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第一章 15話 「ナイフ投げ」

 

 翌日。

 ナヤギとコロンは、昨日までナヤギが潜伏していた森に来ていた。


 コロン曰く、この森は周囲のフィールドに比べて出現するモンスターのレベルが低いらしい。

 レベル上げの効率も悪く、プレイヤーはほぼ訪れないそうだ。

 そのため、レベルが低いナヤギにとってちょうどいいだろうとコロンが提案してきた。


 レベルが低いのは偽のステータス上だけで、実際のレベルは「18」。

 攻略組よりも少しだけ下回る程度。

 この辺りのモンスターならば問題なく倒せる。なので、エキシポから遠いこの森じゃなくて、もっと近い場所でもよかった。

 しかし、断っては不審がられるので提案を受け入れた。




 白い小さな手から小ぶりのナイフが離れる。


 生い茂る木々の間を抜け、投擲されたナイフはサル型のモンスターの喉元に突き刺さった。


 「ギャッ!」


 短い悲鳴を上げて、サル型のモンスターは光の粒に姿を変えた。


 「――――すげえ・・・」


 鮮やか、その一言に尽きる。


 ここまでの投擲スキルを持つプレイヤーは他にいないだろう。



 ――――投擲スキル

 その名の通り、物を投げる際に効果を発揮するスキル。

 この世界では、デフォルトで投擲による攻撃ができるようになっている。

 しかし、その威力はとても弱く、メイン武器による攻撃とは比べ物にならない。


 そこで投擲スキルを所持していることで、威力を上げることや命中率を向上させることができる。

 投擲スキルは何種類か存在する。投げる物や投擲方法の違いで修得するスキルは変わってくる。


 コロンは投擲スキルを何種類か持ち、それらを磨いているのだろう。


 「でも、なんで投擲スキルを鍛えようと思ったんだ?」


 素直な疑問を、ナヤギは口にした。


 投擲スキルを所持していれば、威力も命中率も上がる。

 しかし、メイン武器で攻撃した方が何倍も効率よくモンスターを倒せる。

 ある一定以上まで、スキルレベルを上げなければ使い物にならない。


 そのため、投擲スキルを所持しているプレイヤーは少なくないが、鍛えている者はほぼいない。


 「ん~、なんとなく」

 「へ?」


 あまりにも適当な答え。

 もっとちゃんとした理由があるのかと思っていたナヤギは、ポカンとした。


 「特に理由なんてないわよ。――――しいて言えば、人とは違うことをしたかったからかな」


 新たに取り出した小ぶりのナイフを指で回転させながら、彼女はそう答えた。



 「それで、モンスターの倒し方を教えて欲しいんだっけ?」


 少し首をかしげながら、コロンはナヤギに尋ねる。


 「あ、ああ、うん。 ・・・どちらかと言えば、ナイフの投げ方を教えて欲しいかな」


 基本的なモンスターの倒し方は心得ている。

 知っていることを教えてもらうよりも、知らないことを教えてもらう方がいいだろう。


 この世界で生きていくうえで、ナヤギにとってモンスターを倒す必要などほぼ皆無。

 それならば、ナイフの投げ方を教えてもらった方が今後の役に立つ。


 「・・・う~ん」


 ナイフの柄を顎に当てながら、コロンは悩んだ顔をする。


 「やっぱり難しい?」


 投擲スキルを鍛えている理由が、「人とは違うことをしたい」ということならば、人に同じことをされるのは嫌うかもしれない。

 自ら個性を奪われるようなことはしたくないだろう。


 「・・・いや、いいよ。 あなたになら教えてあげてもいい」


 予想に反して、コロンは了承してくれた。

 ナヤギの顔が明るくなる。


 「マジで!? ありがとう!!」

 「でも、私はスパルタよ! ついてこれるかな!」


 ナイフを、ビシッとナヤギに向ける。


 「もちろん! ドンとこい!」





 ――――小1時間後


 ナヤギは大きく振りかぶって、ナイフを放つ。

 放たれたナイフは、木に描いた的を外れて、はるか彼方へと飛んでいった。


 「・・・ナヤギってホント、センスがないよね」


 呆れた顔のコロン。

 ナヤギはガックシと肩を落とす。


 「・・・なんで、なんで・・・っ」


 地面に手と膝をつく。

 冷たい土の感触が若干気持ち悪い。

 もう何十とナイフを投げているが、的に当たるどころか木に当たった物は数える程度しかない。


 「ナヤギは力入れすぎ。 もっと力を抜いて手首を使ってみたら・・・こんな風に」


