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ヒーローをキミへ  作者: 古川モトイ
3/13

#3活躍するキミへ

・スマートホン


 地下駐輪場は依然復旧しない。だから地上に臨時の駐輪場が作られるらしい。あくまでも仮設置だそうだ。ボクが専門学校へ通うにも自転車が止められなければバスということになる。セカンド・カラミティが世界中で起こした破壊の中に、像金町の地下駐輪場が含まれるのかどうかは分からないが、あのタイミングで東京の他の場所も結構な打撃を受けていた。おかげで専門学校は休校となっていたのだが、やっと開校するらしい。ただ、駐輪場は間に合わなかった。だからボクはバスに乗ることになった。

 バスに乗るとなんだか当たり前のようにパステルグリーンの少女が乗っていて、ボクに話しかけてくる。


「スマホ直った?」


ボクは真新しいスマホを取り出して見せると、二人で連絡先を交換した。少女のアドレス帳がチラッと見えたが、まだ何もメモリに入っていないように見えた。スーツは服の下に着ることにした。正直暑いがコレしかない。像金駅前バス停で少女と別れ、久しぶりに葛飾区を出て秋葉原で乗り換える。その日は準備万端で学校へ行ったのだが、学校では休校によって足りない単位をどうするのかといった説明を受けただけで、今日のところは終わりだった。再び電車に乗って、像金町に帰る。バスに揺られて自宅に着くと、真っ直ぐ自室に行ってスーツを脱いだ。何か意味があるのだろうか。東京は中心に行けば行くほどヒーローも増える。ハンパな下町のヒーローはお呼びじゃないんではないか?とそんな考えも頭をよぎる。楽な格好に着替えると、誰もいない居間でテレビを見ながら遅い昼ごはんか、早い夕ご飯か分からないものを食べながらテレビをつけた。


「あ、」


ワイドショーを見ていると公園で戦う自分の姿が流れていた。誰かがスマホで撮影したものだろう。コメンテーター達が映像のヒーローを賞賛している。ボクはなんだか自分が褒められているのではないような気がながらも、素直にうれしかった。その中、一人だけ映像のヒーローを批難する人間がいた。


「このヒーローは確かに強力なパワーを持っています。そして、ヴィランを倒して公園と町を守りました。しかし、今回たまたま上手く行っただけで、次も上手く行くとは限らない。警察の場合、彼らの活動は国が守っています。警察が行使する力は警察力であって暴力と同等に語ることは出来ません。ですが、ヒーローを名乗る人間のこれは「暴力」です。ヒーローが先に襲われたわけではないので、戦いの始まった段階では正当防衛にすらならないのです。」


理路整然とテレビ越しに叱責される。元検事で現在は弁護士らしいが、テレビでちょいちょい見る、広江三郎という人物だ。


「全てのヒーローがそうとは言いませんが、パワーと暴力に頼る危険なアウトローです。」


致命傷だ。小学生がプール開きに水着を体操服の下に着込んで登校するような真似をした今日のボクには深く刺さった。自室の布団にもぐるとボクは自分の短絡的なのを恥じた。スマホが鳴った。


「…はい。」


女性から僕に電話が掛かってくるのは珍しい。


「テレビ見たけど、あんなの気にすることないよ?」


何でもお見通しだ。彼女は「キミがこの町を守らなければ、もう他に守ってくれるヒーローいないんだ」と言う。確かにセカンド・カラミティの前後でヒーローは減り、ヴィランは増えた。像金町に他にヒーローがいるという話も聞かない。


「スーツ着るのだっておかしくないし、商店街の時だって、公園の時だって、キミがいなかったら町の人も、警察の人たちも死んでいたかもしれない。」


それもそうだ。現に盾は本気の火球一発で溶けていた。ボクは彼女にお礼を言って電話を切った。最近は夜寝ようとしても頭痛でなかなか寝付けないが、体を休めたほうが良いと考えた僕は頭痛薬を飲んで、夕方ごろにはなんとか眠りに着いた。


・バスはやっぱり襲われた


 翌日、迷った末、ボクは服の下にスーツを着込んだ。マスクもポケットに入れてある。グリーン髪の少女は昨日と同じく隣の席に乗ってきた。


「寝れてないの?」

「寝たんだけど、眠りが浅いんだ。…頭痛が酷くて。」


少女はボクの顔から視線を外して「そう」と答えた。会話がなくなると、途端に眠気が襲ってくる。家の最寄のバス停から駅まではそう遠くはないのだが、ボクは右の壁にもたれてウトウトし始めた。完全に意識がなくなる頃、強い衝撃で目が覚めた。というか車外に投げ出された。


