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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
こぼれ話

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こぼれ話1話 染み出す水の最初の一滴

「ややや! これはこれはヤシロ氏。拙者の働きを見に来てくれたでござるか! なんともはやありがたい!」


 俺は今、ジネット、エステラと共にニューロードへと来ていた。

『BU』とのあれやこれやから幾日か経ち、ニューロードも徐々に完成へと近付いていた。随分と様になってきたものだ。


 ……だが、第一声がベッコというのがなんとなく気に入らない。

 うまくは説明出来ないのだが、無性に気に入らない。

「うわっ、幸先悪ぃ……」みたいな気分だ。


「わぁ! 随分と綺麗になりましたね。あ、ヤシロさん見てください! 階段があんな綺麗に!」


 ジネットが、意匠の施された階段を見て大はしゃぎしている。


 というわけで。


 俺は今、ジネット、エステラと共にニューロードへと来ていた。

『BU』とのあれやこれやから幾日か経ち、ニューロードも徐々に完成へと近付いていた。随分と様になってきたものだ。


「むむむっ!? なにやら、ヤシロ氏が『さっきのはなかったことにしよう』みたいな顔で仕切り直している気がするでござる」


 えぇい、やかましい。

 ちょろちょろと俺の視界に入ってくるな、この瓶底メガネ。いい加減金も入ってきてるんだから、そのぼさぼさ頭を綺麗にセットするくらいのオシャレ魂を開花させやがれ。いつまで経ってももっさい格好しやがって。

 ……とかいって、ベッコが背伸びしてオシャレファッションに身を包み始めたら指差して笑ってやるけども。


「君は、ベッコを見る度に活き活きとするよね。ベッコ弄りが趣味なのかい?」

「どうせ趣味で弄るなら畑か庭にするわ」


 ベッコを弄っても何も収穫出来ないからな。


「けど、本当に立派になったね」


 エステラが広いホールを見上げ、ぐるっと見回す。

 高い天井に長く緩やかに延びる坂。

 幅の広い坂道は、荷車が十分すれ違える幅を確保してあり、その両脇が階段状になっている。大きな洞窟をゆったりと回って昇っていく螺旋階段。

 その一段一段にきめの細かい細工が施されている。

 中世代の神殿じゃあるまいし、意匠にこだわり過ぎだろ……


「ホールのあの辺りに売店を設置するんだよ」

「そうなんですか? 楽しいお店になりそうですね」


 エステラとジネットが楽しそうに話している。

 壁や階段の飾りつけが終われば、吹き抜けのホールに店を構える予定だ。

 土産物や名産品を陳列して、ここを通る連中に売りつけようという魂胆だ。

 普段絶対買わないような謎のお菓子でも、空港や船の中に売っていたらつい買ってしまう、あの感覚を利用しようというわけだ。

 なんとなく、「ここで買っておかなきゃ!」みたいな使命感が生まれやすい、あの感覚を。


「二十九区でも、お店をやられるんでしょうか?」


 もし似たような店が二十九区側の出入り口付近に出来るなら、四十二区では手に入らない珍しい物を買いに行きたいです――とでも言いたげな顔をしている。

 二十九区の店で買い物すると、豆を押しつけられるぞ。……ま、それは今後解消される見通しだけどな。


「店をやるにしても、まずはマーゥルの館を東側にずらさないといけないからな」

「そうでしたね」

「今は、庭の草花の引っ越しを行っているそうだよ」


 エステラは、頻繁にマーゥルと連絡を取っているらしい。

 何気にこいつも忙しく、連絡は主にとどけ~る1号頼みらしいが。

 そんなエステラの情報によるならば、現在マーゥルは引っ越しの準備の真っ只中なのだそうだ。


 ニューロードの出入り口がマーゥルの館の敷地内に設けられていることから、マーゥルの館を少しずらすのだ。

 川から遠ざかることになるのだが、ニューロードの出入り口含め、そこいら一帯はみんなマーゥルが管理することになる。

 とりあえず川は守られそうでよかった。川に何かあるとデリアが荒れるからな。バタフライ効果でオメロが川底に沈む結果になる。


「上は上で、出入り口に大きな建物を造るらしいよ」

「まぁ、あんなみすぼらしい出入り口じゃカッコつかないからな」


 現在は、簡易的な真四角の出入り口が設けられている。

 それを取り払い、豪勢な出入り口を建設するらしい。少し広めに造って休憩所でも併設すれば、この長い坂道を荷車を曳いて登ってきた客が金を落としていってくれるだろう。少々割高のドリンクでも提供してやればいい。


