こぼれ話2話 流れ始めた水のごとく
「とどけ~る1号からの、お届けや~!」
陽だまり亭開店直後、ハム摩呂が店へと駆け込んでくる。
手にはA4サイズくらいの封筒が握られている。
『二つ折り厳禁』と書かれているにもかかわらず、ハム摩呂の小さな手に「しっかりと」握られた封筒。
……今度、手紙の扱いを教えてやらなければいけないかもしれない。
「ちょ~っと、ハム摩呂!? あんた、そこっ、くしゃってなってるですよ!?」
「はむまろ?」
「あんたです!」
「くしゃ?」
「くしゃってなってるです、そこ!」
「くしゃい?」
「臭くはないですよ!? 『あんたが持ったせいでそこが臭くなったです』とか、あたし、弟にそこまで酷いこと言わないです!」
「他人様の前では優しい姉やー!」
「あたし家でも優しいですよ!? ホントですよ!」
こちらに向かって猛アピールするロレッタ。開店直後からフルパワーだな、お前ら姉弟は。
あれで閉店まで体力が持つからすごいんだよな、ここの姉弟……ちょっと分けてほしいわ。
「とにかく早く寄越すです!」
「これは店長さん宛~! 部外者は引っ込んでろ~」
「それが姉に対する口のきき方ですか!?」
「うんー!」
「違うですよ!? どこで勘違いしちゃったです!? 誰に教わったですか!?」
「緑の髪の……」
「レジーナさぁーん! ウチの弟に余計なこと仕込まないででーす!」
窓の外に向かって全力で叫ぶロレッタ。
レジーナはレジーナで、仕込んだイタズラの結末を見に来ないからなぁ。仕込んだら、あとは想像で楽しめるヤツなのだ。……たちが悪い。
「あら、これは」
封筒を受け取り、差出人を見てジネットが表情を輝かせる。
待ち望んだ便りだったらしい。
……が、その前に。
「おばさん臭い表現だな」
「ふぇえ!? な、何がですか!?」
「『あら』って」
「えっ、い、言いませんか? なんと言うのが正解なんでしょう?」
「そうだなぁ、ジネットの場合は……」
「……『にゃあ』」
俺の言葉尻を、マグダが掻っ攫っていく。
また気配もなく背後に立ちやがって。
「え、っと……『にゃあ』は、おかしいのでは? ね、ねぇ、ヤシロさん? ヤシロさんもそう思いますよね?」
「いやぁ、そんなことないかもしれなくもないぞ」
「えっ、ど、どっちですか!?」
「……一度やってみるといい」
「そ、そう……ですね。物は試しと言いますし……」
こほんと咳払いをして、ジネットが仕切り直すように封筒の差出人を見る。
「にゃあ、これは! …………あの、やっぱりおかしくないですか?」
「うん、おかしいな」
「……違和感しかない」
「じゃあやらせないでください! もう……」
ぷくぷくと頬を膨らませて封筒を抱きしめる。……ズルいぞ封筒。場所代われ。
「おはようッス~。相変わらず賑やかッスね」
「よぅ、アレマロ」
「ウーマロッスよ!?」
「うーまろ?」
「オイラの名前ッス! それは自分の名前の時だけやるッスよ、ハム摩呂!」
「はむまよ?」
「ハム摩呂って言ったッスよ!?」
「あげぽよ?」
「どこの言葉ッスか!? 一度も口にしたことないッスよ、あげぽよ!?」
「『せいれいの~』……」
「やめるッスよ!? 嘘吐いてなくても怖いんッスから、それは! 人に向けてやっちゃダメッスよ!」
「それが人に物を頼む態度かー」
「それが棟梁に対する口のきき方ッスか!?」
「うんー!」
「ヤシロさんっ!」
「俺じゃねぇよ、レジーナだよ」
なんでノータイムで俺が犯人だと決めつけやがったんだ。失礼なヤツだ。
そんなヤツには――
「マグダ三十分間禁止」
「はぁああ!? オイラの憩いの朝食タイムが!? 謝るから許してほしいッス!」
「……休憩入ります」
「ぬはぁあああ!? マグダたん待ってッス! 行かないでッス!」
「……けど、休憩に入るマグダも?」
「マジ天使ッス!」
「お前ら、もうそれ完全にネタ扱いじゃねぇか」
天使も安くなったものだな。
「それより、何かあったんッスか?」
「あ、そうです! みなさん、お待ちどう様でした!」
届いた封筒を両手で天高く掲げる。全員の視線が封筒へ集まる中、俺は無防備になった揺れる胸元を……
「……ヤシロ、集中して」
「場の空気を乱すのはよくないです、お兄ちゃん!」
「店長さんは気付いてないようッスから、オイラが代わりに――懺悔するッス」
なぜ寄ってたかって……そして、ウーマロに言われてもちっとも嬉しくない。
しょうがないので、封筒の方へ集中する。
「差出人は誰なんだ?」
「モコカさんです」
ということは、中身は――
