表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/57

第一章 27話 「逆転」

 


「――――え?」


 目を見開くトラ。

 ミフユとアキヒコも驚いた顔をしている。

 彼らの瞳に映るのは、宙を舞うサッカーボール程度の大きさの物体。


 その正体は、人の生首。

 苦悶の表情というよりは、驚嘆を浮かべている。

 自分に何が起こったのか分からないまま殺されたのだ――――――――“ナツキ”は



「――――キャアアアアアア‼」


 ナツキの首が地面に落ち、ミフユの悲鳴が響く。



 そこには、剣を振り上げた人狼が立っていた。



 **************



 振り下ろされた片手斧がナヤギの頭をたたき割る寸前、ナヤギは手に隠した「麻痺治しの種」を飲み込んだ。

 素直に指輪を渡すふりをして、ついでに仕込んでおいたアイテム。


 麻痺状態を解除したナヤギは、体をひねりギリギリで凶刃を避ける。

 そのまま腰のヴァイオレットソードに手をやり、立ち上がりながらナツキの首を狙って抜刀。

 肉を断ち切る感覚。


「――――あえ?」


 間抜けな声を漏らしながら、ナツキの首が宙を舞う。


 回る景色の中、首のない自分の体が目に飛び込んでくる。

 ナツキは殺された事実を最期に認識して、永遠の闇に意識を落とした。


 首が地面に落ちてはじけ飛ぶと同時に、体も光の粒に。


「――――キャアアアアアアアアア‼」


 甲高い悲鳴に、ナヤギは目を歪めて僅かに不快感を示す。

 ミフユの声に、ようやくトラは我に返った。


「なんで動け……おい、アキヒコ‼ いけ!」


「え⁉ えっと……⁉」


 トラはアキヒコに指示を出すが、アキヒコはまだ状況を理解できておらずうろたえたまま。


「早く殺しに行けって‼ アイツのHPは虫の息のはずだ! お前の槍で刺してこい‼」

「わ、分かったよ!」


 むりやりアキヒコを動かす。

 尻をひっ叩かれたアキヒコは、嫌々ながら槍を構えて突進。


「うおおおおお!」


 雄たけびを上げ、ナヤギを串刺しにしようと向かってくる。

 だが、残念ながら遅すぎた。


 アキヒコ渾身の一撃は、ナヤギが体を低くすることで簡単に避けられた。

 そのままナヤギは槍を半ばで断ち切り、穂先を消し飛ばす。


「ひっ!」


 アキヒコの口から恐怖が漏れた。


「――――炎属性付与――――」


 冷たい詠唱と共にヴァイオレットソードが燃える。


 正面からアキヒコの心臓を突き刺した。

 一気に炎が彼に纏わりつく。


「熱い! あづいいいいいいいい‼」


 この世のものとは思えぬ叫び。

 地獄の底からの声と言われても不思議ではない。


 炎の中で悶えながらアキヒコは、光の粒となり消えていった。


「いや、いやああああ‼」


 再び、ミフユの悲鳴が上がる。


 ナヤギがミフユの方に顔を向けると目があった。

 怯えた目、足もガタガタと震え、杖をしっかりと握っている。


 対称的にナヤギの目は真っ暗に染まっていた。

 じっと見ていると引き込まれそうになる闇。


「いや、いや……まだ死にたくない!」


 身をひるがえし、武器である杖も捨てて一目散に逃げだした。


「ま、待てよ! ミフユ」


 彼氏の声も耳には届かず、必死に走る。


 そんなミフユの背を静かに見つめながら、ナヤギはアイテムストレージからナイフを2本取り出し、彼女に投擲。

 ナイフは真っすぐ飛び、後頭部と心臓に突き刺さった。


「――――っ!」


 短い悲鳴が上がり、ミフユは地面に転がる。

 そのまま彼女も光の粒となり天に昇って行った。



 ナヤギの投擲スキルはそれほど高くはない。

 ナイフ投げのスキルレベルは「2」だし、それ以外の投擲スキルも所持しているが最近取得したばかり。

 投擲スキルだけなら急所を2つ攻撃したくらいではPKは出来ない。

 では、なぜミフユを殺せたのか。

 それは、人狼専用スキル「捕食態勢」のおかげだ。

 一般プレイヤーに与えるダメージが上昇するスキルである。



「嘘だろ……! こんなつもりじゃ……」


 自分以外のメンバー全員が消され、さらに大きく動揺するトラ。

 仲間や彼女が殺されても怒りなど微塵も湧き上がらず、頭の中では保身のことだけを考えていた。


「くそっ! やるしかねえ……ぶっ殺す‼」


 やけくそになったトラは、短刀を手にナヤギに襲い掛かる。


 表情を変えずにナヤギは、ナイフを1本取り出すとトラの足に向かって投げた。

 ナイフは足の甲に刺さり、トラは無様に転んだ。


「うっ! 痛え……ひっ!」


 顔を上げたトラが見たのは、こちらにゆっくりと歩進めるナヤギ。

 冷たい視線でトラを射貫き、炎を纏った剣を携える。


 ジリジリとトラは後ずさり、あの夜と同じ光景。

 ただ違うのは、今が昼間のフィールドであるのと、ナヤギに一切のためらいが無いことか。


「すいません! すいません! すいません‼ 許してください、先輩!」


 必死に命乞いをするが、ナヤギの表情は一切変わらない。

 少しずつ距離が詰まっていき、もうすぐ剣の射程内。


「待ってください! 俺が悪かったっす! だから、殺さないで‼」


 一層、命乞いの声が大きくなる。

 さっきまで殺そうとした相手に、縋り付くのはなんと都合の良いことだろう。

 そんなことを思う隙間が無いほど、自分の命以外どうでもよかった。


 距離が縮まると共に、熱さをトラは感じた。

 ヴァイオレットソードから発する熱。

 剣先を突き付けられ、トラは思わず目をつぶった。




「――――助けてやろうか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