「ウソでしょ?」


トラックの右の脇にブルドーザーが突っ込んでいた。ボクは外れた非常扉と一緒に朝の交差点に転がっていた。バスの中からはうめき声と悲鳴が聞こえている。ブルドーザーの後ろからついてきたワゴン車からはソードオフされたショットガンを構えたヴィランがわらわらと降りてバスに向かう。ボクは一瞬周囲を見回して真っ直ぐ飛び上がった。空中で服を脱ぎスーツ姿になる。バスの屋根の上に降りたときにはマスクも着けていた。


「兄貴!アイツ、ヒーローじゃねえか?」


ボクは飛び降りると、バスとヴィランの間に立ちふさがった。


「…オレ達、ショットガンブラザーズ!邪魔するとハチの巣にしちまうぜ!」


ショットガンがぶっ放される。急いで奥歯をかむと、銃弾は速かった。放たれた無数の弾丸を避けるのは難しくないのだが、ボクの後ろには乗客がいる。間一髪思いついて、地面から壊れた非常扉を引き剥がし、銃弾に向けて投げた。時間が元に戻ると、ショットガンの弾を受けて非常扉が吹っ飛んだ。


「ほう!やるじゃねえか!」


バスからは大きな悲鳴が聞こえたが、弾丸は非常扉で止っているはずだ。ボクは敵のほうを向きなおした。ショットガンを持つのは二人、それぞれ青と緑の服を着ている。二人は一旦ショットガンを下げた。


「かわいがってやれ。」


一方ボクと二人の間に割って入ったヘンチマン達はありあわせの武器で思い思いに武装している。そいつらが襲い掛かってきた。


・ショットガンブラザーズ


 ヘンチマンを倒しながら、考える。バスの乗客を守りながら、ショットガンブラザーズを倒す方法をだ。幸い今はヘンチマンが盾になっているので、ショットガンは打てない様子だが、その間にショットガンの対処法を考えないといけない。ボクが弾丸を避けられても乗客に当たってしまっては意味がないのだ。さっきのスローモーションのとき、ショットガンの弾は走るぐらいの速度で進んでいた。世界がスローになっていると比較するものがないので、あまり厳密ではないけれど、走る自動車ですら歩いて追いつけるのがボクのパワーの中で、あの速さは異常だ。ショットガンもそれが発射されるのも、生まれて初めて間近で見たが、あの速度で散弾が広がっていくのは脅威だ。どうすれば良いだろう?最後のヘンチマンを叩きのめしたときにボクは咄嗟にひらめいた。弾が発射される前に、ショットガンの向きを変えればいいのだ。


「お前ら役にたたねぇな!」


ボクは、パワーを細かく入り切りしてタイミングを計った。頭は割れるように痛いが、もはや仕方がない。恐るべきショットガンが二挺も、それもバスの乗客に向けて撃たれようとしているのだ。ショットガンブラザーズの二人もその点は計算しているらしくて、試したわけではないが、ボクが射線から逃げても、僕ではなくバスを狙うつもりだと思う。


「もう盾になるものはねぇぜ!」


一歩踏み出しながらショットガンブラザーズの青が引き金に指をかけそうになった。この瞬間を待っていた。スローモーションの世界の中でショットガンブラザーズ青に詰め寄る。そして、ショットガンの銃身を上に逸らす。ボクがショットガンを動かしている間にも、引き金は引かれようとしていた。パワーを切る前にチラリと見ると、もう一体のショットガンブラザース緑はと言うと、スローモーションの世界の中で、まだのんびりしているらしい。目の前のチカチカがだんだん大きくなって視界がぼやける。ボクは一旦パワーを切った。ズガァンと音がして再び大きな悲鳴が聞こえる。


「おぉぉ…指がァ…!」


無理やりショットガンの角度を変えたときにショットガンブラザーズ青の指がどうにかなったらしい。少しかわいそうな気はするが自業自得だ。緑は僕が瞬間移動したのを見て、焦った表情でボクに向かってショットガンを構える…が近くに青がいる。ボクは頭痛で吐き気を催しながら、もう一度パワーを使った。


(こいつは…引き金を引けない!!)