「アブラムシか」
「イラストだと思いますよ!?」
いやぁ、モコカだからな。
駆除したアブラムシを「こんなに始末してやったぜです!」とかいって送ってきても不思議ではない。……送ってきたらぶっ飛ばすけども。…………師匠の方を。
「では、開けますね」
虫耐性MAXで、一切虫を怖がらないジネットは平然と封筒を開ける。ちょっとやだなぁ~とかもないらしい。
そして中から出てきたのは、ジネットの予想通りイラストだった。
いくつもの色を重ねて作った版画のようだ。
そうか、情報紙は版画で作ってるんだっけな。なら……イラストの一部がくしゃってなってても問題ないだろう。……よかった、生原画とかじゃなくて。賠償もんだぞ、原画なら。
「わぁ! 可愛いですね!」
ジネットがキラキラした目でイラストを見つめ、マグダとロレッタがそれを覗き込む。
「なはぁぁあ!? なんですか、これは!?」
そして、ロレッタが絶叫を上げたわけだが……それも致し方ない。
イラストに描かれていたのは間違いなくマグダだった。
「なぜ店員が三人いてマグダがモデルになっているのか」……という驚きではないのだ、ロレッタが声を上げたのは。
ロレッタが驚いたのは――
「マグダっちょが、超巨乳です!?」
――そこに描かれていたマグダのイラストが、けしからんほどの巨乳、いや、爆乳だったのだ。
小さな身長と不釣り合いなほど突き出したたわわなバスト!
なんだか、心霊写真を見ているような、しっくりこない不穏な気持ちになる。
「マグダ……モコカに何をした?」
「……ちょっとしたアドバイスを」
「その内容を聞かせてほしいものだな」
「……まず、美味しいキャラメルポップコーンを進呈した」
「賄賂です! 裏取引が行われていたです!?」
マグダの必殺技は効果抜群だな。
モコカタイプの人間なら爆釣り出来るんだろう。……安いな、モコカ。
「……もちろん、ポップコーンの代金は自腹」
そういうところはきっちり線引き出来ているので、叱るに叱れない。
マグダ、抜かりないな。
「……そして、陽だまり亭には素晴らしい店員が三人いることを強調しておいた」
「マグダっちょ、あたしたちのことも言ってくれたですか?」
「……当然。陽だまり亭のウェイトレスは三人そろってこそ。誰ひとり欠かせない」
「マグダっちょー! 賄賂とか言ってごめんです! マグダっちょのそういう優しいところが評価されて起用されたです! そうに違いないです!」
「……でも、一人しか描けないというのであれば、一番可愛いマグダが最適と、ハニーポップコーンを添えて説得した」
「賄賂です!? ダメ押しの賄賂がたった今判明したです!」
「……美味しいは、正義」
それでマグダがモデルになった――ってのは、まぁ分かるとしてだ。
「なんでこんなことになってるんだ?」
マグダを描くなら、とある層に大人気の未発達ボディをきっちり描くべきだろう。
なぜこんな違和感しかないロリ巨乳に……
「……マグダは、独りぼっちは、イヤ……」
その小さな囁きに、店内が水を打ったように静かになった。
「……だから、それはマグダがモデルなのではなく、陽だまり亭ウェイトレス三人のいいところを掛け合わせた架空の店員」
「掛け合わせたって……具体的にどこを掛け合わせたんだよ?」
「……まず、マグダの可愛さ」
うん。
それが八割くらい占めてるから、ほとんどマグダにしか見えないよな。
「……そして、店長のおっぱい」
「ほにょ!?」
なるほど……こいつはジネットのおっぱいだったのか。
「……もとい、爆乳」
「な、なんで言い直したんですか!? もう!」
確かに、ジネットの爆乳はいいものだ。
ピックアップされてしかるべきだろう。
「……そして、ロレッタの制服」
「あたしの要素薄過ぎるです!?」
「……けど、ロレッタの制服は、可愛い」
「みんな可愛いですよ、制服は!」
さすがロレッタだ。
特にここ! ――というところが見つからなかったのだろう。総じて普通だから。
「……その結果、このようなイラストに」
「店長さんのおっぱいを手に入れたマグダっちょです、これ」
「……数年後のマグダの姿、とも言える」
「普通の人はここまで育たないですよ!?」
「あの、ロレッタさん……わたし、普通の人ですよ?」
人間の規格を大きく逸脱した奇跡のおっぱい。
それがお前だ、ジネット。
「ジネット、お前がナンバーワ……」
「懺悔してください!」
すげぇ食い気味に言われた。
なんなら「ジネット」って言い終わる前に息を吸い始めてやがった。
ジネットは予知能力でも手に入れたのか?
