第8話:聖戦の瓦解
第8話:聖戦の瓦解
1. 狂った標的
17人の天使たちが、一斉に翼を羽ばたかせた。
湊は結衣を抱き寄せ、背中の黒い翼を盾にするように身構える。しかし、白銀の閃光が向かった先は、湊ではなく、傍らに立っていた自衛官の男だった。
「――っ、来いよ、出来損ないの鳥共が!」
自衛官は叫びながら、背負っていたアサルトライフルを瞬時に構えた。
夜の静寂を切り裂く、激しい銃声。
放たれた弾丸はただの鉄塊ではなかった。特殊な光を帯びた弾丸が天使たちの眉間を正確に貫き、数人の天使が絶叫と共に光の粒子となって霧散していく。
「自衛隊が……天使を撃ってる……?」
呆然とする湊の目の前で、事態はさらに異常な方向へと加速した。
2. 黒い異形の覚醒
天使たちの波状攻撃を受け、自衛官の肩に白い刃が突き立てられた。
だが、男は苦悶の表情を浮かべるどころか、不敵な笑みを漏らした。
「監視対象は湊だけじゃない。……俺たちだって、準備してきたんだよ!」
男の傷口から、血ではなく、ヘドロのようなドス黒い影が溢れ出した。
筋肉が膨張し、皮膚が剥がれ落ちる。迷彩服を内側から引き裂き、現れたのは、湊の翼よりも遥かに禍々しい、「黒い異形の悪魔」の姿だった。
鋼鉄のような皮膚、ねじくれた角、そしてすべてを薙ぎ払う巨大な爪。
変貌した「元・自衛官」は、虚空を蹴ると、残った天使たちの群れに飛び込んだ。
銃火器と暴力的な爪の連撃。
美しいはずの白い羽が、黒い体液に染まり、次々と埠頭へ叩きつけられる。
17人いたはずの天使は、瞬く間にその数を減らし、気づけば残存する数はわずか7人ほどになっていた。
3. 大天使の降臨
圧倒的な破壊を前に、生き残った天使たちの無機質な瞳に、初めて「恐怖」という色が混じった。
「■■■……■■!!」
理解不能な叫びを上げた天使の一人が、天を仰いだ。
その瞬間、周囲の光という光がその一体に収束していく。恐怖という感情をトリガーにして、その天使の身体が異常な速度で膨張を始めた。
5メートル、8メートル……そして、10メートル。
レインボーブリッジの主塔に迫るほどの巨躯。
白銀の鎧は黄金へと変化し、その手には巨大な光の長剣が握られていた。
アークエンジェル(大天使)への覚醒。
「……冗談だろ」
湊は、頭上から降り注ぐ圧倒的な神威に息を呑んだ。
もはやこれは、喧嘩や小競り合いではない。
黒い悪魔と化した人間と、巨大な光の化身。
その戦いの余波だけで、湊たちが立つ埠頭は粉々に砕け散ろうとしていた。
「湊、危ない……!」
結衣の声に弾かれたように、湊は黒い翼を大きく広げた。
この地獄の真ん中で、彼はどちらに味方するのか、あるいは第三の勢力として介入するのか。決断の刻が迫っていた。




