第33話 もうひとつの三部劇の魂
惑星アクエリアス 汚染領域(Alternative Akashic records)
星を犯す凌辱者たちの墓場、汚れた輪廻でベルはその意識を覚ます。
「……あら?ここは…また、きてしまいましたわね。
死後の世界に来たのはこれで2回目かしら?」
ベルが呟くと、
実際には3回目である。ベルが鈴廣和音としてバグズ側の戦力としてこの世界に呼ばれ、
その存在価値の総数からバグズ側の生命体に書き換えられた時から数えれば。
しかしそのことを彼女は覚えていないので彼女にとってはオス蜂として死んだ時と合わせ2回目なのだろう。
以前出会ったほんの少しだけ鮮明になった焦げ茶色の靄が語りかけてきた。
「『三部作の魂』……あの時の蜂か。…………しかし気づいてみるとやはりあの御方とは違う。」
「お久しぶり?ですわ。」
「久しいという言葉がここまで似つかわしいとは、もはや喜劇的だな。」
「そう、ですわね。…ところで『あの御方』というのは?」
「この世界の歴史上でそなた以外に希少スキル『三部作の魂』を唯一持たれていた御方だ。」
「そんなに珍しいものでしたのね。コレは。」
「珍しいなどという次元ではない。『三部作の魂』は本来あの御方のみが持ちえた力だった。」
「では、なぜわたくしが?」
「それはわからない。だからこそ畏れ多くもそなたをあの御方かと間違えてしまった程だ。」
「……わたくしがその御方という可能性は無い、ということですね?」
「それは絶対にありえない。その御方が見つかったのだ。」
「よかったですわね。もしよろしければその御方のお話をお聞きしても?」
「では、少し昔話を聞いてもらおうか。
『三部作の魂』
この御力を持っていたこの世界に存在したハチ族モンスターの祖種族である現虫神と呼ばれたあの御方は、
昆虫族が数少ないうちにこの世界から絶滅させんとする星により引き起こされた昆虫とそれ以外の総力戦において、
その尊い御命を失った。
あの御方を慕う他の魔王があの御方が犠牲になる他の方法が無いかと問うがあの御方は、
今回死んだとしても「何悲しんでるの?ここで死んでも私、あと1回死んでも大丈夫なんだから。」
そう言って散っていかれたのだ。
その最期は凄まじく星が強制的に作り上げた四神と言われる数億年単位で集めた力で神化させた、
その戦いでの星の最高戦力の4体のモンスター青竜、朱雀、白虎、玄武を相手取り屠るほどであった。
しかし、その戦闘が終わるとあの御方は息絶えたられた。しかし再びこの世に舞い戻られるはずであった。
しかしあの御方のご思案は外れその存在の総量の為か輪廻を正常に繰り返すことなく異界にその魂をとばれた。
そう思っていたが、しかしそうではなかったのだ。
逆召喚だ。その存在を危険視した星の意思による最後の抵抗だったのだ。
他の世界からこの世界に来た多くのものは、この世界で有用なスキルを持ってきてはいないが、
あの御方程の存在だ、どこか異世界にいかれたとしても『三部作の魂』を失われるとは思えない。いやそう在ってほしかった。
そしていつの日かこの星に舞い戻ってきてもらえるものだと、我はそう願ってやまなかったのだ。
……話は変わるがそなたはハバチという蜂の種族を知っているか?」
「……、え~たしか草食の蜂族でしたわよね?お会いしたことはありませんが、
お母様からお聞きしたことがありますわ。」
「ハバチとは何かまで聞いたか?」
「たしか、ハバチ、クサバチ、クキバチなどの種類がおられるのでしたわね。ですから…『葉蜂』でしょうか?