「それじゃあ、ウーマロさんは大忙しですね」

「ウーマロはマーゥルの館しか依頼されてないぞ」

「え、そうなんですか?」

「うん。出入り口の方は二十九区の大工が建設を担当するんだよ。彼らの仕事を根こそぎ奪うわけにはいかないからね」


 エステラが苦笑し、ジネットが照れ笑いを浮かべる。


「わたし、大工さんって、トルベック工務店さんしかいないんじゃないかって気がしていました」

「何かある度にウーマロにやってもらっているからね、四十二区では」

「四十二区にいらした大工さんたちは、今どうされているんでしょうか?」

「トルベック工務店に吸収されたよ」

「そうなんですか?」

「うん。何組か工務店はあったんだけど、みんなトルベック工務店の傘下になったんだ」

「ウーマロさん、慕われているんですね」

「っていうか……」


 エステラが、にやついた視線を俺に向けてくる。

 ……見んな。


「ウーマロといると、誰かさんが仕事と新しい技術を持ってきてくれるんだって」

「ほ~ぅ。奇特なヤツがいたもんだな」

「まったくだね。……くくっ」


 嬉しそうな顔で笑いやがる。

 な~にがそんなに嬉しいんだか。


「四十二区の大工がみんなトルベック工務店の傘下に入ったなら、四十区には逆らえなくなったな。不興を買えば大工がストライキを起こしかねないぞ。領主が下手を打ったみたいだな~、おいお~い、ど~すんだよ~」

「ふふん。何も分かってないようだね、ヤシロ」


 イヤミをくれてやったのに、エステラは自信満々な顔で無い胸を張る。


「優位に立ったのはボクたちの方さ。……ウーマロが、マグダを裏切ると思うかい?」

「うわぁ……あくどいヤツ」

「君に言われると甚だしく心外だよ」


 確かに、全大工を集めて「四十区と四十二区、どっちを取る?」って聞けば、まぁ、ウーマロはこっちにつくだろうし、ウーマロの配下もそれに伴って四十二区側に来るだろうな。……四十区、間接侵略されてんじゃねぇの?

 エステラじゃなく、マグダに。


「デミリーオジ様がね、『いつまでも仲良くいようね』って」


 くすくす笑ってエステラが言う。

 したたかになったものだ。

 ルシアやマーゥル、それにシラハみたいな強い女に会ってきたからかもな。くわばらくわばら……


「というわけで、帰るか」

「待ってくだされ、ヤシロ氏! なんとな~く、途中からうすうす勘付いてはいたではござるが、さりげな~く拙者の存在をなかったことにしようとしておいででござったな!? 分かるでござるぞ、そういうの!」


 ちっ。

 いちいち俺の視界に入り込んできやがる。

 なんというか、頑張って施した意匠について聞いてほし~って感情が顔からにじみ出しまくってるから触れたくないんだよなぁ……


「ベッコさん。実はわたしたち、モコカさんにお話を伺って見学に来たんです」

「ほぅ、モコカ氏に?」

「はい。ベッコさんがすごく頑張って綺麗な飾りを彫っているから是非見てほしいとおっしゃっていましたよ」

「いやぁ、弟子に言われると照れるでござるなぁ~」


 とか言いながら、あれやこれやと説明したいって顔を隠そうともしない。

 照れるなら「人目、恥じゅかちぃ!」って穴蔵にでも閉じこもっていればいいのに。


「実は今回、階段と壁に文様を彫っておるのでござるが、ちょっとした試みをしているのでござるよ」

「へぇ~そーなのか。でさ、ジネットって、こういう時にモノマネ挟まないよな」

「拙者の話、流さないでくださらんか!?」

「でも、確かにジネットちゃんってモノマネしないよね? ノーマとかデリアはすぐモノマネ挟み込んでくるのに」

「似てないけどな」

「確かに、似てないよね。ふふっ」

「もう、酷いですよ、お二人とも」

「あぁ……完全に話が掻っ攫われていってしまったでござる……」


 ベッコが階段に腰掛けていじいじし始めた。

 いい歳した男がいじいじしても可愛くねぇっつの。


「ジネット。いじけてしまったベッコを励ますモノマネを披露してやれ」

「えっ!? モノマネですか?」

「あ、ボクも見たい」

「ぅぇえ!? エステラさんまで!?」


 かくして、階段に腰掛けて丸くなるベッコに向かって、ジネットが初披露のモノマネをするという、よく分からない状況が出来上がった。

 いやが上にも期待が高まる。


 うんうんと頭をひねった後、ジネットが意を決したように口を開く。


「あ、あのっ、げ、元気出して……だよ!」


 …………ん?


