 ポップコーンって、そっちかよ!?



 同時に何個も何個も降りかかってくる問題に、さすがに脳みそが悲鳴を上げた。

 ……いいから、休ませてくれよ。俺の体と、心をよぉ……







あとがき




あぁ、夏バテで食欲が……まぁ、減らないんですけどね。

夏ご飯うまうま♪


本日も、レビューのお返しですっ!テーイ(ノ ̄▽ ̄)ノ ┫:・'.::


今回は……

[2017年 12月 31日 23時 01分]の 投稿者:ゆき様!!


感想欄とか、カクヨム様の方でも構っていただいている方です☆


物語の導入のような雰囲気と語り口で見る者を引き込んでいく不思議な魅力のある文章でした。これから始まる未体験の物語への期待を高めてくれる、アトラクションに乗る前の『ようこそ○○へ!』みたいな感じで、わくわく感が味わえるエンターテイメント性がある文体のように感じました。

物語を理解した気にさせつつ「本当のお楽しみは本文で」と、上手い具合にすべてを語らず、でも全容を見せているなと。感心したというと偉そうですが、上手いなぁって。


根底に「他人を楽しませよう」という温かい想いがあればこそ生み出せる娯楽性に富んだレビューでした! ありがとうございます!!



……と、

「名前言ってる!?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、

ご本人様より直前にリクエストをいただきましたので表記させていただきました。


別に頑なに「出したくないんだもん!」というわけではありませんので、

あとタイミングもよかったので、珍しく。

一応、「勝手に名前出すな!」というトラブルを避けるためにいつも日付でご紹介していたという理由でして。


ですので、

「じゃあ、私も名前出して!」という方がいらっしゃれば、

言っていただければ、対応出来る範囲で対応させていただこうかと。

過去に書いていただいた方も、修正という形になりますが、それでよければ、

「何年何月何日のヤツです」と言っていただければ、探して修正してきます。


以前、「名前出していいよ」と言っていただいた方もいたんですが、

その時はご対応出来ませんで……遅くなって申し訳ないですが、

今さらでよろしければ。ご一報ください。




というわけで、ロレッタたちですが、

まだ引っ張りますか!?

……おかしい。最初のプロットでは二話で原因が分かる予定だったんですが……


感想欄でもちらほら予想されている方もいて、

先の予想はご自由にしていただいていいのですが、それに関し私はイエスもノーも反応出来ませんので、

展開予想の含まれる感想は基本スルーさせていただいております。

(何件かスルーしたのでここでもう一度、念のため)


まぁ、あえて黙っていてくださる方や、ちょっと違う方向にもっていってくださっている方とかもいて、

お気遣い感謝いたします。ありがとねっ(゜ー^☆キラッ


みんなが倒れた原因は次回、分かります!(予定)

ただ、寝間着のパウラがおへそ出して寝てたり、チラッとパンツ見えてたりしたら、

それだけで四話くらい使いそうなので、……やっぱりまだ未定です!



まだちょっとモヤモヤが続いていますね。

きっとみんなが元気になったらいつも通りの四十二区に戻りますので

気長にお付き合いいただければありがたいです。


……ちなみに、今、もうちょっと先の方のお話を書いているんですが、


「前半、こんなに重い空気だったっけ?」というくらい軽い空気になっております。

いかにおっぱいを揺らすか、そんなことを画策する、みたいな話です。

みなさん、おっぱいまでもう少しです!

モヤモヤを頑張って乗り切ってください! いや、乗り切ってくだパイ!



さて、

なんだか言い訳めいた話が続いたので、まるっきり関係ないお話をします。


あ、おっぱいの話ではありません。念のため。

家電の話です。


……え? い、いえ。

別にこっちでステマとか、新作とか、

そんなの全然関係ないですよ、ぴーぴー(←ベートーベンの曲の中の何か)


いえ。

新作を書くにあたり、

ものっっっっっすごく家電のことを調べまくりまして、

その影響でしょうかねぇ、

家電が欲しくなっちゃいまして。


これまでなら別に興味も示さなかったであろう『娯楽』用の家電を買っちゃいました。


その名も、ホームプロジェクター!


PCとかゲームの画面をスクリーンに映し出せるヤツです!

映画が大画面で見られる、優れものです!


……とはいえ、部屋がそんなに広くないので100インチとかは無理なんですが、それでもモニターよりずっと大きな画面で映画が見られるのは楽しいです。


それをですね、寝室に持ち込んで、

天井に映すんです!!

寝転びながら映画鑑賞!

なんて贅沢!


もう、楽しくて楽しくて、

最近、ヒマがあればずっと映画見てます。


しかも、

PCに入っている画像なら、

どんな物でも投影出来る……ということで……


ジネットさんのイラストを「どどーん!」と天井に映してみました!

大画面で(」゜□゜)」<パイオツカイデー!

大迫力の(」゜□゜)」<パイオツカイデー!

天井いっぱいの(」;□;)」<パイオツカイデー!(感涙)


大きなおっぱいが、特大サイズで、

我が家の寝室の天井を…………埋め尽くすっ!


天井いっぱいのおっぱい!


これを幸せと言わずなんと言うのか!?



……はっ!?

もしかして、このプロジェクターを使えばエステラさんも!?


早速試してみました。

エステラさんのイラストを選択して天井へ「どん!」


おぉ……っ!


ものすごーーーく大きな『ぺったんこ』が映し出されました。

すごく大きなちっぱい!

天井いっぱいのちっぱい!

きっと3Dでもぺったんこ!


あれ……なんでか天井がぼやけて…………くすん。


とりあえず、ジネットさんのイラストに戻しておきますね。

天井いっぱいのおっぱい。

おっぱいに見守られて眠る幸せ。

きっと、いい夢が見られることでしょう。



子供の頃、

田舎の空はどこまでも澄んでいて、

夜になると満天の星空で、

草原に寝転がって星空を見上げて、

手を伸ばせば星に手が届きそうな気がして、

寝転びながら腕をぐぐっと伸ばした少年だったあの日の思い出。


そんな穢れのない気持ちを、今また味わっているのです。

寝転びながら腕をぐぐっと伸ばして、

もうちょっと!

もうちょっとで手が届きそうなんです!

物凄い大きな、天井いっぱいのおっぱいにっ!

腕、伸びろぉぉおおおおー!




夏です。

これまで興味がなかったことに意識を向けてみるのも楽しいかもしれませんよ。

新しい出会いや発見があるかも。



というわけで、おっぱいのお話でした!

(あれ? 新作のステマのために家電の話をしていたはずなのに…………まぁ、新作も結局おっぱいだし、結果一緒かっ☆)



次回もよろしくお願いいたします!

宮地拓海

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