第二話:小銅貨二枚でお願い!
第二話が投稿できてなかった……! 感想下さった方ありがとうございます!!
私はあれから三時間浴場にいた。たんにぼーっとしてたのもあるけれど、大問題だったのは着る服が無かったことだ。え、元の服を着るという恥ずかしめを受けろと!? それとも裸でいろってか!? と思って出るに出られずにいたのだ。だんだん冷たくなっていくお湯でいつまでも遊んでた私も悪いけど。
エリーという子には申し訳ないことをした。わざわざ私を呼びにくるなんて正直思わなかった。泣きながら私を呼びに着て、服が無いことに気付いて慌てて駆け出していってくれてありがとう。ドレスというよりもお忍び用のワンピースだけど、私はこのクリーム色のワンピース好きだよ。
首もとや裾についている白のレースが可愛らしい。同色のリボンでくびれが作れるこのスタイルはきつめの顔立ちの私には合ってないのかもしれないけど、一度着てみたかったんだよなぁ。着替えてからくるっと回ったのは不可抗力だ。
今はまたルエラとともにいる。一番ストレスがたまるけど離れないのだから仕方がない。
「お嬢様、お食事の用意が出来ております」
「食事、ですか?」
つい怪訝な顔をしてしまった。ルエラの眉が深く潜められるているんじゃないかと怖いです。
「何か?」
「なんでもないです……」
え、お食事って出るの? え、ん?? 確かにお昼時だけれども出るの? それともなによ、ご飯に毒でも混ざってるの? 冗談混じりで想像したとたん、サッと血の気が引いた。だめだ、食べれない。
淡々と進んでいくルエラは、後ろの私を見もしない。やがて開かれた両扉は、繊細にお辞儀をする天使の姿が写されていた。ユーリェだったら、何か言ったのだろうか。
中に入れば、豪勢な食事がテーブル全体に並んでいた。テーブルの側に立つ柔和な笑みを浮かべているのが料理長だろうか。中央にある長いテーブルには真白いテーブルクロス。どちらも特注で作らせた逸品だ。
「ささ、どうぞ」
料理長が席を進めた。
「あ、ぇ……」
どうしようどうしよう食べれないなんて言えないじゃんこんなの! 待って無理無理無理。
「もしや、何か苦手な食べ物でも?」
「いいえ! ただ、この量は多すぎるので、これからはほんの少しでいいのです。本当に、パンと野菜とだけでいいのです」
食べる気がないので本当は出すことすらやめてほしいのだけどね!? 本当に申し訳ない!
「もうしわけありません!! 出過ぎたことを致しました! どうか、どうかお許しください!」
そんな平謝りされても困るんだけど!? いや、うん。困るんだよ!
「ごめんなさい。折角だけれどこの料理は皆さんで食べてちょうだい。私はしばらく部屋にいるから」
ほんっっとうにごめんなさい! でもこれで食べずに済むの!!
私は逃げるようにその場を後にした。
「…………あれ、部屋ってどこだっけ」
慌てて逃げ出して気づかなかったが、私の部屋って最後に領地にいたときに火事が起きたんじゃないっけ? じゃあもうこの屋敷に居場所無い、よね?
「こ、これはまさか……! 合法的に小屋へと帰るチャンスなのでは!?」
わざわざ屋敷まで来たし、街に降りるのもいいかな。お金もほんのすこしドレスに仕込んでいるし! 久しぶりにエギルの元へ顔を出しましょう!
≫≫≫≫≫
リザーブ公爵家直轄領の中心にあるアンドゥラ。国のお膝元から離れたこの街は、商人だけでなく冒険者もが集う街である。近くにダンジョンがあることも、人が溜まる一つの理由だろう。活気がある街には情報が集まる。私はこの街の裏を統べる情報屋を中心として中々の人脈を築いている。
「おやそこのおてんばお嬢様! お忍びかい? それならオークの串刺し肉を食べていきな! 意外とくせになるんだよ!」
「なら一本ちょうだいな! 小銅貨二枚でお願い。それとエギルはいる?」
オークの串刺し肉を売るシルビアさん。元冒険者だ。北方の民である赤毛と高身長で目立つ人だ。時々ギルドに顔を出している。そしてエギルの奥さん。
「奥にいるよ! 金はエギルに払わせるからあいつと一緒にオーク肉を取ってきてくれるかい?」
「了解! あがらせてもらうね!」
こんな気遣いの出来る素晴らしい奥さんを持つエギルが全くもって羨ましい。ずるい。
シルビアさんに許可をもらって部屋へあがると、筋肉だるまと見間違える巨体が、汗を流しながら片手で腕立て伏せをしていた。私に気づいたのか、それとも数え終わったのか、なんにせよちょうどいいタイミングで床に腰を下ろす。琥珀色の肌に黒髪は、シルビアさんよりも珍しいサリガン一族の特徴だ。
「なんだ、来てたのかヴェリス」
「今来たところだよ暴龍エグライザ」
エギル。本名エグライザ・ロディオ。旧姓はサリガン。冒険者時代はシルビアさんとともに暴れまわった白金の化け物だ。ちなみに正式に引退したのは五年前で、引退するまでの間は私を鍛えてくれていた、いわば師匠。
ヴェリスというのは一応偽名だ。すぐばれそうだけど……。
「相変わらず埃っぽいね。掃除頼めばいいのに」
「はっ、分かっとらんなぁ! シルビアには見せられんものもあるんだよ」
がははっと笑うエギルは、立て掛けてあった巨大な槍を手に持つと、奥の扉から外へ向かった。