「で、イラストのマグダを見て感涙しているそこの大工」
ウーマロが、目頭を押さえて床に蹲っていた。
爆乳マグダがそんなに嬉しいのか、こいつは?
「……マグダたんは、イラストでも可愛いッスけど…………これは、なんか違うッス……」
あぁ、そうか。
ウーマロは未発達信仰の人なんだな。……末期め。
「でも、もしマグダが将来これくらい育ったら?」
「もちろん天使ッス!」
結局、なんでもいいんだよな、お前は。マグダなら。
「あの、ヤシロさん……」
満足げなマグダと、きゃんきゃん吠えるロレッタを窺いながら、ジネットが俺の袖を引っ張る。
そして、背伸びをしてこそっと耳打ちをしてくる。
「よろしいんでしょうか?」
うん。吐息が耳に当たってこそばゆくて、とてもよろしい感じだぞ。
が、そうではなくて。
「何がだ?」
「マグダさん……あの、あれは虚偽とは取られませんか?」
「イラストは真実を描くものじゃない。教会のガキどもが描いたお前やベルティーナの似顔絵は、決して実物に忠実じゃないだろ?」
「あ、確かにそうですね」
「あれが『マグダに似せて描いた嘘偽りない描写です』とかいう注釈がついていたらアウトかもしれんがな」
「そうですよね。……いけませんね。最近、ベッコさんの本物そっくりのイラストばかり見ていたもので、本物と瓜二つでないといけない気がして……」
身の回りにいる変態的才能の持ち主を基準に考えるのはやめた方がいいぞ。
でなけりゃ、世の女性のほとんどが料理下手ということになってしまう。ジネットを基準に考えるとな。
「まぁ、ただ……」
「ただ?」
イラストを持ってご満悦のマグダをこっそり見やって呟く。
「あのイラストがマグダだと認識されるかどうかは、分からんけどな」
マグダが『BU』に行った時に、ナタリアのような現象が起こるかどうかは分からない。
というか、たぶん起こらないだろう。
まぁ、こちらとしても、ナタリアの時みたいな大フィーバーが起こられても困るからな。あれは異常だった。
陽だまり亭に押しかける熱狂的信者とか、御免だからな。
「あれ? なんか違う」くらいがちょうどいいのかもしれない。
そういう意味だと、パウラの方が心配だな。
カンタルチカにはウェイトレスがパウラしかいない。
かつてはバイトを入れようとしていたらしいが、ロレッタで懲りたのかアレ以降募集はしていないようだ。
そんなわけで、カンタルチカのウェイトレスのイラストはどっからどう見てもパウラだ。
モコカのセンスと技術が光って、かなり可愛く描かれている。……変なのに目を付けられなきゃいいけどな。
ま、一応エステラに忠告だけはしておくか。
「ねぇねぇ、ヤシロ! 見て見て! これさ、モコカの描いたイラストなんだけど――」
と、俺たちが受け取ったのと同じ封筒を手に、パウラが陽だまり亭へと駆け込んできた。
カンタルチカにもイラストが送られていたらしい。まぁ、モデルになったんだし、最終確認的な物なのだろう。
「あ、陽だまり亭にも来てたんだね」
「はい。今みなさんで拝見したところです」
「マグダのアレ、なに? びっくりしたんだけど」
「アレは、えっと……」
「陽だまり亭三人娘の要素をミックスした結果だそうだ」
「え…………ロレッタ、どれよ?」
「むぁああ、聞いてですパウラさん! あたし、制服なんです! あたしの要素皆無です!」
かつての先輩、パウラにすがりつき泣き崩れるロレッタ。
だが――
「あはははっ! いいじゃない、ロレッタ! うんうん、すごく可愛いよ、制服!」
「あたし褒められてないです、それ!」
パウラとの関係はこんな感じだからな、慰めてはくれないだろうよ。
「うぅ……カンタルチカに残っていたら、あたしの方がモデルになったですのに……」
「どーゆー意味よ!? あんたが残っててもモデルはあたしだったわよ! あんたは制服担当!」
「カンタルチカででもですか!?」
ロレッタは、どこの店に行ってもチャームポイントが制服のようだ。
まぁ、他が普通だからな。
「ねぇ、ヤシロ。情報紙って『BU』ですごい影響力があるんでしょ? これでカンタルチカのお客さん増えるかな?」