ボクはショットガン緑の横に回りこんで連打を叩き込み始めた。しかし、その連打中、緑がゆっくりと引き金を引くのが見えた。仲間の青ごとボクを撃とうとしていたのだ。ボクは咄嗟にショットガンを、ボクからみて奥に向かって押し始めた。目の前のチカチカはもう視界を埋め尽くさんばかりだ。頭痛も今まで感じたことがないレベルだ。しかし、今パワーを解いたら、青はショットガンで撃たれてしまう。


「だぁああああ!」


気絶寸前でパワーを解いた。同時にショットガンの発射音が響く。唸り声を聞く感じ、弾丸は青に命中したらしい。緑は大きく吹っ飛んでいったはずだが、ボクはまだ視界を回復できずにいた。


・デッドライン


「…テメェ!俺のことまで撃ちやがったなァ!!」


青と緑の小競り合いの声を聞きながら、ボクは地面に這いつくばっていた。目がほとんど見えない。頭が痛い。記憶が途切れ途切れになり、何度も今の状況が思い出せなくなる。どれぐらいの時間そうしていたかは分からないが、四肢の感覚がやっと戻った頃、やっとアスファルトの色が乳白色から黒に見え始めた。状況は分からないが、とにかく立ち上がらないといけない。パワーを使うのは恐ろしかったが、今この瞬間に撃ち殺される可能性だってある。歯を食いしばったまま、声を出して立ち上がった。見上げると、二人はまだ小競り合いの真っ最中らしい。ボクは一旦立ち上がったところで、パワーを切った。


「オマエ…普通に青いヤツの事、撃とうとしたろ?ボクがショットガンの向き変えてなかったらどうするつもりだったんだ!」


頭痛と怒りと全身の痺れで訳が分からなくなっていたが、言うべき事はキッチリ言ってやった。


「こんなやつ、別に死んだってかまいはしねぇよ!」


そういって緑が再度、青にショットガンを向ける。僕は奥歯を割れるほど噛むと青に向かって突進した。世界はほぼ止っているかのようにすら感じる。パワーが増しているのだろう。もはや青に恨みはないが、青をここからどかさないと青が死ぬ。青を出来るだけ奥に吹っ飛ばすように細かく殴り続ける。そうしている間にも緑の持つショットガンの銃口からは炸裂した火薬の火花が見えている。ボクは怒りに任せて、弾丸が出る直前の銃身も思い切り上から殴りつけた。パワーが切れると共に青は交差点の反対側に吹っ飛び、事件のせいでドライバーに乗り捨てられたトラックの荷台にきれいに入った。同時にショットガンは嫌な音を立てた。見ると銃身がバナナの皮のように裂けている。意外な結末に一瞬、緑と二人で固まった。無言でショットガンを失った緑は逃げ出そうとするが、ボクの怒りは収まらない。


「逃がすわけないだろうが!」


後でわかったことだが、バスの乗客や運転手は最初のブルドーザーの突っ込む事故で怪我を負った人はいても、全員、軽症で済んだらしい。ボクはバスを守りきったのだった。


・拡散


 ボクの活躍は世界の知るところになった。幾人もの乗客がボクの戦いを動画で撮影していた。バスのドライブレコーダーや、町の防犯カメラなど、様々な角度からボクの戦いは撮影されていた。ありがたいことに、ボクが変身した瞬間はだれもまだカメラを回していなかったようで、動画から正体がばれる事はなかった。ボクは警察にヴィランを引き渡すと、事件の犠牲者のような顔をして、他の乗客と一緒に病院へ行った。

バスはやっぱり襲われた

ヒーローが女性とバスに乗ったら襲われるに決まっている。


非常扉

著者の小学校のときの同級生には、走行中のバスの非常扉を開けてしまい、電信柱に当たって破損、脱落。15万円弁償したと言うヤツがいたが、なぜそんな事をしたかと言うと。「非常時はレバーを回す」的な注意書きから読める字だけを読んだ結果「レバーを回す」ことが自分の使命だと誤認したそうだ。厄介なヤツだ。


ヘンチマン(Henchman)

ギャングの部下、子分、取り巻きと言った意味で、DLH世界における、およそザコのことを言う。


ショットガンブラザーズ

ブルーとグリーンのサロペットにヒゲ面、頭にはキャップを被った二人組みだが、血はつながっていない。特にパワーはないが、ショットガンをぶっ放す事を躊躇しない。無計画で粗暴な犯罪を繰り返す凶悪な二人組だが、こんなゲスにも子分がいるから驚きだ。

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