#02助けてくれたキミへ
・キミを知る少女
「だ、誰なんですか?」
商店街を一緒に抜け出した少女は、ボクの言葉に立ち止まった。
「キミが助けてくれたから。」
「ボクが?」
少女は頷いた。
「今度はワタシが助ける番だった。」
ボクはそれ以上何か質問する気も起きないぐらいへばっていたので、「ああ、そう」とだけ返事をした。少女は、そのまま走っていってしまった。ボクは少女に渡された紙袋を持ったままだった。中にはマスクとスーツが入っている。
「返し損ね…いや、くれたんだろうな。」
少女の華奢な体のサイズにはこのスーツは合わないだろう。何となくボクのために用意したのだということが分かる。マスクのおかげで助かったのも分かる。少女がボクをヒーローにしたいのじゃないかということも薄っすら分かる。でも、何でそんな風に期待されるのかが
「分からない。」
分からない。
・みんなこういうのってどうしてるの?
問題はスーツとマスクをどう持ち歩くかだ。マスクは対した事ないが、スーツはかさばる。ツナギにブーツが一体化しているのだから無理もない。昨日はスポーツショップで大きめのボストンバッグを眺めたが、この大きさのバッグを持ち歩く説得力が自分にはない。結局、紙袋に入ったままのスーツだが、たった一回出し入れしただけで、その紙袋も崩壊寸前だった。そもそもこの紙袋のサイズですらかなり無理がある。もう一度、外出時に持ち歩く勇気はない。これがきちんと入って持ち歩ける袋となると、サンタクロースのようになってしまう気がする。何も名案が思いつかないまま便意を催してトイレに入る。便座に座って考えをめぐらせていると、多少頭が回った。
「そもそも、自転車しか足がないんだから、自転車に積んどけばいいじゃん?」
段ボール箱を探してきて、自転車の後ろの荷台にくくりつける。コレなら入りそうだ。
「牛乳配達っぽい。」
やはりオシャレな自転車は自分には一生涯巡って来ない気がする。この箱をもう少しまともなモノに変えれば良いのではないか?とりあえず当面は段ボール箱で何とかしようと思う。
・出動
スーツをどうやって持ち歩くか問題を解決した日の午後、携帯に不審者情報が入ってきた。SNSを調べると、案の定、像金町の駅近くでヴィランが暴れている。自転車で現場へ急行する。
「あ、しまった」
この段階でボクは自分の思考が大きく欠落していた事に気がついた。
「ヒーローにならなきゃいけない理由なんてないのに…」
でも、スーツを貰った義理があるし、ボクはパワーを使いたかった。ヴィランがいるならボクはボクのパワーでそいつをぶっ飛ばしたかった。そう考えながら、ふと、自転車をこぎながらパワーを使ったらどうなるのか考えた。実験だ。奥歯を噛み締めると、右のこめかみから左のこめかみへ貫通するような鋭い痛みが走る。その痛みが視神経を焼くように目の前がチカチカし始める頃、ボクを取り巻く世界はスローモーションになった。
「ああ、やっぱり。」
ペダルは溶接したかのように重い。しかも、コレを踏み続けると、スローモーションが解けた瞬間、すごい強さで踏み込んでしまうのだろう。それぐらいならスローモーションの中を走ったほうがマシのような気がするが、駅前までパワーを使い続けたら多分死んでしまう。
「空が飛べるやつらって良いよな…」
口をあけると、さっきまで世界と一緒にスローモーションだった自転車は少しだけ加速した。自分のパワーに文句を言っても仕方がない。贅沢な話だ。
「あれ?」
