第二章 11話 ギルドホームにて
狩りの翌日ーーーーーーー
「ーーーーふぁ〜、……よく寝たな」
布団ごと体を起こしたナヤギが、窓の外を見ると陽が高く昇っていた。
メニュー画面を開き時刻を確認すると、ちょうど正午を回った辺り。
「あの日も、このぐらいの時間に起きてたら良かったのにな……」
この世界に閉じ込められた日のことを思い出す。
もし、初日のイベントに遅刻していたら、このデスゲームに参加することもなかっただろう。
そして、”人殺し”になることもなかった。
「……今更、そんなこと言ってもしょうがないか」
ベッドから立ち上がると、ナヤギは寝巻きからラフな皮の装備に着替えた。
今、ナヤギが居るのが10畳ほどの洋室。
白い壁紙はうす汚れており、所々剥げてレンガの壁が見えている。
くすんだ赤色の絨毯の上に、年季の入ったベッドと木の椅子と机が置かれている。部屋には、それ以外に何もない。
着替えを終えたナヤギは、扉を押して廊下へと出る。
ヨーロッパの洋館を思わせるような、長い廊下。
部屋の中と同じくお世辞にも綺麗とは言いづらく、隣接する窓のガラスも何枚か割れている。
ここは、山の中腹にある廃城。
ガカリ地方とヤハテ地方を分つ大峡谷から、ガカリ地方側に程近い山々の中にポツンと建っている。
城の壁には蔦が生え、周囲は木々が生い茂っており発見されづらい。それでいて、少し歩けばプレイヤーたちがいる狩場がある。
人狼たちにとっては絶好の場所と言えるだろう。
夜佐久たちが2ヶ月ほど前に見つけたらしい。
それから人狼ギルドの仮のギルドホームにしている。
ちなみにナヤギはこの廃城の地下牢に幽閉されていた。
廊下を歩いて行き、両開きの大きな扉前で止まる。
両手で扉を押したーーーーその直後、
「っ!!」
目の前には、ギラリと光る巨大な刃。
振り子の要領で、大斧がナヤギに襲い掛かる。
咄嗟に床を蹴って斜め後ろへと避けるが、大斧はわずかにナヤギの頬をかすめた。
ナヤギはそのまま転けて、尻もちをつく。
「あっ……、あっぶねー!!」
ナヤギは頬を抑えながら、冷や汗を流す。
一瞬、避けるのが遅れていたなら、凶刃は彼の顔面を破壊していただろう。
「ーーーーーー昨日言ったじゃないか。 その扉は、左側から開けないとトラップが発動するって」
ゆらゆらと揺れる大斧の向かい、部屋の中から男の声がした。
ナヤギは軽く尻を払いながら立ち上がると、声の主がいる部屋の中に入っていく。
「……すっかり忘れてましたよ。 城の中には、無数のトラップが張り巡らされているんだった……」
20畳以上あろうかという広さの部屋。
大きめの暖炉があり、部屋の真ん中には灰色のソファーがコの字に置かれている。
そして、ソファーには美女ーーーーではなく美青年が座っていた。
「おはよう。 昨日はよく眠れた?」
「おはようございます、夜佐久さん。 ええ、久しぶりにぐっすり眠れましたよ」
夜佐久は、ティーカップに紅茶を注いでナヤギの前に差し出す。
「はい、どうぞ。 砂糖とミルクはいる?」
「どうも。 いや、いらないです」
ナヤギは、ティーカップに口をつけて紅茶を喉へと流し込む。
紅茶特有の良い香りが鼻腔をつき、程よい暖かさが体に広がる。
「おいしい……! ほっとする味ですね」
「気に入ってくれて嬉しいよ。 僕が茶葉から栽培したものだから」
「えっ、そうなんですか」
「僕の趣味で、中庭で栽培しているんだ。 栽培スキルと発酵スキルで短期間で作ることができるんだよ」
「へえ〜、やっぱりこの世界、かなり色々なできるんですね」
ナヤギは飲み干したティーカップを机の上に置く。
「そういえば、リナさんはどうしてるんです?」
「確か、多分城内のトラップの調整……、いや、自室で仮面に手を加えるって言ってかな」
「ああ、俺もフルマスク一旦返してって、昨日渡しましたわ。 リナさんってトラップとか物を作るのが好きなんですね」
この城内に張り巡らされた無数のトラップは全てリナが作った物である。
侵入者に致命傷を与えるものから、悪戯程度のものまで大小様々だ。
「現実にいた頃から小物とか作るのが好きだったらしいよ。 ……おっと、現実の話をするのは少しマナー違反だったかな」
「いいんじゃないですか、もうここが現実みたいなものになってますし。 そうだ、今日って何かすることあります?」
「PKポイントも余裕があるし、特にやることはないかな。 自由に過ごしてもらって構わないよ」
夜佐久は、自分とナヤギのティーカップに再び紅茶を注ぐ。
「ーーーそういえば、まだギルドとしての当面の目標を話していなかったね」
次回の更新は1月5日予定です。