 コロンはアイテムストレージから小ぶりのナイフを取り出すと、ほぼ動かずに手首のみを利用してナイフを放つ。

 真っすぐと空を割き、吸い込まれるようにして的の中心に刺さった。


 「ほら、もう一回やってみて」

 「うう、分かった・・・」


 土を払いながら、ナヤギはゆっくりと立ち上がる。


 コロンに教わったことを意識しながら、再度ナイフを投げてみる。

 全身の力を抜き、手首の返しのみを利用。

 放たれたナイフは、先ほどよりも真っすぐに飛んだ。


 しかし、的を捉えるどころか木をかすめただけで終わった。


 「くそっ! やっぱり俺には無理なのか・・・」


 諦めてしまおうか。

 コロンには申し訳ないが、自分にはセンスがない。

 もう辞めにしようと、ナヤギは思った。


 「今の惜しかったね。 投げ方は悪くなかったわよ」


 予想外の言葉。

 あまりの才能のなさに呆れられていると思っていた。


 「でも・・・」

 「もう少しだから頑張って。 私も手伝うから、もう1度やろうよ」


 ナイフをナヤギに手渡すと、コロンは彼の背後に回る。



 そして、彼の腕を持って体を密着させた。



 「え、ちょ・・・っ!?」


 コロンの行動に、ナヤギの顔が紅潮。


 背中に感じる柔らかい感触。

 大きくもなく小さくもなく、ちょうど良い大きさ。


 「あのっ! あ、あたっ・・・当たっ・・・」

 「集中して、きっと出来るようになるから」


 振り返って見たコロンの顔は真剣そのもの。

 その顔を見て、ナヤギは邪念を振り払う。


 「っ! 分かった」

 「もっと肩の力を抜いて」


 耳に当たる息が気持ちいい・・・ってそうじゃない――――!

 なかなか邪念を振り払うのは難しいようだ。


 彼女に言われたとおりに肩の力を抜いて、全てを委ねた。


 「的をしっかり見て・・・・今!」


 コロンに言われたタイミングでナイフを放つ。

 今回は的に刺さる、なぜかそんな予感がした。


 今までで一番遅い。

 しかし、放たれたナイフは真っすぐ飛んで、的に刺さる。

 中心ではないが、初めて的を捉えた。


 「ね? できたでしょ」


 嬉しそうにコロンは語りかける。


 「・・・ありがとう、 君のおかげでコツがつかめた気がする。 もう少し頑張ってみるよ」


 素直な感謝の言葉が零れた。





 しばらくナヤギはナイフを投げ続けた。


 コツを掴んだナヤギの上達は凄まじく、次第に的から外すことが無くなった。

 そして、ついには的の中央を捉え始めた。


 「だいぶ上達したわね。 そろそろモンスターを的にしようか」


 修業は次の段階に移行するようだ。


 二人とも辺りを見回して、モンスターを探す。

 ナヤギの目に赤い点が映った。

 遠くで分かりにくいが、どうやらヴァイオレットタイガーのよう。

 1匹だけで群れでいるわけではなさそうだ。


 「アイツでいいんじゃない」

 「ヴァイオレットタイガーね。 いいと思うけど大丈夫?」

 「大丈夫、大丈夫。 よし、昨日の恨みを晴らしてやる!」


 木の陰に隠れて、ヴァイオレットタイガーが近づくのを待つ。

 コロンも遠くで見守ってくれている。


 ヴァイオレットタイガーは、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

 射程に入ると同時に、ナヤギは木の陰から飛び出てヴァイオレットタイガーに向かってナイフを放った。


 ナヤギに気づいたヴァイオレットタイガーは、彼の方を振り向く。

 そのおかげで額めがけて、ナイフは真っすぐと飛んでいく。


 「よし、もらった!」


 勝利を確信した。


 しかし、放たれたナイフはヴァイオレットタイガーの額に当たると同時に弾かれた。

 ナイフは回転して近くの地面に突き刺さる。


 「へっ? どういうこと・・・?」


 間抜けな声。

 理解できなかった。ナイフは額を捉えたはずだ。

 なのに、なぜ弾かれたのか。


 「ガルラアアアアアアアア!!!!」


 攻撃されたヴァイオレットタイガーは、ナヤギに襲いかかる。


 ナヤギとヴァイオレットタイガーとの距離が一定以下になったことで、ナヤギの目にヴァイオレットタイガーのレベルが表示された。


 「レベル28!?」


 さらによく見ると、ヴァイオレットタイガーの顔の右半分と背中の一部が赤い水晶でおおわれていた。




 「ま、まさか・・・クリスタルモンスター!?」


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