「…………」(エステラを、じぃ~)

「…………」(首を、ふるふる)

「…………」(小首を傾げる俺とエステラを交互に見て伝わってない感をひしひし感じ取って、はわわ……)


「みっ、みりぃ、だよっ!」


 うわっ、名前言っちゃった!

 モノマネで一番やっちゃいけないヤツやっちゃったよ。

「どうも、○○です」って、モノマネで一番アウトなヤツなのに。


 しかし、驚くほどに似ていない。

 というか、特徴すら捉えられていない。

 いや、そもそも――


「なんでミリィ?」

「うん、ボクもびっくりしたよ。てっきり、イメルダかノーマでくるかと思ったんだけど」

「だよな? ベッコならそのどっちかだよな。イメルダで罵るか、ノーマで罵るか」

「どっちも罵るんだね……まぁ、分かるけど」

「なぁ、ジネット。なんでミリィなんだ?」

「あの……その…………仲良し、ですので」

「え? ベッコとミリィって仲良かったか?」

「さぁ? あまりそんな印象はないけどなぁ」

「い、いえ…………わたしが」

「お前がかーい!?」

「ひゅむっ! ご、ごめんなさい!」


 思わず突っ込んでしまった。

 それもコッテコテのツッコミで。


「すみません……才能がなくて……しゅん」


 ジネットが壁際で蹲ってしまった。

 しなくていい反省をし始めている。そんなに落ち込まなくてもいいのに。

 しょーがない。


「ベッコ。お前のせいでジネットがヘコんでしまったぞ」

「拙者、何もしてないでござるよ!?」

「だから、ジネットが喜びそうな建設の裏話を聞かせてやってくれ。こだわりの意匠の話でもいい」

「ヤシロ氏っ! 聞いてくれるでござるか!?」

「ジネットが、な」

「うむ! 心得たでござる! しからば、お聞きいただくでござるよ!」


 ピンと背筋を伸ばして、分厚い丸メガネをくいっと持ち上げる。

 ベッコの変わりように、ジネットも興味を惹かれて顔を上げている。

 俺たちの注目が集まる中、ベッコが咳払いをする。


「壁に刻まれた文様は、大地から伸びる大木をイメージしているでござる」

「イメージで掘れるようになったのか?」

「デザインはイメルダ氏でござるよ。拙者は、それを見たまま立体的に掘っているだけでござる」


 イメルダは育ちがいいせいか、芸術的なセンスがずば抜けている。

 それを見て彫刻に変換出来るってのは、随分とすごい能力のような気がするんだが、なんとも簡単にやってのけやがるもんだ。


「そして、空に向かって伸びる大木は、やがて空へと達するでござる。あの辺りから空になる予定でござるよ」

「四十二区と二十九区を繋ぐニューロードに大木の模様……とどけ~る1号をイメージしたのかな、イメルダは」

「どうかな。でも、材料にすげぇこだわっていたし、あり得るかもな」

「トンネルへ入ると、空は夜空へと変わるでござる」

「それは素敵ですね」

「完成した暁には、是非とも散歩がてら見学してくだされ」

「はい。是非」


 とにかくこだわっているらしい壁画と、階段への意匠。

 物の数分で食品サンプルを生み出すベッコにしては、時間をかけている。

 それだけこだわりが強いということか。


「しかも、この壁画の中には、こっそりとヤシロ氏の顔の彫刻を隠しているでござる!」

「何やってんの!?」

「隠れヤシロ氏でござる!」

「ミッ○ーか!? 誰が夢の王国の住人だ!?」

「ちなみに、一つはここにあるでござる!」

「わぁ! 本当です! ヤシロさん、ここにヤシロさんがいますよ! 見てくださいヤシロさん! ヤシロさんですよ、ヤシロさん!」

「何回『ヤシロさん』言うんだ、ジネット!?」

「へぇ~……あっ、本当だ。よく見ないと見落としそうだけれど、言われるとはっきりいるね」

「人を擬態する虫みたいに言うんじゃねぇよ」


 ベッコ曰く、このだだっ広いニューロードの至る所に隠れミッ○ーならぬ、隠れヤシロを紛れ込ませたのだという。

 ……何してくれてんだよ。


「全部見つけたいです! これは、通わなければいけませんねっ」

「無駄な労力使うなよ。教えてもらえばいいだろう」

「自分の力で見つけてみたいんです!」


 ……隠れミッ○ーでも、頑なにガイドブックとかを見ないで自力発見にこだわっていたヤツがいたなぁ。


「ちなみに、今造っているこの段は、踏み板の部分に『踏まれてちょっと嬉しいヤシロ氏』の顔を……」

「なぁ、ベッコ。お前って『見た物を見たまま』形に出来るんだよな? 俺、こんな顔したことあったか?」

「はっはっはっ! そこはそれ、様々な表情を掛け合わせて思い描く表情を生み出してみたでござる!」

「その努力、もっとマシな方向に発揮出来なかったかなぁ!?」

「ヤシロ氏のみ、なんか新しい物が生み出せるようになったでござる!」

「うっわ、まったく嬉しくない特別扱い!」


 とりあえず、ベッコの足下に巨大なノミが転がっていたので、階段の踏み板部分に彫られていた俺そっくりな――しかし決して俺がしたことのない表情をした――忌まわしい顔をそぎ落としておいた。