自転車を止めて考える。パワーを使っている間は分身が見えるほど速く動けるということは、パワーを切った瞬間動いていたら高速で動き続けるのではないか?今までパワーを止めるときは、なぜか止ってパワーを終えていたのだが、動いている最中に奥歯の力を抜けば、そのままのスピードで動き続けるのではないか?物陰に自転車を止めるとスーツを上から着る。マスクもつける。
「やってみよう。」
世界がスローモーションになったのを確認してから数歩歩く。そのままの速度でパワーを切る。
「うわぁ!」
急いでもう一度、奥歯を噛み締める。思ったとおりだった。きちんと体勢を整えて立ち止まる。
「コレなら…」
今度は垂直とびをしてみる。上昇中にパワーを切る。
「やっぱりだ!」
かなりきわどい高さまでジャンプできる。物理法則がどうなっているのかまったく不明だが、着地にあわせてパワーを使えばきちんと軟着陸できる。
「コレなら現場までジャンプしたほうが早い!」
ボクは駅前に向かって跳躍した。
・炎の男
駅から歩いて数分の運動公園にヴィランはいた。片腕が炎の塊のように変異している本格的なヴィランだ。そこそこザコも引き連れている。ボクは覚えたばかりの技術のジャンプを使って、街灯の上に飛び乗った。警官隊が盾を構えているところに、炎の男は火球をぶつけまくっている。
「放水まだか!?」
警官隊はじりじりと押されているが、何とか隊列を維持して対抗しているが、崩されるのは時間の問題だろう。ボクは警官隊とヴィランの間に飛び降りた。
「派手な登場しやがって…」
炎の男は遠目では分からなかったが、かなりのヤンキー口調だった。一瞬気おされそうになるが、ここでビビったら、何というかビビりなので、何も言わずににらみつけた。
「オレの名前はフレイムスコーピオン。貴様、名を名乗れ。」
ヴィランは丁寧に名乗ったが、ボクは名前を決めていなかった。ゲームだったらスタートすら出来ていないところだが、ここは像金町だ。ボクが黙っているとフレイムスコーピオンと名乗った男は。少し哀れむような目でボクを見た。
「貴様、まさか…名前を決めてねーだろ?」
さすがにボクも認めるしかなかった。
「その通りです。」
虚勢の限界だった。
「ぶっ潰せぇぇ!!」
この号令はともすればフレイムスコーピオンの思いやりだったのではないかと思う。まあ過程はどうであれ、どのみち戦うのだ。ボクは瞬時に敵のザコをまとめて全員吹っ飛ばした。
「強いなテメェ…」
「そうみたいだね。」
打ち出される火球を避けると、フレイムスコーピオンは距離を取りながらさらに火球を放つ構えを見せる。
「そう簡単に捕まってたまるかヨ!燃えろ燃えろォ!」
ボクは当然、パワーを使ってフレイムスコーピオンの足を止め、連打を叩き込んだ。
「うぉおおおおお!!」
フレイムスコーピオンが唸りながら派手に吹っ飛ぶ。
「効いたぜぇ!」
「え?今ので倒れないの?」
ボクはフレイムスコーピオンって凄いやつなんじゃないかと見直した。
「このオレ様を誰だと思ってやがる?フレイムスコーピオンは簡単にはくたばらねえんだよ!」
思わずボクは頷いてしまった。ボクの反応を見たフレイムスコーピオンはニヤリと笑った。
「本気出してやるよォ…」
フレイムスコーピオンは本気を出した。
・炎の男2
全身を炎に包まれて口からは黒煙を吐き出す。フレイムスコーピオンの本気は、本当に本気だった。黒点のような両眼が形相をさらに恐ろしくしていた。
「オレに近づくと火傷するぜ!」
火球がバンバンと放たれる。何とか避ける事は出来ても、このままだと公園どころか町まで燃えてしまう。しかも、ボクも避けるためにパワーを使い続けたら気絶するか死ぬかだろう。今のところパワーを使わずに避けれているが、そのうちそれも難しくなるかも…そう考えているとひときわでかい火球の流れ弾が警官隊の方へ飛んでいった。
(危ない!)
