第二章 10話(下)
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ナヤギが監禁されていた場所から徒歩で1時間ほど離れた場所で、男女8人のパーティを見つけた。
リナのリミット1スキル『魔狼の眼』により、彼らのレベルが30後半〜40前半、装備の強さも大した事が無いことが判明。
人狼ギルドのレベルが、ナヤギが45、夜佐久が57、リナが29。リナが下回っているが、彼女はサポートに回り、戦闘に直接は参加しないため危険は少ないだろう。
今回のターゲットが決まった。
「ナヤギが彼らの正面に出て気をひいてくれ。 そしたら、僕が後方から奇襲をかける。 あとは、挟み撃ちで数を減らして、1人か2人捕まえよう。 リナは、他のプレイヤーがいないか周囲を警戒してくれ」
ナヤギとリナは無言でうなづいた。
夜佐久は、メニュー画面より剣を取り出した。
あの薄紫色の刀ーーーーーーではなく、またどこでも買える安物の鉄の剣。
「何で安物ばかり使うんですか。 この前の刀……『蠱毒紫雨』でしたっけ、あれは使わないんですか」
ナヤギは、疑問を投げかける。
この一度死んだら終わりの世界で、縛りプレイをしていると言うわけじゃないだろう。理由もなしに強力な武器を使わないことはあり得ない。
「ああ……、あれは強すぎて基本スキルが全然上がらないんだよ。 だから、安物の方を普段使ってる」
「なるほど……そういう理由ですか」
武器ごとの威力が上がる基本スキルは、その使用回数によってレベルアップする。刀などの片手剣に分類される物は何度切ったか、振ったかでレベルが上がる。
あの刀だと、敵を切り刻む前に一太刀で終わってしまうと言う事だろう。
「二人ともそろそろ準備はできた? ーーーじゃあ、狩りを始めようか」
真っ赤な狼のマスクを被ったナヤギに彼らの注目が集まる。
狼の面をつけた夜佐久が奇襲をかけ、最後方の女を葬る。
他のメンバーから上がる悲鳴をよそに、夜佐久は目にも止まらぬ速さで2人目の首を切断した。
「赤マスクは俺がやる! もう一人は全員で対処!!」
ターゲットのリーダーがパーティメンバーに指示を出す。
流石は、ここまで来たプレイヤーなだけある。
一瞬でどちらがヤバいかを察知したのだろう。的確な判断だ。
だが、それも寿命を少し伸ばすためのものに過ぎない。
リーダーの男が、ナヤギと対峙する。
両者のレベル差はわずか。しかし、対人戦においての技量は天と地の差がある。
「うおおおおおおおお!!!!」
リーダーの男が、大剣でナヤギへと切り掛かる。
ナヤギはひらりとそれを避ける。
「ーーーー炎属性付与『豪炎』ーーーー」
炎に包まれたヴァイオレットソードを男の顔に向かって横なぎに振るう。
大剣と片手剣の間合いの違いにより、わずかに切っ先が届かないが、剣に纏った豪炎が男の目を焼く。
「あづぅ!!!」
目を焼かれ、男が怯む。
ナヤギはその隙に剣を返し、男の頭蓋から体を両断した。
「があああああ!! あぁぁあぁぁぁ…………」
男は断末魔の叫びと共に弾けていった。
ナヤギは夜佐久に加勢しようと彼が戦っている方を向く。
「なっ……!」
フルマスクの下のナヤギの目が大きく見開かれる。
ナヤギの目に映るのは、数本の銀の線と周囲に飛び散る赤い光。
夜佐久が刹那に振るう剣の残像と、切り刻まれたプレイヤーの鮮血だ。
既に彼の前に立っているのは男女2人のみ。
しかも、男の方は体に無数の切り傷を負っている。
夜佐久はナヤギが1人殺す間に3人を殺したーーーーいや、それ以上の働きをしたと言うことだ。
ナヤギは背筋がゾクゾクするのを感じた。
彼に襲われた時は恐怖しかなかったが、味方ならばこれほど心強い人は他にいないだろう。