「ほぉゎおうっ!? なにするでござるか!?」

「ヘコんだとこ、ちゃんと埋めとけよ。危ないから」

「うむむ……まだまだヤシロ氏に気に入っていただける作品は作れていないということでござるな。精進するでござる」


 俺そっくりな物を作ってるうちは、気に入られないと心しておけ。

 で、精進の方向を間違うんじゃねぇぞ、くれぐれも。


「お~! お師匠、精が出まくりやがってんなですね!」


 ぱたぱたと足音を響かせて、モコカがやって来る。

 相変わらず敬語はおかしいままだ。直してやれよ、師匠か雇い主。

 あぁ、ダメだ。どっちも敬語とか気にしないタイプの人間だったな。


「取材はもういいのかい?」

「ばっちりだぜですよ! 胸がない方の領主様!」

「誰と比較してかな!?」

「三十五区のルシシシ様だぜです!」

「ルシアさんとはどっこいどっこいだと思うけどね!」


 いや、エステラ。

 AとBでは違うぞ。


「つか、なんだよ『ルシシシ様』って」

「そう呼んでくれって抜かしやがったですから、そう呼んでやってんだぜです」

「……ちなみに、お前はなんて呼ばれてる?」

「モコモコだぜです!」


 ……あいつ、ネーミングセンスの欠片もねぇな。


「ついでだから、『ヤシシシ』って呼んでやるぜですよ」

「やめてくれ。ルシアと同じカテゴリには入れないでもらおうか」


 同類だと思われたくないし、極めて言いにくいしな『ヤシシシ』。


「あ、あの。では、わたしのことはっ?」

「店長だぜです!」

「……です、よね」


 わくわくしていたジネットが一瞬でしょんぼりする。

 そういや、ジネットにあだ名を付けるヤツってなかなかいないよな。

 アホのルシアが『ジネぷー』とか訳の分からん呼び方をしているくらいだ。


 大抵は『店長』か。


「俺があだ名を付けてやろうか?」

「本当ですか!?」

「やめておいた方がいいよ、ジネットちゃん。ヤシロの目線を見てごらんよ…………『ぼいんちゃん』とか付けられるよ」

「ひゃぅっ!? も、もう! 懺悔してください」

「俺、何も言ってないのに!?」


 まぁ、視線はばっちり『そこ』に固定されていたけども。


「そういえば、拙者もあだ名というものとは無縁でござるなぁ」

「じゃあ、クソムシとかどうだ?」

「さらっと出てくる言葉がえげつないでござるな、ヤシロ氏」

「ん? ダメか? どっちが気に入らないんだよ、クソか? ムシか?」

「両方でござるよ」


 何が気に入らないのかさっぱりだ。


「あぁ、そうだ。クソ師匠、今度描くイラスト、出来たら添削しやがれください!」

「それは構わないでござるが……ヤシロ氏に影響されてクソ師匠って言うのをやめるのが条件でござる」

「分かったよです、師匠ムシ!」

「ムシもやめるでござる!」


 モコカは、天然の精神クラッシャーなのかもしれない。

 悪気を一切感じさせることなく、相手の心を抉りにいきやがる。

 こいつは……育てれば面白いオモチャ……いや、仲間になりそうだ。


「ヤシロ氏がろくでもないことを考えている時の顔をしているでござる故、しばらく接触禁止でござるぞ」

「おう! 了解だぜです! あっち行きやがれですよ、ヤシシシ!」

「エステラ~、なんかムカつくぞ、あの師弟」

「自業自得だと、ボクは思うけどね」


 ヤな言葉だなぁ自業自得。

 自分の業を他人に押しつける、自業他得って言葉、流行らないかなぁ。


「あの、モコカさん」

「なんだですか?」

「イラスト、完成したら見せてくださいね」

「おう! まかせとけってんだですよ!」


 ジネットに向かってビシッと指を立てて、モコカは坂道を駆け上がっていく。


「んじゃ、早速描いてくらぁ、です! あばよです!」


 勢いよく螺旋階段を駆け上っていくモコカを見上げ、スカートで上るとパンツ見えそうだなぁ~ということに気が付く。


「なぁ、エステラ。ここの売店で望遠鏡売らねぇか?」

「なるほど、覗き見防止の柵を取り付けることにしよう。アドバイスありがとうね、ヤシロ」


 ちっ……こいつは本当に嫌な性格をしてやがる。

 絶対売れるのに。

 たまにサクラを雇って見せパン美少女を上り下りさせるだけで売り上げ爆上げ間違いなしなのに!

 …………なんだ、そのいかがわしい店は!?

 不許可だな。近所にはロレッタの妹たちも住んでるし。うん、不許可だ。


「ところで、モコカ氏の言っていたイラストというものに心当たりがあるでござるか?」

「あれ、聞いてないのか?」

「拙者は何も」


 そうか。

 てっきりベッコに話してアドバイスでももらってるのかと思っていたのだが。


「前に『宴』をやっただろ? あの時の料理が『BU』の領主どもにウケてな。四十二区の料理特集を『BU』の情報紙でやるんだってよ」

「おぉ、その話なら聞いたでござる。お勧めの店はないかと尋ねられたので、拙者は陽だまり亭とカンタルチカをお勧めしておいたでござる。そうでござったか、あれは食べに行くためのリサーチではなかったのでござるか」

 