「まぁ、そうだな。料理のレビューも載るみたいだし、酒好きが魔獣のソーセージ目当てに来るかもな」
「だよね、可愛い看板娘を見学にね!」
ん、若干会話が噛み合ってない。相当浮かれてるな、パウラのヤツ。
よほど嬉しいんだろうな、自分のイラストが載るってことが。
俺なら御免だけどな、こんな晒しもんみたいな扱われ方は。……いろいろ、面倒なことになりそうだし。
「まぁ、気を付けろよ」
「え、何に?」
「このイラストを見てパウラ目当てに来る客に、だよ」
「えっ、えっ……それって…………心配、してくれるの?」
あぁ。
たぶん、すっげぇ厄介な連中だろうからな。ナタリアフィーバーを見りゃ、そう思わざるを得ねぇよ。
「ねぇねぇヤシロ。どうかな? このイラスト、可愛い?」
「あぁ、よく描けてるな。似てると思うぞ」
「じゃあ、可愛いってことだね」
自己評価の高さは相変わらずか。
すごく嬉しそうにパウラが笑う。わざわざ見せに来るほど嬉しいということか。
ん~……
下手に水を差すのは野暮かもしれないが……ニューロードの誕生で『BU』の空気も変わるかもしれない、なんてのは希望的観測過ぎるからなぁ……あぁ、くそ。ここにエステラがいればあいつに言わせるのに…………
「パウラ」
「なぁに?」
「まぁ、アレだ……なんかあったら、言えな」
「へ?」
そんな真ん丸な目でこっち見んな。
「外との交流ってのは、時として余計な摩擦を生むもんだからよ。例の、虫事件みたいにな」
四十二区でケーキが流行ったせいで、隣の四十一区との間にひと悶着があった。
あぁいうことが起こらないとも限らない。
「もし何かあったら、さ……ヤシロが、助けてくれるの?」
「いや、エステラを派遣する」
「もぉ~! ヤシロが助けに来てよ」
「俺の派遣料は高いからな、店が乗っ取られちまうかもしれないぞ」
なんて冗談を言ってやったら。
「そうなったら……ヤシロがあのお店の経営者に、なるの?」
なんか、妙に含むところが有り有りな言葉が返ってきた。
……いや、店を乗っ取るってそういうことじゃ…………と、反論をしようかと思ったのだが、それよりも早く目の前にマグダとロレッタが「シュバッ!」と回り込んできて、俺を背に庇うようにパウラの前へと立ちふさがった。
「……ヤシロは譲らない」
「そうです、お兄ちゃんは陽だまり亭の店員です!」
「なによぉ。陽だまり亭はもう十分儲かってるでしょ~」
「……ダメ」
「あげないです!」
「もぉ~……強情なんだから」
マグダとロレッタ、二人に睨まれてパウラは両手を上げる。お手上げのポーズだ。
まぁ、パウラも本気で言ってるわけじゃないだろう。
「いいもん。そのうち、ヤシロから『ウチに来たい』って言われるような大きなお店にしてやるんだから。手加減しないからね、陽だまり亭!」
「……望むところ」
「返り討ちです!」
火花を散らす三人娘。
……いやいや。俺、置いてけぼりじゃねぇか。
やれやれとため息でも吐いてやろうかと思った時、そっと――袖が摘ままれた。肘の付近を、きゅっと。
「…………」
振り返ると、ジネットがこちらも見ずに――むしろ目を逸らすような感じで顔を背けつつ――俺の袖を摘まんでいた。遠慮がちに。でも、そこそこ力強く。
…………いや、あのな。
純粋に金儲けがしたいならエステラなりルシアなりのとこに行った方がいいし、マーゥルを利用したり、フィルマンの教育係とかいってドニスあたりに取り入ったり、選択肢はいくらでもあるんだよ。
何より、俺が独立するのが一番儲けに繋がるだろう。
けど、利益だけがあっても、……な。
「今度、親子丼って料理を教えてやるよ」
「……え? おやこ……?」
四十二区の連中の好みを考えると、たぶん人気が出るだろう。
ここの連中の味覚は、結構日本人に近しいものがあるからな。
「俺も結構好きな料理なんだが……作ってくれるか?」
「……!? はい。是非、作ってみたいです」
一度大きく息を吸い込んで、大きな目をまんまるにして、そして溶けるような笑みを浮かべる。
こんなことで機嫌が直るなんて安いもんだな。たかが新しい料理くらいで…………
『料理で』機嫌が直ったんだよ、ジネットは。それ以外ないだろうが。
