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月の砂漠をさばさばと?

 その後、星歌は《俯瞰》の魔力属性で新入生を次々と倒してゆき、丁度12時に第2試合場での30試合は無事終わりを迎えた。


「これをもって、第2試合場でのクラス分けテストを終了する!」


 まだ試合の余韻が残っているのか、観客の生徒はザワザワとしていた。

 が、先生の声は辺りを一気に静めさせる。


「尚、これより昼食の時間とする!

 所要時間は1時間と30分だ。」


 先生がここでも生徒に注意を促す。


「それでは、くれぐれも時間に遅れないようにな!  散会!」


 その言葉を合図に、今まで静まりかえっていた会場が再び音を取り戻した。

 我先にと、生徒たちはお昼休みを楽しみだす。


『えーっと、星歌はどこかな?』


 僕は星歌を探し始める。

 彼女は先ほどの試合を終えてから、会場の選手待機室へ行ってしまったので、その後何処に行ったのか分からなかった。


『仕方ない。ここで少し待つか……』

 

 僕は上げた腰を再び下ろす。


 それから5分程経ち


「キョースケ、お待たせ。」


 と、やって来た星歌は少し走ってきたのか、髪が乱れている。


「おう!試合お疲れ様!」


 僕は先ほどの健闘を讃えた。

 しかし、星歌は少し納得のいっていない顔をしている。


「どうした? そんな浮かない顔をして?」

 

 僕は思いきって尋ねてみた。

 すると星歌は、顔を上げ、


「私の魔力属性がもっと便利なら楽に勝てたのに……」


 確かに、星歌の魔力属性である《俯瞰》は、とても強力な力を持っているが、使うタイミングが限られる。

 魔力属性とは、強力になればなるほど、その分に支払う代償も大きくなるのだ。

 星歌の場合、相手からの〔距離〕をとることで先ほどの強力な力が出せる。

 これは、裏を返すと至近距離だとその力は発動しないということで、

昔(と言っても中学生の時だが)僕が星歌の魔力属性を初めて聞いた時に、おふざけ半分、興味半分で


「それってつまり、隣にいる状態から僕に攻撃しても、そんなに威力は無いってこと?」

「そういうことになる」

「じゃあ、今ここで僕を撃ってみてよ!」

「オッケー」


 と、今考えたらかなりバカなノリで星歌の魔力属性の検証をしたことがあった。

 僕の額に星歌がハンドガンの銃口を当て、引き金を引いたが、僕は全くの無傷だった。

 イメージ的には、掌に置いたポップコーンをデコピンで飛ばした位の威力だったと記憶してる。


 だがそれでも、星歌にしか使えない、世界でただひとつの魔力属性だ。

 少なくとも、僕の魔力属性よりは格段に使えるものだし、その力で昔から助けられてきたのも事実だから僕は凄いと思う。

 と、星歌に伝え、


「ほら! 今日はお前の好きなポテサラを沢山使ったお弁当を持ってきたんだ。 そんなこと気にしてないで早く食べようぜ!」


 僕はポテトサラダを挟んだサンドイッチを星歌に渡す。

 すると星歌は顔を赤くしながら


「うん……  ありがとう」


 とお礼を言ってきた。


「何だ星歌、顔が赤いぞ? 風邪でも引いたか?」


 僕がそう言うと


「何でもないっ! こっち見ないで!」

「なんだと! 人がせっかく心配して上げたのに!」

「キョースケうるさい!」

「お前っ! その弁当返せ!」

「ふっ。もう遅い!」


 そう言うと、星歌は僕の分のサンドイッチにまで手を出してきた。


「だー! それは僕の分のサンドイッチだぞ!」

「早い者勝ちって言葉を知らないの?」

「お前こそ、親しき仲にも礼儀ありって言葉を知ってんのか?」


 いつものように言い争いながら、競うように弁当を食べる。


『このやろっ! なんて食欲だ!』

 

 分かってはいたが、ペースが徐々に押されていく。

 不意に星歌を見ると、そこには心底楽しそうにしている、輝くような、僕の好きな笑顔があった。


『よかった…… 元気になったな』


 僕は一安心して、彼女に続くように食べ始めた。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 星歌と過ごしていると、昼休みはあっという間に終わった。(僕は食べ過ぎによる腹痛で、3回もトイレに駆け込んだのは内緒だが)


「そういえばお前、このあと試合はあるのか?」

 

 僕は星歌に尋ねる。


「ううん。私の試合は午前中に全て終わった。」

「そうか…… どうする?もう帰るか?」


 基本的に試験が終わった生徒はそのまま帰宅出来るようになっている。


「駄目だよ! キョースケ試合あるでしょ?」


 っとそうだった! 危うく忘れる所だったぜ。


「でもさ、6時からだよ? まだ時間があるし」


 現在の時刻は、午後3時を過ぎたあたりだ。


「じゃあ、その……」

「ん? どうした?」


 珍しく星歌が言い渋っている。これは貴重なシーンだぞ!

 僕がひとりで盛り上がっていると、星歌は意を決した様子で


「わ、私とデ、デデデ」

「デデデ大王?」

「違ーう!!」

 

 おおっ? 今日の星歌はどこかおかしいな……。


「私とっ! デートしよっ!」


・・・・・・


 ぬぬっ? この人は今なんと?

