第一章 27話 「逆転」
「――――え?」
目を見開くトラ。
ミフユとアキヒコも驚いた顔をしている。
彼らの瞳に映るのは、宙を舞うサッカーボール程度の大きさの物体。
その正体は、人の生首。
苦悶の表情というよりは、驚嘆を浮かべている。
自分に何が起こったのか分からないまま殺されたのだ――――――――“ナツキ”は
「――――キャアアアアアア‼」
ナツキの首が地面に落ち、ミフユの悲鳴が響く。
そこには、剣を振り上げた人狼が立っていた。
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振り下ろされた片手斧がナヤギの頭をたたき割る寸前、ナヤギは手に隠した「麻痺治しの種」を飲み込んだ。
素直に指輪を渡すふりをして、ついでに仕込んでおいたアイテム。
麻痺状態を解除したナヤギは、体をひねりギリギリで凶刃を避ける。
そのまま腰のヴァイオレットソードに手をやり、立ち上がりながらナツキの首を狙って抜刀。
肉を断ち切る感覚。
「――――あえ?」
間抜けな声を漏らしながら、ナツキの首が宙を舞う。
回る景色の中、首のない自分の体が目に飛び込んでくる。
ナツキは殺された事実を最期に認識して、永遠の闇に意識を落とした。
首が地面に落ちてはじけ飛ぶと同時に、体も光の粒に。
「――――キャアアアアアアアアア‼」
甲高い悲鳴に、ナヤギは目を歪めて僅かに不快感を示す。
ミフユの声に、ようやくトラは我に返った。
「なんで動け……おい、アキヒコ‼ いけ!」
「え⁉ えっと……⁉」
トラはアキヒコに指示を出すが、アキヒコはまだ状況を理解できておらずうろたえたまま。
「早く殺しに行けって‼ アイツのHPは虫の息のはずだ! お前の槍で刺してこい‼」
「わ、分かったよ!」
むりやりアキヒコを動かす。
尻をひっ叩かれたアキヒコは、嫌々ながら槍を構えて突進。
「うおおおおお!」
雄たけびを上げ、ナヤギを串刺しにしようと向かってくる。
だが、残念ながら遅すぎた。
アキヒコ渾身の一撃は、ナヤギが体を低くすることで簡単に避けられた。
そのままナヤギは槍を半ばで断ち切り、穂先を消し飛ばす。
「ひっ!」
アキヒコの口から恐怖が漏れた。
「――――炎属性付与――――」
冷たい詠唱と共にヴァイオレットソードが燃える。
正面からアキヒコの心臓を突き刺した。
一気に炎が彼に纏わりつく。
「熱い! あづいいいいいいいい‼」
この世のものとは思えぬ叫び。
地獄の底からの声と言われても不思議ではない。
炎の中で悶えながらアキヒコは、光の粒となり消えていった。
「いや、いやああああ‼」
再び、ミフユの悲鳴が上がる。
ナヤギがミフユの方に顔を向けると目があった。
怯えた目、足もガタガタと震え、杖をしっかりと握っている。
対称的にナヤギの目は真っ暗に染まっていた。
じっと見ていると引き込まれそうになる闇。
「いや、いや……まだ死にたくない!」
身をひるがえし、武器である杖も捨てて一目散に逃げだした。
「ま、待てよ! ミフユ」
彼氏の声も耳には届かず、必死に走る。
そんなミフユの背を静かに見つめながら、ナヤギはアイテムストレージからナイフを2本取り出し、彼女に投擲。
ナイフは真っすぐ飛び、後頭部と心臓に突き刺さった。
「――――っ!」
短い悲鳴が上がり、ミフユは地面に転がる。
そのまま彼女も光の粒となり天に昇って行った。
ナヤギの投擲スキルはそれほど高くはない。
ナイフ投げのスキルレベルは「2」だし、それ以外の投擲スキルも所持しているが最近取得したばかり。
投擲スキルだけなら急所を2つ攻撃したくらいではPKは出来ない。
では、なぜミフユを殺せたのか。
それは、人狼専用スキル「捕食態勢」のおかげだ。
一般プレイヤーに与えるダメージが上昇するスキルである。
「嘘だろ……! こんなつもりじゃ……」
自分以外のメンバー全員が消され、さらに大きく動揺するトラ。
仲間や彼女が殺されても怒りなど微塵も湧き上がらず、頭の中では保身のことだけを考えていた。
「くそっ! やるしかねえ……ぶっ殺す‼」
やけくそになったトラは、短刀を手にナヤギに襲い掛かる。
表情を変えずにナヤギは、ナイフを1本取り出すとトラの足に向かって投げた。
ナイフは足の甲に刺さり、トラは無様に転んだ。
「うっ! 痛え……ひっ!」
顔を上げたトラが見たのは、こちらにゆっくりと歩進めるナヤギ。
冷たい視線でトラを射貫き、炎を纏った剣を携える。
ジリジリとトラは後ずさり、あの夜と同じ光景。
ただ違うのは、今が昼間のフィールドであるのと、ナヤギに一切のためらいが無いことか。
「すいません! すいません! すいません‼ 許してください、先輩!」
必死に命乞いをするが、ナヤギの表情は一切変わらない。
少しずつ距離が詰まっていき、もうすぐ剣の射程内。
「待ってください! 俺が悪かったっす! だから、殺さないで‼」
一層、命乞いの声が大きくなる。
さっきまで殺そうとした相手に、縋り付くのはなんと都合の良いことだろう。
そんなことを思う隙間が無いほど、自分の命以外どうでもよかった。
距離が縮まると共に、熱さをトラは感じた。
ヴァイオレットソードから発する熱。
剣先を突き付けられ、トラは思わず目をつぶった。
「――――助けてやろうか?」




