表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/57

第一章 12話 「PvP」

 視界が、脳が、意識が揺れる。

 

 この世界で、初めてまともに食らった一撃。吹っ飛ばされたナヤギは、地面を転がりうつぶせに倒れた。


 「なんだテメエは!!! ぶっ殺してやる!!!」


 ナヤギに対して、スキンヘッドの男は怒号を上げる。

 殺されそうになったのだから、当然の怒り。


 ナヤギは、すぐさま立ち上がろうとするが手足に力が入らない。

 よぼど強力な一撃だったのだろう。痛みを通り越して、頬の感覚がない。

 揺れる視界の中、自分のHPバーを見ると1割ほど減っていた。


 「オラァァァァァァァッ!!!」


 殺意のこもった雄たけびを上げながら、ハンマーを振りかぶった男が迫ってくる。


 マズい―――!!!!

 素手の攻撃でもかなりHPを削られたのだ。武器による攻撃ならば、ナヤギの命など簡単に消し飛ぶ。


 「死ねや!!!」


 自分に向かって勢いよく振り下ろされるハンマー。


 「うおおおおお!!!!」


 無理やり手足に力を入れ、ナヤギは横に避けた。

 直後、地面をハンマーがえぐる。えぐられた地面の欠片がナヤギを襲う。


 「くっ!! いてっ!!」


 次々に欠片がナヤギの体に刺さる。

 目への被弾を防ぐために、とっさに顔を手で覆った。


 弾幕が終わった直後、手の隙間から再び自分に振り下ろされるハンマーが見えた。

 ナヤギは後ろに跳び、なんとかハンマーを避ける。

 ハンマーが空気を切る轟音が聞こえた。ものすごい威力。


 さらに後ろに下がり、ナヤギは男から距離を取る。

 ようやく頬に痛みを感じ始め、視界の揺れも収まった。


 「テメエは何者だ? 人狼か?」


 ナヤギを睨みつけながら、男は疑問を投げかける。


 「・・・だったらなんだ。 これから死ぬお前が知ってどうする」


 強気な言葉で返すが、ナヤギは内心震えていた。


 怖い――――

 殺意を向けられることが、こんなに怖いことだとは思っていなかった。

 しかも相手はスキンヘッドで強面。おそらく自分よりもレベルが高い。


 今すぐ逃げだしたい気持ちでいっぱいだ。

 森の中に逃げ込めば、すぐに男はナヤギを見失うだろう。


 しかし、逃げ出すことはできない。

 今、逃げ切れたとしてもいずれは捕まるからだ。

 ここで逃げれば、男から他のプレイヤーにナヤギが人狼であることが広まるだろう。

 人狼であることがバレれば街に入ることは困難になるし、赤ずきん達の耳に入れば大規模な捜索が行われるかもしれない。どのみち、他のプレイヤーから命を狙われる。


 それを防ぐためには、ここで目の前の男をPKするしかない。


 「じゃあテメエをぶっ殺せば、レアスキルが手に入るかもなあ!」

 「やってみろよ! このハゲ野郎!!!」


 地面を思い切り蹴って、ナヤギは男に近づく。


 男は向かってくるナヤギに合わせて、横薙ぎにハンマーを振るう。

 このままならハンマーは敵を捉えるはず。もらった!と、男は思った。


 男の間合いに入る寸前、ナヤギは急ブレーキをかけた。

 フェイント。

 目の前を、ハンマーが通り過ぎる。


 ハンマーの弱点は、小回りがきかず大振りであること。初手をやり過ごせば、次の攻撃まで時間ができる。

 現に、ハンマーの先ははるか離れたところにある。

 隙だらけだ。


 「これで終わりだ!!」


 斜め一閃に男を切りつける。

 最初の脇腹を貫いた一撃で、男のHPはだいぶ減っているはず。この刃が通れば殺せると、ナヤギは勝利を確信した。


 しかし、男はハンマーの柄を器用に使い凶刃を防いだ。


 「なっ!?」


 絶対に当たると思っていた刃を防がれ、ナヤギは驚く。


 ハンマーの柄で剣を防いだまま、男はナヤギの腹を蹴りぬいた。


 「ごぶっ!!!」


 腹部に強烈な衝撃。

 ナヤギは吹っ飛び、またもや地面を転がり倒れた。


 今度はなんとかすぐに立ち上がることができた。

 腹を抑えながら立ち上がり、自分のHPを確認。また、一割ほど削られていた。



 ヤバい状況。

 スキンヘッドの男はレベルだけではなく技術も高い。

 ソロで活動しているのだがら当然と言えば当然だ。


 自分の軽率な考えをナヤギは後悔する。

 もっとPKしやすそうなプレイヤーが通るのを待つべきだった。

 深く考えずに、いつも通りにPK出来ると思ってしまった自分が恨めしい。


 PKするどころかPKされる。

 あの図太いハンマーに叩き潰される未来が、容易に想像できる。このままではその未来に到達するだろう。


 逃げたい――――


 「だははは!!! 足が震えてるぜ!」


 見下すような笑い声。


 下を見ると、男の言った通り恐怖で足が震えていた。

 自分が死ぬと分かって怖がらない人間なんていない。


 心はすでに諦めで埋め尽くされている。

 どう考えたって、目の前の男をPKするのは無理だ。

 なら逃げたっていいじゃないか。

 ただ問題を先送りにしているだけで、どのみち終わりはすぐやってくるとしても、今の恐怖から解放されたい。ナヤギの心はその一心だった。


 だってそうだろ、俺は死にたく――――



 『「い・・やだ・・!・・・しに・・・たく・・・ない・・・」』


 最初にPKした男の最期の言葉が脳裏をよぎった。


 俺は何を思っているんだ――――?