 僕が心底驚いていると、


「い、いやほら! 

 キョースケが暇で暇でしょうがないっていうなら私が渋々付き合ってあげても良いよってこと! 」


 星歌が顔を真っ赤にしてそう付け足す。

 そんな姿を見て、僕は微笑ましく感じた。


『普段はそこまで自分の事を言わない星歌が、わざわざ僕を気遣ってくれるなんてな……』


「ありがとう。せっかくだから、ご厚意に甘えさせて貰うことにするよ。」


 僕がそう答えると


「えっ? ホントに!?」

「なんだよー! 自分で提案したんだろー!」


 何故か星歌が驚いていた。


『やっぱり、慣れないことはさせない方がいいか……』


「やっぱいいや! 星歌だけ先に帰っててよ。」

「ううん! 行く! キョースケと仕方なく暇を潰したげる!」


『あ、嫌な訳ではないのね』


 こうして僕たちは、残りの3時間を楽しく過ごしたのだった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 そして遂に、時刻は6時の10分前になった。


「星歌! 僕はそろそろ時間だから行くね」 


 僕は星歌にそう告げる。

 星歌は


「もうそんな時間か」と少し残念な顔をしていた。


「悪かったな。3時間も暇潰しに付き合ってくれて」


 僕は謝罪を述べる。

 

「今さら言うのもなんだが、気を使わなくても良かったんだぞ?」

「……そういう意味で誘った訳じゃないのに。」

「ん? なんか言ったか?」

「何でもない! 試合頑張ってね。」

「頑張るも何も、すぐに終わるさ」


 僕は一旦星歌と別れて、第3試合場へと向かった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「おーい! 遅いぞ坂本!」

「すみません! ってかまだ6時になってないじゃ無いですか!」


 と僕を暖かく?  出迎えてくれたのは、担任の島村先生だった。


「準備は出来ているか?」

「はい。大丈夫です!」

「そうか。ならすぐに試合を始めるぞ!」

「りょーかいです!」

 


 と、この時の僕はまだ考えがあまかった。


『早々にバッチを破壊されて、星歌と帰ろう』


 そう思っていた。だが、この試合は違かったのだ。

 でもまぁ、それに気づかないのも当然と言えば当然か。



 僕は、会場の赤サイドから入場する。

 辺りは薄暗く、観客は6時ということもあって、1人も居なかった。


「お久しぶりですね、先輩」


 いきなり話しかけられた。

 僕は声のする方を見ると


「君はあの時の…… 特待生の子!」

「東雲既朔(しののめきさく)って言います! 以後お見知りおきを」


 東雲さんが、ペコリ とお辞儀をすると、まるで秋の夜を溶かした様な長くて綺麗な髪が揺れる。

 間違いない。僕が入学式の日に職員室ですれ違ったあの子だ。

 だが、この前のとはだいぶイメージが異なっている。

 今日は、自身の髪の色と良く合う菖蒲色(あやめいろ)の着物を着ていて、腰には日本刀を帯びている。


「先輩の噂、聞きましたよ。何でも、〔最弱最強〕だとか」

「あー、それね…… それは単なる噂だ。本当のことじゃないよ」

「本当ですか? 噂だと、1年生のグループ活動の時に魔力を保持する凶悪犯罪者の組織を1人で全員逮捕したとか……」

「デマだよ! デマ」


 僕はなるべく冷静に答える。

 内心、僕の心は乱れきっていた。

 あの時を思い出すと、未だに自己嫌悪で死にたくなる。


「まぁいいです。どのみちこの戦いで分かる事ですし」

 

 話も早々に、僕はバッチを着ける。


「準備は良いですか?」

「もちろんだよ」


 僕はふと先生の方を見た。

 先生は僕の視線に気づくと、


「たまには自分の魔力属性を出してみろ」


 と口を動かす。


「先輩がどれ程の実力者なのか…… 楽しみです!」


 僕は覚悟を決めて、構えをする。


「それでは、これより第3試合場にて特別試合を行う!」

「始めっ!」


『職員室でも感じたが、彼女の魔力はかなりのものだ。まずは様子でもみるか……』


 そう考えた僕は、まず相手との距離をとる。

 相手の魔力属性が分からない以上、迂闊な攻撃は自殺行為だ。


「もしかしてビビってます?」


 それを見た東雲さんは、からかうように語りかける。


「あぁ。君が特待生で優秀なのはよく知ってるからね」

「先輩…… 本当に本気で戦う気はないんですか?」


 彼女が少し悲しい顔をする。

 綺麗な顔が悲しみに染められるのはいただけないが、僕だって色々と事情があるのだ。


「……分かりました。なら意地でも本気を出させてみせます!」


 そう言うと、彼女の魔力が急激に高まり出した。


『な、なんだこれは!?』


 その勢いは止まることを知らず、どんどんと魔力が増大していた。

 まるで、先程まで話していた人物とは思えないほどだ。

 僕は彼女への警戒を更に高め、同時にあるものに気づく。


『あれは…… 月…… か?』


 魔力が高まっていく彼女の背後には、不気味な程に大きく、美しい月が映っていた。


「さぁ、先輩。今宵は満月ですよ」


 そう言った彼女は、まるで悪魔の様に、ニヤリと笑っていた。


→→→→続く→→→→

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