摘ままれていた袖が解放され、なんとなく、胸に安堵が広がっていった。
この料理好きめ。……ったく。
「まぁ、このイラストが載った情報紙が出回れば、『BU』からカンタルチカにお客さんがたくさん来るだろうし、陽だまり亭よりずっと繁盛しちゃうかもね」
「……それはない」
「そうです! 陽だまり亭は負けないです!」
「だって、見てよこのイラスト。すっごい可愛いでしょ? ウチにお客さんが来るって」
「……こちらも可愛い」
「そうです! 言ってやるです、マグダっちょ!」
「……マグダとロレッタの可愛さが十二分に表現されている」
「その通りでs……あたしの要素全然含まれてなかったですよね、そういえば!?」
なんか無益な戦いが繰り広げられている。
こりゃあ、情報紙が発行されたら競争が激化するかもしれないな。
「情報紙が発行されてからが勝負よ!」
「……望むところ」
「圧勝してやるです!」
「うふふ。みなさん、楽しみにされているんですね」
と、一人他人事のような余裕を身に纏っているジネット。
勝ち負けにこだわらない人間ってのは穏やかなもんだ。口では「負けないように」とか言うくせに、相手を打ち負かしてやろうなんて発想は持ち合わせてないんだからな。
「早く発行されるといいですね」
「そんなすぐには発行されねぇだろ」
「おう、てめぇら様! 情報紙最新刊が発行されたから持ってきてやったぜです!」
「早ぇな、発行!? 今し方イラストの決定稿見せてもらったとこだぞ!?」
こっちの意見を聞く気はないのか、と、勢いよく飛び込んできたモコカに問い詰めようとしたのだが……なんか、後ろに若人がうじゃうじゃいるっ!?
「あぁ、こいつら様は、情報紙を見て話題のお店に駆けつけた『BU』の若い衆様どもだぜです!」
「だから早ぇって、展開が! 『BU』の住民、もうちょっと落ち着いて!」
ついさっき発行されて、もう押しかけてきている『BU』っ子たち。
お前らの流行って、インフルエンザよりも驚異的な速度で広がっていくんだな。
怖ぇよ。
「わぁ、見て! カンタルチカの売り子さんよ!」
「本当だ! かわいい~! ねぇ、可愛いと思うよね!?」
「「「思う~!」」」
「えっ!? えっ!? ちょっ……!」
一瞬のうちにパウラを取り囲む、情報紙を握りしめた『BU』っ子たちの群れ。
イラストと実物を見比べ「本物だ!」「可愛い!」と、かつてのナタリアフィーバーを思い起こさせるような熱量で盛り上がっている。
群れに飲み込まれたパウラはただただ驚いている。
「あっ! 見て、あっちの小さい娘!」
「あれっ、あの娘って、もしかして!」
「陽だまり亭の売り子さんじゃない? ほら、ここに載ってる!」
「……ふふん」
顔を指され(←芸能人などが道端で「あの、○○さんですよね?」的にファンの人に気付かれること)て、マグダが得意げな顔で魅惑のポージングを行う。
と、同時に、ちょっと離れた席でウーマロが幸せそうに吐血して床に沈む。
が、しかし――
「「「「…………なんか違う」」」」
『BU』っ子たちが、イラストと実物のほんの些細な差異に気付いてしまい、戸惑いを露わにする。
……だからな、マグダ。盛り過ぎたんだって。
「ねぇ、カンタルチカ行ってみたくな~い?」
「「「行きた~い!」」」
「「「だよね~!」」」
「あっ、じゃあ、案内するから付いてきて! すぐそこだから!」
「きゃー! しゃべった!」
「店員さん可愛い~!」
「いや、その……あはは。なんか、調子狂っちゃうなぁ」
『BU』っ子のパワーに圧倒されつつも、パウラは照れ笑いを浮かべて、「じゃ、あたし、お店戻るね!」と、ハーメルンの笛吹きよろしく『BU』っ子の行列を引き連れて大通りの方へと帰っていった。
陽だまり亭に残ったのは、モコカと、出血多量で倒れているウーマロのみ。
「…………」
マグダが、分かりやすく落ち込んでいる。
思惑が外れてしまったことへのショック……というか、根こそぎ掻っ攫われてしまったことへのショックが大きいのだろう。
まぁ、あれだ。『BU』の連中は極端過ぎるから、あんま気にすんな。な?