パワーを使って火球を追い越すと、警官の一人から盾を奪って火球に立ちふさがった。
「さすがヒーロー、見上げた根性だ。」
ボクの構えた盾は、強力な熱の作用のせいか一発でダメになった。丸めたティッシュのようになったアクリルの盾を掴んだまま、ボクは名案を思いついた。
「無傷で勝てる相手じゃないってことだけ良くわかったよ。」
「ヘヘッ、勝つ気でいやがる。」
ボクはイカれた盾を投げ捨てると、他の警官から別の盾を借りた。そして、相手を中心にじりじりと横へ回り込む。
「そうやってポリ公を射線から外すつもりか。」
「そうだよ、悪いか?」
フレイムスコーピオンは笑いながら首を振った。
「燃えろやァ!」
僕が待っていたのはその瞬間だった。思い切り奥歯を噛む、頭痛を待たずに横へステップする、火球の狙う直線から完全に外れると僕は盾を構えた低い姿勢でフレイムスコーピオンに向かってダッシュした。
「オラァ!」
口を開いて声を出した瞬間、ボクは弾丸のようにフレイムスコーピオンに盾を前に突っ込んだ。二人でもんどりうって公園の噴水まで吹っ飛ぶ。タックルを仕掛けたボクも、食らったフレイムスコーピオンも想像以上の衝撃にすぐには立てなかった。
「お前、ヒーローだったらもう少しスマートに勝てるんじゃネーのかよ…クッソ、痛ェぞ…」
「あなたこそ、本気ってメチャメチャ本気じゃないですか。こうでもしないと勝てないと思ったんですよ。」
二人で同時にトラックにはねられたようなものだった。
フレイムスコーピオンはすっかり炎が消えて服がこげたヤンキーになっていたし、ボクもスーツが焦げていた。その二人が公園の深さ15cmばかりの池にはまっている。
「絶対ェ、アバラ折れた…分かるモン…」
「ボクなんとか盾のおかげで…」
駆け寄った警官隊がフレームスコーピオンと気絶したザコに手錠をかけると、ボクは心配する警官隊の制止を断って歩いて自宅に向かうことにした。
・スマートホン
帰り道の途中、例の緑髪のショートヘア少女がボクを待っていた。ライトノベルを読みなれた人間ならば「少女」と言う字を見た瞬間「美少女」に変換されるのだろうが、顔は別になんてことはない、普通にどこにでも居そうな顔に緑のパンクヘアーだった。
「無茶して…」
「なんか…キミが悪いんじゃないけど、マスクとスーツ着ると、何でも出来ちゃう気がして。アイツ、メチャメチャ強かったんだよね。」
自転車を置いた物陰で焦げたスーツを脱ぐと、スーツの一部が崩壊した。
「これ。」
「あ、コレってそういうシステムなんだ。」
少女は壊れたスーツの変わりに新しいスーツを渡してくれた。古い方は無言で引き取ってくれた。新しいスーツを自転車の段ボール箱に詰めてノロノロと歩いていると、少女が急に立ち止まった。
「これ!手に入れた!」
スマホだった。急いで自分のスマートホンを見てみると水没して電源が入らなくなっていた。
「出来るだけ早く、使えるようにするから。」
そう言って自分の電話番号を彼女のスマホに登録すると、ボクは家に帰った。
フレイムスコーピオン
フレイムスコーピオンは炎のパワーを持つヴィランだ。パワーを使うと片腕は完全に炎に変化し、実体を失う。全身に炎を纏うことも出来る。しかし、そこまで器用なパワーは持っていないので、炎の腕をちぎって投げる攻撃、炎に包まれて相手に殴りかかる攻撃ぐらいしか持ってはいない。肉体は華奢な割りに頑強。面倒見が良く、不良少年やはみ出し者を何人か連れている。
ライトノベルを読みなれた人間ならば「少女」と言う字を見た瞬間「美少女」に変換される
この問題と私は今後どうやって戦っていけばよいのだろう。イラストを描く人間にも「美少女ではない少女」を描き分けられる人間はどれほどいるのだろうか。別に美少女は嫌いではない。美少女にストーリーを邪魔され(検閲