でもカタナバチというのもおられるようで『刃蜂』かもしれませんわね…。
どちらにしろ細々と暮らされるようでいまだお見かけしたことは…。」
「その答えは間違いではないが満点とは言えない。
かつてこの星の地上にほぼ植物しかなかったころにその植物を狩るために来られたあの御方の先祖は『葉蜂』であった。
そして、動物どもが現れ始めたころにその一部が木を効率的に切断しようとした『刃』を持ったものの更に一部が肉食の亜種となった。そしてあの御方が体現するは『覇』であった。
わかるか?ハバチ種こそが蜂族の古き形なのだ。肉食のハバチ種から今でも寄生型の多いワスプ種が生まれ、
その中の一種に驚異的な戦闘力を持ち憑りつくことより狩ることに特化した女王が作り出した種がヴェスパ種だ。
そしてそのヴェスパ種からまたワスプ種やアーピス種などが生まれた。
………だからこそ、『三部作の魂』を持ちアーピス種から先祖返りしたそなたは当初あの方の生まれ変わりかと思っていた。だが…、」
「ですが……?」
「見つかったのだ。遂にあの御方の生まれ変わられた姿が。よりにもよってあの御姿に変わられてなっ!!」
そこまで聞いたときベル自身の存在があやふやになってきた。
「もう再転生までの時間が無いようだな。だが、あぁ、そなたには知る権利がある。なぜならその御方は―――――」
そう、感極まったかのように焦げ茶色の靄が告げようとしたその時だった。
「ヨッヨクモワシヲコロシテクレタナァッッ!!!」
同じくこの場所に来ていたミダスが靄の形で襲い掛かってきたのだ。
突然襲い掛かってきた存在に何も反応できず転生直前の存在であったベルは著しく汚染され損傷し変質する。
『三部作の魂』が発動しました 残魂数 0
再転生は実行された。
「ヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ」
汚染領域ではミダスの笑い声が響いていた。
その後
「薄汚い蜻蛉如きが……」
嗤いつづけるミダスの横からかつて狂気を宿し過去に生き、娘に未来と名を託し死んだ存在。
生前ベルと関係が存在したそのものは、その関係故にベルの前には姿を現してこなかった。
まだその命があるものには靄にしか見えないが同じく既に死した存在であるミダスにはその存在の姿がはっきりとわかる。
別種の様で何処かベルに似た瞳の蜜蜂が生前の憎悪を再びその眼に宿し静かにその針を向ける。
魂そのものであるこの世界ではすでにその殺気だけでミダスは自分が削られていくのがわかる。
このままでは自身の存在が完全に消滅させられる。
そのことに気が付いたミダスはかつて『魔王』で在ったものが使える権能を駆使し
この世界で自身の時間を止めた。時間が止まったものは破壊できない。
物質でないものの時間が止めれるハズなど無いはずなのだが何かが起きて類似した作用が働いたのだろう。
しかし魂の世界で時間が止まるというのは既に完全な消滅ではないだけということだ。
説明
第一次星戦 星により引き起こされた兄星たるバグズからの侵略者たる昆虫と、
それ以外のアクエリアスの生物の総力戦、後の歴史家に仮説として知られている。
この戦役の影響で星は多くの力を使い果たし、
歴代最強の魔王デュカリス=スペルヴィアの誕生を許す遠因を作ることになる。この戦いで地表は滅ぼし尽くされ一度アクエリアスの生命は極北の孤島を除きほぼリセットされた。
まぁ、そういっても当時のアクエリアスの大地の割合はたいしたことなかったので、戦争というには規模は大したことがなかった。
だが、当時のたいして発達していない生物たちを超上位クラスにまで引き上げるのはかなりの力が必要だった。
猿を人間にするのと、アメーバを人間にする労力のさを考えてもらえればいいだろう。
ハバチ種 かつてこの星の地上に植物しかなかったころに来たハチ種の原種。ハバチ型モンスター。
食べるものが植物しかないためか、植物系モンスターに対し優位な特性を持つ。
又はその種族に近い形で生きている種族の蜂を言う。
古代種でもあったことは王家にのみ口伝で伝わっていたはずだが消失していた。
ハバチ、クサバチ、クキバチ、ヤドリギバチ、キバチ、アギトバチ、カタナバチ、
ノコギリバチ、ナギナタバチ、ハオウバチなどがいた。現在もいるかは不明。
但し亜種にあたるヴェスパよりも必ずしも強いとは限らない。ヴェスパは超エリートの血統です。
ハチ種から極稀に先祖返りするものも存在する。勿論ハバチ自体の巣も細々とは存在する。
超激レア。はぐれメ●ルなんて目じゃない。
あの御方
スキル三部劇の魂オリジナルの保持者。
種族はアマツミカハバチ。かつてこの世界の昆虫の頂点に至ったモンスターである。
物凄いものに寄生できる最強の寄生蜂。
その圧倒的最強っぷりの為に当時のアクエリアスは全力で無理やり再転生先を異界に持っていった。
天津甕とは古きに伝わる極東の神話にてあらゆるものが大神によって調伏、
平定され支配される中最後まで抗った最強の『まつろわざるもの』。
おまけのおまけ的な話
メリッサがすぐベルの前に現れなかった理由
「ほら、早く姿を現してきなさい。貴方の娘でしょう。」
「いや、でもお母様。今更何離していいか咄嗟に考えてなかったと言いますか…。」
「情けない。そのような子に育てた覚えはないのですけれど。ってっあれっっ!!」
「っ、ベルッッ!!!!」
メリッサが照れすぎてミダスから助けきりませんでした。駄目母過ぎる。