第2話
「……これは」
家を飛び出し、その場所に降り立つと全てがまるで変わってしまっていて。
「なんてことだ……」
俺は世界がルリによって征服されたことを改めて実感する。何故なら、そこには存在すら感じられなくなっていたから。俺の愛したもの達が。
「……くそっ」
だが、いつまでもそうしてはいられない。賢いルリのことだ。既に、俺を捕まえるための追手をここへ差し向けているはずだ。
だから。
「うおおおおおお!」
とりあえず俺は走った。あそこなら、あそこにならまだ俺の仲間がいる。いや、いてくれ。そう願いながら。
そして。
「おい! おい!」
その場所へはすぐに到着した。仲間内だけでたまに集まる秘密基地のようなボロアパート。俺はすかさず、どんっどんっと扉を壊す勢いで腕を叩きつけて。
「おい! 出てきてくれ!?」
だが、それは無闇に響くだけ。一向に返事が返ってこない。
「おい! 出てきてくれ! ……まさか」
もうここにまでルリの手が回っていたか。俺は失意で膝から崩れ落ちそうになる。次いで、後悔が雪崩のように押し寄せてきて。
「俺は仲間を……守れなかったのか……?」
そう諦めかけたそのとき。
「た、タクヤ……?」
扉の向こうから怯えたような声が聞こえてきた。
「お、おう! そうだ! 俺だ、タクヤだ!」
「タクヤなの!? 本当に!」
がちゃり。鍵が開く。そして、壁との隙間から顔を出したのは。
「ヤリマンビッチ! 無事だったのか!?」
金色の長髪とけばい化粧、それに馬鹿みたいに肌を露出したドレス。たった一目で頭が悪いことが分かる正真正銘天然ギャル(いい意味で)。その魅惑的なボディで手篭めにした男は数知れず。仲間の間では、通称ヤリマンビッチと呼ばれる女。
「うえーん、怖かったよー!」
「よし、いい子いい子。で、他の皆は!?」
俺はファーストコンタクトで迷わず「抱きつき」を選択した馬鹿女を適当にいなし、声を荒げて訊ねた。
「え、えっとね。『ここはもう危ない! 散り散りになって逃げるぞ!』って。でも、うちはどうしていいか分からなくて」
「ここに隠れてたんだな?」
「う、うん。だから、寂しかったよー!」
「はいはい、いい子。けど、そういうことならとりあえず早くここから離れた方がいい! 行くぞ!」
「う、うん。タクヤが連れてってくれるなら……でも、どこに?」
「ルリが動き始めてから日は浅い。おそらく、〝あの街〟ならまだ世界征服に抵抗している勢力がいるはずだ!」
「……?」
ビッチは何ら理解できていない顔。酷く頭の回転が悪そうな面だが、それもまた彼女の持つ魅力の一つであって。おそらく、自身が呼ばれている『ヤリマンビッチ』の言葉の意味すら分かっていないだろう。
そんな彼女に俺は告げる。
「嫌われ者の聖地! 秋葉原だ!」