「さぁ、みなさん。わたしたちも仕事の準備をしましょう。もうすぐ、大工さんたちやベッコさんが朝ご飯を食べにいらっしゃいますよ」
静まり返った店の中に、明るい声が響く。
さすが、店長だな。今の一言で、ロレッタもマグダも我に返ったようだぞ。
イレギュラーはあくまでイレギュラー。
そんなことに動揺してやる必要はないのだ。陽だまり亭は陽だまり亭らしく。自分は自分らしくしていればいい。
なので、俺は俺らしく…………客を根こそぎ奪い取る策略を考えてやる…………見てろよ、カンタルチカ…………吠え面かかせてやるからな……ぐふふ、ぐへはははははっ!
「ふぉう!? お兄ちゃんが近年稀に見るあくどい顔をしているです!? ダメですよ、カンタルチカ潰しちゃ!? 魔獣のソーセージはあの店にしか売ってないんですからね!?」
「大丈夫だ……限界のその先まで追い込んで…………飼い殺す」
「全然大丈夫じゃない発言してるですよ!?」
俺とロレッタのやりとりの最中も、マグダは静かに俯いていた。
そして、おもむろにウーマロの前に立つと――
「……ウーマロ」
静かに呼びかける。
そして。
「……あっはーん」
「はぁぁああん! それでもまだセクシーを前面に押し出すマグダたん、マジ天使ッス!」
……なんか幸せそうだな、あのキツネ。
「あのッスね、マグダたん」
ひとしきり床の上でもんどりうった後、ウーマロが立ち上がり、マグダの目線に合わせて膝立ちになる。
そして、面倒見のいいあいつらしい顔と声で、マグダに語りかける。
「オイラ、スペシャルなマグダたんも素敵だと思うッスけど、やっぱり、いつもの、自然体のマグダたんが一番素敵だと思うッスよ」
「…………」
「オイラは、マグダたんに会うためにここに来てるッスからね」
騎士が幼い姫にするように、膝立ちのまま笑みを向ける。
真っ直ぐに向けられる好意に、マグダは少しだけ顔を背けて、短い言葉を呟く。
「………………そう」
たったの二音。
それは、少し嬉しそうに聞こえた。
「はいッス。そうッスよ」
「……じゃあ、ご飯は特に要らないと」
「いや、それも大いに楽しみにしてるッスけども! というか、もうここのご飯以外食べられないくらいッスから!」
マグダのイタズラが戻ってきた。
それが嬉しくて、ジネットがくすくすと笑う。
ほぅ、やるなウーマロ。
よくマグダの機嫌を直せたもんだ。
お前の分かりやす過ぎる一途さがあればこそ、伝わった言葉なんだろうな。
「……店長、ウーマロに日替わり定食一つ」
「アレ、勝手に注文決められたッスか、オイラ!?」
そんな、よくあるウーマロいじりのその後に。
「………………大盛りサービスで」
マグダが追加した一言が、マグダの気持ちを如実に語っていた。
「……仕込みをしてくる」
尻尾をぴんっと伸ばして、厨房へと入っていくマグダ。
その後ろ姿が完全に見えなくなった瞬間――
「むっはぁぁああ! ヤシロさぁ~ん!」
「なんで俺に抱きついてくるんだよ!?」
「だって、マグダたんが……マグダたんが、オイラにサービスって……っ!」
「分かったから離れろっ!」
「はぁぁあああん! マグダたん、マジ天使ッス!」
「だから、俺に言うなっつの!」
朝っぱらからこんな騒ぎを引き起こしながら、情報紙最新号は発行された。
あとがき
(※ここから先はあとがきになります。お好きでない方は飛ばしてください☆)
↑ この注意書き、次回からなくなります。みなさま、覚えてくださいNE☆
やっはろ~☆
デスクにミニ加湿器置いておいたらマウスパッド付近がべしゃべしゃになってて朝一で「ひぃっ!?」ってなった宮地です。
……みなさん、加湿には十分気を付けましょう。
御来訪ありがとうございます。
世の中、「え、なんで!?」って思うことって、ありますよね。(↑の加湿器のように)(そこまで全力で加湿しなくても……)
いえ、先日ですね、
本棚の結構高いところから靴下(ドッキドキの使用済み)が出て来まして。……なぜこんなところに?