 途中まで知ってて、詳細は知らないのか……モコカ、どこを面倒くさがってんだよ。

 ……いや、あいつは素で話し忘れてるんだろうな。


「なら、たぶんお前のアドバイスのせいなんだと思うが、モコカが陽だまり亭とカンタルチカの売り子のイラストを描くことになったんだとよ」

「売り子を、でござるか? メニューではなく?」

「あいつ、まだ食い物を美味そうに描けないんだよ」

「あぁ、なるほどでござる」


 モコカは、ベッコのようにリアルなイラストは描けない。

 誇張し、簡略化されたデフォルメイラスト専門だ。

 なので、料理の絵を描いてもその美味さがうまく伝わらないのだ。


「それでね、四十二区の食堂は料理が美味しいだけじゃなく、売り子さんも可愛いんだよと教えてあげたら、『なら、それを描くぜです』……って、なったわけさ」


 と、先程陽だまり亭であったことのあらましを得意げに語るエステラ。

 その後に、「どうだい? 結構似てただろう?」と小鼻を膨らませる。なにそれ、モノマネが苦手なジネットをディスってんの? んで、さほど似てもいなかったしな。


「いやはやしかしながら、陽だまり亭はもとより、カンタルチカも可愛らしい売り子さんと評判でござるし、情報紙に載れば他区からのお客が増えるやもしれんでござるな」

「もとよりそのつもりさ。……ふふふ、外貨を稼ぐよ」

「エ、エステラ氏、顔が若干ヤシロ氏っぽいでござるぞ」

「なっ!? し、失敬だな!」

「――っていうお前が失敬だっつの」


 情報紙の影響力はいやというほど知っている。

 陽だまり亭にも客が増えるだろう。


「……あとは、ニュータウンから大通りに向かう道で工事でも始めさせておけば、客足を独占出来るな……ふふふ」

「ヤシロ。悪巧みは口に出さず心の中だけでやるように」

「うふふ。ダメですよ、ヤシロさん」


 ジネットは俺のナイスな作戦に否定的なようだ。

 マグダを使えば即座にトルベックの連中が道路工事を開始してくれるというのに。


「カンタルチカさんは手強いライバルですけれど、正々堂々と負けないように頑張りましょうね」

「正々堂々…………うっ、頭痛が……!」

「どんだけ拒絶反応出てるのさ、その言葉に」


 だって、正々堂々とか、いざ尋常にとか……ほんのちょっと裏から手を回せば簡単に叩き潰せるって知ってるのにわざわざそれに乗っかるとか……ないわぁ。


「『不正々々こそこそ』と戦わないか?」

「そんな淀みきった言葉を生み出さないでくれるかい?」

「なぁに、心配なさらずとも大丈夫でござろう? カンタルチカとは客層がかぶらず棲み分けが出来ていると聞いているでござるよ」

「バッカ、ベッコ! 棲み分けなんかしてねぇよ、たまたまそうなってるだけで! 俺はその客層も根こそぎ奪い取るつもりだぞ!」