 今まで、何人も何十人もPKしてきた。

 みんな死にたくなかったに決まっている。なのに自分だけ死から逃げようというのか。


 「・・・そうだよな・・・・そりゃ甘すぎるよな 」

 「あ? 何言ってやがる?」


 他者の命を奪ってきたくせに、自分の番になったら御免こうむるとは、なんて虫のいいことだろうか。


 自分だけ逃げていいのか。いいはずがない。

 今、自分が生きている責任がある。殺した者たちから嘲笑されるような、憐れみを向けられるような生き方はしたくない。


 自分の信念を貫くために、ナヤギは死を覚悟する。

 自然、足の震えは止まった。


 「おい、いい加減あきらめろ! おとなしくしてたら楽に殺してやるからよ!!」

 「断る!! 俺は最後まであらがってやるよ!!」


 地面を蹴り、スキンヘッドの男にとびかかっていく。


 別に生きるのを諦めたわけではない。

 明日をつかみ取るために、死を覚悟したのだ。


 「はっ! 芸のねえ奴だな!!」


 再び真っすぐに向かってくるナヤギに対して、男は嘲笑の声を上げる。


 ナヤギに向かって、男はハンマーを振り下ろす。

 急ブレーキをかける様子はない。今度こそもらった!と男は思った。


 

 勢いよく振り下ろされるハンマー。

 ハンマーがナヤギを捉える寸前、彼は体をわずかにひねる。そして、そのまま左腕でハンマーに全力の裏拳を叩きこんだ。


 「なっ!!??」


 ナヤギの予想外の行動に、男は驚愕。


 肉がつぶれ、骨がぐちゃぐちゃになる感覚。

 高圧電流が流れたような想像以上の痛み。意識が飛びそうになる。

 HPも一瞬で危険域であるレッドゾーンに達した。


 だが、そのおかげでハンマーの軌道をそらすことができた。

 軌道がそれたハンマーは地面に直撃。

 残った右腕で、必殺技を発動する。


 「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 男の喉元を切り裂いた。

 喉元から、血を模した赤い光が飛び散る。


 喉は頭、心臓に次ぐ急所。

 これで終わり。男はもう助からない。


 手に持っていたハンマーを落とし、男は喉を抑えながら倒れこんだ。


 「はあ・・・! はあ・・・・! 勝ったのは俺だ・・・っ!」


 右腕で左腕を抑えようとする。

 しかし、それをすることはかなわなかった。


 なぜなら、左肩から先が無くなっていたからだ。


 ギリギリの勝利。

 HPの減少も残りわずかのところで止まった。

 ここが仮想世界で良かった。なくなった左腕も時間がたてば再生するだろう。


 「・・・危なかった・・・ん?」


 突如、足に違和感。

 足元を見ると、スキンヘッドの男がナヤギの足首をつかんでいた。

 弱々しい力。簡単に振りほどくことができるだろう。

 男がナヤギを睨みつける。


 「この人殺しが・・・! 地獄に落ちろ・・・!」


 その言葉の直後、男は光の粒になりはじけ飛んだ。


 「・・・・・・・俺とお前、何が違うって言うんだ・・・お前も生きるために俺を殺そうとしただろうが・・・」


 光の粒を眺めながら、ナヤギは悲しげにつぶやいた。


 ――●スキル≪捕食態勢 Lv.1≫を修得しました――

 ――○スキル≪根性 Lv.1≫を修得しました――





 木を背にして、ナヤギは倒れこむ。


 アイテムストレージを開き、回復薬を次々に取り出し使用する。

 体の損傷が大きいせいか、なかなかHPが戻らない。

 <Savior Lord>の世界では、基本的に回復薬は体とHPの両方を回復させてくれる。

 だが体の損傷が極端に大きい場合、物にもよるが損傷の方を優先して治す。


 現にHPはほとんど回復していないが、腕は手首の位置まで再生してきている。



 「「「グルルルル・・・・!!」」」


 低い唸り声が周囲から聞こえた。その声にナヤギは顔を上げる。


 「嘘だろ・・・!?」


 周囲を赤色のトラに囲まれていた。


 “ヴァイオレットタイガー”

 真っ赤な毛並みをしたトラ型のモンスター。現実世界のトラと同等の大きさで、犬歯が以上に発達している。

 そんなモンスターが5体、ナヤギの周囲を囲んでいた。


 森から出てきたのだろう。

 レベルは9から11とさほど高くはない。


 だが、こいつらの相手ができる状態ではない。

 HPもスタミナもほぼ底をついている。

 立とうとするが、全く体が動かない。


 マズいマズいマズい――――!!!!

 何とかしようと画策するが、何も思いつかない。剣を振るう体力もなく、投擲できそうなものもない。このままでは死。



 一体のヴァイオレットタイガーがナヤギに向かって襲い掛かってきた。


 こんなところでおしまいかよ――――

 せっかく死に物狂いで生き残ったのに、こんな簡単に死ぬのか。


 「ははは・・・俺にお似合いの死だな・・・」


 今まで何十という罪のない人々の命を奪ってきたのだ。

 幸せな最期が待っているはずがなかった。


 全てを諦めて、死を受け入れようとした。



 ――――その時、襲い掛かってきたヴァイオレットタイガーがはじけ飛んだ。



 「――――大丈夫?」



 その声は、乾いたナヤギの心に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