表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロー!! 暗黒の一族…  作者: masahiro taxi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

第1話:重力の嘘

第1話:重力の嘘

0.仁科 湊の胸中

「僕には秘密がある!!」湊はいつも退屈していた、その秘密を口に出して伝えたかった。

1. 浮遊する日常

5月の昼下がり。大学の裏手にある屋外バスケットコートでは、3on3の熱気が渦巻いていた。

みなと、パスだ!」

声に応じ、大学1年生の仁科 湊はボールを奪うと、そのままゴールへ向かった。ディフェンスが二人、壁のように立ちふさがる。しかし、湊はスピードを落とさない。

彼は踏み込んだ。

周囲の時間がスローモーションになったかのように、湊の体は重力を無視して上昇する。空中で静止しているような長い滞空時間。そのまま、リングが悲鳴を上げるほどの強烈なダンクシュートを叩き込んだ。

着地は、羽毛が落ちるように静かだった。

「……まじかよ」

呆然とする友人たちをよそに、湊は「ああ、入ったな」とだけ言い、汗もかいていない顔でTシャツの襟を正した。その無関心な態度が、どこか周囲を見下しているように映ることを、彼は気づいていながら放置していた。

2. 摩擦の予感

数日後、湊は友人にそそのかされてボルダリングジムにいた。

「ここ、初心者には無理なルートらしいぜ」

そう言われた湊は、靴を履き替えると、垂直どころか手前に傾斜した壁に手をかけた。

彼の登り方は、もはや「登る」ではなかった。岩を掴む指先に体重がかかっているようには見えない。まるで無重力空間を泳ぐ魚のように、スルスルと最上部まで到達した。

「……なんか、拍子抜けだな」

上から見下ろす湊の視線は冷ややかで、挑戦を楽しんでいるようには見えなかった。その「余裕」が、一部の学生たちの神経を逆撫でし始めていることに、彼は無自覚だった。

3. 挑発と消失

ある日の放課後。キャンパスの中庭で、湊はまたもや友人たちの冷やかしに乗っていた。

「湊なら、あそこの非常階段から屋上まで行けちゃうんじゃない?」

湊はふん、と鼻で笑うと、助走もなしに走り出した。壁を蹴り、看板を足場にし、パルクールのような鮮やかなアクションで校舎を駆け上がっていく。

「おい、すかしてんじゃねえぞ、お前」

屋上から降りてきた湊を待ち構えていたのは、大学内でも素行の悪さで有名な上級生のグループだった。

「女の前でいい格好しやがって。一発、その鼻へし折ってやろうか?」

大柄な男が湊の胸ぐらを掴もうと、太い腕を伸ばした。

その瞬間。

湊の姿が、掻き消えた。

男の拳が空を切る。湊は一瞬にして数メートル後方に移動しており、追う暇も与えず、まるで最初からそこにいなかったかのように、人混みの向こうへと消えていった。

「……チッ、逃げ足だけは速い野郎だ」

男たちの罵声が背中に刺さるが、湊は振り返りもしない。彼にとって、あのアクションも、あの逃走も、ただの「調整」に過ぎなかった。

4. 聖域の夜

夜10時。

喧騒の消えたお台場、レインボーブリッジ。

本来なら、立ち入り禁止の重いフェンスの向こう側。湊は、海面から数十メートルの高さにある欄干の上に、平然と座っていた。

強風が吹き荒れ、普通の人間なら立っていることすら困難なその場所で、彼は微動だにしない。

眼下に広がるのは、宝石を散りばめたような東京の夜景。しかし、彼の瞳に映っているのは美しさではなかった。

「……やっぱり、ここは少しだけ『軽い』な」

湊は独りごちた。

昼間の「鼻につく大学生」の仮面は剥がれ落ち、その横顔には、誰にも理解されない深い孤独と、この星の重力に馴染めない異物感が漂っていた。

彼が待っているのは、夜景の輝きではない。もっと遠く、この重力の鎖が届かない場所からの「合図」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