「泣くでござるぞ、パウラ氏……」

「バッカ、ベッコ! 金儲けは命がけなんだよ! 泣いたぐらいで手加減出来るか!」

「ヤシロ、さては『バッカ、ベッコ』って言いたいだけなんじゃないのかい、実は」


 うむ。なんとなく口に馴染んでな。

 つい多用してしまった。


「ところでバッカ」

「ベッコでござるよ!? そっちじゃない方が名前でござる!」


 なんだよ、ややこしい名前しやがって。


「お前が情報紙にイラストを寄稿するって話はどうなったんだ?」

「あぁ、それがでござるな。拙者、現在こちらの仕事が楽し……立て込んでおりましてな」

「いいな、お前らは。好きなことを優先出来て」

「いやいや。領主様直々の公共事業でござる故、最優先しているだけでござるよ」


 この街の連中は仕事と趣味の境界線が曖昧過ぎるんじゃないか。

 どいつもこいつも楽しんで仕事をやってやがる。だからブラック企業が増えるんだよ、この街。誰も不満を抱いてないのが不思議なところだ。


「楽しみですね、情報紙」

「そうだね。ニューロードを使って『BU』の若者が四十二区観光に訪れる……うん、楽しみだね」

「無知で同調現象にめっぽう弱い若者を釣り上げて暴利をむさぼれそうだな。うん、楽しみだ」

「あ、ごめんヤシロ。入ってこないでくれるかい」

「ヤシロさん、真面目に、正々堂々ですよ。……うふふ」


 狩人だって、無防備な鹿が目の前にいればこれ幸いと躊躇いもなく狩って「ラッキーラッキー」と鼻歌交じりで戦果を自慢するというのに。

 まぁいいさ。やりようはいくらでもある。百人の客がいれば百通りの儲け術があるのだ。ふっふっふっ……


 と、なんだかんだと俺も楽しみにしていたわけだ、四十二区の情報が情報紙に載ることを。

 そいつが後々、あんな騒動を連れてくるなんて思いもせずに。


 それから俺たちはしばらくの間、情報紙の話題で大いに盛り上がることになる。

 四十二区中が一枚の紙っぺらに大はしゃぎするのだ。……田舎者丸出しだな、まったく。


 とりあえず俺も、二枚買ったけどな。





 いやほら。保存用に、一応な。







あとがき



(※ここから先はあとがきになります。お好きでない方は飛ばしてください☆)






御来訪ありがとうございます。


ご無沙汰しておりました。

実は、単純所持でしばらくお巡りさんのご厄介になっておりまして……なんて、冗談です。

いえ、実は仕事が…………え? いや、冗談ですよ?

ご厄介になってませんからね?

冗談! 冗談ですって!

なんですか、その「あぁ……やっぱり」みたいな目は!?

冗談ですからねっ!!



