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第一章 37話 「プライベートライブ」

 

「はい! はい! PINPIN!」


「おらぁ! そこ揃ってねえぞ!!」


 なんで俺、こんなことやってるんだっけ……――――

 ナヤギは、ソウキの指導の元で親衛隊と共に踊らされていた。


 いわゆるオタ芸というやつだ。

 両手には蛍光色に発光する棒が握られ、派手で独特な動きをさせられていた。


「もうすぐライブが始まるぞ! お前らの愛はそんなもんなのかよ!」


 ソウキの声が会場内に響く。

 今、やっているのは本番のための練習。


 かれこれ30分以上は練習している。

 これでは、本番で踊る前に疲れ切ってしまう。現にナヤギの息はもう絶え絶えだ。

 腕も上げるも辛い。


 しかし、彼以外の親衛隊は疲れを見せているものの踊りのキレは一切落ちていない。

 こいつら化け物かよ――――


「新入りぃ! 遅れて――――『親衛隊のみんなー! さっきぶりー!!』


「「「さっきぶり―!!!」」」


 桜色の髪を持つ美少女――――PINPINが出てきた瞬間、親衛隊の面々はさらに元気になった。


『さあ、プライベートライブはっじめるよー!!』


「「「おおー!!」」」


 プライベートライブが始まった。





 『PINPIN』――――

 今、最も人気のあるアイドルの一人だ。

 特徴的な桜色の髪を後ろで一つに纏めた童顔の美少女。年齢は背の低さも相まって10代前半ほどに見えるが、実際は成人する一歩手前。透き通った美声に、明るく感情のこもった歌詞で若い世代に人気を博している。

 3年ほど前にデビューしてから、その見た目と歌声であっという間にトップアイドルへとかけ上がった。


 ゲーム好きで有名であり、VRMMOも多くプレイしている。

 つまり<Savior Lord>をいち早くプレイしようとして、デスゲームに巻き込まれた被害者の一人というわけだ。



『今日もありがとー!! いつも応援してくれる親衛隊のみんなが大、大、大好きだよー!!』


「「「うおおおおおおおおお!! PIN! PIN!」」」


 最高潮に盛り上がったままプライベートライブは終了した。


「はあ……、はあ……」


 膝が笑い立っているのもやっとだ。

 ナヤギは疲れ切っていた。


 もう一歩も動けえねえ……でも――――

 何とも言えない充実感をナヤギは味わっていた。

 疲れた分楽しかったということなのだろう。

 少し不服ではあるが、親衛隊の気持ちが分かりかけていた。まあ、彼もすでにその一員なわけだが。


『この後は、握手会だよー! みんなと話せるの楽しみにしてるよー!』


「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 笑顔のままPINPINは会場の隣にある小部屋へと入っていった。


 隊員たちは我先にと彼女の入っていった小部屋の前に並ぶ。

 おそらくあの部屋で握手会は行われるのだろう。


「あれ? 並ばねえの?」


 ソウキが話しかけてきた。


「そういう隊長さんもどうなんだよ」


 すでにナヤギとソウキ以外の隊員は列に並んでいる。

 ソウキが列に並んでいないことに、ナヤギは意外だと感じた。てっきりもう並んでいるとばかり思っていた。一番先頭にいてもおかしくはない。


「隊員に先を譲るのも隊長の役目というわけさ。 リーダーをやるのも楽じゃないぜ」


 ソウキはかっこよく見えそうなポーズをとる。

 イケメンに変身しているせいか本当にかっこよく見えることに、ナヤギは若干むかついた。


「で、なんで並ばねえの? プライベートライブも頻繁に行われるわけじゃないから、今を逃すといつPINPINたんと触れ合えるか分からないぜ」


「そうは言ってもな……分かるだろ、お前はスキルがあるからいいけどさ。 あんま顔とか覚えられたくないし……」


 有名人に顔を覚えられるのは勘弁してほしい。

 この世界においてPINPINはかなり知名度が高い。おそらくは色々な人物との交流もあるだろう。

 人狼討伐派や攻略組とも繋がっている可能性もある。今回も、このエキシポにくるために攻略連合の中の1ギルドに護衛を依頼したらしい。


 ソウキは「羊皮を被りし狼(ザ・シープフェイス)」があるから顔を覚えられる心配はないが、ナヤギは違う。

 何処で人狼かバレるのか分からない以上、リスクは避けたい。


「そゆうこと。 それなら多分大丈夫だと思うぜ。 そうそう、これお前の。 ほいよ」


 ソウキから、カードのようなものを手渡される。


 カードに目を落とすと、はじめに『PINPIN親衛隊 隊員証』という文字が見えた。

 つまり、ファンクラブの会員証。

 名前を記入する欄と会員番号しか書かれていない簡素なもの。ちなみにナヤギの会員番号は0128番。

 その番号にナヤギは目を見開いた。


「親衛隊って100人以上いるのかよ!」


 てっきり、ここに居る20数名で親衛隊は全員だとナヤギは思っていた。

 ナヤギの番号が0128番だということは、親衛隊は100人以上隊員が居るわけだ。

 親衛隊とは思ったよりもデカい組織なのかもしれない。


「それだけPINPINへの愛は世界に広がっているってことさ――――まあ、普通にここまで来るのが物理的に難しい奴らが大半だし」


 ゲーム開始から7ヶ月が経ったとはいえ、このエキシポまで来れるプレイヤーは決して多くない。


 王都からエキシポまで安全に行くには、レベル15以上のプレイヤーが少なくとも5人は必要だと言われている。生存しているプレイヤーの多くは、王都に引きこもったり、王都を基点として安心安全にレベルをコツコツと上げており、レベル15以上の者は少ない。

 親衛隊の多くもそういうプレイヤー達なのだろう。


「これだけ人が居れば、簡単には顔覚えられないって」


「いや、でも絶対ってわけじゃ……」


「ええい! つべこべ言わずに並べって! 何事も経験が大事っていうだろ」


「お、おい!」


 ソウキに背中を押され、ナヤギは半ば強制的に列に並ばされた。


 しばらくすると、PINPINの居る部屋から黒服の男が出てきた。おそらくは彼女のボディーガード。

 黒服の誘導に従い、一人ずつ部屋の中へと入っていく。



 1人あたりの所要時間は1分弱、30分ほどでナヤギの番が回ってきた。

 前の者が部屋から出てくると、黒服に部屋に入るように促された。


 扉を開けると、そこは6畳ほどの小部屋。

 四方を真っ白な壁に囲まれた部屋の中央には簡素な長机と椅子――――そして、対面には桜色の髪の美少女が座っていた。

 PINPINはナヤギに明るい笑顔を向ける。


 


「今日は来てくれてありがとう――――“狼さん”」


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