夜佐久は男の腕を切断し、体を捻って鳩尾へと蹴りを叩き込む。
「グブッ!!」
男はそのまま意識を失い、地面へと倒れた。
「嘘でしょ……!? い、いやああああ!!」
女性は、悲鳴を上げて夜佐久に背を向け逃げようとする。
だが、すぐ何かにぶつかり尻もちをついた。
女性が顔を上げるとそこには赤い狼の顔。
ナヤギーーーーというよりは狼の目と視線が交差する。
「やああああああああああ!!」
女性は泡を吹いて倒れた。
夜佐久はナヤギにナイスだとでも言いたげに親指を立てた。
「いや……俺の手柄じゃないと思うんですけど……」
ナヤギは複雑な気持ちだった。
ナヤギと夜佐久は近くの木に気絶したプレイヤー二人を縛りつけた。
「二人ともお疲れ様」
黒い仮面をつけたリナが近づいてくる。
「あとで、お姉さんがヨシヨシしてあげるね〜」
「僕は結構だから、その分ナヤギにしてあげて」
「へ……!? 俺は……」
ナヤギの思考が加速する。
ぶっちゃっけ綺麗なお姉さんに優しく頭を撫でられるのは魅力的だ。
だが、その欲望のままに「お願いします」というのは変態じゃないのか。
ナヤギは悩む。悩んだ末に言葉を捻り出す。
「俺、俺は……、俺も結構……です」
未練がましく歯を噛むナヤギ。
彼がもう少し大人ならば、自身の欲望に素直になれたのかもしれないが、残念ながらまだ童貞チキン野郎だ。
「リナ、武器を出しておいて」
「はい、は〜い」
リナが取り出したのは、刃が50cmはあろうかという巨大な鋏。
「少し手荒くなるけど、起きるのを待っているわけにはいかないからね」
夜佐久は、アイテムストレージから瓶に入った水を取り出すと、気絶した二人にぶっかけた。
頭から水を被った二人は目を覚ました。
「うっ……、ここは……? っ!!」
「冷たっ……、ひっ!」
2人とも、すぐに状況を把握したようだ。
怯えた顔、女性の方に至っては恐怖で目に涙が滲んでいる。
男が、口を開く。
「……俺たちをどうする気だ?」
男の問いに答えたのは夜佐久。
「これから君たちを殺すつもりだよ」
「なっ……!?」
「いやっ!」
夜佐久の言葉に恐怖の色を濃くする2人。
対して夜佐久は、声色を変えずにそのまま話を続ける。
「だから、せめて言い残すことがあれば聞いておくよ。 家族や友人への遺言でもいい。 現実世界に戻ることができたら必ず伝えに行こう」
「お願い! 殺さないで! 私まだ死にたくない!!」
女性には、夜佐久の話の後半は聞こえていなかったようだ。
「なんで……なんで俺たちを殺すんだ!! 殺す必要なんてないだろう!!」
男の叫びが周囲に響く。
殺される側の意見としてはもっともなことだ。
「あるわよ。 私たちが生きるためには、あなたたちを殺さなくちゃならないの」
リナが男の疑問に答える。
普段の柔らかい印象のリナとは逆の、割り切ったような冷たい印象をナヤギは感じた。
「は……?」
男は意味が分からないといったような顔だ。
「じゃあ、時間もないからそろそろお別れにしましょう。 最期の言葉を聞かせてくれる?」
リナは鋏を両手で少し開いた。
「お願い…! お願いだからやめて……」
「それはできないの」
顔を涙でぐちゃぐちゃにした女性を冷たく突き放す。
「……殺す……! 呪い殺してやる……!! 俺たち8人がお前たちを絶対に呪い殺してやる!!」
男の目はナヤギたちへの怨みで燃えていた。
対して黒い仮面からのぞくリナの目は、わずかに申し訳なさが感じられるだけだった。
「そう……『ごめんなさい』は言わないわ。 さようなら……そして、『ありがとう』」
ジョキン……
ジョキン……
次回の更新は12/21(水)を予定しています。




