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第一章 11話 「偶然」

 

 ナヤギが王都を出てから2日が経った。

 現在、彼は王都から20kmほど離れた森の中に身を隠していた。


 スタート地点である王都は大陸の端に位置しており、周囲を海と草原に囲まれている。

 ナヤギが隠れている森は、草原を越えて王都に一番近い都市からもだいぶ離れた場所にある。しかも、ボス部屋や街なども近くにないことから開拓もほぼされていない。プレイヤーが立ち寄ることも滅多にない。

 潜伏するには絶好の場所。


 王都を出た初日に、森の中の“モンスター侵入不可領域”であった洞窟を見つけた。

 この2日は、そこで寝泊まりをしている。

 モンスター侵入不可領域とは、その名の通りモンスターが侵入することのできない場所だ。フィールドにいくつか点在して、プレイヤーたちの休憩所に利用されている。



 「ふわぁ~・・・もう朝か」


 小鳥のさえずりを聞きながら、ナヤギは眼を覚ました。


 一昨日は、この場所を見つけた後で疲れから死んだように眠った。

 昨日は、森の中を探索してモンスターを倒していた。

 この森には、レベルは10未満のモンスターが多い。ナヤギにとって、危険のほとんどないモンスターたちではあるが、現れる数が多い。森という場所の特性と他のプレイヤーによって倒されていないことが原因であろう。

 その分、多くのモンスターを倒すことができレベルを上げることができた。


 そして、今日。

 今日の予定はすでに決まっている。PKをすること。

 最後にPKをしたのは、赤ずきん達に追われる直前。そこから2日経った。現在のPKポイントは「1」。今日PKをしなければ、ナヤギは死ぬ。


 「とりあえず、森をでないとな」


 昨日、森の中を探索したがプレイヤーを1人も見かけなかった。

 森は木々が生い茂っており不意打ちには最適だが、PKする対象がいなければ話にならない。


 「・・・街道に出てみるか」


 西側には、森に沿うように街道が走っている。

 ナヤギは街道の方に行くことに決めた。



 2時間ほどで街道に出ることができた。


 プレイヤーもほとんど通ることがない道。人影は見えない。

 とりあえず休憩もかねてプレイヤーが通りかかるのを待とうと、ナヤギは近くの木々に身を潜めた。


 「1回のPKで三日生きられるようになったのはありがたいな・・・」


 一昨日のPKで「人喰飢餓」のスキルレベルが2になった。

 効果は、PKポイントが1以下のときに獲得できるPKポイントが3倍になる。1回のPKで3ポイント獲得できるわけだ。

 さらに生き延びやすくなり、PKをする人数を減らすことができる。


 もっとスキルレベルを上げれば、さらに大きな恩恵を得ることができるだろう。出来ることなら早くスキルレベルを上げたいと、ナヤギは考えていた。


 「・・・人を殺さなくて済むように、人を殺すのか・・・」


 自嘲気味につぶやいた。

 確かに矛盾していうような考え、しかし最も合理的な考えでもある。


 これからのことも考えながら、人が通りかかるのを待った。




 小一時間ほど経った時、遠くから一人のプレイヤーが歩いてくるのが見えた。


 スキンヘッドで高身長の男。軽装備で上下とも薄そうな服、だが背負っているハンマーは図太い。

 攻撃重視のスタイル。仮想空間の死が現実の死に直結するこの世界において珍しい。よほど腕に覚えがあるのだろうか。



 ナヤギは思案する。この男をPKするか否か。


 見た感じ、スキンヘッドの男のレベルは高そうだ。いくら防御が低そうでも、レベルによっては一撃でPKすることが出来ないかもしれない。

 今は、まだ昼前。もっとPKがしやすそうな他のプレイヤーが通りかかるのを待ってもいいだろう。


 しかし、都合よく他のプレイヤーが通りかかるとも限らない。

 通りかかったとして単独(ソロ)である可能性は低い。大半のプレイヤーは生存率を上げるやゲーム効率を上げるためにパーティーを組んでいる。ソロのプレイヤーは一握り。


 どうしたものかと、ナヤギは考える。


 「・・・まあ、問題ないだろ」


 小さくつぶやく。

 いつも通りに背後から急所を一突きで終わるだろうと、ナヤギは考え男をPKすることに決めた。



 木の陰に身を隠して、スキンヘッドの男が通り過ぎるのを待つ。


 男が横を通り過ぎてから少し後に、物音を立てないように静かに木の陰から出る。

 そして、地面を蹴り一気に背後に近づく。足音は、スキル「忍び足」によって消されている。男が背後から近づくナヤギに気づくことは無いはずだ。


「忍び足」は足音を消すことのできる通常スキル。修得条件は、自分の存在を認知していないモンスターもしくはプレイヤーに対して背後からの攻撃を20回以上すること。


 男の背中が目の前に迫る。

 剣を抜き去り、そのまま必殺技を発動。左胸を狙い、突きを繰り出す。



 ―――しかし、ナヤギの剣は男の心臓をとらえることができなかった。


 ただの偶然。

 剣が男をつらぬく寸前、男の目に道の端に生えた薬草が映った。

 薬草を採取しようと男がそのまま道の端に寄ろうとしたことで、剣先がわずかに目標からずれた。目標からずれた剣先はあろうことか、男の背負っていた図太いハンマーの柄に当たり軌道を変える。

 結果的に、剣は男の脇腹をつらぬくに終わった。



 「があっ!!!」


 男の口から大きな悲鳴が漏れる。


 脇腹の熱さ、背後から何かがぶつかった衝撃、視界の端に映るHPバーの減少から、男は自分に何が起こったのか瞬時に判断。


 「オラァ!!!!」


 自分の背後に向かって横薙ぎに拳を振るう。


 「ぐはっ!!」


 男の拳は、ナヤギの頬にクリーンヒット。

 背後に10数メートル吹っ飛ばされた。



 「なんだテメエは!!! ぶっ殺してやる!!!」



 男の怒号が辺りに響き渡った。


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