真面目に、

仕事の環境が変わりまして、小説家になろう様はおろか、

TwitterやWEB関連の一切合切に顔を出せませんでした。


ご心配してくださった方、

お待ちくださった方、

そんなことよりおっぱいおっぱい♪な方、

申し訳ございませんでした。


……あれ? おっぱいな方には謝らなくてよかったのでは?



ともかく、

お久しぶりにちょっとした小話の更新でございます。

全七話の短めのお話なのですが、

最後までお楽しみいただけると幸いです。


またぼちぼち書いていきたいとは思っているのですが、

やはり少し時間が作れませんので、連載となるともうしばらくかかりそうです。

ですので、こうしてぶつ切りになりますが、たまに更新させていただきたいと思います。


他にも放置してるお話がありますので、向こうも片付けないと……




というわけで、

ご挨拶もそこそこに――



レビューをいただきました!!ヘ(´∀`ヘ)(ノ´∀`) ノ


レビューをいただいたので書かなきゃなぁ~と思いつつ、

遅くなって申し訳ありませんでした。

たくさんいただきましたので、お一方ずつお返事させていただきたいと思います。




本日は、[2017/10/23 09:26]の方!

感想欄ではお馴染みの方です。タイトルがきゅんときますね。……じゅる。


雰囲気を文字で伝えるのは非常に難しいのですが、比喩が分かりやすく、また情景が浮かびやすい題材のおかげですごくよく伝わる文章だと思いました。初めての方にとても分かりやすく、それでいて要点はまとまっている。とても読みやすい構成でした。


タイトルが生きているのか、手に取ってみたくなる、そうしたくなるような誘導がとても巧いです。全体的に言葉の運びが柔らかく、伝えたい気持ちに優しさを感じるレビューでした。

どうもありがとうございました!!



最初の一行でおっぱいの話かと思いきや、最後の一行でおっぱい注意を促されておりまして、あぁ、やはり私の心は汚れているんだなぁ……と、己のおっぱいマインドを改めて痛感させられましたが、きっとそれは私一人ではないはずっ!(ねっ、そうでしょう!?)



あとのお二方はまた次回とその次に!

お待ちください。



さてさて、

第二幕終了後からこれまでの間に、まぁ何かとちょこちょこございまして、

あれやこれやと考えまして、

とりあえず、


タグに『あとがき注意』って入れておきました☆

ですのでもう、あとがきに関しては自己責任ですよ☆

へてぺろ☆




え~、12月に入りまして、

お師匠様がBダッシュと書いて師走です。(去年か一昨年も言ってましたねこれ)


年末はいろいろとお忙しいでしょう。

社畜のみなさ~ん!

年末年始に休みなんか、ないも同然ですよね~!?


……うん、きっと私は一人じゃない。

みんな社畜みんな社畜みんな社畜みんな社畜みんな社畜みんな社畜……ぶつぶつ


そんな大忙しな師走、

やることいっぱいの師走、

……デートとかイチャコラする人が増える師走…………けっ。


そんな忙しい、時間のないであろう時期に、

久しぶりに!


毎日更新いたします!(にっこり★)

七話ですので、ちょうど一週間ですが、お暇な時にお付き合いいただけると幸いです。


(クリスマスに「ごめ~ん、異世界詐欺師読むからデートはキャンセルで~」とかいうカップルが一組でもいれば……勝ちだっ! …………ふふふ★)


というわけで、あとがきも少し短めですが(1500文字書いといて短めって……もはや病気の域ですが)

明日もよろしくお願いいたします!


ふふふ……私もその気になればおっぱいの話をせずにあとがきが書けるのです。

……ん? 書いてました、おっぱい?

おかしいなぁ…………ん~…………3おっぱいまではセーフということにしませんか?



というわけで、セーフです!



次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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― 新着の感想 ―
最近(2025年11月)読み始め、連載から書籍化で大盛り上がりしていた頃の楽しさを夢の跡のように読み連ねてきて、まだ半分来てないやん…!!と気付く。物語の瑞々しさと楽しさ、キャラクターの憎めなさ。この…
『不正々々こそこそ』 →不正不正こそこそなのか不正正正こそこそなのか...  いや、大穴で不正正不こそこそという可能性も...  →つまり不正政府こそこそ...?! 後書きより「ふふふ……私もその気に…
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