おかしをくれなきゃいたずらするぞ
本編終了後から数年後のお話です。
「おかしをくれなきゃいたずらするぞ!」
「するじょ!」
ユリシーズはぴたりと足を止めて、中庭から飛び出して来た小さなお化け達を見下ろした。
「そいつは困るな。お菓子か、ちょっと待ってて」
「チョコがいい!」
目線を合わせるようにしゃがんだところに一番小さなお化けが「ばぁ!」と抱きついてくる。ぴょんぴょん跳ねて一生懸命チョコを要求する小さなお化けの姿に、ユリシーズとアルノーは顔を見合わせて笑った。
「か、かわいい……! ちゃんと顔が刺繍してある……!」
ユリシーズは鞄に入れていた夜食用のチョコレート菓子を小さな手に乗せてやりながら、傍らでちびお化けのかわいさに打ち震えるアルノーを見上げた。
「お前んとこは何にしたんだ?」
「うち? うちはアリーがカボチャお化けをやりたいって大騒ぎでさ。マイラも母さんもあの子の頭に合うカボチャを探し回ってたよ」
「トラウゼンは土が良いからでかいもんな……。あんなの被ったらアリーのほっそい首が折れちまうぞ」
「だから俺が一生懸命、限界まで薄く削って軽量化したよ。大変だったんだよホント」
「頑張ったなお父さん」
「お~」
気の抜けた返事をして、アルノーはユリシーズにまとわりつく小さなお化け達の頭を満面の笑みで撫でてから、一足先に厩舎へ向かった。中庭のほうからぱたぱたと駆けてくる軽い足音にユリシーズは笑みを浮かべる。
「よう。家から走って来たのか?」
「み、みれば、わかるでしょっ」
セラは軽く上がった息を整えつつ、笑っている夫をじとりと見た。諸侯の会合に泊まりで出かける夫を見送りに行こうか、と子供達に声をかけて、玄関先で外履きに履き替えていたほんの一瞬で姿が見えなくなったのだ。焦りもする。
「おかあさん」
「おかーしゃーん」
子供達はキャッキャと笑いながらセラの長いスカートにまとわりついた。
「こーら、お庭だからって勝手に行ったらダメでしょ。お父さんにありがとうは言ったかな?」
セラはお化け達の白い布を取ってやり、小さな身体をくるんと回してユリシーズの方に向けた。
「ありがと、おとうさん」
「あいがと」
「よし。さて、お父さんが帰ってくるまで、お母さんの言うことをちゃんと聞いて、おりこうさんにできるかな?」
「できるぅ」
「できう」
「約束だぞ? それじゃ行ってくる」
「うん! いってらっしゃいおとうさん」
「しゃーい」
足にしがみついてニコニコ笑う子供達に笑いかけ。最愛の妻を引き寄せて軽く口づける。
「明日は頑張れよ奥方殿。ここいらのちび達全員が菓子を求めて町中をチョロチョロ駆けまわるからな」
「収穫前の魔除け悪戯祭り、年々大規模になってくわよね。主にあなたのせいだけど。甘党もここまでくるとあっぱれだわ」
「ねーねー、あまとーって?」
「お父さんみたいにお菓子大好きな人のことよ。チョコ食べたら歯を磨いてね」
「はーい」
「見送りはここでいい。騎乗して行くから」
「わかったわ。いってらっしゃい」
セラは子供達が駆けて行かないようにしっかり手を繋いで、夫の真っ直ぐ伸びた背を見送った。それから東部地帯に続く道が見渡せる広い草原まで歩き出した。
「ここからお父さん達をお見送りしようね。十回くらいねんねして起きたら帰って来るよ」
そんなことを話していると、数騎の馬影と蹄鉄が土を蹴る音が聞こえてきた。先頭にいるのは亜麻色の髪をした黒騎士だ。
「うまー、うまー、またうまー」
「お、お父さんも見てあげて。ほら、手を振ってるよ?」
「ばいばーい、ばいばーい」
抱っこされた下の子が小さな両手で手を振っている。随行の黒騎士達も一緒になって手を振っているのがおかしくて、セラも笑みを浮かべた。そうして彼らはあっという間に見えなくなった。エーラース領に立ち寄って一泊してから東の都ルスハールに行く予定だと聞いている。何としても夕食前について、クレヴァの屋敷で豪勢な食事にありつくつもりなのだろう。
「さてと。ついでに公園によっていこうか?」
「ブランコ乗る、ブランコ!」
「のるぅー!」
朝から元気な子供達の手を引いて、セラは公園に続く緩やかな道を歩き出した。
ハロウィンはお菓子作るのが好きな彼女と甘党の彼が喜びそうなイベントだな、と思ってふわっと沸いたので書きました。
中継ぎ的な短編でお茶を濁しつつ、途中になっている色々な話の続きを書く作業に戻ります。




