第二章 9話 「人狼ギルド」
「ーーー君も人狼ギルドに入る気はないかい?」
人狼からのギルドへの勧誘。
ナヤギは困惑していた。
目の前の2人が人狼であるということに、そして人狼ギルドへの加入の是非について。
夜佐久が人狼であることは紛れもない事実。
しかし、同族であるからといって信用できるかは別問題だ。
殺されかけたことはとりあえず置いておくとしても、なぜ自分が人狼だと分かったのか。
始めから人狼だと分かっていて捕らえたのか。
ギルドの目的が本当に脱出だけなのか、他に目的があるのではないか。
疑心暗鬼がナヤギの心の中に渦巻く。
「……脱出しようってのはどっちの方法で?」
夜佐久の目を見ながらナヤギは疑問をぶつける。
どれだけ一人で考えようと答えなど見つからないだろう。夜佐久から放たれる言葉の中から真実を見極めるしかない。
人狼が脱出する方法は2つ。
誰かがこのゲームを攻略するまで、ひたすらPKをして生き残るか。
この世界のプレイヤーを”皆殺し”にするのか。
当然、ナヤギは前者の方法での脱出を目指している。
夜佐久たちが後者である可能性は十分あり、そうならばナヤギとは考えが異なるということだ。
自身の手を血に染めるのは最低限にしたい彼に対して、逆に積極的に屍の山を作っていく。
命を搾取することには変わりないが、そこには倫理や思想、心の大きな隔たりがある。
最悪の場合は衝突、数少ない同族だと知りながら殺し合うことになるだろう。
ナヤギの額に汗が滲む。
「その問いをするということは、共に戦うかを検討してくれているーーーと考えていいんだね」
夜佐久の言葉にナヤギは首をゆっくりと縦に振る。
「僕たちは……この世界がクリアされるその日まで死ぬつもりはない。 どんなにみっともなくても、何杯の血を啜ろうともね」
「それって、つまり……」
彼らの考えはナヤギと同じ。
ナヤギは少しだけ胸を撫で下ろす。
「無駄に殺生をする気はないよ。 何年だろうと攻略を待つつもりだ」
「流石に皆殺しにするのは勘弁したいしね〜」
彼らの目からは嘘をついているようには見えない。
まあ、ナヤギがどっち側であるかは彼らが知る余地はなく、嘘をつく意味もほぼないだろう。
「君はどっちを選んだ?」
「……あなたたちと一緒だ。 俺もゲームクリアによる脱出を目指している」
夜佐久の口角がわずかに上がる。
「生存の可能性を上げるために一人でも多くの仲間が欲しい。 人狼ギルドに入ってれると嬉しいんだが」
眉間に皺を寄せてナヤギは悩む。
同じ目的を持っているなら、助け合う道を選んだ方がいい。
だが、夜佐久を信用していいのか。まだ、謎はいくつもある。
「……答えてほしいことがある。 なんで俺が人狼だと……? 始めから分かっていて捕まえたのか……?」
「残念だけど、まだ仲間じゃない君に教えることはできない」
聞きたければ仲間になれ。ということだろうか。
ますますナヤギの迷いは大きくなる。
仲間以外に情報を渡したくないということだろうが、ギルドへ誘い込むための手段ではないかとも聞こえる。
というか、そもそも断ったとして解放してくれるのか。断った瞬間に殺されるのではないか。
心が靄に包まれ、真実から遠のいていく。
掌からは嫌な汗が流れ、目の焦点は定まらない。
「ーーーーほいっ」
「……えっ!?」
ナヤギの視界に自身の方へと飛んでくる白い物体が映る。
慌ててその物体をキャッチする。
「ーーーーっ! いたっ!」
ナヤギの指先が切れて赤い光がわずかに零れる。
その手に取ったのは自身の愛剣。
「ヴァイオレットソード……」
「これで、少しは落ち着いた?」
顔を上げると微笑むリナと目が合った。
どうやら、彼女がヴァイオレットソードを投げたようだ。
不安げなナヤギに気を使ってくれたのだろう。
手の中へと戻ってきた自身の武器。
不思議と触れているだけで安心する。苦楽を共にし、ナヤギの力であり彼自身の一部と言っても過言ではない物だ。
心が落ち着いていく。
「……別に嫌なら断ってくれて構わないよ。 断ったからと言って君を監禁したり殺すつもりは全くない。 君の’選択’を尊重するーーーーだけど、もし少しでも共にこのゲームから出る意思があるなら、力を貸してほしい」
夜佐久は手を差し出す。
ナヤギは彼の目を真っ直ぐに見据える。
宝石のような紫紺の瞳。どこまでも澄んでおり一点の曇りもない。
夜佐久の意思の強さが伝わってくる。
この人は本気で人狼ギルド全員での脱出を目指している。
ナヤギは差し出されたその手を掴んだ。
「ありがとう。 これからよろしく」
夜佐久がナヤギに向かって笑いかける。
男だと分かってはいるが、彼の美しい笑顔にナヤギはドキッとした。
「よ、よろしくお願いします……//」
「よろしくね〜」
ゲーム開始 10ヶ月
ナヤギ、人狼ギルドへ加入