洗濯機に放り込もうとして間違えた? いやいや、間違えないですよ、さすがに。
まぁただ、逆じゃなくてよかったです。
洗濯機を開けたら……ラノベが………………きゃー!?
DHAをたくさん摂って育脳したいと思います。
というわけで、昨日からのお約束――
レビューをいただきました!
ソゥ~レ(ノシ゜▽゜)ノシ ≡≡≡≡((((っ´>ω<))ω<`)ムギュッ!
今回は[2017年 11月 15日 09時 52分]の方!
初レビューありがとうございます!
初めてにこの作品を選んでくださって、カ・イ・カ・ン☆
あ、違いました。カ・ン・ゲ・キです!
とても勢いのある書き口で、言いたいことが「ずぱーん!」と伝わってくる潔さを感じました。文章って、自分が気持ちよくなる文章と、誰かを楽しませる文章があると思うのですが、こちらは間違いなく後者。読む人のための文章運びと構成になっていて、こういう書き方は温かいなぁと思います。
要約の上手さが光っていて、前半の「!」四連発も、勢いがありつつも要点が押さえられているのでブレていない、追加の本編説明も簡潔で分かりやすいと、センスと遊び心を感じられるレビューでした! どうもありがとうございました!!
このレビューを拝読させていただきまして、……見てきました、1話のあとがき。
…………ぞわっ。
な、なんか、アレですね。
よそよそしいというか、探り探り感が物凄いですね。
こう、地方ローカルで活動しているお笑い芸人さんが全国ネットの番組に呼ばれて、
とりあえず何かしようとしてみたものの、緊張とかお客様感とかそういうので
「失敗しない」を最優先にした感じ満載のネタチョイスをした――みたいな感じになってますね!?
やっぱり、新連載で緊張してたんでしょうかねぇ。
初々しいです。あの頃の気持ちをなくさずにいたいものです。
最近では、このあとがきの居心地が良過ぎて、
他人ん家来てるのに遠慮もなく、ミニスカートでソファとかにごろんと横になって、
脚とかぱたぱたしちゃって、チラチラ動くからものすっごい気になって、
家主の男子に「ちょ……っ、パンツ、見えるよ?」って指摘されたのに、
「ん~? あぁ、平気。気にしてないから~」
とか言っちゃう系女子みたいにふてぶてしい態度になっちゃtt…………その女子、どこに行けば出会えますか!?
ソファ、買いましょうか!? ごろんって出来そうなやつ!
あぁでも、「パンツ見えても気にしない」とか言いつつも、全力で、血眼になって見に行ったらきっとドン引きされるんでしょうね! どうせそうなんでしょう!?
女心と秋の空か!?
……あぁ、見事に汚れきってますねぇ、心が。
初心、どこかに落ちてませんかねぇ~(゜σ_゜) ホジホジ
あぁ、落ちているといえば、
この前机の整理していたら、異世界詐欺師の最初の方のネタ帳みたいなのが出て来まして、
そこに
胸ぐらをつかむ。
いや、胸ブラを掴む。
って書いてありました。
ん~……現在では犯罪ですねぇ。
ん? 二年前も犯罪でしたっけ?
でも、掴みたいですよ?
そうですか、ダメですか……惜しい。
そんなわけで、久しぶりの毎日更新(期間限定ですが)です!
(初心、的な意味で)
もう全部書いてあるので心にゆとりがあります(^^)
……ただし、これが公開されるころ、私は年末の社畜と化しているのですが。
感想返しは少し遅れるかと思います。
また気長にお待ちいただけると幸いです。(゜ー゜☆キラッ
それでは、また明日です!
明日もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




